作家でごはん!鍛練場
飼い猫ちゃりりん

ミケの一生

 私にも輝かしい時代があった。まだ十七、八年前のことなのに、まるで遠い前世の記憶のようだ。
 私は宅建の資格を持ち、営業成績はいつもトップ。料亭の座敷で、社長から「うちの娘はどうだ」とまで言われたが、私はまだ遊びたい盛りだった。
 連日、後輩を引き連れてディスコに繰り出し、ボディコンの女たちを口説いては、タクシーでスナックへ向かった。支払いは全部私が済ませた。割り勘なんてケチな真似はしない。それでも財布は万札で膨れ上がっていた。

 だがバブルが弾けて地価が下落し、会社が倒産してしまった。私は小さな不動産屋に再就職し、そこで死に物狂いで働いて、社長の娘と婚約寸前までいった。なのに、その会社まで潰れ、社長は家族を連れて夜逃げした。
 自分の運のなさに嫌気が差し、酒浸りの自堕落な生活に陥った。失業保険が切れると生活保護を申請した。区役所の窓口で涙ながらに頼み込んで、何とか認めてもらうことができた。

 翌年の元旦、朝から粉雪がちらつき、郵便受けを見に行くのも億劫だった。でも、私なんかに年賀状を出す律儀な人がいるといけないと思い、寝巻にジャンパーを羽織り、突っかけを履いて階段を降りていった。
 久しぶりに郵便受けを開けると、職安からの手紙が埋もれていたが、面接の日はもう過ぎていた。
 そのとき「みゃ……」と小さな声が聞こえた。辺りを見回すと、みかんの段ボール箱が駐輪場の隅にあった。近づいて覗き込むと、へその緒がついた子猫が、私に向かって「みゃあ、みゃあ」と鳴いた。
「おい。捨てられたのか?」
 正月休みが明けると、団地の管理事務所に電話して、里親を探すから、しばらく飼わせてほしいと頼んだ。すると管理人の爺さんが面倒臭そうに言った。
「どうでもいい。わしは忙しいんだ」
 電話はガチャンと切れた。
 生きる気力もない私でも、小さな頭を缶に突っ込んで、懸命に食事するミケの姿に、思わず笑みがこぼれた。
「ミケ、おいしいか?」
「ニャ」
 
 穏やかに十七年が過ぎた。私を支えてくれたのはミケと、近所のコンビニの店員である。白いネームプレートには『佐藤明美』と刻まれていた。
 明美さんはたぶん三十代後半か四十代前半で、私より四、五歳年下の独身だろう。指に指輪の跡がなく、休日の予定を話すこともない。そんなところから、私は勝手にそう思い込んでいる。
 ミケを連れて、よくそのコンビニに立ち寄る。名目は100円のカップコーヒーだが、本当の目的は明美さんに会うことだ。
 互いに立ち入った話はしない。天気や新商品、そしてミケのこと。そんな話をするだけだ。
 明美さんはいつも素敵な笑顔を見せてくれる。接客だとは分かっている。でも、時折見せる寂しげな目に心を奪われる。きっと悲しい過去があるのだろう。ミケに触れる手が微かに震えていたことがある。潤んだ瞳の奥に、心の傷が隠れているような気がした。
 明美さんはミケを可愛がってくれた。レジの後ろのホワイトボードには、ミケの写真が磁石で留められている。彼女の携帯には、ミケの画像がアルバムのように収められている。
 気づけば、もう十年も、その笑顔に助けられていた。

 ミケと明美さんのおかげで、いつも幸せを感じながら生きることができた。
 私はもう四十半ば。ミケは人で言えば八十が近い。
 秋も深まり、少し風が冷たくなったころ。ミケが枕元に来て、いつになく大きな声で私を起こした。
「ニャア」
「どうしたんだ?」
 窓を開けると、穏やかな曇り空が広がっていた。
「散歩に行きたいのか?」
 ミケは私を見つめて喉を鳴らす。年老いたミケは、青空より曇り空を好むようになっていた。
 散歩の際は必ずリードをつける。最期が交通事故だなんて、悲劇以外の何ものでもない。最後は眠るように逝ってもらいたい。飼い主なら、誰だってそう思っているに違いない。

