作家でごはん!鍛練場
yhctam

META_1

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META「新たな主人公」1

### 【1】

「陸地の大半が浄化され、月が消滅した大災害「コラプス」から10年後の世界」

主人公・セオは薄暗い鉄骨の階段を上る

「補助艦の全権は日米合同政府から新黎明圏政府へ委任されました」
「メタ1号機の搬入ルート、確保完了」
「識連より通達。これより出撃準備へ移行」

太平洋に浮かぶ新たな陸地に建設された都市圏「新黎明」は円形の巨大な防壁「WALL」に囲まれていた。
その上から、セオはパーカーを着て海を見下ろしていた。

ヘリの音が聞こえる。
「たった今、ヒーローがWALL上に姿を現しました」
「繰り返しお伝えします。コラプス以来10年ぶりとなる黒いメタの襲来に、軍部は「赤いメタを使用する」と発表しました」
「又、接近している方角に近い東辰区全域に、避難指示が出ています」

アキ「メタ1号機、出撃」

セオはフードを深くかぶり、ゆっくりと息を吐く。パーカーがうねるように変形し、全身を赤いメタが覆う。

---

### 【2】

海上へ向かい、アキが指示するA23メタ補助艦の甲板に降り立つ。
セオは、甲板の先頭へと歩く。

オペレーター「仮称3D1艦隊が接近します!」

艦が回転し、お互いの艦首が向かい合う。
霧の中から姿を現す黒い艦。
その艦首には、黒いメタを発現させた少女が立っていた。

セオ「ノア」

その名は、信じられないほど真っ直ぐに届く。

セオ「お前が何を抱えているのか、全部はわからない」
「でも、この世界を少しでも残したいと思うのなら、一緒に!」

ノアは冷たく微笑む。

ノア「願いは、そんなに綺麗なものじゃないよ」

---

###【3】

甲板から黒いメタがノアの全身を包み込み、海面には粒子が漂い、触手が波の上で静かに揺れる。
それらが一斉に跳ね上がり、こっちに飛んでくる。

迫り来る黒いメタの第一波を、セオは右腕のメタを大剣へと変形させ切り裂く。
切断された触手は霧のように蒸発し、すぐに再生していく。
空と海の境界線で激しい交戦が繰り広げられ、セオの赤いメタはノアの黒いメタと激しく衝突する。
波しぶきが空を覆い、視界が何度も途切れる。

一瞬の隙を突き、セオはノアの背後へ回り込む。
赤いメタが広がり、ノアを包み込む。

触手が断末魔のようにのたうち、黒い粒子となって海面へ溶けていった。
解放されたノアは、息を荒げながらも目を逸らさない。

オペレーター「増援の艦が補助艦を囲んでいきます!」

艦は分裂する。
主砲は、ノアの位置を正確に捉えている。
ノアは自身が狙われていることに困惑する。


META「現在」2

###【1】

第一海戦。
宙に浮かぶ十三隻の黒い艦隊が、A23メタ補助艦を覆っていた。
艦はさまざまな方向を向き、無重力のように自由に姿勢を変えている。

オペレーター「来ます!」
オペレーターの声が艦内に響く。

四方八方から一斉に弾が放たれ、艦体を取り巻く。
だが、セオは一瞬の判断で艦を外から旋回させ、弾幕の隙間を縫うように進む。
波を切るように、海面すれすれに滑る機動。砲火の雨が水面を叩き、白煙が立ち上る。

主砲が火を噴き、3D1艦の装甲に直撃。
黒い艦体の表面が裂け、内部からメタが漏れ出す。
艦はたわみながら爆発し、砕け散る。

空中、海面、側面から弾が交差し、激しい戦闘が繰り広げられる。
セオは艦を振り回し、敵の攻撃をかわしつつ、一隻また一隻と撃破していく。

戦闘は終わった。
通信室から安堵の声が漏れる。

オペレーター「黒いメタの消滅を確認、戦闘終了」
「お疲れさまでした!」

これは、人類にとって黒いメタとの戦いにおける初の勝利となった。
セオは、ノアを保護し自艦に迎え入れる。

---

###【2】

帰還後、セオとノアは移送される。

中央区 新黎明圏政府 大深度地下防衛室。

防衛室には赤い球が静かに浮かんでいて、ノアが不思議そうにみつめている。
アキは2人を軽く労い、声をかける。

アキ「お疲れさま」
セオ「お疲れさまでーす」
アキ「ノアも、お疲れさま」
ノア「はい」

カナがノアに話しかける。

カナ「赤いメタのコア、あなたのとは逆のコア」

ノアは少し首をかしげて問う。

ノア「私のは、どこにあるんですか?」
アキ「ニューヨークだよ、覚えてないの?」

アキ「まあ、そっちの方がいいか。私たちは第二識連。双方のコアを破壊することを目的とする組織です」
「コアが融合して浄化が完了するのだけは絶対に防がないといけないの」

