作家でごはん!鍛練場
紅月麻実

人狼様の使い

 7月30日、今日も一人、人狼に殺された。
「一体人狼は誰なんだ!?」
「もう残りの人も多くないのに……」
「次はきっと私が殺されるんだっ……!」
 だから、人狼はあいつだって言ってるのに──

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 事の発端は一週間前。ちょうど、俺が引っ越してから3日が経った頃。近隣の村で噂されていた【人狼】が動き出した。
 人狼は賢い生き物で、人間になりすまして引っ越したあと、必ず村に馴染むために、一定の期間は人を襲わない。最低でも一ヶ月以上。長いやつで、三ヶ月も動かないことがあるらしい。
 なので、引っ越してからまだ3日しか経っていない俺は、疑いの枠から除外されていた。しかし、村の住民が何時に何をやっているかなど知るわけもないので、村の会議にはほとんど参加できずにいた。
 少しでも役に立ちたかった俺は、夜遅くまで起きてでも人狼を見つけ出そうと躍起になり、7月26日、とうとう人狼が村の住民を襲っているところを目撃した。
 犯人は、結那と言う女の子だった。俺から見るとただのぶりっ子で、村の住民から見るとただ可愛い子。正直意外だった。
 後日、27日の会議で、彼女が人狼だと発言したのだが、例にもよって彼女は泣きべそをかいて、「なんでそんな事言うのぉ……」と、村の住民の同情を誘って、俺を悪者に仕立て上げてみせた。
 その後、何日か俺は証拠取りをするようになった。写真に収めたり、動画を取ったり、声を録音したり。
 なのに、誰も俺のことを信じようとしなかったのだ。死んで当然、見つけれなくて当然。
 論より証拠という言葉を、彼らはきっと知らないのだろう。そんなんだから死ぬんだ。
 26、27、28、29。4日に渡ってたくさんの証拠を集めても、誰も信じようとしなかった。だから、俺はもう諦らめた。人狼は、結那だって言ってるのに……。

 そして今日も、会議で一番怪しいと投票された人が吊るされる。俺は最初から容疑者に入らない。結那は、当たり前のように容疑者から外されている。
 今日の会議は、いつもより喧騒が激しかった。夫婦が、お互いが人狼なんじゃないかとわめき始めたのだ。

「人狼はあなたなんじゃないの!? きっと、隣で寝ている私の首を、虎視眈々と狙っているんだわ!」
「はぁ!? 俺が人狼だったら、人間の隣で寝やしねぇよ! お前こそ人狼なんじゃないか!?」
「なんですって!?」
 ……だから、俺の隣で傍観している結那が人狼なんだってば。言っても無駄だから言わないけどさ。
 その後も、夫婦の話から話題が離れず、喧嘩はヒートアップするばかり。別々の部屋で寝るとか意味のないことを言い出した。人狼って怖いな、夫婦の関係も破綻させるんだから。
 結局、どっちも怪しいということで、夫婦二人ともが吊られてしまった。
「なんでそうなるのやら……、二人も吊っちゃったら、人数が減って、人狼がうまうまするだけじゃん……」
 もし、吊ったあの二人のどっちかが人狼だったら、今日の夜は誰も死なないということで、その日の会議は終わった。だから結那が人狼なんだってば。

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 31日。一人死んだ。当たり前。

 今日も会議が行われる。投票で一人が吊るされる。会議が終わる。夜になる。また人狼が人を殺す。

 朝になる。会議が行われる。投票で一人が吊るされる。夜になる。また人狼が人を殺す。

 会議が行われる。投票で一人が吊るされる。夜になる。また人狼が人を殺す。

 投票で一人が吊るされる。夜になる。また人狼が人を殺す。

 夜になる。また人狼が人を殺す。

 また人狼が人を殺す。



 今日もひとり死んだ。


 ……頭がおかしくなりそうだ。もう、人狼の騒動が始まって何日経ったかわからない。いい加減にしてくれ……。
 気がついたら、俺は家に引きこもるようになっていった。人狼の話題を耳に入れたくなくて、SNSを遮断した。ネット注文で食材を買って、在宅ワークで金を稼いで、一切家から出なくなった。カーテンは閉め切って、電気もつけずに1日中部屋に座り込んだ。
 もう、朝も夜もわからないが、それでも外の喧騒が聞こえてきて、また一人吊るされる音が聞こえてきて、人狼に殺される音が聞こえてきて。
 聞きたくない聞きたくないと必死に毎日耐え忍んだ。

