タイミング
朝からずっとバタバタしていた。
会議の資料はギリギリ、プリンターは紙詰まり、上司には「焦ると余計ミスるぞ」と言われる。焦ってるから焦るのに。
昼を過ぎてようやく落ち着き、午後三時。
誰もいないオフィス。
電話も鳴らず、キーボードの音も止み、時計の音だけがカチカチと響いている。珍しく誰もいない。
"今だな"と思った。
誰もいない。音もない。完全に安全地帯。
息をひとつ整えて、思い切って――おならを解き放った。
その直後。
ガチャッ
「お疲れさまでーす!」
ドアが開き、後輩の田中が元気な声で入ってきた。
目が合う。
世界が止まる。
私はなぜか、パソコンの電源を入れ直す。
何事もなかったように、画面を見つめる。
なのに、背中が熱い。空気が動くたび、羞恥心もやってくる。
田中は何も言わずにファイルを取って出ていった。
視線が痛かった。
静寂が戻る。
いや、静寂だけじゃなかった。もうひとつ、微妙な“余韻”も残っていた。
――どうして、こういう時に限って来るんだろう。
椅子に背を預けながら、ふと考えた。
人生って、いつもタイミングが悪い。
電話を切った瞬間に上司が呼びに来る。コーヒーを入れた瞬間に会議が始まる。
誰もいないと思って気を抜いた時に限って、誰かが現れる。
まるで「油断した瞬間を見張っている神様」がいるみたいだ。
その神様は、私の一番間の悪い瞬間を狙ってくる。
けれど、もしかしたらそれは“気を抜くことの尊さ”を教えてくれているのかもしれない。
完璧に取り繕って生きていたら、こういう自然と笑える瞬間なんてきっと訪れない。
恥ずかしさも、人間らしさのうちだ。
不意に訪れる“誰かの登場”があるからこそ、人は恥ずかしさを知り、慎みを覚え、少しだけ笑える。
次からは気をつけようと思う。
でもたぶん、またやらかすんだろう。
そういうタイミングで生きてるのが、人間だから。
――タイミングの神様。
どうせまた来るんでしょ。
だったら今度は、こっちから笑って迎えてやろう。
執筆の狙い
創作スランプ中に書いたしょうもないお話。ご指摘をお願いします。