ノア「第二識連?」
カナ「正式名称は第二識別超常連隊、アキ連隊長が提唱した組織」

カナが書類の山から顔を上げて、口を開く。

カナ「あと、ミメシスを使った犯罪の取り締まりもね」
ノア「ミメシス?」
カナ「通常、メタにはメタ粒子、昏迷された魂、使用者の願いの3つによって構成されているんだけど、ミメシスには魂がないの」
「魂がない、あるいは近すぎると使用者の願いはより強く反映される分、浸食率の上昇が早く、暴走する可能性も高い」
「そんなものが出回ってしまえば、新黎明の治安は急激に悪化する」

セオ「だからそれ俺らの仕事ですか?」
カナ「今のところ、制圧できるのがうちらしかいない」
アキ「それに、現実味のない仕事をやるのに必要だって軍事本部から任されてるの」

アキ「あと、あなたたちは今日から新しい家で一緒に暮らしてもらうから」
セオ「は?!」
アキ「これは連隊長からの命令だよ」
セオ「了解、です」

---

###【3】

新しい住居に到着した後、セオはキッチンに立ち、ノアは窓の外に広がる工業地帯を見下ろす。

ノア「なんでこんなところに、住宅が?」
セオ「西葛区の第二特殊戦闘員用住宅地、家賃はタダ、新黎明では珍しい3階建て、いいところじゃないか」

そう言って、セオは赤いメタのコアをノアに手渡す。

セオ「レンは3つの魂を複製した。これは少女の魂だ」

ノアはためらいながらもそれを受け取り、静かに寝室へと向かう。

ノア「もう寝る」


META「再始動」3

###【1】

西葛区 軍港。
夜明け前の薄暗いドックに、巨大な空母が影のように停泊している。
セオ、ノア、カナの3人は環境へ続くタラップを上がっていった。

セオ「第二識連が圏外活動なんてしていいんですか?」
カナ「仕方ないでしょ」

カナはタラップの途中で振り返り、肩をすくめる。

カナ「都市の浄化を進行させ、魂を司る構造体」
「浄化中心体の管理、それが日米合同政府との約束なの」

オペレーターの声が艦内に響く。

オペレーター「まもなく出航します。目的地は日本」

空母はゆっくりと動き出す。
港の照明が水面に反射し、艦の影が長く伸びる。
目の前に立ちはだかる巨大な防壁。
空母はWALLを抜けて、圏外の東京へ向かっていく。
巨大な防壁は、新黎明圏とそれ以外を明確に分けている。
タラップを上がった3人は甲板に立ち、WALLからの光に照らされる。

ノア「これがWALL...」
カナ「Wave Absorption Limit Line、直径32km、幅80m・高さ100m」
「最後にヒーローが残した人類への固執、概念的な境界でもある」

---

###【2】

オペレーター「まもなく東京に到着します」

隊員は軍用車両に乗って続々と下船していく。

軍事日本支部 東京基地(多摩川流域)。

かつてヒーローが住んでいた地に、高さ800mほどの巨大な十字架が立つ。斜めに人工の封印柱が突き刺さっている。
アキはモニターを指し示す。

アキ「あれが浄化中心体ね」

アキ、セオ、ノアはクレーンに吊るされた車両の仮設司令室にいる。

アキ「私たちはミメシス注入型十字封印柱にミメシスを注入する」
「その間に中央から湧いてくる黒いメタを抑える。それがあなたちのやる事」
セオ「ミメシス使っていいんですか」
アキ「それでしか制御できないの、政府の許可がないと使えないけどね」
「あと、これを着て」

