作家でごはん!鍛練場
パイングミ

ウインナーの美味しい食べ方

◆ウインナーフィンガー
 私はどうやらぼんやりと考えごとをしていたみたいで、気づいた時にはトースターが悲鳴を上げていた。温め直していたあらびきウインナードッグが焦げている。おしゃれなパン屋で買った三百二十円が、あっという間に真っ黒だ。
 鈍く光る果物ナイフを前後にガリガリさせてみるが、焦げは全然剥がれてくれない。これはきっと、少しでも美味しく食べようと追加でチーズを乗せた強欲さのせい。だから私の責任ではない。
 諦めて辛うじて被害を免れたウインナーの部分だけを取り出した。口の中に放り込むと、プンッと皮を突き破る音が弾ける。本来の私は食べることに無頓着だったはずなのに、その音が心地よいと刷り込まれていることに少々驚いた。
 よほどお腹が空いていたのか、それともウインナーの出来が素晴らしかったのか。手の中のウインナーはみるみる消滅する。加工肉と乳製品の脂に塗れた左手の親指は、物足りなさそうに人差し指を愛撫している。ぬたぬた光るその姿は、第二・第三のウインナーみたいで美味しそうだった。
 唇の端が裂けるほど大きく口を開け、左手を迎え入れなさい。加速した強欲が命令する。部屋全体に漂う香ばしさは、なぜか精神の私にまで染み込んできた。やっかいなことに、その匂いはなかなか消えてくれず私を酷く動揺させた。
 冷蔵庫の中には、長ネギの青い部分が一本と賞味期限が三ヶ月前に切れたヨーグルトだけしかない。仕方がないので、「3月」の部分をボールペンで「8月」に書き換えたら何とか食べられるようになった。
 中途半端に刺激したせいか、胃の空腹具合はいよいよ確信的になる。カレンダーを見ると、幸いなことに今日は六月三十一日だった。三本指でパソコンをタイピングするのは不便だが、明日になって月が替わればリセットされて五本指に戻る。
 親指は塩コショウで、人差し指はめんつゆで炒めて食べたが、思ったよりも悪くはない。悪くはないが、やっぱり豚さんの偉大さには勝てなかった。少し筋張っている部分が口に残るのは、不摂生な毎日で肉質が落ちているせい。明日からはちゃんと野菜を摂取して健康的な生活をしよう。そんな私の決意をあざ笑うかのように、冷蔵庫がフシュウと鳴く。
 残った骨はネギの青い部分と一緒に長時間煮込んで白湯スープにして飲んだ。しみじみと染み渡る美味しさで、人間の指は肉じゃなくて骨を味わうものだと改めて実感した。

◆シマウマの渦
 七月に入り寝苦しい夜が増えてきたので、夏物家電でも新調しようかと近所の電気屋さんに行くことにした。中心街にある量販店の方が安いし品揃えもよいのだけど、店員さんの圧がどうしても苦手だ。いつだったか電子レンジを買った時は、トースターと炊飯器も一緒に契約させられたっけ。ついでに申し込んだクレジットカードの審査には落ちてしまった。だから量販店は嫌い。
 近所の電気屋さんは、どちらがおじいさんかおばあさんか判別できない老夫婦が営んでおり、自宅の一階を店舗にしていた。いつ来てもお客さんはいない。
「すみません、夏物家電を買いにきたんですけど」
 レジ横でうとうとしているおじいさん(多分)に向かい、いつもより大きな声で呼びかけた。起こされたおじいさんは少し不機嫌そうだ。
「夏物家電っていっても分からんよ。なにが欲しいんだい」
「まだちょっと決めかねていて。エアコンはやっぱり高いですよね」
「やめときな」と、おじいさんは首を横に振る。
「省エネ基準を満たす今のエアコンは、庶民じゃちょっと手が出ないわな」
 おじいさんが耳打ちしてくれたエアコン代は、三食ウインナードッグ生活を五年間はゆうに続けられる金額だった。
「ですよね。じゃあシマウマにします」
「それがいい。ちょっと型は古いがこれなんかおすすめだよ」
 おじいさんが店の奥から連れてきたのは、年老いたシマウマだった。カタログよりも肌艶が悪く、目ヤニも少しついている。
「なんだい、その不満そうな顔は。こう見えてもちょっと前は高級品だったんだぞ。ほら、黒白の数は普通のシマウマじゃ太刀打ちできんだろ」
 確かに細やかな白模様が黒地に映えている。白地に黒模様だっけ? どちらでもいいか。
「なんで白と黒の数が多いと良いんでしたっけ?」
 私の質問を聞いたおじいさんは、呆れたように肩をすくめる。
「しまうず理論も知らんとか、最近の若い者はダメだな。縞模様の黒い部分が太陽熱を吸収することで、白い部分との温度差で気流を生み出しているって、中学校で習わなかったか?」
「あぁ、だから縞模様が多いと渦もたくさんできるんですね」
「そう、十個の扇風機と百個の扇風機、どちらが涼しいかはお前さんでも分かるよな」
 小学生を相手にする動物園の飼育員さんのように、おじいさんは流暢に説明する。へぇ、と私が感嘆の声をあげると、おじいさんはますますのってきた。
「しかも若い頃と違って食欲もそこまでないから、餌代も抑えられる。電気代を食うエアコンと違って、地球環境にも優しい。良いことづくめだよ」
 なるほど、これは掘り出し物かもしれない。よく見れば濡れた瞳は賢者の佇まいを思わせるし、ウィルトン織の絨毯のような毛並みはずっと撫でていたくなる。シマウマを現金で購入して、自分で連れて帰ることにした。
 一般的にシマウマは気性が荒いと聞いていたが、その子はとても聞き分けが良かった。マンションのエレベーターが狭く、乗り込むのに少し手こずったぐらいだ。
 部屋に入れてさっそく電源を入れてみた。「ワン」と短く鳴き、白と黒の境界線から気流が発生する。ひんやりとした風が頬を撫でる。それはエアコンの人工的な風とは違い、肌に吸い付くように心地よい。そのおかげか、夜中に寝苦しさを感じることは一度もなかった。