 俺も、いつか殺されるんだろうな……。そんなことを思いながら。

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 おそらく、その日の夜。すっかり静まり返ってしまった、時計を見ると11時に。
 コンコンッと誰かがドアをノックした。おかしいな、宅配の時間ではないはずだが……。
 ドアを開けた瞬間、飛び込んできたのは、

 人狼、結那だった。やはり外は夜。月明かりに照らし出されたその人狼は、可愛げな笑みを浮かべてドアの前に立っていた。
「……俺を殺しに来たか」
 そう呟くと、人狼は「うふふっ」と嗤って下から俺を覗き込んだ。
「そうだね〜、お前の答え次第では、殺しちゃうかもね〜?」
「……答え次第? 今までのやつは、ちゃんと答えられなかったから死んだってのか?」
「んなわけねぇっつの。お前だけ特別ってこと」
 何だよ、どういうことだよ? こいつは何を考えてるんだ? 答えって、クイズでもされるのか……?
 すると、あたかも俺の心が見えてるかのように人狼は笑い出した。
「あっはっはっは! クイズ、クイズってあっはっはっヤメテ、腹筋が痛い……あっはははは……!」
 え? 何だよ、なんで急に笑うの??
 ひとしきり笑って落ち着くのを待っていると、目に笑い涙をにじませながら話し始めた。
「んも〜、違う違う、そういう答えじゃなくってさぁ……あはは……クイズっ……! えっとね、お前さぁ、結構早い段階でオレが人狼だって見抜いてたろ? だけど誰もお前のこと信用しなかったじゃん?」
 あ、そうか。こいつは、俺を憐れんでくれてるってことか。
「そうそう、お前を憐れんでやってんの」
 ……え? 心のなか読まれてる??
「そだよー? だってうちら人狼だし。んでね? お前に選択肢を与えてあげたいんだ」
 選択肢……。
 心のなかで反芻していると、眼の前の人狼はなおもにやりと笑って俺を見てくる。獲物を待つような、人狼に対していうのもあれだが、猫のような目つきで。
「ふふっ……、お前に与える選択肢は2つ。このままオレに食い殺されるか……、オレ達の仲間になるか」
 なか、ま……?
「待ってくれ、仲間って、俺はただの人間だぞ? 何のメリットがあるんだよ? それに、人狼なんかの仲間なんて……」
 言い淀んでいると、眼の前の彼女は、ゆっくり説明してくれた。
「まぁそうだよなー……? いいぜ? 教えてやろう。オレ達人狼はなぁ、人間の協力者が何人か居るんだよ。ま、要するにお前たちのいう【裏切り者】だ。【裏切り者】は、オレ達がうまく生き残れるように手助けをするんだよ。でも、それを人狼同士でやるのはかなりのリスク。だから、人間を使うんだ」
 お、おう……?
「んで、その【裏切り者】君には、絶対に人狼と疑われない環境を用意する。今のお前みたいに、人狼のあとからやってくるとかな。偽情報を吹き込んだり、何をするかは自由だが、とにかく人間を惑わせるのがお仕事。オレ達にとっては、十分大事で必要な戦力なんだよ」
「そ、そうかよ……でも、お、俺は……遠回しとはいえ、人間を殺すなんて……」
「お前が人間を助ける理由は何だ?」
 そのまま沈黙したら、すかさず彼女は鋭く問いかけてきた。
「え……?」
 ……考えたこともなかった……。いや、あいつら俺の言うことなんて一切聞いてなかったし、俺も俺で、信じてもらうのを諦めてたし……、それって、あいつらを見捨ててるってことで……、
 初めて村に来たときも、あんまり歓迎されていなくって、態度も冷たくて……。
 ああ、……あいつらを助ける義理なんて、最初から無かったのか……?
 頭の中を整理して、あいつらの今までの態度を思い返して、嗚呼自分はなんて馬鹿だったのだろうという結論に至った。
 だってそうだろう? アイツラは最初から俺を歓迎していなかった。でも俺は、人狼を倒すために、少しでも役に立とうと頑張ってた。
 でも、それっていうのは、アイツラからは求められていなかった。
 助ける義理なんて無かった。手伝う理由なんて無かった。俺の証拠集めも、何の役にも立たなかった。
 話を聞かない人たちのためにやっていた、人間のためにやってきたことが、全部無駄だったなら。
 いっそのこと、俺を欲しがっている彼女のために──
「……【裏切り者】、か。いいな、人の話を聞かない村の連中、食い散らかしてやってよ」
 もう、やめてしまえばいい。
「ふふっ、お前ならそういうと思ったぜ?」
 結那は腕を広げて言った。

