作家でごはん!鍛練場
八代晴

めぐる春

春の風が心の隙間に入りこんでくる。
あの日の風の匂いが、少しずつ輪郭を取り戻す。
さよならが、出会いの始まりのように感じられる瞬間がある。
風が肩をすり抜け、ノートの端がふわりと浮いた。
光の中で、誰かのまつげが揺れていた。
沈む夕陽が、ふたりの影をゆっくりと重ねていく。
どこへ行くわけでもないのに、同じ方向を向いて歩く。

春の午後、教室の窓から風が吹き込む。
ノートの端がめくれて、彼の指先がそれを押さえた。
光の中で、彼のまつげが揺れていた。
その瞬間、胸の奥がふっと温かくなった。
たぶんそれが、始まりだったのだと思う。

放課後の昇降口で、靴音が重なった。
どこへ行くわけでもないのに、同じ方向を向いて歩いた。
沈む夕陽が、ふたりの影をゆっくりと伸ばす。
影の行き先に、未来がある気がしていた。

けれど、季節は巡る。
桜が散るたびに、何かが少しずつ遠ざかっていった。
気づけば、彼の笑顔は誰かの隣にあった。
ノートの端がめくれても、もう押さえる手はない。
風だけが、私の肩をすり抜けていった。

さよなら、とは言えなかった。
言葉にしてしまえば、消えてしまいそうで。
あの日の風の匂いだけが、心のどこかに残っている。
春が過ぎても、何度も思い出のページをめくってしまう。
めくられたページはもう戻らない。

めぐる春

執筆の狙い

作者 八代晴
i58-89-3-191.s41.a013.ap.plala.or.jp

下の行から読んでも読める回文的な小説になっています。
遊び心で書いてみました。

コメント

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

「下の行から読んでも読める回文的な小説になっています」

との狙いですが、確かに後ろから上に読んでも、雰囲気がある詩になっていて面白かったです。
いやー、えーセンスしてますよなー。

八代晴
i58-89-3-191.s41.a013.ap.plala.or.jp

えんがわ様、読んでくださりありがとうございます。
構成も含めて、作品の雰囲気を楽しんでいただけたなら幸いです。

青井水脈
171.2.21.56

「春はめぐる」
春は出会いの季節でもあり、桜が散っていく、何かの終わりを迎える季節でもある。
全体的に淡い印象で、小さな失恋という物語も含まれていると思いました。

夜の雨
sp1-73-2-244.nnk01.spmode.ne.jp

八代晴さん「めぐる春」読みました。

上から読むのと下から読むのとでは、あじわいが違いますね。
極度な違いはないのですが。

それは、基本となっている文章が優しいからだと思います。
上からの方が、読みやすさはありますが。

文章力はかなりあるのではないかと思いました。

こんどはミステリー小説のショートでもお願いします。
上から読むと刑事(または探偵)が犯人を追い詰めていく。
下から読むと、別の物語になっているとか。

これは、難しそうですね、どうも、すみません。

普通の作品でよいので、また、投稿してください。

お疲れさまでした。

飼い猫ちゃりりん
sp49-97-22-240.msc.spmode.ne.jp

八代晴様。猫は風で「まつ毛」が揺れている人を見たことがありません。
5センチくらいの「まつ毛」を想像して見たのですが、かえって気持ち悪いだけ。
「まゆ毛」の間違いでは? 村山元総理大臣のまゆ毛なら風で揺れますね。

八代晴
i58-89-3-191.s41.a013.ap.plala.or.jp

青井水脈様、読んでくださりありがとうございます。
作品の雰囲気を感じ取っていただけたなら幸いです。

八代晴
madb68907c.ap.nuro.jp

夜の雨様、読んでいただきありがとうございます。
上から読んだときと、下から読んだときの雰囲気の違いを感じ取っていただけたようで良かったです。

>上から読むと刑事(または探偵)が犯人を追い詰めていく。
 下から読むと、別の物語になっているとか。
下からも読めるようにすることを考えると、どうしてもポエム調っぽい優しい文体になるので、たしかに難しそうですね。できたら面白そうですが...。