◆F1の子
 みなさんの丹精込めたお世話のおかげで、今年の人間は豊作です。ヨウコ農場長の言葉を合図に、私たちは47-7区の畑に足を踏み入れた。見渡す限り畝は続いていて、その果てを見ることはできない。
 アーチ型の銀色の支柱には、サッカーのゴールネットのような網が張り巡らされていて、圧倒的な緑に覆われている。ギザギザの葉が交互に重なり、蔓は紆余曲折しながらそれでも天井を目指していた。力強い生命力の証だと農場長は言うけれど、私はなんだか苦手。だって、息絶える寸前に必死に虚空を掴もうとしている姿にしか見えないから。
「赤ちゃん収穫のボランティアがあるんだけど、アリサも参加しない?」
 親友のミーちゃんに誘われたのは、先週の土曜日だった。
「それってあれだよね、人工授精のやつだっけ」
「そう、バンクで凍結保存した精子と卵子を受精させて、培養したものを人間栽培用の植物に注入するって技術」
「なんで人気なの?」
「畑で赤ちゃんが生まれるからお腹を痛める必要もないし、産休後のキャリアに傷がつかないし。今年から国の補助金も利用できるんだって」
 ミーちゃんは目を輝かせて力説している。子どもを育てる予定はしばらくないが、後学のために私も参加することにした。
 赤ちゃんは葉の影に隠れるように実っている。半透明の薄皮に包まれているから、赤ちゃんの形はくっきりしているが、表情までは分からない。
「やーちっちゃくてカワイイ。これ、ぜったいに笑ってるよね」
「わかるー、しかも今年は量だけじゃなくて質も良いらしいよ」
 過去に参加した人は嬉しそうに話しているが、違いが分からない。ただ場の雰囲気を壊すのも嫌だったので、「だね、鮮度がぜんぜん違うもん」とわざとらしく驚いてみせた。
「いいですか、今から出産のやり方を教えます。知っている人も復習してくださいね」
 ミルクのように甘い農場長の声が畑に響き渡る。
「木の幹のような太い親づるから派生するように、細い子づるが伸びていますね。これが、赤ちゃんを繋いでいるへその緒です。まずはこれを特製ハサミを使って切り離しましょう」
 農場長が見せてくれた手本を真似して、赤ちゃんを優しく持ち上げた。粘着質の薄皮が指にじゃれつく。
 震える手でへその緒にハサミを入れると、ジャグゥという音と共に乳白色の液体が飛び出した。畑のあちこちから「うぇ」とか「やだ」といった声が飛び交う。
「赤ちゃんを育てる羊水だから汚くありませんよ」
 隣にいたミーちゃんは、農場長の説明に安心したのか羊水をぺろりと舐める。思わず「大丈夫なの?」と声が漏れた。
「まあ体に害はないでしょ」
「ならいいけど。で、どんな味?」
 ミーちゃんはどう表現して良いか分からないのか、眉を少しひそめる。
「なんだろ……無味無臭よりだけど微妙にしょっぱいかな」
「美味しいの?」
「美味しくも不味くもない。アリサも舐めてみればいいじゃん」
 そう言うとミーちゃんは、羊水が付着した人差し指を私の前に差し出した。恐る恐る口に含む。
「部活の時に飲んだ経口補水液みたいかも」
「あーそれだ」
 私たちのやり取りは波紋のように畑中に広がり、参加者のほとんどすべてが羊水を舐めていた。ヨウコ農場長はその様子を優しい笑顔で見守っている。
 三時間かけて私たちは今年の分の赤ちゃんを収穫し、さらに二時間かけて選別した。特別に出来が良い一割はA、まあまあ出来が良い二割はB、その他大勢の六割はCといった具合に。それぞれ別の施設に出荷され、異常がなければ両親のもとへ配達される。残りの一割は規格外で、工場で処理されて加工肉になるらしい。
 ボランティアの報酬として、帰りにへその緒を貰った。使い道が分からないので、とりあえずベランダの鉢植えに植えておくことにした。