アキは黒くてごついスーツを差し出す。

セオ「なんですかこれ」
アキ「データ取得用のスキャンスーツ、日本には衛星スキャナがないの知ってるでしょ」

セオとノアはメタを身にまとい、渋々スキャンスーツを着る。

オペレーター「全部隊の準備、完了しました」
アキ「了解、全部隊作戦開始!」

---

###【3】

封印柱が停止し、コンクリートポンプ車がミメシスの注入を始める。
黒いメタが浄化中心体の周囲に広がり、空気が重くざわめく。

セオとノアは仮設司令室から場を囲むジップラインに飛び乗り、黒いメタに向けた乱射を始める。

セオ「思ったより広がるスピードが速いな」
ノア「誰の意思で、動いてるの?」

スキャンスーツが反応し、二人の位置と黒いメタが仮設司令室に表示される。

アキ「黒いメタの増殖は局所的に抑えられている。でも中央から湧き続ける」
カナ「ミメシスの注入量増やして!」

セオとノアはスキャンスーツの通信情報を頼りに、黒いメタを縫うように飛び回る。メタの塊が渦を巻き、触れた瞬間に電子機器が痙攣するような振動が伝わる。

ノア「ただの塊じゃない!」

---

###【4】

浄化中心体の中央が光りだす。

オペレーター「中央部のメタ密度が急上昇しています!」
アキ「セオ、ノア、逃げて!」

都心に向けてビームが放たれる。

WALLがビームを防ぐ。半壊するが、ミメシスによってすぐ復元される。

アキ「さすが、BLACK BOX に制御された二世代型」
カナ「注入完了!封印柱を起動して!」

封印中が光りだし、黒いメタが一気に引いていく。

連隊は撤退していく。
セオとノアはスキャンスーツを脱ぐ。


META「カミングアウト」4

###【1】

朝の教室。
セオは机に向かい、ノートを開くが、文字を追う手が止まる。周囲の友人たちは休み時間の雑談に盛り上がっている。

セオは視線を窓の外に向ける。遠くの空や校庭を見つめ、心の奥でわずかな嫌悪感を覚える。

突然、教室の床が微かに震え、アトリウムの中央に黒い艦が突撃する。生徒たちがざわつく。

ミナミ「な、なにこれ!?」
担任「机の下に隠れろ!」

セオは瞬時に反応する。冷静さを取り戻し、胸元のブレザーに触れる。赤いメタが静かに浮かび上がる。

セオ「隠れている場合じゃない。守るべきだ」

赤いメタを展開する。生徒たちは恐怖と混乱の入り混じった目でセオを見つめる。

ユウナ「え、セオが、ヒーローだったの?」

セオは廊下にでて艦に飛び移る。

結界から次々と射出される触手に、艦は軋みながら引っ張られる。

---

###【2】

中央区 新黎明圏政府 大深度地下防衛室。
赤いメタに覆われたノアは、肩から腕を伸ばし、天井から吊るされた機械に接続した。

カナ「レンは自身の記憶から3つの魂を複製した」
「セオの少年の魂、あなたの少女の魂、そして本来存在しないはずのメタの魂」
「見当たる適合者は一人しかいない、かつてのヒーローを引きずり出すの」
オペレーター「その機械は神経を遮断して、それ以上浸食してきた場合は、すぐに切り離します」
ノア「了解」

赤いコアに腕を突っ込むが、コアは拒絶反応を示す。
機械の警告音が耳を刺すように鳴り響く。
赤いコアは脈動を速め、表面を走る光が不規則に閃いていた。
腕に光がはしり、そのまま破裂する。

カナ「何を拒んでいるの?」

---

###【3】

引っ張られる黒い艦は、円筒状の艦隊に増えていく。
金属同士の摩擦音が校内に響き、生徒たちは息を呑んだまま動けない。
一斉に艦の甲板が反転しながら、砲口をセオに向けている。

上空を疾走するセオは、敵艦を切り裂く。
一層ずつ艦が崩れ落ち、黒煙を上げながら空へ消えていく。
爆炎と閃光が交錯する。

一隻を掴み、振り回しながら最後の数層を破壊する。

第一識連が集まり、事後処理をしている。

アトリウムを覆う黒煙が、ゆっくりと天窓から抜けていく。
焼け焦げた匂いと、鉄の粉じんが混じり合い、呼吸をするだけで喉が痛んだ。

第一識連の隊員たちが、残骸をスキャンしながら無言で動いている。
艦の破片は、熱を帯びたまま床を焦がし、まだ小さな火花を散らしていた。

セオは結界を解除し、深く息を吐いた。
赤いメタは胸元で淡く脈動しながら、やがて制服に戻っていく。

周囲の生徒たちがセオを見ている。
恐怖と尊敬、混乱と距離感が入り交じる視線。

セオは何も言わなかった。
ただ、視線を避けるように後ろを向き、焦げたアトリウムを見渡した。

---

###【4】

赤いコアが低く唸りを上げ、室内の空気がわずかに震えていた。

カナ「待って、ノア。機械なしでやるつもり?」
カナの声が震える。

ノア「輪郭は掴めたんだよ。もうこうするしかない」

オペレーターが慌てて叫ぶ。
オペレーター「無茶です! 身体が持ちません!」

ノア「レンがいれば、構わない!」
ノアは機械に腕を接続するのをやめ、メタをコアに突っ込む。
体温が上がり視界が赤く霞む
神経が焼けるような痛みで悲鳴を上げる
赤いメタが一気に全身を覆い、皮膚の下を光の血管が走る。

