作家でごはん!鍛練場
敗血症

題名「春の救急車祭り(白いお皿or白衣の天使をプレゼント!)

題名「春の救急車祭り(白いお皿or白衣の天使をプレゼント!)」


 これは私自身が体験した出来事です。
 最近、私は敗血症になってしまい、東西に長い廊下のある病院に入院しました。
 あれは何日目の夜だったか──。夜中にカーテンが少しだけ開かれる音がしました。
 きっと看護婦だろう。そう思って見てみると、そいつは真っ黒な姿をしていました。
 逆光だからというわけではなく、そいつ自身が真っ黒だったのです。
 そいつが人間でないことは瞬時に悟ることが出来ました。ですが顔もちゃんとあって、姿かたちも間違いなく人なのです。
 恐怖で体を動かすことが出来ませんでした。
 そんな時間がどのくらい続いたのか。ほんの数秒だったか、それとも、もっと長かったのか……。
 気が付くと、そいつはいなくなっていました。
 ほっとしてカーテンから視線を外して上を向くと、さっきの奴が枕元に立って私の顔を覗き込んでいました。
「ぎゃぁぁあー!」
 私の叫び声を聞いて近くにいた看護婦が駆け付けてくれました。
「どうしました!」
「ま、真っ黒いのが──!」
 不思議なことに、それだけで彼女は理解したみたいです。私はそう感じました。
「とりあえず、今は夜中なので、今夜はもう休んで下さい。明日お話ししますから。大丈夫。もう彼は来ないと思います」

 いつも忙しく働いている彼女の邪魔をしたくはありません。私は彼女の言葉を信じて頷きました。
 翌朝、彼女は約束通り全てを話してくれました。
「彼は一年ほど前、この病院に救急車で運ばれて来た患者で、頭蓋骨に穴を開けての治療は成功したそうです。と言っても、それほど深刻な状態ではなかったそうで、硬膜下血腫という、基本的には予後が良好な疾患でした。
 ──それが手術が終わって入院した数日後、病室がない! 自分の病室がない! と叫んで廊下で倒れて、そのまま亡くなってしまって……。
 きっと病気の影響があったんでしょう……。以後、彼は自分の病室を探して病院中をさ迷っているらしくて、時々、病室に姿を……。趣味で小説を書いていて、常にウエットティッシュを手放さない方でした……」
 気の毒な人だったんだなと私は思いました。
 願わくば彼の魂が安らかにならんことを。

     了


ある病院の──


 その病院の規模は大きくて、廊下も東西に一直線に長く、その長い廊下は入院患者のリハビリにも使われているようです。
 ──今から半年ほど前のこと。その廊下を薄暗くなったころに、まあまあ長い時間、十五分から二十分ほど歩くことを日課にしていた男性の患者さんがいました。
 その患者さんは脳に出血があって救急車で運ばれて来たのですが、そんなに深刻な症状ではなく、一週間ほどで退院出来るだろうという医師の診断でした。ですが少し神経質なところがあって、アルコール成分が含まれたウエットティッシュを常に手放さず、同室の患者さん達とも積極的に交流しようとはしないで、テレビの、めんどくさそうな科学番組やドキュメンタリー番組を見たり、パソコンでガチャガチャとネット検索をしたり、まあ、少し変わった感じのする患者さんでした。
 話を元に戻して、その患者さんが、夕方、いつものように廊下を歩いていたときのこと。廊下の西端まで来たとき、
「うわっ!」
 と大声を上げて、彼はその場に倒れ込んでしまいました。
 近くにいた看護婦が慌てて駆け付けて来て、
「どうしました! 大丈夫ですか!」
 すると彼は、
「驚いた! 窓の外から誰かが見てると思ったら僕だった!」
 恐らく、見たのは窓に映った自分自身……。きっと出血の影響なのでしょう……。
 幸い、その後、彼は順調に回復して退院することが出来ました。
 が、退院した数日後、あるオフィスビルの屋上から飛び降りて……。自殺だったそうです。
 そのビルは病院のすぐ近くだったので、少しの間、看護婦達の噂になりました。

 そんなある日のこと。
 夕方。
 あのときの看護婦が、西端の病室に行こうとしていたとき、おかしなものを目にしました。
 あの窓の外に人が──。それは、あのときの患者。あの自殺した男性でした。
 彼は窓に顔を貼り付けるようにして、つんざくような声で、
「看護婦さん、看護婦さん! やっぱり僕だったでしょ!」

     了

題名「春の救急車祭り(白いお皿or白衣の天使をプレゼント!)

執筆の狙い

作者 敗血症
softbank060116227185.bbtec.net

また救急車で運ばれたよ。今回は敗血症。幸い一週間ちょいで退院出来たよ。ありがとう、お医者さん。ありがとう看護婦さん。ありがとう山田博士! へそビーム!

