作家でごはん!鍛練場
いなしり

手紙を書く男

 僕が喫茶店に着いたとき、彼女は文庫本を読んでいた。
「申し訳ない。電車が遅れちゃって」
「全然いいのよ。待ってる時間って、そんなに嫌いじゃないから」
「何を読んでたの?」
「つまらない小説よ。一昨日から読んでるのにまだ四分の一も読めてないの」
「つまらないなら無理に読まなくてもいいんじゃない?」
「つまらないから読むのよ」
 僕は店員を呼んで、アイスコーヒーを注文した。それから煙草を取り出して、火をつけた。
「私にも一本貰える?」
と彼女が言った。僕は彼女に煙草を一本渡し、火をつけてやった。煙草を吸っている間、僕らの間にはほとんど会話は無かった。しかしながら、気まずさといったものは一切無かった。沈黙が存在すべき場所に存在している、ただそれだけのことだった。
「なんだか久しぶりに会ったように感じるわね」
「どうして?昨日も大学で会ったよ」
「そうなんだけど、こうして二人で会うのとは訳が違うでしょ?」
彼女の表情からは来るとも分からない車を待ち続ける車止めのような、形而上的な悲しさが漂っていた。僕は短くなった煙草の火を消し、箱からもう一本取り出してまた火をつけた。

