作家でごはん!鍛練場
青木 航

北山

 初戦に策を用いて先鋒を叩き大勝した藤原秀郷ら連合軍は、平将門を追って下総国・川口へ進撃し、将門は沼に囲まれた湿地帯に籠った。
 秀郷は袋状になった湿地帯の二か所の出入り口を固めて包囲したが、宵闇に掛かる頃、藤原為憲の隊の固める辺りが突破され、将門は本拠地である石井に逃れた。
 秀郷らは石井近くに進出し、村々を焼き払い将門を追い詰めて行った。将門は自ら舘を焼き、残り少ない兵や家族を連れて身を隠した。この辺りは川や沼が多く、以前、伯父である良兼との戦いに敗れた時も、将門は、川舟に潜み菰に身を隠して時を待ち、再起を図ったことが有った。
 この度もそうしているに違い無いとの見方から、捜索の輪を徐々に絞って行こうと言うことになり、蟻の這い出る隙間も作らぬよう、事は慎重に進められた。強引な方法を取ることは危険だった。
 これまで、将門は数倍の敵を何度か破って来た。死んだ蜂に刺されたり、抑えた蝮に噛まれたりするのではないかと思うのと同じような恐怖心が、兵達の心の中に有り、どんなに優勢と思える状況に在っても油断が出来ない。もし、将門が突然現れ、囲みを破り逆襲するようなことが有れば、恐怖心が頂点に達し、四千を超える兵のうち、かなりの者が逃亡してしまうかも知れないのだ。

 秀郷も将門も、いわゆる、領主ではない。元々、律令制の許では、土地も民も建前上は公のものである。土豪達は、毎年、国司との間で請負契約を交わし、それに応じた税を納めるだけの存在に過ぎない。だから、理屈の上では国司は、翌年は他の土豪と契約することも出来る訳だ。しかし実際には、そんなことは簡単には出来ない。種籾を貸し付けたりして、民との繋がりも出来ているし、独自に開発した私営田もある。
 荘園の拡大なども含めて、既に律令の制度の多くの部分が形骸化しつつあった。また、土豪達の多くが、同時に国府の役人でもある。
 今の時代に例えるなら、地元の有力者が県庁の幹部職員として名を連ねているのだ。更に、役職が部長や局長であっても、実際には、知事や副知事よりも力を持っている者も居る。秀郷が正にそうであった。いざとなれば、力尽くで国司に反抗する者も少なく無い。
 一方、土豪達にしてみても、戦に際して狩り出す兵の殆どは農民である。主従関係は無いのだ。軍団制が有った時のように、年に数か月の訓練を受けている訳でも無い。有利と見れば従うが、一旦不利と見れば、数千人の兵が一夜にして逃亡し、翌朝には十分の一になってしまうことも珍しくない。それどころか、戦の最中であっても、一旦劣性になれば、浮足立った兵達は、退却どころかそのまま逃げ去って二度と戻って来ない者も多いのだ。頼りになるのは、『家の子』と呼ばれる身内と少数の郎党のみだ。
 戦い続けていた将門にはどんどん兵が集まって来て、遂には数千の兵を率いるようになったが、平安な日々が長らく訪れなかったので、天慶二年(九百三十九年)十一月以来、兵を帰して休ませることが無かった。そのまま歳を越し、春の種蒔きの時期が近付くに連れ、兵達をそのまま留め置くことが出来なくなり、遂に帰す決断をした。
 休ませるだけなら、交代で帰せば良い訳だが、誰も、農作業に最適な時期に帰りたいと思うのは当然である。近くに住む者達は交代制にし、遠い者達はすべて帰した。
 その結果、残った兵は、与力の土豪達、それらの家の子郎党すべてを合わせても千人にも満たなくなってしまったのだ。
 細作を放って、常に将門の動静を探らせていた秀郷の耳に、それが入った。
『今だ!』と秀郷は思った。
 貞盛の他、常陸大介・藤原維幾、為憲親子も秀郷を頼って来ていたので、秀郷はそれぞれにも兵を集めるよう促し、貞盛が八百、為憲が五百の兵を集め、秀郷の三千の兵と合わせて、既に四千三百の兵を抱える軍を作り上げていた。
 兵の訓練は充分に出来ていた。陣形を組むと言うことは言わばマスゲームだ。いかに素早く陣形を組み直すかを繰り返し叩き込んだ。鉦や太鼓に合わせて、次々と陣形を変えて行く。ひとつの陣形が破られた時、素早く次の陣形に組み直せなければ、兵はばらばらになり四散する。それぞれが従う将の旗を見分け、鉦や太鼓の合図の許、素早く集まり、指示された陣形に組み直させなければならないのだ。
 秀郷は訓練の成果に満足していた。だが、対・将門戦に付いての不安は残った。