◆好きと愛の駆け落ち
 昨晩書いた手紙を読み返してみたら、「好き」と「愛」が失踪していた。
 その他の言葉たちは無事で、消えたのはその二つだけ。手紙の冒頭は「あなたが  です」、締めの部分は「 しています」といった風に、誰かが消しゴムをかけたみたいに空白になっていた。いや、消しゴムならわずかな痕跡は残るはず。たとえば、手紙を贈る相手への想いが乗ったボールペンの筆圧とかぐらいは。それすらもきれいに無くなっているから、まさに失踪という言葉がピッタリだった。「し」とか「す」とか、取り残された文字は申し訳なさそうに身を縮めている。
 こんなことをするのは姉しかいない。そう思い棚からパステルピンクの単行本を取り出した。かつて小説家だった姉の処女作【ウインナーの美味しい食べ方】は、すっかりくたびれている。
 見返しを開いたが、姉の気配は感じない。パラパラと頁をめくると、姉は本の中を泳いでいる最中だった。海中に潜ったイルカが遥か先でジャンプするかのように、紙という次元を難なく超えていく。一枚目から七十二枚目、四十四枚目から百十枚目、百八十七枚目から二十六枚目…といった感じで、紙面をぴりぴり震わせながらなんとも気持ちよさそうに。自由気ままで羨ましい限りだ。
──結論からいえば、好きと愛の駆け落ちだね。
「駆け落ち? 言葉同士が?」
──好きなら言葉だって駆け落ちぐらいするさ。
 姉は本の中にある限られた文字を引用して、器用に文章を作成していった。「かわいそう、」を「うそ、わかい」と変換するような、多少のアナグラム的手法を取り入れながら。それにしても、「好き」と「愛」はどこに行ってしまったのだろうか。
──それは責任から解放された、自分が何者でもない場所だと思う。
 姉が紡ぐ言葉たちに緊張が走り、文字列が波打つ。私は彼女の気持ちを静めるために、万年筆用のインクを数滴与えた。姉は嬉しそうにキュイキュイと紙を鳴らして飲み干す。お気に入りはドイツの老舗メーカーのやつで、飲むスピードが全然違う。
──思えば私たちは、この二つの言葉を軽く扱い過ぎたのだよ。数多のラブソングや映画、恋愛小説で無責任に多用されて、アリサも覚えがあるんじゃないかな。
「人気者と考えればステキなことじゃないかしら」
──その観点では贅沢な悩みと言えるかもしれないね。でも、無責任な期待は時に重荷になるんだよ。
「重荷?」
──恋の成就という大役を担うことにも、失敗の瞬間に立ち会うことにも、失恋の緩衝材にされることにも、疲れ果てたんじゃないかな。
 人気小説家の地位を捨て本に引きこもった姉も同じ気持ちだったのだろうか。出来の悪い妹には分からない。
──なに言ってるのさ。私は好きに生きているアリサの方がよっぽど羨ましいよ。
「シマウマのオナラが臭くて毎日悩んでいても?」
──いても。
 私は冷蔵庫からビールを取り出して、昨夜の残りのコロッケで流し込んだ。姉、キュイキュイ。私、キュイキュイ。二人が共鳴する休日の朝七時も案外悪くない。
──いずれにしても、駆け落ちは失敗に終わるから安心なさい。安っぽい連中は同列に語りたがるけれど、好きと愛が結ばれることはない。好きが進化すれば愛になるし、愛が終われば好きに戻ることも稀にある。近親相姦的なジレンマを抱える両者は、決して交わらない運命なんだから。
 姉は指ばかり食べる私の偏食ぶりに一時間ほど小言を言い、やがて眠ってしまった。
 結論から言うと、姉の言ったことは本当だった。三日後には「好き」と「愛」は戻ってきていて、何事もなかったようにすましている。私は何だか興がそがれてしまい、手紙を机の奥に仕舞う。恋人とも遠くない未来に別れるだろうな、そんな予感を胸に秘めながら。
 その代わりというわけではないが、親指を「好き」、人差し指を「愛」と呼ぶことにした。先月失踪した好き指と愛指は、リセットされて私の左手に戻ってきている。そのことを姉に報告したら、あなたは昔からロマンチストなナルシストね、と文字を震わせて笑っていた。

◆ソファの穴はタイムホール
 真鍮製のドアノブをゆっくり回し扉を引くと、トマトとチーズの焦げる匂いが出迎えてくれた。シーラカンス亭名物のラザニアがちょうど焼き上がったらしく、マスターがオーブンから取り出す途中だった。オレンジ色に滲むシェードランプの灯りを頼りに、薄暗い店内をぐるりと見まわす。幸いなことに、一番奥のテーブル席には誰もいなかった。
 ラザニアと丸干しいわしと牡蠣のオイスター煮とチーズのパリパリ焼きと中華風スペアリブと明太バターうどんを注文し、ソファに腰を下ろした。人を無条件に甘やかす昨今主流の柔らかいソファとは違い、適度な堅さがお尻を押し返す。潰れた喫茶店から譲り受けた年代物だとマスターは言っていたが、座り心地は悪くない。
 ソファの側面には誰かがほじった小さな穴があり、この前来た時よりも広がっている気がした。犯人はきっと彼氏の話が退屈すぎた女の子で、無意識に手を伸ばしてしまったに違いない。マスターには申し訳ないが、その穴に指を通すと名も知らぬ誰かと触れ合えた気がした。
 私の指はさらなる穴の奥に分け入り、ウレタンの乾いた感触の向こう側にたどり着く。石っぽい何かに指先が触れた瞬間、ドアベルが鳴り響いた。冷たい空気が店内を撹拌し、未来の私がまっすぐ私のもとにやってくる。
 女はひどく痩せていて、ジャージの裾から見える手首には骨が浮かんでいた。背中まで伸びた髪は枝毛が目立ち、使い込まれた箒みたいに無造作に広がっている。女は三十七歳らしいが、五十歳と言われても信じるかもしれない。これが未来の私なのかと絶望する。
 女が来ているジャージは見覚えがある。高校の時の体操ジャージで、えんじ色は私の学年と同じ。しかも、右ひじの部分には美術の時間に付着した絵の具跡が残っている。確かに私のジャージだった。
「いつも悪いわね。今日もごちそうになるわ」
 女はちっとも悪いとは思っていない様子で、注文したばかりの料理を次々に口に放り込む。
 ラザニアのチーズで上顎の粘膜が剥がれ、噛まれず飲み込まれた明太バターうどんが喉を押し広げて胃に落ちる。古いスマホと新しいスマホが同期されているみたいに、女の感覚は私の感覚として直接伝わってきた。今の私は何も食べていないのに、満腹中枢が刺激される。食べていないのに食べている今の状況は、ある意味お得かもしれない。
 全ての料理を食べ終えると、女は一回り大きくなった。
「まだ痩せているけれど、初めて会った時よりふくよかになったんじゃない」
「アリサのおかげよ。未来じゃなかなか食べられなくてね」
「なんでそんなに貧乏してるのよ」
 女は曖昧に笑って私の質問を無かったことにする。いつもこうで、未来のことは何も教えてくれない。その癖に私と接触してご飯は食べる。矛盾というか、こいつ本当に大丈夫なのかな、と呆れる気持ちはある。
「じゃあまた来週ね」
 女はソファの穴から未来に帰っていった。このまま未来の私がふくよかになってくれれば、私も安心できる。しかし、大きくなる度にソファの穴を拡張しなければならないのが難点だ。いよいよマスターに怒られるかもしれない。
――アリサ、あなただいぶ痩せたみたいだけれど大丈夫?
 家に戻ると、姉が心配そうに尋ねてきた。いつもより頼りない文字は姉の優しさだ。
 そう言えば、しばらく食事らしい食事をしていないことに気がついた。未来の私と同期して私自身も満腹になっていたから、食事の必要性を感じなかった。慌てて鏡を見ると、出かける前より一回り小さくなっていた。
 未来の私をふくよかにすればするほど、今の私が痩せこけていく。未来の私が悪いのか、今の私の行動が問題なのか。卵が先か、鶏が先か。バカな私にはよく分からなかった。ただ私は、来週もこの店を訪れるだろう。それだけは確実な未来だ。