 ミケは耳も目も弱り、よぼよぼと歩く姿が涙を誘う。それでも公園に着けば、ミケは落ち葉相手に遊び回るのだ。本当に幸せなひと時である。
 公園に行く途中でコンビニに寄り、100円のカップコーヒーを買う。店の前で空を見上げると、白い影が雲に透けていた。
 朝の十時なのに月?
 でも、それ以上気にすることもなく自動ドアをくぐった。
「こんにちは。ホットコーヒーをください」
「あっ、ミケちゃんだ。今日もお散歩ね」と明美さん。
 彼女に会ってから公園へ向かう。ルーチンなんかじゃない。その笑顔は、もはや生きる糧であった。
 コンビニから少し歩けば公園に着く。木々は紅葉を迎え、景色は美しいが、平日だから人はいない。子供は学校、大人は職場。でも私は公園。
 ベンチに座ってカップコーヒーを飲み、落ち葉と戯れるミケを見守っていた。
 ごろごろと音が響き、空を見上げると、巨大な積乱雲の中に稲光が見えた。
 次の瞬間、物凄い轟音が響き、公園の木が火の粉を散らして真っ二つになった。私は飛び上がり、目を疑った。木の残骸の左右で、割れた鏡のように景色が歪んでいるのだ。
 空間が壊れたのか?
 すると積乱雲から灰色のロープが降りて来て、公園の真ん中に降り立った。
 なんだあれは?
 それは瞬時に竜巻に変わり、落ち葉を巻き上げ、大きな雹(ひょう)を降らせた。厚い雲に穴が開き、星空が顔を見せていた。
 超常現象ってやつか……
 竜巻はすぐに消え、穏やかな空に戻ったそのとき、「ドン!」と音が響いた。全身から嫌な汗が噴き出し、恐る恐る振り向くと、道路にミケが横たわっていた。
「ミケ!」
 慌てて駆けより、抱きしめて泣き叫ぶ。
「死なないでくれ!」
 リードを外したことを、悔やんでも悔やみきれない。

 その日を境にコンビニへ行くことは無くなった。不注意でミケを死なせたことを、明美さんに知られたくなかったのだ。なんて姑息な人間なんだ。
 晴れの日ばかりか、雨の日までも公園に出掛けるようになった。
 ミケは木陰に隠れているのでは……
 右手に傘を持ち、ずっと公園のベンチに座っていた。
 ミケを諦めることができない私は、再会する方法を模索した。最初は宗教に頼ったが、最終的にアインシュタインの『愛の力』に行き着いた。
 光速を超える力なんて想像もできないが、藁にもすがる気持ちで、その言葉を噛み締めた。
 偉大な科学者は言う。宇宙で最も強い力は『愛の力』だ。愛は光であり、重力であり、愛する者たちを巡り逢わせると。

『愛の力』に取り憑かれた私は、ある日、ぶつぶつと独り言を言いながら歩いていた。
 その力があれば、またミケに会えるかもしれない。どうやったら手に入るんだ?
 すると死が私にも来てくれた。高いマンションの前を歩いていたら、脳天にポカリと音が響いた。それで終わりだ。痛くも痒くもない。どうでもいいことだが、爺様が盆栽を落としたのだ。
 ただ問題はここからだ。天国と地獄が本当にあったのだ。

 駅の待合室で切符が配られるのを待っていると、キューピットが飛んで来て、天国行きの乗車券を差し出した。グリーン車ではなかったが、それは問題ではない。
 天国号の中はすでに楽園で、女神のようなCAが配る飲み物は、信じ難いほどの美味しさだ。
「何という飲み物ですか?」
「ソーマといいます」
「どこの製品ですか?」
「天国製ですよ。そろそろ昼食になりますので、席について下さい」
 窓の外を見ると、銀河を凌駕する壮大な星雲が渦巻いている。
 アンドロメダの道の駅で昼食を済ませて出発すると、小一時間でアナウンスが流れた。
「お待たせしました。間もなく天国に到着します。列車が揺れますのでベルトを締めて下さい」
 車内は歓喜に包まれ、皆が喜びを分かち合った。
「悪いことをしなくて良かった」
「真面目に生きれば報われるんだ」
 しかし列車から降りると、暗い空に稲光が走っていた。
 天国でも空が荒れるのか……