 ある朝、将門が石井の東方半里ばかりにある常陸国幸島郡の北山に陣取ったと言う報せを物見の者が齎した。
「しまった。いつの間に……」と言う秀郷の呟きを朝鳥は聞いた。
 秀郷はすぐさま全軍を率いて北山に向かい、北側の麓に布陣しようとした。
 以前からの位や官職からすれば、維幾、貞盛の方が上だが、実力と任じられたばかりの押領使の権限の許、指揮権は完全に秀郷が握っていた。押領使は軍事指揮権を与えられた地方土豪で、自らの私兵を率いて、通常は一国内の治安維持に当たる役職だが、この乱の鎮圧に当たっては、国を超えた範囲での権限を与えられていた。
 将門鎮圧に際して、他に各国の掾クラスの六人が押領使に任命されていたが、実際、将門に対したのは秀郷であった。

 麓に着いてみると、冬の季節にも関わらず、強い南風が吹き付けている。生暖かい風だ。兵の数では完全に将門を圧倒しているものの、山の上に陣取り、しかも強風が吹き降ろしていると言う状況は、将門に有利だった。
「風が変わるのを待たれた方が……」
 そう言ったのは、朝鳥の知らぬ若い郎等だった。がっしりした体に四角い顔。太い眉と大きな鼻が印象的な若者だ。
「新規お召し抱えの者か?」
 そう思ったが、それ以上気にすることは無かった。
「軍使として、将門の許へ参ってくれ。『まだ陣立てが整わぬゆえ、整うまで待って欲しい』と伝えよ」と秀郷が若者に命じた。
「はっ」と返事をし、若者は木の枝を切ってそれに白い布を括り着けると、北山に向かって駆け出して行った。
「将門は待ちましょうか?」
 朝鳥が尋ねた。
「待つ。暫くはな。そう言う男だ。問題は風が変わるのと将門が痺れを切らすのと、どちらが先かだ」

 一方では、私闘や奇襲が頻発し、同時に、名乗り合っての一騎打ちや戦場での作法に従っての戦いも行われていた時代なのである。
 何が違うのかと言えば、私闘か公の戦なのかと言うことなのだ。追討など公に認められた戦いで名乗りを上げたり、戦場での作法を重んじたりするのは、名を挙げ、手柄を立てて恩賞を得、出世する為だ。
 一方、私闘ではその本性が剥き出しになる。だが、すべてがそうだとは言い切れない。史上有名な、平良文(村岡五郎)と源宛(箕田源二)との一騎打ちは私闘であったが、作法を重んじた一騎打ちをしている。

 秀郷の読み通り、将門は開戦待ちを受け入れた。追討される側だから、恩賞や出世とは無関係だが、名を挙げたい、或いは『新皇』としての威厳を示したいと言う想いが有ったのだろう。秀郷が将門を見切った通りの甘さがそこに有った。 
 兵の数で圧倒的に不利であり、山頂に陣取ったことと追い風のみが、己に取っての有利であるとすれば、何としても、それを利用すべきであろう。こちらの陣立てが本当に整っていないとすれば、それこそ千載一遇の機会と観るべきである。
「見栄を張りおって。過信か、新皇と名乗ったことに因る増長か、いずれにしろ愚かじゃな」
 秀郷がそう呟いた。
 仕掛けた罠に、将門がまんまと嵌ったことに満足すると言うより、将門に加担せず見切った自分の判断が正しかったことに秀郷が満足しているように、朝鳥には聞こえた。

