作家でごはん!鍛練場
西山鷹志

執念の復讐

 外はどしゃぶりの雨が降っていた。松平家の庭に植えたアジサイの花が雨に濡れていっそう鮮やかに咲き誇っている。昼頃までは真夏のような日が差していたが急激な雨に冷やされて窓ガラスが曇っていた。その曇ったせいで、部屋の惨劇は外から見えなかったようだ。
少年は学校から帰る途中、突然の豪雨とカミナリに慌てて家に入ろうとし時だった。
 バーンバーバーンと鋭い音だ。家の中で銃声のような音と悲鳴が聞こえてきた。それから男たちが慌てて少年の家から出て行くのが見えた。少年は驚き庭の木の陰に隠れた。男たちは少年に気づかずに、外に出ると近くに停めて置いた車で急発進して去っていった。少年はただ事ではないと感じ、急いで入ると父と母と妹が血まみれになっていたのだった。
 「ど、どうして……お父さん、お母さん、真理」
 この時、父は息子を見て何か囁いて間もなく亡くなった。
 まだ小学生三~四年生くらいの男の子だろうか? 部屋の中で一人泣きじゃくっている。
 それはそうだろう。その部屋は散乱して生臭い血の匂いが部屋中に充満している。
 父と母が重なるように倒れ、その側には妹が同じように倒れている。その少年だけが難を逃れたようだ。気丈にも少年は百十番通報したのだが、余りにも突然訪れた惨劇に感情を抑えることができず、三人に起きて、起きて泣き叫ぶしかなかった。

百十番通報を受けた警察は通報場所に急行した。少年の電話の内容は興奮していて内情があまり分からなかった。やがてパトカーの音が聞こえてきた。警官が二人家に入って来て思わず絶句した。
「ボ、ボク。何が起きたんだ! 一体なんだこれは? 駄目だ。三人とも死んでいる……一体誰がこんな酷い事を? 二人だけでは手に負えん応援を呼べ!」
 三人も射殺されたとなれば大事件だ。管轄の警察署は大勢を動員させた。
 それから十五名ほどの警官や刑事、鑑識班がやってきた。少年は保護され警察署に連れ
て行かれた。庭には主を失ったアジサイの花だけが美しく何事もなかったように咲いている。その時に味岡(あじおか)というベテラン刑事が曇ったガラスに書いた文字を見た。(ぜったいに殺す)いったい誰が書いたのだろうか、犯人? いや文字は子供が書いた文字だ。するとあの少年しかいない。味岡が見た時の少年の眼は赤くなって焦点が定まらず、しかしその眼はギラギラと殺気だったような眼をしていた。最初はあまりの惨劇に少年は頭がおかしくなったのではないかと思ったのだ。少年の気持はよく分かる。味岡もそんな辛い過去の自分とダブらせた。警察署では早速捜査本部を立ち上げられていた。

「え~今回の事件だが、現場で物的証拠となる物が数点見つかった。犯人が犯行の際に落とした思われるタバコと撃った銃弾が五発。鑑定した結果、使われた拳銃は中国あるいは東南アジアに出回っている拳銃と分かった。日本で見慣れないタバコの吸い殻と銃弾、この残忍さは日本人じゃなく東南アジア系の犯行と推測する。犯行はあまりにも残忍で、一家三人、しかも子供まで容赦なく射殺するとは日本人の犯行とは思えない。殺してからその場でタバコを吸う余裕はなんだろう。今のところアジア系人間の犯行と思われる。金品などが無くなっている事から、人間が複数で襲った強盗事件と思われる。よって諸君は直ちに近辺の聞き込みや情報を収集して事件解決にあたるように、いいな!」
 捜査会議に加わっていた味岡は、まず少年の事情聴取から始めた。だが少年はショックのせいか、黙り込んだままだ。その気持ちは分かる。時間が掛かる事を覚悟した。
 結局、少年から得た情報は男たち三人或いはそれ以上、庭から逃げるように出て行って顔も見ていないという事だった。だが少年は父の最後に語った事は言わなかった。その十日後、親戚にあたる叔父夫婦の所に少年は引き取られることになった。

 少年の名は松平(まつだいら)秀一(しゅういち)、十一歳。父は貿易商を営む中小企業の社長で東南アジアとの取引もあった。少女まで射殺する残忍さから日本人でないと見た。それで東南アジア系の犯行ではないかとの結論である。事件は貿易絡みか、いずれにせよ金庫にあった金と貴金属だけで三百万程度。もちろん大金だが他の財産は奪われていない。恨みによる殺人事件か、しかし一向に犯罪者の真相が明かされないまま操作が進んだ。ただ味岡は東南アジア系の犯行に疑問を抱いていた。従業員は秀一の父を含めて十一人だったという。従業員から聞いた話では同じ国内での同業者の間でトラブルが続いている最中だったそうだ。国外じゃなく国内のトラブルなのに何故東南アジア系の犯行にと結びつけるか解せない。決め手は中国製の拳銃とタバコにその残忍さだ。
 しかし取引相手から事情聴取も、世間によくある得意先争いでそれ以上の事は何もないという返事が返ってくるだけ。

ところがこの事件から三日後、捜査の途中でとんでもない事件が発生した。
 銃を持った犯人がデパートで人実を取り、立てこもって既に二人が殺されている。しかも人実は二十人にも及ぶ。所轄署は松平家の事件以上に大変な事態になっている。現在発生している事件に殆どの署員を注ぎ込み事件早期解決にあたった。その煽りをくって松平家の事件の捜査員は大幅に減らされた。
 それじゃなくて捜査が難航しているのに捜査員が減っては更に厳しくなった。
ついには進展もないまま結局、事件は闇に閉ざされて二十年の歳月が過ぎて行った。

