作家でごはん!鍛練場
偏差値45

かえるが買える

かえる神社に参拝した。どこにでもあるような小さな神社。
ご神体は、ただの石ころにしか見えない。
わからない。人間の信仰というものは――。
言うまでもなく、かえるを祀っている。いや、石ころを祀っている。
無事にかえる。生きかえる。縁起がいいらしい。つまりは語呂合わせ。

もっとわからないのは、彼女の行動だった。
「かえるが買える」などとダジャレを言っている。ひとりではしゃいでいる。
実際、彼女はかえるのお守りを買っていた。ガチャガチャほどの小さなかえる。
しかも二千円もする。わからない。

それだけなら、まだよかった。
「あげる」と彼女は笑顔で言ってきた。
リアクションに困るよ。これは――。
「いらない」と僕は冷ややかに答えた。
人間、正直であるべき。

それでも彼女は「いいから、いいから」と繰り返す。
そして無理やり、かえるのお守りを僕の体に押し付けてきた。
強引で、わがまま。
嫌々ながらも、うっかり僕は彼女の笑顔に負けて受け取った。
しかも条件反射のように「ありがとう」と言ってしまうのだから情けない。

その帰り道。光と影が交錯する夕暮れの街並み。
僕の軽自動車で砂山橋の交差点に差しかかったときだった。
信号は赤で、停止線の手前で車を止めた。
ふと視界に不可解なものが入り込んだ。

「いったい、あれは何をしているんだろうね」
僕は何気なく口にした。
「え、どこどこ?」
「そこだよ。そこにいるだろう。『事故多発注意』の看板の隣だよ」
僕は人差し指で、その方向を示す。
「わかんないよ」

どうやら彼女には見えないらしい。
僕は、なにか不気味なものを見てしまった気がした。

数週間後。
深夜、配送の仕事でトラックを運転していた。
前方には、暴走族らしいバイクが一台、走っている。
パラリラパラリラとラッパを鳴らし、エンジンを唸らせていた。
僕は十分な車間距離を空ける。
砂山橋の交差点の信号は赤だった。
なぜか僕は口の中に血の味が広がるのを感じた。

次の瞬間。
鉄と鉄が激突する衝撃音が、夜の静けさを引き裂いた。
信号を無視したバイクが、横倒しになっている。
幸い、他にほとんど自動車が走っていなかった。
僕は事故現場を避けるように、慎重にハンドルを切る。
接触したもう一方の自動車の運転手は中年の女性で、
ひどく動揺しているようだ。

砂山橋の交差点は見晴らしがいい。
運が悪いのか、頭が悪いのか――僕は一瞬そう思った。
だが、どちらでもなかった。
そこに、あの不可解なものが佇んでいたからだ。
しっかり見ようとしても歪みが生じる。人の形をした黒っぽい存在。

そんな出来事も忘れかけていたころ。
空は快晴で、風が心地よかった。
カーオーディオからは陽気な音楽が流れている。
僕は軽自動車のドアに右肘を預け、片手でハンドルを握っていた。
砂山橋の交差点の信号は青。
何も問題はない――はずだった。

なのに突然ブレーキを強く踏み込んだ。
僕の意思ではなかった。
それと同時に新鮮で澄んだ空気を吸い込んだ気がした。
あらためて信号機を見上げる。やはり青だ。
どうしてだろう? と思った瞬間――。

来た。

砂山橋の交差点を、大きな車両が横切った。土砂を積んだダンプカー。
道路が揺らいでいるように感じた。
僕は衝突するはずの交差点を見つめた。
もしブレーキを踏んでいなければ、大変なことになっていたに違いない。

車内に置いてあった、かえるのお守りが二つに割れた。
僕の身代わりに? まさか、そんなことが――

背筋が寒くなった。僕は思わず後部座席を振り返る。
そこに、あれの姿はない。
交差点の周囲を見渡す。やはり、いない。
ひと安心して、もう一度信号機を見上げたとき――。
それは、その上からこちらを覗いていた。

後方でクラクションが鳴り響く。
早く進め、という催促だろう。
僕は車を前に出した。
一瞬のまばたきで、あれの姿は消えていた。
何はともあれ、無事にかえることができた。

そんな怪異があっても、彼女とのデートは楽しい。
太陽がまぶしかった。雨上がりのあとでアスファルトも光っていた。
公園の駐車場では少年がスケートボードでわざの練習をしている。

これから二人で映画を観に行く予定だ。
黄色い衣服を身に着けた彼女は、まるでひまわりのように輝いていた。
彼女が僕の軽自動車に乗り込むなり、黄色い声を上げた。
「あら! かわいいぃ」