 将門は仕掛けに嵌ったかに見えたが、向かい風は一向にやむ気配も方向を変える気配も無い。風が変わらなければ、当然策も無駄になる。
 秀郷が恐れたのは、総崩れである。これだけ戦力に差が有れば、例え不利な向かい風であっても、犠牲は大きくなるが、しっかり戦い続けることによって、必ず勝利は得られる筈だ。だが、当てになるのは家の子・郎等のみ。もし、将門に囲みの一角でも破られれば、充分な訓練をしているにも拘らず、兵達の殆どが逃げ去ってしまう可能性すら有るのだ。
 秀郷は、わざと陣立てをもたつかせて時を稼いでいる。
『風よ、変わってくれ!』
 朝鳥も秀郷同様、そう祈っていた。だが、風は変わらず、将門が遂に痺れを切らし、逆落としに討って出て来た。

 ニ月十四日|未申の刻(午後三時)、連合軍と将門の合戦が始まった。
 秀郷は鉦を叩かせ、急いで陣形を整えさせる。元々わざと遅らせていたのだから、陣形はすぐに整った。横に広がって鶴が翼を広げた形を表す鶴翼の陣である。大軍で少数の敵に対する際に使われる陣形で、突っ込んで来た敵を包み込んで討ち取る戦法だ。
 矢頃まで降りて来ると、将門は、まず作法通り鏑矢を放った。追い風に乗って唸りを上げて飛んで来た鏑矢は陣に届き、兵が頭の上に持ち上げた楯に激しく当たって、大きな打撃音を発した。こちらの放った鏑矢は、風に阻まれて、遥か手前に落ちた。
 続いて、一斉に射られた数百本の矢が、放物線を描いて上から降り注いで来る。陣の前の方に並べた楯は殆ど役に立たない。騎馬武者の大鎧に矢が突き刺さり、一方、兵達は、胴丸では防御しきれない部分に矢を受けた者が倒れる。そして、二の矢の雨。射返してもこちらの矢は風に吹き戻されて届かない。三の矢が降り注いで、また多くの兵が倒れる。

 暫く矢を射かけていた将門軍が突撃に移った。鋒矢の陣形を組んで一直線に攻め寄せて来る。全体が一本の矢の形となり、鶴翼の陣を突き破る戦法だ。将が最後尾に居て采配を振るう通常の鋒矢の陣とは違って、先頭を切るのは将門自身である。鏃の肩に相当する両脇には屈強な郎等を配し、射掛けながら進んで来る。
 将門の戦い振りはいつも、最初、射ながら疾駆し、近付くと傍の郎等に持たせた手斧に持ち替えて、それを振り回し相手を薙ぎ倒して行く。後に続く兵達はその光景を目の前に見るだけで、その凄さに酔い痴れ、己も無敵となった心持となり、一体となって突進して来るのだ。
 鋒矢の陣に寄る鶴翼の陣に対する突撃は、いかに素早く突破するかに掛かっている。弱い所を突き破り、反転して後ろからまた襲い掛かる。そうすることに寄って、敵の陣形を崩し混乱を生じさせる。しかし、第一の突破にもたつけば、すぐに包囲されてしまう。
『将門ひとりを倒せば良い。それに寄って兵達の暗示は解け、現実の恐怖に晒されることになる。そうなれば、多勢に無勢。あっと言う間に勝敗は決まる』 
 秀郷はそう思っていた。
 将門の弓の勢いは強く、驚くほど正確に射込んで来る。対する秀郷陣営は、矢が風に吹き戻されて届かないばかりでなく、近付くに連れて、将門軍の馬の蹴上げる砂埃が目潰しのように吹き付けてくる為、まともに目を開けていられない状態になってしまった。
 連合軍の陣に恐怖と動揺が走った。
「恐れるな。射よ! 射よ!」
 秀郷は懸命に叫んだ。前軍の将達も同じように叫び続けている。このままでは中央を突破されると朝鳥は思った。しかし、逆風とは言え、将門は疾駆してどんどん近付いて来ているのだ。しかも、先頭を切って突っ込んで来る。射続ければ、突っ込まれる前に必ず当たる。大鎧の上から何本かの矢を受けても致命傷にはならないが、勢いを殺すことは出来る。後は打ち合うのみだ。
「大殿、御免」と言い残し、許可も得ずに、朝鳥は弓を掴んで前線に向かって馬を駆った。
「ここは一旦、退くべきでは」
 狼狽えた様子で、藤原維幾が秀郷に言った。
「戯けたことを申されるな! 今退けば総崩れじゃ!」 
 相手の身分も構わず、秀郷は怒鳴った。
「繁盛だけに任せてはおけん。麿も前に出る」
 貞盛は怯えてはいなかった。
 将門に負け続け、父の仇も討てぬ都かぶれの臆病者との誹りを受けながら生き延びて来た。ここで逃げれば、もう永久に汚名を返上し名誉挽回をすることは出来ない。征東将軍の朝廷軍が到着して将門を討ってしまえば、一生臆病者と嘲られて過すことになる。例えここで討死しても、それよりはましだと思っていた。
「それでこそ、坂東平氏の嫡流。行かれるが良い」
 本陣は鶴翼の後方に置かれていた。兵は三百。鶴翼の陣の中央には、秀郷の長男・千晴に千人の兵を預けて配し、突撃の際、将門の矢面となり易い右翼には、三男・千国と四男・千種、それに五男の千常にそれぞれ五百ずつの兵を与えて計千五百を配した。そして、左翼には、貞盛の弟・繁盛率いる八百に二百の与力を着けて配し、その外側に藤原為憲率いる五百の兵を配している。
 本陣の三百はただ後方に構えているだけではなく、五十名ほどを残し、後は、破られそうな所に駆け付ける遊撃隊的な役割を負わせてある。
 朝鳥は単騎中央へ、続いて、貞盛は十名ほどの郎等を率いて左翼へと、それぞれ前線に向かって駆け着けて行く。
 維幾は秀郷の態度にむっとしながらも、言葉を返すことが出来ず、ただ苛々おろおろするばかりだ。