◆シマウマは立ちながら眠る
 電気屋のおじいさんから電話があったのは、日曜の午前中のことだった。セールスかと思って身構えたが、シマウマを購入してから一度もそういった話はない。なら大丈夫かと思い電話に出ることにした。
「おっ、やっとでたか」
「すみません。洗濯物を干していたので気づきませんでした」
「まぁいいか。ところでシマウマは元気にしているかね」
「えぇ元気ですよ。呆けているせいか、たまにタイマー設定が効かない時もありますけど」
「元気ならなにより……と言いたいところなんだけどな……」
 あけすけな性格のおじいさんにしては珍しく、口ごもっている様子が電話越しに伝わってきた。
「シマウマがどうかしたんですか」
「実は、あるバカがシマウマを誤作動させてな。反時計回りに渦が発生してしまったんだよ」
「じゃあ、ちょっと前に町を吹き飛ばした季節外れの台風って……」
「そう、そのバカの仕業で渦が暴走して台風になってな。おかげですべてのシマウマがリコール対象というわけだ」
 バカとシマウマってややこしいな。そう心の中で呟きながら、パソコンを開いてニュースサイトを確認する。その記事はトップページにあり、事件の詳細やメーカーの問い合わせ先が記されていた。
「でも、ストッパーは付いていたんでしょ。それなのになんで」
「本人は偶然外れたと言っているらしいが、まぁ確信犯だろうな。動画にして公開しようとでもしたんだろ」
「じゃあリコールはおかしくないですか? シマウマには何の落ち度もないじゃないですか」
「お前さんみたいに物分かりが良い奴ばかりならいいのにな。この事件をきっかけに不法投棄する連中もいて、野生化したシマウマが生態系を荒らしているみたいなんだよ」
 おじいさんのため息が嫌な予感を運んでくる。リビングを覗くとシマウマは横になってくつろいでいた。野生のシマウマは立って眠るらしいが、ウチのは緊張感のかけらもない。
「ちなみにですけど、リコールって応じなくてもいいんですか?」
「…………死亡届を偽造して廃品扱いにすればできないこともないがな。ただ、もう存在しないことになるから、やっぱりリコールしますは通用しないぞ」
「最後まで責任を持って使い続けます」
「新型の夏物家電が出ても?」
「出ても」
「年老いているとはいえ、シマウマの寿命は三十年近くあるぞ」
「覚悟しています」
 少しの沈黙の後、おじいさんは別の種類のため息を吐いて、「とりあえず今から店に来い」と乱暴に言った。少し早まった気もするが、きっとこれでいいのだろう。餌代やトイレ代だって、生活を切り詰めればなんとかなるはず。未来の私の姿が一瞬浮かんだが、頭を振ってかき消した。貧乏、どんとこいだ。
 私の決意が伝わったのか、横たわっていたシマウマが首だけ伸ばしてこちらを見る。そして、珍しく「ワンワン」と二回鳴いた。

