しぼうふらぐ
卒業式の日、教室の片隅で、私は真奈と最後の雑談をしていた。
「また会えるといいね」
そう言った真奈は、卒業アルバムを膝にせ、ページの隅を指先でくるくるとなぞっていた。笑っているのに、どこか惜しむような目で。
「それさ、なんか会えなくなりそうで怖い」
「なにそれ、死亡フラグ的な?」
「そうそう。ていうかどうせ連絡先は持ってるんだから大丈夫でしょ。」
「持っててもさ、だんだん間が空いて、気づいたら“元・友だち”になってたりして」
「やめてよ、それ一番きついやつ!」
他愛のない会話に二人で笑って、落ち着いたころには教室の空気が少しだけ静かになっていた。
窓の外には春の陽射しが降り注ぎ、桜の花びらがひらりひらりと舞っている。
本当は分かっていた。
真奈がこれから通う大学は遠く、真奈は大学近くの家で一人暮らしをする。簡単には会えない。
「大丈夫」なんて言ったけれど、すでに未来が少しぼやけて見えて、胸の奥がひりっとした。
それこそ"死亡フラグ"とまではいかなくも、少し不安になってしまう。
でも、まさかこの軽口が数年後にあんな形で蘇るなんて夢にも思わなかった。
***
大学を卒業して数年。
真奈とよく行っていたカフェで待ち合わせをしていた私は、スマホの画面を何度も確認していた。
“ごめん、ちょっと遅れる!”
真奈からメッセージが届く。
卒業式のあの日、遠くに行ってしまう真奈を思って胸の奥がひりっとした感覚を、まだ覚えている。
あのときの不安が今も少しだけ蘇るけれど、それ以上に、久しぶりに会えるという嬉しさがが心を満たしていた。
チリン
ドアの鈴が鳴る音に反応して振り向く。
視界に入ってきたのは......誰だろう?
見覚えのない女性が、にこやかにこちらへ手を振っている。
服の上からでも分かる丸みのある肩、お餅のようにふっくらとした頬。
でも、まとっている雰囲気に既視感がある。
「……真奈?」
「そうだよ〜!久しぶり!」
声も笑顔も昔のまま。でも体型は、まるで桜餅みたいに丸く柔らかそうで、腕も脚もぽってりとしている。
「な、なにその体……!」
「これのこと?」
真奈は両手を腰にあて、まるで誇らしげに胸を張る。
あの頃の元気でお茶目な彼女が、今ではふわふわの笑顔とふくよかな体で立っている。
その姿にある二文字が浮かんで、卒業式の日のフラグを思い出し、思わず吹き出してしまった。
「……死亡フラグ、じゃなかったんだね」
真奈は首をかしげる。
「え?」
「脂肪フラグだったんかい!」
二人の笑い声が店内に響く。
爆笑したあと、それぞれ好きなものを注文した。
コーヒーをすすりながら、昔話に花が咲く。
脂肪フラグの再会は、笑いと懐かしさで満ちた最高の日になった。
懐かしい記憶とともに、あの日の教室の光景がフラッシュバックする。
桜の花びらが舞い、陽射しが差し込む中で軽口を交わして笑いあったあの日。
窓から差し込む春の光のなかで、あの頃と変わらぬ笑顔を浮かべながら二人で話していると、過去と現在の距離が一気に縮まった気がした。
執筆の狙い
友人との会話で思わず笑ってしまったことをネタにしました。