叔父夫婦に引き取られた松平秀一は、父の会社の顧問弁護士が管財人に依頼し、父の会社の資産と個人財産を処分した金を受けとった。その金の半分を父の弟である叔父夫婦に秀一の養育費として渡して全ての相続が完了した。その金で大学まで行かせて貰ったことに秀一は感謝していた。
 一方の味岡は、なんとかして少年の為にも犯人を探し出してやりたかったが、その望みは絶たれてしまった。秀一とは時々会って良く話しをした。事件と関係のない世間話には、秀一はその話に笑みを浮かべるものの、事件の話となると口を閉ざした。どこかいつも遠くを見つめている。やはり心の奥底には深く残っているようだ。
しかし不思議と眼だけは相変わらずギラギラとしている。味岡はこの少年は何か隠している。そんな風に感じていた。

「味岡さんこそ、どうしてそんなに僕の事を気にかけてくれるのですか」
「あぁいずれは話をする時がくると思う」
どうしても秀一少年の事件と自分の家族の惨劇と重ね合わせてしまう。だから他人事に思えない。捜査が難航しても味岡はこの事件に執念を燃やしていたのに残念でならない。味岡には秀一と同じくらいの一人息子がいる。ただ妻と娘は暴力団関係者に殺されてしまった。犯人は捕まったが本当の犯人が定かではない。と言うのも暴力団は鉄砲玉と言って身代わりに自首することもある。真相は分からないが裁判で自首した犯人の犯行として裁かれてしまった。秀一と自分の息子、あまりにも似た境遇で他人事と思えない。

時が過ぎて彼と最後に会ったのが、ちょうど大学卒業間近の事だった。
「間もなく卒業だね。元気にやっているかね」
「はい味岡さんにはいつも気に留めて頂き嬉しく思います。まぁ僕はなんと生きて行きますよ」
その程度の会話しかできなかった。卒業と同時に秀一は忽然と姿を消してしまった。育ての親である叔父の所を訪ねたが置手紙を残して居なくなったそうだ。定期預金にしていた秀一名義の通帳は解約されていたそうだ。
 見せてもらった手紙には叔父夫婦への感謝の言葉が長々と綴られており、その手紙から
どこに行ったかは何も掴めなかった。味岡はいやな予感を感じた。あの時の眼が物語る。
あれは復讐の眼だ。彼はこの卒業を機に長い年月を経て、いよいよ動き出したのかと。

 秀一は大学時代に知り合ったアメリカ人の留学生に頼み、留学生と一緒にニューヨークでアパートを借りた。半年くらいして一応アメリカの生活にも慣れて自由に行動が出来るようになった。その日を境に友人と別れニューヨークからも姿を消した。

ニューヨークを離れてから秀一はとんでもない訓練所に入った。 
施設のアーミースクールだ。つまり兵士学校であり、優秀な者はアーミースクールが軍に売り込み兵士になる者や傭兵として同盟国へ売り込むこともある。
秀一は私設のアーミースクールに入り訓練を続けた。格闘術も学校では一位二位を誇り、特に狙撃手になりたかった秀一は天性のものを持っていたのか上達が早かった。その腕を買われて戦場に送られたのだ。当初は数ヶ国で民間ご護衛の任務を経て、いよいよ戦場へ。
秀一はカンザス州に渡り、いわゆる外人部隊に入った。雇われ兵士つまり傭兵。別に金
が欲しくて傭兵になった訳じゃない。

 近年、戦争といったら戦場はウクライナになる。普通の人は尻込みするのに率先し参加した。ウクライナの戦闘員になるには経歴、一週間の訓練で優秀な者が採用され能力の高い者は月収五十七万円、更に四ヶ月勤めあげれば百六十万のボーナスが支給される。これを一年続ければ一千万以上の収入になる。ただ命と引き換えでは決して高いとは言えない。もちろん秀一は才能が認められ戦場に送られた。狙撃手の良いところは、第一線に出て敵と打ち合うことではないから。比較的安全だ。
 つまり上官から命令を受けて狙撃する相手を決め、その場所まで案内して貰い、影に隠れて相手を抹消するのが秀一の仕事である。例え戦場とはいえ、きれいな仕事とは言いきれないが。しかし戦略的には無くてはならない立派な仕事である。
 もちろん狙う相手は、テロの親玉や敵の司令官などが主な標的である。最初に狙撃した時は身震いがして数日間眠れないこともあったが、恐ろしい事に慣れてくると動物を撃つのと変わらなかった。死体を目のあたりにする訳ではないので罪悪感もなかった。
 あまりにも優秀な狙撃手となり、傭兵の間では有名になり過ぎてしまい八ケ月で除隊してしまった。目立ちすぎるのは秀一には迷惑なことだった。素生を知られるのを極端に嫌った。それにボツボツ潮時と見て、直接日本に帰ることも考えたが一旦、アリゾナ辺りで身を隠し、傭兵仲間からにも分からないようにするのが目的だった。

傭兵の中には情報に優れた者がいた。どこに隠れても探し出す凄い奴だ。それが同じ日本人だった。奴には情報収集に敵う者は居ない。秀一は一流だが情報収集にかけては秀一も舌を巻くほどだ。不味いことに、なんと自分の過去の出来事まで調べられていた。そしてある日の事だ。
「シュー、心配するな。お前の考えている事に俺は協力するぜ」
秀一は戦場では山下と名乗り下の名前だけは本名に近いシューと名乗り仲間からはシューと呼ばれていた。
「なっ! なんの事だ。俺の考えている事がなんだって言うんだ」
「まあそう構えるな。お前は二十年前の犯人を捜し出して仇を討とうしているんだろう。だから傭兵になって狙撃手になった。そしてお前の脳裏の中には犯人の顔が今でも浮かぶ。どうだ、図星だろう。おっと! 大丈夫。誰にも絶対に言わない。それに俺も似たような環境で育ったからな。俺なら犯人を捜すことはたやすい。俺が協力するぞ。後は、お前の仕事だ」
「松野、俺のことを調べるとは何のためだ。これ以上詮索したらタダでは済まないぞ。俺のことには構うな。ありがた迷惑だ。とにかく忘れろ。念を押して置くが俺には一切関与するな。いいな!」
「ちっ、人の親切はありがたく受けるものだぜ」
 
