作家でごはん!鍛練場
くもった夜に

ココア物語

 小説を書きたかった。
 僕はカルチャースクールのチラシを眺め、文章教室に申し込む。水曜の午後三時、僕は職場を抜け出して、教室に向かった。テナントビルの階段を登り、受付を済ませる。教室の席に着くと、僕ひとりだった。
 三時を過ぎて、講師がやって来る。小柄な老人だった。「まだ、誰も、来てないのかな」。老人はうろうろと歩きながら、時間を潰す。
 五分が過ぎ、老婦人が教室に入ってきた。
「ごめんなさいね、遅れちゃって」。ひとしきり自分の近況報告と他の参加者の体調不良について話し、欠席連絡をする。講師は静かに頷いて、老婦人の話が終わるのを待った。十分ほど過ぎて、ようやく講義が始まる。
 講師が資料を配る。或る作家のデビュー作から代表作に至るまで、その変遷と背景、作家性についての話だった。訥々と語る講師の言葉に、中学の国語の授業を思い出しながら、僕は少し眠くなる。
 室内は暖房で暖められていた。ときおり冷たい風が、外から吹き込む。感染予防のためだろう。窓は開け放たれていた。外を走る電車の音が、講師の声を途切れとぎれに遮ってゆく。
 昭和についての語らいは、そのまま講師の思い出話にもなっていった。
「この作品は映画にもなったんだけどね。ヒロインを演じた女優が監督の愛人になっちゃって」
「まあ、先生」
老婦人も嬉しそうに笑う。
「その頃ぼくは高校の教師をやっていてね。その頃の写真」
脈絡もなくセピアに褪せたプロマイドを取り出し、老婦人に見せる。
「まあ先生、男前」
おだてられ、講師はまんざらでもなさそうに笑った。
 僕も写真を受け取り、なんのコメントもなく返す。つまらなさそうに受け取って、講師は教壇に戻っていった。
「今回は、『ココア』をテーマにした文章を、書いてみましょう」と講師は言った。
「ココアなんて、なんにも思いつかないわ。先生」
 上目遣いに困ってみせる老婦人に、講師はあれこれと言葉をかける。僕はその隣で、原稿用紙に筆を走らせ始めた。

ーー

「ココア物語」
 コールドスリープのカプセルが開き、僕は目を覚ました。機械が破損し、緊急覚醒プロトコルが作動したようだった。室内は暗く、寒い。換気口からは氷柱が垂れ下がっていた。他のカプセルは閉じたままか、既に空になっているものもある。
 電源を失った油圧扉は重い。僕は防護服を着て施設を出た。地球は寒冷期らしかった。世界が吹雪に染まっている。
 墜落した宇宙船が氷づけになっていた。惑星移住を試みた人たちは、結局、帰還してきたのだろうか。船のハッチは開かれている。船員たちは無事、逃げおおせたのかもしれない。
 施設から持ち出した通信機器のアンテナを伸ばす。ダイヤルを回してみても、吹雪の音と変わらないノイズが、スピーカーから聴こえるだけだった。僕はマイクに話しかけ、自分の生存を電波に乗せてミンコフスキー空間へと放射する。
 吹雪の止んだ朝、雪原の向こうに湯気が立ち昇っているのを見つけた。行ってみると温泉が沸いている。スノーブーツを脱ぎ、足を浸してみた。大地の温もりが、しびれるほど心地良い。ふやけるまで浸かっていると、雪原の向こうから少女が歩いてきた。
 少女も足を湯につける。
「こんにちは」
 話しかけてみたが、彼女は首を傾げて笑うだけだった。言語体系も時代のなかで変遷してしまったのかもしれない。
 僕はカバンからコップを二つ取り出し、食料パックのパウダーを入れた。お湯を注いで、彼女にひとつ手渡す。彼女は両手でコップを包むように受け取り、目を細めて飲んだ。
「ココア」と少女は言った。
 突如、雪煙をあげて、宇宙服を身にまとった一団が姿を現した。少女を囲んで声を上げる。
「スノースネイク わるい やつ おれたち いみん へいだん やっつける」
移民兵団は、少女を取り囲む。
 少女は興奮したように髪を温泉に浸け、手で逆立てて凍らせた。指で輪を作り強く吹き鳴らすと、無人のスノーモービルが自動操縦で駆けつける。
「ヒャハー!」
 奇声をあげながら、少女が飛び乗った。モヒカンの頭を振りながら、右手でチェーンを回す。移民兵団は、移民船から移民補助ロボットを出動させた。
 少女はスノーモービルでロボットたちを跳ね飛ばす。滑って転んだロボットは、モーターが冷えて動かなくなった。冬仕様ではないようだ。
 移民兵団が少女に光線銃を放つ。光線は少女をキラキラと輝かせた。科学力が魅力を引き立てる。移民兵団は無重力育ちなので、少し走ると息切れした。
 少女が投げたチェーンは、移民兵団の首に巻きついた。嬉しそうにスノーモービルを飛ばし、移民兵団を引きずる。雪煙が上がり、視界は白くけぶる。金属音が鳴った。重い鎖が僕にもからまっていた。
 僕は移民兵団たちと共に雪原を引きずられ、スノースネイクのアジト、洞穴の牢獄に閉じ込められた。洞窟のなかで、僕はチェーンを首に巻かれたまま、移民兵団にココアを淹れた。移民たちは懐かしそうにココアを啜る。あちっ、と顔をしかめるので、僕はふーふーして、と教えた。
 ガチャリ、と鍵が開く音がした。牢獄の扉の前に、モヒカンの少女がいた。少女は言う。
「逃げなさい」
 僕は少女を見て言った。
「きみは、スノースネイクなんかじゃなかったんだね」
「そうよ」
 少女は僕らに背を向けて言った。
「私はスノースネイクに潜入し、父、銀河警察ギャギャリオンの行方を探っているの」
 ギャギャリオン。誰だろう。コールドスリープから目覚めた僕は、この時代の状況を知らない。でも一応、少女に調子を合わせる努力はしてみた。
「ギャギャリオン、参上!」と僕は言ってみる。
 少女は目をキラキラさせて僕を見た。
「ギャギャリオンビーム!」
一秒で考えた必殺技を披露する。
「お父さん」と少女は泣いた。
 少女は目を輝かせ、ポーズを決めて、ギャギャリオンレディを名乗った。そして、スノースネイクを壊滅させるためにスノーモービルを駆る。スノースネイクの基地深くに潜り込み、幹部、ダークホワイトロボットファングの部屋の扉をぶち破った。
「一人でやって来るとは、おろかな娘だ」
ダークホワイトロボットファングは、魔術を使う。
「さん、に、いち、と数えて指を鳴らすと、あなたは眠ります。さん、に、いち」
指を鳴らすと少女は床に倒れ込んだ。
 僕は熱いココアを飲み終えると、洞窟を脱出し、少女の元に駆けつけた。
「おろかな人間よ。お前も我が魔術の餌食となるが良い」
 高笑いするダークホワイトロボットファングに、僕は言った。
「ギャギャリオンを、なめるなよ!」
 ロボットファングは言う。
「ギャギャリオン! お前の技は、全て解析済みだ!」
「なんだと!」
僕は驚いた。僕の技は全て解析されていたのだ。
「ギャギャリオンキック!」
試しに僕はロボットを蹴っ飛ばした。
「ぎゃー」
 ロボットはぼろぼろになって壊れた。