メタはVRゴーグルのようなものでノアの目を覆う。
光の腕を掴み、思いっきり引っ張ってレンを取り出す。

カナ「救急チーム急いで!」

二人は搬送される。意識を取り戻したレンに看護師は質問を繰り返す。

看護師は悲しそうにいう。
看護師「記憶の継続性、認められません」
その顔がレンに似ているが、目の光は別人のようだった。

アキは記憶のないレンをレイと名付け、別人として登録した。


META「約束された居場所」5

###【1】

セオと同級生のジョウは仮設された学校の屋上にいる。

ジョウ「いままで申し訳なかった」
「事情の知らなかった俺らには、心無い言葉もあっただろう」

セオが首を横に振る。

セオ「なんで謝るんだよ」
ジョウ「お前のことを知ろうとしなかったから」
セオ「俺には親がいないし、法的には人間でもない」
「いや、親はいるんだろうけど、いない」

セオは ヨ-178X と書かれたナンバープレートをカバンから取り出してみせる。

ジョウ「でも、誰が育てたんだよ?」
セオ「少し前までは、アキと暮らしていた」
ジョウ「アキって識連の?」
「まあ、そうか」

セオ「ずっと孤独だと思っていたけど、最近一人になって、そうじゃなかったんだって思ったんだ」
ジョウ「俺らは救いになれていたか?」

セオ「かつてのヒーローが、なぜアキを想っていたのかも、人類を残そうとしたのかも今になってよくわかる」
「だから、頑張ってやるしかないんだ」

ジョウ「みんな運命をバカにし合っているだけで、尊敬してるし、最高の結末を目指しているんだ」

今日がセオの誕生日とは、まだ誰も知らない。

---

###【2】

中高生を中心に、メタ学の授業が導入されていた。
教室では、浄化の原理やメタの性質を解説する板書が目立ち、教師の声が響く。
生徒たちは、赤いメタや黒いメタの映像を目の前にしながら、理論を理解しようとしていた。

かつては軍や研究機関の専門用語だった「メタ」が、今や中高生の知識として一般化している。
街の書店には「メタ学入門」や「浄化の倫理」といった一般書が並ぶ。

だが、その普及の裏で暗い現実も広がっていた。
ミメシスを安易に手にした若者たちが、自ら浄化地帯へ入り込み、消息を絶つ。
「浄化は救済だ」と書き込む匿名アカウントがSNSに現れ、
「世界を終わらせよう」という過激な呼びかけがリツイートされていく。

中には、ミメシスを使って自分自身を浄化しようとする未遂者まで出ていた。
ニュースは淡々と「教育の副作用」と報じ、街角の電光掲示板は「ミメシス規制強化」の文字を繰り返し映している。

---

###【3】

西葛区 軍事本部。
放課後、セオは重い扉を押し開け、会議室に入る。
室内には刑事とアキが待っていた。

セオ「すみません、遅れました」
刑事「いい。来てくれて助かる。君にしか頼めない案件だ」

刑事はファイルを開き、数枚の写真をテーブルに並べた。
写っていたのは、黒い粒子をまとった女子高生の姿。
刑事「この少女はSNS上で、ミメシスを使った都市規模の浄化テロを予告している」
「もし写真にあるミメシスの量が本当であれば、取り返しのつかない浄化となってしまう」
アキ「なにか見覚えある?」