 「ようこそ、人狼陣営へ」

人狼様の使い

執筆の狙い

作者 紅月麻実
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こんにちは! お久しぶりです!!! よーやくテスト色々終わったので書きに来ましたぁ!! 今回は、ダークヒーロ? 的な物語を書きたいなと思って書き始めた新しいお話です! おかしなところと感想、よろしくお願いします!!

コメント

青井水脈
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読ませていただきました。

>しかし、村の住民が何時に何をやっているかなど知るわけもないので、村の会議にはほとんど参加できずにいた。

村の住民が 以降も、村の住民を 村の住民の
こちらは、村人が、村人を、などと書くと、スッキリするかと。日本昔話とか読んでいたら、出てくるはずで。

とある村に、主人公である俺が引っ越してきて、スタートする物語。主人公は村人を襲う人狼の話を聞く。そして、結那という少女と出会う。
主人公と結那と、これからどうなるか気になりますね。背景をもう少し書いておくと、面白くなると思います。物語の舞台の村について。あとから、ネット注文した食材が届くなど、ネットワークが発達した環境とはわかりますが。農家、農業に従事する人が多い農村、漁業が主な産業の漁村。主人公から見える景色も、どこまでも続く山並みとか、魚を入れる篭を担いだ漁師とか。風景が浮かぶ感じになるかと。
村人も、今の段階では無個性な、モブキャラみたいな印象かと。主人公からしても、あいつらと一括り(ひとくくり)で。村長だけでも、年令や外見など設定しておくといいかと思いました。村の会議で、皆をまとめようとするのか、黙って座ってるだけなのか、とか、キャラとして動かしてみるとか。
続きも頑張ってください。

紅月麻実
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青井水脈様
 なるほど、普通に村人でいいんですね! 了解です!!

 風景…、たしかに大事ですね……! 田舎、というのは漠然とあったのですが描けていないですね、完全に。

 村長だけでもはっきりしたほうがいい…、なるほど…尊重も完全にモブだったので考えていませんでしたね……。

 入りをあっさり描くのは私の悪い癖ですね…、気をつけようと思います! アドバイスありがとうございました!!

夜の雨
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紅月麻実さん「人狼様の使い」読みました。

なるほど、面白いものを読みました。

何の変哲もない人間がというかどちらかというとまともな精神の持ち主が、魔物に染まる過程が話になっていました。

御作の問題は「物語」ではなくて「話」になっていたというところです。

つまり演出が入っていない。
こういうお話ですよ、ということを伝えている、書いているだけではないかと。
せっかくの面白いネタを物語にしたらどうでしょうか、という事になりますね。

物語にするには「情景描写」やら「心情描写」などを話の中に入れていく。
すると話が物語になっていきます。

御作はホラー系なので、夜の月の様子を描写するとか。
後半で少女である結那が主人公をたずねてくるシーンなども、表情やらをそれらしく描く。

一つ一つのエピソードも演出を挿入して描写すると、臨場感が出てくるのでは。

というような感じですかね。

御作の狙いはよかったですよ。

紅月麻実
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夜の雨様
 感想ありがとうございます。やはり、久しぶりに小説を書くとクセが大きく出てしまうようですね……、背景描写や心理描写、かなり描くのが苦手なようです。きちんと推敲して、書き直して、もう一度載せようと思います。