それから数年が過ぎた。秀一は三十歳になっていた。ここはアメリカ・アリゾナ州の片田舎の牧場である。アリゾナで代表的なものがグランドキャニオンで砂漠地帯が多く古くはインディアンの生息地である。
「やあシューには本当に助かっているよ。半年前に突然やってきて働かせてくれと言った時には正直驚いたけど、君はなんでも出来るんだね。乗馬は旨いし、牧場の仕事とは関係ないけど、狩の腕前はたいしたものだよ。その射撃はどこで習ったんだい。君が的を外したのを見た事がないよ。オリンピックで射撃競技に出たら絶対にメダルは確実だと思うよ」
「なぁにジェンソンさんの銃がいいからですよ。短い間でしたが有難う御座います。これから日本に帰りますが、また機会が合ったら遊びに来ますよ」
「そうかそれは残念だな。また会う日を待っているよ」
「はい私も再会を楽しみにしております。お世話になりました」
 秀一は射撃をどこで習ったか言わなかったが、なぜこのアリゾナの片田舎に現れたかは、
こんな事情があったからだそれは数年前に遡る。

 松野とはあれ以来、会っては居ないが奴のことだ。ここも嗅ぎつけているかも知れない。
奴も俺の怖さは知っているはずだ。奴が情報集めのプロなら、こっちもプロ以上のプロのスナイパーだ。戦場では何十人も狙撃してきた。何百メートルも離れた相手を狙撃するから殺した実感は沸いて来ないが。戦場だから法律にも触れていない。ただ戦争そのものが法律で、合法であるか否かは誰にも決められない。戦争は勝った方が正義で負ければ犯罪国で首謀者は裁かれる。
 松平秀一はまた同じ夢を見て目を覚ました。あの二十年前の光景が浮かび上がる。秀一
は犯人の顔を知っている。忘れもしないあの顔だ。左目の下に目立ったホクロがあり、どう見てもヤクザのような風体をしていた。そして父が最後に言った言葉も覚えている。
「秀一……おまえは大丈夫か?  や、安本興業のいわ……」
それだけを言い残して父は逝った。秀一は父とその安本興業と何があったかは知らないが表看板は金融業として通っていたがフロント企業で、れっきとしたヤクザだった。あの時から決めていた。
あの時、曇りガラスに書いた言葉(ぜったいに殺す)あの時に自分に言い聞かせるように書いた文字だった。あの時の刑事にも窓ガラスに書いた文字の事を聞かれた。
「あの文字を書いたのは君なのか」と何度も聞かれたが言わなかったが言う必要もない。
 あの味岡という刑事も今では六十歳近くになっているだろうか、何かと気を使ってくれた。そして刑事の執念も見せてもらった。しかし警察は最初の捜査で誤った判断をした。犯人を東南アジア系と見たのが間違いだった。悪い事に人実事件が発生し捜査員を大幅に減らたれた。捜査は余計に困難になった。秀一が調べたところでは間違いなく、日本人でありヤクザ達がやった事だ。中国製のタバコに銃弾は多分捜査をかく乱する為の偽造工作だったはずだ。警察に協力するつもりなら犯人は安本興業の連中だと言えば良かったのに言わなかったのは自分の手で何年掛けても裁くつもりだったからだ。警察が逮捕して死刑になっても秀一の気持は収まらない。それが復讐というものだ。
 
 犯人は三人ないし三人以上だ。当時は鉄砲玉と言われヤクザの隠語だが、名前の通り
幹部に命令されれば、なにが何でも実行しなければならない。鉄砲玉のように相手に立ち
向かい命令を実行する。時には替え玉としやってもいない犯罪を背負って自首もする。
その代わり、刑務所を出てきた時は、出世は間違いない。但し任侠ではそうだが昨今の
ヤクザは利用するだけして後は知らぬ存ぜぬで、約束を無視するヤクザも多いと聞く。
 秀一は大学に通う傍ら徹底して調べた。池袋界隈を縄張りとした表向きは金融業社でもう八年前のことだが、その中に岩本という男が居ることも知っていた。それが多分犯人の一人だ。
だが犯人だとしても一人で立ち向かうには、何十人もいるヤクザでは敵う相手ではない。
 秀一が犯人だと目星をつけた時はまだ高校生だった。とても奴等を相手にするには、それだけの力がなくてはならない。そこで単身アメリカに向かい傭兵学校に入り外人部隊としてイラクにも借り出され十分に修行も積んだ。戦場で人を殺しても罪にならない殺人を何度も経験してきた。もちろん死に物狂いの訓練の結果だが。あの日の惨劇は永久に忘れられるものではない。優しい父と母、そして可愛い妹までもが無残に殺された。
秀一はその時から心に決めてきた。生きている間には自分の手で始末してやると、例え犯人が警察に逮捕されようと、刑務所の中に居ようと抹殺してやると決めていた。

今では警察も強盗殺人の時効制度は廃止されたが年月の壁に阻まれて犯人の見当もつかんい状態だ。あの犯人を自分の手で抹殺する事に生涯を掛けた秀一の執念は恐ろしいほどだ。今更、興味本位で秀一に協力すると言った松野にも邪魔をさせない。もし執拗に纏わりついたら始末するしかないと思っていた。奴だって怖いはずだ。ホテルで寝ていようと街を歩いていようと数百メートル離れた所から狙撃することは、秀一にとっては容易いことだった。
最近の狙撃銃の有効距離は八百メートルから二千メートル以上で軽量化されグラスファイバーやアルミ製を多く用意得ている。アメリカ陸軍が採用したボルトアクションの狙撃銃でUSモデル24スナイパー・ライフルを秀一は使っていた。現在では自衛隊も使用している。準備は整った。傭兵学校ではいろんな事を学んだ。もちろん有料の私設傭兵学校だが。それだけに一人前の希望の叶った兵士に育ててくれる。銃の取り扱い、格闘技、通信傍受にハイテクの情報収集なども含まれている。おかげで普通の人が体験出来ない事を学び文武に優れ、まさに人間マシーンに変わった秀一の姿だった。

