アトミック・フラワーズ
マーロンは昔から変なやつだった。
どうしてなのかは分からないんだが、他のやつとは何かが違っている。自分では普通にしているつもりでいても、微妙にズレたふるまいが多いっていうか、周りが見えていないっていうか。
それなのに妙に自分に自信を持っていて、一度言い出すと絶対に意見を変えなかったりする。そんなだから、周囲から疎まれているようなところがあった。
普通は仲間内で意見を押し通そうとするやつっていうのは、運動ができるとか喧嘩が強いとか明るい性格で皆から好かれているとか、何らかのリーダーシップを持っているもんだろう。なのに、やつにはそういったところがほとんど無かった。唯一誇れたのは数学の成績が良かったことくらい。だが、他の教科は普通だったから、自慢できるほどのもんでもない。
やたら早口で焦ったようすで喋るのが人を苛立たせたりもしたし、周りの空気を悪くしたと気づいた時に見せる変な誤魔化し笑いも印象のいいもんじゃなかった。ヒヒッていうような感じで頬と口元を引き攣らせるもんだから、人を小馬鹿にしているように見えなくもないんだ。
体も小さくて、クラスで小さい方から三番目くらい。なのに顔だけはでかくて体型がアンバランスだった。先祖は旧地球北欧系なので、もともと肌は白いんだが、中でも顔は不自然なくらいに白くて肌がゴムみたいにのっぺりしていた。顔立ちも何となく造り物っぽかったんで、俺たちは奴に仮面っていう綽名をつけていた。
二重瞼が不自然なくらいクッキリしていたし、口先が尖っていたりするのも何だか微妙で、ちょっと異星人っぽい雰囲気があったりもしたかな。
そんなだから、奴はミドルスクールに上がる頃にはクラスの悪童たちから虐められるようになっていた。とは言っても田舎のことだから、嫌がらせのやり方は原始的なもんだが。
昼飯時にランチボックスを取りあげられて、ラグビーボールに見立ててパス、パス、とかやられるのは奴にはかえってこたえたかもしれないな。
俺が奴と仲良くなったのは、そんな虐め半分の悪ふざけを止めたのがきっかけだったんだ。
いや、別に正義感にかられたわけじゃない。その頃には俺もマーロンをそんなに好きじゃなかったしな。だが俺にも事情があって、相当苛ついていたんだよ。
家では父親が浮気して両親は年中喧嘩ばかり。そのとばっちりが俺にもくるっていう状態だったから、ラグビーごっこをしている奴らが俺にぶつかってきた時には、「学校でもこれかよっ」て思って頭に来た。思わず振り向いて「いい加減にしろよ」と怒鳴りつけちまった。
そうしたら意外にも、悪ふざけをしている連中の動きはピタリと止まった。そして「軽い冗談じゃないか。マジになるなよ」てな感じで、ランチボックスはマーロンに返されたんだ。
自分では意識していなかったが、俺は無口で不愛想な方だったし、空手を習ったりもしていたから怒ると怖かったらしいんだな。
マーロンが妙に俺につき纏うようになったのはそれからだ。
学校内でもそうだし、下校時にはオズオズと「一緒に帰ろうよ」と言ってくる。俺の家とマーロンの家は同じ方向だったんで、何となく帰り道を同行するのが習慣になっちまった。
帰り道、気を許したマーロンはいろんなことを喋っていたな。SFが好きなようで、この宇宙のどこかには人間の他にも知的生物がいるに違いないとか、自分は将来宇宙を探検して宇宙人を見つけたいんだとか。そのために宇宙航行の新技術を自分が開発するんだ、とか。チンケな見た目に似合わない大きな抱負を次々語るんで、俺は何だか可笑しかった。
マーロンよ、その前に明日学校で虐められないようにシャンとしたらどうなんだい。
こいつは身の丈に合わない大きな夢を抱えてよたついているだけで、悪気は全然ないらしい。そう分かると少しづつだが親しみが湧いてきた。
そのうち俺たちはお互いの家にも立ちよるようになった。とは言っても狭くて殺伐としている俺の家に奴を呼ぶことはあんまりなくて、ほとんど奴の家に入りびたりだったが。
マーロンの親は結構金持ちで、奴は大きな部屋を与えられていた。ゲーム機なんかもいいのがあって、適当に遊びながら時を過ごすのには丁度良かったんだ。
