作家でごはん!鍛練場
余裕で見分けのつく二卵性双生児

ふたつの街

『ふたつの街』
 
 
 家出をしようと思う。試験にあと一点差で落ちて、全部が嫌になったから。そう考えながら、塾に行き、学校に行き、面白みが薄れて来たが、友好関係を築いてしまったし、他に宛もないからずっと一緒にいる友達と喋る。それだけの毎日を過ごす。僕の友人の中には数人苦労自慢してくる人もいる。僕は八方美人だから、微笑んで「確かにな。大変だなぁ。」としみじみと呟く。そうすると相手の気持ちを損ねない。僕は人間関係が、親密になればなるほどその関係は希薄に見えると客観的に認識している。それほどまでに物事を評価出来る人は周りにいないし、正邪局直とかあまり気にする人も存在しないので、自己評価は少なくとも僕の周りでは言った者勝ちだ。
 
 試験に僅差で落ちたのがまだ納得いってない。濡れ衣で死刑判決を言い渡された人のように、朝起きたら虫になっていたグレゴール・ザムザのように。正当数で言えば合格だったが、1問の配点の大小で落ちたらしい。端的に言えば死んで欲しい。三回くらい本社に電話しようと思った。母が嫌な顔して止めてきたからなんだか申し訳なくなってやめて、黙って、寝て、笑顔で取り繕ったが、そこら辺に権利的に殴っていい壁があれば壊れるまで殴ってると思う。壁では無く、僕の拳が。
 今日は6/20だ。とにかく、明日は休む。断固として。そしてその日に送った背徳感の休日の叙述をしていこうと思う。
 6/21
 目を覚ますと空は青かった。左上に窓があって、ただ青い光をこの部屋に送り込んでいた。やけくそでクーラーをつけっぱなしにして寝たので涼しい。リュックには、財布、スマホ、ワイヤレスイヤホンを入れた。朝ごはんを食べる為に1階へ行く。試験の話をして少し僕が母に楯突いて、家を出る。今日は学校をサボるからそう電話してくれとだけ言って。
 
 電車にのる。駅で学校へ向かう友人が沢山いた。僕だけは別の方向に電車を乗った。K駅へ向かった。電車が発車する時、ただ背徳感だけが残っていた。誰かに見咎められないだろうか、心配する事はただそれだけだった。でも良い。とにかく気にするな。自分の内に抑えきれない不服の気持ちがあるのだから、それを発散することも必要だと思う。電車は少し混んでいた。通勤ラッシュの時間帯で、みんな仕事に行く為の機能的な服を着て、機能的なカバンを背負っていた。古い洋楽を聴く。ただの白い部屋の叙述を聴きながら風景を眺める。2年前まではずっと電車通学だったので、懐かしいなと思う。通り過ぎた駅のホームで、見覚えのある老婆をみかける。結論から言うと人違いだった。僕が必要以上に警戒してるのでそう見えてしまっただけの話だった。
 電車がK駅に到着する。雪崩のように人が改札口へ向かう。僕もそれに倣うように向かった。JRに乗り換えた。
 途中、本屋に行き、数冊の本を買った。
 行くあてもなく来ていた電車に乗った。通勤ラッシュの時間帯も過ぎたみたいで、空いている電車の中、窓の外を眺める。普段見ているところとは別の街を走っている。田んぼに囲まれている。左右が田んぼで、奥には山が見えた。大きな湖にさしかかった。初夏の太陽を水は映し出して、水面に揺れる真っ赤なオレンジのようだった。隣の椅子に、初老の男が座った。椅子が凹んだ。その男が、少ししてから話しかけてきた。
 その男は、世界をピザだとして、まだサラミの1枚しか知らない僕から見ると、とても奇妙に見えた。普通という言葉からはじき出された人に見えた。
「あんたさん、学校は?」
 歯はなく、深淵のような口から言葉が飛出てきた。その老人は様々な地方の方言が混じりあっていて、新たな方言を作り出しているようだった。奇矯の体現であるような人間にサボったと言うのは何故か不安だった。
「今日は休みなんです。」
「そうなんやね」男は、白髪を短く切りそろえた髪型をしていた。顔にはたくさんのシワがあった。
「あんたさん、悩みがあるんやね?ワシは悩みを持ってる人が分かるんや」
 それらしき会話がいくらか続いた。若い頃の話、恋の話、学校の話。僕はあまりその男に詳細まで知られることに利益を見いだせなかったから、ほとんど嘘をついた。しかしうそに気づかなかった男は気を許したらしく、語り出した。
「ワシの人生で、した最大の悪事を教えたる」
「へぇ、是非聞きたいものですね。」
「ワシな、昔の話やけど付き合ってた女の子を殺したんや。」
 僕は黙り込んだ。
「刺した時は凄い苦しそうな顔しとったなぁ。笑顔がよう似合う子やってんけどなぁ。」
「なぜ殺したんですか?」
「どんどん嫌いになってきたんや。初めは好きやったけどな、嫌いになってきてん。」
「刺した後はどうなりました?」
「どうって、そりゃ捕まったわ。そんで十年して出てきたわ。今は人も殺さんし、娘だっているんや。パクられる前にこしらえた嫁はんとは離婚したけどな。」
「娘さんがいらっしゃるんですか。一緒に暮らしてらっしゃるのですか?」
「いいや、嫁はんに連れてかれた。でも嫁はんが娘が男親無くして育つのはなんだか嫌やって言うんや。だからせめて会話くらいはしてくれって。今から会いに行かされるんや。本当は会いたくないんやけどな。」
「えっと、なぜ会いたくないんですか?」
「最初はワシも好きでよう会ってたよ。でもな、どんどんワシが殺した女に似てきてん。娘が十二歳の頃に気づいたんや。それからいっぺんもあっとらん。あれから七年。十九になっとるやろな。それでワシが殺した女は十八やった。あの心の中を触られるような目付きを次みたら、ワシは何するかわからへんわ。」
 男は深く項垂れた。僕は何も言わなかった。いつの間にか男は酷く激しい貧乏ゆすりをしていた。男のカバンの中に、雑に折られた新聞がいくつか入ってるのが見えた。僕はもう黙ることに決めた。
 二駅が過ぎた辺りで景色は住宅街になった。男はそこで椅子の上に新聞紙の包みを置いて降りていった。
「じゃあな、兄ちゃん。」
「はい。また会うかもしれませんね。」
「なんや兄ちゃん、どういう意味や?」
「いえいえ何も。」微笑んだ。
「やっぱ気づいてたんやな。…それ、記念にやるわ。ほな、またな。」椅子の上に置かれた新聞紙の包みを男は指さした。
 プラットフォームに今まさに人殺しになる男を置いて電車は進み出した。新聞紙の包みは血も着いていなかったし、カバンの中に入れた。僕の旅の記念として。
 