◆へその緒
 また夏が来た。お世話の甲斐があり、相変わらずシマウマは涼しい風を生み出している。除湿機能は姉にとても評判がよい。
──本が歪むと片頭痛が出るから、本当に助かっているよ。
「いい加減に本から出てきたらいいのに」
──現実の世界はフィクションだからまっぴらごめん。それに、あなたのバイト代が支払われなくなるけれどいいのかい?
「……それはだいぶ困るかも」
──でしょ。きっとこの状態がベストなんだよ。
 姉はまた小説を書くようになった。処女作【ウインナーの美味しい食べ方】にある文字だけを組み合わせて、新たな物語を紡いでいく。私はそれをテキストに書き起こして、出版社に届けるバイトを始めた。かつての人気作家の復帰作ということもあり、大きな話題になっているらしい。「好き」と「愛」の顛末についても小説に書かれており、私もちょっとだけ登場した。
「アナグラム的手法なんて使わずに、自由に書いた方が良い作品になるんじゃない?」
──多少の制約があるぐらいが名作は誕生するものだよ。それに、小説家は処女作を永遠に越えられないのさ。私の全てがこの作品に込められているからね。
 小説家なんて人種は変人ばかりだから、姉の言うことはちっとも理解できない。でも、姉が少しだけ前向きになったのだから良しとしよう。
 変化はもう一つあって、ベランダに放置していた鉢植えから、へその緒が発芽した。本葉が四枚になる頃に一回り大きな鉢植えに移し、化成肥料を与える。人間栽培植物ほどに親づるは太くならなかったが、彼岸花のような毒々しい赤い花を咲かせ、丸々と太ったグローブみたいな手を実らせていた。胴体や顔、足などはない。
 収穫した指はボイルして酢味噌で食べた。へその緒を切った時に出たいつかの羊水みたいに、噛んだ瞬間に肉汁が弾け飛ぶ。シマウマは床に着いた肉汁に顔を近づけたが、二度三度匂いを嗅いだだけで興味を無くした。この草食動物め。
 丹精込めて育てたせいか、単に収穫したばかりで鮮度が良かったせいか、あるいはその両方か。自分の指より上等で美味しい気がする。
 私は夏の間、畑ボランティアにできる限り参加した。ミーちゃんは既に卵子バンクに登録しており、来年には自分の子が収穫されるらしい。
「アリサも早く登録しなよ。今なら、子どもたちも同級生になれるわよ」
 ミーちゃんは嬉しそうに言うが、私はへらへら笑ってごまかした。不純な目的でボランティアに参加する私には、そんな資格はないと思う。
 夏の間に貯めたへその緒は、デパートの紙袋いっぱいになった。私は軽い足取りでシーラカンス亭に向かう。これだけあればたくさんの指が収穫できるはずだ。未来の私が涙を流して喜んでいる姿を想像すると、自然と顔がにやけてしまう。
 贅沢にも店内はエアコンで冷えていた。一番奥のテーブル席はやっぱり誰も座っていない。私はマスターにアイスレモンティーを注文して、いつものソファに腰かける。しかしどうにも座り心地がおかしい。よく見ると、ソファの穴が修復されて綺麗に塞がってしまっていた。
「マスター、このソファ……」
「あぁ、先日リペアしたばかりなんだよ。穴が開いてたんじゃ雰囲気が出ないからね」
 なんてことだろう。これでは、未来の私が穴を通ってやって来ることができない。過去軸の私は無数に存在しているから女が餓死する心配はないが、もう二度と会えないかもしれない。修理した職人さんの腕がよほど良かったのだろう。境目が分からないほどに穴はすっかり消失していた。
 それにしても、この大量のへその緒はどうしようか。いっそのこと、ウインナーフィンガー屋さんでも開こうかしらん。メインはウインナー指のボイル焼きで、味付けは日替わり。ケチャップペッパー、ハニーマスタード、カレーマヨ、オイスターナンプラー……あとは何がいいかな。一緒に収穫した茎と葉はサラダにして、骨のスープもできそうだ。テイクアウト用のウインナードッグも忘れてはいけない。乾いたへその緒が紙袋の中でかさかさ音を立てた。
 ベランダの鉢植えは足りるかしら。そんなことを考えながら、運ばれてきたレモンティーを一気に飲み干す。夏はじきに終わる。

ウインナーの美味しい食べ方

執筆の狙い

作者 パイングミ
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久しぶりの投稿になります。シマウマが夏物家電になったり、子どもが畑で収穫できるようになったり。主人公のアリサのちょっと不思議な日常を綴ったお話です(原稿用紙約30枚)。連作掌編なのでサクッと読めるかと思います。どんな感想でもいただけると嬉しいです。


※人によって残酷と感じる設定があるかもしれません。ただ、描写はあっさりなのでそこまでグロさを感じることはないかと思います。

コメント

偏差値45
KD106155055204.au-net.ne.jp

>連作掌編なのでサクッと読めるかと思います。どんな感想でもいただけると嬉しいです。

◆ウインナーフィンガー 指を食べる話。
◆シマウマの渦 電気屋さんでシマウマを買う話。
のみの感想です。

どこが面白いのか分かりませんでした。
サクッとは読めないですね。
その理由を考えれば、この世界観に対して強い拒否感があるような気がしますね。
いきなりこの世界観を伝えるのでなくて、助走のようなもの、イントロのような、
先行する匂いが必要な気がしますね。
なんとなくアイデアよりも先に拒否感が立ってしまい、
楽しむところまで辿り着けなかった印象ですね。
単純に面白い話というよりも、変な話としか受け止めようがないかな。

abejunichi
104.28.83.167

パイングミさま

素晴らしい作品をありがとうございます。
僕が読んできたいろんな小説の中でも、相当な傑作にはいると思います。
初期村上春樹を3世代くらい進化させた才能というか、
正直、この才能には羨ましいものがあります。

何が素晴らしいのかという説明はできません。
言語性IQが高いからこういう作品を書けるのかとも思いますが、
まさしく円城塔が認めそうな才能って、こういうのではないかと思います。
AIも理解できるかわからないこういう文才こそ
後世に残すべきだと思いました。

僕のAIサービスレベルで、御作をはかれるかどうかわかりません。
最新のClaudeでもどうだろう?

しかし、こういうふうに人間だからできることがあるから、
未来は切り開かれると思った次第です。
ありがとうございました。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

好きですよ。
この作風。

日常的な場面、ウインナーに指を与えたり、しまうまに冷房機を与えたり、
微妙に日常が非日常に取って代わられる、
でも主人公がそれを何ら疑問に思わず「当たり前」として受け止めている。

異質的な日常を描く。
これは新しいブームになるかもしれない。

特に揺らぎの中の「確かさ」があって。芯がある。
こういうの好きです。
個人的にワンと鳴くシマウマ、愛と恋の駆け落ち、本のページでスイミングするという発想は好きです。

ただ、個々のファンタジーを一つの舞台にまとめきれていないで、ちょっと断片集みたいな雰囲気があります。
いっそ、短編集にしてもいいかもね。

パイングミ
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偏差値45様

途中までお読みいただきありがとうございました。楽しむまでたどり着けなかったとのことですが、純粋に私の実力不足であり、もっと精進しなければと気持ちを新たにしました。

>その理由を考えれば、この世界観に対して強い拒否感があるような気がしますね。
>いきなりこの世界観を伝えるのでなくて、助走のようなもの、イントロのような、先行する匂いが必要な気がしますね。

なるほどです。いきなりこの世界に放り出すから戸惑いますし、拒否反応も出てしまうというわけですね。面白さを担保できるプロの作家ならともかく、読者の心を掴むことの大切さを実感しました。とてもためになりました。ありがとうございます!