 秀一は八年ぶりに日本に向かった。当然に銃なんか持ち帰れる訳にも行かない。そこで
工業用の部品として十箱以上に何度も分けて輸出したが銃身と弾丸は難しく。信頼できる傭兵仲間に頼み、船のルートだと送れるそうだ。送り先は名前だけのダミー会社宛に送ることにした。万が一にも発覚した時には取りに行かなければ済むことで捕まるもともない。その為の偽名でもある。傭兵時代にも苗字だけは偽名で通してきた。戦場には本名も必要が無かったし意味もない、番号でも充分なのだ。
 秀一は犯人を抹殺しても警察に自首するつもりもない。その為にも多くの偽名を使用した。また犯罪の足跡も残すようなことはしない。自分が捕まって無念を晴らすのでは意味がない。推理小説のように完全犯罪までは目論んではいないが、秀一に自信はあった。
 成田からタクシーで東京は練馬区にある大泉学園に向かった。ここはかつて生まれた家がある所だった。そしてあの惨劇が起きた場所でもある。今では新しい建物が建って昔の面影は残っていない。三十分ほど眺めていた。あの惨劇が起きなかったら今でも楽しくここで暮らしていたかも知れない。それを奴等は無残にも全てを奪い取った。

 秀一はそれから父母と妹が眠る墓地に向かった。墓は草もなく綺麗に清掃され真新しい花が飾られていた。多分叔父さんがあげてくれたのだろうか? しばし墓前の前に立っていると年配の男が現れた。それは忘れもしない味岡刑事だった。
 「もしかして君はあの秀一くんではないのかね……」
 うっかりしていた。てっきり叔父夫婦が置いて行った花だと思っていたからだ。
「……ハイ、その説はお世話になりました」
「立派になって……鍛えたその体は……まるで兵士のようだが? いや結局はなんの役にも立てずこの日を迎えてしまった事には責任を感じているよ。君には思い出したくない事だろうけど、私には刑事になって一番気にかかる事件だった。一日も早く君には立ち直って欲しいと今でも願っているよ」
「ありがとう御座います。もう私は三十ですし、自分の将来も考えていますからご安心の程を」
 だが味岡はそう取らなかった。まるで兵士のような風貌、この男の眼はあの時の眼となんら変わっていない野生じみた眼が以前にも増してギラギラとしている事に。秀一はもっと話たがっている味岡を、避けるように軽い挨拶を交わして別れた。

 秀一には父が残してくれた金と、傭兵で稼いだ金と合わせて一生働かなくても良いほど
金は持っていた。勿論日本に来て新しく住居を構えることは考えていなかった。ホテルや
ビジネスホテルを当分の間、住処することにした。傭兵時代の友人に頼んだ荷物は借りたビジネスホテルの宅配専用のボックスに入っていた。このボックスは住民が留守でも宅配業者が預けて、そのボックスの暗証番号をポストに入れて置くシステムで、直接顔を合せなくても受け取れるシステムだ。秀一は荷物を受け取ると解約して、その荷物を月払いで預かってくれる貸コンテナ倉庫に移した。このシステムも似たようなもので契約時以外に顔を合わせることなく、入れ出し出来る便利なものだった。

 秀一は池袋周辺にある、あの安本興業の所在を探った。確かに事務所あるが、岩本は既に独立しているらしい。更に調べた結果は新宿に根城を持つ一家を構えていた。同じく表向きは金融業で従業員とも組員ともつかぬ男達が二十人ほどいた。
秀一も新宿界隈のビジネスホテルへと根城を移して行動を開始した。
 かなり羽振りがいいのだろう。秀一家族を殺して出世し一家を構えたのだろうか。高級外車を乗り回し側にはいつも屈強なボディーガードが二人ほど付いている。張り込んで一週間、若い女と一緒だった。その時ばかりはボディーガードが少し離れた所にいる。岩本の妾だろうか? 岩本もあの時とは変わって年を取っていた。奴も五十歳過ぎになるのだろう。だが忘れようとしても忘れられないあの目の下のホクロはクッキリと見えていた。今すぐにでも殴り殺してやりたい気分に誘われた。
 例えボディーガードが出てこようと勝てる自信はあった。しかしそれでは自分も逮捕されるか警察に追われる羽目になる。それでは意味をなさない。あくまで証拠は残したくない。

 それから数日後、岩本の女の居場所を突き止めた。大きなキャバクラのオーナー兼ママだ。キャバクラにはママを置かないのが普通だが女は接客が好きなのだろう。楽しそうに自らもホステスとして働いている。オーナーとしてはまだ若い二十八才前後と思われ、なかなかの美人である。岩本の女にして置くには勿体ないほどだ。秀一はさりげなくクラブに入った。
秀一は長年アメリカで傭兵をしていたから逞しい体と、精悍な顔をしている。また野生じみた魅力があって、アメリカでも女性にはもてた。運良く目当ての女性がテーブルに着いた。
「いらっしゃいませ。こちらの店は初めてですか? どうぞ御ひいきに」
 秀一もたいがいの女性とは付き合って来たが、ほとんどがヤンキー娘。同じ日本人の女がこう美しく自分に合っているとは思わなかった。こうなったら奴の大事な物をひとつでも奪ってやる事も悪くない。夕子と名乗るママ兼オーナー、この女との交際も早かった。
 不思議なことに自分が夕子に惹かれて行くのを感じた。その夕子も同じく野生的な秀一
に心を惹かれて行くのに時間は掛からなかった。それでも岩本を狙っている事だけは話さ
なかった。夕子とて岩本から俺に乗り換えたのだから例え奴が殺されようと心を痛める事
はないだろう。夕子には気づかれぬように探りを入れた。岩本は兄弟分と一緒に今の仕事を始めたそうだ。

