【PiS】 「ルナ」
未だいくつもの隕石が火山の上空を通過し、落ちていく。原色の空に乾いた衝撃音をとどろかせ大地へ激突する。そんな微惑星の衝突にも似た原風景を、私は大木の下に横たわり悠然と眺めていた。
「いつまで続くのやら……」
くり返される光景にふっと嘆息をもらすと、木の精が反応する。
「ヌボ、なぜ嘆かれるのですか。わたしたちには明るい未来があるはずです。根元の虫をごらんなさい。彼らには魂がやどり、細胞というものが備わっていますよ」
と葉を一枚、奇妙にうごめく昆虫の上に落とした。私は体の一部を葉に変形させ、小さなそれを救う。
「このものらが、いつか進化して知的生命体になる……」
「その通りです。わたしたちは彼らが海から上陸したときに歓喜しました。今では蜻蛉も蜻蛉もいるのですよ。嘆く必要など何もありません」
私はぬぼっとした見た目から、木の精にヌボと名づけられた土の塊。彼女とともに厳しい環境の中で進化した、トビムシら多くの昆虫を見守り続けていた。
「悠長とは思わぬか!」
ふいに刺々しく割り込んできたのは、無の存在だ。「進化もいいが、手っ取り早く人間をつくる方法がある。それには土であるそなたが必要だ。力を貸してくれぬか」
私はその横柄な言いように腹立ちを覚える。同時に人間というものに興味を惹かれた。もしやそれこそが、私と木の精が待ち望んでいた知的生命体なのかもしれないと。
「人間とは」
「わたしの姿に似せたものである」
「じきに生命が進化を遂げます。それを待たれては、いかがかと」
自らを偶像化しているようで厚かましいと思ったのだ。
「エデンを見よ。我が配下の天使によって、すでに平和な楽園が築き上げられている。そこで人間との共存がうまくいけば、いずれその平和な楽園をこの星全体に広げようと思う」
エデンが理想郷だとは聞いたことがある。しかし実際あるかもないかもしれないエデンを、星全体にとはどういうことなのだ。裏を返せば存在が人間をあやつり、この星を支配しようとする企みも感じられなくもない。のみならず、創られた人間たちは存在の思惑を知らされずに無知なまま生かされる。たとえそれが幸せへ導く道だとしても生き方をコントロールするなどもってのほかだ。
「愚策です。仮に天使がいたとしても、所詮あなたに忠誠を誓った者たち。しかも彼らは土に魂が宿った私と違い、実体のない思念体でしかありません。そんな架空化した世界を創ったとして何の意味がありましょう」
「だからこそ、土であるそなたに意味がある」
「お断りする」
私の頑なな態度に、怒りを抑えられぬ存在から得体の知れぬエネルギーが弾ける。すると突如真下からマグマが吹き上がり、地が割れる。私と木の精は分裂した小さな大地ごと近くの衛星へ飛ばされた。
炎につつまれ凄まじい速度で景色が動く。破片ともどもぐるぐる回転させられて、上か下か、右なのか左なのか方向がわからなくなる。私は大きな声で叫びながらも踏ん張り、それを耐えた。
落ち着くと下方に青い星が見えた。潤いにたゆたい、他の星と比べてひときわ輝きに満ちている。反してこの衛星は、死が口をあけているといっても過言のない灰色の世界だった。
私と木の精は悲嘆に暮れた。
特に、森ごと飛ばされた木の精の落胆ぶりは見るに堪えないものだ。オゾン層に守られる母星とは違い、ここは大気中に酸素がほとんどなく、木々が生き抜くには過酷すぎる環境だったからだ。昼は灼熱の太陽に焼かれて幹も枝も干からび、夜には極寒という凍りつく世界に覆われる。その魔手に襲われたなら消滅を望むしかなくなる。
「もう、終わりかもしれません……」
「水も、微量の酸素もある。そんな弱気になってはいけない」
私の励ましに一度は生への執着を見せたが、苛酷な気候に木々は枯れていき、しだいに木の精の波動も薄れていく。
「わたしは潰えるでしょう。ですが途絶える前に、ヌボにしばし夢を見せたい」
(夢よりもすべきことがある)
