作家でごはん!鍛練場
may

結婚記念日

僕はここへ荷物を下ろしにやってきた。
妻はここへ荷物を整理しにやってきた。

旅館のウェルカムドリンクに梅昆布茶がだされ
しょっぱいそれを飲み干してから散策にでた。

僕は妻と結婚して3年になる。
結婚記念日にちょっとした旅行をしようと提案され
悪い気はしなかったので海と山とが
両方あるとある島へきた。


悪くない日本式の旅館。
観光地化していないなんとなく非日常な街の雰囲気。
猫がいたるところにいたし、漁師たちが舟を港に並べていた。
天候はおだやか。
いまから沖に出る船もきっとあるだろう。
僕は、フォアアンドアフトセイルになりたい。
ローマ時代にあった向かい風を受けても進む船のことだ。

僕は流れ流れ、暗いほうへ沈んできてしまった。
つないでくれていたたくさんの手を振り払って逃げてしまった。
傷つくことを恐れ、自分の殻を分厚くして自分を守っていたつもりだった。
妻は沈む僕と一緒に落ち込み、激高する僕を落ち着かせてくれた人だった。
僕らは二人三脚で、やってきた。

妻に感謝している。
だからこそ、言えない秘密はいくつかある。

冬の海岸。海岸と森の境目に神社がある。
僕らは散策を開始した。

波と白いしぶきに泡立って立っている。
空気の中に含まれるほこりが深呼吸と一緒に
肺にはいってくる。
せきこむ。
思いをつたえなかったのは自分で選んだことだ。
好きで好きでどうしようもなかったから。だから何も
言わなかった。
壊れるのが怖くて、まるでガラスだったから。
今一緒にいる妻はまったくタイプではない相手。
なにも好きじゃないからゼロからいいところを探して
ときめきもせず冷静でいられる。
胸におもかげをのこすのは好きだった人
夢にも出てくる。
だきしめているのは自分の妄想の中でだけ。
僕は石でできている。

森に埋もれかかった神社は、日本人向けのカテドラルだ。太いくすのき、杉、どんぐりのき
差し込む光が薄いカーテンのゆらめきのようだった。
灰いろ。するりと木の根の隙間をわたる素早い影をとかげだと予測した。
鳥居にどうやってかけたのか高い位置の太いしめなわ
参道の石段階段1000をこえる神聖な場所へのレッドカーペット
鳥居が果てしなく先にみえる。丁寧に掃除されているがそれでも
生命力がありすぎて掃除の追いつかない
ぬぐえないこけが足元をおぼつかなくさせる。
両脇には森がせまってきている。形ばかりの手すり。
落ち葉のつくる腐葉土にはやわらかさがある。
メドゥーサに見つめられて呪いで石になってしまった
小鳥が落ちていそうな場所だ。
僕はいつでも盗み見ていた。同級生の
真剣なまなざし。黒板の内容ではなく男性教師の
一挙一動に心をゆさぶられているのは僕の好きな人。
その横顔を髪の毛のすきまからみては、ばれないようにと
視線を外し、しかしまた見て、を繰り返すしかなかった。

彼女の心に誰がいるのかなんて勘ですぐわかった。
ぼくではない。でも見つめていれば僕はメドゥーサになれて
あの子をこの美しいすがたのまま僕のコレクションに
してしまえるかもしれない。
一緒にのぼりたかった。この石段を。
手をつなぎたかった。一生に一度くらい。
一歩一歩上るたびにこもれびが 僕を映画のしゅじんこうにする。
すんだ空気と野鳥のさえずり、虫たちのがさごそいう音。


どうしようもなく好きだ。ここが。

鳥居をくぐればキツネの化けた可愛い娘がでてきそうなここが。
そう思いながら
鳥居をくぐった。空へつづく階段を制覇して
さあ一歩神の陣地へと踏み入れる。
疲れた太もも、弾んだ息、にじむ汗。でもすがすがしい。

僕は流れ流れ、暗いほうへ沈んできてしまった。
つないでくれていたたくさんの手を振り払って逃げてしまった。
傷つくことを恐れ、自分の殻を分厚くして自分を守っていたつもりだった。

