作家でごはん!鍛練場
Franz作家

単発怪談 ある夏のおはなし

霊魂は信じないが神は信じる。といってもそれは自発的にではない。

ちょっと昔の話をしよう。あれは中学生くらいのときのこと。僕は友人のKの家に泊まっていた。丑三つ時になったころ、僕とKは家の裏にある山道を二人で歩いてみることにした。肝試しだ。

街灯もない田舎道を、スマホを片手に歩くKとその横を歩く僕。二人で何もない山道をひたすらに歩いた。家を出てから十分ほど経ったころだろうか。僕らは道路脇に小道があるのを見つけた。人が歩けるように整備されていて、草木がきちんと刈られている。おそらく登山ルートなのだろう。

「行くしかねぇだろ」Kは興奮していた。僕はあまり行く気がしなかったが、ここで退くと後で馬鹿にされると思い、渋々ついていった。そして悪い予想は的中する。

 歩いてすぐに石造りの階段が出てきた。Kの興奮はさらに加速し、彼は駆け足で階段を登った。僕もそれに続いた。階段の先にあったのは神社だった。だが普段みるものとはちょっと様子が違う。狛犬がいない。境内にはごみが散乱し、本殿の床は抜け落ちている。お世辞にも神様が住んでいるとは思えなかった。

 僕は賽銭箱に金を投げ入れ、垂らされてあった鈴を鳴らした。森のなかに二拍と鈴の音が響く。風が吹き、木々が騒めいた。僕らはしばらく境内を散歩し、神社の様子を伺ったが、これといって面白いものはなかった。

 僕は早く帰りたかった。内心、今にも祟りが起きるんじゃないかとビクビクしていた。
 境内の探索を終えてから、僕はスマホを見ながらKの話を適当に流していた。そうして歩くこと十分、小さな事件が起こる。

「帰ろうぜ」僕がそう言った。しかし返答がない。横を見るとKの姿が消えている。僕は心拍数が上がるのを感じた。口の中が急速に渇いた。

「おーい」少し大きな声で呼んでも返事がない。僕はここでようやく、事の重大さを実感する。神隠し。物語の中でしか聞いたことがない出来事が目の前で起こった。気持ちが悪くなった。僕は吐き気を堪えながら全速力で走った。そのとき、何かが足首を掴んだ。転んだ僕はおそるおそる足元に眼を向けた。

 「からかうようなことをしてごめんなさい!許してください!」

 涙交じりの声でそう言った。すると聞き覚えのある声がした。

「おまえ、ビビりすぎ」足首を掴んでいたのはKだった
 それから僕らは家に帰り、その日はゲームをして夜を明かした。

 翌朝、僕らは昨夜の山道を二人で歩いた。耳をつんざくような蝉の鳴き声を堪えながら。しかし、どれだけ進んでも神社は見えない。整備された道も石造りの階段すら見当たらない。ルートを間違えたなんてことはあり得ない。というのも、Kの家は山のなかにあり、家の裏口にある道路は一直線だからだ。

 もしかすると違う道路を通ったのかも。僕らはグーグルマップを開いて近くにある神社を検索した。が、半径10キロ以内に神社は一つもない。信じられないかもしれないが、昨夜の神社はどこにもなかった。

と、ここまでだったら作り話に思えるかもしれない。だがこの話には続きがある。僕にとってはむしろ、そっちのほうが重要なのだ。

 僕は成人した折に地元へ帰った。リーゼントや袴、虹色に染まった髪をした若者たちが集まる成人式のあと、中学校の同窓会に参加した。幾人かの人が帰り、思い出話が盛り上がったところで、僕はあの話をした。

「……で、朝になってみると神社はどこにもなかった」

「それほんとう?」「どうせ嘘だろ」「小説家にでもなれよ」旧友たちは鼻で笑った。そして中学生のときにクラスの中心人物だった男が笑いながらこう言った。

「そもそもKってのも誰なんだよ」

 Kの存在を忘れている……? Kはみんなと同じ中学校のはずだ。僕は本名(Kの名前を加藤としておく)や彼の趣味、学生時代の人柄などをかいつまんで話したがピンと来ている人は一人もいなかった。

 みんな泥酔しているのか?

 結局、話題はすぐに切り替わった。同窓会が終わったあと、迎えに来た母親に「加藤って知ってる?」と聞いた。しかし、母ですら「知らない」と答える始末だった。

 数日後、僕はKの実家の前まで車を運転した。猥雑な改変をされた現実を一所懸命に否定するようにして、荒い運転で田舎道を疾走する。実家から十分も車を走らせると、田んぼに囲まれたKの実家に到着した。僕は車から降りた。表札には「加藤」と書かれている。庭の様子も五年前と何も変わっていない。それどころか、僕らが使っていたサッカーボールが転がっていた。

 なんだ。やっぱりいたじゃないか。

 安堵と郷愁に浸りながら庭を眺めると、僕はそこから家の裏まで車を走らせ、あのときの山道を進んだ。相変わらず車通りは少ない。そして僕はすぐに息を呑んだ。階段へと続くあの道、不自然に整えられた通り道があったのだ。僕は車から降りた。奥へと進み、石造りの階段を小走りに登った。まるで何かに導かれているように。四十段ほどある長い階段を登りきると、神社があった。そう、あのときの神社だ。だが少し様子が違う。入り口には狛犬があり、境内は綺麗になっている。本殿も修復されていた。

 僕はまっさらな空気を大きく吸い、木々が生い茂る神社を見渡した。新しくなった神社の鳥居には、次のようなことが書かれていた。








加藤神社。

単発怪談 ある夏のおはなし

執筆の狙い

作者 Franz作家
27-139-116-111.rev.home.ne.jp

暇つぶしで書いたのでね。特に意味はありません。ただ、半分実体験です。信じてもらえるかは分かりませんが。

コメント

偏差値45
KD059132065239.au-net.ne.jp

人間の記憶は曖昧で不確かなものであったりします。
山の風景というのは、どこも似たようなものです。
さらにその時の心理的な状況によって、
見えないものが見えたり、見えたものが見えなかったり、
聞こえないものが聞こえたりするものです。
実際、遭難者の多くがそんな経験をしています。
昼間、地図を確認しながら冷静に判断すれば、勘違いすることもない気がしますね。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

Kは実在していたのか、幽霊だったのか、けっきょくわからないまま靄のままに終わります。
でもその靄のようなわからなさが、ある意味少し不気味な不思議な後味として残ります。

名前をKにしたのが良くわかりません。「加藤神社」というオチを活かしたいなら加藤に統一してもとも思います。

最初に軽い笑いどころを用意して、振り返るとそこが「実は」な怖さにつながるところも好きです。

安心して読めてエンタメの感じもあったので、文章力はおありの方だと思いました。

>特に意味はありません。ただ、半分実体験です。
というコメントもなかなか作品に味を加えてましたよ。

Franz作家
proxy3.cc.sophia.ac.jp

えんがわさん 読んでいただきありがとうございます。確かに特定の状況では、勘違いが起こりえますし、人間の記憶は簡単に書き換えられてしまいます。意識や記憶というのはかくも不確かで面白いものですね

Franz作家
proxy3.cc.sophia.ac.jp

名前をまちがってしまい失礼しました。
えんがわさんへのコメントはこちらです。

まずはお読みいただきありがとうございます。最初から加藤に統一したほうがいいと言うのはその通りですね。作品に味があるというのは僕自身、想定していない感想だったためとても嬉しいです

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