アイドルを殺せ! 〜 反撃の終末アイドル 〜
1
真田村《さなだむら》ユキはアイドルである。人間ではない。
現在、そのことを知る者は父親だけであった。
ユキの通う私立高校でも、彼女は地味で目立たない女子生徒に過ぎない。おさげ髪を三つ編みにし、流行りのキャラクターのマスコットをバッグにつけて、ふつうの人間のふりをしている。セーラー服もみんなとおんなじだ。
誰がどう見てもモブにしか見えないことであろう。
しかし彼女はアイドルなのである。
朝、校門を潜る時、大抵の生徒たちは彼女なんかには気がついていないように、友達と楽しそうにその横を通り過ぎていく。
たまにチラホラと、彼女に声をかけるクラスメートらしき女子生徒がいた。
「おはよー、ユキ」
「おはよう、真田村さん」
声をかけられ、ユキは、にっこりと愛嬌をその地味顔に表し、かわいく手を振った。
「おはよう〜(^o^)ノ゛」
ユキが教室に入ると、黒いおかっぱ頭の地味メガネっ娘が、慌てたようにユキの席にやってきた。
「ねぇ、ユキちゃん。今朝のニュース、見た?(||゜Д゜)」
「どうしたの、ハナちゃん。なんか顔面蒼白な顔文字、語尾につけちゃって……(^.^;」
ハナが自分のスマートフォンを取り出し、ユキに見せる。
ネットニュースの画面だった。
それを読みながら、ユキの顔文字がだんだんハナと同じく顔面蒼白になっていく。
『【アイドル粛清法案可決】
神田《かんだ》政子《まさこ》首相は◯◯日、国会にてアイドル粛清法案を可決させた。同法により以後アイドルは人間と見なされず、抹殺されるべきものとされ、アイドルを通報した一般人にはそのアイドルの格に応じて30万円から2億円の褒賞金が支払われることになる。また、アイドルを匿った者には重罪が課せられることとなった』
「なに……これ……(・。・;」
ユキがつい、口から漏らした。
「あたしたちが何をしたっていうの……? あたし……ずっと楽しみにしてるんだよ? 今はまだたまごだけど、立派なアイドルとして羽ばたく日を……( ; _ ; )」
「声がでかいっ! ユキちゃん!ヾ(・ω・`;)」
ハナが声を潜めてツッコむ。
「あたしたちがアイドルのたまごだなんて知られたら……(>_<。)」
「その話、ほんとう?」
横からいきなり話しかけられ、二人は凍りつくほどに驚き、声の主を見上げた。
スラリとした長身の、背中までの美しい黒髪を垂らした、目付きの鋭い女子がいつの間にかそこに立っていた。ユキが彼女の名前を呼んだ。
「あ……、有栖川さん……(^.^;」
ハナが全力で誤魔化そうと企てながら、一応聞いてみる。
「その話って……? ど、どの話を聞いたのかな?(^o^;」
すると有栖川はやたらと冷たい目をして、答えた。
「アイドル粛清法案とやらが国会で可決されたって話」
「「ああ……、うんうんうんうん!(*゜∀゜)*。_。)」」
二人はうなずき、声を揃えた。
「「なんかねー、アイドルのひと、大変だなーって、思っちゃってさー、二人で話してたのー(*゜∀゜)*。_。)」」
「ふーん……。わかったわ。ありがとう」
それだけ言うと、有栖川は背を向け、自分の席に帰っていった。
「び……、びっくりしたぁ(・。・;」
「焦ったね……(´ㅂ`;)」
「有栖川さんって、何考えてるかわかんないひとだよね(^.^;」
「あのひとが誰かと喋ってるの、見たことないもんね(;ᵕᴗᵕ•)⁾⁾」
「……とっ、とりあえず! あたしたちがアイドルのたまごだってこと、バレないようにしなきゃ!(;T∀T)و✧」
「大丈夫だよ、ふつうにしてれば。見た目は人間と変わんないんだし。何よりあたしたち、羽化するまではかえって地味で目立たないし……(^_^;)」
「でも……アイドルって、喋ると語尾に顔文字ついちゃうじゃん? これでバレちゃわないかな……( ¯−¯٥)」
「大丈夫。人間にはこれ、見えてないから(๑•̀ㅂ•́)و✧」
「見えてるのあたしたちだけなの? 知らなかったΣ(*゜ロ゜*)」
「うん……。とりあえず……( ˙-˙ )」
ハナが教室中を見渡した。
「このクラス……。アイドル6人もいるんだよね……(´・ω・`)みんな、大丈夫かな……」
♡ ♡ ♡ ♡
その日の学校では何もなかった。ユキはハナと手を振り合い、別れると、自分の家へ帰った。少し不安な思いを胸に抱きながら──
「た……、ただいま…… |ω・`)」
ドキドキしながら玄関のドアを開けると、奥から慌ただしい足音を立てながら、白黒ひげの男が顔を現した。
「ユキ! ニュース見たぞ! 何ともなかったか!?」
「ウン……(ᐡ´• ·̫•))」
男はユキのすぐ前まで近づくと、優しくその肩を抱き、胸に抱きしめ、髪を撫でながら安堵の声を漏らした。
「よかった……。おまえにスマホを持たせていないから、帰るまで心配で仕方がなかったんだよ。今からスマホを買いに行こう。持たせてなきゃだめだった」
「パパ……( ºωº )」
ユキがおそるおそる、聞く。
「あたしを突き出さないの?( ºoº ;)」
「何を言うんだ」
「だって……。たまごでもアイドルを突き出せば、褒賞金が……( ToT ;)」
「ユキ!」
男は叱る口調で、掴んだ肩に力を込めた。
「おまえは私のかわいい娘だ! 何としても守る! 馬鹿な疑いをもつんじゃない!」
「パパ……。だって……(¯―¯٥)」
ユキの唇が震えはじめ、声に涙が混じりはじめる。
「あたしを匿ってたら……パパも重罪になっちゃうんだよ?。゜(゜´Д`゜)゜。」
嗚咽を漏らしはじめたユキを、男は再び胸に抱きしめた。ひとしきり泣かせると、顔を上げさせ、優しく微笑む。
「おまえは確かにアイドルだ。人間じゃない。17年前、私は橋の下で偶然おまえをたまごで拾って、今まで育ててきた。……だが、おまえのことはほんとうの娘だと思っているんだよ」
「パパ……(´っд・。)」
「それに……いつかおまえが羽化して、素敵なアイドルになって、私だけでなく世界中のみんなを笑顔にしてくれる日を心待ちにしてたんだ。アイドルはみんなに夢と希望を与えてくれる存在なんだ。自信をもちなさい」
「でも……あたし……もう……羽化できない! 羽化しちゃったらアイドルだって即バレして殺されちゃう!。゜゜(*´□`*。)°゜。」
「ふつうの女の子として生きるしかないさ……」
男はユキの背中を優しく叩いてなだめる。
「アイドルとしておまえが羽ばたく日を見られないのは残念だが……おまえも無念だろうが、こうなったら仕方がない。ふつうに人間のように生きて、恋をして、幸せになりなさい」
「……そうか(*゜ロ゜*)」
ユキが泣いていた顔を上げた。
「あたし……アイドルにならなかったら、恋をしてもいいんだ!٩( >ω< )و」
「ふふ……。元気が出たな。お父さんとしては寂しいが、おまえに好きな男ができて嫁に行き、幸せになってくれるのは望ましいことだよ」
「うん! あたし、ふつうに人間として生きる!٩(ˊᗜˋ*)و」
「そうさ。バレなきゃ大丈夫だ。羽化しても羽根を隠していれさえすれば、『ユキちゃん急に美人になったね』って言われるぐらいで済むさ」
「ありがとう……、パパ……( *˘ᴗ˘* )」
「さ、お茶でも飲もう。おまえの好きなホワイトチョコケーキを買ってきてあるんだ。紅茶を淹れてくれ」
「わあっ! ホワイトチョコケーキ? ٩(๑>∀<๑)۶すっごく嬉し……」
飛び上がるようにバンザイをしたユキの頭部が、窓の割れる音とともにザクロのように砕けた。
窓を突き破り、武装した人間が三人、家の中に踏み込んで来た。真っ黒なアーマースーツに黒いヘルメットを被り、重厚なブーツを履いたまま、カーペットの上を歩いて来る。
頭部を吹き飛ばされてその場に倒れ、みるみるカーペットの上に赤い血の海を作るセーラー服姿の娘を見ながら父は、しばらく目をおおきく開いたまま固まっていた。
「真田村《さなだむら》幸彦《ゆきひこ》だな?」
黒いアーマースーツの先頭に立つリーダーらしき者が言った。女の声だった。
「証拠はあがっている。……というよりおまえ、ばら撒きすぎだ。そのアイドルが幼女の頃、動画サイトなどでさんざん自慢していたな、『アイドルを拾って育てている』と」
真田村幸彦は血の海と化したカーペットに膝をつくと、さっきまで笑っていた娘の背中に手を触れた。わなわなと震え出すと、黒いスーツの女を振り返り、みるみると怒りの形相を表したその頭部が銃弾一発で砕け散った。
「ふー……。凄い威力だ」
黒いスーツの女は冷静な口調でそう言うと、手にしていた大口径のライフル銃を背中にしまった。
そして仲良く頭部を失い、重なり合って倒れている父娘に向かい、唾を吐くように、言った。
「アイドルを匿った者も同罪だ。──ってか、おまえら愛し合いすぎ! 違う種族の生き物のくせによ。気持ち悪りーんだよ、バーカ」
2
朝、登校してみると、ユキの姿がない。
針宮《はりみや》ハナは、地味な黒ぶちメガネの奥で、エメラルドのような瞳をうるうると、不安げに動かし、思った。
『ユキちゃん……、何かあったのかな……。あの優しそうなお父さんが何かするとは思えないし……』
教室を見渡すと、他の四人のアイドルのたまごたちは登校して来ている。ユキの姿だけが、ない。
不安をどうすることもできず、そのうちの一人に話しかけてみることにした。
「白峰《しろみね》さん……( •́ㅿ•̀ )」
ハナに話しかけられた白峰という名の女子生徒がうろたえた声を出す。
「はっ……、話しかけないでよ! あたしたちバラバラにクラスに紛れてるべきよ!(۳˚Д˚)۳」
「ユキちゃんが登校してないんだけど……何か知らない?( ´•д•` )」
「しっ……、知らないわよ真田村《さなだむら》さんのことなんか! あたし関係ないんだから! 大人しくしてなさいよ!(۳˚Д˚)۳」
「白峰さんのとこは……なんにもなかった?( •́ㅿ•̀ )」
「あるわけないでしょ! うちのお母さん、あたしのこと大切に思ってくれてるんだから! ほっといて!(۳˚Д˚)۳」
「そっか……。ごめんね( ´•ω•` )」
「いいから! あっち行って! アイドル同士仲良ししてるなんて……あんたたち信じらんない!(۳˚Д˚)۳」
『そっか……。白峰さんのお母さんも、優しいのか』
自分の席に戻りながらハナは思った。
『いいな……。孤児院育ちのあたしにはそんなひといない……』
教室の扉が開いた。
担任の女教師が入って来てHRが始まるのかと思ったら、入って来たのは三人の武装した、黒いスーツのひとたちだった。
生徒たちが一瞬沈黙し、ざわめきだす。
「誰?」
「武器持ってるよ……?」
「こ……、怖……」
「みなさん、静粛に」
リーダーらしき黒スーツが、女性の声で言った。
「えー……。白峰キナさんというのはどの生徒ですか?」
「えっ!?( ゜Д゜;)」
驚いて声をあげた白峰キナを、周囲の生徒たちが平和な顔で指さす。
黒スーツの女は既に背中から取り外していた大口径のライフル銃を白峰キナに向けると、銃爪を引いた。
白峰キナの頭部が砕け散り、脳漿が周囲に飛び散る。
椅子に座ったままの格好で、彼女の胴体が後ろへ勢いよく傾き、そのまま床に斃れた。
みるみるうちに広がる血の海を避け、彼女を指さした生徒たちがのけぞり、悲鳴をあげる。
「静粛に! アイドルです!」
黒スーツの女がライフル銃を手にしたまま、言い渡す。
「彼女を育てていたいわゆる『お母さん』から通報を受けました。家の中を汚したくないので、外で始末するよう依頼されておりましたので、そうしたまでのことです」
遅れて入って来た担任の女教師が、教室の真ん中で頭部を失って斃れている白峰キナを見て、一瞬悲鳴をあげかけ、黒スーツの女に声をかける。
「あの……。これはちょっと……。生徒たちの情操教育に悪影響が……」
「非常事態なのです」
黒スーツの女は冷静に答えた。
「戒厳令が敷かれました。また、アイドルは人間ではないという事実を生徒さんたちにもわからせるために、これは教育として必要なことなのです」
「でも……」
担任の女教師は白峰キナの死体を眺め、言いかけたことを口ごもる。白峰キナの死体は人間のそれと何も変わりがなかった。
「申し遅れましたが、私どもはこのたび設立されました『アイドル粛清部隊』の者です。私は部隊長を任されております黒田《くろだ》令子《れいこ》と申します」
黒いヘルメットを取ると、黒田令子の顔があらわになった。二十歳代後半ぐらいの、短く髪を刈り揃えた、吹出物だらけの浅黒い肌の女だ。
素顔をあらわにすると、すぐに黒田令子はスコープを自分の目に装着した。そして、生徒たちに言う。
「アイドルは喋ると語尾に顔文字がつくということが判明しております。ただ、ふつうの人間にそれは見えません。ですが、このスコープを通して見ると一目瞭然となります」
男性の黒スーツ二人が出口を固めるのを確かめると、黒田令子は話を継いだ。
「まだこのクラスの中にアイドルが隠れているかもしれません。一人ずつ、私と会話をしてもらいます。出席番号順に前へ出てください」
出席番号1番の女子生徒が前へ出た。取り乱し、泣きじゃくりながら、ガクガクと震える膝を押さえながら。
黒田令子が聞く。
「お名前は?」
女子生徒は恐怖で張り裂けそうな声で、答えた。
「愛本裕子《あいもとゆうこ》で……すっ!」
「よし、次」
男子も泣いていた。次に前へ出た男子生徒が、顔を涙でぐしょぐしょにしながら、名前を口にした。
「青木《あおき》健太《けんた》です」
「よし、次!」
一人ずつ前へ出て名乗るのを見守りながら、針宮ハナはただオロオロするしかできずにいた。
自分の出席番号は後のほうだ。しかし必ずその時はやって来る。
逃げようにも出口は二人の武装した黒スーツに固められ、教室は監禁状態だ。
ツ……と、落ち着いた足取りで、長い黒髪の長身女子が前に出ると、黒田令子に向かって名乗った。
「有栖川《ありすがわ》アリスです」
「え?」
黒田令子は何かが引っかかったように、有栖川に聞いた。
「どっかで聞いた名前だな」
「同じ名前の小説家さんがいます」
有栖川はクールに答えた。
「もっともそのひとはおじさんですので、私のほうが絶対にかわいいですけど」
にっこり笑った。
黒田令子は有栖川アリスをまじまじと見つめた。
なぜ、この女子生徒は、こんな時に笑えるのだろうと訝しんだ。この状況で少しも動揺していない。あまりにも肝が据わりすぎている。
しかし語尾に顔文字は見えない。おかしなやつだとは思ったが、こう言うしかなかった。
「よし、次!」
針宮ハナは窓を見ていた。
あそこを開けて、飛び降りようか? ここは二階だからなんとかなるかも……。
ここにいたら絶対に、確実に殺される。っていうか──ユキちゃんはどうなったの? もしかして、あのひとたちに、もう、殺されちゃったの?
