猫と歩く
深夜か朝か分からないが。午前4時、道を歩く。猫に連れられて。
猫は土道の水たまりの間をてくてく歩く。風は細く、爽やかというよりも少し冷たい。ジャンパーのポッケに手を突っ込み、外灯の下を歩く。夏の忘れ物の羽虫がじいじいとランプの下を彷徨っている。
それ以外は静止した闇のような街中を、猫はてくてく歩く。偶に立ち止まって、空気を嗅ぐように辺りを見回す。もう朝用のゴミ袋がしんと積もっている。面倒くさがり屋の住民が、夜のうちに出したのだろう。猫がてくてく畑を突っ切る。「すまん、農家のおっちゃん」と思いながら、僕も畑を突っ切る。なにも埋まっていない畑は、しかし良く耕されていて、スニーカーがぷかぷか土中に入る。足の底の感覚がどこか心地よい。猫は畑の中央で、土をかきかきしている。それからどかっと座るようにして、宙の一点をじっと見つめる。おしっこをしているのだな。星は見えない。分厚い雲がかかっている。畑の真ん中。トイレをしている猫と何もしていない僕はそこにいる。遠くの闇の中で、ただ一点光っている窓がある。必死な受験生だろうか、それとも夜更かしのぐーたらだろうか。
猫がコンクリートの道をふらふら歩く。いつもなら車が一所懸命な道も、今はお休み。君だけのもの。僕もふらふらついていく。猫の灰色の毛は闇に溶けるようで、時々驚くほど白い輪郭を作る。ふらふらふわふわ歩いていく。
猫が雨どいに首を突っ込む。ぴちゃぴちゃという音が聞こえる。昨夜降った雨を味わっている。美味しいのかなぁ。少しずつ鳥の鳴く声がしてきた。ちぃちぃという音。それに定番のカラスのカァカァが混じる。空は闇色から鈍い灰色に変わっていた。曇りの日の夜明けは、色もなく、ゆっくりと始まり、いつのまにか終わる。賑やかになっていく鳥の声。音だけを連れて。
猫が振り返る。「もういいかい?」僕に二,三、撫でられると、来た道を引き返していく。
朝になり、少しずつ景色が色を取り戻していく。雲の藍の混じった灰色。電線のたるんだ黒。スマートな電線柱。畑の茶色。のっぱらの緑。一日のはじまりを感じる景色の中、僕と猫は家に帰っていく。
調子の悪い玄関ドア。ちゃんと閉じないと、ギィッて何時の間にか開いてしまう。そこを開けて、猫をくぐらせ、僕もくぐる。階段をとっとっとっと登る。しばらくすると猫のトコトコトコと歩く音が続く。一緒に僕の部屋へ入る。「はいはい、朝のパトロール、ごくろうさま」とクリスピーキスという猫のエサの小袋を開ける。小さな、コーンフレークくらいの粒粒を一つ一つ猫に与える。わざと口元から離して捕まえさせたり、エサを持つ手を振って口元で追いかけさせたり。満足すると、僕の机の椅子で、でっぷりと横たわり、すうすうする。僕の机には椅子が二つある。一つは僕用。一つは猫用。机に並んだ椅子の一方に僕は座り、パソコンを立ち上げる。隣の椅子にいる猫を撫でながら。
ディスプレイには昨夜必死に書いた愛やら夢やら浪漫やら、そんなものを詰め込んだ長編小説の冒頭が書かれっぱなしだ。僕はそれをデリートして、このことについてタイピングしていく。猫は僕の横ですやすやしている。撫でてみる。尻尾がちょこんと動いた。僕は笑い、タイピングを続ける。
執筆の狙い
僕はちかごろ猫と散歩します。
いえ、猫が僕を散歩させるのです。
夜、猫はパソコンデスクの上にとてんと乗っかり、一緒に外に出ようよと誘うのです。