時には遊ぶだけじゃなくて、テスト前には勉強を教え合ったりもしたかな。
奴は理数系が得意で文系が苦手。俺は反対に文系が得意で数学がからっきしだったんで、お互い苦手な科目を教え合うことができる……と思ったんだが、その目論見は、あんまり上手くいかなかった。
マーロンの奴に数学のことを聞いても奴は首を傾げるばかりで、どうしてこんな簡単なことが出来ないのか分からない。という顔をするんだな。反対に俺が文系科目を教えてやっても、奴はどこ吹く風で全然集中できないんだ。俺はイラついて「お前なあ」っていう調子になった。
いくら数学が得意だからって「分からないのが理解できない」っていうことはないだろ。お前だって数学のテストでは時々間違えるじゃないか。そう言って奴の知らない問題集から難しめの数学問題を出題してみたんだが、驚いた。どんな問題でもスラスラ解いてしまうんだ。模範解答と照らし合わせても、おかしいところは全く無くて完璧だ。最初は奴は俺の持ってる問題集を知っていて答えを暗記していたんじゃないかと疑ったほどだが、そうじゃなかった。
どの問題集から出題しても結果は同じ。それどころか、兄から借りてきたまだ習っていない上級学年用の問題集を出題した時でさえ、すべて平気な顔で解いてしまうんだ。その後、教育ヴィジョンでやっていた大学レベルの問題を苦も無く解き出した時には、俺はちょっと怖くなってた。
「どういうことなんだ」
俺が途方に暮れていると、奴は俯き、ちょっと恥ずかしそうにはにかみ顔をして、
「全部百点だとクラスで風当たりが強くなってしまうから、学校のテストではわざと間違えて九十点くらいになるようにしているんだよ。僕は数学が好きだからさ、つい先の先まで勉強してしまって」
俺は呆れて口が利けなかった。コイツ天才か? 一見チンケで冴えない奴と見えるのは演技だったのだろうかと、人格そのものを疑いたくなった。しかし、もちろんそんなわけはない。空気を読めないしょうがない奴と見えるのは、それはそれで奴がつきあいを上手くやろうと努力している結果であって、能力が極端に偏っているからそうなっているに過ぎなかった。
それは分かる。しかし、俺は何だか阿保らしくもなった。こいつに文系学科を教えようなんていうのは、とんでもない思い上がりだったんじゃないかと。
これだけの記憶力と理解力があれば、その気になれば文系の丸暗記なんてできるに決まっている。それが出来ていないのは、単にやる気がない。というよりも、興味がないのに違いなかった。そもそもコイツはテストでいい点を取りたいという気持ちがあるのか。そんなことすら疑わしい。理系の点がいい上に文系まで良くなったらクラスメートから睨まれてしまうから、文系は苦手なままでいいと思っているのは見え見えな気がした。
何かとんでもないやつと友達になっちまったな。
そんな思いでいる俺に、奴はとっておきの宝物の品を見せてくれたりもした。押し入れを開けたその奥には中古のマルチディスプレイションがあったんだ。形は古いが性能は高く、「ちゃんと使えるんだぜ」と奴は自慢していた。
子供には決して与えられることのないマシンだから、俺は当然「どうやって手に入れたんだ」と聞いたよ。下手したら軽法律違反で大目玉を食らいかねないからな。
しかし奴は涼しい顔だった。
「精密機器専門のゴミ回収場から拾って来たんだよ。ちょっといじってみたら動いちゃってね」
そんな訳はないだろう。マルチディスプレイションは大人でも使えない人が多いくらい難しいもんだ。きっと使い方を勉強し、裏技を駆使するなどしてロックを解いて環境を整えたのに違いない。
とにかくそのマルチディスプレイションは、マーロンの両親が使っているネットワークにタダ乗りして、さまざまな情報にアクセスできるようになってた。
そう言えば、察しのいい人には想像がつくだろう。マーロンが一番自慢したがっていたのが何なのかを。それは俺にとっても思わず目の色を変えないではいられないものだった。
ああ、奴はポルノ・サークル・サイトへのアクセスを、ちゃっかりやってしまっていたんだ。