確かめなきゃ! ユキちゃんが無事なのか、知りたい! そう思いながら、足を動かそうとしながら、でもその足がどうしても動かなかった。
前へ出た男子生徒が名乗った。
「た……、玉国《たまくに》ヒカル……です( ¯−¯٥)」
大口径のライフル銃が火を噴き、玉国《たまくに》くんの頭部が吹っ飛んだ。
その音とみんなの悲鳴に勢いをつけ、立ち上がり、窓へ向かって走り出そうとしたハナの腕を、誰かが掴んだ。
びっくりしてその顔を見ると、クールな目をして有栖川アリスがこちらを無表情に見つめていた。
「は……、離して……っ!Σ(⊙ө⊙*)」
有栖川は眉ひとつ動かさずにハナの顔をじっと見つめると、首を横に振った。
3
次々と生徒たちが黒田令子の前に立たされ、名乗らされた。
玉国ヒカルの後にはしばらく延々とアイドルは発覚せず、何事もなく続いたが、もうすぐ野村フジコの番がやって来る。
アイドルのたまご野村フジコは分厚い牛乳瓶メガネの奥でぐるぐると目を回していた。
後ろの席を振り返る。そこに座っている大人しそうな男子生徒が、にこっと笑った。彼のか細い手を、ボンレスハムのような太い手で握ると、野村フジコは小声で泣き叫ぶ。
「ふ……、藤原くん! もうすぐワタスの番ダス!(╥ω╥`)」
藤原と呼ばれた男子は、諦めたような笑いを浮かべると、野村フジコを言葉で慰めた。
「しょうがないよ、フジコちゃん……。どうせ死ぬなら一緒に殺されない? 二人なら怖くないかもしれない(*´ω`*)」
「し、心中してくれるダスか!? こ……、こんなデブでブタでダサいワタスなんかと!?:(´◦ω◦`):ぶ……ぶわ!」
「フジコちゃんはデブタなんかじゃないよ。色白で……今は地味な牛乳瓶メガネだけど、羽化したらきっと天使みたいなアイドルになったはずだよ(*^^*)」
「未来のことなのに過去形! 辛いダス! 辛いダスー!。゜゜(*´□`*。)°゜。」
「大丈夫。フジコちゃんの番の時、ボクも一緒に前に出て行ってあげるから(*´ω`*)」
「ふ……、藤原くうんっ……! た、タツミくんって呼んでも?(இ﹏இ`。)」
「もちろんだよ、フジコちゃん(๑•̀ㅂ•́)و✧」
アイドルだった生徒二人の死体がまだ床に転がる教室から、人間と判明した生徒たちは次々と出て行かされた。こんな血生臭い教室では授業どころではない。
このクラスが終わったら他のクラスも見て回るつもりだ。今日の繰越高校は全学年全クラス臨時休校となることだろう。
黒田令子は2年C組の教室に残った生徒たちを眺め回し、予想をした。
順番が回って来た野村フジコが何やら諦めたように項垂れて重い足音とともに歩いて来るのを見ながら、まず思う。
『あの牛乳瓶の底みたいなメガネをかけたブサイクな娘はアイドルではないだろう。あんなデブタがアイドルのたまごだったら笑う。……その後ろからなんだか追いかけるみたいにやって来るあの男の子──あれはアイドル臭いな……。地味なくせに顔がかわいい』
野村フジコが黒田令子の前に立ち止まる。
縮んでいきそうなその肩を優しく抱くように、後ろから藤原タツミが追いついて来て、覚悟を決めたように、しかし穏やかな声で、言った。
「ボクら二人とも──(-´∀`-)」
「ねぇ、お姉さん」
突然、藤原タツミの言葉を遮るように横から挟まれたその声に、黒田令子が気を取られた。
「何だよ、オマエ」
声の主を黒田令子が睨む。
「オマエはもう済んだだろ。ただの人間は教室から出て行け。邪魔だ、……有栖川アリスだっけか」
すぐ傍の席に座り、頬杖をついて有栖川アリスが白けた目をしてこちらを見上げていた。長い黒髪のサイドを気だるそうにかきあげ、手についたホコリを唇を尖らせてフッと吹き飛ばすと、どうでもよさそうに言う。
「ねぇ、お姉さん。なんでアイドルは殺されなきゃいけないの?」
うるさそうにアリスを睨むと、黒田令子は教科書通りというように、即答した。
「神田首相がお決めになったからだ。私たちはそれに従うのが仕事だ」
「アイドルに……なんか人間に対する実害でもあるわけ? ほっとくとじつは人類を滅ぼすほどの害があるのが判明したとか?」
「人心を攪乱する。それに何より人間とは違う生き物だ。人間よりも昆虫に近い。貴様は虫ケラを殺すことに異議でも唱えるつもりか?」
「テレビとかであれだけもてはやしといてさ、粛清法案が可決した途端、大半のトップアイドルは殺されちゃったらしいよね? 今まで夢と希望をもらってたのに、いきなりひどくない?」
「うるさいぞ、貴様!」
黒田令子が有栖川アリスに銃口を向けた。
「公務執行妨害で逮捕するぞ! ……あるいは、そうだな。アイドルを擁護したとして今ここで貴様の頭も吹っ飛ばしてやろうか」
「べつにアイドルがどうなろうとどうでもいいんだけどさ」
有栖川アリスは黒田令子の銃口に、白い目を向け返した。
「お姉さんのその上から目線が気に食わないんだよね。国家のイヌのくせにさ」
大口径のライフルが火を噴いた。
頬杖をついたままの有栖川アリスの頭部が一瞬で砕け、席に座る長身の上から花火のように血肉があたりに飛び散り、生徒たちが悲鳴をあげた。
出口を固める二人の黒スーツが声をあげる。
「黒田さん!」
「クロさんっ! さすがにそれはマズイっす! 一般人を……」
「ふ……、フフ……」
黒田令子が興奮して笑い出だす。
「気に入らなかったのよ、有栖川アリス! この私を馬鹿にするような冷たい目を向けやがって……アイドル擁護罪で即死刑に処してやった! 何が悪いと言うのだ!?」
アリスが死ぬのを見て、野村フジコの震えていた膝が遂に崩れ落ちた。彼女の全身が床に倒れてしまわないよう、藤原タツミが後ろから全力で支える。
フジコが泣き叫ぶ。
「も……、もう嫌ダスーーーっ!。゜(゜´Д`゜)゜。」
「おや、意外」
黒田令子は弾丸を詰め替えると、その銃口を素早くフジコに向けた。
「こんなブタのアイドルがいるとはね」
藤原タツミがフジコを守るように前へ出た。
「フジコちゃんを殺すならボクも死ぬ!
⊂(`・ω・´)⊃」
「キミは殺すには惜しいが……」
銃爪に指をかけると、照準を覗き込みながら、黒田令子は舌なめずりをし、冷たく笑った。
「私は女だ。男子アイドルに心を惑わされる前に処刑せねばな!」
何かが教室の空中を舞った。
それは短いが白い翼のようなものを広げていた。横に高速回転しながら飛んで来ると、翼をナイフのように尖らせて、黒田令子の首を一瞬で胴体から斬り離し、教室の天井まで飛ばした。
「き……!」
「貴様!?」
出口を固める二人の黒スーツの男たちがライフルの銃口を同時に向けた。二つの出口は教室の前と後ろ──離れている。
首のない有栖川アリスの背中に生えた白い翼から、二方向へ向けて、ダーツのように白い羽根が飛んだ。それが二つの銃口に刺さるのと、二人が銃爪を引くのが同時だった。
容易くライフルは暴発した。断末魔をあげて二人の黒スーツの腕が、胸が、そしてヘルメットを飛ばして頭部が、爆発とともに肉塊に変わる。
「有栖川さん!Σ(º ロ º๑)」
針宮ハナが後ろの席で叫ぶ。
「あなた……何者!?(´⊙ω⊙`;)」
「正義の味方じゃないことは確か」
血だらけで首のなかった胴体の中から、無表情なアリスの頭部がせり上がって来た。
元通りの長い黒髪を手櫛《てぐし》で梳《す》くと、面白くもなさそうな無表情で、有栖川アリスは言った。
「私は『終末アイドル』有栖川アリス」
4
「あら、先生が通報に行ったわ」
教室から駆け出して行く担任の女教師の背中を見送りながら、有栖川アリスが仕方なさそうに言う。
「逃げたほうがいいみたい」
針宮ハナがキョドキョドしながらそれに答える。
「よ、四人で一緒に逃げよう!(`;ω;´)ﻭ✧」
「群れるの嫌い。一人で逃げて」
「やだ……っ! 連れてってよ!ε٩(๑><)۶з」
腰が抜けてへたり込んでいる野村フジコを支えながら、藤原タツミも頼るようにアリスを見つめている。
「アイドルだ……」
「有栖川さん……アイドルだったのね。どうりで変わったひとだと思った」
残った人間の生徒たちが、まるで床に置かれた札束でも見るように四人をジロジロと見た。
「通報すれば……30万円……」
「有栖川さんはなんか格が高そう……。億とかなるかも……!」
そうヒソヒソと会話をしながらも、彼らに手を出そうとする生徒は一人もいなかった。
「わかった。安全な場所まで一緒に逃げましょう」
有栖川アリスがハナに向かってそう言いながら、出口へ向かう。
「そこからは別行動よ。私、興味ないから──仲良しとか、友達とか」
「ま……、待つダス!_:(´ཀ`」 ∠):_」
置いて行かれそうなのを見て野村フジコがヨロヨロと立ち上がった。
「立てたね! 行こう、フジコちゃん(-´∀`-)ノ」
藤原タツミが嬉しそうに笑い、フジコの背中を支える。
出口の床にぶちまけられた黒スーツの肉塊を踏み越えて、四人が教室を出て行くのを、残った生徒たちは無言で見送った。床に転がる黒田令子の首も、憎むように開いたそのおおきな目で、四人の背中をじっと見送っていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「なんでこんなことになっちゃったんだろう……(-_-;)」
林に囲まれた狭い道をアリスたちと並んで歩きながら、針宮ハナが呟く。
「あたしたちが何をしたって言うのよ……(;_; )」
「人間は異質なものを社会から排除したがるものだからね」
有栖川アリスが適当に答える。
「実際、私たちって、霊長類よりも昆虫に近いし」
そうなの!?Σ(⊙ө⊙*)!! とは思ったが、それよりも気になることがあったので、ハナはそれを口にした。
「ユキちゃん……無事かどうか、見に行かなくちゃ( •́ㅿ•̀ )」
「真田村さんのことは諦めなさい」
アリスが冷たく言い切った。
「まず間違いなくもう死んでるから」
「ユキちゃん……スマホ持ってないんだよ。だから連絡つかないけど、どっかで生きてたら迎えに行ってあげないと……(´・ε・̥ˋ๑)」
「私は行かないわよ。行くんならここでお別れ」
ハナは一瞬、迷ったが、すぐに横の道を駆け出した。
「何考えてんのかわかんない……あの子」
その背中を見送りながら、アリスが漏らした。
「アイドルの住んでる家なんて、危険に決まってるのに。死んだかもね、あの子」
「大切な友達だからほっとけないんだよ(*´ω`*)」
藤原タツミがフジコを支えて歩きながら、言った。
「ボクだって、もしフジコちゃんの消息が不明だったら、気になって気になって探しに行くよ(๑´ㅂ`๑)」
「タツミくうんっ!(இ﹏இ`。)ぶわっ!」
フジコが号泣した。
♡ ♡ ♡ ♡
ユキの家はよく知っている。何度も遊びに行ったことがあった。優しそうなお父さんと二人暮らしで、幸せそうで──温かそうなその暮らしぶりを孤児院育ちのハナはいつも羨ましく思ったものだ。
立派なその家の前で立ち止まると、ハナは呼び鈴を押した。家の中で鐘の音が鳴るのが聞こえた。しかし誰も出て来る気配はない。ドアノブに手をかけてみたが鍵が閉まっている。
玄関から横へ逸れて、植え込みの間を潜り、中庭へ出て思わず息を呑んだ。窓ガラスがおおきく割れていて、そこから誰かが入り込んだ跡がある。重厚なブーツのような足跡が、三人ぶん中へ続いていた。
おそるおそる割れた窓から中を覗き込んだハナは、自分の顔を手で覆って嗚咽を漏らした。
死体はなかった。しかし、カーペットの上には明らかに二人の人間が斃れたような、赤黒い染みが広がっていた。
ガラスの破片が窓際に散乱している。靴のまま上がり込むとハナは、現実を認めたくないというように、強い声で奥へ呼びかけた。
「ユキちゃん? いる? いるよね?(இ▽ இ`。)」
当然のように返事はなかった。
しばらく家中をうろつき回り、何度も呼びかけてみた。
二階へ上がり、ユキの部屋のドアを開けると、見慣れた親友の部屋は静まり返っていた。ついこの間ここで一緒にお菓子を食べながら、楽しくお喋りした場所なのに、今はまるで何十年も誰も住んでいない部屋のように、その空間は死んでいた。
そこでハナは遂に泣き崩れた。
「ユキちゃん……。ユキちゃん……!(இ。□இ`。)」
ユキの部屋のカーペットを掻きむしり、泣きじゃくった。
「一緒に二人組のアイドルユニット組もうねって……約束したじゃん! 『ユキハナ』ってユニット名も決めてたじゃん! 一人にしないでよ! 一緒にデビューしようよ! 一緒に……!。゜( ゜இωஇ゜)゜。」
コトリと音がして、はっとしてハナは顔を上げた。
廊下のほうだ。誰かの気配がする。床が誰かの体重で軋んでいる。
「だ……、誰っ!?(இдஇ; )」
すると戸口に男がゆっくりと姿を現した。
背の高い、他所の高校のブレザーを着た、ワイルドなウルフカットの、どこか尖った印象のあるイケメンだった。何を考えているのか読み取れない笑いを浮かべている。
「あなた……誰なのっ!? ユキちゃんはお父さんと二人暮らしのはずよっ!?.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
すると男は照れたように頭を掻き、喋った。
