交わることのない駅で、キミを待っている。
【同じホームに立っていても、同じ場所へ行くとは限らない。】
彼女は最近、俯いていることが多い。
その表情は、何かをこらえているように、何かを押し込んでいるように見えた。
だから、一言。
「何かあったの?」
と聞いてみることにした。
「んー、最近疲れてるからかな?」
「部活を頑張りすぎちゃったのかも」
「今日、数学の授業がすっごく難しくてさー」
そう、笑顔で言ってくれていた。
それなのに、
「なんでもないよ、気にし過ぎだよ〜。」
そうやって、笑って誤魔化すようになってしまった。
彼は彼女が好きだった。
もぐもぐとお菓子をほおばる顔も。
照れたようにえへへっと笑ってみせる顔も。
一緒にいる時間を、とても、とても愛していた。
もちろん、当たり前のように隣にいる未来を疑ったことはなかった。
だからこそ、不安だった。
最近の彼女の目は、涙の膜を張っているように見える。
元からそうなのかもしれない、けれど。
どこか遠くを見つめ、一拍遅れて返事をしてくる。
触れようとすると、少し身を引くような動作を見せる。
「何かあったの?」
そう聞くたびに、心がぎゅっと締まる。
もし、彼女が自分のことで、悩んでいるのであれば。
別れを切り出されてしまったら。
けれど、彼女はやっぱり。
「大丈夫だよ?」
と首を横に振る。
乾ききったその言葉が、本当に大丈夫ではないことを彼はわかっていた。
彼自身も、気づいていなかった。
彼の目が、彼女以外に向けられていることを。
教室にいるときも、
信号を待っているときも、
駅のホームで、話しているときも。
ふとした瞬間に、彼の視線が他の場所を追っていることを。
一人の少女が、いつも少し離れたところにいた。
話しかければ、普通に笑う。
彼や彼女と同じように、そこにいて、何かを待っている存在。
彼は無意識に、少女を眺めていた。
理由はなく、ただ、そこにいるから。
なんとなく、目に入る。
それだけだった。
少女の方はそれを知っていた。
彼が自分を見ていること。
そして、その視線には周りと同じ「いつもいる人」というだけの意味しかないことを。
彼には彼女がいる。
そんなことは、知っていた。
それは誰よりも、彼女自身が理解している。
だから、彼女は彼に話しかけることはなかった。
ただ、熱い恋心を宿して。
期待はせず、彼を見つめていた。
彼女と彼は、仲睦まじく、穏やかで、静かで。
まさに理想のカップルといったところだ。
笑い合って、手を繋いで。
並んで歩く後ろ姿が、とても、とても幸せそう。
寒いね、なんていいながら抱き合い、
熱いね、なんて周りが冷やかす。
外から見れば、なんの問題もないというか、釣り合っているカップル。
少女はずっと、ずっとそのうちの片方。
彼を、遠くから目で追いかけていた。
最初は、応援する気持ちだった。
周りが冷やかす様子を見て、笑顔でいた。
それが自分を苦しめることになるとは知らずに。
気づけば、少女は彼に恋をしていた。
気づくのが遅すぎる、なんてわかっている。
彼が呼ばれる声を聞いて、彼の声を聞いて。
けれど、そのざわめきが自分に向けられることはないだろうと思いながら。
少女は、今日も何も言わず、スマホの画面を伏せた。
彼女はある日、彼を見ながら思った。
ちゃんと、私は見られているんだろうか。
彼は隣にいる。
手も繋いでいる。
優しい言葉もくれる。
それでも、不安は消えなかった。
彼の視線が、時々、自分を通り越していくのを感じる。
それが誰に向いているのか、確信はなかった。
でも、気づいてしまったら、戻れない気がして、何も言えなかった。
「ずっと私だけ見ててよ」
その言葉を飲み込むたびに、心が少しずつ削れていった。
どろりと黒い感情に苛まれながら。
彼は、彼女を守りたいと思っていた。
俯く理由も、誤魔化す理由も分からない。
それでも、全部受け止めるつもりだった。
「僕がいるから」
そう言いたかった。
言えなかった。
言葉にした瞬間、彼女が壊れてしまいそうで。
彼は知らなかった。
自分の視線が、知らないうちに別の誰かを映していたことを。
知らなかったから、守れると思っていた。
知らなかったから、すれ違っていた。
少女は、ホームに立っていた。
反対側の電車が、風を切って通り過ぎる。
急行列車。
準急電車。
同じ場所に立っているのに、
同じ時間を生きているのに、
進む方向は、違っていた。
交わらない。
分かっている。
最初から。
それでも、好きだった。
自分が見られていないことも、
二人が同じ方向を向いていることも、
全部、分かっていた。
だからこそ、何も言えなかった。
ある日、彼は言った。
「ねえ、大丈夫?」
それは、心配からでも、期待からでもなかった。
ただの、最後の確認だった。
彼女は笑って答えた。
「大丈夫だよ」
その声は、どこか疲れていた。
彼女は、彼の隣で、また俯いた。
彼は、その横顔を見て、胸が締めつけられた。
三人は、同じ場所に立っている。けれど、同じ景色を見てはいない。
すれ違う急行列車。
交わらない準急電車。
反対車線。
戻れるのか、戻れないのか。
誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは、
誰も、嘘はついていなかったということだけだった。
【どこかの車線で、声をかき消すように、発車ベルが鳴った。】
執筆の狙い
はじめまして、白線と申します。
誰かが悪いわけではないのに、気持ちだけが少しずつすれ違ってしまう関係を描きたいと思い、執筆しました。言葉にできない感情を、駅や電車、反対車線といったモチーフから連想して描きました。
私は中学生のため、誤字脱字があるかもしれません。
何度も見直しておりますが、もしお気づきの点がございましたらご容赦いただけると幸いです。
(この作品はPixivで後に改良して投稿する予定です。)