フルート
フルート
渡辺沙羅
「じゃあ今日はここまでにしておきましょう」
「はい」
フルートの講師は中村恵子、習っているのは佐藤律子。15歳。律子は喜んでレッスンしどんな難しいところでも苦にならなかった。天才だ。パリジャンにも負けない容姿と先生にも負けないフルートのうでを持っている。
律子は今度高校を飛び級してパリの高等音楽院に留学する。
「この子は恐ろしい音感と腕の冴えを、もっている。いつも思うんだけど先週より今日、そして今日の急所は来週と、成長するその天才は底知れない」
講師の中村先生はいつも思う。
「パリでどれだけ成長するんだろう」
まだ伸びしろはある。
律子の父は画家、ユーモアのあるシュールレアリスム。母は内科医、コロナ禍が遠のいているがまだ今年も気を引締めなければならない。
そのまま家に帰ってもいいのだが一人でカラオケボックスに行く。そこは番号を入力すると伴奏だけが鳴るわけではなく、楽器の主旋律に逐次付いてくれるのだ。伴奏はばっちりである。このカラオケボックスの社長が律子のテクニック、オーラを知って律子専用に開発した最先端のAIボックスなのだ。
最初の1小節で伴奏が始まる。律子の音質をつかんでいるから楽譜など必要ない。バッハの1030をチェンバロ付きで30回練習した。
もちろん所属事務所はマネージャーを付けている。日に影についている。今はパリ音楽院への入学に向けて調整中。明日は東京交響楽団とイベールのフルート協奏曲を行う。これからゲネプロがあるからマネージャーの工藤達夫がここに来たのだ。
律子が終わって出てくると、工藤が、
「明日あるからイベール」
工藤はマネージャーであるとともに律子の良き話し相手だ。フルーティスとでありながら律子のマネージャーであることは双方為になる。
工藤は、
「イベールは大したことはないが…」
「はい、あの半音階の部分より全体的にアンサンブルが難しい。大したことはないんですけれど」
「それだよ、大したことはない、君のその発見を大切にしよう。じゃあ送っていくから」
二人は意識しあっている。二人とも若い。
さて読者の皆さんプロローグはここまでにして、一気に20年後に行ってみよう。
律子は結婚してフルートもやめた。その辺きっぱりしている。そして律子の最大の弱点年上をリスペクトしない。ゲネプロで指揮者と口論するわ、本番を30分遅れてくるとかいろいろある
夫は工藤、長い付き合いだったが神の導きとでもいうのだろうか。律子にまつわるくすんだ問題点を軌道修正し続け、いつの間にか結婚して律子の引き起こした騒動の尻ぬぐいをしたのだった。
子供は年長組で女の子。
「将来は火星へ行きたい」
理系の才能は最初の言葉が「ロケット」からわかるだろう。その頃のロケットは日本が開発したジェットロケット。推進剤だけ積んで酸素は大気から得れば無酸素積載で上空10キロまで行ける。あとは普通のロケットで月基地まで行く。
工藤は人脈もつき、音楽プロデューサーをやっている。事務所は自宅。今日は律子の作曲した歌のオーディションの日だ。伴奏は律子、ピアノを弾く。集まったひとは14で、工藤も審査人になって律子とやる。これは3段階に分かれており、歌、審査、発表である。
ここではしょって審査終わり。
音程は正しいが無味乾燥なひと、男性でそのむさ苦しいのを売りにした人。いろいろだがこのフルートで作った歌に合った人は一人だけだった。もちろんブラインドテストだから選んだのは美人だと今分かった。
「君は音程は良いし表現力もある。正直言って驚いた。
「私も、フルートで旋律を吹くと」
「こうなんだけど貴方この♯を♮で歌ったでしょう。そのほうがよかったわ」
「そうですかそのほうが良いと思って」
「気に入った!」
「ウンここはそうしたほうが良い」
「じゃあ君にはここに今日からすんでもらら」
「はい」
「じゃあこの契約書にサインして、履歴書は預かるからね。今日からここは君の家だ」
村松紹子、17歳。最終学歴は城南高校。伸びのある声、即興的に繰り出す歌声はソプラノだが音域はメゾソプラノに及ぶ。
あとは何も起こらない。工藤音楽事務所は後継者の女性が結婚して、後々までづつくのであった。
執筆の狙い
実験です。
6枚の少なさを実感。
表現したいのはストーリーが矛盾なく書けるか。
挑戦は今から投稿すること。