導入だけ
僕が、バスから降りようとするとき、運転手の視線が胸に刺さった。決して、胸が大きいからではない。彼は、五、僕は七。
「まあ、人生いろいろあるからね」
元気出せよという声のトーンが含んだ言い方。その運転手の目を見てみる。淡くもない、濁ってもいない赤い炎がついている。政府が、出生した者の心臓に、光るチップを入れるようになってから、はや百年。この世界は、優しくなったらしい。少なくとも、数字が高い人間には。
僕も中学二年生になってからというもの、父が死に、常に希死念慮度が常に上がった。そのせいか、いろんな人から優しく扱われる。
僕は普段、六から七の希死念慮度を抱えていて、今胸の数字は七と光って表示されている。運転手の五も決して、低い数字ではないが、三から五の見守りましょうと言われる領域よりは、僕の希死念慮度は高い。注視しましょうの領域だ。一般マナーとして、注視しましょうの人には、優しい声掛けをするというマナーがある。でも、僕は思う。マナーなのか、本気で言ってるのか、その言葉の本当を知りたい。運転手の元気出せよという声のトーン。信じよう——今度こそ。
「ありがとう、嬉しいです」
自然と、溌剌とした声が出た。運転手さんのその優しい気遣いのためか、性自認がノンバイナリーから女になった私、運転手さんにとびっきりの笑顔を浮かべた。
「……まだ七のままだな」
その言葉を聞いたとき——俺になった。
「すまない、ただのマナーだ」
ああ、マナーか。
頭が霞む。おっさんの声がそれでも心の芯まで響く。自分の心臓の数字を見ると八になっていた。
俺は、バスのステップを踏んで降りた。
ここから、蘆原高等学校まで、歩いて十五分。俺は、幼馴染が降りてくるのを待つ。熱射病にもおかされそうな陽射しが、空から降っていた。蝉の鳴き声が周りのいっぱいある木々から聞こえてくる。
「おはよう、雪」
俺は雪の目の炎を見る。淡い青色。胸の数字はゼロだ。
「ミドリ、暗い声で、おはよう言わない言わない」
「暗くもなるだろ」
俺は溜息をつきながら、言った。
「と、ミドリの今の性自認って、男?」
「プライベートだぞ」
「ああ、ごめんごめん」
雪とは付き合いが長い。俺の性自認が、男であるとき、たいていは数字が八以上あることを知っている。たいてい。
「ボタンあるでしょう? 使えばいいのに」
雪の目尻が若干上がり、強い視線をくれている。
「ウゼーよ」
俺は息を吐く。
「こっちは真剣に生きようとしているんだ」
雪の言葉で、鞄の中のプラスチックの黒い箱を思い出す。掌に収まる黒い箱。一度も押したことない。でも、押せる。俺は、鞄を開き、箱を取り出し雪に見せた。蓋を指でずらす。ボタンまで見せたのに、雪は驚かない。
「こんなもの俺には必要ないが、捨てられもしない」
俺は、蓋を閉じた。その時、大きな音が蝉の鳴き声と混じり、響いた。
執筆の狙い
導入だけです。
まず、お聞きしたいのは、興味で刺せてるでしょうか?
また、ここから拡げられるアイデアがあれば、お聞きし、参考にしたい。