「驚かして……ごめん( •̀∀•́ )✧」
「か、顔文字……。あなた……あ、アイドルなの?(இдஇ`。)」
「うん。君も同じだね?( •̀∀•́ )✧」
男は白い歯を見せて笑うと、名乗った。
「俺の名前は佐藤ダイチ。君の仲間のところへ連れて行ってくれないかな( •̀∀•́ )✧」
5
「佐藤……ダイチくんか……。あたしは針宮ハナ。よろしくね(*´▽`*))」
「大変なことになったよね。俺も追われているんだ。君の仲間に入れてくれよ( •̀∀•́ )✧」
「それはもちろんいいんだけど……。はぐれちゃったの(´ω`;)」
「スマホ持ってるじゃん。連絡取れないの?( •̀∀•́ )✧」
「番号が……あっ!(๑´Д`ก)」
ハナのスマホの着信音が鳴りはじめた。
「知らない番号だけど……出てみよう(•﹏•ั;ก)」
電話口に出たのは男の子の声だった。
『あっ、針宮さん? よかった、電話に出てくれて』
「あ……。もしかして藤原くん? どうしてあたしの番号わかったの?( ˙ㅿ˙ )」
『フジコちゃんが生徒名簿を持ってたんだ。そこにこの番号が載ってたから』
「ありがとう! 今、どこにいるの? あたしもそっち行く('▽'*)」
『住所を言うよ? ◯◯町の三丁目、2-3。そこに廃ビルがあって、その三階にみんないる。来ればわかるから、スマホのマップを使って来なよ』
「わかった。あっ、あのね? 今、他にも逃げて来たアイドルの男の子と一緒にいるの。彼も連れて行っていいかな?(*´∀`*)」
『アイドルなの? なら、もちろんいいよ』
「じゃ、行くね(*´˘`*)」
電話を切り、頬の涙を拭うと、ハナはダイチを振り返った。
「連絡取れた。じゃ、行こう(๑´ㅂ`๑)」
ダイチがうなずく。
「ありがとう。助かるよ( •̀∀•́ )✧」
後ろ髪を引かれるように、ユキの部屋をしばらく眺め回すと、それでもまだ生きていてくれるかもしれない友達を探しに行くように、ハナはダイチを連れて家を出た。
◆ ◆ ◆ ◆
言われた住所に着いた時にはもう夜になっていた。確かにボロボロに寂れた四階建てのビルがあった。不気味なおおきな目玉みたいな満月がかぶさるその廃ビルを見上げてハナが呟く。
「……取り壊し寸前みたいなビルだね(*´`*)」
「ここにみんないるの?( •̀∀•́ )✧」
「うん。行こう(*´˘`*)」
埃だらけの階段を使って三階に上がると、外壁を除いて壁はまったくなく、コンクリートに囲まれただだっ広いひとつの部屋のようになっていた。奥の壁際に灯りが見える。近づいて行くと、蝋燭を立てたその周りに三人がいるのが見えて来た。
「みんなー(°´˘`°)/」
ハナが声を投げかけると、藤原タツミと野村フジコらしき影が手を振った。
「よかった。合流できたね(*´∀`*)」
タツミの声が優しく迎える。
「後ろの彼が、言ってたひと?(-´∀`-)」
「うん。偶然出会っちゃって……。追われて困ってるらしいから(∗ˊᵕ`∗)」
ダイチがハナの後ろから挨拶をする。
「佐藤ダイチです。よろしく( •̀∀•́ )✧」
「藤原タツミです。よろしくね(-´∀`-)」
「ワタスは野村フジコ! よろしくダスー(´・∀・`)۶»」
挨拶を返すタツミとフジコの後ろで、アリスは興味もなさそうに、壁にもたれかかって腰を下ろし、スマホを見ている。
「あっ。彼女は有栖川アリスちゃん。無愛想だけどとってもいいひとだから、よろしくね(´ㅂ`;)」
ハナが代わりに紹介すると、ダイチはアリスに近づいて行った。
「佐藤ダイチです! よろしく、有栖川さん( •̀∀•́ )✧」
握手を求めて差し出したダイチの手を見もせずに、アリスはスマホの画面を見つめたままで、言った。
「うるさい。今、ゲームがいいとこなの」
アリスが面倒臭そうにそう答えるなり、ダイチが懐から何かを取り出した。
小型の黒光りする銃だった。それをアリスのこめかみに当てると同時に銃爪を引く。
破裂するような音が廃ビルの広い一室に轟いた。
「うあ……!?Σ(º ロ º๑)」
「うぎゃあああ!?Σ(ŎдŎ|||)ノノ」
腰を抜かしてタツミとフジコが後ずさる。
「何するのっ!? ダイチくん!(º ロ º๑)」
顎から上を失い、壊れた水道管から噴き出す水のように血を流し続けるアリスのほうから振り向くと、ダイチが言う。
「だってコイツ、語尾に顔文字ついてないぜ?( •̀∀•́ )✧」
窓の外の黄色い満月がダイチの背後にあり、まるで自分たちを殺しに来た悪魔か何かのように見えた。
「アリスちゃんは特別なの! 変わってるのっ! それに……(||゜Д゜)」
ハナはダイチの手に持っているものを見ながら、言った。
「なんであなた……そんなものを持ってるの!?(•'Д'• ;)」
「ああ……、これ?( •̀∀•́ )✧」
ダイチは銃を掲げると、ガチンと冷たい音を立てた。
「だってアイドルを抹殺するのに……これがあったほうが便利だろ?( •̀∀•́ )✧」
「あなた……、ほんとうにアイドル?(•'Д'• ;;;)」
「さあね?( •̀∀•́ )✧」
ダイチがハナに銃口を向けた。
「死ぬ前に教えてあげる。アイドル粛清部隊には、アイドルを騙して近づくために、人間なのに語尾に顔文字をつけるよう訓練された兵隊もいるそうだよ?( •̀∀•́ )✧」
タツミとフジコは脅えてしまい、抱き合いながら固まっている。
「あー、それで顔文字がやたら単調だったのか」
アリスの声がそう言った。
「……えっ?( •̀∀•́ )✧」
おそるおそる振り向いたダイチの顔面を、首のないアリスが鷲掴みにすると、そのままコンクリートの床に押し倒し、叩きつけた。グシャァ! と肉と骨が同時に潰れる音が響く。
「ぐはっ……!」
ダイチの語尾から顔文字が飛んだ。
顎から上だけの顔をぶるぶると横に振ると、アリスの顔がそこに再生されて行く。天井を仰ぎ、長い黒髪をばさっとマントのように広げると、鋭い目がダイチを睨みつけた。
ダイチがうろたえて喚く。
「なっ……、なぜだ! 頭部を破壊すれば死ぬはずだ!」
「ふつうのアイドルはそうね。でも私、ふつうじゃないの」
アリスは立ち上がると、ダイチの手首をローファーの底で思い切り踏み潰した。手から離れた銃を奪い取ると、鼻先に突きつける。
「さあ……あんたをどうしてあげようかしら」
6
ハナが叫んだ。
「ひ……、ひどいことはやめてっ! アリスちゃん!Σ(゜Д゜;)」
「はあ……? コイツ、あんたを殺そうとしたのよ?」
アリスが面倒臭そうに目だけで振り向く。
「私なんかもう殺されちゃってるし」
「捕虜にしよう(-´∀`-)」
タツミが提案した。
「このひとを捕虜にすれば、いいことあるかもしれないよ? アイドル粛清部隊の内情とかさ、聞き出せるかも(-´∀`-)」
「タツミくん、頭いいダスー!(இ▽இ )」
フジコが褒めた。
アリスはどこからともなく白い羽根矢を取り出すと、ダイチの眉間にそれを深く突き刺した。
「あ……(´ㅂ`;)」
「殺したダスーっ!!(இ△இ; )」
ぴくぴくと痙攣しながら絶命したダイチをくだらないものでも見るように見下ろしながら、アリスが言う。
「発信機でも持ってたらここに粛清部隊が来ちゃうわよ。……藤原くん、野村さんと一緒に、コイツ捨てて来て」
「す……、捨てる?(´ㅂ`;)」
「どこにダスかーっ!?(இ□இ; )」
「この下に川が流れてるの。そこに投げ込めば勝手にどっかへ流れて行ってくれるわ」
「な……、なんでボクたちが……(´ㅂ`;)」
「早くして」
仕方がなさそうにタツミとフジコは死体を両側から抱えると、階段を下りて行った。
何事もなかったかのように再び壁にもたれ、スマホゲームを始めたアリスに、ハナは呆然と立ち尽くしながらも話しかけた。
「あ……あの……(´・ω・`;)」
「なんでしょう?」
「その……(•﹏•ั;ก)」
「用がないなら黙ってて」
「……あの時、窓から飛び降りようとしたのを止めてくれて……ありがとう(´ㅂ`;)」
「……べつに。窓を開けられると寒いから嫌だっただけよ」
確かに秋風が寒々しかった。
コンクリートの冷たさが身に染みて、ハナは思い出したようにぶるっと震えた。
「さ……、寒いよね。使い捨てカイロでも買って来よっか? あ……コンビニでもう、売ってるかな(´ㅂ`;)」
「……いい。とりあえずここは出るから」
「帰る場所……あるの? お家のひととか……( ´•д•` )」
「ここが家よ」
「ここ──って……(´・ω・`;)」
ハナは自分のいる場所を見回した。コンクリートの壁と床以外には何もないように見える。しかしよく見れば、隅っこに蝋燭とマッチがたくさん置かれてあり、寝床に使っているのか段ボールが折り畳まれてあった。
「お父さんとかお母さんとか……いないの?(´・ω・`;)」
「私、勝手に産まれて来たから」
スマホの画面から目を離さずに、アリスは他人事のように言った。
「誰にも拾われなかったたまごから勝手に産まれて、勝手に育っただけだから」
「そ……、そうなんだ?(´・ω・`;)」
それを聞いて、なんだか親近感が湧いてしまった。
「あたしもね、拾ってくれるひと、いなくて……。五歳までひとりで育ったから、わかるな。もっともあたしの場合はその後、孤児院の先生が育ててくれたんだけど(*´ω`*)」
アリスは何も答えなかった。黙々とスマホゲームを続けている。
間が持たなくなったこともあり、ハナは気になっていたことを聞いてみた。
「なんでアリスちゃんは不死身なの?(*´•ω•`*)」
プッとアリスが噴いた。
すぐに真顔で振り向くと、答えた。
「そうね。ふつうのアイドルは頭部を破壊されたら死ぬ。っていうか頭部を破壊するしかアイドルを殺す方法はない」
「そうなの!?Σ(º ロ º๑)」
ハナは初耳だった。
「あたしたちって、そんなゾンビみたいな生き物だったの?ฅ(º ロ º ฅ)」
「知らなかったの? 胸に穴が開いたくらいなら再生するのがふつうのアイドルよ」
そういえば小学生の時、高いところから落ちて足を折ったけど、やたら治るの早かったなと思い出した。
そういえば自殺したアイドルって、みんな高いところから飛び降りて頭が潰れたり、ピストルでこめかみ撃ち抜いたり、首を吊って脳への血流を止めたり──頭部を何かして死んでるなと思い当たった。
「私は異質な存在……」
アリスがスマホゲームを続けながら、言った。
「人間から見ればアイドル、アイドルから見れば変わり種。頭部を破壊されても死なないし、語尾に顔文字もつかない。だから自分をふつうのアイドルと区別して、『終末アイドル』と呼ぶようにしてるの」
「終末アイドル? ……何が終末なの?( ºωº )」
「わからないよね。わかんなくていいわよ」
アリスは溜息をつくと、少し声を大きくした。
「……それにしてもバカなことをしたわ。私、語尾に顔文字つかないから大人しくしてればアイドルだってバレないのに。黒田令子のせいであんなこと──!」
「正義感が強いんだね、アリスちゃん。あたしたちを助けてくれたんだよね(*´ω`*)」
「ああいう……黒田令子みたいな正義の執行人みたいな顔してる輩が嫌いなだけよ」
ようやくアリスがハナの顔を見た。
「あんたたちがどうなろうと、どうでもよかった。ただ黒田令子にムカついただけ」
「そうなんだ?(*´•ω•`*)」
「だから友達ヅラしないで」
スマホを鞄にしまうと、アリスは立ち上がった。
「もしかしたらさっきのやつが発信機を持ってて、もう粛清部隊がここに向かって来てるかもしれないわね。ここからは別行動にしましょ。あなたも早く──」
アリスの言葉が止まった。
立ったまま、土色になりはじめているハナの顔をまじまじと見つめた。
何も言葉を発することができなくなり、目を白黒とさせたまま、ハナはみるみるうちにぶよぶよとした茶色い皮のようなものに全身を包まれて行く。
「サナギ化が始まったか……」
アリスは仕方なさそうに鞄を置いた。
「……30分ぐらい? その間まったく無防備になるあなたを置いては行けないわね。……しょうがないから羽化するまで見守っててあげる」
7
死体を捨てに行ったタツミとフジコが戻って来た。行きはブツブツと文句を呟いていたフジコがやたらと元気になっている。
「捨てて来たダスー!٩(๑ˆOˆ๑)۶」
「フジコちゃん、大活躍だったね。物凄い力で川にブン投げて、気持ちよさそうだったよね。凄かった……あっ!∑(°口°๑)」
タツミが立ったままサナギ化しているハナに気づいて声をあげた。
「針宮さん……サナギ化したのか('▽'*)」
「あなたたちは逃げて」
壁にもたれてスマホゲームをしながら、アリスが言う。
「ここに粛清部隊が来るかもしれないわよ」
「わあっ! 楽しみダス!‹‹(´ω` ๑ )/››‹‹( ๑´)/›› ‹‹( ๑´ω`)/››~♪」
フジコが踊り出した。
「どんなアイドル出るかな? 針宮さんの羽化、楽しみダスー!‹‹(´ω` ๑ )/››」
「この子の羽化は私が見守るから。……行って」
「えー? 有栖川さんだけずるいよ〜( *´ω`* )」
タツミがわくわくした顔で言う。