 独立すると羽振りが良くなったのは今から十七年ほど前、あの事件のほとぼりが冷めた頃だ。すると岩本の兄弟分が当時事件を起こした仲間かも知れない。つまり相棒が森野と分かった。つまりこの二人を中心に犯行を行ったのだろう。秀一は二人の標的を的に絞った。夕子との付き合いも三ヶ月が過ぎた頃、岩本の行動パターンが分るようになった。しかし夕子は岩本とは別れた訳ではないようだ。今でも時折、奴と行動を共にしている。秀一も自分の自惚れかと嫉妬するほどだったが、夕子も簡単に裏切ったら仕返しが怖いのだろう。後は夕子次第だが、俺を裏切るか、岩本を裏切るかは運を賭けるしかなさそうだ。
 万が一、俺が裏切られても岩本達のワナには掛かるようなヘマはしないし自信がある。
ただ夕子の裏切りは、俺に精神的なダメージが残るだろう。だが俺に着いて来たら夕子は俺の物となる。秀一はそう決め込み、いよいよ決行する決心を固めた。
 輸入した荷物を取り出し、いよいよライフルの組み立てに入った。部品さえ揃って居ればあとはプラモデルを完成させるのと変らない。弾は親しくしていた日本在住のアメリカ兵から手配して貰った。

 情報屋の調べで岩本と森野の他にもう一人いることが分かった。相手が相手だけにその情報料は高くついたが、依頼者を絶対に明かさないのも情報屋のモラルだろうか。奴らはそれで危ない橋を渡り歩き、飯を食っている。依頼者は信用が大事な商売だ。岩本の相棒、道草守五十二歳、使い走りの頃からの付き合いだそうだ。その頃にターゲットにされたのが秀一の父が行っていた貿易会社だった。なんてことはない奴らは父の会社を利用して麻薬を運ばせる計画を立てていたが、正義感の強い父が警察に通報することを恐れて一家抹殺を図ったが、秀一が居なかったのが誤算だったようだ。

 父は何も悪くない。ただ岩本達の身勝手な企みがバレ犯行に及んだのだった。
 もはや奴等になんの言い訳の余地もない。幸せな家庭を壊した報いを受けさせてやる。
 岩本達は月一回、会合用に借りているマンションの一室に幹部連中を集めてミーティグを開くそうだ。どうせロクな話ではないだろうが、また誰かが被害にあうのは目に見えている。そのマンションは二十五階建てで、最上階に集会場が在った。新宿でも外れの方にあり高層ビルが立つ並ぶ新宿でも比較的、この界隈には高い建物が少なくこのマンションは結構目立ち存在だった。当然眺めも良いことからこのマンションに決めたのだろう。奴等は高い所から下界を見下ろすのが好きなようだ。情報屋によると岩本、森野、道草の三人も一緒らしい絶好のチャンスだ。
 それが災いとなることを秀一は教えてやることにした。あれから二十年近くの歳月が流れ奴等はもう、あの事件の事も忘れているだろう。だがこっちはどれだけ憎み苦しんだか思いを知らしめてやる時が来たのだ。傭兵で磨いた腕が役に立つ時が来た。

奴等は警戒心の欠片もないのか、最上階で中が丸見えの薄いカーテンだけだ。秀一はそこから二百メートル近く離れたビルの屋上にいた。この位の建物だと当然セキリティー設備も備わっている。秀一は丹念に調べ上げ死角を見つけ屋上に辿りついた。そのビルは二十七階建てで奴等の窓が良く見える。但し肉眼ではなくてUSモデル24スナイパー・ライフルのスコープからだ。
 ライフルを組み立てて、そのライフルケースの中には風を図る道具などが入っている。
二百メートル離れて風の計算をし、弾道の流れを計算する。そして着弾点を正確に測る。
 このライフルは軍事用のもので、かなり強力であり射程は五百メートルある。よって到達地点が二百メートルなら、弾道の勢いはそう下がるものでなかった。
 スコープのレテイクル(十字線)を合わせた。岩本の顔を捉えた。続いて都合の良い事に
森野、道草が隣にいる。まず岩本の顔面に標準を合わせた。慣れている筈の手が今日は汗が噴出していた。無理もない二十年目にして仇を取れるのだ。標的は得意そうに何事か話している。秀一はスコープのレテイクルが丁度額の辺りに合った。
トリガーに力を込めた。バシューと音がして薬莢がライフルから飛んだ。標的に当たったかどうかを確認せず立て続けに次の標的にレテイクルを合わせ同じくトリガーを二度引いた。二発目と三発目の弾丸が二百メートル先の窓ガラスを突き破って二人の男から血しぶきが見えた。その間二秒とかからなかった。

 三人の姿は視界から消えた。代りに他の会合参加者が慌てふためている。なんともあっけない結末だった。これが二十年待った瞬間なのか? 出来るなら目の前で殴りつけてから、奴等が泣き叫びながら悪かったと詫びを入れさせてから始末したかった。
 秀一は手袋をして、まだ熱い薬莢を拾った。今頃は奴の手下達は大慌てだろう。
 まさかこんな平和ボケした日本で、ライフルで狙撃されるとは思っていなかっただろう。
 窓ガラスが割れた方向を見た処で、どこから撃ったか確認するまでかなりの時間が必要
だろう。その頃には証拠を何ひとつ残さず何処へと姿を消してしまう。
 二十年の歳月を超えて、やっと秀一は復讐を果たしたが終わってみればあっ気ないものだ。秀一はやっと仇を取ったというのにスッキリしない。出来れば死んだ奴等の顔を見たかった。だが奴らの前に姿を表せば証拠を残す事になる。仕方がないことだ。