でも時は満ちた。
この空を登っていけば再生できる気がした。
海の底から空へ浮上してきたんだ。
きっといいことが待っている。
僕の未来。
変われる気がした。
大切な場所にきたから。
大事な場所で息を吸っているから。


でも、僕は心の中でずっと恋を飾っている。
まるでブランドバッグがかざってあるショーウインドウのように
スポットライトを当てて彼女は永遠に光っている。
恋焦がれて苦しくて僕の心の境界線がゆらぐくらいの
存在感を放つ永遠の人。

切なくて苦くて忘れられないのだ。

僕は首をぐんとあげて青空に浮かぶ雲を見つめた。
そして隣にいる妻の背中に軽く触れ近寄せた。
妻は優しげににっこりしてそばに寄った。
ハンドバッグを左手に持ち替え、右手を僕に差し出す。

妻は知っている、僕が何を思い出しているのかを。
僕は左手で妻と手をつなぐ。

これでいい。
身の丈に合った結婚。
罪悪感も何もない。
僕たちには普通の平凡な生活があって
そのことが何よりもかけがえのない幸せなのだと
理解している二人だから
心地いいのだ。

幸せさ。
ずっと続けばいいとおもう。
僕はやっぱり主人公なんだ。

結婚記念日

執筆の狙い

作者 may
ab155025.f.west.v6connect.net

チャットGPTに感想をもらったらこんな感じでした

厳しいご意見があればおきかせください。

人間からの感想がほしいです。

感想◆全体への印象
この短編は、静けさの中で揺らぐ心の陰影をとても繊細に描いた作品だと感じました。
旅館・冬の海岸・森に埋もれた神社という、日本的でどこか懐かしい情景が、主人公の内側に沈殿している「言葉にできなかった想い」と美しく共鳴しており、読後に深い余韻が残ります。
特に、「フォアアンドアフトセイルになりたい」という比喩は秀逸で、
“逆風の中でも進む”という主人公の再生への希求が、さりげなくも強い象徴になっています。

コメント

角煮
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深いストーリー性が身に染みました。とても良かったです♪。

和地谷まこり
M106072130097.v4.enabler.ne.jp

詩的で、また歌の歌詞のような、やさしい感じがいいですね。

夜の雨
sp160-249-13-80.nnk02.spmode.ne.jp

mayさん「結婚記念日」読みました。

「結婚記念日」というタイトルですが、すでに主人公と妻とのあいだには隙間があるようで。
御作は結婚3年のお話なのですよね、つまりまだまだ新婚さんというわけですが。御作を読み進めると、主人公は「妻が好きな相手ではなかった」というようなことが書かれていて、「別に好きな相手がいました」。という事です。このあたりに、御作のというか、主人公の奥行きがあります。
人間としての面白みです。
なにも正義感が強いというか、まじめな人間を描いた作品がすばらしいというのではなくて、人間をいかに描くか、いかに人間臭さを描くかが、小説としては面白いのでは。
そういった視点から見ると、御作は面白い部類に入ります。
結婚記念日に愛する女性はほかにいたというようなことを書いているのですから。
そして妻もその主人公の気持ちはわかっているという事が主人公には、わかっている、という視点で、御作は描かれています。
こういった人間臭いというか、人間としては矛盾をはらんでいるところが面白いのでは。

悪くない日本式の旅館。 ← これは、描写するのとしないのとでは、えらい違いが出るので。描写しましょう、という意味。

基本、御作は描写しないで説明で書いているので、情景が浮かびにくいです。


>チャットGPTに感想をもらったらこんな感じでした<

チャットGPTとか、ほかのAIに感想をもらって、その感想の意味を自分なりに客観的に知りえる方法があります。
どのぐらいAIの評価が正しいのかを知る方法です。

自分の作品だけと違い、他の作品と一緒に投稿して比べてもらうのです。
そうすると、評価の価値がわかります。
たとえばネットの懸賞で入賞した作品を自分で読み、どれぐらいのレベルなのかを判断しておく。
その作品と自分の作品を比較検討させるのです。
なので、同じ懸賞に投稿した作品とか。
テーマが同じとか、比べられる要素がある作品です。