「ボクたちも見たい。どんなかわいい女の子になるのかな? どんな羽根が生えるのかな? 蝶々かな? カゲロウかな? 見たい!(⁎˃ᴗ˂⁎)」
アリスは二人を冷たい目で睨みつけると、吐き捨てるように言った。
「もしここに粛清部隊が来て、戦闘になったら、サナギ化しててまったく動けないこの子を守るだけで私、精一杯になるのよ? あんたたちのことまで守って戦えって言うの? それともあんたたち、自分で自分の身、守れる?」
「そっか……(╯•ω•╰)」
「そうだね……。じゃ、ボクいい隠れ家知ってるんだ。フジコちゃん、行こう(*´ω`*)」
「それじゃ、有栖川さん、ご無事で。出来ればまた会うダス(*˘︶˘人)♡*。+」
「針宮さんの羽化がどんなだったか、また教えてね(-´∀`-)」
アリスがスマホを見ながらテキトーに手を振ると、二人は手を繋いで出て行った。
「……遅い」
アリスはスマホを置くと、サナギ化しているハナを見つめた。
少し大きくなったような気がする。色も茶色だったのが、黒に近くなっている。
「もう45分は経ってる……。もしかして……死んでる?」
たまにサナギ化したまま中で死んでしまうアイドルもいることをアリスは知っていた。
サナギの表面に浮き出ているハナの顔がデスマスクのように見えて、それがぴくりとも動かないのを見ながら、このまま置いて行こうかとも考えた。この子がどうなろうと関係ない──と。
窓から射し込む月明かりを雲が隠し、サナギの表面を動く影が、ハナの表情を悲しげに動いたように見せた。
「……もう15分だけ待ってあげる」
アリスはスマホを鞄にしまい、ハナのサナギと向かい合った。
「それでも羽化しなかったら置いて行くからね」
耳を澄ました。
誰かが階段を昇って来る音が聞こえる。
軍靴のようなものを履いている。一……二……三人だ。
アリスはゆっくりと立ち上がり、セーラー服の背中につけたスリットから白い翼を出して身構える。
影が三つ、向こうの戸口に現れた。
「……あら?」
アリスがその影に向かって、声を投げる。
「生きてたの? それとも……双子だった?」
闇を縫って現れたのは、二人の黒スーツの男。そしてその戦闘に立つのは、ヘルメットを上げて顔を晒している、黒田令子の歪んだ笑顔だった。吹出物だらけの浅黒い肌を月光が照らし出す。
「有栖川アリス……見つけたぞ」
黒田が嬉しそうに歯ぎしりの音を立てた。
「令子は死んだ。私は黒田《くろだ》市子《いちこ》」
「へぇ……。クローンなの? あまりにも顔が一緒すぎる。……その顔、あまりにもムカつきすぎて、隅から隅までよく覚えてるもの」
「オマエの闘い方は学習済みだ。今度はやられんぞ」
「嬉しいな」
アリスが床を蹴り、飛んだ。
「またお姉さんを殺《ヤ》れるなんて」
黒田市子が武器を構えるなり発射した。大口径のライフルではなかった。
「わう!」
アリスが声をあげ、撃たれた鳥のように床に落ちる。
「麻酔銃だ。さすがに動けねーだろ?」
床にうずくまるアリスを見下ろしながら、黒田市子が勝ち誇る。
「……そうみたい」
体が痺れて動けなくなりながらも、アリスが笑う。
「……でも、痺れさせて……どうするの?」
「頭部を破壊されてもオマエは死なないんだよな? でも、全身をバラバラにされたら──さすがに死ぬだろ?」
「……そうかもね。でも、どうやって?」
「ライフルで穴だらけにしてやってもいいが……」
黒田市子が懐から小ぶりなパイナップルのようなものを取り出し、見せつけた。
「|手榴弾《グレネード》だ。『ザクロ』って意味らしいが、なぜかパイナップルみてーだよな? まぁ、コイツの爆発に巻かれた人間はザクロみてーになるからな。コイツを置いて行ってやるよ」
アリスの頬を冷たい汗が伝った。
「おや?」
黒田市子がサナギに気づいた。
「へんなモニュメントが立ってんなと思ったら……。これ、アイドルのサナギか? ハハ……、ちょうどいい。二匹まとめて始末すりゃ、神田首相に……」
突然、ハナのサナギが強い光を放った。
目を眩まされ、黒田市子と二人の黒スーツが怯む。
その隙をついてアリスは羽根を三本、自分の翼から抜いた。投げようとしたが、痺れて体が言うことをきかない。
ピシリという音とともにサナギが割れた。
「じゃじゃーんっ!♡*.+゜٩(๑>∀<๑)۶♡*.+゜」
眩い光とともに中から現れたのは、黒髪のおかっぱに黒ぶちメガネ地味っ娘──だったハナではなく、サラサラのプラチナブロンドヘアーをなびかせ、天使のような白いドレスに身を包み、赤いハイヒールで足元までバッチリかわいく固めたアイドルだった。
「アイドル! 針宮ハナたんっ! 今! 生誕ーんっ!❀.(ღ˘ㅂ˘ღ)❀.」
その場の全員が呆然とそれを見つめていた。
視線を感じてハナが踊り出す。観客を目の前にしてアイドルが踊らないわけに行かない。
「か……、かわいい……」
二人の黒スーツの男が武器を投げ捨て、ハナの振りつけに合わせて、夢中で体を動かしはじめた。
「は……、ハナたん! ハナたーんっ!」
「クッ……! 女性アイドルの力は男の心を攪乱しやがる……が、女の私には……」
黒田市子は手榴弾を振り上げると、それをサイリウムのようにノリノリで振り回しはじめた。
「だぁめっ! ムリ! かぁわいぃっ! なんてかわいいのーーっ!」
「ふふっ! ぜひぜひ、かわいいを堪能してねっ! 羽化したアイドルは無敵なんだからっ! あれ……?❀.(*´▽`*)❀.」
ハナが気づいた。自分の背中を振り返り、声をあげた。
「あ……あれっ!? は……、羽根がないっ!? 生えてない!Σ(⊙ө⊙*;)!!」
ようやく体が動くようになったアリスが、三本の羽根を投げた。
8
背中に羽根がないことに動転していた針宮ハナがハッと我に返ると、三人の観客が死んでいた。白い羽根をそれぞれの眉間に突き立て、とても安らかな、幸せそうな顔をして床に斃れている。
「お客さんっ!? だ……、誰か、救急車!∑(°口°๑)」
「何それ。天然ボケ?」
有栖川アリスがなんとか床から身を起こしながら、ツッコんだ。
「……でも、助けられたわ。アイドルの力って凄いわね。あれほど殺意に支配されてた黒田市子まで踊らせてしまうなんて……。やっぱり神田首相が危惧するだけのものがあるのかもね」
「アリスちゃんだってアイドルじゃん?( ˙ㅿ˙ )」
「私はハンパ者だから。語尾に顔文字もつかないし、人心を攪乱することもできないし、羽根だって短くて中途半端」
「アリスちゃんの羽根、羨ましいよ? 綺麗だもん。白鳥の羽根みたい(∗ˊᵕ`∗)」
そう言って、ハナは自分の背中をまた見る。
「あたしなんか……羽根……ないし……(๑•́ •̀๑)」
「私は変わり種ってだけ」
喋りながらアリスが床にへたり込む。
「普通はアイドルに生えるのは昆虫の羽根だもの。鳥の羽根なんて、珍しすぎるわ。……もしかしたら私は、人間じゃないのはもちろん、アイドルでさえないのかもしれない」
「アリスちゃんはアイドルだよ。だってかわいいもん٩(ˊᗜˋ*)و」
「それは認めるけど……、私、これ、羽化してないのよ」
「えっ? 羽根生えてるのに?(´∵`)」
「物心ついた時からあったのよ。だんだん成長はしてるけどね。でも、それでもまだこんなに短い、アイドルらしくないわよね、こんな小さな羽根」
「生えてるだけ羨ましいです……(-_-;)」
ハナはみたび自分の背中を見た。
「どうしてあたし羽根がないんだろう……。もしかして……あたし……羽根ないタイプなの? ダンゴムシみたいなやつ?(´._.`)」
「そこの三人を魅了したじゃない。羽根はなくても立派なアイドルよ」
「そう? あたし、かわいい?٩(๑❛ᴗ❛๑)۶♡」
「さあね……。私にはわからないけど……、ふつう、女性アイドルが魅了するのは男性ファンだけよ。女の黒田市子まで魅了してしまったのには恐れ入ったわ」
「ふふっ……!v(,,>᎑<,,)」
「とりあえず……ここから逃げなさい。また次のやつらが来るかもしれない」
「うん! 一緒に逃げよう( ー`дー´)و」
「……私は無理。体が動かないし……眠くて仕方がないの。置いて行って」
「そんなのできないよ!Σ(,,ºΔº,,*)」
「ああ……しまったな。こんなことならバカ力の野村さんにいてもらえばよかった」
「あたしが運んであげる! お姫様抱っこして!٩(๑`^´๑)۶」
「無理よ。そんな華奢な腕で、自分よりおおきな私をどうやって運ぶつもり?」
「そんな……。じゃ、どうすれば……( ´•д•` ;)」
「あそこに段ボールがあるでしょ? あそこまでなんとか歩いて行くから……そこで寝る。寝た私にあの段ボールをかぶせて隠してくれないかしら」
「わかった! じゃ、段ボールのお城みたいにしてあげる(๑•̀ㅂ•́)و✧」
「……だめよ。そんなのかえって怪しまれる。目立たないように、ゴミが置いてあるみたいにして」
そう言うとアリスは重そうな体をズルズルと引きずり、隅に重ねて置いてある段ボールのところまで這って行った。
「じゃ……、お願いね」
そう言うとすぐに意識を失い、眠りの中へ入って行った。
目を覚ますと、朝の気配がした。
追手はやって来なかったのか、それとも来たけれど気づかなかったのか、それはわからないが、アリスは生きていた。
無造作にかぶせられた段ボールの山の中から身を起こしてみると、ハナはいなくなっていた。寂しくはない。独りに慣れている。
「お腹……空いたな」
そう呟くと同時に、誰かが階段を駆け上って来る足音が聞こえた。
「あっ! 気がついた?(๑•▽•๑)」
プラチナブロンドの長い髪を揺らして、ハナの平和な笑顔が朝日の中から覗いた。
アリスの顔から力が抜けた。構えていた羽根をしまう。
「朝ごはん買って来たよ。一緒に食べよう٩(*˙︶˙*)」
そう言ってコンビニのおにぎりのたくさん入ったビニール袋を床に置く。
「あんた……逃げなかったの?」
「アリスちゃん置いて逃げられるわけないじゃん。一晩中、介抱してたよ。段ボールでお城作って、その中で。……あたしが出る時崩れちゃったけど(๑>•̀๑)」
「お城作んなって言ったでしょーが!」
そうツッコみながらも、アリスは顔が笑ってしまった。
「さ! 食べよう、食べよう٩(*>▽<*)۶」
ハナがおにぎりを袋からいっぱい取り出し、並べる。
「好きなの食べていいからね。いっぱい食べて! お茶も緑茶とウーロン茶買って来たからね、好きなほう飲みなさい(((*˙-˙*)/))」
「ふふ……」
ツナマヨのおにぎりを取りながら、アリスが呟く。
「どんなのか知らないけど──『お母さん』ってのがもしいたら、こんな感じなのかな?」
おにぎりは甘く、少ししょっぱい味がした。
9
有名アイドルたちが処刑されるニュースが来る日も来る日もテレビやネットで報道されている。変装して街を歩いていた女性のトップアイドルが見つかり、その場にいた一般人たちに寄ってたかって捕まえられ、首を絞められて殺される場面を映した動画が話題になっていたりした。
そんな中、アイドルオタクたちの多くは苦悩していた。
尊い存在として崇め、自分の生き甲斐だとさえ思っていた推しのアイドルが処刑されたニュースを知り、こっそりと自室に籠もって号泣する者が後を絶たなかった。擁護すれば自分も同罪とされてしまう。隠れて泣くしかできなかったのである。
中には推しが処刑される動画などを観て異常なほどの興奮を覚える者もいた。それは恋人を寝取られることに性的興奮を覚えるような変態性を彼らに覚醒させた。
また、中には推しが処刑されても平然としている者もいた。
王子様だと思っていた存在が急にカエルになってしまったように、世論がアイドルを『異質なもの』『排除すべきもの』と見なすようになると、同調するように自分の意識を変えてしまったのである。
今まで神のように崇めていた存在を、一転『アイドルなんて所詮昆虫だよね』と吐き捨て、急激に冷めてしまうこの現象は『昆虫化』と呼ばれた。
しかしそんな中、それでもアイドルを隠れて信奉する者たちの間では、希望ある噂が流れ、それが信じられていた。
千年に一度、伝説のアイドルがこの世に降臨するという──
それは特別な力を持つ神のような存在で、何をされても死ぬことがないのだという──
それを『終末アイドル』と名づけ、アイヲタたちはその降臨を願った。
「この末法の世に、ぜひ! ご降臨を!」
「アイドルの力、見せつけてやってください!」
「アイドルは尊い! アイドルは我らの生きる力!」
「あの異教徒みたいな一般人どもに、そしてアイドル粛清法案なんて悪魔のごときルールを定めた政治家どもに、あなたのお力を知らしめてやってください!」
10
『けしからん噂が流れているようね』
モニターに映る厚化粧の熟女の顔が、険しい皺をピキピキと音を立てるように浮かび上がらせながら、憎むように笑う。
薄暗い部屋の中、黒スーツに身を固めた短髪の女が最敬礼をし、それに答える。
「はい。なんでも実績のある預言者が発信源らしく、アイドルオタクどもはそれを信じきっているようです。噂によると、鳥の羽根を背中に生やした『終末アイドル』とやらが降臨し、末法の世に救いをもたらすのだとか。そいつは不死身で、たとえバラバラにされても死なないのだとか」
『くだらない噂ね。オカルトもいいところだけど……』