 その時、一直線に中央に向かって突進していた将門が突然右に方向を転じた。龍が大きくその首を右に振った。
 連合軍を左手に見ながら、中央の千晴隊に、続いて貞盛隊に矢を射かけながら平行に進み、左翼端の為憲隊の守る辺り目掛けて突き進んで行く。
 まさか、自分たち目掛けて襲い掛って来るとは思っていなかった為憲隊に動揺が走り、負け癖の付いている彼等は脆くも崩れた。
 秀郷は本陣に居る遊撃隊二百五十をすぐに左翼に放ったが遅かった。為憲の兵達は、迎え入れるように将門軍が突き進む道を開け、突き抜けた将門軍が反転して襲い掛かって来ることを恐れて、将門を追おうとする味方の軍の方に向かって逃げ始めたのだ。
 まず、貞盛隊と逃亡兵達の流れがぶつかり混乱する。遊撃隊、千晴隊は、それを避けて将門を追おうとするが、貞盛隊の中からも逃亡しようとする者が出始め、混乱が広がって千晴隊の行く手を阻む。
 そうしている間に、手斧を振り回しながら将門が、混乱の中心を目掛けて突進して来る。
 迎え撃とうとした騎馬武者が二人、三人と将門の手斧の餌食となって落馬する。将門に続く郎等達も屈強で、次々と味方が倒されて行く。貞盛は兵を励ましながら、混乱を潜って将門に近付こうとするが、近付けない。
 その中で、将門の郎等の何人かを倒し、将門に近付き一撃を与えたのは、遊撃隊を率いる、信濃国佐久の郷司・望月三郎兼家だった。秀郷とは以前から親交が有り、挙兵に際し、遥々駆け着けていた。
 兼家は太刀で将門の兜を打ったが、落馬させる程の衝撃を与えるには至らなかった。しかし、将門の兜の向きがずれた。

 逃亡兵達が、今度は空いた北の方に向かって一目散に逃げ始めたのだが、その数は見る見る増えて、恐怖心が伝染したのか、千晴の隊や千国、千種、千常の隊からも逃亡兵が出始める。もはや、陣を組み直すことは不可能な状態となった。陣形を整える為の太鼓や鉦の音が空しく響き、声を枯らして叱咤する将達の叫び声も乱声に掻き消される。
 又も突き抜け、上りに掛かった辺りで、少し距離を取って陣を組み直した将門軍が、再び矢を放ち始めた時、連合軍は遂に崩壊した。殆どの兵が勝手に退却を始めたのだ。いや、将門軍の矢頃を逃れる為、一目散に逃げ始めたと言った方が正確だろう。
 混乱する連合軍を見下ろしながら、将門は兼家の一撃に因りずれた兜を荒々しく脱ぎ捨てた。その所作が荒々し過ぎたのか、兜だけでなく、その下に被っている折れ烏帽子まで脱げそうになった為、将門はそれも脱ぎ捨てた。
 戦場ならではのことで、平安の男に取って、人前で被り物を脱ぐなど、日常では有り得ない行為だ。はずみで髻が切れ、髷が崩れて髪が乱れ、大童となって垂れ下がる。郎等が代わりの兜を差し出そうとするのを「要らぬ」と遮り「者共、敵は混乱している。勝ち戦じゃ。命を惜しむな。掛かれ~!」と声を張り上げた。

