作家でごはん!鍛練場
ゆゆゆ

抜け殻の身体は不敵に笑う

 気づいたら、自分の部屋の天井のあたりにいた。



 フワッと浮いているような感覚がして、下を見るとベッドの上に“俺の身体”が転がっていた。




 どう見ても死んでいた。




 ああ、やっちまったな。


 ここ最近ずっと長時間労働だったし、胸が変な動きすること何度かあったし。


 過労って、ほんとにあるんだな……なんて、魂のくせに妙に冷静だった。



 そのまま色々考えた。


 親、悲しむよな。


 会社の人達は悲しんでくれるのだろうか。


 彼女とはちゃんと話せないままだったな。


 てか、もう一回くらいエッチしたかった。



 いや、もっと色々やり残してる気がする。





 そんな風に“死んだ直後のノスタルジー”に浸っていた時だった。





 ベッドの上の肉体が、ピクリと動いたように見えた。




「……ん?気のせい?」





 魂には心臓がないのに、心臓が一瞬縮む感覚があった。



 見間違いだと思おうとしたけど、もう一度じっと見つめる。






 次の瞬間。






 腕が、はっきりと動いた。





 ガクッ、と痙攣とかじゃない。



 まるで当たり前のように、そこに“意思”があるみたいに。







「え、ちょっと待て、マジかよ……」







 魂の俺は完全にビビった。



 肉体だけで動くなんて、あり得ない。



 映画やドラマでも聞いたことないシチュエーションだ。



 死体って普通、動かないから“死体”なんだよな?







 しばらく目を離さないでいると、肉体はゆっくりと上半身を起こし、両足を床につけて、あくびをした。






 生きてる人間みたいに、自然に。







 そして立ち上がって、いつものように服を着替え、鞄を持ち、出かけていった。






 肉体だけで、日常生活を始めた。







 魂の俺は、ただ天井の隅から震えながらそれを見ていた。











 肉体は会社に行き、同僚と笑い、昼飯にカツ丼を食べ、夜は漫画を読みながら寝る。



 まるで本物の俺がそのまま生きているように。







 だが時々、肉体は振り返る。



 何もないはずの空間をじっと見て、ゆっくり口角を上げる。







“見えてるはずがないのに”。







 魂の俺は震えながら、それでも監視を続けた。



 そしてある晩、肉体から淡い光が浮かび上がり、もう一人の“魂”が生成されるところを目撃する。







 肉体は新しく生まれた魂に話しかけた。







「やっと会えたな。ずっと育ててた」







 魂が肉体から生まれる。



 そんな逆転現象、理解できるわけがない。







 恐怖でいっぱいになった俺は、肉体に突っ込んでいく。



 けれど一瞬であしらわれ、冷たく告げられた。







「お前じゃない。もういらない」







 それは、完全な“拒絶”だった。







 空へ昇りながら、俺はぽつりと呟く。







「……ああ、俺、フラれたんだな」







 ちょっとだけ笑って、ちょっとだけ泣きそうになって、そしてそのまま白い光の中へ消えていった。






 肉体と新しい魂は、その後も仲良く暮らしていた。





 俺のいない俺の人生が、静かに続いていく。




──────────終わり─────────

抜け殻の身体は不敵に笑う

執筆の狙い

作者 ゆゆゆ
140.213.82.62

なんとなく思いついたから書いてみただけ。

コメント

夜の雨
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ゆゆゆさん「抜け殻の身体は不敵に笑う」読みました。

肉体に拒否される魂(脳の思考回路)という感じですね。
きっと肉体の方は自分の思考回路のパターンが気に入らないのだったのでしょうね。
それで魂の方は自分の肉体に戻れなくなった。

これって現代的に考えると肉体がロボットの体で、魂が頭脳にあたるAIという事になりますね。
それでロボットの方が頭脳であるAIを拒否した。
新しいAIを自分に接続したというようなパターンになります。