 シャトルバスが居住区に到着すると、不安が絶望に変わった。
 立ち並ぶ家屋は、どれもトタン板で造られた廃墟同然のボロ屋で、それを雨が激しく打ちつけているのだ。
 さらに私を絶望の淵に追いやったのが部屋の同居人だ。顔に傷のあるヤクザ風のおっさんが、大手を広げて出迎えてくれた。
「ようこそ天国へ。わからないことは何でも聞いてくれや」
「ここが天国とは信じられません。地獄の間違いでは?」
「ここは楽園だぜ。なんでもヤリ放題で食い放題。永遠に健康で不老不死だ」
「天国とは善人が来るところでは? 失礼ですが、あなたは……」
「おいおい俺は人は殺してないぜ。せいぜいタタキ(強盗)ぐらいだ」
 神様は狂っていると思った。
「ここで何をして暮らせばいいのですか?」
「なにって、俺と麻雀でもして暮らしゃいいよ。楽しいぜ」
 私は声が震えた。
「いつまでですか?」
「いつまでって、五億年ぐらい遊んで、飽きたら花札でもしようぜ」
 五億年あれば、恐竜は二度栄え、二度絶滅できる。その途方もない時間を麻雀のみに費やすとは、もはや正気の沙汰とは思えない。

 先輩は「はっはあ。そう来たか」と言って「リーチ!」と叫ぶ。私が牌を捨てると「ロン!」と叫び、「上達しねぇなあ」と大笑いをする。
 そんなことに、私は五億年も付き合った。シーシュポスも真っ青だ。次は花札を五億年? 冗談じゃない。これじゃ地獄じゃないか。
 私はソーマを一気に飲み干すと、雀卓にジョッキを叩きつけた。
「滋養強壮はもう結構です。それより毒薬は無いんですか?」
「落ち着け。何がしたいんだ?」
「死にたいんです」
「毒薬はあるけど、少し下痢するだけだ」
 ついに死の欲動が爆発した。
「もう天国なんて真っ平だ! 地獄で焼かれて死んだ方がいい!」
「そっか。 じゃあ『地獄体験十億年の旅』を試してみるか? 冷蔵庫の横の扉を開けて降りていけば、すぐに地獄だから」

 扉を開けて階段を降りていくと、そこは真っ白で何もない、冷たい死の世界だった。無限に広がる無間地獄に唖然とし、がっくりと膝から崩れ落ちた。
 すると小さな生き物が身をすりよせ、懐かしい声で鳴いたのだ。
「ニャ」
「ミケ!」
 ミケを抱きしめて、涙ながらに頬擦りをした。
「さびしかったね。悪かったね。ごめんね」
 ミケはごろごろと喉を鳴らした。何億年という時を経ても、ミケは私を覚えていたのだ。
 ああ神様。なぜミケが地獄にいるのですか? ミケに何の罪があるのですか? どうかミケを天国へ。
 私はミケに誓った。
「天国へ連れて行くからな」
「ニャ……」
 ミケと一緒なら地獄さえ辛くない。いや地獄だって幸せだ。そしてコンビニの店員、明美さん。その笑顔が心の支えになってくれた。
「ミケ、明美さんを覚えているか? いい人だったなあ」
「ニャア」
 やがて十億年が過ぎると、目の前に四角い空間が開き、先輩が顔を出した。
「どうだった? 天国の方がいいだろ?」
「見て下さい。なんの罪もない猫が地獄にいたのです。天国に入れてやりましょう」
「だめだ。その猫は地獄に置いていくしかない」
「どうしてですか?」
「天国と地獄の均衡が崩れるからだ。それは宇宙の絶対法則でな、神様しか変えられないんだ」
「なら私が代わりに残ります」
「それもだめだ。もうすぐ天国会議があって、全員参加なんだ」
「天国会議? なんですかそれ」
「天国の模様替えについて議論するんだ。もう意見は出尽くしているけどな」
 私はミケに誓った。
「地獄から出してやるからな」
「ニャ……」
 扉は静かに、固く閉ざされた。