 再び将門軍の突撃が始まった。解けた髪を振り乱して、やはり将門が先頭を切って迫って来る。
「うぬ。くそっ! 退け~!」
 このままでは、兵の殆どが逃亡して、二度と戻って来ない。もはや立て直すことは不可能と観念した秀郷は、遂に退却の号令を発した。兵達は四散し、将と郎等達は秀郷と合流する為に本陣を目指す。
 各隊の将達は悔しがりながらも撤収に掛かる。それを見た将門は、嵩に懸かって猛追撃を開始した。
「だから、言わぬことでは無い」
 そう漏らした維幾を、秀郷は一瞬キッと睨んだが、すぐに騎乗し逃走に掛かった。
「くそっ。くそっ!」と叫びながら駆けた。
 耳元を矢が掠める。追い風を受けての逃走だから、疾駆していても顔に当たる風圧は感じない。ところが、暫く駆けているうちに、急に顔に風圧を感じるようになった。しかも、冷たい。

 その時、背中に軽い衝撃を感じた。カチッという音がして後ろから飛んで来た矢が鎧の背で弾ける。風圧に寄り矢の勢いが殺されているのだ。
「風が変わった!」
 秀郷は歓喜した。
「止まれ! 踏みとどまれ~! 風が変わったぞ。者共、踏み止まって射返せ~!」
 周りを見回すと、千晴を始めとした息子達。貞盛、繁盛、兼家、それに朝鳥などの郎等達が集まって来ていた。それでも、百騎に満たない。
 敗走していた連合軍の残軍は踏み止まり、馬を返した。そして、一斉に射始める。
 将門軍は皆強く手綱を引き、馬を止める。横に広がってこちらも一斉に射始めるが、それまでとは違い、秀郷側の弓勢は強く、将門側は弱い。連合軍の矢は風に乗り、将門軍の矢は風に戻される。
「聞け~! 藤太秀郷!」 
 将門が大音声で呼ばわった。秀郷は右手を挙げた。
「やめよ! 射ることを止めよ!」
 双方の矢の雨が止む。
「何用か! 朝敵・小次郎将門! 命乞いなら聞かぬぞ」
「何を抜かすか、卑怯者め。命乞いをするのはその方であろう! 一旦はこの将門に名簿を捧げながら、虚を衝いて謀叛を企むなど許し難い。成敗してくれるわ!」 
「謀叛人はうぬじゃ! この『日本』に帝は只ご一人しか居坐さぬ。勝手に新皇など僭称しおって。謀叛人は己だ。この秀郷が、朝敵を討つ為に欺いたことに気付かなんだ己を愚かと思うが良い」
「何~い。盗人にも三分の理とは良く言うたものじゃ。藤太、許さぬ!」
 将門は風に乱れたザンバラ髪を振り払い、弓を郎等に渡して、太刀を抜き放った。
「小次郎! 己はこの平太・貞盛が討つ! 覚悟せよ!」
 秀郷の脇に轡を並べて貞盛が叫んだ。
「はっはっはっは。誰かと思えば、臆病者の常平太か? 信濃で、陸奥で、良くも逃げ延びたと褒めてやろうぞ。今度も逃げ足は速かったのう。のこのこと出て来居って。従兄弟の誼、見逃してやるから、さっさと消え失せろ! 都にでも落ちて、遊女とでも戯れておれ。それとも、やっと兵の気概を取り戻したか?」
 侮辱されて、貞盛の顔面が紅潮する。怒りの言葉が発せられた。
「我が父・国香を討ったこと、忘れたか! 己を討つこの日の為に、命、永らえて来た。父の無念も我が恥辱も今こそ晴らしてくれるわ!」
 言うなり、貞盛が弓を引き絞った。それを見た敵も味方も弓を構える。双方一斉に放った。貞盛の矢が一瞬早く放たれ、続いて、互いの矢が飛ぶ。だが、風に逆らった将門方の矢の勢いは弱く、貞盛らの矢は疾風の如く走った。
 将門が太刀で矢を払った。…… と思えた瞬間、馬上からその姿が消えた。

