きっと、あの人
無理。
好き。
いや、無理。
今日も○○君がかっこいい。
たった一瞬、視線が交わっただけで胸が騒ぐ。
それだけで、世界が少し明るくなる気がした。
恋とは、好きな人を見ると胸が高鳴ること。
四六時中その人のことばかり考えてしまうこと。
もしそれが恋の定義なら、私は間違いなく○○君に恋をしていた。
○○君はいつもキラキラしていて、
みんなの中心にいて、
恋愛よりも友達との時間を楽しむ人。
黒が好きそうで、
夜よりも夕方が似合いそうで、
深く考え込むよりも笑っている時間のほうが長い人。
私は勝手にそう決めつけ、
勝手に額縁に入れて、
「○○君」という一枚の絵を完成させた。
そしてその作品に、
私は「恋」という題名をつけた。
——だからだ。
「私ちゃん。ずっと前から好きでした。付き合ってください」
その言葉を聞いた瞬間、
時間が一拍遅れて耳に届いた。
え? 今、何が起きた?
○○君に、告白された?
夢? 現実? それとも私の願望?
なのに胸は高鳴らなかった。
代わりに、言葉にできない違和感がじわりと広がる。
違う。
何かが、違う。
私は確かに思っていた。
眉毛を食べたいとか、
頬を触れたいとか、
眉間のシワに指で触れてみたいとか。
でもそれは——
「私を好きな○○君」を欲しい気持ちじゃなかった。
私が好きだったのは、
誰のものでもなくて、
誰かに想いを向ける前の、
少し遠くで光っている存在だった。
彼が私を見た瞬間、
額縁は音もなく外れた。
作品は、ただの現実になった。
ああ、そうか。
私は「○○君」というキャラに恋をしていたんだ。
本当の彼じゃない。
私が都合よく色を塗って、設定を足して、
「きっとこういう人だ」と決めつけて作った像。
それを壊さない距離から眺めて、
胸を高鳴らせていたのが、私の恋だった。
完成した一枚の絵は、
そっと心の奥にしまっておく。
あれはあれで、確かに美しかったのだから。
執筆の狙い
現実の恋と妄想の恋のズレを書きたかったです。