セオは黙ってメタのレンズをかけた。
写真の顔が剥がれ落ち、仮面のように崩れていく。
素顔を見たセオは戦慄する。

セオ「ユウナ?」
刑事「ユウナというと、君の同級生か?」
セオ「ミメシスによる高度な顔偽装をつかっている。でもこれじゃ浸食が早過ぎる。長くはもたない」

会議室に、重苦しい沈黙が落ちた。

---

###【4】

星ノ区域高校。
日直「気を付け、礼!」

放課後。
星ノ駅のホームに、生徒たちがざわめいていた。
日常の喧騒のなかに、セオはただ一人、鋭い視線を巡らせている。

メタのレンズ越しに、群衆の顔が淡く揺らめく。
すれ違う人々の中で、一人だけ輪郭が不自然に歪んでいた。

セオ「やっぱりか、そうだよな」

ユウナは改札を抜ける。
その表情は穏やかで、友人と話すようにスマホを手にしていた
セオは距離を保ちながら後を追う。

電車が到着し、群衆が押し寄せる。
ユウナは人混みに紛れ込むように乗り込んだ。
セオも同じ車両に飛び乗り、ドアが閉まる。

揺れる車内。
広告の明かりが白く点滅し、窓ガラスに映るユウナの顔が一瞬ごとに形を変えていた。

メタの無線を使う。
セオ「偽装が崩れてきてる」
アキ「不審な動きがあったらすぐに報告して」
セオ「了解」

ユウナはスマホを閉じ、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は虚ろで、どこか遠くを見つめている。

---

###【5】

下蒼井駅。
二人は路線を乗り換える。

ユウナは振り返らずに歩く。

セオ「こっちに気づいている?」

新万代駅。
ユウナはバスに乗る。

セオは遠くからみつめながら、小さく呟く。
「まさかな」
光学迷彩を展開し、静かにその後を追う。
姿は夜気に溶け、バスのテールランプだけが揺れていた。

バスの終点は、今は電気柵に覆われている。最も WALL に近い繁華街だった無人地区の前。
空間が揺らぐ。

オペレーター「位置情報、消失」
アキ「どこに向かっているの?」

---

###【6】

中央区 中央駅 上空。
同時刻、中央駅の上空に直径400mほどの黒い球体が出現する。

アキ「よりにもよって、このタイミングか」
「第一識連に連絡、中央区中央上層 第一種戦闘配置に移行」

オペレーター「了解」

無人地区を通り抜け、二人は WALL の内部に入る。
広い空間にユウナは全身を黒く覆い、後ろを振り返る。

触手が無数に跳ね上がった。

黒い触手が突き刺さり、壁を抉る。
セオは腕を交差し、赤い装甲を大剣へと変形させる。

交錯する。
剣が光を引き裂き、触手を断ち切るたび、破片が霧のように蒸発していく。
新たな触手が増殖し、空間を覆い尽くす。
ユウナはその中で、苦しそうに膝をつく。
意識が奪われる。

セオは跳び上がり、触手の群れの上を駆け抜ける。

ユウナの背後に回り込む。
赤いメタが爆ぜ、二人の身体を包み込む。

セオ「お前は、許されたかったんだ」
「今を、一生懸命生きているのに」
「脚色された過去と、ありもしない未来の話ばかり」
「うんざりなのは、ユウナだけじゃない」

周りの空間、黒い球体が溶けた。
少女を抱えたヒーローが、ゆっくりと下降する。

---

###【7】

第二識連 救護検査室。

モニター「浸食率 451%」
セオはその場を後にする。


META「ニアヒーロー」6

###【1】

質核区 ニュースラム。

ノアとカナは、フードを深くかぶり、雑踏の中を歩く。
金属の匂い、焦げた電線、遠くで鳴り響く電子音楽。
そこでは、若者たちがミメシスを装着し、作られた幻想の中で踊っていた。

街は光と影でできていた。
現実よりも鮮やかな夢にしがみつくように、人々は笑っている。

カナ「この区域一帯から、黒いメタのエネルギー反応が微かに出ている」
「でもここは、30人程度の識連じゃ対処できないわ」

ノア「つまり、公式な捜査は封じられてる」

二人は人混みを抜け、崩落したエレベーターシャフトにたどり着く。
壁面には、青白く発光する文字が浮かんでいた。

CELLULOID

カナ「ここが、セルロイドへの通路」

ノアは頷き、銃で施錠装置を破壊した。
鈍い音を立てて、鉄の扉がゆっくりと開く。

---

###【2】

地下通路は蒸気と電磁ノイズに包まれていた。
足元には使用済みのミメシス装置が転がり、壁には「ニセモノノカラダ」「再生中」「燃ヤセ」と殴り書きのように刻まれている。