コメント

偏差値45
KD182249042151.au-net.ne.jp

>夜中にカーテン
窓際にあるカーテン、あるいはベッドを囲っているカーテンなのだろうか。
たぶん、後者かな。4人部屋、6人部屋を想像します。

>恐怖で体を動かすことが出来ませんでした。
実際、そこまではないかな。
驚きはするが、恐怖感はない。
もっとも他に患者さんもいるでしょうからね。
不思議と複数人いると安心ですよね。

>「ぎゃぁぁあー!」
女性の人だろうか。
男性の場合「おおお!」
そんな感じになりますね。

>病室がない! 自分の病室がない! と叫んで廊下で倒れて、そのまま亡くなってしまって……。
この辺は妙にリアルですね。たぶん、頭脳が狂っているんでしょうね。

>趣味で小説を書いていて、常にウエットティッシュを手放さない方でした……
相当、暇だったのですね。ウエットティッシュの意味は分かりませんでした。

次作。

>まあまあ長い時間、十五分から二十分ほど歩くことを日課にしていた男性の患者さんがいました。
具体的な時間を指定しているので、「まあまあ長い時間」はいらない気がする。

>「驚いた! 窓の外から誰かが見てると思ったら僕だった!」
こらは分かりますね。

>あるオフィスビルの屋上から飛び降りて……。自殺だったそうです。
>「看護婦さん、看護婦さん! やっぱり僕だったでしょ!」
自殺をするようなキャラクターではない気がしましたね。

最初は自分自身の反射。次は透明感ある霊体だった。そんな描写でしょうか。
オチとしては成立してますね。

夜の雨
sp160-249-16-169.nnk02.spmode.ne.jp

敗血症さん「春の救急車祭り」読みました。

二作品書かれていて、最初の作品は、作者自身の病であった敗血症と同じ病名で入院中にあった男のお話で、深夜に黒い人物が「私」の病室へ入ってきて、顔を覗き込んだ、という出来事から驚いて大声をあげたところ、看護師がやってきて、朝に説明するというようなお話。
朝になり説明されたお話は、
その黒い人物は入院患者だった人で、すでに亡くなっています。
「硬膜下血腫」で入院して手術した数日後に「自分の病室がない」と病院中を探し回っていた人で。
ということで、それで深夜にその彼が主人公のもとへ、自分の病室を探しにやってきたというお話です。
ということは、主人公を自分ではないかと顔を覗き込んだという事になりますね。

それで顔を覗き込んだところ、自分ではなかったので、去っていった。

御作は怪奇物なので、なにからなにまで書く必要はなく、真相は読み手がこうやって妄想するところに意味があるのかもしれませんね。


このお話は怪奇譚として成立はしていますが、主人公がどういった人物なのかの伏線を設定しておくと、面白いかも。
どういうことかというと、現状の御作は一般的な怪奇譚です。
ここに主人公の背景を伏線として書いておき、亡くなった男の背景もわかるようにしておくと、直接的な関係は二人にはないが、遠いところにある人生の物語としては関係があった、というつながりになり文学味が出てきます。

家族とか恋人とか友人とかの人間関係を絡ませるとか、主人公たちが持っている夢とか希望とかを頑張っていたとか、挫折していたとかの人生を絡ませておく。
そうすると、深みが出るのではと思いました。

「とか、とか」の連続ですみません(笑)。


>ある病院の──<

こちらの作品はオチがうまかったですね。
そう来たかと、思いニヤリとしました。

>脳に出血があって救急車で運ばれて来たのですが、そんなに深刻な症状ではなく、一週間ほどで退院出来るだろうという医師の診断でした。<
この患者さんがリハビリにも使われている病院の廊下の西端まで来たときに、窓の外に人影が。
驚いて、大声を上げて倒れたので看護師がやってくると窓に人影が見えた。それが自分だった、というお話で。
看護師は彼が脳の手術をしたので幻覚でも見たのだろうと思っていると。
彼が退院したあと、近くのオフィスビルの屋上から飛び降りて亡くなった。

そのあと看護師が患者さんがリハビリにも使われている病院の廊下の西端まで来たときに、窓の外に人影が。
あのときの患者。あの自殺した男性でした。
 彼は窓に顔を貼り付けるようにして、つんざくような声で、
「看護婦さん、看護婦さん! やっぱり僕だったでしょ!」

ということで、これはうまくオチをつけたなぁと感心しました。

看護師などのあいだでその患者が退院したあと、自殺しているので噂になっていたとかも伏線としてありますし。
だいたい患者が窓の外に自分を見ることから伏線になっていますしね。

ちなみに窓の外に人影が見える廊下が「何階にあるのか」は、書いておいたほうがよいですね。一階だと、あまり意味はないので。


二作品とも、怪奇物として味がありました。

敗血症
softbank060116236103.bbtec.net

以下の文章は、ほぼ推敲していません。
一つの試みと言えるのかも。???。
なお、去年、硬膜下血腫になり、今年は敗血症になって、救急車で運ばれたのは事実です。前者のときは100%、後者のときは90%くらい、意識を失っていました。
一週間くらい前に退院しました。薬がよく効いたそうです。
戦いまーす!