 宇宙空間に浮かぶ壮大なスタジアムが会議場だった。
 アルプススタンドの上段はもはや霞んで見えない。まるでアルプスを凌駕するエベレストだ。
 望遠鏡を伸ばして見渡すと、出席者のほぼ全員が居眠りをしている。私は思わず先輩に聞いた。
「この会議に何の意味があるのですか?」
「意味なんてないよ。永遠に繰り返す暇つぶしさ」
 私は先輩に神様の席を聞いた。ミケを地獄に送った至高の存在を、自分の目で確かめたかったのだ。
 先輩は「あそこだ」と言い、スタジアムの真ん中に立つ塔を指差した。
 望遠鏡を塔の天辺に向けると、よだれを垂れ流し、酒瓶を枕にして眠っている酔っ払いが見えた。
 嘘だろ……
「本当にあれが神様ですか!」
「そうだよ。神様は宇宙一のポンコツなんだ」
「どうしてですか!」
「でなきゃ神なんてやってられないぜ」

 議長の声がスタジアムに響き渡った。
「皆さん。天国の模様替えについて、意見を述べてください」
 アルプススタンドから、ぽつりぽつりと声が上がった。
「やっぱ楽園バージョンだろ」
「いや月面バージョンだ」
「つまらん。もう地獄バージョンでいけ」
 先輩は私に言った。
「何べん同じことを繰り返すんだ。見てろ。俺にいいアイデアがある」
 先輩はマイクを握って立ち上がった。
「1980年代のバブル期バージョン! バブリーダンスでフィーバーだ!」
 特に何の反応もない。
「ちっ。乗りの悪い奴らだぜ」
 確かに楽しい時代だった。でも何億年もバブル期なんて馬鹿げてる。
 ああ、ミケと暮らした十七年。ただそれだけが星のように輝いている。
「先輩、マイクを貸してください」
 私は立ち上がり、静かに意見を述べた。
「儚い無常の世界を愛しています。生と死のある世界を再現しましょう。すべては、あるがままに」
 拍手喝采の嵐が起こった。
「それは凄い!」
「初めての試みだ!」
「神様、それでいいですか? 神様、起きてください」
 神様は面倒くさそうに言った。
「どうでもいい。わしは忙しいんだ」
 天体が雄大な円を描き始め、渦巻きの中心へ星々が吸い込まれていく。無数の光が一点に集約され、やがて銀白に輝く恒星が誕生した。
「無常の世界。それに決定」
 議長が木槌を振り下ろすと、恒星が盛大に爆発し、宇宙の彼方まで白銀の光に包まれた。

 ふと気づくと、私は公園のベンチに座っていた。コンビニで買ったコーヒーはまだ湯気を立てていた。
 夢だったのか……
 不思議なことに、その居眠りは一瞬にも、数十億年にも感じられた。
 ミケは私の横で眠っていた。そっと頭に触れると、ミケは顔を上げて私を見た。
「お前も夢を見ていたのか?」
「ニャ」

 その夜、ミケは眠るように逝った。毛布をかぶせ、一晩中添い寝をしてあげた。
 翌朝九時。明美さんに訃報を伝えるため、コンビニへ向かった。
「おはようございます」
「あれ? 今日はミケちゃん一緒じゃないんですね」
 ボードに留められたミケの写真が目に入り、思わず声が詰まる。
「実は……」
「はい?」
「昨夜、ミケが亡くなったんです。自分の横で眠るように逝きました。長い間、ありがとうございました」
 明美さんは目に涙を浮かべ、ミケの写真に手を合わせた。
「私、ミケちゃんに会えて幸せでした」
 彼女が目頭を押さえてそう言うと、私は涙をこらえることができなかった。

 おわり

ミケの一生

執筆の狙い

作者 飼い猫ちゃりりん
118-105-122-92.area1a.commufa.jp

約6000字の作品です。よろしくお願いします。

コメント

ムニエルの城
211.7.99.228

『ミケの一生』を読んで、私は強い失望と苛立ちを覚えました。タイトルから「猫の一生を丁寧に描いた感動的な物語」を期待しましたが、実際には作者自身の自伝的な失敗談と、支離滅裂な妄想の羅列に終始しており、猫の存在はほとんど添え物でしかありませんでした。

まず、冒頭の「バブル時代の成功と転落」のくだりは、あまりにも冗長で、どこかで聞いたことのある話ばかりでした。しかもそれが延々と語られるため、読んでいて退屈し、作品に入っていく前に気持ちが冷めてしまいます。本当に描くべきは「ミケ」だったはずですが、その猫の描写は「ニャ」と鳴くことと、年老いて弱っていく様子くらいしかありません。これでは「ミケの一生」という題名に偽りありと言わざるを得ません。