私は太陽光から木の精を守るため、土のシールドで包みこむ。
「無用です。死というものは本人がいちばんよく知っているものなのです。それよりもこの星の、夢のような行く末をお聞きなさい」
私はシールドを静かに解いた。木の精はとぎれとぎれながらも話しだした。
それは恐ろしく永い年月が経った頃の話だった。年号にして1969年ということなので、想像することすらできない先の話だ。その年に、私と木の精の念願だった生物がやってくるという。
「その者に細胞を分けてもらうのです」
かすれた声で伝えてくる。「そして地下都市を、おつくりなさい。緑化させることができれば、必ず発展するでしょう」
半信半疑だったが私は意識に刻み込む。すると安心したのか、ついに木の精の息吹も消えた。私は何一つ生命の波動が感じられぬこの大地で、太陽風に巻かれ、高熱にさらされながらも生き延びた。木の精との約束を心に刻みながら。
唯一の拠り所を失ってから、気の遠くなるような永い年月がすぎていった。私はまだ、かろうじて生きていた。その間、母星のまわりに浮かんでいた微惑星は完全に消え、代わりに数えきれないほどの人工の衛星が漂うようになった。ときおりここを目指して、大きな船もやってくる。
「着陸してほしい、木の精との夢を成就させてほしい」
と願うが、思いも空しくいっこうに降りて来ようとしない。ただ、幾たびか小さな無人の船がやってきては何やら奇妙なものを落としていった。
ころころと動きまわる彼らは、私が話しかけても何の反応もせず、いつのまにかとまった。そのときにしてようやく彼らが探査機という機械であることを知った。
私はその機械に興味を持った。何とか命を吹き込めぬかと思ったのだ。それでもぐりこんで心を探した。しかし無理だった、彼らには生命が宿っていなかった。
探査機がとまって数年後、ついに待ち望んでいた人類の船が着陸した。探査機とは形状の違う球体で人の波動も感じる。私はときめく。永い年月を経て、いよいよ念願だった人間と対面できるのだ。これ以上の喜びがどこにあろうというのか。
テレパシーを傍受すると、木の精の言う通り1969年で、母星が地球、そしてここが月だということがわかった。
扉が開き、中から人が降りてきた。しかも二人だ。探るとニール・アームストロングとバズ・オルドリンという不可思議な名前の男たちだった。
しかし彼らは私が想像していたよりもはるかに華奢だった。正直、一つの星を制圧した種族であるからして強く、もっとグロテスクと思っていた。それなのに防護服を通して見えるものは、他を押しのけてまで繫栄した種族とは到底思えない姿だった。
けれどクレーターの横に旗を立て、その旗に直立不動で敬意を払う所作を見る限り、知的で友好的な人種であることがうかがえる。だったら強靭な肉体を有していなくとも細胞を分けてもらう価値はある。
私は話しかけてみることにした。ニールの頭の中に言葉を放り込むのは容易い。
「きみは人間だね。」
ニールがきょとんとして、すぐに身構える。
「心配には及ばない。私も地球で生まれたのだ。名前はヌボ」
「ヌボ?」
その言葉を聞いてニールから安堵する気持ちが伝わってきた。しかし、茫洋とした土くれの私が話しかけているとは思ってもいないようだった。そこで、そこらの土を集めて姿をニールに似せた。目も鼻も口もないが、形だけは人になった。
「何と、あんたはさっきまで土くれだったような。そんな生物が地球にいたなんて聞いたことないぞ」
ニールが懸念を抱くのはもっともだった。私は存在のことを伏せ、火山が大噴火した際に月へ飛ばされたという、かなり誇張した経緯を話した。そして土くれとは言わずにヌボと呼んでほしいと懇願した。
ニールが首を傾げながら、渋々納得するそぶりを見せると、まず訊いたのは天使とエデンのことだった。
「天使はどうされた」
ニールが肩をすくめる。「そういえば妻も昔は天使だったかな。今じゃ見る影もないけどね」