パイングミ
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abejunichi様

わざわざ感想を返していただき、ありがとうございました。過分なお言葉、嬉しいと同時に恐縮するばかりです。

>僕のAIサービスレベルで、御作をはかれるかどうかわかりません。
>最新のClaudeでもどうだろう?

AIは誤字脱字チェックがメインですねー。昔の作品を評価させたことがありますが、チャットGTPとは喧嘩になりました(笑)。「ここが読み取れてないよ」と指摘したら「そんなことはない」「読み取れるように書けていない」みたいな反論をされたので、ついついヒートアップしてしまいました。「Gemini」「Google AI studio」はミスはミスでちゃんと認めてくれるので、良かったです。なんか心が狭い人間ですね。

>こういうふうに人間だからできることがあるから、
>未来は切り開かれると思った次第です。

そう言っていただけると嬉しいです。いつかはあの日のチャットGTPをギャフンと言わせる作品を書いてみたいですね。また、第三回円城塔賞があるなら、それもリベンジしたいです。この度はありがとうございました!

パイングミ
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えんがわ様

お読みいただきありがとうございました。自分でもあまり書いたことがない作品だったので、好きと言っていただけて嬉しいです。日常と非日常がシームレスな作品が多い川上弘美さんが好きで、そこを少し目指しました。

>個々のファンタジーを一つの舞台にまとめきれていないで、ちょっと断片集みたいな雰囲気があります。

そうなんですよね。ここはだいぶ苦心した部分で、作品にも透けてますよね。一応「欠損と補填(それに伴う人間のたくましさ)」的なことを全体のテーマにはしていますが、そこが見え過ぎても良くないですし…。なかなか難しい感じです。

>いっそ、短編集にしてもいいかもね。

エピソードはいくらでも追加できる体裁の作品なので、色々と工夫してみたいと思います。一応、スマホにネタを残しているのですが、「アリサが卵焼きに包まる話」という謎のメモがありました。どんな話にしようとしたのか、ぜんぜん記憶にありません。

ちなみに、シマウマの白黒で渦が発生すること、ワンと鳴くことは実話みたいです(調べてびっくりしました)。蛇足的な締めになってしまいましたが、感想ありがとうございました!

飼い猫ちゃりりん
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パイングミ様。ウィンナーフィンガーを読みました。カニバリズムですね。人類のタブー。でも実際には結構あるみたい。マックバーガーに入っているというのは都市伝説?
カニバリズムは性癖みたいなもんで、美味しいウィンナーが転機では説得力が薄い。
ジェフリー・ダーマーやアンドレイ・チカチーロの記録が参考になるかもしれません。首を鍋で煮込んで食べた記録を読んだ覚えがある。ああ、それは別の変態じいちゃんだったかなあ。

パイングミ
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飼い猫ちゃりりん様

一章(ウインナーフィンガー)の感想、ありがとうございました。続きを読ませることができないということは、私の描き方が悪かったのでしょうね。物語の顔つきとなる冒頭に対し、読者を引き込むような工夫が足りなかったのだと痛感しました。

>カニバリズムは性癖みたいなもんで、美味しいウィンナーが転機では説得力が薄い。

特別カニバリズム(タブー)のことを書きたかったわけではないのですが、一章(+タイトル)だけだとそう読めてしまいますよね。拙作は「私たちの世界と似ているけれど、違う世界のお話」であり、その意味で「6月31日」「賞味期限を書き換えたら食べられるようになった」といった設定を出したつもりでした。

そのため、私たちの倫理観は当てはまらず、指を食べることはアリサにとって当たり前となっています(指がまた生えてくるのも別世界のお話であることを示しています)。私たちが朝に食パンを食べると同じことで、葛藤も性癖もそこにはありません。中盤で姉が「指ばかり食べてはだめ」と偏食を注意するぐらいの感覚です。

ただ、それが上手く落とし込めておらず、単に奇をてらったように見えてしまったのかもしれません。読み手の情報・倫理観と作者の描きたい世界観のマッチング不足が原因だった気がします。

わざわざ感想返しをしていただき、ありがとうございました!

塩瀬ヨリ
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パイングミさま

御作、拝読しました。

回転性のめまいにおそわれたように、回っているのは自分、あるいは世界?と錯誤しそうになるほど、衝撃の読後感でした!!
素晴らしい虚構、ひれ伏すナンセンス、何を食べたらこんな文章がかけるのかしら、時空をこえたヨーグルトかやはり・・・とため息が出ます。

平熱の飄々とした一人称を追いかけているうちに、あっという間に異次元へと到達している自分に気づく、兎を追うアリスさながらのギミック。

日常の生活にしまうず理論が埋め込まれるくだりは、所詮、宗教と科学は根源が同じものなのだと思わせられる、錬金術の妖しい魅力に満ち溢れています。
しまうず、ECOでは!?政府は補助金をだすべき!!(ガソリンで手一杯だよ)

また「加工肉と乳製品の脂に塗れた左手の親指は、物足りなさそうに人差し指を愛撫している」という一文。
修辞の露悪と耽美、グロテスクとエロティシズムの煮凝りが、生理的嫌悪と官能を同時に喚起されて情緒が忙しかったです。好き。

好きと愛の駆け落ちも、失踪中の二人(二文字?)が見てみたいですね~。決して交わらない概念のレイヤーが違う二人、悲劇的・・・でもしれっと帰宅してるの、かわいいです!冷やかしたい!!