 もはや日本の居る必要もなくなった。気がかりは夕子のことだった。彼女を連れてまたアメリカにでも行こうかと考えていた。
これからの自分の人生を考えながら、ビルの屋上から立ち去ろうとした秀一。
 その時だった。その屋上に一人の男が現れた。どこかで見たような浅黒い顔であった。
 「おめでとう。シュー俺だよ。松野だ」
 「な!? なんで貴様がここにいる。あれほど俺に構うなと言ったのに」
 秀一は仕舞いかけたライフルを取り出した。
 「よせシュー。こんな都会のど真ん中で俺までやろうとするのか、俺には恨みは無いはずだろう。言っただろう。俺は最初からお前の行動を把握してここに潜んでいた。邪魔するくらいなら最初から狙撃を阻止していたさ」
 「……じゃあ、なぜ興味本位にまとわりつくのだ?  まさか趣味とは言わせないぜ」
 「ああ趣味でもなんでもない。ある人から頼まれたんだ」
 「なに頼まれた? ある人……誰なんだそれは」

 すると屋上にある出入り口の影から初老の男が顔を現した。なんとあの味岡刑事だ。
 秀一は驚いた。誰にも知られずに抹殺するつもりだった。ここまで優秀な刑事が居たのか。自分の行動が読まれていることに秀一は愕然とした。まるで二時間ドラマの結末のようだ。
 「秀一くん驚かせて悪かった。刑事の俺が言うのもなんだが、おめでとう」
 「目的を達成させるまで待ってくれたのは温情ですか、そして俺を逮捕する。なかなか立派な筋書きじゃないですか。どうせビルの周りは警官で一杯でしょうね」
 「秀一くん……私がおめでとうと言ったのは皮肉でもなんでもない。私が犯人を逮捕出来ず責任を感じている。その罪の償いがしたいのだよ」

 「……それはどうも。しかし味岡さん。貴方と松野はどんな関係があるのです。逮捕される前に疑問だけは残したくないものでね。もっともそう簡単に捕まりませんよ」
秀一は屋上の隅に行くと長いロープを手に取った。このロープを使って何階か下に降り非常階段を使って脱出する計画を立てていた。アーミー学校で訓練を積んで来た秀一ならたやすいことだ。
 味岡の隣に立っている松岡が言った。
「ほう流石に用意周到だな。それと種明かしは簡単だよ。この人は俺の父なんだ。性が違うのは君と同様に偽名を使っていたからだ。アメリカで君と合ったのは偶然だった。同じ日本人が傭兵学校に通うなんて珍しくて悪いが調べさせてもらった。元々情報収集が俺の仕事だったから、それが親父の事件と関係していたとは、最初はこっちも驚いたよ。まったく俺と境遇が同じだからな。俺も母と妹を殺されて育ったんだ。それも君の執念がそうさせたのだろう」

「何だってお前も母と妹が殺されたのか?」
すると味岡刑事が言った。
「職業柄、ヤクザに嫌わるのは仕方がないが、まさか家族を狙うとはな。だから俺もヤクザは憎い。私が警察官でなければ自分で犯人を探し出し、仇を取りたかった。その点で組織が違うが、君がその仇を討ってくれたことを嬉しく思う」
「そうなのか、だから味岡さんは親身になって俺の事を心配してくれたのか。なるほどそう云う事か。それと息子さんの方は、まあ偶然かどうかは疑わしいが、お前は本当に情報のプロだ。俺の負けだぜ。まあいいさ、長年の目的が果たせたから悔いはないよ。また何処かで会おう」
「秀一くん、まだ疑っているのか。勘違いしないでくれ。息子と俺はここに居なかった。何も見ていないし何が起こったかも知らない。勿論警官も誰もいないさ。あとは君の自由だ。これからの人生を楽しんでくれ」
「え? あ、味岡さん……」
「君は両親と妹を失った。これで君の人生は完全に狂ってしまった。我々警察は犯人さえ捜せなかった。個人としては応援もしたくなるさ」
更に味岡の息子松野が秀一に言った。
「ああ、それと言いにくい事だが、あの夕子という女は忘れた方がいい。彼女はあの岩本の女ではなく実の娘なんだよ。ただ彼女は父の犯罪も君との関係も、今は何も知らないんだ。じゃあな」
「なっ……なんだって奴の女ではなく娘なのか」
「それともうそのライフルは必要ないだろう。俺達が始末して置くよ。せめてのお祝いだ」

 秀一は唖然としたが二人に軽く会釈して屋上から立ち去った。もう新宿界隈は夜のネオンが輝き始め、何事もなかったように華やいでいた。二十年もかけてやっと仇討ち出来たというのに気持ちが晴れない。あの時点で自分の人世は狂わされたのに。もはやもう日本に居る必要もなくなった。
 翌日、秀一は日本を去る前に、父母と妹が眠る墓に仇を討ったことを報告していた。
 数日後、アリゾナ・フェニックス。スカイハーバー国際空港に降り立った秀一。空港からタクシー乗り場に向かっている時だった。突然目の前に日本人の女性が現れた。
「き! 君は?」
「何も聞かないで、過去は知りたくもないし終わった事。私は私、貴方は貴方ただそれだけよ。私たちはアリゾナで出会った男と女が恋した。そして私に必要なのは目の前にいる貴方」
「君はそう簡単に割り切れるのか?」  
 秀一もそれは分かっていた。割り切れるのかそんな事は問題ではない。全てが運命なのだと。どうせ何人も人を殺して来た。今更まともな結婚も出来はしない、夕子がベッドで親の仇を取りたいならそれでもいい。どうせ俺の人生は十一歳の時から狂っているのだから。
「君がそれでいいなら……でも夕子、どうして此処が分かった?」
「戦友といえば分かると伝えてくれって」
「松野か、あの野郎!! 余計なことを」
「あら余計なことかしら、あの人は私達のキューピッド。感謝しなくては」
「何もあいつじゃなくても……」
 口ではそう言ったものの、あいつこそ真の友人だと思った。
「さてこれから何処へ連れてってくれるの」
「そうだな、グランドキャニオンに知り合いが牧場をやっている。そこで暫く暮らそうか」
「へぇー顔が広いのね。楽しみだわ」
 二人は肩を寄せ合いアリゾナの街の中に消えて行った。