おそらく別ものだ。ということは、やはり天使もエデンも存在の空想だったことになる。
「地球には、今どれぐらいの人間が暮らしているのか」
「さあ、正確な数字はわからないけど、ざっと五十憶くらいかな。国もたくさんあるよ。僕はアメリカという国からやってきたんだ」
「では、あの機械を置いていったのはきみらか」
「機械?」
「探査機というものだ」
私は錆びついて鉄屑と化した機械を指さす。そして、その残骸の中にもぐりこんで心を探し、結局見つけられなかったことを話した。
するとニールは「あたりまえじゃないか」と大笑いをした。そのとき、なぜかニールと心が通い合ったような気がした。たぶん私の滑稽さに心を許したのだと思う。ぬぼっとした見た目も安心感を与え、結果的に心を許すきっかけになったような気もする。
「ソ連だよ、その探査機は。いま地球は強国同士が争い、一触即発状態になっているんだ。核が、それを抑止しているけどね」
「核とは」
「死の兵器さ。一瞬で国を壊滅する力を持っている」
一瞬で? ならば存在が大地を分裂させたのと大差ない。
「それを、使用されたのか」
ニールが言いづらそうに答える。「残念だけど死の灰が降って、ほんと一瞬で焦土と化したよ。何十万人という人間が死に、命をとりとめた人も後遺症で苦しんでいるらしい。だからそれからは決定的なことが起こらないよう、保有国同士でけん制し合ってるというのが実状さ」
愚かだと思った。しかし、依然火種は燻り続けているようだ。いつ核による最終的な戦いが起きてもおかしくないだろう。これが待ち望んでいた人類のすがただと思ったら、急に悲しくなってきた。
「きみに頼みがある」
「何だい、いきなり」
「細胞を分けてほしいのだ」
「ちょっと待ってくれ。それは、どういう意味なんだ」
重力のためか、ニールが跳ねるように後ずさりをする。少し気味悪がっているようにも見える。
「じつは、ここに緑の楽園を創ろうと思う。それには人間の細胞が必要なのだ」
私はニールへ思いを伝えていくうちに、ふと、どこかで聞いたような話だと気がついた。
そうだ、無の存在だ。
かつて私は、存在から緑あふれる平和な楽園を創ることを明かされた。そして今、私も同じことをニールに明かしている。もしかしたら存在は核による人類の末路が見えていて、それで私を試し、意志を確認したうえで月に飛ばした可能性も否定できない。
「あのさ、ヌボ、夢ならともかく現実では無理だよ。ここは人間が生きられるところじゃないんだからね」
「地下に都市を造ろうと思う。もともとは地球だから同じ地質であるし、地下水さえ汲み上げれば緑化はさほど難しいことではない。それにきみの細胞と私の分身を同化させるのだ。ある程度は薄い空気にも耐えられる」
「これ、何かの足しになるかと思って」
細胞採取後に、ニールから手渡されたのは各種の植物の種と、小さな金属製のケースだった。ケースの中身はわからないが、種があれば木の精との約束が果たせる。
「このケースの中に、何が入っているのだろうか」
「バズの細胞さ。一人より二人のほうが、視野が広がっていいと思ったんだ」
「助かる。大切に育て上げることを約束する」
「それと気づかれないよう採取したから、ヌボのことはバズに言ってない。本部にも報告するつもりはないよ。ヌボが貴重な研究材料になってしまうからね」
「それは、私の存在が知られたら、きみらに囚われるということだね」
「たぶん」
そうか、私は貴重な生命体だったのか。それでニールはバズに気づかれないよう細胞を採取した。人間は残酷とばかり思っていたが、こういった優しさを持ち備えていることも知った。大きな収穫だ。
ニールが防護服の中で強張った笑みを浮かべ、船の中へ消えた。おそらく胸中は複雑だろう。報告の義務を怠るというのは職務怠慢ではなく、命令不服従と同一だ。地質調査はもちろんのこと、生物が生息しているかが探査の目的なのだから。