モニターの中の熟女はひっつめ髪の中に人差し指を入れ、コリコリと掻くと、黒スーツの女に聞いた。
『……あなたはそれらしきアイドルを見たのよね?』
「はっ!」
一礼すると、黒スーツの女が改めてその報告をする。
「令子《れいこ》がまず発見し、市子《いちこ》が始末しようとして失敗しています。有栖川アリスという名前のいけすかない女子高生でした」
『黒田《くろだ》仁子《にこ》……。あなたたちは記憶を共有できる。令子が見たものは市子も見ていて、市子が体験したことは仁子──あなたの体験でもある』
「はい! ありがとうございます!」
黒田仁子は深くお辞儀をすると、モニターに映る熟女に感謝を述べた。
「神田首相! 貴女様にこの力を授けていただき、私たちは心から感謝しております!」
『……でも、記憶を共有するということは、前の二人の死の記憶もあなたはもっているということよね? 大丈夫なの? トラウマとかにはなってない?』
「むしろ憎しみしかありませんね」
黒田仁子は頭を下げたまま、殺気を背中から漲らせた。
「死の恐怖など軽く超越するほどの憎しみ……そして怒りが、有栖川アリスを殺せと私に背中から命じております」
『頼もしいわ』
神田政子首相は蛇のような笑いを浮かべると、モニター通話のスイッチを切りながら、言った。
『伝説とやらを軽く蹴散らしてやりなさい』
モニターが消えると同時に後ろの扉が開き、黒田仁子とまったく同じ容姿の女が入って来た。
「仁子、見た?」
「ああ……、見たよ、酸子《さんこ》」
黒田仁子はそう答え、嬉しそうに顔を歪ませた。黒いヘルメットをかぶり、新型の武器を背中に装着する。
「死子《しこ》が見たものを私も見た! 確かに有栖川アリスだ! 市子を踊らせたふざけたアイドルも一緒だな! 三人がかりで殺しに行くぞ!」
♡ ♡ ♡ ♡
地下に会場のある小規模のライヴハウスではアイドルオタクたちの集会が開かれていた。
「同士よ! 慰め合おう!」
マイクを持ったおじさんが、みんなに呼びかける。
「我々はアイドルを崇める! しかし何もできない! 伝説のアイドルが降臨するのを待つだけだ! 慰め合おう!」
「うんうんうん」と、会場の一同が、うなずきながら低い声を漏らした。
「アイドルを守ろうとすれば我々の身も危ない! 我々は見守ることしかできない! ここでみんなでせめて祈ろうではないか!」
「「「「「うんうんうんうん!」」」」」
「祈るんだ! 伝説の終末アイドル様の一日でも早いご降臨を! そして我々の『好きパワー』をアイドルへ向けて送ろう! ぎゅっと手を合わせて、念を送るんだ! 『しゅきしゅき!』『◯◯たん、しゅき!』『どうか無事でいて!』……さぁ! オマエラもご一緒に……!」
その時、客席の中から一人の若い男がステージに乱入した。おじさんのマイクを力任せに奪うと、会場に向かって呼びかける。
「おい! おまえらのアイドルに対する想いはそんなものかよ? そんなものだったのかよ!?」
会場がしーんと静まり返った。若い男は続けた。
「本気で好きなら命かけてみろよ! 『俺がアイドル守るんだ』って、動いてみろよ! 一人じゃなんにもできないかもしれないけどな、力を合わせりゃ何事かなせるかもしんねーだろ!」
「ぼっ……、ぼくは……」
会場の者たちが少しずつ反応しはじめた。
「◯◯たんのためなら、命をかけられる!」
「△△くんはあたしに命をくれたようなものだもん! あたしも彼のために命をかけられるわ!」
「よし! みんなでやろう!」
若い男は拳を振りかざすと、大声で叫んだ。
「俺は命をかけて□□たんを守る! オマエラもオマエラの推しのため、命をかけろ! 俺たちはアイドルが好きだ! 大好きなんだー! こんな間違った今の状況を許してはいけない! 立ち上がれ!!!」
大歓声が沸き上がった。
11
有栖川アリスは針宮ハナを連れてあかるい街を歩いていた。
ちょうど秋の深まりはじめた季節でもあり、成虫のアイドルとなったハナをモコモコの服と帽子で隠し、手を繋いであるところへ向かっている。
「アリスちゃん……。あたしのことはほっといていいんだよ?( ¯−¯٥)」
ハナが申し訳なさそうに言った。
「お荷物じゃない、あたし? 大丈夫、孤児院に帰ってなんとかするから(´・▽・`;)」
「孤児院には戻らないほうがいいわ」
アリスは手を引いて歩きながら、ハナのほうを見ないで言う。
「そんないかにもアイドルな見た目になったあなたを放っておけるわけないじゃない。助けられた恩もあるし、安全なところまでは送り届けてあげる」
意外にこのひと律儀なところがあるんだな、とアリスの後頭部を見つめながらハナは思った。
『それに……寝顔、意外なくらい、かわいかったな』
そう考えながら、ハナは思い出していた。段ボールで作ったお城の中で、麻酔銃に撃たれてすやすやと、子供のような寝顔を見せて眠っていたアリスの姿を。
自分の子供みたいにかわいかった。自分の膝を枕にして、口を半開きにして、あまりに無防備な寝顔をハナに見せていた。サラサラの黒髪を撫でたり、ピンク色の唇を指でつついてみたり、色々といたずらをしてしまった。
土手の石段を下り、おおきな橋を見上げる草むらの中へ入り込むと、アリスは足を止めた。
「今日はここで寝ましょう。使い捨てカイロはたんまりあるし、寝袋も持ってきたし」
「ホームレスさんみたいだね(*´︶`*)❀」
ハナは意外に楽しそうだ。
「アリスちゃんと一緒ならこんなのもなんか楽しく思えるよ(*´ω`*)❀」
ハナがモコモコの服を脱いだ。あまりに重い上にまだこれほどの厚着をするほどには寒くはなかったので。
眩しいアイドルの姿を晒したハナを、アリスがじっと見つめる。
「あっ、見て見て? あたしだけを見つめて?♡٩(๑❛ᴗ❛๑)۶♡」
「羽根はないけど……やっぱり一目でアイドルだってバレちゃうわね」
アリスが冷めた目で言った。
「どうしよう……。あなたを放っておけない」
「じゃ、ずっと一緒にいようよ。あたし、アリスちゃんのこと好きだし……なんなら二人でアイドルユニット組んじゃわない? 自分で言うのもなんだけど人気出ると思うよ♡*.+゜٩(๑>∀<๑)۶♡*.+゜」
「バカね……。もうアイドルはテレビに出られないし、人気どころかヘイトを受ける存在なのよ」
「うっ……、そうか(•﹏•ั;ก)❀」
目を泳がせた時、ハナがそれを見つけた。
「あれっ? あれって、たまごじゃない?♡(*゜O゜*))))❀」
草むらの中に、ピンク色のたまごが落ちていた。鳥の卵ではなく、蝶々のたまごに似た、まん丸いたまごだ。ダチョウの卵よりもさらに大きく、直径は30cmほどもある。それが秋風の中で、たまにピンク色の光を中からゆらめかせながら、石ころのようにそこにあった。もちろん、アイドルのたまごだ。
「こんな世の中に……あなたは産まれて来ないほうがいいわ」
アリスは呟くと、落ちている石を拾った。
「なっ……、何するのっ!? アリスちゃん?∑( ◦д⊙)‼❀」
「壊す」
「だめだよっ! この子の人生を勝手にだめにしちゃう権利は誰にもないっ! この子の未来はこの子のものなんだからっ!∑(✘Д✘๑ )❀」
「未来……?」
アリスは石を投げようとしていた手を止め、聞いた。
「未来……あると思う?」
「諦めちゃったら、ない( ー̀дー́ )و❀」
ハナは答えた。
「でも、諦めなかったら、ある!٩(๑`^´๑)۶❀」
アリスがくすっと笑った。
そして石を地面に捨てた。
「不思議ね……。あなたがそう言うと、ほんとうに未来がある気がして来るわ」
二人で交代で寝袋に入り、眠った。
ハナが眠っている横でアリスはスマホゲームを音を消してプレイしながら、辺りに注意を張り巡らす。黒田令子にはクローンがいた。1人だけとは限らない。もしかしたら何人もクローンがいて、憎たらしい自分を殺したくて探し回っているかもしれない。
「うう……( ; _ ; )」
ハナが寝言を言った。
「ユキちゃん……。なんで? 一緒にユニット組もうって……約束したじゃん(>_<。)」
アリスは少しだけ振り向いたが、すぐにまたスマホに目を戻す。
気になるニュースが入っていた。『アイドル判別用メガネ』が開発され、販売が開始されるという。それをかけてアイドルと会話すれば、その語尾についている顔文字が見えるのだという。
注意書きが添えられていた。
『アイドルの顔文字は、直接会話しなければ見えません。電話の音声などには顔文字がつきませんので、騙されないように』
「……ますます未来なんてなくなっちゃったじゃん」
独り言をアリスが呟く。
「私……語尾に顔文字つかないんだから、黙ってればアイドルだってバレないんだから……やっぱりあの時、知らん顔しとけば……」
そこまで呟いて言葉を止めた。
振り向くと、ハナが眠りながら涙を流している。
「ユキちゃん……。一緒に、やろうよ。アイドルユニット……(。>△<。)」
ゆっくり近づくと、アリスはハナの隣に腰を下ろし、そのプラチナブロンドの頭を撫でた。
「私たちアイドルは……どこから来たんだろうね」
ハナの頭を優しく撫でながら、橋のたもとのたまごを眺めながら、呟いた。
「私たちは自分たちのことを何も知らなすぎる……。私たちは……粛清されるべきバケモノなの?」
赤い16番目の月が、橋の上から見つめるように覗いていた。
「ふぁー、よく寝た٩(๑´O`๑)۶~」
そう言っておおきくあくびをするハナを、アリスは微笑みながら見つめた。自分はほとんど眠れていなかったが、ハナが満足そうなのが嬉しかった。
少し照れながら、ハナに提案してみた。
「ねぇ……、組まない?」
「えっ?( ⊙_⊙)」
「……アイドルユニット。ハナとだったら……いいよ」
「ええっ!?Σ(´✪ω✪`)❀」
ハナは飛び起きると、その場で何回も跳ねた。
「うんうん! やろう! アリスちゃんとだったら天下取れる気がするっ!٩(๑ˆOˆ๑)۶❀ あれ……? でも……」
「テレビに出られなくても、誰にも見てもらえなくてもいいよ」
アリスは頬を赤らめ、微笑んだ。
「私もやっぱりアイドルなんだな。……ゆうべ、ハナのかわいい寝顔見てたら、血が騒いで来ちゃったの。ユニット組んで、二人で歌って踊るだけでもいいからやりたくなっちゃったのよ」
「そっか……。誰にも見られてなくてもあたしたち、アイドルだもんね(๑•᎑•๑)❀」
ハナは白いドレスを花びらのように回転させると、歌い出した。
「よーし♪ やろう♪ やるぞ♪ ユニット名はなんにしようー♪ ((❀٩(๑ˆOˆ๑)۶❀))」
「私……歌ったことも踊ったこともないから……。ハナ、教えて?」
「よし! じゃ、早速練習だ! ビシビシいくよっ!❀٩(๑`▽´๑)۶❀」
「よろしくお願いします」
冗談っぽく頭を下げ、くすくすと笑いながら、アリスは生まれて初めてできた友達の嬉しそうな姿を、それよりももっと嬉しそうに眺めていた。
それを橋の柱のたもとから黒田《くろだ》呉子《ごこ》が見ていた。
「仁子《にこ》、酸子《さんこ》、死子《しこ》……。見てる? 有栖川アリスの弱点を見つけたわ」
12
「ほらっ! アリスちゃん、そこは『たん、たん、たーん』だよっ(﹡ˆᴗˆ﹡)✩⃛」
「む……、難しいな。少しゆっくりにしてもらってもいい?」
誰にも見られない草原で、ハナとアリスが振りつけの練習をしている。ハナはプラチナブロンドの長い髪を白いドレスとともに揺らし、アリスは黒い長髪をセーラー服とともにたどたどしく揺らし、秋の風景をまるで春のように染めていた。
季節はずれのモンキチョウが、コスモスの花びらを撫でながら、ひらひらと舞って行った。
四つの人影が、大樹の陰に隠れ、それを見ていた。黒スーツに身を固めた黒田|仁子《にこ》、酸子《さんこ》、死子《しこ》、呉子《ごこ》の四人だ。
「か……、かわいい……」
「特にあのプラチナブロンドの子……たまらなくかわいい……」
「いや、有栖川もあの子に負けてないほどかわいい。すごい……」
「……はっ!? ま、惑わされるな!」
四人の黒田は殺気を放ちながらも、二人のあまりのかわいさに手が出せずにいた。
「よく頑張ったね、アリスちゃん。休憩しよう(๑´ㅂ`๑)❀」
二人はクローバーの上に揃って腰を下ろした。アイドルのお尻は地面に直接座ってもけっして汚れない。うんこはするけどお尻の穴はけっして汚れない小動物のように。
ハナはクーラーボックスからスポーツドリンクのペットボトルを2本取り出すと、1本をアリスに渡し、ごくごくと喉を鳴らして飲みはじめた。頬の汗が光り、ファンデーションも塗っていないのに白い肌をキラキラと煌めかせる。
「楽しい……」
スポーツドリンクを一口飲むと、アリスがそう言って笑う。
「今まで私の人生は空っぽだった。何のために生きてるんだかわからないまま生きていた。でも今は充実してる。こうやって歌って踊るために生きてたんだな……」
「そうだよ。アイドルは歌って踊るために生きてるんだから(ღ˘ㅂ˘ღ)❀.」
「それに気づいたのはハナのおかげよ」
アリスは愛しいひとを見る目でハナを見つめる。
「ありがとう」