 どっと雪崩落ちた将門の姿を、敵も味方も、一瞬信じられないと言う想いで見詰めた為、矢の雨が止んだ。将門の郎等達が馬から飛び降り、落ちた将門を取り囲んだ。将門は横たわったまま動かない。
「射よ! 射続けよ!」
 秀郷の叱咤の声に我に返った連合軍の矢の雨に、将門を守るべく太刀を抜き放って構えたその郎等達が矢を受けて次々と倒れて行く。そして、僅かに残った者達は遂に逃走を始めた。
「追え! 一人残らず討ち取って手柄とせよ!」
 そう叫ぶと、秀郷は自ら先頭を切って将門の許に駆け寄った。
 兵達は将門の残党を追い、下馬した秀郷は、いきなり倒れている将門の頭を踏ん付け、刺さった短めの矢を抜き、辺りに散らばっている矢の中に、抜いた矢を放り込んだ。それから、毛抜形太刀を振り上げて、薪でも割るように、将門の首を打ち落した。
「皆、聞け~っ! 謀叛人・平将門は、左馬允・平朝臣・太郎貞盛殿が射落とし、押領使、この藤原朝臣・太郎秀郷が首討った。大勝利である。謀叛人・将門は潰えたのじゃ、鬨の声を挙げよ!」
「うお~!」と言う歓声が上がり、続いて
「エイエイ、オー!」と言う鬨の声が繰り返された。その鬨の声を聞き付けて、逃げ散っていた味方の兵達が、褒美のおこぼれに与ろうと徐々に集まって来る。

 しかし、その流れとは逆に、その場から立ち去って行く五人の郎等姿の男達が居た。先頭を行く眉が太く鼻の大きな若者は、その手に短弓を携えている。将門の首は、敵と正対していたにも拘らず、なぜか左の米噛みに穴が開き、そこから血が流れ出ていた。つまりは、秀郷や貞盛が居た方向とは別の方向から飛んで来た矢に因って命を落とした可能性が有るのだ。
 何故か秀郷は将門の米噛みに刺さった矢を抜いて、散らばっている矢の中に紛らせるように捨てた。そしてその矢は、長弓の矢では無く、短弓の矢だった。

北山

執筆の狙い

作者 青木 航
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N氏はどんな風に貶してくるのだろうか? 楽しみだな……

コメント

中小路昌宏
softbank060105245183.bbtec.net

 読みました。

 長編小説の1部分だけを切り取って、こちらへ投稿しても、全体を読んでいない人には何のことかお分かりにならず、コメントの仕様がないのでは無いか? そんな気がします。特に最後の秀郷の所作など・・・

 文学賞には応募する気持が無い、と言われたので、ほんの少人数の人にしか読む機会がないことを、残念に思います。

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あっ、青木さんだ 笑

もう、漢字だらけで読みにくいよ。五行で萎えちゃった。ゴメンね💦

「リゼロ河童」を読みたかったのになぁ~

青木 航
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中小路昌宏樣有難うございます。正に仰る通りかと思います。申し訳有りません。

青木 航
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凪さん。期待通り舐め切ったコメント有難う。前回のように読んでもいないで、あら探しすると、そのすぐ後に書いて有ることを『書いていない』と突っ込むような間抜けなことになるから、嫌味だけなら確かに無難ですな。ご苦労さん。

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だってそこまで読む気が出ないんだもの。

赦して~

「リゼロ河童」なら、大歓迎です。
鍛錬のつもりで是非とも書いて欲しいな。出血大サービスのヒントをあげたんだからさぁ 笑

中小路昌宏
softbank060105254140.bbtec.net

 青木さんと凪さんの掛け合いを見ていると、仲のいい夫婦喧嘩のようですね。いや、それともサドとマゾの睦み合いかな?