さらに中盤以降は、雷や竜巻など唐突な超常現象が起こり、天国や地獄の話に飛躍していきます。これらの描写はまったく必然性がなく、まるで作者の夢日記を読まされているようでした。物語としてのまとまりもなく、読者がついていける道筋もありません。小説を読んでいるのではなく、散漫な思いつきを延々と見せられているようで、大変苦痛でした。

また、文体も説明的でくどく、比喩は陳腐で滑稽です。「アンドロメダの道の駅」などはユーモアのつもりかもしれませんが、場違いで寒々しく、物語を壊していました。ラストで「やっぱり夢でした」と現実に戻す展開も安直で、これまでの6000字の努力を無にするものです。


---

まとめ

『ミケの一生』は、作者が本当に描きたかったことを見失った失敗作だと思います。猫を描くと見せかけて描かず、人間の人生や宇宙観を語ると見せかけて語りきれず、どれも中途半端に投げ出されています。結果として、読者に残るのは「長くて退屈で意味不明」という感想だけでした。

感動させたいなら猫の描写をもっと丁寧にするべきですし、風刺や幻想譚を描きたいならば構成を徹底的に整理すべきです。いまの形では、タイトルを裏切り、読者を裏切り、作者自身の力量不足をさらけ出しただけの作品に終わっています。

私はこの作品を読んで、「小説を書くうえで最も大切なのは、自分が何を描きたいのかを明確にすることだ」と強く感じました。残念ながら、この『ミケの一生』からは、その答えがまったく伝わってきませんでした。

飼い猫ちゃりりん
115-37-239-175.area1a.commufa.jp

ムニエルの城様。お読みいただき嬉しく思います。大変丁寧な感想をいただき、感謝しかありません。ご指摘された内容を自分なりによく考え、推敲の参考にさせていただきます。
忖度コメントが横行する中で、率直なコメントをするムニエルの城様の姿勢は素晴らしいと思います。
本当にありがとうございました。ムニエルの城様の作品も読ませていただきます。ではこれで。

はる
M106073196001.v4.enabler.ne.jp

飼い猫ちゃりりん様

 いい作品をありがとうございます。
 まず、率直な意見を言うと、意外性があって面白い作品だったと個人的に思います。ミケの一生というから、ミケと飼い主の関係性や、別れに至るまでの道筋を描いた作品だと想像していましたが、裏切られました。まさか天界が出てくるとは。人によるかもしれませんが、タイトルを裏切るいい展開だったのではないかと思いました。
 ただ、動物系の作品においては、最期の別れの描き方がかなり重要になってくると思うのですが、少しそこが淡泊に感じられました。もちろん、この作品の山場は「ミケが死んだあと」だとは思うのですが、交通事故?のシーンでもう少し、主人公がミケとの生活を思い返す描写や、ミケの弱った様子など、感情移入できる要素を入れて欲しかったです。

飼い猫ちゃりりん
14-133-209-123.area1a.commufa.jp

はる様。お読みいただき嬉しく思います。確かに意外性はあると思いますが、ありすぎて怒ってしまう人もいます。苦笑。
題名が『ミケの一生』だから、読者は猫の生涯が描かれると思いますよね。見事に外す。それが猫なんです。いかんな。汗
飼い猫は、書いてから題名を考えるので、題名に困ることが良くあります。この作品、最後まで良い題名が浮かびませんでした。

西山鷹志
softbank219054162233.bbtec.net

拝読致しました。

内容は悪くないですが夢の部分が余計でした。
夢の世界はぶっ飛んでいて、これまでの内容が台無しです。
夢の部分を省けば素晴らしい作品だと思います。

飼い猫ちゃりりん
sp1-75-251-134.msb.spmode.ne.jp

西山様。そこは夢というわけでもないんだけど、やはり夢なのかも知れません。ご指摘の部分を削除すると、こんな感じ。

『ミケの一生』

 私にも輝かしい時代があった。まだ十七、八年前のことなのに、まるで遠い前世の記憶のようだ。
 私は宅建の資格を持ち、営業成績はいつもトップ。料亭の座敷で、社長から「うちの娘はどうだ」とまで言われたが、私はまだ遊びたい盛りだった。
 連日、後輩を引き連れてディスコに繰り出し、ボディコンの女たちを口説いては、タクシーでスナックへ向かった。支払いは全部私が済ませた。割り勘なんてケチな真似はしない。それでも財布は万札で膨れ上がっていた。