しかし俺からすれば、それを見せられるのはいきなり何段階もの枠を飛び越えて異星へ跳んじまったようなものだった。得体のしれないエイリアンの生態を見ているような、気持ち悪さが拭えなかったね。いや、もちろんリアルな立体映像に、目をまん丸に見開いて興奮はしたんだが。
マーロンはニヤついて、そんな俺を優越感漂う眼差しで見ていたもんだ。
一足早くエロ映像に接していたってだけで、自分だって大して変わんねえ癖にな。いや、むしろそういう方面は、俺より奴の方がずっと奥手だったと思える節もある。奴が学校で女生徒と口をきいてるところなんて見たことがないし、妙に異性に幻想を持っているようなところもあったんだ。
俺が当時人気があった女性アイドル歌手の名を挙げて、確か名前はリリアンだったかな。「あの綺麗なリリアンもこんなことをやっているのかな」とか呟いたら、奴は目を剥き口先をペンギンみたいに尖らして「絶対にそんなことはない」って言い張るんだ。マーロンはリリアンの隠れファンだったんだな。
ポルノサイトなんぞをコッソリ覗いてるような奴がどうしてそんな幻想を持てるのか。俺は不思議だったが、奴の言い分はこうだった。
「これは全部AIで合成したもんだよ。だから大げさに誇張されてるんだ。専用ソフトを使えばこういうシーンは合成できるのに、わざわざ自分たちの恥ずかしい姿を撮影して投稿したりするわけないじゃないか」
今思うと正に餓鬼の浅知恵だが、当時は俺も「そんなものなのかな」って思ってた。マーロンが自信満々に言い切るもんだから、言いくるめられてしまったんだな。「大人になったらやるはずの、子供を作るための行為が、こんなグロいものであって欲しくない」という気持ちも、どこか頭の隅にあったのかもしれない。
俺たちは妙に頭の芯が刺激され、それなのに興味ある対象には全然近づけない、お預けを食った犬のように不満な気分を膨らませて行った。
そんなだから、ちょっと目の前にニンジンがぶら下がっていたら、後先考えずに跳びついてしまったりもした。
学校帰り、俺たちは畑やら野ッ原やらが多い地区を歩くんだが、その途中には牧場があった。よくある組織化された大牧場じゃなくて、家族で営むこじんまりした畜産農家。
なので住んでる家も庶民的なもんだった。俺たちの家と大差なかったんで、外から見ても内部の造りは想像がついた。居間がどのあたりかとか、トイレや浴室の窓がどれかくらいは分かったんだ。
ところがある時、その浴室の窓が少し開いていたんだな。そして中から湯気が漏れ、のびやかな歌声が聞こえてくる。鼻歌に毛が生えた程度のものだったけど、俺達にはその声は水夫を誘うローレライのように感じられた。歌われていたのは教会で合唱するような曲だったので、なおさら神秘的な雰囲気があった。
俺たちは顔を見合わせた。何度か会って挨拶したこともある、牧場家族の一人娘のお姉さんの声だと分かったんだ。
彼女は学校帰りの俺たちを見かけると、気さくに声をかけてくれていた。二言、三言言葉を交わし、俺たちが近隣のミドルスクールに通っていると分かると、「あたしもそこの卒業生なのよ。在学中は合唱部でソロパートを歌ってたんだから」などと言って朗らかに笑っていたものだ。今は教会の聖歌サークルに所属しているらしい。
明るくて感じのいい人で、家の仕事を手伝っているせいか肉付きがよく健康的な身体つきをしていた。
そのお姉さんが今は一枚の曇りガラスを隔てた向こうに裸でいる。そう思うと、ちょっと胸がときめくような変な感じがした。
夏の暑い日だった。俺たちは遊びながら寄り道をしてたんで、そこを通った時はちょっと遅い時刻になってた。お姉さんは、田舎だしどうせ通りかかる人もいないだろうと思って油断してたんだろうな。
「この牧場のお姉さんがシャワーを浴びてるのかな」
木柵の向こうの窓を見やって俺が呟いた。
横にいるマーロンはちょっと別のところに注目しているようだった。
「いい声だな。まるで歌手みたいだ」
「そうだね。リリアンと変わらないくらい上手いんじゃないか」