ふふっ、とハナは笑っただけだった。その笑顔にアリスは見とれた。アイドルの力はアイドルには通じない。だからアリスがハナに魅了されているのは、アイドルの魅力に攪乱されているわけではなかった。心からハナのことを愛しはじめていた。誰が死のうがどうでもいいはずだったアリスが、この友達だけは失くしたくないと思うようになっていた。
ハナが立ち上がった。それだけで何かの楽しいショーが始まるのかとアリスは錯覚する。
「ちょっとうんこしてくる(๑>•̀๑)❀」
そんなセリフも汚《けが》れなくかわいかった。
「見たらダメだよ? アイドルはうんこしないことになってるんだから❀.(*´▽`*)❀.」
そう言って、ティッシュ箱も持たずに、ファンタジー世界の住人のように、少し向こうにある大樹の陰をめざして軽やかに駆けて行った。
「ハナが好きだ……」
うっとりと、アリスは口から漏らした。
「今、ハナを失ったら……私は生きて行けないかもしれない」
ハナの悲鳴が、大樹の向こうから秋空をつんざくように響いた。
「ハナ!?」
急いで駆け出そうとしたアリスの足が止まる。
大樹の陰から四人の黒田が姿を現した。一人がハナを羽交い締めにし、その頭部に銃を突きつけている。
「黒田……っ! しまった。狙われてるのはわかってたのに……!」
「近づくとコイツの頭を吹っ飛ばすぞ」
勝ち誇ったように、アリスのほうへ銃口を向けた黒田が笑う。
「コイツの命が惜しければ今日の夜8時に首相官邸まで来い! そうすればコイツは解放してやる。オマエの命と引き換えにな!」
セーラー服の背中から短い翼を出しながら、その羽根を飛ばすことができなかった。それよりも早く黒田が銃爪を引いてハナの頭を撃ち抜くことは明白だった。以前ならこんなことはなかったのに。ハナが殺されることなどどうでもよく、平気で羽根矢を飛ばしたはずなのに……。
動けなかった。泣き顔のハナが黒いリムジンに乗せられ、連れ去られるのを歯ぎしりしながら見ているしか出来なかった。
「神田政子……!」
目から、唇から、赤い血を滴らせながら、鬼のごとき表情で、走り去るリムジンのナンバープレート『2000』を睨んだ。
「そっちから招いてくれるとは……殺してやる!」
◆ ◆ ◆ ◆
藤原タツミと野村フジコは日が暮れはじめた街を歩いていた。タツミ一人ならその地味かわいさにアイドルを疑われかねないところ、フジコを連れていれば安心だった。
「有栖川さんと針宮さん、どうしてるかな。ちゃんと逃げてるかな( *´ω`* )」
タツミが心配そうに言う。
「有栖川さんは激つよだから心配ないダスよ(๑•̀ㅂ•́)و✧」
フジコが太鼓判を押す。
「心配なのは針宮さんダスなぁ……( ˘•ω•˘ )」
その時、高いビルの上に設えられた巨大モニターに、神田政子首相の顔がでかでかと映し出された。
『国民のみなさん──』
薄ら笑いを浮かべ、首相が告げる。
『今夜8時、伝説の終末アイドルの公開処刑を生配信いたします』
その後ろから、黒田の一人が針宮ハナを羽交い締めにして現れる。
『このアイドルは、終末アイドル有栖川アリスがこの世で唯一心を許す友達です。このアイドルを人質にとっている限り、有栖川アリスは抵抗できません。バラバラにして殺し、それでも再生するようなら、ありとあらゆる方法を試して見ることにいたします。きっと硫酸のプールにでも落としてやれば死ぬことでしょう。ウッフッフッフ……』
モニターを見上げながら、タツミとフジコが揃って声をあげた。
「針宮さん……!Σ(º ロ º๑;)」
「有栖川さん……。ウググ……!٩(๑ ー̀εー́ ๑;;)۶」
『かなり残酷な映像となるとは思いますが……、アイドルは人間ではありません、周知の通り、昆虫のようなものです。害虫退治のようなものだと思って楽しくご覧ください』
首相の顔がカメラに近づき、歪んだ笑いを強くした。
『アイドルを擁護する愚か者たちに告げます。おまえたちの信じる終末アイドルとやらが死ぬところを、しっかり目を開けてご覧なさい! おまえらの希望とやらを完全に潰してあげましょう!』
13
フジコが拳を握りしめ、鼻息荒く言った。
「助けに行くダス! 有栖川さんには恩があるし、針宮さんは友達ダス! ほうってはおけぬっ!٩( ๑`ε´๑ )۶」
「エライよ、フジコちゃん! それでこそボクが好きになったひとだ!(-´∀`-)」
「タツミくん、照れるダスー! (*/∀\*)……はっ?」
「あっ!(*゜ロ゜*)」
タツミが慌ててフジコの手を引っ張り、駆け出した。
フジコの紅く染まったほっぺたが、茶色くなりはじめている。
「こんな時に……サナギ化始まっちゃった!.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
「いや、いいことだよフジコちゃん。アイドルに羽化すれば無敵になれる。無敵になってから二人を助けに行こう('▽'*)」
路地裏に入り、誰もやって来なさそうな袋小路を見つけると、タツミがフジコの手を塀につかせた。その姿勢でみるみるうちにサナギ化は進み、すぐにフジコは物言わない蝶のサナギとなった。
「あっ……(*゜ロ゜*)」
タツミが声をあげると、慌ててフジコの隣に並ぶ。
「ボクも始まっちゃった( *´ω`* )」
つるべ落としで暗くなる秋の夜、二つのサナギが仲良くコンクリート塀にくっついて、羽化の時を待った。
30分ほどで羽化は始まった。
ピシリと背中からサナギを割って、紫色の光を放ちながら、くしゃくしゃな羽根のついたフジコの背中が現れる。
タツミの羽化も同時だった。まだ濡れて縮こまってはいるが、薄緑色の透き通った羽根がサナギの中から現れた。
「タツミくん……☆*.+゜(๑ÖㅁÖ๑)♡」
「フジコちゃん……(*´∇`*).。.:*✧」
二人が背中の羽根を、揃って広げた。
タツミはウスバカゲロウの羽根だった。まるで羽根の生えたピーター・パンのようなかわいい姿だ。
フジコはアゲハ蝶の羽根だ。牛乳瓶メガネはなくても目が見えるようになっており、セクシーな美女がそこに出現していた。太っていた体はムチムチでボンキュッボンなナイスボディに変わっており、セーラー服はセクシーな紫のナイトドレスに変わっている。
「綺麗だ……、フジコちゃん♡*。( •̀∀•́ ).。.:*♡」
「タツミくんも……。え、おやあっ!?Σ(๑0ω0๑;;;)」
気づけばギャラリーがたくさん集まって、二人の羽化を見物していた。お互いに見とれるあまり気がつかなかった。
「アイドルだ……」
「アイドルだ……」
「羽化したぞ」
人間たちだった。老人から若い者まで、男女さまざまな20人ほどが、羽化したばかりの二人を袋小路に追い詰めるような形でそこに立っていた。
「しまった……。見つかっちゃってた……(´・ω・`;)」
「どうするダスー!?.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
人間たちの手が、前へ伸びて来た。襲いかかられ、首でも締められるものと二人が身を固くすると、その手はすべて地面につけられた。
「アイドル様!」
「どうか我々をお導きください!」
「あれっ……?(´・_・`)」
「おろっ……?(๑´•ω•`๑)」
「我々は『アイドル解放軍』の者ですじゃ!」
リーダーらしき老人が説明した。
「アイドルが迫害されるこの現状を見てはおられんでした! どうか我らを率いて、終末アイドル様を救出してはくださらんか!」
二人は顔を見合わせ、にっこり笑った。
「もちろんですよ、おじいさん(-´∀`-).。.:* ♬*゜」
「ワタスら、最初からそのつもりダス♡*.+゜(๑¯∇¯๑)」
「おい! そこで何をしている!」
背後から厳《いか》めしい大声が駆け足でやって来た。振り返った全員がそこに二人組のアイドル粛清部隊の黒いスーツ姿を認めた。
「来やがったな」
アイドル解放軍たちが覚悟を決める。
「アイドル様をお守りしろ!」
「戦うぞ!」
それぞれがポケットや懐から武器を取り出す。カッターナイフやスタンガン、野球のボールといった──
「そんなもんで勝てるわけないダス!.˚‧º·Σ(இдஇ )‧º·˚.」
「相手は銃だよ!?Σ(゜Д゜;)」
タツミとフジコも覚悟を決めた。自分たちを支持してくれるファンたちを死なせるわけにはいかない。
「行くよ? フジコちゃん(*´∇`*).。.:*✧」
「やるダス! タツミくん!( ー̀дー́ )و.。.:*✧」
二人がステップを踏んだ。シンクロ率の奇跡的なまでに高いダンスがそこから始まる。
「うっ……!?」
アイドル粛清部隊二人の動きが止まる。
「美し……いっ!?」
アイドル粛清部隊は男女ペアで行動するのが常である。女性アイドルは男性を、男性アイドルは女性を魅了してしまうので、それに対抗するためだ。
しかしこの男女混成アイドルユニットの前には成す術もなかった。
「見て、見て!☆*.+゜ヽ(〃^-^)/」
「ワタスたちを見るダスー!☆*.+゜ヾ(๑╹◡╹)ノ」
アゲハ蝶とウスバカゲロウの羽根をそれぞれに揺らしながら、お伽噺のお姫様と王子様が歌い踊るように、二人は愛と夢の国を路地裏に作り出す。
「ラヴ☆ラヴだけど許してね(﹡ˆᴗˆ﹡)✩⃛」
「ラヴ☆ラヴだけど許してね✩⃛(﹡ˆᴗˆ﹡)」
この時、二人のユニット名が決定した。『ラヴ☆ラヴだけど許してね』──おそらくは史上初の公認カップルアイドルユニットの誕生である。
「うおー!」
黒スーツの男が銃をサイリウムのように振ってはしゃぎ出す。
「きゃー!」
黒スーツの女も同様にはしゃぎ出した。
「今だ! みんな! その二人を取り押さえて!(`・ω・´).。.:*✧」
タツミが視線でアイドル解放軍のひとたちにそう告げる。
しかし彼らもまた盛り上がってしまっていた。
「いえーい!」
「最高!」
「かわいい!」
「かっこいい!」
その場にいる全員がはしゃぎ出した。カッターナイフやスタンガン、野球のボールをサイリウムのように振って踊り出している。
祭りが終われば黒スーツ二人が正気に戻り、粛清を開始することだろう。
「ど……、どうするダス、タツミくん? これじゃワタスたち、ずっと歌って踊ってないといけないダス……(*´•ω•`*;)☆*.+゜」
「仕方がない。ボクたちであの二人をやっつけるよっ(`・ω・´)و☆*.+゜」
タツミとフジコは前へバレリーナが揃って飛ぶように動くと、観客の中へ入って行った。
大歓声が沸き起こる。
二人の黒スーツが手を振る。
「アゲハちゃん! こっちへおいで!」
「キャー! カゲロウくん、こっち来て!」
タツミは女性のほうへ歩み寄ると、甘いその微笑みをゆっくりと近づけた。「やぁ、素敵なベイビーだね( •̀∀•́ ).。.:*☆」と言うなり、いきなりぎゅっと、抱きしめた。
フジコは男性のほうへ歩み寄ると、妖艶に微笑みかけ、「ワタスの唇は真っ赤な薔薇ダスよ(๑ ิټ ิ).。.:*♡」と決め台詞を口にしながら、男の唇を親指で弄ぶと、そこに唇を重ねた。
二人が目をハートにして失神したのを見届けると二人は踊りをやめ、解放軍のみんなに言った。
「この二人を取り押さえて!(*•̀ㅂ•́)و✧*。」
「これがアイドルの戦い方ダス! 人殺しはしないダスよ(*•̀ㅂ•́)و✧.:*♡」
きっとアリスもこのアイドルの力で戦い、血なんて流さない──二人はそう祈っていた。
14
有栖川アリスは一人、ここへやって来た。
青白い月を背に、夜の首相官邸が、禍々しい怪獣のように、アリスの前に立ち塞がっていた。
ガラス張りの建物の明かりはすべて消えている。しかし奥のほうにぼうっと幽霊屋敷のようなゆらめきが見える。エントランスの脇の高いところで日の丸の旗が、初潮を迎えた少女の下着のようにだらしくなく夜風に揺れていた。
セーラー服はもう血と泥でボロボロだ。シルクのようだった黒髪も、もう三日も洗っていない。
破壊してやるというように、鋭い目で月を睨むと、アリスは入口の前に立った。自動ドアは素直に開き、彼女を中へ迎えた。
スマホを見ると、生配信は既に始まっていた。
『国民の皆さん! 終末アイドル有栖川アリスが官邸内に入りました!』
自分の姿が上のほうから映されており、何子かはわからないが黒田の声が実況している。
『ショーの始まりです! さぁ、有栖川アリス! その、目の前の観音扉から中へ入って来い!』
アリスはキッ! と前を睨みつけると、目の前のおおきな観音扉を蹴破った。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「よく来たな! 有栖川アリス!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
広い会議室のような部屋に犇めくゴキブリのように、27人の黒田がそこに立っていた。
「これはこれは……」
アリスが呆れたように言う。
「キモすぎる光景ね」
「終末アイドルとやらはここで終末を迎える!」
27人の黒田が口々に罵声を浴びせて来る。
「何が終末アイドルだ、バーカ!」
「人間とは違う生き物のくせにチヤホヤされやがって!」
「てめーはこの黒田《くろだ》銃惨子《じゅうさんこ》が殺す!」
「さっさと始めようぜ!」
「処刑だ!」