 読んでくださりありがとうございました。

ムニエルの城
211.7.99.228

紅月麻実氏の新作『人狼様の使い』は、「人狼ゲーム」を題材に、人間の孤立と裏切りを描こうとした短編だ。
しかし率直に言えば、これは小説として成立していない。着想自体は悪くないのに、構成・描写・演出すべてが稚拙で、せっかくの題材を台無しにしている。

以下では、その問題点を徹底的に洗い出していく。


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① 説明ばかりで「物語」が存在しない

本作の大半は「主人公の説明」で埋まっている。
「人狼は引っ越しから一ヶ月は動かない」「証拠を集めた」「信じてもらえない」――すべて“語り”であり、描写がない。
読者は出来事を「見せられる」のではなく「聞かされる」だけなので、臨場感がまるでない。

→ これは「話」であって「物語」ではない。


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② 繰り返し表現が致命的に退屈

会議→吊るし→夜→人狼が殺す、のくだりがコピペのように繰り返される。
恐怖のループを描くつもりなのだろうが、文体も演出も単調すぎて「狂気」ではなく「冗長さ」しか残らない。
「また人狼が人を殺す」などは繰り返すほど意味が薄れ、逆効果だ。


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③ キャラクターがモブ同然

村人たちは「夫婦」「村人」「あいつら」としか呼ばれず、顔も個性もない。
だから吊られても、殺されても、何の感情も湧かない。
肝心の結那も「ぶりっ子」「可愛い子」とラベルを貼られただけで、魅力も不気味さも描けていない。
結果、主人公が彼女に靡く必然性が弱く、ラストの堕落が茶番に見える。


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④ クライマックスが弱い

本来の見せ場は「主人公が裏切り者になる」瞬間のはずだ。
だが心理描写は数行で済まされ、唐突に転向してしまう。
読者にとっては「え、そんな簡単に裏切るの?」で終わり、恐怖も快楽もない。


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⑤ ホラーとしての演出不足

ホラーで最も重要な「情景」「雰囲気」「不気味さ」が欠落している。
夜の月、軋む縄、血の匂い、結那の瞳の光――そうした描写を避け続けているため、ただの会話劇にしかなっていない。
これではホラー小説としての価値はゼロだ。


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総評

40点/100点。
発想は悪くない。人間不信から裏切りへ堕ちる筋立ては王道であり、磨けば光る。
だが現状は「人狼ゲームのプレイ記録」を書き写したにすぎず、小説的演出が皆無である。

はる
M106073196001.v4.enabler.ne.jp

 紅月麻実様
 『人狼様の使い』、読ませていただきました。個人的には、面白い展開のお話だと思いました。人狼ゲームという題材のもと(?)、村人陣営だった主人公が、人間を裏切って人狼側につくというのは斬新に思えます。

 ここから主人公が「ダークヒーロー的な」存在になっていくというと、同じように人間を信用できなくなった人を仲間にしたり、人狼を助けてみたりするんですかね。そういう期待も膨らんで面白いです。

 強いて気になる点を挙げるとすれば、「??」など、大文字記号の繰り返しで少し冗長な表現に見えてしまう部分があるところですね。「?」単体でも意味が伝わるので、そちらのほうがいいかなと思います。内容に関係ないことで申し訳ないのですが、小説として読む場合気になる部分かなと思ったので、参考にしていただければ幸いです。

紅月麻実
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お二人とも、長々とありがとうございます。?? が冗長に見えると。そうかも知れません。また載せる時が来たら修正しておきます。

クライマックスに何の感情もわかない、ですか。そうですよね、単調だなと自分でも感じています。だめですね、完全に描く力がタリてません…。

主人公の説明で話が進んでる。たしかにそうですね、主人公目線の話も描いてみようとして、完全に失敗したようです。やはり3人称1視点が一番あっているのかもしれません。

ホラーというよりサスペンス? を描きたかったのですが、人狼はホラーでしたか。すみません、全然その印象なかったです。死んだ村人の様子などを描写していけば補えそうですね。次載せようとしたときは修正します。

ありがとうございました。

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