仮に私が地球への侵略を考えていれば、重大な問題に直面する。報告義務を怠ったでは済まされないだろう。投獄されて世間から罵られたあげくに、暗殺の標的になる可能性だってある。
ニールを乗せた船は、垂直に上昇すると母船へ向かって飛び去った。
その瞬間、私は埋めようのない感傷につつまれる。胡散臭い私を信じてくれたニールが無性に名残惜しかったのだ。それは自分でも理解できないもので、もしかしたら元々持っていた素地なのか、それとも、永い間孤独に過ごしてきて得た諦観なのかもしれないとも思った。
でも、やはり情だ。私は彼の情けに魂を揺さぶられた。
数十年後。
地下空間に太陽光の取入れが成功すると、木々も草花も広がりを見せていく。ニールとバズのクローンも次々と生まれ、ついには両性の新種も誕生した。さらに教育が高水準に達する頃には各方面に突出した才能を持つ者が現われ、政治も文化も極みに達した。道路も整備され、街中にはあの探査機を超越した車が走行するようになった。また地下に眠る鉱石を発掘して生活も格段に向上した。
私自身も皮膚は土でしかないが、人口の目と鼻と口を手に入れ見栄えは多少とも人間に近づいた。それで都市の限られた者ばかりでなく、農村へ行って人と触れ合おうと思い接するのだが、小さな子どもは正直で私を指さしては泣きだす始末だ。どうすることもできず困っていたときに知り合ったのが、目の輝きが他の者とは違う十六歳の少女マムーだった。
マムーは草花の好きな少女で、野で摘んだ花で私に首飾りをつくってくれた。それが私は嬉しく、自分の知っている土に関する知識と木の精から教えてもらった情報をすべてマムーに伝えた。
マムーは呑み込みが早く、行動力も際立っていた。たちまち農業に従事する青年たちを動かして、それまでなかった果樹園、ハーブ園を創り上げていく。私がそこを訪れるたびに、恩を感じるのか「あなたは神よ、あたしの憧れなの」と、それを口癖のように繰り返す。
私はそんな大それたものではなく、ぬぼっとしているから、ヌボという名前をつけられた土くれなんだと言い返すが、マムーは「だって貧しいあたしに、最高の知識を与えてくれたんだもの」と、聞く耳を持たなかった。
そんなある日、マムーと連れ立って歩いていると、花のまわりを飛ぶ虫を見つけた。蝶々だった。驚いて辺りを見まわすと、蝶々のほかにも蜂やら蜻蛉などが飛空していた。
「これは……」
息を呑むと、マムーが平然とした顔で告げた。
「最初は小さな微生物だったのよ。それが、果樹が実るようになったらいつのまにか。村には蜂を巣箱に入れて蜜を精製している人もいるわ」
知らない所で、知らないうちに生物が進化していた。
そのことによって農業への思いをさらに強くした私は、各方面から才能を発揮したものを選りすぐり、この都市をよりよくするために自然の大切さを懇々と訴えた。もちろん運営していくには知識人のサポートが不可欠だ。彼らに国家の骨組みをつくらせ任せることにした。そうすればいずれオゾン層も生まれ、地上で暮らすこともできるし食の改革が可能になる。
そのうえで、いつまでも私がいては彼らの自主性が損なわれると思い、表舞台から姿を消すことにした。方向性は示してもマインドコントロールをするつもりはなかったのだ。
思いとは裏腹に、私が消えたことを知ると、そのうちクローンたちは誰をリーダーにするか諍いをはじめた。私というタガが外れたため、狂った争いになった。最初はデモによる小競り合いでしかなかったのに、双方譲らず、日々の生活を放棄し武器をつくることに専念しだした。一方がその武器で攻撃すると一方もまた応戦した。一気にエスカレートし都市は戦場と化した。
私の願いでも望みでもあった木々は焼かれ、建物もすべて壊された。しまいには化学兵器に手を染め、数千人いたクローンはみな死に絶えた。いや、まだかすかに息をする者たちがいる。