僕が買ったかえるのお守りを彼女はとても気に入ったらしい。
「いくらしたの? そのかえるちゃん」
野球ボールくらいのかえるのお守り。
「三万円」
「すごーい。これ、わたしにプレゼントするんでしょう?」
そんなこと、僕は一言も言っていないのだが――。
なぜか彼女は興奮気味だ。両目が輝いている。
「うん」
僕は一瞬ためらい、小さくうなずいた。

「わたしね、かえるグッズのコレクターなのよ」
どうやら彼女に信仰心はないらしい。
ふたたび僕はかえる神社に参拝してお守りを買わなければならない。
――かえるが買える――。 
僕は不意に笑った。

かえるが買える

執筆の狙い

作者 偏差値45
KD027093034250.au-net.ne.jp

突然の事故は起こりうることで
どんなに注意をしても防ぎようがないこともありますね。
そんな時は神に祈るしかないかもしれない。

忌憚のない意見をお待ちしおります。

*段落の最初の一マス下げは、わけあって故意にしてい。

コメント

夜の雨
sp160-249-33-147.nnk02.spmode.ne.jp

偏差値45さん「かえるが買える」読みました。

なにやら怪しさが御作には漂っていますが、それ以上に「かえる」の御利益が「あるだろうなぁ」と、思っていると、その通りでした。


かえる神社の参拝。
どこにでもあるような小さな神社で、ご神体は石ころにしか見えないが。信じるものは救われる、というやつで。
主人公は信じていなかったが、彼女の手前「ありがとう」と言ってしまう、お人よし。
ちなみに私も、つい、「ありがとう」とか、言っていますね。
業務スーパーで寿司を買った時にレジで割りばしをくれたときなど。
黙っていると、くれないときの方が多いので、つい、ありがとうと、言ってしまう。

>ご神体は、ただの石ころにしか見えない。
>わからない。人間の信仰というものは――。

>言うまでもなく、かえるを祀っている。いや、石ころを祀っている。
>無事にかえる。生きかえる。縁起がいいらしい。つまりは語呂合わせ。
ははは、語呂合わせね、なるほど。要するに、気持ちのもん、といったところ。


>その帰り道。光と影が交錯する夕暮れの街並み。
>僕の軽自動車で砂山橋の交差点に差しかかったときだった。
この場面は、結構絵になりますね。
「光と影が交錯する夕暮れの街並み」という情景が。

>信号は赤で、停止線の手前で車を止めた。<
主人公の几帳面さが現われています。

>ふと視界に不可解なものが入り込んだ。<

具体的なモノを言わないで、「不可解なもの」というところが、読み手の想像を刺激しますね。

>「いったい、あれは何をしているんだろうね」<
具体的なことを主人公は彼女に言わない。裏を返せば読み手にも「あれはなにか」を伝えていない。

>僕は何気なく口にした。
>「え、どこどこ?」
>「そこだよ。そこにいるだろう。『事故多発注意』の看板の隣だよ」
>僕は人差し指で、その方向を示す。
>「わかんないよ」
なにひとつ。具体的なことを言わないで、話を引っ張るのが構成的には、いい感じですね。

>どうやら彼女には見えないらしい。
>僕は、なにか不気味なものを見てしまった気がした。
結局、なんだったのか?
不気味なモノとは、いうが、具体的なモノを言わない主人公で、その主人公も怪しい。

数週間後に主人公が配送の仕事で深夜に車を運転していたら、交差点で暴走族の片割れがいきがってクラクションを鳴らしていたが、交通事故に遭う。相手はおばちゃんの車で、彼女は動揺していた、とか。

まあ、相手がだれであれ、「おつかれ」いや、「えらい災難で」と言ったところ。

主人公の前に暴走族のバイクが停まっていたので、やはり「かえるの御利益」では。


長くなりますので、後半はまとめますが。

この交差点では主人公が事故を起こす可能性があったところをおばちゃんの車が暴走族のあんちゃんのバイクと、という事になり。

かえるのお守りの御利益がありました。

そしてほかの交差点で、今度はダンプと接触事故になるところも助かった。
ほかの方が、事故ったというところですが。

という事で、ご利益が「かえる」のお守りであったという事なのか、というところかも。

>車内に置いてあった、かえるのお守りが二つに割れた。
>僕の身代わりに? まさか、そんなことが――
このあたりが、小説やら映画などだったら、「やっぱり……と」話が膨らむところですね。
「お守りが二つに割れた」もっと、具体的に描いたほうがよいかも。瀬戸物ではないので。