喫茶店を出た後、僕たちは、大勢の人が行き交う新宿の街を、行く当てもなくぶらぶら散歩した。今日は太陽が憎くなるほど良い天気だった。
「どこに行く?」
僕は言った。
「どこでもいいわよ」
と彼女は言った。結局、僕らは行き先が決まるまで、そのまま適当に歩くことにした。歩いている間、僕たちは色々な話をした。小説についてだったり、美味しいランチの店についてだったり。僕と彼女は同じ学部、学科で、彼女は僕より一歳年上だった。彼女はいつも、単位を楽に取れる授業や面白い授業など、多くのアドバイスをくれた。気付けば僕の大学生活はあらゆる面において彼女無しでは成立しないようになっていた。
 そんな風にして歩いていると、目の前に異様な存在感を放つ建物が現れた。ここら辺は何度か来たことのある場所だったが、そんな建物を見たのは初めてだった。建物には看板が付いていて、どうやら美術館であるらしかった。
「入ってみましょうよ」
彼女が言った。僕は特に芸術に興味は無かったが、歩くのに少し疲れてきたので、喜んで入ることにした。
 中に入るとすぐに受付があった。館内は白を基調としたシンプルなデザインで、歯科医院の待合室のように、非自然的な清潔感に包まれていた。受付のすぐ横にポスターが貼ってあり、それによると、印象派についての美術展が開催されているようだった。僕は受付でチケットを二枚購入し、彼女と一緒に絵画を一つ一つ見て回った。
美術展は三つのフロアに分かれており、印象派の系譜に属する色々な芸術家の作品が概ね年代順に展示されていた。モネやルノワールといった、有名な芸術家の作品も多く展示されており、芸術的感性に乏しい僕から見ても、思わず見とれてしまうような作品もいくつかあったが、ほとんどの作品は僕にいかなる感情も与えてくれなかった。僕は絵画を見て最初の数秒間はそこにある芸術に向き合おうと努めたが、毎回すぐに集中力が切れて、気付けば何か別の事(例えば、さっきの喫茶店にいた店員の禿げ上がった頭とか)について考えてしまっていた。そんな僕とは対照的に、彼女はどの絵画もゆっくりと鑑賞していた(少なくとも僕にはそういう風に見えた)。そして絵画の隣に書かれている説明文も隅々まで読んでいるようだった。館内は極めて静寂で、足音すら許さないような雰囲気が漂っており、もちろん僕と彼女が会話することも無かった。それは芸術的素養の無い僕にとって、どちらかと言えばありがたいことだった。
 三つのフロアのうち、二つのフロアが終わり、残すはあと一フロアのみとなった。フロアとフロアの間にはちょっとした休憩スペースのようなものがあり、僕たちは最後のフロアを前に少し休憩することにした。
「やっぱり芸術ってよく分からないな」
と僕が言った。
「私も分からないわ」
「そうやって言う割には、随分熱心に鑑賞してたよ」
「うーん……なんて言えばいいのかしら。言葉にするのは難しいけど、どの絵にも何となく懐かしさが感じられるの」
「懐かしさ?」
「うん。懐かしさ。別に、教科書に載ってたのを覚えてたとかそういうんじゃないのよ?ただ、何となく、私の人生のどこかにこの風景が含まれてるみたいに感じるのよ」
「君にはものすごい芸術センスがあるのかもしれない」
「あるいは私はルノワールの生まれ変わりなのかもしれない」
「そうだったらとてもクールだ」
彼女は声を出さないように小さく笑った。ここは休憩スペースと言えども美術館なのだ。足音も許されない、静かな美術館。
 そうして十分くらい休憩した後、僕たちは最後のフロアへと向かった。最後のフロアは人物画が多かった。同じ人物画でも、同じ印象派でも、絵画の構図や雰囲気は作者によって様々だった。彼女は相変わらず、一つ一つゆっくりと鑑賞していた。まるで、絵の中の人物と会話をするように。あるいは本当に、彼女と絵の中の人物との間で何かしらのコミュニケーションが交わされていたのかもしれない。僕はそのコミュニケーションに参加できないことを残念に思った。
 最後のフロアも終わりに近づいてきたところで、一際大きな作品が現れた。おそらくそれは、この美術展で一番大きい作品だった。しかしながら、その作品に関して言えば、大きさなどといったものは単なる一要素に過ぎなかった。その作品は、机の上で手紙を書いている男を真正面から描いたものだった。僕はその作品を見た時、文字通り、動けなくなってしまった。僕は絵の中で何かを書いているその男のことを、自分と無関係な人間だとは、とても思えなかった。そんなわけがないのだ。この男が自分と無関係な訳がないのだ。僕にはその男の感情や思考が手に取るように分かった。その男が手紙を書くにあたっての決意や葛藤が自分ごとのように伝わってきた。この男は女性に向けて手紙を書いているのだ。その男にとって大事な女性に向けて。そして、その中身は文字として書かれなければならない類のものなのだ。口にした瞬間、濡れた地面に降る雪のように、一瞬にして消えてしまう類のものなのだ。しかしながらおそらく、その手紙は女性には届かないのだろうと思った。あるいは男もそんなことは最初から分かっていたのかもしれない。手紙を書こうと椅子の上に座った時点で、この手紙が女性に届かないであろうことは分かっていたのだ。分かった上で、それでもなお手紙を書いているのだ。女性のために。もしくは自分のために。
 この絵について思いを巡らせている間、僕は彼女の存在をすっかり忘れてしまっていた。僕がふと横を見ると、彼女もまたその絵を前に身動きが取れなくなっていた。彼女はその絵に対しても懐かしさを感じているのだろうか。そしてまた、その絵の中の男と何かしらのコミュニケーションをとっているのだろうか。彼女の表情を見ても、僕には彼女の考えていることは分からなかった。
 どれくらいの時間が経ったのだろうか、僕たちはずっと、「手紙を書く男」の前で立ち尽くしていた。すると彼女が突然、作品から目を離し、次の作品へと歩き始めた。僕も彼女に合わせて、その作品を見るのを止め、次の作品へと向かった。
そこから僕たちは何事も無かったかのように作品を鑑賞していった。僕たちは「手紙を書く男」について、お互いに言及することはなかった。その作品について言及することは正しくないことだという共通認識が、僕たちの間に存在していたのだ。そして何よりも、ここは静かな美術館だった。
展示を全て見終えた後、僕らは美術館を出て早めの夕食を食べに行った。グッズ売り場も素通りした。美術館で絵画を見ただけなのに僕たちは疲れ切っていたし、お腹もすごく空いていたのだ。
レストランでハンバーグを食べている途中、彼女は言った。
「今日みた作品だったら、どれが一番好きだった?」
僕は最初に「手紙を書く男」が頭に浮かんだ。しかしながら、僕はその作品を挙げるわけにはいかなかった。彼女は「手紙を書く男」を除いた他の作品の中での一番を聞いているのだ。僕にはその言外の意味を汲み取ることができた。
「最初のフロアにあった、海岸のやつが好きだった」
「確かに、あの作品良かった。私も好き」
僕は彼女に同じ質問を返そうとしたが、寸前のところで思いとどまった。何となく、聞かない方が良いような気がしたのだ。
 夕食を食べ終わり、駅まで歩いてから僕たちは別れた。僕は彼女を家に来ないかと誘ったのだが、彼女は明日早いからと断った。夜と呼ぶには空はまだ明るく、僕は疲れすぎていた。