 しかし、気味が悪くなったから違う車両に行くことにした。
 隣の車両に行った。隣の車両に行き、また椅子に座り、窓の外を眺めた。住宅街は通り過ぎて、また田んぼと山だけが見えた。
 また別の男が話しかけてきた。細身で中年の男だった。酷くやつれていて、半狂乱のような風貌をしていた。
「君は学生?珍しいね。サボり?」バレたからにはそういう方が得だと判断した。
「はい。サボってます。」
「ふぅん。いやなに、叱ったりはしないし、注意もしない。ただ休みたいなら休めばいい。僕は話してていいかな?」
「もちろんです。」
「馬の群れが道に迷ったことがあった。」
「はい。」
「その馬達は馬でありながら、きちんと時間通りに生きて、規則正しく健康的に居たし、道に迷うはずもない。ある場合において馬達は人間よりも賢いというのは分かるだろ?」
「まぁそうですね。」
「その馬達が道に迷ったのはただ一つの理由だった。全て飲み込む、悪魔の口があったから。」
「悪魔の口ですか。比喩的な意味で?」
「いいや、目に見える。そこにぽっかりと存在するんだ。ただ無がある。光さえも吸い込んでしまう。しかしそれの影響を及ぼす範囲は半径1mだけ。かつて馬達が迷った時はもっと多いかったんだが、空間すら吸い込んでしまい、どんどん収縮して行ったんだ。」
「へぇ。今はどこにあるんですか?」
「湖のそばの住宅街にある。とても大きい湖さ。そして今からそれが見える。うらぶれたコインランドリーと民家の間にある。そこで地球のブラックホールは全てを吸い続けている。」
 少しした後、男が声を上げた。
「ほら!あれだ。」
 住宅街の深淵は遠くから見るとただの黒にみえた。影もないので立体感も無く、ただそこにあるだけの黒に見えた。
 男は窓を開いて飛び出した。僕が叫ぶ前に男は深淵に吸い込まれて行った。
 