私は話しかけた。
「しっかりするのだ」
「その声は……創造主!」
違う。確かにクローンを創造したが、主と思ったことは一度もない。
「――なぜ、この愚かな争いをやめなかったのだ」
「それはあなたが消えてから、あなたを敬うものと排除する者に分かれたからです。あなたが信頼した知識人たちは、皆あなたを排除する側に回りました。昆虫の培養に成功すると、広い場所と手間暇のかかる農業を軽視したのです。いってみればこの戦いは、エリートの押し進める先進企業と、人口の半分を占める農民の戦いでした」
何と、私が選りすぐった者たちが原因だったのか。愕然とした。
「お願いがあります」
男が起き上がろうとする。私は男の頭に手を置いた。
「言うがよい」
「死にたくないのです。どうか……」
と、そこまで言って語尾が口の中に消えた。
ショックだった。おそらくこの者は反乱軍の兵士、幾人もの人を殺しているはず。それなのに願いが生への願望とは……。
私は人間不信に陥り、夢遊病者のようにふらふら彷徨う。すると今度は迫撃砲の横で、息も絶え絶えの女性闘士から声をかけられる。
「もしや、あなたは神?」
マムーだった。顔も埃で煤けており、特徴だった目の輝きも失せていた。
「マムーよ、農業に夢を馳せていたあなたが、なぜ、このような化学兵器を。使用すれば共倒れになることはわかっていたはず」
「なぜって、あいつらが農園も果樹園もハーブ園も、すべて焼き払ったからです。それに、命令された……」
「誰に。労働者のリーダーか、それとも革命を目論む輩なのか」
「いえ、神と聞かされました。私は憧れである、あなたの意に沿ったまでなのです」
まさか……何ということだ。信じられなかった。私は緑化こそすべてと伝えてきたはずだ。それなのになぜ履き違える。人間とはいったい何なのだ。胸の奥底に何をひそませている。
このままでは、永遠に人類同士の殺し合いを見続けることになってしまう。たとえこの後に生まれる命が人類ではなく、グロテスクで粗暴な生命体だったとしても、最終的に滅亡を見とどける羽目に陥る。
存在よ、これこそがあなたの企みだったのか。土に意味があるとはこのことだったのか。ならば私は、あなたの言うように忠誠を誓った者たちを支配しなければいけないのか。
マムーの波動がこときれる。
ああ、ついに木の精もマムーも、そしてニールも、心を通わせた者はみないなくなってしまった。私はこの寒ざむしい世界でまた孤独に戻るのか。
もしかしたらこれは幻覚で、幻を見せられているのかと思う。彼らがいたのは単に錯覚で、私は隕石の衝突を眺めながら夢想していたにすぎないのだとさえ思う。いやそれ自体も幻で、木の精もバクテリアも存在していなかったのかもしれないとも。
何が真実で何が幻想なのかわからなくなる。時間の感覚も消える。感傷も諦観も感じない。ただ彼らの元へ行きたいとだけ思う。でも私は死ねない、大地がある限り永遠の命を授けられている。みなが死にたくないと望むのに皮肉なものだ。
しかし生というものは、死が訪れるまで何もせずに待つものではない。一歩でも前へ足を踏みださせねば、死よりも残酷な、無価値という生きていても意味のない苦悩に囚われる。
私は思い直すと、唯一の本質である土のままに動きだす。淡々とクローンの細胞を採取し、ケースの中に納める。息吹を感じる植物を探して袋につめ、水を与える。そして空しさを感じながら地上へ出る。ふらふらと月の反対側へ向かった。
やるせなく振り返る視線の先に、黒ずんだ色に変わった地球がいびつに浮かんでいた。
了
執筆の狙い
はじめてSFに挑戦しました。
企画に参加しようと意気込んで書き上げたものの、長編の題材をてのひらに納めたため、ダイジェスト感の否めない作品になってしまいました。
ストーリーは極めてオーソドックスな内容で、火の鳥の影響をかなり受けています。
そんな作品ですが、訴えたいものを物語の中に込めました。