 それから一週間ほど経った頃のことだった。二人で美術館に行った日から、僕は彼女と連絡が取れなくなっていた。周りの友人に聞いたところ、最近、彼女は大学にすら来ていないようだった。彼女と連絡が取れなくなってから、僕はときどき、あの絵のことを思い出した。あの絵との出会いによって、僕たちは何かがずれてしまった、そう思わないわけにはいかなかった。
 その日、僕は大学に行く前にコンビニで鮭おにぎりを買って、駅前のベンチに一人で座って食べていた。駅前にはいつも人馴れした鳩がたくさんいて、僕のところにも数羽の鳩が近寄って来た。そして僕が地面にこぼした米粒をつまんだ後、さらなる米粒を求め、忙しなく首を振りながら僕の周りを歩き続けた。やがて僕がおにぎりを食べ終え、鳩もこれ以上の恵みが得られないと察するやいなや、肩を落としながら(鳩が肩を落とすなんてことがあるのかは分からないが、僕には確かにそう見えたのだ)別の人間の下へと歩いて行った。しかしながら、そのうち一匹の鳩が僕の下へと帰ってきた。その鳩は首を忙しなく動かすことも僕の周りを歩くこともなかった。ただ僕の方を見つめて立ち尽くしていた。まるで僕と会話するかのように。僕もしばらく鳩のことをぼうっと眺めていたが、そろそろ行かないと大学の授業に間に合わなくなるため、立ち上がって、改札へ向かおうとした。すると、鳩は僕の前に立ち塞がった。僕が避けていこうとしても鳩は懸命に歩き、しつこく僕の進路を塞いだ。僕は次第に、その鳩が何かのメッセージを僕に伝えようとしているような気がしてきた。でなければ、鳩にとって、もうご飯を食べていない人間にちょっかいを出すメリットなど、一切ないのだ。僕は諦めて鳩にとことん付き合うことにした。この際、授業なんかどうでもいい。
そのまま、僕は五分くらい鳩とにらみ合っていた。そして突然、鳩が僕に背を向けて歩き始めた。僕は鳩の後についていくことにした。正直に言って僕はわくわくしていた。この鳩が僕をどこに連れて行ってくれるのか、その答えを知りたくなっていた。彼女と連絡が取れなくなった今、もう僕にはこの鳩しか頼れるものはない。
 その鳩は決して飛ばなかった。僕に気を遣ってくれているのか、飛ぶことができないのかは分からないが、鳩は一貫して歩き続けた。信号が赤であればきちんと立ち止まっていたし、青信号が点滅し始めたら、小走りで渡っていた。周りから見ると僕は、鳩についていく変人に思われたかもしれない。でも僕は周りにどう思われてもよかった。今この瞬間だけは、この世界には僕とこの鳩しかいないのだ。
 鳩は十分ほど歩いた後、駅近くの小さな公園の前で止まった。公園には誰一人としていなかった。鳩は振り返って僕の方を見た。まるで、「準備はいいか?」と僕に尋ねるように。僕が頷いてみると、鳩は公園の中に入り、公園の公衆トイレの裏側の草が生い茂った場所へと進んでいった。そして鳩は雑草の中にある何かをつつき始めた。それは何やら黒い物体だった。気づくと僕はその黒い物体を手に持っていた。それは銃だった。紛れもなく本物の銃だった。本物の銃を本物の銃たらしめる荘厳な雰囲気が手から伝わってきた。その銃はいかにも誰かを撃ちたそうにしていた。そして、その銃は僕の手に、極めて自然に馴染んだ。あるべきものがあるべき場所にあるといった感じだった。
 鳩は、僕が銃を手にしたことをきちんと確認してからどこかに飛び立ってしまった。僕が、その鳩が飛んだところを見たのはそれが初めてだった。そしておそらく、今後見ることも無いだろう。そう思うと寂しく感じた。
 さて、この銃をどうしたものか。僕は鳩に導かれてここにやってきた。そこには偶然ではない、何かしらの必然性が含まれているに違いなかった。僕は安全装置が機能していることを確かめてから、試しに引き金に指を置いてみた。その瞬間、僕は全てを理解した。僕が撃つべき相手を理解した。よく考えれば当たり前のことだったのだ。僕は周りに人がいないことを確認してから、銃をリュックサックにしまい、急いで駅へと引き返した。
 