 だがバブルが弾けて地価が下落し、会社が倒産してしまった。私は小さな不動産屋に再就職し、そこで死に物狂いで働いて、社長の娘と婚約寸前までいった。なのに、その会社まで潰れ、社長は家族を連れて夜逃げした。
 自分の運のなさに嫌気が差し、酒浸りの自堕落な生活に陥った。失業保険が切れると生活保護を申請した。区役所の窓口で涙ながらに頼み込んで、何とか認めてもらうことができた。

 翌年の元旦、朝から粉雪がちらつき、郵便受けを見に行くのも億劫だった。でも、私なんかに年賀状を出す律儀な人がいるといけないと思い、寝巻にジャンパーを羽織り、突っかけを履いて階段を降りていった。
 久しぶりに郵便受けを開けると、職安からの手紙が埋もれていたが、面接の日はもう過ぎていた。
 そのとき「みゃ……」と小さな声が聞こえた。辺りを見回すと、みかんの段ボール箱が駐輪場の隅にあった。近づいて覗き込むと、へその緒がついた子猫が、私に向かって「みゃあ、みゃあ」と鳴いた。
「おい。捨てられたのか?」
 正月休みが明けると、団地の管理事務所に電話して、里親を探すから、しばらく飼わせてほしいと頼んだ。すると管理人の爺さんが面倒臭そうに言った。
「どうでもいい。わしは忙しいんだ」
 電話はガチャンと切れた。
 生きる気力もない私でも、小さな頭を缶に突っ込んで、懸命に食事するミケの姿に、思わず笑みがこぼれた。
「ミケ、おいしいか?」
「ニャ」
 
 穏やかに十七年が過ぎた。私を支えてくれたのはミケと、近所のコンビニの店員だ。白いネームプレートには『佐藤明美』と刻まれていた。
 明美さんはたぶん三十代後半か四十代前半で、私より四、五歳年下の独身だろう。指輪の跡がなく、休日の予定を話すこともない。そんなところから、私は勝手にそう思い込んでいる。
 ミケを連れて、よくそのコンビニに立ち寄る。名目は100円のカップコーヒーだが、本当の目的は明美さんに会うことだ。
 互いに立ち入った話はしない。天気や新商品、そしてミケのこと。そんな話をするだけだ。
 明美さんはいつも素敵な笑顔を見せてくれる。接客だとは分かっている。でも、時折見せる寂しげな目に心を奪われる。きっと悲しい過去があるのだろう。ミケに触れる手が微かに震えていたことがある。潤んだ瞳の奥に、心の傷が隠れているような気がした。
 明美さんはミケを可愛がってくれた。レジの後ろのホワイトボードには、ミケの写真が磁石で留められている。彼女の携帯には、ミケの画像がアルバムのように収められている。
 気づけば、もう十年も、その笑顔に支えられてきた。私が人に対する愛着を持ち続けれたのは、明美さんのおかげだと思う。

 ミケと明美さんのおかげで、ささやかな幸せを感じながら生きることができた。
 私はもう四十半ば。ミケは人で言えば八十が近い。
 秋も深まり、少し風が冷たくなったころ。ミケが枕元に来て、いつになく大きな声で私を起こした。
「ニャア」
「どうしたんだ?」
 窓を開けると、穏やかな曇り空が広がっていた。
「散歩に行きたいのか?」
 ミケは私を見つめて喉を鳴らす。年老いたミケは、青空より曇り空を好むようになっていた。
 散歩の際は必ずリードをつける。最期が交通事故だなんて、悲劇以外の何ものでもない。最後は眠るように逝ってもらいたい。飼い主なら、誰だってそう思っているに違いない。