 
 電車が終着駅に着く。
 
 その駅の西口、つまり僕が出た一番出口には寂寥という言葉を象徴したような街に佇んでいた。バスロータリーの残骸はあったが、バス停の看板は無く、タクシーの1台も止まっていない。駅で降りたのは僕だけで、駅の前は四軒の民家があった。その奥にはただ田畑が地平線のように、遥か彼方まで続いていた。山が見えないことから相当長く続いているようだ。
 しかしながら、駅はかなり大きかった。新宿駅や地方中枢都市を代表する駅舎よりも。駅ビルは雲にかかるほどまで空高く聳えていて、横幅は壁のように広がっていた。この駅につく七駅前からずっと同じ建物、駅ビルの中だった。
 なにしろ、二番出口である東口には摩天楼が拡がる大都会だったのでその駅ビルの大きさは納得できるものだった。
 全ての建物が雲に刺さっていて、その風景がこれまた永遠と広がっている。空は建物により一切見えなくなっていた。モニュメントであろう塔の部分だけは雲が薄れていて分かったが、僕が首を真上に向けてできる限り上を見ようとしてもまだまだ塔の根幹を支える基礎の部分だった。
 西口と東口を繋ぐ踏切は無く、駅舎を通るしかなかった。しかし、東口に広がるこの大都会には、一人も人がいなかった。
 しかしその宇宙規模の大都会は人間が存在する形跡を残していて、電気の消えてる建物を探すのが難しいほどに煌々と光を放ち存在証明をしていた。僕は、この街に人間が居ることを何故か確信していた。
 
 西口に戻り、田畑を眺める。四軒ある家の一つをノックする。
「すみません。誰かいらっしゃいますか?」
 少ししてから声がした。
「はいはい。」
「すみません、この街の話を聞きたいのですが」
「いいですよ。中へどうぞ」
 普通の古民家だった。テーブルに座るとその老婆は麦茶を出てきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。」
「それで、この街の話ですか?」
「はい。なぜ西口は田舎で東口は大都会なのですか?」
「西口?東口?そこに駅がありますがその話ですか?私は駅に入ったことがないのでよく分かりませんね。」この老婆は驚くべき事に徒歩五分以内の駅を使ったことが無いらしい。
「交通手段はどうなさってるんですか?」
「私はずっとここに居ます。ずっとここに居ると決まってるので交通の便なんて考えたことがないです。」
「ここに居ると決まってるのは何故ですか?」
「飛行機が飛ぶと決まっているように、命はいつか終わると決まっているのと同じことですよ。」
「そういうものなんですか。」
「はい。ところで、泊まる所がないなら泊まって行ってください。家族のものも居ますので、退屈はしませんよ。」おぉいと老婆は声を上げると五人ほど人がでてきた。
 
 老夫婦、若い夫婦、その子供が出てきた。
「騒がしいかも知れませんが、よろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらは泊めてもらう身のなので。」
「風呂が湧いております。」いちばん幼い子供の(といっても女子高生くらいのようだが)父にあたる人物が喋りだした。
「あぁ、はい。」
「私がお背中流します。」その女子高生がしゃべり出した。僕は一同に確認をとるように顔をじっくり見た。
「お気に召しませんか?」老人が喋りだした。どうやらそれは普通の事のようらしい。
 

「いかがですか?」
 背中を流しながら彼女は尋ねる。
「あの、不透明な所が多すぎるんだけど、いくらか質問していい?」極めて小さな声で彼女は「後で。夜八時に東口の塔の前に来て。」僕はただうなづいた。彼女は背中を擦り続けた。今は夕方六時だ。
 
 夕ご飯は僕がどのような人間かを延々と話した。話さなければならなかった。
 
 食べ終われば七時になった。僕は家を出て東口の大都会へ行った。
 大都会に、大勢の人が居た。昼間の閑散とした場所とは一変して、数え切れないほどの人がいた。街は目がくらむ程煌々と輝いていて、光を纏った摩天楼は空を穿つ蛍光灯のようだった。
 あまりに人が多いので思うように進めず、交通量が著しく多いので信号を待ち、たかが三百メートルを進むのに二十分ほどかかって塔まで辿り着いた。
 時刻は七時半。少しして待ち合わせをしていた少女が現れた。
「来てたの。」
「今来たんだ。」
「カフェがあるの。そこに行きましょう。」三十分かけて目と鼻の先ともいえるカフェまで歩いた。人が多すぎて前に進めない。席にかけて、僕は直ぐに質問した。
「こんなに人がいるのは普通なの?」
「いつもこれくらいよ。それで、聞きたいことがあるのよね?」
 