美術館に着くと、僕は印象派展のチケットを買った。
 チケットを学芸員に渡して中に入った後、一つ目と二つ目のフロアを素通りして、三つ目のフロアへと向かった。そして、あの「手紙を書く男」の前に立ち、リュックサックから銃を取り出した。周りの人々は絵に集中していたし、学芸員も眠そうにして、客に注意を払ってはいなかった。美術館はやはり静かだった。
 僕は安全装置を外して銃口を「手紙を書く男」に向けた。僕は銃を扱ったことはもちろん無かったが、この銃に関しては、使い方が分かっていた。この銃は僕のための銃なのだ。そしてこの銃を用いて、僕は自分のために、そして彼女のためにこの男のことを撃たなければならないのだ。僕が銃口を絵に向けた瞬間、誰かが大声を上げた。それをきっかけに美術館には悲鳴が渦巻き、混乱が一帯を包んだ。僕はお構いなく引き金に指をかけた。僕にとって、周りの混乱は、どこか遠い国で起きていることのように感じられた。
 僕は引き金に指をかけながら、この美術館が静かだった頃を思い出した。つい、三十秒ほど前のことだ。そして、その静かな美術館の中で、僕の隣に彼女がいることを想像してみた。彼女は相変わらず「手紙を書く男」を見つめていた。僕は「手紙を書く男」を見つめる彼女のことを見つめていた。そうしているうちに静寂はより強固なものとなった。無音が大きな音で鳴っていた。そして彼女は絵画から目を離し、僕の耳元で囁いた。
「撃つのよ」

 銃弾は「手紙を書く男」の顔面に直撃した。撃たれたのはあるいは僕自身かもしれなかった。でもそんなことはどちらでもよかった。今僕はどんな顔をしているのだろう。僕が気になるのはただそれだけだった。

手紙を書く男

執筆の狙い

作者 いなしり
p7180189-ipoefx.ipoe.ocn.ne.jp

とある文学賞に出すために書いたのですが、落選してしまいました。自分は純文学を中心に書いていて、この作品も純文学寄りの物になっていますが、その文学賞がエンタメ寄りの賞だったのでカテゴリーエラーだったのかもしれません。
それなりに自信があったのですが落選してしまったので、アドバイス等頂けたらありがたいです。加えて、私は村上春樹から強い影響を受けていて、彼の小説の二番煎じっぽくなっていないかが心配です。そこらへんについても村上春樹の作品を読んだことのある方は言及頂けたら嬉しいです。

コメント

平山文人
zaq31fb1c44.rev.zaq.ne.jp

いなしりさん、作品を拝読させていただきました。

春樹の作品はほぼ読んでいるのですが、作風が似ているか、と言われると、似ていると感じます。
文体は軽快で過不足なく描写するのが春樹ですが、これは他の作家も同じような文体の人はいるのでいいと思います。
序盤が若干簡素すぎるかと思いますが、後半に入るにつれて描写は丁寧になってきています。前半、もう少し
力を入れて書けばよかったと思います。

春樹の作風の一つに「突如異世界とか異能とかが登場してくる」というのがあるのですが、本作にもそれが登場しますね。
鳩に導かれて公衆トイレの裏へ行くと拳銃が落ちている。おぉ……と思っているとそれが物語のラストに使われて、
読者はなるほど、と得心する。あと、主人公の親しい女性が行方不明になるのが春樹の好きなパターンなので、
そこも同じという事で、春樹読者ならこの作品はオマージュものかな、と思ってしまうでしょう。

タイトルにもなっている「手紙を書く男」を「僕」は拳銃で撃つ。僕の解釈では絵画の中の男はある女性への何かを
手紙に託している。その内容は書かれていないので読者が考えるしかないのですが、未練とか思慕とか恋愛感情の
類いだろうか、と推測します。そしてそれを撃つ。その時彼女の声も聞こえる。二人揃ってこの男に対して、
明白な敵意があるわけですが、動機がほとんど分からないですね。二人の性格描写や心理描写などがほぼないので、
「僕」と「彼女」の考えを推察しようがない、というのが私の思うところです。そこを想像で補ってくれ、というのが
作者様の考えなのかもしれませんが……。

ここ、ごはんにも定期的に春樹風の小説を投稿される方がいます。春樹は真似したくなるんですよね。
「学ぶ」とは「まねぶ」なので、春樹の模倣をするのはよいことだと思っていますが、オリジナリティーという
事を考えたら、自分らしい、自分が書きたい事を探さないといけないのでしょうね。本作で作者様が書きたかったことは
なんでしょうか。読者に感じてほしいこと、伝えたいことがなければ、それっぽいオマージュものから脱却出来ないのでは
ないでしょうか。少し厳しい言い方になったかもしれませんが、書きたい事を見つけられるとよいと思います。