「そこまでじゃないだろうけどさ」マーロンはちょっと鼻白むようにして俺の出過ぎた言葉に釘を刺してから、「窓が開いてるみたいだな」
「ああそうだね。きっと暑いから風通しを良くしたんだろう」
「あのくらい開いてたら、近くへ行ったら中を覗けるんじゃないかな」
「馬鹿なことを……」
俺は一笑に付そうとして、横にいたマーロンの姿が消えてしまっているのにギョッとした。奴は小柄なのを利用して、頑丈な木柵の僅かな壊れ目を通って牧場の敷地の中に入ってしまっていたんだ。
「おい、待てよ」
俺が声をかけてもそんなことはお構いなしに、庭にある木立ちに身を隠すようにして前へ進んでゆく
仕方なく、俺は柵を登り越えて奴の後を追った。
いや、……そんな綺麗ごとを言っても仕方ないかな。正直言うと、俺にもちょっと浴室を覗いてみたい気持ちはあった。牧場のお姉さんは結構なグラマーさだったし、AI合成なんかじゃない、本物の女性の裸を見るっていうのは色気づきかけた阿保餓鬼にとってはかなり魅力的だったんでね。
陽は暮れかけていたし、マーロンはこういうことにかけては人並み外れてすばしっこい。奴について行けば、そういうことをやっても見つからないんじゃないかって、つい思ってしまったんだ。
しかし、悪いことは出来ないもんだ。見事に失敗しちまった。
俺たちが生唾飲み込む思いで窓に近寄ると、中を覗くより先に、絶叫マシンのような悲鳴が響き渡った。
どうして気づかれてしまったんだろうな。
その時は悲鳴を上げたお姉さんよりも、むしろ俺たちの方が肝を潰してしまったんじゃないだろうか。
悲鳴を聞きつけて家の中から父親が出てくる気配がするし。その人は結構な豪傑で、盗賊を撃退したことがあるっていう噂を聞いてた。下手をすれば暴漢と間違われて銃をもち出されかねない。俺たちは膝がガクつく思いで逃げ出したが、悪いことってのは重なるもんで、元来た道には新たな人影が現れていた。
どうやらその人は町内を巡回中の警官だと気づいて、俺たちは慌ててVターンした。逃げられる場所は、もう一つしかなかった。家畜が飼われている柵の中だ。
その牧場では、食肉用のトードーチキンがたくさん飼われていた。DNA操作で鶏の遺伝子の奥に眠った恐竜の要素を呼び覚まし、身体を巨大化させたっていう優れものなんだが、その合理性と引き換えに見た目はかなり厳つかった。いや、ハッキリと「怪物じみていた」と言った方が合っているかな。何しろ図体は象並みで、禿げ散かした羽毛はツンツンしたドドメ色。頭には銃で撃たれて飛び散った血糊のようにでっかい鶏冠がグチャグチャと乗っている。
そんなのが薄闇の中に巨岩のように佇んでいるんだから恐ろしいったらないもんだが、幸いこいつらは巨大過ぎてほとんど動けない。人間に飼われて飛行能力を失った上に、今度は歩行能力も怪しくなってしまったっていう哀れな生き物なんで、度胸さえ決めればコイツらのいる間を突っ切って逃げることは可能だったんだ。
とは言えそんな簡単にことは運ばなかったがな。
俺はビビっているマーロンの腕を強引に引っぱってトード―チキンの群れに突入した。しかしマーロンの奴は巨大な恐竜鶏のちょっとした身じろぎにいちいち反応して「ヒッ」とか悲鳴を上げる。それに刺激されたのか、前方にいる一際大きな雄鶏トード―が喉を震わせて空に向かって、コケィードヴードドヴーッなんぞと雄たけびを上げちまった。
それは正に地鳴りのように腹に響くってやつで、物理的な衝撃でぶん殴るようにして俺たちの肝っ玉を破壊しちまった。
俺は縮みあがって脚を縺れさせ、ベチャリと地面にうつ伏せに倒れた。マーロンは反対に仰向けに倒れていた。マーロンの方が俺より少しはマシだったろう。何故かって言うと、その辺りの地面はトード―チキンの糞が散乱して酷い有様だったからだ。
鳥の糞がどんなものかは知ってるだろう? あの白いベッチャリしたのにブヨついた液が混じったやつさ。それが象の糞よりも大きなサイズであちこちにへばりついてるんだ。俺はその一つに頭から突っ込んじまった。どんな気分か想像できるかい。もちろん汚い。鼻がもぎ取れそうなくらいに臭いんだが、不思議とその瞬間には、そんなに気持ちの悪さは感じなかった。むしろ巨大で柔らかなプティングに顔面をヒンヤリと包み込まれた感じがして、心地よい感触だと言えない事もないくらいだった。
