作家でごはん!鍛練場
西山鷹志

山田さんですか

「もしもし山田さんのお宅ですか?」
「はい……なに。山田?……ああ? そうそう山田ですが。どちらさまですか?」
「実は息子さんが事故を起こしまして、相手の方が重症です」
「そうですか、それは大変ですねぇ……で、どちら様ですか」
「あのねぇ。人ごと見たいに言わないで下さい。ですから息子さんが事故を起こしたんですよ」
「あっそう、それはご苦労様です。で、どちら様ですかと聞いているんですよ」
「あのね、息子さん事故を起こしたんのですよ。驚かないんですか」
「だから、何度も聞いているでしょうが。どちらさまですか」
「あのね、落ち着いて聞いて下さい。事故を起こしたのですよ」
「落ち着くのはアンタでしょう。何処の誰かと聞いているんだよ」
「聞いているんですか。息子さんが心配じゃありませんか」
「それは大変でしたね。ご苦労様です」
「何を呑気な事をいっているのですか。貴方の息子ですよ」

「落ち着くのは、あんたでしょ。誰なのですか。さっきから何度も誰かと聞いているのに名乗らない方が怪しい」
「ああ、警察の者ですが」
「最初から言え。警察? 交通事故なら交通課が処理するでしょう」
「勿論そうだが、被害者がえらい剣幕でね」
「それは知らん。警察が介入したら警察で処理する問題だろう」
「相手は今なら示談に応じると、これから言う口座番号に振り込んでください」
「やはりそう来たか。最初からそう言え。警察なんて怖くないぞ。いや……そうじゃなくて警察だろうが、なんだろうが貴方の名前を聞いているんですよ」
「あれ? 警察に怯えていませんか。まぁいいでしょう。西南派出所の奥羽素ですが」
「なんだって? オオウソと言ったか? それに、そんな派出所聞いた事がないが」
「ああ、臨時に出来たんですよ」
「なに! 屋台じゃあるまいし簡単に出来るのか。この大嘘」
「大嘘とは失礼な。漢字で書けば、奥羽地方の(おうう)に素っ気ないの(そ)ですよ」
「そっちが漢字を並べてもなぁ、こっちにはオオウソにしか聞こえないだよ。字がどうだろうがオオウソだろう。やっぱりあんた振り込め詐欺だろう。大嘘だって言っているようなものだ」
「だから!奥羽素だと言っているでしょう」
「だいだいなぁ、紛らわしい名前を使うな」
「そんな事を言っても、先祖代々の名前ですから」
「分かった。じゃあ今度、名前を変えるのだな。俺は忙しいんだ」
 ガチャン。ツーツーツー
 そして間もなくまた。ジリリ~~ン

「もしもし山田さん? 西南派出所の奥羽素正直(まさなお)と申しますが、先ほどの事故の件ですが」
「しつこいなぁあんた。奥羽素の次は、まさなおってどんな字だ?」
「正直と書いて(まさなお)です」
「なに!? おおうその次が正直だと……紛らわしい? 注ぎ足したのか」
「違いますよ。それより交通事故の件ですが良く聞いて下さいよ」
「またまた、振り込め詐欺だろう。その手には乗らんよ」
「詐欺なんかじゃありませんよ。警察です」
「じゃあ百歩譲って警察だとしよう。で息子の名前と生年月日は?」
「ええと大輔さん、平成十年一月七日生まれ」
「ほう良く知っているなぁ。おお~~間違いない。大したもんだ。おめでとう」
「はい、拾ったもので」
「なに? 免許証を拾った.可笑しいじゃないか。事故を起こした本人の免許証じゃないのか」
「あっいやその……ともかく事故なでんす。相手が今なら示談金を安くすると相手の方が言っているのですが」

「なんだと。なんで警察が示談金交渉するのだ。タイムセールを警察は始めたのか? やっぱり怪しい奴だ。警官なのに何をあたふたしている」 
「いや新米なもので。ともかく息子さんが事故を起こしたんですから」
「新米だろうが古古米だろうが関係ない。もう子供じゃないから自分で責任を持てと言っておけ」

「でも家族じゃないですか。貴方はお父さんじゃないのですか?」
「ああ俺か? 何でアンタに話さなきゃあなんねぇだ。俺は忙しいんだ」
「ならば良い方法があります。すぐ今から言う口座に振り込めば手間も省け、割引すると言っていますよ」
「あっそ。じゃあ良い方法を考えた。あんたがその金を立て替えて置いてくれ。その方が早いぞ」
「チッこれは駄目だ。分ったこうなったら貴様の息子の命を貰うからな、ったく。電話代、損したわい」
「おやガラっと態度を変えやがって、やはり偽警察官か、この詐欺師野郎が」
「詐欺師じゃない。おれは袋田組のヤクザだ。そこで待っていろよ。お前の命(タマ)取にいくぞ」
「今度は脅しかよ。やっぱり詐欺野郎か。殺しに来ると言うのか。だけど来ても居ないぞ。なにせ俺は泥棒じゃ。たまたまこの家の電話に出たら貴様だった」
「なんだって泥棒だって、泥棒がなんで人の家の電話に出るんだ」
「俺は説教泥棒で有名でな。だから話好きなんだ。楽しませて貰ったぜ」
「くそっ遊び相手にされたのか。お前の方こそヤクザ以上に悪い奴じゃないか」
「勝手に言っていろ、この家のお宝貰って消えるサラバじゃ」
「この野郎、ヤクザを舐めるなよ。貴様を探し出してあの世に送ってやる」
「馬鹿め、俺が何処の誰かも知らないでどう見つけるのだ。お前こそ袋田組と名乗っていいのか。俺は天下の大泥棒だ。お前んところの組長の家からお宝を盗んでやる覚悟せよ」
 それから一週間後、組長の家に泥棒が入り日本刀と現金一億円が盗まれた。日本刀所持が発覚しては警察にも届けられず泣き寝入りするしかなかったとさ。