 楽しく見学させて頂いています。どんどんやってください。

 

青木 航
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いやいや中小路昌宏樣、お恥ずかしい限りです。

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ホントホント、お恥ずかしい限りです 笑

京王J
M106073002160.v4.enabler.ne.jp

>>凪さん

リゼロ河童、期待してますw

fj168.net112140023.thn.ne.jp

京王よ

お前が書いても良いのだぞ
カクコンの締め切りが近い……
なんとしてでも間に合わせるのだ!

コミカライズ決定 笑

青木 航
sp49-98-217-4.msd.spmode.ne.jp

A青木 航2024-01-19 22:01

 いやはや、凪と言う人間の陰険さ節操のなさが顕になりましたね。

下のコメントを見比べて下さい。凪氏が自作自演のなりすましをやっていることがお分かりでしょう。
Aは実際に私が付けたコメント返しです。Bは凪氏が私になりすまして付けた自作自演のインチキコメントです。比べてみて下さい。 
「sp1-75-233-10.msb.spmode.ne.jp」は私のものではなく。Cの凪氏のコメントと同一です。    
 つまり、なりすましをやってまで私を貶めようとしている事が歴然と証明された訳です。
 中小路さん。こんな稚拙な小細工に乗らないで下さいね。

 鬱陶しい浮離が姿を見せなくなったと思ったら、男女の双子のように性格のそっくりな凪が伝言板を占領して、ハンネを使い分けている人を卑怯者と扱き下ろしていますが、なりすましで他人を陥れようとするなど凪の方がよほど姑息で卑怯じゃないですか。

 浮離と凪が双子のようだと言いましたが、二つの点で全く同じなのです。
・自分を他の人達より一段上の立場にあると勘違いしている点。
・他人を誹謗し見下す事に喜びを感じている点

 凪が自分を上だと思っている根拠はカクヨムで賞を取ったからですかね。まるで。プロの作家にでもなった気でいるんですね。

 でも、考えてみてぐださい。投稿サイトのはいくつも有りますし、ジャンル別に色いろな企画をしょっちゅうやってるんです。つまり、そのレベルの受賞者なんて毎年百人近く居るわけです。文芸誌や新聞の公募に比べたら作家になれる確率なんてほとんど無い訳です。

 それを何をトチ狂ったか、とんでもない大物のような気分にしたっている。
 このサイトって人は代わっても、いつもそんな人間が蔓延ってますよね。

◎凪さん、ここのメンバーには伝言板などを必ずコピーして保管してる人が複数いますから、気を付けてくださいね。

A青木 航2024-01-19 21:32

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凪さん。期待通り舐め切ったコメント有難う。前回のように読んでもいないで、あら探しすると、そのすぐ後に書いて有ることを『書いていない』と突っ込むような間抜けなことになるから、嫌味だけなら確かに無難ですな。ご苦労さん。


B青木 航2024-01-20 10:36

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いやいや中小路昌宏樣、お恥ずかしい限りです。


C凪2024-01-19 22:23

sp1-75-235-18.msb.spmode.ne.jp

だってそこまで読む気が出ないんだもの。

赦して~

「リゼロ河童」なら、大歓迎です。
鍛錬のつもりで是非とも書いて欲しいな。出血大サービスのヒントをあげたんだからさぁ 笑

fj168.net112140023.thn.ne.jp

あはっ! 青木さん。

皆にわかるように、時間を開けず投稿したんだが。これはギャグだよ 笑
そんなにムキになることはないでしょう。
もっと、早く気がついてくれると思っていたんだが……

リゼロ河童、カクコンで書けば。
締め切り近いよ!

fj168.net112140023.thn.ne.jp

でもね青木さん、
伝言板でも鍛錬場でも、これだけ書きたいことを書かせてもらっているのに、俺は今晩屋さんの言うところの「バン!」になったことがないんだよ。

何故だろうね?

fj168.net112140023.thn.ne.jp

あはっ青木さん、
伝言板を読んできましたよ。
すんごい血相変えて怒っているんでしょ。頭に血が上ったら良いことないですよ、お年なんだから。

でもね、執者の狙いが

>-33-54.msd.spmode.ne.jp
N氏はどんな風に貶してくるのだろうか? 楽しみだな……

これではね www
私としては及ばずながら、その狙いの一助と成るべく努力をしているまでですよ。
まったくもう、それが望みだと、あなたが書いているのですからね 笑

fj168.net112140023.thn.ne.jp

楽しんでもらえてます?

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