夢に追われて
気づいたら、そこにいた。
小学校の三階。
校門から見て右側の棟の、いちばん奥の教室。
見覚えはあるのに、どうしてここにいるのか分からない。
周りには何人も人がいる。
でも、誰もそのことを気にしていないみたいだった。
先生はいない。
授業も始まらない。
なのに、誰も帰ろうとしない。
まるで――
ここにいるのが当たり前みたいに。
「……ねえ」
誰かが、小さな声で言った。
「ここ、出ない?」
その一言で、空気が少しだけ動いた。
何人かが顔を見合わせる。
そして、誰も反対しない。
理由は分からない。
でも全員、同じことを思っていた。
ここにいたくない。
ドアに近づく。
あと少しで手が届く、そのとき。
「外、見て!」
窓際の子が、急に叫んだ。
びくっとして、みんなそっちを見る。
校庭に、人がいる。
でも、その動きが変だった。
ゆっくりで、ぎこちなくて、
体がうまく動いていないみたいな歩き方。
「……なにあれ」
誰かが笑う。
作り物みたいだ、って。
でもその笑いは、すぐ消えた。
「ねえ……あれ、増えてない?」
一人じゃない。
気づいたときには、何人もいた。
全員、こっちを見ている。
そのとき。
ぐちゃ、と。
すぐ後ろで、嫌な音がした。
振り向く。
クラスの一人が、別の子の腕に噛みついていた。
一瞬、理解できなかった。
血が見える。
噛まれている子が、声にならない声を出している。
「え……?」
噛みついている子が、ゆっくり顔を上げる。
目が合う。
その目はもう、知っている人のものじゃなかった。
「やめて!」「なにしてるの!?」
叫び声が重なる。
次の瞬間、全部が壊れた。
悲鳴。
机が倒れる音。
泣き声。
押し合う体。
「逃げて!」
誰かの声で、体が勝手に動いた。
ドアを開けて、廊下に飛び出す。
後ろは見ない。
見たら終わる気がした。
走る。
足音が響く。
息が苦しい。
右の棟から、左の棟へ。
階段を駆け下りる。
急いでいるのに、やけに遅い。
体が重い。
足が、思うように動かない。
一段飛ばして降りているはずなのに、進まない。
――遅い。
一階に着く。
職員室と保健室の前の廊下。
出口が見える。
あそこまで行けば。
手を伸ばす。
ドアを押す。
外の空気が流れ込んできた。
助かった、と思った。
そのとき。
背中に、何かを感じた。
視線。
振り返る。
そこに、“何か”がいた。
形はよく分からない。
でも、分かる。
あれは――こっちに来る。
目が合った気がした瞬間、体が固まる。
逃げなきゃ。
頭では分かっているのに、足が動かない。
遅れて、やっと走り出す。
でも、うまく走れない。
地面を蹴っているのに、進まない。
足がふわふわしている。
夢の中みたいに。
いや、夢だとしても。
怖い。
すぐ後ろにいる気がする。
距離が、縮まっている。
息が苦しい。
胸が痛い。
それでも走る。
やっとの思いで、家にたどり着く。
玄関を開けて、中に入る。
その瞬間、違和感に気づく。
――違う。
ここ、今の家じゃない。
リフォームする前の家。
昔のままの間取り。
古い匂い。
知っているはずなのに、少しだけ遠い。
自分の部屋に駆け込む。
何を持てばいいのか分からないまま、手当たり次第に荷物を詰める。
心臓の音がうるさい。
「来る」
そう思った瞬間、手が止まる。
振り返りそうになる。
だめだ。
見たら終わる。
バッグを掴んで、家を飛び出す。
近くのコンビニに入る。
食べ物を取る。
水も。
レジのことなんて考えられない。
外に出る。
どこへ行けばいいのか分からない。
でも、足は勝手に動く。
向かっているのは――
学校の方だった。
どうして。
分からない。
でも、戻らなきゃいけない気がする。
あそこに、何かがある。
走る。
また、あの場所へ。
執筆の狙い
最近見た夢を小説にしました。
衝動書きなのでおかしいところたくさんあると思います。