「処刑!」
「殺す殺す!」
「てめーはこの黒田《くろだ》壱拾《にじゅう》|奈々子《ななこ》が殺す!」
「……気絶しそう」
小馬鹿にするようにアリスが言い返す。
「私、集合体恐怖症なんだよね……」
奥のドアが開き、28人目の黒田がハナを後ろ手に縛って現れた。
それを見るとアリスは泣き叫ぶようにその名を呼んだ。
「ハナ!」
「アリスちゃん!.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
ハナも叫び返す。
「踊って!.˚‧º·(இ□இ )‧º·˚.」
「……踊れる気分なわけないじゃない」
「踊ってこいつらを魅了してやるのっ!.˚‧º·(இ▽இ )‧º·˚.」
「無理無理」
「そんなら何しに来たのよぉっ!?.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
「あんたを助けに来たに決まってんでしょ」
「嘘に決まってるじゃんっ! アリスちゃんが来たらあたしを解放するなんて…….˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
「だろうね」
アリスは諦めたように笑うと、眉を吊り上げた。
「でも……私は終末アイドル有栖川アリスなんだから! コイツら全員倒して、神田政子首相も殺してやるんだから!」
「いいのか?」
黒田がハナの頭部におおきな銃を突きつけた。
「お友達が死んでも?」
そしてニタァーッと笑う。
フッとアリスは笑った。
自分がこれほどのバカだとは思わなかったのだ。
ただハナを助けたいという感情に動かされて、勝算もなく敵地に乗り込んでしまった。
結末は見えていた。自分はここで殺され、ハナも死ぬ。未来は見えなかった。
それでも無理矢理のように、アリスは脳裏に幸せな未来を見た。
「ハナ……」
大好きになったばかりの親友をまっすぐに見つめて、微笑んだ。
「ロクでもない人生だったけど……最後にあんたと一緒に天国行けるんなら、幸せかも」
「処刑開始!」
先頭の黒田が銃を構え、叫んだ。
銃声が一発轟いた。
血肉を散らしてアリスの頭部が吹っ飛ぶ。
「撃て! 撃て!」
銃撃の嵐が始まった。
官邸内を銃声が埋め尽くす。
「アリスちゃああああんっ!!.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
ハナの絶叫はそれを切り裂くように響いた。
頭部にとどまらず、大口径のライフルの銃弾がアリスの全身を砕き、血と肉のゴミと変えて行く。
「よし! 止《や》め!」
号令とともに銃声が止んだ時、白い床には有栖川アリスだったものが、ただ汚物のように広がっていた。
「……これでもまだ再生しやがるのか?」
固唾を飲んで28人の黒田が見守る中、アリスの血は外へ向かって広がるばかりで、再生する様子はない。
「フ……、フハハハハ!」
黒田たちが勝ち誇って笑いはじめた。
「どうだ、アイドル信奉者ども! 見てるか? オマエラの崇める終末アイドルとやらは死んだぞ!」
ハナは天井を仰ぎ、止まりそうな呼吸をしながら、ただ涙を流していた。
「よく『アイドルは無敵』などというが、そんなのは『かわいさが無敵級』というだけの意味だ。何をされても死なないということではない」
黒田の一人がカメラに向かって吐き捨てる。
「バラバラにされても死なない生き物など、そんなファンタジーみたいなものはいないのだ!」
「人質ご苦労さん」
そう言うと、ハナを連行している黒田がそのこめかみに銃口を当てた。
「あっけなかったな。もう少し楽しいショーになるかと思ったが、まぁ、いいか」
そして銃爪を引いた。
ハナの頭部が砕け、飛び散った。
ぽよよーんと、音も立てずに、色とりどりのシャボンの泡のように、いっぱい飛んだ。
「え……」
「な……!?」
「なんだコリャ!?」
部屋を埋め尽くすほどに飛び散り、ふわふわと踊るシャボンの泡を、すべての黒田が呆気にとられて凝視した。
それはすぐに元あった場所へと戻りはじめると、元通りの針宮ハナの顔となって固まった。「あれっ?(๑´•ω•`๑)」というような表情をしている。
「こ……、コイツ!」
すべての黒田がハナのほうを向くと、一斉にそこへ銃弾を浴びせた。集中攻撃を受けたハナの全身が吹っ飛ぶ。しかし血も肉も飛び散らなかった。代わりにファンシーな色のシャボン玉が派手に飛び散り、部屋の隅のほうへ飛んで行くと、そこでまた針宮ハナの姿に再生する。
「えーと……(´・ω・`;)」
ハナは困り顔を収めると、すぐにアイドルの笑顔をそこに花開かせた。
「ハナちゃん、ふっかぁーつ!❀.٩(*´▽`*)و❀.」
そして背中から翼を広げた。
大天使のような、白くておおきな鳥の翼だった。
きらきらりーん、と光のオーラがその身を包む。
「ま……、まさか……!」
黒田たちが口々に叫ぶ。
「終末アイドルというのは……」
「コイツのほうだったのか!?」
15
針宮ハナはにこっと笑いながら、心の中では混乱していた。
自分は一体何なのか、さっぱりわからなくなった。
そういえば小学生の時、高いところから落ちて骨折したのがすぐに治ったけど、あれって確かスカイツリーの上から落ちて、一瞬で完治したんじゃなかったっけ? と思い出す。
じりじりと黒田たちが距離を詰めて来る。
「攻撃はするな。弾が無駄になるだけだ」
「有栖川みたいな攻撃力はないようだ。捕まえろ」
「捕まえて一生地下牢に閉じ込めておけばいいだけだ」
「あるいはやはりアレを使うか?」
「硫酸のプールか。……いいな」
「アレの中に落としたらどうなるかな? 再生しては溶かされる無限地獄を味わうことになるのかな?」
「ククク……。楽しそうだ」
そんなところに落とされたらどうなるのか、ハナ自身にもわからなかった。黒田たちの言う通り、無限の苦しみを味わうことになるのか……。自分の能力がさっぱりわからない。
自分がどういう生き物なのか、さっぱりわからなくはなったものの、ひとつだけ確実にわかっていることがあった。自分はアイドルなのだ。
ハナは咄嗟にかわいいポーズを決めると笑顔を作り、28人の黒田をまとめて魅了しにかかった。
「おねーさんたち、あたしのかわいさを見よっ!❀.٩(*´▽`*)ゞ♡❀.」
先頭の列の黒田がやられた。表情がとろんとニヤけ、殺意を無にされた。
しかしそんな黒田を盾にして、後ろのほうの黒田たちが、ハナを見ないようにしながら迫って来る。
背後の観音扉がばん! と音を立てて開いた。
タツミとフジコを先頭に、アイドル解放軍のみんながその勇姿を現した。
「ハナちゃん! 助けに来たダス!✿*:・゜٩(๑`^´๑)۶.*✿」
「ボクたちが来たからにはもう大丈夫!☆*.+゜( •̀∀•́ )b.。.:*✧」
「うわ! 配信見てたけど生で見るときめぇ!」
「同じ顔がいっぱい!」
「みんな!♡*.+゜(๑´ㅂ`๑)♡*.+゜」
喜ぶハナのほうから黒田がアイドル解放軍のほうを振り返る。銃口を一斉に向けた。
「タツミくん! 出番ダス!✿*:・゜٩( ๑`ε´๑ )۶.。.:*♡✿ฺ」
フジコの声とともにタツミがかっこいいポーズを決めた。
「お姉さんたち、ボクと遊ばない?✧( •̀∀•́ )ゞ•*¨*•.¸¸☆*・゜」
「うっ……!?」
黒田たちの動きが止まる。
「尊い……っ!」
前の黒田を盾にする黒田も男の子アイドルの魅了には勝てなかった。身を乗り出し、自ら見たがり、タツミの力にハマった。
「かわいいーっ!!」
すべての黒田がタツミのダンスに夢中になり、一緒に踊り出す。
その隙にフジコがハナのほうへ駆けた。
「ハナちゃんっ! 大丈夫ダスか!?☆.。.*(๑ ー̀εー́ ๑)」
「あたしは大丈夫だよ❀..(◦˙▽˙◦)❀」
ハナは安心させるように笑った顔を、すぐに曇らせる。
「……でもアリスちゃんが〣( ºΔº )〣」
「大丈夫。見るダス☆.。.*٩(*`・ω・´*)」
「あっ!?Σ(º ロ º๑)」
アリスの肉片が一箇所に集まりはじめていた。ゆっくりと、その姿を取り戻して行く。
「アリスちゃん……! よかった! やっぱりアイドルって不死身なんだね(இ▽இ )」
「いや……たぶん彼女は特殊ダス。それとたぶん……ハナちゃんも(๑´•ω•`๑;)」
タツミが魅せつけるダンスに黒田たちは夢中でアリスの再生には気づいていない。
解放軍のひとたちも、女性のみならず男性までもがタツミを応援して盛り上がっていた。
ハナとフジコにはタツミの魅了の力は届いていない。アイドルの力はアイドルには通じないのだ。
アリスは姿を取り戻すと、ハナを見つめた。
「ハナ! ……無事だったか」
バラバラになっている間の記憶はないようだ。衣服までは再生されず、生まれたままの姿だった。
「アリスちゃん! また会えてよかった!.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
気配を察して、黒田たちが全員、振り返った。アリスへの憎しみが、男の子アイドルの魅了に勝った。
「おい!」
「アイツ、再生したぞ!」
「バケモノが!」
「もう一度バラバラにして硫酸のプールに沈めろ」
「クッ……!」
アリスは明らかにダメージは負っていた。すぐには動けないようだ。
ハナがおおきな翼を広げた。
自分がアリスを守らねばと思った。何が出来るかはさっぱりわからなかったが、テキトーに必殺技名を叫んでみた。
「ファイナル・アイドルパワー・エクスプロージョン!☆.。.*\(*`Д´*)/.。.:*✧」
何も起こらなかった。
苦しまぎれに翼をはためかせてみた。
「ウワーーーッ!?」
「ギョーーーーッ!?」
凄まじい風が起こり、黒田たちがすべて吹っ飛んで壁に圧しつけられる。
「ウワーーーッ!」
「キャーーーッ!?」
解放軍のひとたちも吹っ飛んだ。壁に激突して大ダメージを受けている。
「グウーーーッ!? ダス! \∑(✘Д✘๑ )/」
「あきゃーーーっ!?∑( ◦д⊙)/」
フジコとタツミも吹っ飛んだ。
ボロボロのアリスも飛んで行く。
ハナが泣き叫ぶ。
「ウワアアーッ!? 余計なことしちゃった!?.˚‧º·(இдஇ )‧º·˚.」
しかしアリスは途中から横に回転し始めると、裸の背中から生やした短い翼をナイフのように尖らせた。そのまま壁に貼りついている28人の黒田たちめがけて飛んで行く。
「まとめて死ね」
壁を走る車のように、一気に28人すべての首を薙ぎ斬った。
頭部を失くした黒田たちの体が、壁をずり落ち、次々と床に斃れる。
そのうち一人の体から黒スーツを剥ぎ取ると、それを身に着けながら、アリスがハナを振り返る。
「またハナに助けられたよ。……凄いね、翼が生えたんだね。もしかして千年に一人の伝説級アイドルって、あんたのことだったの?」
ハナは放心していた。
何か言いたそうにしながら、言葉が出て来ないようだ。
『ハハハハ!』
突然、部屋の壁の上部に取りつけられたモニターが点り、そこに神田政子首相の顔がおおきく映し出された。
『まさか黒田を全員やるとはね……!』
「神田……!」
アリスがモニターを睨みつける。
『私は二階の中央にある大広間にいる』
余裕たっぷりの笑顔を見せると、神田政子首相は言った。
『そこまでおいで。遊んであげましょう』
周りを見ると、タツミもフジコも壁に叩きつけられて気を失っている。
ハナは顔を上げると、アリスに言った。
「行こう、アリスちゃん!(*`・ω・´*)و」
そして付け加えた。
「……でも人殺しはダメ! アイドルの力で首相をメロメロにしてやるのよ!❀.(*`・□・´*)و❀.」
16
階段を上りながら、ハナとアリスは意見が食い違っていた。
「正義の戦士ぶるわけじゃないけど、神田みたいな巨悪が許せないの。首を飛ばしてやるわ」
「ダメだよ、アリスちゃん。神田首相にも何かアイドルを迫害しないといけない理由があったんだよ。改心してもらえばそれでいいじゃない( `•д•´ )و❀.」
「いや、アイツは殺す。ハナの親友はアイツのせいで死んだんだぞ? 許せるのか?」
「アイドルは笑うものだよ。辛いこととかいっぱいあったけど……、それでも笑うのがアイドルなの❀.(ღ˘ㅂ˘ღ)❀.」
ハナは目を瞑り、胸に手を当てた。
「悲しい涙なんて、もう見せない。アイドルが涙を見せるのは、嬉しい時だけなの♡*。( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ).。.:*♡」
「つまりアイドルは虚像ってこと?」
怒りに燃えていたアリスの目が、急激に冷めた。
「辛いことや許せないことがあっても、それは自分の胸の中だけに秘めて、人には見せない? ばっかじゃないの? 辛かったら思い切り泣いて、許せないやつがいたら正直にブッ殺せばいいのよ。アイドルだって自分の心があるんだから」
「とにかく人殺しはダメっ( `•д•´ )و❀.」
「神田が何人アイドルを殺したと思ってるの? やられたらやり返すのよ」
「ダメっ( `•д•´ )و❀.」
「……はいはい」
二階に上がりしばらく歩いていると、音楽が聞こえて来た。ショパンの『華麗なる大円舞曲』のピアノ演奏が、どこかにあるスピーカーから静かに流れていた。