改めて、読んでいただきありがとうございました。

八代晴
madb68907c.ap.nuro.jp

飼い猫ちゃりりん様、読んでいただきありがとうございます。

>「まつ毛」が揺れている人を見たことがありません。
 この物語で、私が「まつ毛」を使った意図としては、
・主人公が相手をどれだけ意識しているかを示す。
・下から読んだ時に、失恋した相手に関するの記憶を挟んで、「さよならが、出会いの始まりの   
 ように感じられる瞬間がある」の文がいきるようにする。
・文体がポエム調なので、映像としてはっきりさせる描写が欲しかった。
この3つです。   
あくまでも、相手との距離感や、"風"を使った心の揺れの比喩表現として使っているので、特別長いまつげを想定しているわけではありません。

自分では自然に読めても、他の人が読むと印象が変わってしまうというのが難しいところですね...。
ご意見ありがとうございました。

飼い猫ちゃりりん
sp49-97-22-240.msc.spmode.ne.jp

八代晴様。読者に作者の意図や理屈は関係ないのです。読者の脳内に映像が浮かばないなら失敗です。
もしよければ、褒めている人たちに「まつ毛が風で揺れる映像が浮かんだか?」と聞いてみてください。

ちなみに、こういう人は作者を馬鹿にしています。

あなたのセンスは本当に際立っています。
言葉の端々に漂う静かな鋭さ、情景をそっと浮かび上がらせる繊細な距離感、感情を押しつけずとも胸の奥まで届く抑制の美学……すべてが洗練されていて、圧倒的に「いい」。
一言一句に無駄がなく、それでいて余韻だけは果てしなく深い。
これほど品のいい感性で、こんなに深い痛みを表現できる人は、そうそういません。
率直に言います。
日本語で詩を書く人の中で、今、あなたのセンスが一番冴えていると思います。
真面目に、尊敬しかないです。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

>もしよければ、褒めている人たちに「まつ毛が風で揺れる映像が浮かんだか?」と聞いてみてください。


自分は風の強弱を表す表現として上手いと思います。
「まつ毛をゆらす」は自分はさっと流れる風を表す表現として読みましたけど。

実際に映像として浮かぶかどうかというより、そのシーンの風や空気を映すのを重視したのかなって気がします。
文脈を読めば、詩の主役が「顔」じゃなくて「風」にあるような気がしますし。
髪を揺らしたとかだと強すぎて空気の流れが強く起きてムードが流れてしまう。その前の段階の淡いこう空気をとどめるようなそういう感じ。

と言っても、こういう詩的なイメージは表現が洗練されれば洗練されるほどイイものが出来ると思うので、もっと良い表現があるかなみたいな追及を作者さんがしていただければ面白いかなって思います。

何と言われようと自分は「センスがいい」と思います。

飼い猫ちゃりりん
sp49-97-22-240.msc.spmode.ne.jp

はあ……ため息しか出ない。ここは鍛錬場じゃないんですか?

八代晴
M106153183022.v4.enabler.ne.jp

飼い猫ちゃりりん様。
的はずれな長いコメントを申し訳ございません...。
情景が浮かばなかったという点については、表現の至らなさとして受け止め、今後の作品づくりに活かしたいと思います。
改めて、ご指摘ありがとうございます。

飼い猫ちゃりりん
14-133-239-111.area1a.commufa.jp

八代晴様。このコメントに返信は不要です。
八代様はこの作品を真面目に書いた。そして上達を望んでいる。だから飼い猫も真面目にコメントをするのです。

人の描写をする前提として、よく人を観察をする。人は自分が好きな人の何に注目するか。まつ毛ですか? 違います。その人の目を、瞳の奥を、中心を覗くのです。
まつ毛、まゆ毛、鼻毛の類に注目などしない。
逆にどうでもいい相手なら、「なんだ、あのまつ毛は」「あいつ鼻毛が伸びている」なんて、変なことに注目することになる。
そこらの違いを利用して心理描写をするといいですよ。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内