あまりのことに感覚がおかしくなって、その時俺の頭の中には過去の思い出が走馬灯のように流れていたかな。「いったいどこでどう間違えてこんなことになってしまったんだろう」って。
しかしその一瞬後、認知機能が少し戻ると、俺はプティング状の糞から顔を上げて泣きわめいて悲鳴を上げていた。
本来俺は汚いものは苦手な方なんで、それが臨死体験をしそうなくらいのトラウマ体験になっちまった。今でも大きな鳥は苦手なんだ。
それでも何とか、体中を巨大な糞まみれにしながらも俺たちは捕まらずに逃げおおせた。マーロン同様に、俺も悪運は強かったんだろうな。
……って、そんな他人には話せないような経験をしたことで、俺たちの絆は深まったような気がする。
ハイスクールに上がっても、俺たちは地元の同じ学校に通っていた。ミドルスクール時代と同じように二人揃って歩いて帰宅していたんだ。その頃には共に天文部に所属してたんで、帰りの時間は大分遅くなっていたがな。
夜星空を見上げながら俺たちは歩き、宇宙の果てについて語ったもんだ。宇宙探険をして宇宙人を見つけたいっていうマーロンの夢は変わってなくて、俺も感化されて「そうなりゃいいな。宇宙探検して友好的な宇宙人を見つけたら俺にも紹介してくれよ」くらいの相槌は打つようになってた。
人類が宇宙に進出してから三世紀が過ぎ、人類の版図はさまざまな植民星へと広がっていた。しかし、未だに生きた知的生命には遭遇したことがない。
深宇宙で、かつて存在したと思われる知的生命の文明遺跡らしきものが見つかったことはある。だが、それらはいずれも数千万年前から数億年単位の超古代に死に絶えた種族のものばかりだった。
どうやら知的生命というものは、たとえ宇宙規模での繁栄を遂げたとしても、数十万年、数百万年、という単位では生き残って行けないものらしいんだな。
人類も、薄々そのことには気づき始めている。ここ一世紀あまりは進歩が頭打ちになり、資源を取りつくした植民惑星人口は、縮小の道をたどっていたんだから。
きっと行き詰った末にどこかの時点で星間戦争が起こり、自滅する道を辿るんじゃないだろうか。
知性を進化させたりはせず、母星の環境に適応することのみに専心していれば、かつての恐竜のように一億年もの長きにわたって繁栄できたかもしれないのだが。人類はそういう道を選択しなかった。
しかし、「それでいい」とマーロンは言う。
「一つの星の地面にへばりついて生きながらえても仕方ないよ。可能性をどんどん広げて行かなくちゃ。たとえ手の届く範囲の宇宙資源を絞りつくして短期間で滅亡してしまったとしても、大きな未来を探求した結果だったらそれでいいのさ。でも僕は信じている。この宇宙のどこかには、知的生命の限界を破って永遠に繁栄する種族がどこかにいるってね。人類はそうはなれないかもしれないけど、もしそういう種族がいたら神になったも同然だ。本物の神様に、会ってみたいとは思わないかい」
そんな風に熱弁するマーロンの背後、遥か遠くには四千メートル級の山脈があって、ギザギザの山影が星空を影絵のように切り取ってた。
そしてその一際高い頂上部には、神々の口周りを縁取って零れる涎のような、あるいは頭上を飾る王冠のような、輝かしいものが見え隠れしている。
人類がこの星に入植する遥か以前から活動を続け、未だに赤く燃える溶岩を噴き出し続けているオリュポーン山。この惑星でも有数の怒れる大自然の口が大地の底から焼け付く吐瀉物をひときわ荒々しく山肌に流している。
どうも最近は、その量が多くなってきている気がするんだが、大自然の神は胃を悪くしてでもいるのかな。
とは言え、その雄大な姿はマーロンの身分不相応な野望を嗤っているようだった。
執筆の狙い
八千字程度。
五万字のSF小説の導入部です。未来に思いを馳せる少年たちの感覚が書けていたら良いかと思うんですが。どんなものでしょう。