それではこれからもお互いに頑張りましょう。では失礼します。

いなしり
om126236129181.32.openmobile.ne.jp

平山文人様、読んでいただきありがとうございます。おっしゃる通り、絵画を銃で撃つ動機が見えづらいかもしれません。正直なところ、私自身も明確にその動機を決めて書いているわけではなく、だからといって、想像で補ってくれというには、確かにあまりにも情報が足りませんでした。想像する材料が少なすぎたというのは新しく意識できた反省点です。ありがとうございます。
執筆の狙いの補足として、某文学賞に応募したのですが、そのテーマが「素顔」だったので、それが前提での作品でした。まあ、それを踏まえても情報が足りないことには変わりがないかもしれません。
村上春樹との類似点については、女性が突然いなくなるというのは確かにオマージュに見えてしまいますね。もう少しオリジナリティを出せるようにしていきたいです。
文体についてはこのままでいいのでしょうか?私としてはこの文体で書くのが楽しいのですが、公募に出すとなると似すぎているのは良くないような気もしてます。

界隈
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冒頭だけで「まだ春樹の模倣やってるやついるのか」とマトモな下読みであればあっさり落とすと思います

>「つまらないから読むのよ」

もうこれだけでアウトです

>沈黙が存在すべき場所に存在している、ただそれだけのことだった。

これはもうダメ押し


書いていて楽しいというのは裏を返せば楽に書けるということです
苦心して言葉を紡ぐことが自力の鍛錬になります
僭越ながら一度ハルキから離れることを私はおすすめします

ひまわり
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いなしり 様
村上春樹は、たぶんほとんど読んでいます。ただ、レイモン・カーヴァーやチャンドラーの翻訳からエッセイ、読者とのメールのやり取りにいたるまで読んでいながら、ファンではないし、さっぱり記憶していないポンコツ頭ですし、小説を書くのはド素人なので、以下は大幅に割り引くなり読み捨てるなりなさってください。

公募に出されるなら、ケチをつけたくなります。
まず推敲不足です。「しかしながら」が頻発して煩いです。「僕」は2/3削っても支障ないはず。
「車止めのような、形而上的な悲しさが漂っていた。」など唐突にぶっこんだようなブンガクテキ表現が浮いています。
会話文は、声に出して読むと不自然さに気がつかれるでしょう。
何よりも、先行商品を真似るなら凌駕するレベルであるか、新たな機能が付加されていなければ商品価値はありません。もともと村上春樹は翻訳物のアメリカ小説のパスティーシュみたいなもので、「おいおい、納豆と味噌汁で米の飯食っていてよくもまあ……」と、破廉恥が突き抜けていたからウケたのではないか。それをまた模倣するのは筋が悪いです。
企業がお金をかけて公募を主催するのは、唯一無二で新しい物を探しているからです。

ご趣味とか、お仲間と楽しむなら、これでまったく問題ないとおもいます。簡潔で淡々とした文体と心理描写のナイーブさの不均衡が面白い味です。冒頭からラストまで不穏で静謐な雰囲気が続き、何か起きそうな予感に、物語に引き込まれます。どこか現実離れしていて、拳銃へ導く鳩さえすんなり受け入れてしまう。
読ませる作品です。
絵に銃を突きつけるシーンで、もう少しだけ館内の混乱を書いていただくと次の静寂がより引き立ち、「撃つのよ」の衝撃が増したかもしれません。
あからさまに村上春樹だから盛大にツッコまれるおそれがありそうですが、わたくしは物語を楽しみました。
労作を読ませていただき、ありがとうございました。

小次郎
KD106146065211.au-net.ne.jp

確かに、文章、雰囲気、村上春樹さんって感じですね。
村上春樹さんは、文章や雰囲気上手なんですが、彼の作品の影響下で書くと、ほとんどの人が、村上春樹さんみたいな感じになりますから。
村上春樹さんの影響下で、書くと、独自性なくなると思いますよ。
それから、村上春樹さんについては、比喩が秀逸でしょう。
比喩力で、彼を超える人はなかなかいない。
影響受けて書くにしろ、別の作家さんにした方がよいかもですね。
村上春樹さんについては、影響下入ると、どうしても、彼の色になってしまいますから。
僕も、昔は村上春樹さんの影響下で、物語書いていました。
そしたら、どうしても、彼の色が出るんで、村上春樹さん脱却することにしましたよ。