 僕はたくさんの情報を仕入れた。まずこの街は夜に人が集まってくる事。昼間は街の主、その一人しかこの街に居ないこと、その男はこのカフェに昼間ずっといる事(夜は戻るべき所へ戻るらしい)そしてこの駅で降りて長居しては行けない事。この東口の街は本当に延々と摩天楼が続いていること。そして西口の田舎は本当に延々と田畑が続いていること。そして彼女はもうここから抜け出せない事も。
 夜。布団の中で、うつらうつらと、夢に沈みつつあったとき、気づけば僕は何も無い駅に居た。プラットフォームは田んぼに囲まれていて、駅は安定した地面からは切り離されていた。孤独なプラットフォームに、ただ僕がじっとしていた。その時、今まで光さえも覆うようにそこに数多あった雲が、パッと姿を消し、まるで全てが滅びゆく程の強い光を煌々と湛えた太陽が現れた。田んぼは全て乾き、地面はひび割れた。僕の肌も水を失い、パリッと割れた途端、満々になったダムを傾けたような雨がこの孤独なプラットフォームに覆いかぶさってきて、全てを潤した。それを繰り返し、千夜が経った頃、電車が来た。レールは全て錆びきっていて、どんな物も反射する白金は、赤褐色の粉を出し続けていたのだが、最後の役目として、このプラットフォームの孤独を取り除いた。ドアが開き、僕は。
 
 6/22
 朝になった。朝食を食べた。ほかの三軒の家を訪ねてみたが誰も居なかった。駅を通り、東口に出た。昨夜の人々は嘘のように消えていた。
 街の主と会うためにカフェに行った。昨日はとても時間がかかったが今は二分で着いた。店員は居なかった。真ん中の席にただ一人、男が座って珈琲を飲んでいた。
「こんにちは。」
「こんにちは。昼間にここにいる人は珍しいね。」
「街の主なのですよね?」
「そうだとも。」
 街の主は名前に似合わず、小汚いシャツを着て、小さな体つきで、下品な話し方をしていた。まるでドブネズミのようだった。
「すみません、この街はどのようにして成り立っているのですか?」
「収入源があるんだよ。」
「街の経済ですか?」
「それもある。無限に広がって、無限に人が居るんだから無限にお金が入ってくるね。しかし、それを上回る収入源がある。」
「それは、なんですか?」
「ある試験を開催していてね、毎回多くの受験者がいるんだ。それがね、この無限の収益を期待できる街よりも儲かるんだ。だって法外な受験料を請求して、理不尽な採点をして、不合格を送り付けるんだ。そうするとすごく儲かるんだ。みんな何度も受けてくれるし。」
「合格者は何人なのですか?」
「今回の試験は受験者が五千億人で、今年も合格者は居なかったな。」
「それは試験として成り立ってるのですか?」
「もちろん。君も受けただろ?」
「はい。一点差で落ちましたよ。」
「それは結構な事で。賢いね。」
「お褒めいただき光栄です。」僕はカバンの中からナイフを包んだ新聞紙を探し始めた。
「しかしね、あの程度の試験が出来ないってのは変な話だね。」掴んだ。包装を解く。
「へぇ、全人類が不合格になってますが?」
「ならば人間が愚かなだけさ。」
「そうみたいですね。」包装を解き、ナイフを取りだした。銀色の刃先と木の持ち手。刃渡りは十センチほどで持ち手は七センチほど。十七センチのナイフを右手に握る。刃先を下にして、左手を右手に添える。円形のテーブルから僕は席を外し立ち上がった。向かいに座っていたその男も立ち上がる。僕と男は六十センチ離れて顔を突合す。いかにも弱そうな男は不敵な笑みを浮かべた。しかし、額には玉のような汗をかいていて、身体は小刻みに震えている。呼吸はとても深かったが、息が切れているような震えを持った深呼吸だった。
 男は背を向けて逃げ出そうと身体を回転しようとした。その途端僕は走り出した。押し込んだ様な感覚がした。ナイフの銀色が男の左の脇腹に深く刺さっていた。男はさらに顔を真っ青にして、声も出さずに震えている。僕は力に任せてナイフを引っこ抜いた。銀色はほとんど濃く鮮やかな赤色になっていて、男の裂けた少し黄ばんだ白色のしわくちゃのタンクトップがじわりと赤くなってゆく。タンクトップの左半分が真っ赤になった時、男は力が抜けるように倒れ込んだ。呼吸が荒くなっている。元々青白かったが、さらに青白くなってゆく顔。茶色い木製のフローリングの上に大の字に仰向けに倒れ込んだ男。目と口は虚ろに開けられている。微かに息をする音がヒュッヒュッと聞こえる。タンクトップはほとんど赤くなっていた。
「言い遺した事はあります?」僕は無表情で訊ねた。男は返事をしなかった。男を置いて僕は店を出た。まだ街には誰も居なかった。時計は昼の三時を指していた。
 少し街をウロウロしているとあの果てしなく大きい駅舎から雪崩のように人が出続けているのを見た。賑わい始めた街で時間を潰してから西口の民家へ帰る。夕方の六時に少女に夜にまた昨日の場所へ昨日と同じ時間に来て欲しいと言った。
 夜八時になった。東口の大都会は街の主を失っても何の変化もなく回っているように見える。無限に限りなく近い人間が地面に波のように存在している。塔の下に三分遅れて彼女はやって来た。また三十分程かかってカフェへ行った。僕は恐る恐るドアを開けた。死体が転がっていたはずの所にはなんの跡もなく、人々はそこに座って珈琲を飲んでいた。
「街の主が居なくなったみたいね」
「なんで知ってるの?」
「分かるのよ」
「なぜ居なくなったかも?」
「もちろん。」
「やり方としてどう思った?」
「別にいいんじゃない?」
「殺したのに?」
「ただ命が失われただけ。」
「でも……」
「後悔してるの?覆水盆に返らず、と言うのに?そもそも街の主なんて、みんなの大事なものを奪っていたのよ。」
「何を奪ってたの?」
「この街の人々の昼間よ。」
「というのは?」
「まず、誰しもが存在するのにはエネルギーがいるの。そして、空間もエネルギーを持った物を存在させるキャパシティがあるの。その総量は減ることがないけど、一定なの。街の総量が二百で、一人三エネルギーずつ分けるみたいなね。この街は無限に広がるし、無限に人が来る。だから上限は無限になってるの。しかし、街の主だけは存在するのに無限よりも上の数字の著しいエネルギーを使う。だから街の主がここに存在する時、他の何者も存在できない。街の主は恐ろしい程の資産家で然るべき機関にこの街の昼間を買取ったの。だから昼間には誰も存在できない。」
「じゃあなぜ僕は存在できたの?」
「それはあなたが外付けの人間だから。私たちは私たちのバッテリーを使ってて、あなたはあなたのバッテリーを使ってるように。」
「そして街の主は、僕に殺された。」
「そうよ。この街の人達に昼が戻ってきたの。昼間、本当は駅は封鎖されているし、私たちの一家も寝るのが早いし、東口へ行った事も無かった。だから駅に入ったこともなかったの。」
「生計は?」
「自給自足よ。畑は果てしなくあるから。」
「君の家族は変わっている人が多いよね?」
「そう?近所の人もあんな感じよ」
「近くの民家には人が住んでたんだ。ところで君たちが住んでいるところはずっと今のままのような田舎であり続けると確実に言える?」
「そりゃね。そういう場所だからずっと田舎よ。ところで、そろそろ帰らなくていいの?」
「ここで暮らすことにした。自給自足なんだろ?それにこの街に住まない方が良かった理由は街の人間になると昼間が奪われるからでしょ?」
「そうね。もう暮らすデメリットは無いわね。家はどうするの?」
「街に暮らすよ。駅前のビルに住む。住めそうな所はあるかな?」
「あると思うわよ。いずれにせよ良い家を見つけられることを願ってるわ。時々遊びに行ってもいい?」
「もちろん。」