全編通して、筒井康隆や映画パプリカを鑑賞している心地になりました。
客観と物理と行儀のよいナラティブに塗れた脳。
抒情を排したナンセンスが、それらを三段跳びで置き去りにしていく爽快感。途轍もなく気持ちよかったです。
マジックリアリズムとはこういうものか~と敬服いたしました。
意欲作の執筆、お疲れ様でした!

飼い猫ちゃりりん
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パイングミ様。全部読みました。大変申し上げにくいのですが、全て失敗作かと思います。
その原因は「手抜き」ではないでしょうか。
パチンと比較してみましょう。
パチンはまず世界を描いて、そこに徐々に読者を引きずり込んでいました。弟が小さくなってパチンと消える病気なんて、普通あり得ません。でも、そんな雰囲気を徐々に構築して、いつの間にか読者を引きずりこむ。それが丁寧にされていた印象がある。
でもこちらの作品はどれも、世界を構築する前にいきなり引きずり込もうとする。正直ウィンナーもシマウマも穴も無理があると思います。

パイングミ
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塩瀬ヨリ様

お読みいただきありがとうございました。こんなにも読み込んでいただき、とても嬉しいです!

>平熱の飄々とした一人称を追いかけているうちに、あっという間に異次元へと到達している自分に気づく、兎を追うアリスさながらのギミック。

さすが鋭いですね。主人公の名前「アリサ」は意識してつけています。ハンプティダンプティの相貌失認をヒントにした小説を過去に書くぐらい好きだったので、気づいてもらえて嬉しいです。

>しまうず、ECOでは!?政府は補助金をだすべき!!(ガソリンで手一杯だよ)

これはエアコンの27年問題から着想を得たお話です。イラン情勢で電気代ももの凄くなりそうなので、一家に一シマウマも考える時期に来たのかもしれませんね。

>好きと愛の駆け落ちも、失踪中の二人(二文字?)が見てみたいですね~。

なるほど、これは自分にはない発想でした。たしかに「好き」「愛」側の話も面白そうですね。

>全編通して、筒井康隆や映画パプリカを鑑賞している心地になりました。

パプリカは私も何度か観ました。分からないようで少し分かるけどやっぱり分からないようなそうでもないような、変に中毒性のある映画ですよね。一度、1.5倍速で試しに見てみたら、終盤のパレードあたりで気持ちが悪くなった思い出があります(笑)。

>抒情を排したナンセンスが、それらを三段跳びで置き去りにしていく爽快感。途轍もなく気持ちよかったです。

言語化していただきありがとうございます。私は悪い意味で丁寧に書きすぎる癖があるのですが、今作ではそこを意識した作品作りをしました。不完全な部分も多い作品ですが、チャレンジできてよかったです。ユーモアにあふれた楽しいコメントありがとうございました!

パイングミ
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飼い猫ちゃりりん様

最後までお読みいただきありがとうございました。失敗ということで、まだまだ修行が足りませんでした。決して手抜きではないのですが(むしろ通常の短編より考えることが沢山ある構成でした)、そう見えてしまうということはやはり問題ですね。

>パチンはまず世界を描いて、そこに徐々に読者を引きずり込んでいました。
>でもこちらの作品はどれも、世界を構築する前にいきなり引きずり込もうとする。

先の返信でも少し書きましたが、「作者の世界についてこれる人だけついてきて(レベル的な話ではなく、相性・興味的な意味です)」的な作品で、適切な距離が図れていなかったかもしれません。パチンとは物語のアプローチ法が根本的に違いますが、読み手への意識はちょっと考えてみます。

私の作品は良い時は良い、悪い時は悪い的な感想が多いのですが、これだけはっきり賛否が分かれるのは珍しく、それだけでごはんに投稿した意味がありました。

改めて失敗作に最後まで付き合っていただき、ありがとうございました。公募に戻るので次はいつになるか分かりませんが、また投稿した際はよろしくお願いします!

飼い猫ちゃりりん
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パイングミさん。飼い猫はひな鳥みたいに忖度コメントを求めているわけじゃないので、ストレートに言ってしまいます。ごめんなさい。

>拙作は「私たちの世界と似ているけれど、違う世界のお話」であり、
>その意味で「6月31日」「賞味期限を書き換えたら食べられるようになった」といった設定を出したつもりでした。

おそらく、こういうやり方が、今回のどの作品にも通底している気がします。

飼い猫や、おそらく偏差値さんみたいな読者は、
「いやあ、そうじゃなくて、まずはそういう世界に連れてってよ」
「そんな小手先テクニックを使われてもねえ。はあ……」
となってしまう。

でも読者によっては
「6月31日ってなに……、頭がクラクラする。不思議の国のアリサになった気分! ステキー!!!」
となる。

作者にとって乗りのいい読者はありがたいもんです。
でも、乗りの悪い読者を、無理矢理にでもその世界に引きずり込む。それに挑戦してほしいですね。パイングミさんには、その力があるんだから。