で、御話は、このままでお話は終わっています。
面白くするには、この続きを書くことですね。
つまり事の顛末までを描く。
それと御作はストーリーを描いただけのような感じで細部の書き込みがないので五感に伴う情報とか心理状態とかを書き込んで設定を分厚くすると読みごたえが出てくるのではないかと思います。

現状でも主人公の魂は両親のことやら彼女の事やら考えている様子なので、そのあたりをもう少し掘り下げるとキャラクターに厚みが出るのではないかと。

「つまり事の顛末までを描く。」上に書いた顛末の話ですが、たとえばほかにもこういった肉体から魂が離れてしまった肉体があるかもしれません。
主人公の魂がそういった肉体と出会うというエピソード(設定)にして、その肉体に魂が潜り込むことに成功する。
もちろんそのあたりの葛藤やらも描くと人間ドラマとしても面白くなるので。
ちなみにその空いていた肉体は女性とかにする。
自分の以前の彼女ではありません。
それで若い女性の肉体を手に入れた魂はいろいろエロいことをして楽しんだりも可能ですが、元の自分の体に興味があるのでというか、どうして元の肉体は自分の魂を受け付けなかったのか。
そのあたりをどうしても調べる必要があると思い(元の体にも未練がある)若い女の肉体を手に入れた魂は元の肉体に接近する。

こういった設定にすると、いろいろと面白いエピソードが展開することは請け合い。
何しろ、主人公の魂からすると自分の体なので、なにからなにまで自分の近辺の情報を知っている。

それで元体に接近して、誘惑するとか。
元彼女との関係に割り込むとか。
両親に逢いに行くとか、会社の同僚とも話す機会があるかもしれません。

となってくると、話としてはかなり面白い展開になるのではありませんかね。

>ちなみに御作は行間を空けすぎではないかと。<


それでは頑張ってください。

ゆゆゆ
112.215.124.222

夜の雨さん

拙作「抜け殻の身体は不敵に笑う」をお読みいただき、そして丁寧な感想を本当にありがとうございます。

肉体と魂の関係をAI/ロボットにたとえた読み取り、大変興味深く拝見しました。
自分としてはそこまでSF的な意図はなく、「自分の身体が自分を拒絶する」というホラー寄りの違和感を描ければ…という気持ちで書いたものでしたが、そうした読み替えができるのだと気づかされて嬉しいです。

また、物語の顛末まで描くこと、五感や心理の厚みを加えること、主人公の背景や周囲の人物を掘り下げることなど、具体的なアドバイスはとても参考になりました。
“空いた肉体との出会い”といった展開案も興味深く、自分では思いつかなかった方向性なので勉強になります。

行間についてのご指摘もありがとうございます。読みやすさを考えつつ改善していきたいと思います。

丁寧なコメントに感謝しています。
また読んでいただけたら嬉しいです。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

ちょっと悲しい話だけど、ちょっとユーモラスな部分も感じました。
良くわかんないけど。
たぶん語りが悲劇的なトーンになりすぎずどこか淡々としてるので、なんか味があるというか、良い感じの距離があるというか。

自分の今まで相棒だった身体にふられる。
うーん。悲しーなー。自分もふられないようにもう少し気合を入れて生きた方がいいのかなって思いました。
これは本作でフィクションの極みで極限状態で表現してるけど、自分の思いもかけない病気とかね、簡単なものではとつぜん風邪をひいたとか、花粉症になったとか、肉体から裏切られるっていう、そういうものを上手くバックグラウンドにあるから、荒唐無稽になりすぎない、ある意味身近な感じがあるし、良い素材を使っていると思います。

もっと濃く書いても生きる素材かもね。
たとえば彼女との関係とか、それまでの生活をもうちょっとしっかり書いたり、肉体が勝手に生活している、たぶんそこに元の俺とは違う生活の仕方もあるのかな、とかそこらへんを踏み込むと、より独自性のある中編とか長編に発展するポテンシャルを感じます。このままでも面白いですけど。

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