それらをAIに読んでもらい比較検討してもらい、どちらが面白いのか、優秀だと感じるのかを見てもらう。
もちろん、作者が誰とか、自分の作品がどちらかだとかの情報は書かない。
要するに、AIに客観視してもらう材料(本文)だけを与える。

そうすると、自分の作品がどれぐらいのレベルなのかがわかります。

こんなところですかね。

おつかれさまでした。

夜の雨
sp160-249-15-94.nnk02.spmode.ne.jp

すみません、描写は違和感ない程度にしてありました。

どうして、描写していないのかと思ったのかというと、先に書いた「悪くない日本式の旅館。」これが、引っかかったのだと思います。
ほかには、
>猫がいたるところにいたし、漁師たちが舟を港に並べていた。<
「並べていた。」など。

>観光地化していないなんとなく非日常な街の雰囲気。
猫がいたるところにいたし、漁師たちが舟を港に並べていた。<

この「観光地化していない」の部分などは主人公が歩いて描写しておくとよいですね。「非日常な街の雰囲気。」が伝わるように。

「猫」も、せっかく存在を書いているので、少しアピールさせておいたほうがよいかなと。

>僕らは散策を開始した。<
「を開始した。」とか。

が、眼に入り、感想を書いてしまいました。
もうすこし、丁重に描いたほうがよいのではないかと思いました。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

自分はこの主人公は届かない恋と安定した生活に揺れているのも、日本的な漁村や神社に来てもメドゥーサとかフォアアンドアフトセイルみたいなちょっとヨーロッパ風なおしゃれな言葉で表現を飾るどうしてもぬぐえないナルシ―なところも、実に人間らしい感じがします。綺麗な表現を使ってますが、読後感は決して綺麗なものではない。でもその淀みこそがこの作品の深みになっていると思う。作者は綺麗な余韻を作ろうとしたかもしれないけど、結果としてこの生々しさが良い方向に行ったんじゃないかな。

厳しいこと言うと、妻がものすごく可愛そうに思えるんですよー。
夫の心が自分に無いことを知ってて、そこまで尽くしてしまうのもなんか却ってリアリティを感じないし、妻と一緒にわざわざ旅行に来たのに妻のことがほとんど描写されてないから、憧れの人への回想の描写は濃いのに対して、ほんとに大切にしようと思ってるのか、ちゃんと妻のことを見ているのか、ものすごく不安な気持ちになってしまって。
もうちょっと妻の描写とか考えても良いかも。
妻を理解者として描くのではなくて、もうちょっと人間らしい対話をさせても良いかなってちょっと思いました。
主人公が妻に感謝を思うなら、それを一言くらい言葉や態度で示してもいいような気がしたんです。
あの、それすらも言わないで理解してしまう「聖人のような妻」というのも居るかもしれないし、それを表現しようとしたのかもしれないけど。

may
ab155025.f.west.v6connect.net

先にコメントくださったみなさま。本当にありがとうございます。
うれしく受け止めます。


夜の雨様

メインストーリーへのご理解を感謝します。またAIとの付き合い方について、比較対象をあたえることで精度が増す考えに私も賛同しました。今後の使い方をさらに自分にとってよりよいものにできそうです。

描写についても触れていただきありがとうございます。

えんがわ様

真剣に読んでくださったととれる感想をありがとうございます。じつは、AIに辛口で、この作品を生理的にうけつけない読者視点での批評をしてくださいと入力したところ、えんがわさまと同じことを指摘されました。

ナルシストな主人公と、かすんでしまう完全に背景な妻。

妻の扱いも、そうしたかったわけではないので、改善が必要です。


みなさま刺さるご意見をありがとうございます。
大事にします。

小次郎
KD106133097048.au-net.ne.jp

なんのために、結婚しているのか、そこにぼやけ感が見えますかね
作品は、全体的に思考が中心
心の部分が弱いかも

頭と心は、違うわけですが、頭は、思考で心は、感情
この感情部分が伝わってきづらいかな

may
ab155025.f.west.v6connect.net

小次郎さま

そうですね。ナルシストなだけでこころの感情の深みがなかったです、
ポエムでした。
どうやったら小説に昇華できるか考え中です、ありがとうございました。

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