執念の復讐

執筆の狙い

作者 西山鷹志
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両親と妹が何者かに射殺されて血まみれになった。家族を泣きながら「起きて起きてと」泣き叫ぶ少年、復讐に燃えた松平秀一は叔父夫婦に引き取られ、やがて大学を卒業してアメリカ現れた。アメリカのアーミー学校に入り、やがてスナイパーとなった。傭兵となり戦場に送られた。あれから20年の歳月が過ぎて、やっと復讐する時が来た。事件当時、常に気に掛けていた味岡刑事と、その息子が鍵を握る。

コメント

中小路昌宏
softbank060089174089.bbtec.net

 読みました。

 いやあ、少々荒削りなところはありますが、面白かったです。それにしても、よく、次から次と、物語を思いつくところが凄いですね。

 ひとつ気になったところは 人実→これは人質ではないですか? それと、捜査であるべきところが、1ヶ所、操作となっていました。

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

読ませていただきました。
ある程度の文量のある作品でしたが、最後まで読むことはできました。

スナイパーもの、やくざもの、復讐もの。
そういった要素は楽しめましたが、意外な展開はなかったようにも思います。
この物語での復讐は遠距離からの狙撃ということで、実際の射殺シーンはあっけなく終わっていますね。
これだけ長い期間、自分の人生をかけての復讐があっという間に終わるというのも、
この物語で描きたかった一つの要素だとは思いましたが、物足りなさも同時に感じてしまいました。
アメリカの傭兵学校で鍛えたから一発で仕留めることができた、ということなのでしょうけど、やはり困難を乗り越えて成功する物語の方がよいかな、と。
狙撃を成功させるシーンを、もっと丁寧に書いて欲しかったです。
銃弾を目標に当てるには、試射をして誤差を修正していくのが基本ですが、狙撃では試射ができないから難しい。
同じ場所、同じ気象条件下での試射が、前もってできるといいんですけどね。

>二百メートル離れて風の計算をし、弾道の流れを計算する。そして着弾点を正確に測る。

ここをもっと丁寧に書いてみてはいかがでしょうか。
風はこうだから、こっちに補正しようか? いや、こっちの方がよいだろうか、みたいな葛藤があってもよいかもです。
あと、計算は複雑で、補正に時間がかかるため、試行錯誤している内にターゲットがいなくなる可能性の方が高いです。
そのあたりの緊迫感も書いてみてはいかがでしょうか。
一般的な読者は狙撃に関する知識はあまりありません。

>スコープのレテイクル(十字線)を合わせた。岩本の顔を捉えた。

一般的な読者は、あの十字の真ん中に銃弾が飛んでいくと思っています。
ガンアクションゲームは世の中にたくさんありますが、たいていのゲームは
照準のど真ん中に目標を捉えてボタンを押すと、あの照準の十字の真ん中に弾が命中して敵が倒れる、みたいになっていますよね^^;
まぁ、ゲームですから。
『エヴァンゲリオン』の有名なセリフに、
「目標をセンターに入れてスイッチ」
というものがあり、攻撃者はただ目標物を照準の真ん中になるようにすればいい、
なんて知識が広まってしまったようにも思います。
もっとも、エヴァンゲリオンはハイテクが使われていて、ゼロインはコンピュータが制御していてパイロットは発射許可を出しているだけ、という設定なのでしょう。
しかし、この作品では生身の人間が狙撃をしています。
目標をセンターに入れてトリガーを引いたところで弾が当たるわけがありません。
狙撃の難しい点は、何度も繰り返しになってしまいますが、ゼロインの難しさ、となります。
補正は専門用語では「規正」といいますが、狙撃の腕前 = 規正の腕前 と言っても過言ではありません。
試射何発目で零点規正が完了するか、が狙撃者としての腕前であり、試射0回で、つまりは初弾で当てればゴルゴ13なみの腕前、ということになります。
気象条件については常に変わり続けるため、経験則が大事になります。
以前とまったく同じ気象条件での狙撃、なんてありえないからです。
前にこのような風と温度、湿度、気圧のときにこうだったから、そこから考えて今回はこちらに規正する、みたいな駆け引きの描写とか書けたらおもしろいですよね。
あと、ご存知かとは思いますが、地球の自転の影響も受けます。
つまりは「緯度」の問題ですね。
低緯度、要は赤道に近づくほど、地球の自転の遠心力が大きくなります。
主人公はアメリカで訓練をし、日本で狙撃をしています。
緯度の違いがありますので、そこも描写するとリアリティが増すと思います。
さて、銃に取り付けるスコープですが、もともとは銃身に「平行」に取り付けられていますよね。
ガンアクションのゲームでは、あの十字の真ん中に銃弾がまっすぐ飛んでいくことになっていますが、実際の銃弾は「放物線」を描いて飛んでいきます。
なので、目標が近ければ十字より上に弾は当たりますし、遠ければ十字の下に当たります。
距離は当然のこと、その他の条件をすべて加味して、上下左右にどれだけ規正をかけるのか、そこが狙撃の醍醐味だと思いますし、狙撃に知識がない読者であれば、スナイパーはこうやって銃弾を目標に当てているんだ~、と感心してくれることでしょう。
本格的な銃のゲームでは、零点規正自体を楽しめるゲームもあるようですが^^;
ということで、せっかくの狙撃を題材とした作品なので、零点規正の描写がもっとあればいいかな、と思いました。

作品を読ませていただきありがとうございました。

夜の雨
ai192143.d.west.v6connect.net

「執念の復讐」読みました。

ハードボイルド系の小説ですね、設定と構成がしっかりしていて楽しめました。
登場人物のキャラクターとか相関図もよかった。
つまりドラマチックな作品でした。
殺人現場で刑事の味岡(あじおか)が『曇ったガラスに書いた文字を見た。(ぜったいに殺す)』というあたり、すごみがあります。
この味岡という刑事視点で物語が動くのかと思っていると、親を殺された「秀一」視点で物語が展開するのですが、この秀一が用意周到でアメリカにわたり傭兵の訓練を受けてそれを生業にしてスナイパーとしての腕を磨くとは。
御作のすごいところは、スナイパーの仕事が具体的にどんなものかという事が描かれていて、秀一の用意周到ぶりに説得力があります。
相関図のところで登場人物のキャラクターうんぬんと書きましたが、秀一と同業者である仲間の松野が味岡刑事の息子だったとは。なかなかラスト付近での展開も見どころでした。
オチで夕子がアリゾナの国際空港に現れたのには驚きましたが。夕子の父は秀一の親の仇だったので。また、その父である岩本を狙撃で秀一は殺しているしで。
この夕子をどうして秀一のところへと行かせたのかは不明ですが。そのあたりもやはり松野の正確な情報なのですかね。この二人なら親殺しの垣根を越えて愛せるだろうという。
つまり父よりも夕子は秀一を愛していたとか。