アン・カルネ
KD059132061134.au-net.ne.jp

「素顔」をテーマにしたということで、GOATとmonogatryのコンテストですよね? 一応、monogataryからの応募作は2次3次選考作品が公開されていますから、読んでみると良いのかな、と思いました。2次止まりと3次へ進めたものと、数と言うかサンプリングで考えれば相当数あるので、全体像から、分かって来ることがあるような気がしました。あと、GOATという文芸誌に掲載されるものであるということも大事かな、と。それに今回はプロ化への道も含まれていたような。で、あのコンテストに応募されている方の中には本気で小説家を目指している方もいるし、コミカライズされた方もいるし、単独ではないけれど書籍化された方もいて、そういう方達の中で、主催者側の意図と読者側の意図を分析し、戦略的に作品を書かれている方もいるようです。つまり、そんな人達と競うということはちょっと念頭に入れておくと良いのかな、と。
あとは、他の方が既に書かれているように、というか、作者自身が春樹文学の二番煎じに思えるようであれば、作品の完成度が高くても、それはどこのコンテストであっても弾かれる可能性は高いのではないでしょうか。そんなふうには思いました。

で、「手紙を書く男」の感想です。
>「ただ、何となく、私の人生のどこかにこの風景が含まれてるみたいに感じるのよ」
>「君にはものすごい芸術センスがあるのかもしれない」
ここ、説得力あるなあと思いました。会話が巧いな、と。(ただ海外の翻訳小説的ともいえるけど、私は元々そういう方が好きなので、オーケーです、と思いました。早川、新潮、白水社にはお金つぎ込んだわー、なので)

あとは「手紙を書く男」をなぜ撃ったのか、でしょうか。自分を重ねて撃ったとすると、自分を撃つ必要があった。なぜ自分を撃つ必要があったのか。彼女の失踪とどうそれが関わるのか、そこらへんが私にはちょっと読み取れませんでした。
そこの補助線になるのが、「手紙を書く男」の絵そのものの描写かな? と思いました。
この絵そのものについては、「机の上で手紙を書いている男を真正面から描いたものだった」としか書かれてないのですが、絵、それ自体がどんな絵だったのか、そこを描写してあれば良かったな、と思いました。例えば床には書き損じと思われる便箋がいくつも転がっている、とか、男は赤ら顔をしており、テーブルには空のボトルがある、とか、何かしらこの男について、読者の方も絵から読み解けるようにしてあると、ラストの「そんなことはどちらでもよかった。今僕はどんな顔をしているのだろう。僕が気になるのはただそれだけだった。」が生きてくるのかな? と思いました。

通りすがり
119-173-128-2.rev.home.ne.jp

いなしり様、たぶん、はじめまして。

いま読み始めて、途中までなので、完読したら、
あらためて、感想をお送りいたしますね。

文章は、読みやすいし、上手いと感じました。

ですが、歩き疲れたので、美術館に入るというのは「?」でした。
展覧会って、歩きますよね。
「好みじゃない感じだったら、どこかで座っているよ、君は時間を気にせず、
好きなだけ鑑賞して」とか、あると良かったかなと、そうすると、
実は、気乗りしなかったのに、ひきつける作品があった。それは、と、
読者の興味もつのらせていけるかな。と。

「素顔」というお題、面白そうですね。
文学賞 課題 素顔 で検索したら、こんな記事が見つかりました。
下読みもなさっている方の知恵袋みたいな内容です。

http://blog.tuad.ac.jp/tuad_bungei/archives/748

いなしり
om126179121025.19.openmobile.ne.jp

界隈様、読んでいただきありがとうございます。春樹のみに影響を受けすぎている現状は良くないですね。色々な作家の作品を読んで吸収したいと思います。

砂丘
KD106133098009.au-net.ne.jp

村上春樹は数冊しか読んだことがないので、的外れな感想になっていたらすみません。

→館内は白を基調としたシンプルなデザインで、歯科医院の待合室のように、非自然的な清潔感に包まれていた。
美術館の内装についての描写はとても良かったです。
ただ、これに加えて空気感まで描かれていたら、さらに臨場感が増したのではないかと感じました。例えば、人の有無や学芸員の様子、静けさの中で聞こえる音などがあれば、「静か」という言葉以上に伝わったと思います。
着想自体はとても面白いと感じました。ただ、全体を通して作品が作者の着想の域を出ておらず、そこから広がる事柄が十分に描かれていない印象も受けました。

