客だけが食べたポテト
あれは、高校生の頃だった。
バイト先の飲食店に行くと、強烈な異臭がしていて仕事仲間が集まり、話しをしていた。
「すごい臭いですね、どうしたんですか?」
「小次郎君、ちょっとここに来てみて」
店長は、僕がいつも揚げるフライドポテトの油が入った加熱器の前にいた。近づくと。
「これだよ」
店長は、網を取って、油の中に入れた。網が上げられ、僕は立ち眩みがした。網の中に、ゴキブリが入っていたから。
「ゴキブリが揚がった臭いだよ」
知らなかった。ゴキブリって、揚がると、こんな強烈な異臭がするんだ。
「夜中の内に入ったんだろうね、きっと、油に入ったとき、音がしただろうな。ジュー、ジュー、パチパチって」
擬音がやけに生々しい。血の気が引く。
「さて、そろそろ営業を始めよう」
「えっ、無理でしょう?」
「ポテトどうするんですか?」
「油を変えている時間ないから、このままポテト揚げてよいよ」
駄目だろ?
「いや、それは……」
「嫌なの? 君、お金に困ってるって言うから雇ってあげたのに」
確かに、僕の家は貧しかった。
「別にいいけどね、辞めてもらっても」
「うっ」
「だろ?」
僕が断れないのをわかっているようだ。
「わかりました」
僕は、その異臭がする油でポテトを揚げた。ポテトは表面にだけではなく、ゴキブリエキスが中にもふんだんに浸透しているだろう。
揚がったポテトを調理場から、レジの下のフード棚に運ぶ。一人目の客が、たこやきセットを注文した。たこやきセットには、ポテトも含まれる。
僕は調理場から、客がそのポテトを食べる様子をしっかり見ていた。美味しそうに食べている。味は問題ないようだ。味は。
◇◇◇
まかないの時間、いつもみんなポテトを食べるのに、今日は食べなかった。確かに、ゴキブリエキス入りフライドポテトを好き好んで食べていたら、変人だよね。
客だけが、ポテトを食べる。店長も、いつもまかないの時間、ポテトを食べるのに、食べなかった。
執筆の狙い
飲食店の裏側です。怖いですよね。僕は、外食好きですが、このポテトは食べたくありません。