 ミケは耳も目も弱り、よぼよぼと歩く姿が涙を誘う。それでも公園に着けば、ミケは落ち葉相手に遊び回るのだ。本当に幸せなひと時である。
 公園に行く途中でコンビニに寄り、100円のカップコーヒーを買う。店の前で空を見上げると、白い影が雲に透けていた。
 朝の十時なのに月?
 でも、それ以上気にすることもなく自動ドアをくぐった。
「こんにちは。ホットコーヒーをください」
「あっ、ミケちゃんだ。今日もお散歩ね」と明美さん。
 彼女の顔を見てから公園へ向かう。ルーチンなんかじゃない。その笑顔は、もはや生きる糧であった。
 コンビニから少し歩けば公園に着く。木々は紅葉を迎え、景色は美しいが、平日だから人はいない。子供は学校、大人は職場。でも私は公園。
 ベンチに座ってカップコーヒーを飲み、落ち葉と戯れるミケを見守っていた。
 ごろごろと音が響き、空を見上げると、巨大な積乱雲の中に稲光が見えた。
 次の瞬間、物凄い轟音が響き、公園の木が火の粉を散らして真っ二つになった。私は飛び上がり、目を疑った。木の残骸の左右で、割れた鏡のように景色が歪んでいるのだ。
 空間が壊れたのか?
 すると積乱雲から灰色のロープが降りて来て、公園の真ん中に降り立った。
 なんだあれは?
 それは瞬時に竜巻に変わり、落ち葉を巻き上げ、大きな雹(ひょう)を降らせた。厚い雲に穴が開き、星空が顔を見せていた。
 超常現象ってやつか……
 竜巻はすぐに消え、穏やかな空に戻ったそのとき、「ドン!」と音が響いた。全身から嫌な汗が噴き出し、恐る恐る振り向くと、道路にミケが横たわっていた。
「ミケ!」
 慌てて駆けより、抱きしめて泣き叫ぶ。
「死なないでくれ!」
 リードを外したことを、悔やんでも悔やみきれない。

 その日を境にコンビニへ行くことは無くなった。不注意でミケを死なせたことを、明美さんに知られたくなかったのだ。なんて姑息な人間なんだ。
 晴れの日ばかりか、雨の日までも公園に出掛けるようになった。
 ミケは木陰に隠れているのでは……

大河とせきがはらあ!
M106073079225.v4.enabler.ne.jp

ーでの3000てんありがとうございましたあ、それでも、と、わ。

 ーとわありた、そおですがあ。

しいな ここみ
KD106146001071.au-net.ne.jp

面白かったです!
面白かったなんて言ったら、主人公さんとミケちゃんに対して失礼という気もしてしまいますが……(/_;)

>年老いたミケは、青空より曇り空を好むようになっていた。

これだけで老猫の表情まで見えるような、いい表現ですね。

>最後は眠るように逝ってもらいたい。飼い主なら、誰だってそう思っているに違いない。

思っていたけど、私の愛猫はバイクのひとにわざと轢かれて死んだそうです(/_;)隣のおばちゃん談


後半の天国の場面にしても、天国がどれだけダラダラと退屈なところかよくわかり、うんうんとうなずいてしまいました。

ナンセンスな良作だと思います。あえて悪いところを挙げるなら、ダラダラとしまりがないところだと思いますが、ナンセンスなものが書きたかったのならそれでいいと思えてしまいました(*´艸`*)

飼い猫ちゃりりん
27.230.36.223

しいな ここみ様。お読みいただき嬉しく思います。

>ナンセンスな良作だと思います。あえて悪いところを挙げるなら、ダラダラとしまりがないところだと思いますが、ナンセンスなものが書きたかったのならそれでいいと思えてしまいました(*´艸`*)

嬉しい感想です。ナンセンス。哲学も宗教もそう。実際不老不死なんて誰も望んでいない。生物はそんなものを望んでいないと思うのです。

>思っていたけど、私の愛猫はバイクのひとにわざと轢かれて死んだそうです(/_;)隣のおばちゃん談

わざと轢いたなら、その野郎は虎の餌にするべきです。

あ、ここみさんの指摘は秀逸でした。
バイオハザードをモデルにしたわけですが、どれだけ残虐描写をよくしても新境地にはいかず、見飽きたスプラッターの域は出ないでしょう。
問題は怪物の心理描写。この一番重要なところを「涙」で芋引いちゃったわけです。ここが一番の腕の見せどころなのに、作者はその重要さに気づいていない。

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