偏差値45さん。
読んで下さって有難う。
「ぎゃぁぁあー!」
は、
「うわあぁー!」
に直します。


夜の雨さん。
読んで下さって有難う。

ちなみに窓の外に人影が見える廊下が「何階にあるのか」は、書いておいたほうがよいですね。一階だと、あまり意味はないので。

確かに。


お二人の作品も、読みます読みます。
by坂上二郎。
戦いまーす!

敗血症
softbank060116227073.bbtec.net

お二人のアドバイスで直しました。
★のある部分です。
戦いまーす!


題名「春の救急車祭り(白いお皿or白衣の天使をプレゼント!)」


 これは私自身が体験した出来事です。
 最近、私は敗血症になってしまい、東西に長い廊下のある病院に入院しました。
 あれは何日目の夜だったか──。夜中にカーテンが少しだけ開かれる音がしました。
 きっと看護婦だろう。そう思って見てみると、そいつは真っ黒な姿をしていました。
 逆光だからというわけではなく、そいつ自身が真っ黒だったのです。
 そいつが人間でないことは瞬時に悟ることが出来ました。ですが顔もちゃんとあって、姿かたちも間違いなく人なのです。
 恐怖で体を動かすことが出来ませんでした。
 そんな時間がどのくらい続いたのか。ほんの数秒だったか、それとも、もっと長かったのか……。
 気が付くと、そいつはいなくなっていました。
 ほっとしてカーテンから視線を外して上を向くと、さっきの奴が枕元に立って私の顔を覗き込んでいました。
「うわあぁー!」★
 私の叫び声を聞いて近くにいた看護婦が駆け付けてくれました。
「どうしました!」
「ま、真っ黒いのが──!」
 不思議なことに、それだけで彼女は理解したみたいです。私はそう感じました。
「とりあえず、今は夜中なので、今夜はもう休んで下さい。明日お話ししますから。大丈夫。もう彼は来ないと思います」

 いつも忙しく働いている彼女の邪魔をしたくはありません。私は彼女の言葉を信じて頷きました。
 翌朝、彼女は約束通り全てを話してくれました。
「彼は一年ほど前、この病院に救急車で運ばれて来た患者で、頭蓋骨に穴を開けての治療は成功したそうです。と言っても、それほど深刻な状態ではなかったそうで、硬膜下血腫という、基本的には予後が良好な疾患でした。
 ──それが手術が終わって入院した数日後、病室がない! 自分の病室がない! と叫んで廊下で倒れて、そのまま亡くなってしまって……。
 きっと病気の影響があったんでしょう……。以後、彼は自分の病室を探して病院中をさ迷っているらしくて、時々、病室に姿を……。趣味で小説を書いていて、常にウエットティッシュを手放さない方でした……」
 気の毒な人だったんだなと私は思いました。
 願わくば彼の魂が安らかにならんことを。

     了


ある病院の──


 その病院の規模は大きくて、廊下も東西に一直線に長く、その長い廊下は入院患者のリハビリにも使われているようです。
 ──今から半年ほど前のこと。その廊下を薄暗くなったころに、まあまあ長い時間、十五分から二十分ほど歩くことを日課にしていた男性の患者さんがいました。
 その患者さんは脳に出血があって救急車で運ばれて来たのですが、そんなに深刻な症状ではなく、一週間ほどで退院出来るだろうという医師の診断でした。ですが少し神経質なところがあって、アルコール成分が含まれたウエットティッシュを常に手放さず、同室の患者さん達とも積極的に交流しようとはしないで、テレビの、めんどくさそうな科学番組やドキュメンタリー番組を見たり、パソコンでガチャガチャとネット検索をしたり、まあ、少し変わった感じのする患者さんでした。
 話を元に戻して、その患者さんが、夕方、いつものように廊下を歩いていたときのこと。廊下の西端まで来たとき、
「うわっ!」
 と大声を上げて、彼はその場に倒れ込んでしまいました。
 近くにいた看護婦が慌てて駆け付けて来て、
「どうしました! 大丈夫ですか!」
 すると彼は、
「驚いた! 窓の外から誰かが見てると思ったら僕だった!」
 恐らく、見たのは窓に映った自分自身……。きっと出血の影響なのでしょう……。
 それに、ここは五階。外に人がいるわけがないのです。★
 幸い、その後、彼は順調に回復して退院することが出来ました。
 が、退院した数日後、あるオフィスビルの屋上から飛び降りて……。自殺だったそうです。
 そのビルは病院のすぐ近くだったので、少しの間、看護婦達の噂になりました。

 そんなある日のこと。
 夕方。
 あのときの看護婦が、西端の病室に行こうとしていたとき、おかしなものを目にしました。
 あの窓の外に人が──。それは、あのときの患者。あの自殺した男性でした。
 彼は窓に顔を貼り付けるようにして、つんざくような声で、
「看護婦さん、看護婦さん! やっぱり僕だったでしょ!」

     了

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内