ちなみに秀一と夕子の関係が結構深いものになっているので、それなら二人が親密になるエピソードをいくつか挿入しておく必要はあると思いましたが、御作は二人の関係を説明程度にしか描いていませんので。

どちらにしろ御作は、作品の背景部分をしっかりと設定していたので読みごたえがありました。

御作の欠点は文章の単純ミスですね。かなりありました。


お疲れさまでした。

ぷりも
pw126247188214.14.panda-world.ne.jp

拝読しました。
ストーリーの良さと、リアリティのこだわりが伝わりました。
でもあれですね、やっぱり誤字脱字が多いのがもったいないところ。気が散っちゃうので。
今回は重複の方が気になりました。

>どしゃぶりの雨が降っていた
目くじらたてるほどでもないかもですが、音の響きが冗長です。

>しかしその眼はギラギラと殺気だったような眼をしていた。
ここも眼が繰り返されるのがよろしくないので

“しかしその眼にはギラギラと殺気だった光が宿っていた”

とか。

>新宿でも外れの方にあり高層ビルが立つ並ぶ新宿でも比較的、この界隈には高い建物が少なくこのマンションは結構目立ち存在だった。
ここは新宿が繰り返されるのがアレなのと、前の文から「このマンション」は自明なので

“高層ビルが立ち並ぶ新宿ではあるが、外れの方にあることから、界隈に高い建物は比較的少なく、結構目立つ存在だった”

くらいで良さそうな。

>犯人は三人ないし三人以上だ。
三人は三人以上に含まれますね。

>ホテルやビジネスホテル
これも、ビジネスホテルはホテルに含まれますね。

とまぁ、そういうことは置いといて

>それが同じ日本人だった。奴には情報収集に敵う者は居ない。秀一は一流だが情報収集にかけては秀一も舌を巻くほどだ。

それが松野であることはすぐに明かされるので、

“それは同じ日本人で、その名を松野という。秀一は一流だが、情報収集で彼に敵うものなどいない”

とした方がスッキリするような。
むしろ、松野という名は無しにして伏せたまま、ラストで明かすとかのがいいような気がしました。

西山鷹志
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中小路さん
いつもありがとうございます。

> いやあ、少々荒削りなところはありますが、面白かったです。それにしても、よく、次から次と、物語を思いつくところが凄いですね。


アイデァ浮かぶのですが、誤字脱字が治らないのが欠点です。
良く読むと分かるのですが、変換時点で確認を怠った結果ですね。
また相談しますから宜しくお願い致します。
ありがとうございました。

西山鷹志
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神楽堂さま

お読みいただきありがとうございます。

>これだけ長い期間、自分の人生をかけての復讐があっという間に終わるというのも、
この物語で描きたかった一つの要素だとは思いましたが、物足りなさも同時に感じてしまいました。

私も迷いました。本当はライフルではなく直接対決して決着をつければ良かったのですが
スナイパーと言う設定だったので、物足りなさが残りました。
狙撃が成功するにしても、もう少し具体的に描けば良かったですね。

>低緯度、要は赤道に近づくほど、地球の自転の遠心力が大きくなります。
>ということで、せっかくの狙撃を題材とした作品なので、零点規正の描写がもっとあればいいかな、と思いました。

そうなんですか初めて知りました。
狙撃の難しさが分かりました。
隣にもう一人が居て距離、風などを計算してくれる映画をみたことがあります。
黒猫は眠らないシリーズは9作くらいありますがあれは面白かったです。
ありがとうございました。

西山鷹志
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夜の雨さま
いつもお読みいただきありがとうございます。

私の作品は相変わらず登場人物が少ないことです。
あまり多いと収拾がつかなくなるので(笑)
今回は幼くして家族を殺された男の復讐劇です。
何故か夜の雨さまと同じ秀一が出てくるところは偶然ですね。

長い年月をかけて復讐を成し遂げるわけですが。
幼い少年が傭兵になるまでの工程が長すぎましたか。
すんなり終わっては面白くなので、味岡刑事と息子を取り込みました。

>ちなみに秀一と夕子の関係が結構深いものになっているので、それなら二人が親密になるエピソードをいくつか挿入しておく必要はあると思いましたが、御作は二人の関係を説明程度にしか描いていませんので。

そうですね。夕子は重要な存在ですね。
岩本の女ではなく実の娘が鍵を握ります。
父を殺して娘と恋仲になるのも難しいところです。
仰るとおり二人の関係を詳細に描けば良かったですね。
ありがとうございました。

西山鷹志
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ぷりも様

お読みいただきありがとうございます。

>今回は重複の方が気になりました。

>どしゃぶりの雨が降っていた
目くじらたてるほどでもないかもですが、音の響きが冗長です。

>しかしその眼はギラギラと殺気だったような眼をしていた。
ここも眼が繰り返されるのがよろしくないので

“しかしその眼にはギラギラと殺気だった光が宿っていた”


>犯人は三人ないし三人以上だ。
三人は三人以上に含まれますね。

>ホテルやビジネスホテル
これも、ビジネスホテルはホテルに含まれますね。

言われて見れば確かに重複していますね。
毎回ですが、ここに投稿して教わる事が多いです。
単に面白かった、面白く無かったより欠点を指摘して頂くと助かります。
ありがとうございました。

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