 
 あれから十三年が経った。
 初めは学校や家族やその他知り合いをどんな気持ちにしてるか考えて夜も寝られない時もあったが、日に日に薄れて行った。警察も来なかったし、この街の人達は自分のことにしか興味が無いみたいだし、なんの不足もない人生を送っている。僕が僕らが落ちたあの試験は主催者が謎の死を遂げた年から開催されなくなった。あの少女と結婚した。みんながあの試験の事を忘れて行っても僕には忘れることが当然出来なかった。心のどこかでは受かりたかったと思う、その気持ちをバネに勉強して行くうちに二流大学の哲学科で大学教授もできるようになった。この街は大学もあって、一切の不足を感じたことがない。いつからか僕はこの街の人間になっていたのだ。
 

 [完]
 
 

ふたつの街

執筆の狙い

作者 余裕で見分けのつく二卵性双生児
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不労所得を目ざして小説を書くって無理かな

コメント

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

2024-03-13 22:45 に投稿された
『ふたつの街』 by 学科
https://sakka.org/training/?mode=view&novno=20810
の書き直しでしょうか?

そうであれば、どこをどのように変えてみた、
のような執筆の狙いを書いていただけると、
感想も書きやすくなると思います。

余裕で見分けのつく二卵性双生児
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神楽堂さん、お読み頂きありがとうございました。特に大きな加筆や改良はありません。なるべく多くの人に読んでもらって、色んな感想が欲しいだけですからほぼ同じ内容で行ってます〜!

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