次に、皆さんも触れられていた「描写不足」についてです。
小説なので嘘であることは当然ですが、やはり「もっともらしさ」は必要だと思います。ここで言うもっともらしさとは、読者が共感できるかどうかではなく、「僕」の置かれた状況がしっかり描かれていることです。例えば「彼女と会わなくなって人と話すことがめっきり減った」といった補足があれば、読者は「この状況なら絵を撃ち抜く人がいても不思議ではない」と納得できるのではないかと思います。

最後に、題名にもなっている「手紙を書く男の絵」についてです。
読んでいて、この絵は実在しないのではないかと思いました(僕が知らないだけかもしれませんが)。当時の印象派の画家が、手紙を書く男を正面から大きく描く理由が思いつかなかったからです。
例えば『風の歌を聴け』には、ハートフィールドという架空の作家がまるで実在するかのように描かれます(エンパイアステイトビルから飛び降りて死んだ、という情報まで付け加えられるほどです)。それと同じように、この絵も「もしかしたら本当にあるかもしれない」と思わせる絶妙なラインで描かれていたら、さらに魅力的になったのではないかと感じました。

絵の感想として
→この男が自分と無関係なわけがないのだ。
とありました。ここで「僕」は手紙を書く男を自分に投影しているのだと思いました。

彼女はあの日を境に僕を拒絶し、僕は思いを打ち明けることができなかった。けれど、絵の中の彼は必死に思いを伝えようとしている。振り向かせようとしていた自分と重なって、僕はイラついてしまう。
僕の中の彼女も「撃ちなさい」と味方してくれる。けれどその彼女も、僕が作り上げた存在にすぎない。それもまた自分をイラつかせる。

もしそういう話なら、彼の行動にも納得できる部分があると思います。

全体として、とても興味深く読ませていただきました。お疲れさまでした。

いなしり
om126156153152.26.openmobile.ne.jp

ひまわり様、読んでいただきありがとうございます。確かに取ってつけたような文学的表現が悪目立ちしている感じがありますね。文体や会話文をもっと磨いて、二番煎じにならないような作品を書いていきたいと思います。読ませる作品と評価していただいたのは嬉しく思います。ありがとうございます。

匿名希望者
nat-ftth1.kkm.ne.jp

拝読しました。
何と言いましょうか、純文学は分からないので、落ちた本当の理由は分かりませんが、タバコの件が出たところで、古いなあと感じました。読者が若い人ならそこから理解できず、ついてこれないのではと思います。

書いてませんか?「昭和な小説」【新人賞・小説大賞】
YouTube動画【わかつきひかるの小説道場】
https://www.youtube.com/watch?v=RGrsohu0Gnk

めげず頑張ってください。

飼い猫ちゃりりん
sp49-98-163-25.msd.spmode.ne.jp

いしなり様。村上春樹さんって人が好きなんですね。いいじゃないですか。好きな作家の文章を真似ることは練習になるし。
参考になるかわかりませんが、飼い猫は色んなキャラで文章を書くといいと思うんです。自分は様々な年代の男性、ときには女性、ときには子供少年などの口調で書いています。その方が楽しいし、練習になるような気がします。
あと、なるべく平易な言葉を使う。理想は中学生で理解できる言葉だけで書く。でもたまに大人びたカッコいい言葉を使いたくなる。そういうときは用心用心。

平山文人
zaq31fb1c44.rev.zaq.ne.jp

いなしりさん、再訪させていただきます。

文体の件ですが、春樹のように簡潔に必要な記述をするのは簡単なようで奥が深いのだと思いますが、
例えば一人称に「僕」を多用する傾向が春樹にはあるので、それを「私」「俺」に変えるですとか
三人称主人公視点で書くなどすれば、それだけで少し離れると思いますね。

実はというか私も今「文体」にはとても苦労しているところで、それっぽい比喩表現とかを
上手く使えればいいのですが、冗長さや意味の適宜を考えると、つい簡素な文章に収まってしまうので
四苦八苦しているところです。序盤で余り凝った表現を使用してしまうと読者が前に読み進めてくれないのでは
ないか、ですとか、思うところは多いです。最後には自分で書きたいように書くしかないのでしょうが……。

おそらく春樹の作品を多く読んでおられるのでしょう、そうでなければこの作品を書けなかったはずです。
他の方も言っておられるように、いったん春樹を離れて他の作家の小説を読んでみるのはいいと思います。
思いっきり離れたところで町田康を敢えてお勧めします。「くっすん大黒」「きれぎれ」「夫婦茶碗」などの
町田節を浴びれば変わるところがあるかもしれません。町田も後進に結構影響を与えていて、綿矢りさや
川上未映子のような芥川賞作家の作品から、そこはかとなく町田節を感じます。それゆえ、春樹のフォロワーの
作品から春樹風のニュアンスを感じることが間違いだとは思いません。如何に上手く離れ、自分の個性を出せるかでは
ないでしょうか。