奥へ進むにつれ、空気が冷たくなっていく。
通路の終端には、厚い鉄の扉。
その隙間から、微かな光が漏れていた。

ノアが銃を構え、扉を押し開ける。

そこは、かつての工場跡だった。
天井から吊るされた無数のコード、ガラス管を流れる黒い液体、
そして中央の台座には、ミメシス装備の試作品がいくつも並んでいた。

ミミカタ「こんにちは、識別連隊」

穏やかな声。
その響きに、警戒よりも妙な静けさが宿っていた。

カナ「もう、バレてる?」

セルロイドの構成員がミメシスを身に着け、一斉に襲い掛かる。

カナ「本部に報告しないで正解だったかも」
「本当なナゴヤ条約で禁止されているけど、こんなのメタなしで勝てるわけないわ」

---

###【3】

閃光弾が爆ぜ、視界が白に染まる。
反射的にコアを潰し、赤いメタを展開。
弾丸の雨を弾き返した。

カナは隙間から滑り込み、拳銃を構える。
銃口の先、連中はミメシスを補充していた。
その身体は耐え切れず歪み、感情を失って同一化している。

銃声と衝撃波が交差し、空気が振動する。
構成員は人間離れした速度で動き、壁面を蹴っては滑空する。

カナ「制御を切って、運命に身を任せている」
ノア「人格を捨ててまで、完璧を目指したわけ?」

鉄骨が軋む。ノアは連中を床に叩きつける。
衝撃波で吹き飛ばされ、壁がひび割れる
それでも相手は立ち上がり、無音で押し返してきた。

ミミカタ「BLACK BOXを使わない、ヒトによる直接的な使用は強烈なものだろう?」

銃声とミメシスが交差する。
ノアのメタが砕け、カナが息を呑む。

カナ「無理しても死ぬだけよ!」
ノア「本物が偽物に負けてたまるか」

二人は背中合わせに立ち、呼吸を合わせる。
ノアが踏み込み、カナが撃つ。

連中を一人づつ倒していく。

ミミカタは、静かに拍手をした。

---

###【4】

ミミカタ「一つ、交渉しないか」
「お前たちは、ニュースラムに黒いメタの反応が出ていることを知って、ここに来たんだよな」
カナ「やっとあんたらのハッキングから取り戻せたからね」

ミミカタは笑うでもなく、淡い声で続けた。
ミミカタ「どうしても必要だったんだ」
「それに、亡霊を新たに造り出すことは、もう不可能だからな」
カナ「つまり、あのエネルギー反応はここじゃないと?」

彼の視線は、どこか遠くをみていた。
懐かしさと哀れみの混ざった眸。

ノアとカナは警戒しながらも、ミミカタの後を追った。

階段を下りるごとに、気温が下がる。
壁面に走る配線が次第に黒光り、鼓動のように点滅していた。

三人は巨大な円筒状の空間に出る。
見上げると、天井も見えないほどの高さ。
中にもミメシスチューブが束ねられていた。

ミミカタ「ここにミメシスによるこのインフラが建設されてから、早2年が経つ」
「もし、この地下に張り巡らされているミメシスが、誰かに乗っ取られたらどうなると思う?」

ノアは息を詰めた。
カナが眉をひそめる。

---

###【5】

ミミカタの視線が、遠く天井のない暗闇を見上げていた。
無数のチューブが軋み、かすかに揺れている。

ミミカタ「俺たちは、これを制御しているんじゃない」
カナ「じゃあ、あなたたちは何のためにここに?」

ミミカタ「観測だよ。先の反応は、このチューブを黒いメタが飲み込んでいる反応だ」
「どこかに本体がいる」

空気が震える。
非常灯で辺り一面が赤く染まり、警報が鳴り響く。

ノア「まさか、暴走?」

ミミカタ「ここまでの非合法をもってしても、こいつを止めることはできなさそうだ」

全体が大きく揺れる。

壁面とチューブが勢いよく天井方向へ突き抜け、足場が崩れだす。
三人は急いでミメシスチューブ第ニ構造体の外側へと逃げ込む。

黒いメタはうめき声をあげる。

カナ「動作機構なんて存在しないのに」
ミミカタ「交渉の続きだ、あれを止めろ」
カナ「言われなくてもやるよ、無理だとわかっていてもね」
ミミカタ「ここで必死に抗って、あの化け物が完全に地上へ出ることを防ぐ」

ミミカタ「この街を、守らなきゃな」

META_1

執筆の狙い

作者 yhctam
chuko-gw.js.kogakuin.ac.jp

SF?
今までの自分のアイデアの統合的なものです。
「過去の願いに価値はあるか」という問いの個人的な答えだと思います。

前作としてメタの発現からコラプスまでを書いたものがありますが、とても公開できるものではないので、とりあえず全12話構成の前半6話です。

このサイトも執筆も初心者なので、心暖かい意見を頂けるとうれしいです。

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