どこからか実況生配信されている。アリスがスマホを見ると、天井のほうから自分たちの姿が映されていた。黒スーツを着て長い黒髪の乱れた自分の姿は悪魔のように禍々しく、白いおおきな翼をユラユラさせながら歩くハナは天使のように見えた。
「神田! 来たぞ!」
アリスが大声で告げる。
「姿を見せろ! 臆病者!」
すると静かな大広間に、ふいに笑い声が響いた。
「さっきからここにいるわよ?( ー`▽ー´)
」
「えっ?」
「顔文字?Σ(*゜ロ゜*)❀.」
薄暗い大広間に置かれているソファーの上から人影が立ち上がった。きっちりとスーツを着込んだその後ろ姿はテレビで見慣れたものだった。神田政子総理大臣そのひとだ。ひっつめ髪の顔が振り向き、薄暗闇の中でニタリと笑った。
「よくここまで来られたわね。褒めてあげるわ(*`▽´*)」
コツコツとハイヒールの音を鳴らし、近づいて来る。
「語尾に顔文字……。おまえ……」
「アイドルなのっ!?(*゜ロ゜*;)❀.」
しかしその背中に羽根はなかった。
「ふふ……。早い子で13歳から羽化が始まることは、あなたたちもご存知よね?( `•―•´ )」
神田首相が両腕をゆっくりと広げる。
「でもこれは知ってる? 50年羽化しなかったアイドルには特別な力が宿るの(*`・▽・´*)」
その腕を羽ばたかせるように、振った。
「私は63歳になったの。遂に50年羽化しなかったのよ!( ✧▽✧) 」
黒い突風が吹き荒れ、アリスとハナが勢いよく後ろへ飛ばされた。
「なるほどね」
アリスは短い羽根でバランスを取り、すぐに着地する。
「あなたがアイドルを憎む理由がなんとなくわかったわ」
「うわーーーっ!\(๑0ω0๑;)/」
ハナは壁に叩きつけられてバラバラになり、大広間に色とりどりのシャボン玉が飛び散った。
「『わかった』だと? ……小癪な( ✧Д✧) 」
首相の顔から笑いが消えた。
「おまえみたいな小娘に何がわかる!? 私がアイドルを憎む気持ちがただの『嫉妬』だとでも言うつもりか!?( ✧□✧)」
アリスが身体を回転させた。
短い羽根をナイフのように尖らせ、首相の首を斬りに行く。
「止まれ( `•▽•´ )」
神田首相がそう言うと、まるで命令を聞くようにアリスの攻撃が止まった。
「何……? 何をしたの?」
アリスの顔に驚きの色が浮かぶ。
「私は支配者……。日本の最高司令塔であり、アイドルを統べる者でもあるのよ(*`▽´*)」
神田首相が再び両腕を広げる。
「これこそこの屈辱の50年で授かった力! 見るがいい!(*´∀`*)ノ」
飛び散っていたシャボン玉が素早く首相の前に集まると、ハナの姿に固まった。具現化すると同時に踊り出す。
「首相さんっ! アイドルは楽しいものでしょ! 踊りましょ! ❀.\(*´∇`*)」
楽しませようとしたが、首相は楽しまなかった。アイドルにはアイドルの力は効かないのだ。
「おまえみたいな脳天気なアイドルが一番ムカつくのだ(๑✧ᴗ✧๑)ノ」
首相が広げた腕を、振った。
「喰らえ! ウィングレス・エクスキューション!\( ✧▽✧) ノ゛」
「きゃあっ!? Σ(;:°;Д;°:;)」
ハナが殺された。一瞬でだった。
アイドルとして、殺されたのだ。その背中に生えていたおおきな白い翼がもがれ、塵のように、煙のように消えてしまった。
「つ……、翼が……(; ºωº ;)」
「これでおまえは無敵ではなくなった(*`ᴗ´*)」
首相の手が、無防備なハナの首元に伸びる。
「私の破壊技『ブラック・ノーウィンド』を受けて死ね!( ✧Д✧)9m 」
横からアリスが飛んで来た。
短い羽根をナイフのようにして、首相の伸ばした腕を切断しようとしたが、寸前でかわされた。
「あなたのそれ……、アイドルの技じゃないわよね( ˙ㅿ˙ ;)」
首相が呆れて言う。
「語尾に顔文字もつかないし……。あなたは一体何なの?( ˙ڡ˙ ;)」
「私は終末アイドル有栖川アリス。この末法の世に現れる、千年に一人のアイドルだ」
「やっぱり主人公はアリスちゃんだよね。あたしなんかじゃ申し訳ない」
ハナが言った。翼をもがれ、語尾からは顔文字ももがれていた。
「笑わせる!(*`▽´*)」
首相が大広間に高笑いを響かせた。
「終末アイドルとは私のことよ! アイドルを終わらせるアイドルという意味でね! 皆殺しの終末アイドルとはこの私のことだ!( ✧▽✧) 」
アリスが飛んだ。短い白い翼を広げて。
「貴様も喰らえ! ウィングレス・エクスキューション! ( ✧Д✧)9m」
アリスの背中から翼がもがれた。
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アリスの短い翼が、根元からもがれた。
翼は煙のように空中で消え、アリスは床に墜落すると横向きに滑った。
「ハハハハハ!(*`▽´*)」
神田首相が勝ち誇って笑う。
「これで貴様らはもうアイドルではないな!(*`▽´*)」
「アリスちゃん」
先に立ち上がっていたハナが手を貸し、アリスを立たせる。
「大丈夫?」
「フン……」
アリスは冷めた目で首相を睨みつけた。
「どうせ中途半端な翼だ。あんなものがあっては私は中途半端な悪魔のようなものだった。これで本物の悪魔になれる」
「言い残すことはそれだけ?( ✧▽✧) 」
首相が腕を広げた。
「これで終わりだ! ブラック・ノーウィンド!( ✧Д✧)9m」
何も起こらなかった。
「……」
「……あれ?」
覚悟して目をきつく閉じていたハナも、目を開けて睨みつけていたアリスも、拍子抜けしてアホ面になる。
「……はっ? そうか、しまった!( •̀ㅁ•́;」
首相が呟いた。
「私の必殺技はアイドル相手にしか効かない……。アイドルじゃなくなったコイツらには効果がないんだ!( `•д•´ ;)」
「じゃあ……ここからはタイマンの殴り合いね?」
アリスが嬉しそうに拳を握りしめた。
「悪いけど老人を労る気持ちはこれっぽっちもないから、覚悟してね?」
「ま……、待ってくれ!\( `•д•´ ;)/」
「どの口が言うの?」
ちょうど黒スーツのポケットに入っていたメリケンサックを拳に装着すると、アリスがそれを前に突き出した。
「ぐふぉ!Σ( `ω´ ;)」
首相が顔をかばって腕でガードする。
しかしアリスの攻撃は届いてはいなかった。
「ダメだよ、アリスちゃん」
「……そこをどいて、ハナ」
ハナが首相をかばって、立ち塞がっていた。
「なんでそいつをかばうの? そいつはハナの親友を殺させたやつだし、あんたはもうアイドルじゃないのよ?」
「あたしはアイドルだよ」
ハナは顔文字の(๑❛ᴗ❛๑)のように笑った。
「羽根も顔文字もなくなったけど、心はアイドルなの」
「そいつは改心なんかしないわ。殺さないと──」
ハナが首相のほうを振り返り、ぎゅっと抱きしめた。そして言う。
「あなたはあたしたちアイドルにひどいことをしたわ。でも、だからってアイドルは人を殺さないの。どれだけ憎くても、どれだけ辛くても、笑うの。それがアイドルなの」
そして抱擁を解くと、にっこり微笑みかけた。
「あなたもアイドルならわかるでしょ?」
「天使か」
アリスの拳が、ハナの首を締めようとしていた首相の頬にめり込んだ。
「ぎひぇ!(;`д´ #)三」
「ハナちゃん! 有栖川さん!✿*:・゜٩( ๑`ε´๑ )۶.*✿」
そこへフジコが一階から駆け上がって来た。黒スーツから奪い取ったらしき大口径のライフルを担いでいる。
「助太刀するダス!✿*:・( ๑`ε´๑ )۶」
構えるなり、発砲した。
フジコの撃った弾は天井に穴を空けた。パラパラと落ちる瓦礫を浴びながら、首相が笑い出した。
「ひ……ヒーッヒッヒ!(;*`-▽-´*)」
「つまらないラスボスだったわね」
アリスが首相の胸ぐらを掴んで立たせる。
「たかが一国の首相ごときが終末アイドルのこの私を殺せるとでも思った? あなたは単なるオワコン・アイドルなのよ。さようなら……。この一発で顔面を砕いてあげる」
メリケンサックつきの拳を振るおうとしたアリスを、後ろからハナが抱きついて止めた。
「殺しちゃダメっ! 一国の首相は『たかが』じゃないからっ! きっと物凄い苦労しないと総理大臣ってなれないものだからっ!」
「アイドルの『魅了』の力で人心を攪乱してなったに決まってるじゃない。バカなの?」
「うん、あたしバカだよ! アイドルはかわいくありすればいいんだから、バカでいいの! でも、バカだけど、みんなを笑わせられるバカでありたいのっ!」
「離せ。コイツ殺させろ」
「離さないっ! 殺させないっ!」
そこへタツミが上がって来た。後ろからはアイドル解放軍のみんなもやって来る。
「有栖川さん、針宮さん。もう終わったよ(﹡ˆᴗˆ﹡)✩⃛」
「終わった?」
アリスとハナが揃って聞く。
「何が?」
「この戦いの一部始終が生配信されてて、国民がみんな見てた。それで神田首相の支持率が激減したんだ。アイドル粛清法は取り下げられた(-´∀`-)」
「ふーん……」
「へー……」
「どうしたの? 嬉しくないの?( ˙ㅿ˙ )」
「うん。コイツ殺さないと気が済まない」
「ダメ。わかるけど殺してはダメ」
「真田村さんのカタキを取りたくはないの? ハナ」
「取りたい。でもこのひと殺してもユキちゃんは戻っては来ない」
「何なに? どうしたの?( ˙ㅿ˙ ;)」
タツミが心配そうに、聞いた。
「早速『方向性の違い』発覚? アイドルユニット解散?(´・ω・`;)」
メリケンサックを外しながら、アリスが言った。
「……じゃあ、殺さない程度なら、殴っていい?」
ハナがにっこり答えた。
「うん! それならいいかも。かわいく笑いながら一緒に殴ろう」
「す……、すまなかった! 許してくれ(*`Д´;;;)」
命乞いする首相のほうへ、二人でくるっと振り向くと、二人揃って拳を振り上げた。
「「どの口が言うの?」」
ネットで国民の見守る中、二人のパンチは綺麗に動きを揃え、鼻血を散らして飛んで行く神田政子首相の姿を全国に晒した。
♡ ♡ ♡ ♡
神田首相は失脚した。
自分がアイドルになれなかった私怨で『アイドル粛清法』を強引に成立させたことが白日の下に曝されたのだ。
傭兵上がりでアイドル嫌いの黒田令子と知り合い、『支配』の能力で彼女を増殖させ、『魅了』の力で自衛隊を操り、『金』と『恐怖』の力で国民を操った。
国際的にも日本の民度が疑われることを危惧され、重い刑に処されることになった。
「かわいいだけのアイドルがチヤホヤされるなど、この世は間違っている!( ー̀дー́ )و」
処刑を待つ間、地下の留置所でずっと喚き続けていたという。
「私が羽化していれば! きっと実力も兼ね揃えた素晴らしいアイドルになっていたはずなんだ!( ✧Д✧) 」
◆ ◆ ◆ ◆
神田首相とは逆に、アリスとハナは、生配信を見ていた国民から大きく支持された。
羽根のなくなった二人はふつうの女の子になることも考えたが、デビューを望む民衆の声に背中を押され、遂に正式にアイドルとしてデビューすることとなった。
デビューするなり、アリスはダーティーなツッパリアイドルといわれ、ハナは天使のようなぶりっ子アイドルと呼ばれ、80年代を席巻したあの二大アイドルの再来ともてはやされた。
あのおおきな橋の下の河原を二人は訪れた。アイドルのたまごがあった、あの河原だ。
「あの子、孵化してるかな」
アリスが呟いた。
「孵化してなくても連れて帰って育ててあげようよ」
ハナが嬉しそうに言う。
「毎日テレビや配信チャンネルに出ろ出ろって……もう疲れたわ。『たまごを見に行こう』って誘ってくれてありがとう。いい癒しになりそう」
「ふふ……。アリスちゃん、媚を売らないから、チヤホヤされるのも苦手だもんね」
ハナがくすくすと笑う。
「ね、そろそろユニット名決めない? あたしたちの……」
「首相が言ってたアレでいいんじゃない?」
「アレって?」
「『皆殺しの終末アイドル』──私はほんとうに殺すし、ハナはそのかわいさでみんなをメロメロに殺すでしょ」
「あっ、いいね! じゃあ名前を後ろにつけて『皆殺しの終末アイドル アリスとハナ』にしようよ」
前を見ながらハナが声をあげた。
「あっ!」
草むらの中に、産まれたばかりのアイドルの赤ちゃんがお座りをし、こちらを見ていた。
アイドルの幼虫はぶさいくだ。地味な見た目の上にあまりにも地味すぎる顔をしていた。
それでも二人の目の中で、その子は愛さないわけにはいかないほどにかわいく、天使のように映った。
女の子だった。
ハナはその子を抱き上げると、すぐに名前をつけてあげた。
「おかえり、ユキちゃん。あたしたちがママだよ」
(おわり)
執筆の狙い
顔文字をふんだんに使用したバイオレンス・アクションです。42,320文字。
顔文字を小説に使うことについて、その効果についての意見をお聞きしたいです。ブラウザバックされた場合はどのあたりで読むのをやめたかを教えてください。
去年完結させたものですが、こちらでの意見を参考に、冒頭を大幅に書き直しました。引きのある冒頭になっているかどうかもお聞きしたいです。
よろしくお願いいたします。