 

山田さんですか

執筆の狙い

作者 西山鷹志
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悪ふざけのコメディで2千300字ほどの掌編です。
多分ボロクソに言われる作品だと思います。
上手く行けば笑って貰える……かも。

コメント

黒川憐
M014011049192.v4.enabler.ne.jp

悪ふざけのコメディにしては結構満足した作品でした。
笑いました。
警官が詐欺だというのは序盤でわかりましたが、まさか受話器を取っていたのが泥棒だったとは…
主人公なんか変だな…という違和感を拭いきれずに読み進めていくと真実が明かされる。
この構成はありきたりですが、真実が180度回った展開でびっくりしました。

さて、家主の山田さんは泥棒に入られたほうが損害は大きいのか…
それとももし泥棒に入られず詐欺に引っかかった場合のほうが損害が大きいのか…
考えを深めるとより面白い作品ですね

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

拝読しましたん。

ミスリードで読ませる文章が上手ですよね。
相手がなんか嘘をついていると思わせて、そちらに集中させて、実は主人公が嘘をついていたというどんでん返しをメインに置く


テンポがとんとんとんと良かったので、楽しかったです。
これでダレたら目も当てられないと思うのですけど、とんとんというテンポの小気味よさ自体が、展開を軽くしてなんか楽しみを作っていて。
笑いというよりもにやりとする感じで面白かったですよ。

ネタがもうちょっと面白かったら、もっと面白かったでしょー。けっこうネタ自体はやっつけで書いた感じがします。

水野
fp8393d766.chbd309.ap.nuro.jp

読みました。あまり詳しくないので例えに出すのは憚られますが、落語?みたいな感じで、言葉の強弱とリズム感が楽しい作品でした。個人的には「新米だろうが古古米だろうが関係ない」の部分が面白かったです。

あと、免許証のくだりで「あっいやその……ともかく事故なでんす」と偽警察が言い淀むのですが、普通は「なでんす」の部分は誤字になってしまうんですよね。でもこの作品に限り、この誤字はあえて残しておいた方がかえって有効に働くのではないかと感じられました。
西山さんが、あえてここを直していなかったのだとすれば脱帽ものです。

気になったのは、後の展開のためとはいえ、冒頭で「はい……なに。山田?……ああ? そうそう山田ですが」とテンポの悪い口調になってしまっていることです。
他の大部分の会話は非常に心地よく読み進められるので、テンポを重視するのであればもっとさらっと流してもよさそうな気はします。
また、どうせ偽名なのだから鈴木とか佐藤とか一般的な苗字を使えばよかったのに、わざわざ偽警察が奥羽素と名乗ったところは、どうも作品の都合に合わせたいやらしさのようなものが漂っていて、少し戸惑いました。

西山鷹志
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黒川憐さん

お読み頂きありがとうございます。

面白いといって頂きホッとしました。
この作品、数年前に載せたのですが、ボロクソに言われました。
それを承知で載せただけに嬉しいです。

>さて、家主の山田さんは泥棒に入られたほうが損害は大きいのか…
>それとももし泥棒に入られず詐欺に引っかかった場合のほうが損害が大きいのか…

説経で泥棒ですから、留守にするなら大事な者は家の置くなとか一筆残してい行くの良いですね。
泥棒も詐欺は嫌ですが、損害額によりますね。
精神的には詐欺に騙された悔しさが残ると思います。

ありがとうございました。

西山鷹志
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えんがわさん

お読み頂きありがとうございます。

今回は、かなりはちゃめちゃな物になります。
殆どが台詞で終わってます。

普通泥棒に入り、その家の電話に出る訳はありませんよね。
そこはこの泥棒話好きな性格から、つい出たのでしょう。
冒頭で山田さんですからと言われ、躊躇し合わせてしまいました。
最後のオチが甘かったですね。

ありがとうございました。

西山鷹志
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水野さん

お読み頂きありがとうございます。

>あと、免許証のくだりで「あっいやその……ともかく事故なでんす」

これは完全なる間違いです。で、と、す が逆になりました(笑)

>気になったのは、後の展開のためとはいえ、冒頭で「はい……なに。山田?……ああ? そうそう山田ですが」とテンポの悪い口調になってしまっていることです。

この部分は、この家が山田とは知らなかったので慌てたと言う訳です。

奥羽素は笑わせる為に使いました。
元々、詐欺ならこんな名前は付けませんね。

ともあれ今回は皆さんにボロクソに言わないので安心しました。
でも内容はかなり酷いですけどね。

小説で笑わせる小説があっても面白いかと書いて見ました。
ありがとうございました。

夜の雨
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キャラクターと構成がうまいですね。
たしかに内容はコメディでした。
スラスラと読めて楽しめました。

これで闇の部分が描かれていると、さらに面白いかも。
たとえば泥棒だと言っている人物の裏の顔が有名人(社会的に地位のある方)だとか。泥棒に入っている家が脱税をしているとか。

西山鷹志
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夜の雨さん

いつも読んで頂きありがとうございます。

>たとえば泥棒だと言っている人物の裏の顔が有名人(社会的に地位のある方)だとか。泥棒に入っている家が脱税をしているとか。

それは面白いですね。
泥棒に入った家の人の事に触れていませんでしたから

脱税した分、お宝(金品)を頂いて行くのも面白いですね。
盗まれた事が公になれ脱税がバレるから泣き寝入りするかありませんね。

戦後説経泥棒が居たとか、泥棒が家の者を集めて、泥棒に入られない方法を伝授したとか。

ありがとうございました。

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