>背筋が寒くなった。僕は思わず後部座席を振り返る。
>そこに、あれの姿はない。
>交差点の周囲を見渡す。やはり、いない。
>ひと安心して、もう一度信号機を見上げたとき――。
>それは、その上からこちらを覗いていた。
何なのでしょうね?
ここでも、具体的には描かない。

背後のクラクションでたぶん、我に返ったのだろうと思いますが、現実の世界に戻ったのでは。

それで次は、それでも彼女とのデートは楽しいとか、のたまっているが。

>太陽がまぶしかった。雨上がりのあとでアスファルトも光っていた。
>公園の駐車場では少年がスケートボードでわざの練習をしている。
こういった描写を挿入していると、イメージが浮かぶのでいいですね。

彼女とのデートで、
>黄色い衣服を身に着けた彼女は、まるでひまわりのように輝いていた。<
なかなか絵柄的に盛り上げますね。

>彼女が僕の軽自動車に乗り込むなり、黄色い声を上げた。
>「あら! かわいいぃ」

>僕が買ったかえるのお守りを彼女はとても気に入ったらしい。
>>「いくらしたの? そのかえるちゃん」
野球ボールくらいのかえるのお守り。
>>「三万円」
>「すごーい。これ、わたしにプレゼントするんでしょう?」<

ははは、これで彼女には、災いは来なくなりますね。
何しろ安価な「かえる」のお守りで、あのご利益ですから。

オチは、それなりに、というところですかね。
彼女はご利益よりもコレクターの顔が前に出ていますし、「かえる」のコレクター。

>ふたたび僕はかえる神社に参拝してお守りを買わなければならない。
>――かえるが買える――。 
>僕は不意に笑った。
主人公には三万円の「かえる」は、必要ないのでは。
彼女にもらった「お守り」で、あのご利益なので。
高価なモノは、必要ないのかも。まあ、コレクターは高価な品物ほど喜ぶかも。

ということで、お守りにからんだご利益が具体的に描かれていましたが、主人公が、怪し気なモノを見ますが、その正体というか具体的な説明はラストまでなかったですね。
そのあたりは、狙って書いているのですか?
ラストには、怪し気な奴の正体は描かないと。

ということで、お疲れさまでした。

全体では、お話を引っ張るのがうまいですね。
構成がうまかった。
それと情景がうまく作品の世界を描いていました。


それでは創作と感想を書くことを楽しんでください。

偏差値45
KD027093034250.au-net.ne.jp

>なにやら怪しさが御作には漂っていますが、
それ以上に「かえる」の御利益が「あるだろうなぁ」と、思っていると、その通りでした。

鋭いですね。僕は鈍感なので気が付かない自信がありますね。
やはり多読でいろいろ小説を読んでいると、勘みたいなものが働くのかもしれないですね。


>業務スーパーで寿司を買った時にレジで割りばしをくれたときなど。
黙っていると、くれないときの方が多いので、つい、ありがとうと、言ってしまう。

割りばし……。
コンビニでは100%付けてくれますが、スーパーではそれぞれ違いますね。
お好きなだけ持って行っていいですよ。とフリーの状態の店舗があります。
「割りばし、お付けしますか」質問して来るパターがあります。
お客が要求しないと、渡してくれない店舗もありますね。

>なにひとつ。具体的なことを言わないで、話を引っ張るのが構成的には、いい感じですね。
>何なのでしょうね?
ここでも、具体的には描かない。
>ということで、お守りにからんだご利益が具体的に描かれていましたが、主人公が、怪し気なモノを見ますが、その正体というか具体的な説明はラストまでなかったですね。
そのあたりは、狙って書いているのですか?
ラストには、怪し気な奴の正体は描かないと。

そこはうっかりしていました。
実際、僕が見た者はフード付きの衣服を着た人間のようなものですが、光の影で顔は見ることが出来ない。
それは交差点の一点をただ見つめているだけでした。動きもせず、何かをする意志も無そうでした。
そこで「なにをしていると思う?」という問いになるのです。
やはり、最後では具体的に書いた方が良かったですね。

>全体では、お話を引っ張るのがうまいですね。
>構成がうまかった。
>それと情景がうまく作品の世界を描いていました。

ありがとうございます。励みします。

総じて、より具体的な描写を加えた方が良かったようですね。
今後の作品に活かしていきたいです。たいへん勉強になりました。

偏差値45
KD027093034250.au-net.ne.jp

夜の雨さん、コメントありがとうございました。
書き忘れていまいた。

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