ご参考になれば、と思い紹介させていただきました。それでは失礼します。

いなしり
p7180189-ipoefx.ipoe.ocn.ne.jp

小次郎様、読んでいただきありがとうございます。確かに村上春樹は影響力強いですよね。単なる村上春樹の模倣とならないよう色々な作品を読んで行きたいと思います。

いなしり
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アン・カルネ様、読んでいただきありがとうございます。会話を褒めていただいたのはすごく嬉しいです。翻訳小説的というか、洋画的というか、そういった会話が私も好きなので、読んでるだけで気持ち良いような会話を目指しています。
絵の描写が足らない点についてはおっしゃる通りです。私の頭の中でイメージしている絵を文章に起こしきれてないことに気付くことが出来ました。ありがとうございました。

いなしり
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通りすがり様、読んでいただきありがとうございます。確かに、歩き疲れたのに美術館にはいるのは少し違和感がありますね。盲点でした。

いなしり
140.140.5.103.wi-fi.wi2.ne.jp

砂丘様、読んでいただきありがとうございます。おっしゃる通り、この絵については私が考えたものなので、実際の絵画に基づいたものではありません。印象派についても、この小説を書く直前に印象派展に行ったため、そのように書いてみたというだけで、印象派についての知識は素人同然でした。もう少し調べてから書くべきでした。描写不足についてもしっかりと反省したいと思います。ありがとうございました。

いなしり
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匿名希望者様、読んでいただきありがとうございます。煙草に関しては、私自身が喫煙者なのと、洋画や春樹の作品に影響されているところがあると思います。しかしながら、煙草は純文学においては多用されがちで、「こいつは、書くことが無いんだな」と思われそうな雰囲気すらあるように感じています。効果的に描写できるよう頑張っていきたいです

いなしり
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飼い猫ちゃりりん様、読んでいただきありがとうございます。読みやすさと文学的要素を併せ持つような文体を獲得できるよう頑張ります。ありがとうございます。

いなしり
140.140.5.103.wi-fi.wi2.ne.jp

平山文人様。町田康はあまり読んだことが無いので読んでみます。色々なものを吸収して、文体を磨いていきたいと思います。多くのアドバイスありがとうございました。

匿名希望者
nat-ftth1.kkm.ne.jp

再訪します。説明が足らなかったようで。
私もタバコ吸いなので、お考えは分からなくもないですが、ご存じの通り、今は堂々と人前で吸える状況ではないと思います。
「健康増進法」により、飲食店も原則として屋内禁煙です。
違法なことを、推奨とは言いませんが、さも普通の出来事のように書いた作品を主催者側が喜んで選ぶでしょうか?
そうでなくても、昭和の時代の話と読者は感じるだろうし、今の読者ならタバコ=カッコいいにはならないように思います。
、ということを追加しておきます。

今後のご活躍を願っております。

いなしり
om126253210209.31.openmobile.ne.jp

匿名希望者様、再びのコメントありがとうございます。確かに喫煙可能な喫茶店も今は少ないですもんね。安易に使用しないよう心がけます。

abejunichi
104.28.83.166

いなしり様。「手紙を書く男」を読ませていただきました。
僕も完全に村上春樹フォロワーなのですが、この作品ほど村上春樹的なものをしっかりと抽出したものは読んだことがありません。
「手紙を書く男」の絵に触れた時の描写なども面白いものがありました。
たとえば川上さんの「ヘヴン」でも美術館が巧みに使われてしますが、僕はこの作品は遜色ないと思います。
ただ僕は模倣からはじめても、いつか自分の作品に辿り着くものだとも思いますし、
今は自分の作品が、いなしり様のような優れたものでないにしても、自分だから書けたと思う、
持ち味があると考えています。

僕からすれば素晴らしい作品だと思いますが、いなしり様がいなしり様であるところに辿り着いた時に、
道は開かれるのではないか? と思う次第です。
ありがとうございました。

いなしり
om126205226022.34.openmobile.ne.jp

abejunichi様、読んでいただきありがとうございます。身に余るお言葉ありがとうございます。そう言っていただけると大変励みになります。村上春樹をリスペクトしつつ、自分のものにできるよう頑張ります。

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