飼い猫ちゃりりん
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ただ、ウィンナー・フィンガーを深読みすると、
体にいいヨーグルトを「コロナワクチン」に置き換える。
「消費期限をマジックで訂正したら、まだ使えます!」
この詐欺商売は日本中で現実に行われたことです。
そのヨーグルトを食べたら、自分の肉体を食べたくなる主人公。
コロナワクチンを打った人たちは、強力な正常化バイアス(もう打ったんだから安全)が働いて、現実が見れなくなる。最終的に自分の肉体を破壊する。いまだにワクチン神話を信じている人は、自分の指を食べる狂人と大差ない。
このような日本社会を風刺した作品かもしれない。

夜の雨
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パイングミさん「ウインナーの美味しい食べ方」読みました。

なんか不思議なお話でというか、大人の童話という感じ。
しかしその不思議感が表面的な描き方になっているような気がします。
ひとつひとつのエピソードを掘り下げて描くとわかり良くなるのではと思いますが。

私もこの手のお話を書くことは好きなので、「文字がワードやら書籍の活字から抜け出して「どうたら」というような作品は書いています。

あと「しまうま」のエアコンとか。
「へその緒」から収穫される人間の指を調理して食べるとか(ちょいと怖い感じがしますが、問題があるというほどでもありませんが)。

実の姉が本人の書いた小説「ウインナーの美味しい食べ方」の中から出てくるとか。
かなり生活がしやすそうですね。

これらのネタ(アイデア)のなかで一つを掘り下げて物語の顛末を描けばいかがでしょうかね。


それでは創作を楽しんでください。

パイングミ
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飼い猫ちゃりりん様

再訪ありがとうございました。小手先のテクニックのご指摘、なるほどと感じました。小手先のテクニックではない解決(描き方)がまだ見えていませんが、もう少し考えてみたいと思います。

>このような日本社会を風刺した作品かもしれない。

ここは読み取っていただきありがとうございます(コロナワクチンとは違いますが)。エアコンの27年問題を始め、「ニーサ貧乏(老後の安心のために、現状が貧窮する)」など、社会的な風刺は各章に入れています。ただ、これを前面に押し出すことはしていませんが。

あと一点、他の方の感想を揶揄するような物言いはできれば避けていただけると嬉しいです。私に対するストレートな指摘は歓迎ですが、他の方への尊重といった最低限のマナーは必要だと思いますので(ぺちん、の時に仲裁してくださった飼い猫さんなら理解しているとは思います)。

改めてためになるご指摘、ありがとうございました。

パイングミ
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夜の雨様

お読みいただきありがとうございました。また、芯を捉えたアドバイスもためになりました。

>「文字がワードやら書籍の活字から抜け出して「どうたら」というような作品は書いています。

物書きとしてはこの設定はロマンですよね。昔なら中島敦先生、現代なら円城塔先生も手を出しているぐらいですからね。紙魚とかも出てくるとさらにワクワクします!


>ひとつひとつのエピソードを掘り下げて描くとわかり良くなるのではと思いますが。
>これらのネタ(アイデア)のなかで一つを掘り下げて物語の顛末を描けばいかがでしょうかね。

そうなんですよね。これが理想だとは思うのですが、今の私の筆力では何ともできなかった、というのが本音でしょうか。

実際に「F1の子」を掘り下げた(少し違う展開の)お話を考えていたのですが、どうしても出産の在り方や産後のキャリア形成、性交の是非…がメインになってしまい、今回描きたかったテーマ(私たちの世界と似ているけれど違う、ちょっと不思議な日常系お話)とずれが生じてしまうんですね。

それはわりと他の話でも同じ感じになったので、苦肉の策でショートショート形式にし、円環構造で各章を繋げるようにしました。主人公を俯瞰して見ながら、異世界の日常をショートムービー的に読んでいく。映画「パプリカ」になぞらえれば、他人の夢をちょっと覗き込む→次の夢 を繰り替えている感覚に近いです。

ただ表層的ということは、印象に残りにくい薄味ということでもあるわけなので。もっと工夫が必要だと思うので、色々と試行錯誤してみます。ありがとうございました!

平山文人
zaq3d2eff12.rev.zaq.ne.jp

パイングミさん、作品を拝読させていただきました。

今回の連作、構造がとても緻密で、章ごとに世界のルールが少しずつ変質していく流れが面白かったです。

一点だけ、読者目線で感じたことを言うと、不条理作品は「読者が世界に留まるための縦軸」が一本あると、
さらに読みやすくなるかもしれません。

たとえば、

・アリサが抱えている小さな課題(資格試験、怪我、仕事など)が少しずつ進む

・姉の新作が完成に近づく

・未来の自分との関係が変化していく

こういう「現実の連続性」が一本あると、読者は不条理の中でも安心して読み進められる気がします。
もちろん、今の構造の美しさはそのままに、ほんの少しだけ「通低音」があると、作品全体がさらに強くなると思いました。

不条理文学で言うなら、例えばカフカの「変身」の場合、ザムザは最後どうなるの、イモムシのままなの、というもの、
安倍公房の「砂の女」なら、主人公たちはこの家から脱出出来るのか、そもそもこの家はなんなのか、というような、
作品を貫くフックがありますよね。なにかしら、連続性という足場があると、不条理文学は読みやすいのでは、と思うのです。

それではこれからもお互いにがんばりましょう。

パイングミ
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平山文人様

わざわざお読みいただきありがとうございました! 面白かったといっていただけて何よりです。

>不条理作品は「読者が世界に留まるための縦軸」が一本あると、さらに読みやすくなるかもしれません。

なるほどですね。この発想はありませんでした。たしかに(読ませる意味での)リーダビリティがあると一本芯が通りますね。今作はわりと気に入っていますし、いくらでも追加のエピソードは書けるスタイルなので、参考にさせていただきます。

ためになる上、分かりやすい例まで示してくださり、ありがとうございます。次作がいつになるかは分かりませんが、またよろしくお願いします!

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