天人より、奉拝
※この話は、終局より抜粋したものです。
「感傷的になる必要などない。一度決めたからには、全てを断ち切れ。昨日という日にもはや辿り着けないように、過去は全て終わった。これまでもこの先も、今日というこの日が芽吹き、未来がただあるだけだ。」
告げる声ははっきりと届き、震えはない。馬の手綱を引く手はもう揺るぐことはなく、しかし、私の手を取ることもまたないようであった。もう何も担わない背中と輪郭のない背筋には、強さも弱さも示そうとする意思はなく、ただそこに形としてあるままと感じられる。
「殿下、どうか御身を」
湿ったアルコールの匂いとは違う、暖かい春の香りに触れるこの時を、私は待ち望んでいたに違いなかった。彼は笑みを深め、私の目をゆるりと見つめる。力の籠っていない彼の瞳は、かつて愛を交わしたあの刹那の色をしていた。あぁ。
「いい。全ては終わった。聡いお前の事だからきっと、わかっているだろう。」
こんなに穏やかな表情をみたのはいつぶりであったのか、もう思い出せないほどの時間が経っていた。行きなさいと彼が優しく諭し、私の頭を撫でた。その手に触れようとして、軽やかに阻まれる。
私はそれをしかと確認し、意図の含まれた瞳を二つと数えた。そうしてもう二度ほど頭を下げ、ゆっくりと、されど決して面影を残すことのないよう、彼に背を向けた。
馬車に乗り込むため腰を折った刹那、屈んだ頭越しに私はもう一度だけ草原を振り返る。
広く真っ青な草原の中、小さくぼんやりと馬と彼がいた。かつての栄光など見る影もないその姿に、私は胸が押しつぶされるようであった。
しかし、永き苦しみと多くの亡失の先に、ついに彼は世界との関係を断ち切った。それを他人がどう評価しようが、彼にはもはや関係がないのだ。
やがて馬車が動き出した。
神さえ霞むような安寧にも、恨めしさというのはまるでなかった。血と炎に包まれ押し寄せた波浪が、引き返すことはもうない。しかし、同時にあの全ても永遠に返っては来ない。慣れ親しんだ匂いが薄れ、草原までもが見えなくなるまで、私は窓を眺め続けた。
美しい鳥籠は、もとより雛鳥を必要としなかったのだ。
その事ばかりが頭に反響し、私は結局涙を押しとどめることはできなかった。もっとも、その涙が意味を持つことはなかったが、そんなことを虚しく求めることこそも、もはや無縁である。肩甲骨のあたりが、何かを失ったように疼き、痛む。思わず曲げた背筋のその先、目に入った靴にすりついた泥汚れこそが、あの日々を物語っていた。
車輪の律動に調教師が鼻歌を交え、風だけが草を撫でていた。執着を捨て、愛との別離を謀り賜え。分別のないあの頃に記した手紙の、賢しらな見解を思い出す。花を摘む感触と、微笑みの混じるせせらぎ。愛にして、忘れえぬ穏やかな喜び。
もう時期に、国境線を超える。
私の頭の中にある話なのですが、精神疾患のせいで上手く活字が扱えず、終局のみ抜粋という形にさせて頂きました。熱意ある場に失礼と捉えられかねない態度で入ってしまい、申し訳ありません。
あらすじを掻い摘みますと、主人公は天から中世時代の欧州国家に落ちてきた天使であり、その国のお家騒動に巻き込まれた末に全てが終わり、他国に渡るというものです。
殿下とはその国の第五王子になります。
読みづらく独りよがりの文になっていると思います。読んでくださって、ありがとうございます。
執筆の狙い
なにかした方がいい、と医者に言われまして頑張って書いたものになります。
表現したいものは、私の頭の中に存在する物語そのものです。雰囲気が伝われば嬉しいかなと思います。
また、私はこう、読む時のリズムと言いますか、そういうものを自分の心地いいものに組み立てるのが好きなので、リズムを楽しんでいただければと思います。(私が勝手に心地いいだけなので、人によりましては読むに値しないものであるとも思います。)
自我ばかりで読者の気持ちに配慮できていない気もしますが、比喩も沢山用いました。引っかかる点もあるやもと思いますが、虱潰しに全てを確認したので、比喩と私の意図に相違はないと思います。読み取りにくい表現ばかりですみません。
挑戦としましては、終盤に詩的な表現を用いました。
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