夏
遠くの緑の山に、真っ直ぐ道が吸い込まれる。
そこに向かって車を飛ばす。
日差しが太腿を激しく照らしている。
車を脇に止め、エンジンを切った。
いつだろう?
私は玄関の前に立っている。
玄関のなかがやけに暗い。知らない靴が並んでいる。汗が頬を流れる。
目の前の玄関は、巨大な闇の口だった。
やけに外は眩しくて、蝉が鳴いているのに静かだった。
敷居は世界の境界線だった。
それはいつ反転してもおかしくない。
内が外に、白が黒に、近接していることを誰も知らない。
外の世界には影がない。
太陽によってすべてが曝かれ、曖昧なものは何一つなかった。
立ちすくむ私に、悩み・感情・欲心などの一切は存在しなかった。
ただ肉体がそこにあった。
雲を溶かして水色がかっている空も、暑くなるほど伸びる草も、青田に浮かぶ家々も、光を運ぶ川も、二三個列になってわだかまる雲も、虚飾に過ぎない。
それらはただそこにある。
エンジンをかけて、また車を走らせる。
夏がここに静止したまま――。
執筆の狙い
去年ですが、夏について感じたことを書きました。