「お父様」
 ギャギャリオンレディは、モヒカンを夕日に染めて、僕に言った。
「ギャギャリオンレディ」
僕は静かに呟く。
「一つの悪は滅んだ。しかし、世界に、あれが、あるかぎり、えー、ギャギャリオンの、あれは、えー、続くのだ! 永遠に! さらば、ギャギャリオンレディ!」
と僕は言った。
 ダークホワイトロボットファングは、修理を受けながら言った。
「あれ誰?」

ーー

 僕は、文章教室をやめようと思った。

ココア物語

執筆の狙い

作者 くもった夜に
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小説を書きたいと思いました。そこで、文章を習いに行こうと思いました。でも僕はどこにも馴染めないのです。帰ってきて、落ち込んで、そのことを書こうと思いました。

コメント

偏差値45
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うーん、まあ、いい意味でくだらないね。
この種の話は嫌いではないけど。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」そんな気がしますね。
前半の大衆文学から後半でSFになってしまっているので、
前半は良かったのに残念という人もいるだろうし、
SFのみの方が良かったのに、という人もいるだろうからね。
結局、どちらもあまり面白くはないかな。
SFの方は情報量が多過ぎ。設定盛り過ぎ。
本来であればかる~く読ませるぐらいがちょうどいいと思うよ。
総じてあれもこれもと欲張り過ぎている気がしますね。

くもった夜に
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読んでいただき、ありがとうございました。
書きたいことも定まらないまま、書いてしまいました。
書けるようになりたいと行った教室が、老人のイチャつくサロンだったこと。
そう蔑んだところで、くだらない文章しか書けない現実。
どうしようもなく、けれど書きたい思いが刺激されて、書き捨ててしまった感じです。
すみませんでした。

夜の雨
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くもった夜にさん「ココア物語」読みました。

私も作者さんと同じような小説を書く学校へ行きましたね。
かなりむかしの話で生徒さんは10名ほどでした。
講師は大学の教授でしたね。
で、生徒の中に朝日新聞の相談役という老人がいました。
ほかの生徒さんも出版社の編集者ほか、面白い方がいました。
授業が終わったあとは、みんなで近所にある居酒屋で飲みながら親交を深めました。

学校では御作と同じように小説やら詩などを書いて、翌週にみんなで合評会をするわけです。

私はくもった夜にさんと同じようにSF小説を書きました。
人間のように育てらえれたロボット(アンドロイド)が、育ての親である母を殺してしまうというようなお話です。
ロボット三原則に関係するお話でした。

御作についてですが。

構成とかエピソードとかが薄いかな。
もっと練り込みが必要です。
学校では作者さんをいれて生徒さんは二名だったのですかね。
それと講師役の老人なら、話を構成するのがむつかしそう。
話題が必要だと思います。
基本は学校での面白いエピソードで話の骨格を作り、そこに作者さんの書いたSF小説をからめるというような描き方がよいかなと思いますが。
あと、作者さんの私生活を学校のはなしにからめるとか。
私生活と言っても、もちろん創作して作るわけですが。
たとえば作者さんに彼女がいるという設定にして、彼女に学校はどうだったかとか尋ねられて、「かわいい女の子が生徒さんにいてね」とかで、彼女がすねるとか。


御作のSF小説「ココア」について

主人公の青年。コールドスリープのカプセルから覚醒する。
少女。父を探している。(覚醒した主人公の青年と出会う)。
移民兵団(襲ってきた連中)

スノースネイク(何者なのか?)

主人公の青年が少女の父、銀河警察ギャギャリオンに成りすます。

上のようなネタになっていると思いますので、それぞれについて背景を掘り下げる必要がありますね。

そうしないと内容が理解できません。


それでは創作を楽しんでください。

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