大学デビュー成功した俺に、高校で俺を振った女王様が泣きついて
大学デビュー。
それは人生最後の、陽キャになるチャンスだ。
中学、高校と陽の者になれなかった人間が、大学で変われる。
都会の大学では、それまでの自分を誰も知らない。
そう——陰キャの俺を知ってる奴は、一人もいないのだ。
俺、鏡夕凪かがみゆうなぎは、そんな最後のチャンスに賭けた男の一人だ。
「ごめん。鏡くんとは付き合えない——」
高校2年の時、好きだった女子に振られた。
俺はそのトラウマを、克服したかった。
高校が終わった春休み、俺は「本気」を出した。
異世界行ったら本気出す、ではないが、大学行ったら本気出す、ってことだ。
まあ、ド田舎の陰キャ高校生だった俺にとって、都会の華やかなキャンパスライフは、異世界転生みたいなものだろう。
短い春休み、最後のチュートリアル、俺は徹底した自己改造に励んだ。
まさに自分を、「魔改造」した感じだ。
「思い切って、あのクソ悪魔に頼んでよかった……」
クソ悪魔、とは俺の幼馴染のことだ。
性格がクソ最悪だから、クソ悪魔と呼んでいる。
(まあ見た目はかわいいだけどな……)
クソ悪魔は一応性別は女だから、いろいろ教えてもらったのだ。
まず、ファッション、髪型を変えた。
筋トレもして、見た目を改善する。
次に、コミュ力だ。
クソ悪魔の監視の下、駅前でナンパをした。
知らない女の子と話す訓練のために。
毎日、血反吐を吐いたが、俺の対女子コミュ力は向上した。
あとはトーク力を磨くために、お笑いのライブに通いまくった。
こっそりスマホで芸人さんのトークを録音して、家で紙に書き起こして研究した。
つまんない奴、から脱出するために……
そして——
大学デビュー、成功。
昔から陽キャを前にすると、死にかけの魚のように口をパクパクさせていたが、普通に話せるように。
それで俺は大学一の陽キャサークル、ラテンアメリカ研究会、通称、ラテ研に入った。
もちろんラテンアメリカの研究なんてまったくしない。中身はただの、飲みサーだ。
ただ、毎年、ミスコンの候補者が出るほど、かわいい女の子やイケメンが多いサークル。
陰キャは新歓で勧誘されても秒で逃げるほど、ラテ研の連中は徹底的な陽キャだ。
要するに、陰キャどもは眩しすぎて近づけないのだ。
★
「はあ……今日もだいぶ飲んだな」
深夜1時。
俺は終電で、家の最寄駅まで帰ってきた。
今日もラテ研の飲み会で、かなり飲んでしまった。
「白崎さんとLINE交換できた……」
白崎花梨、ラテ研の1年。
同期で1番かわいい女の子、との評判。
そんな白崎さんが、俺のLINEを聞いてきた。
(女子からLINE聞かれるとか、高校の時の俺からすると奇跡だよな……)
本当に上手く行きすぎて、怖いくらいだ。
ラテ研に入った後、キャンパスでは常にかわいい女の子とイケメン陽キャたちに、囲まれている。
昔の俺なら、そんなキラキラ集団を指を咥えて、羨ましいそうに見ていただろう。
だが、今の俺は、羨ましがられる集団の中心にいる。
「努力は報われる。努力は俺を裏切らない」
このまま白崎さんをデートに誘って、付き合って、もしかしたら結婚とかするんだろうか?
それはそれで、幸せな未来だ。
あんなにかわいい彼女がいたら、誰もが幸せな気持ちになるに違いない。
それこそ毎日が、キラキラと輝く……
(幸せだけど、何か違うような……?)
いや、これでいいんだ。
これが理想のキャンパスライフ。
ここまま陽キャを演じきって、白崎さんと幸せになる。
それが俺の幸せで——
「536円になります——」
……そんなことを考えながら、俺はコンビニで会計を済ませようとしていた。
(どこかで聞いたことがある声だ……?)
俺はふと顔を上げて、店員さんの顔を見る。
「天城さん?」
「あ……っ! 鏡くん、だよね? 久しぶり……」
天城レイユ。
高校時代に、俺を振った女の子。
高校では1番かわいいと言われた女の子で、あだ名は「女王様」だ。
長いストレートの黒髪に、涼しげな瞳で、少し冷たい印象を与える。
天城さんはクラスの人気者で、陽気軍団の中心だった。
天城さんが命令すれば、クラスのみんなが従った。
密かに天城さんを好きだった俺は、2年の文化祭の日に告白して——
そして見事、撃沈したわけだ。
「わたしが鏡くんと付き合うメリットって、ある?」
そう言われて、俺は振られた。
正直、かなり引きずった。
天城さんの言葉が、心にずっと突き刺さっている。
(ていうか、こんな深夜にコンビニのバイト?)
たしか俺と同じ大学に通っていたはずじゃ……?
「……ははは。久しぶりだね」
深夜のコンビニ。
他に誰もいない。
あの告白以来、天城さんとは一度も話していなかった。
とても気まずい空気が流れる……
しばらく俺たちは沈黙していたが、天城さんから口を開いた。
「鏡くん、元気してた?」
「まあね。天城さんは?」
「うん。わたしはちょっとね……」
天城さんは目を伏せた。
俺の様子を伺うかのように、上目遣いで俺をチラチラと見てくる。
「そうなんだ。……仕事、邪魔しちゃったね。帰るから」
俺がレジから立ち去ろうとした時だった。
「待って……っ!」
ぐっと、天城さんが俺の腕を掴んだ。
しかもかなり強い力で。
「ご、ごめん……っ! 実はわたし、鏡くんに助けてほしいことがあって……。あと少しでバイト上がれるから、外で待っててくれない?」
「えっ……?」
「お願いっ! 本当に鏡くんの力が必要なのっ!」
天城さんの声が、深夜のコンビニに響き渡る。
俺の右腕を掴んだまま、必死に天城さんは、頭を下げた。
「……お願い、します。本当に、鏡くんしかいないの」
「……」
天城さんは目に涙を溜めている。
こんな感じの天城さんは、高校の時には見たことなかった。
(本気で助けを求めてるみたいだ……)
「わかったよ。力になれるかわかんないけど、とりあえず外で待ってるから」
「ありがとう……っ! 鏡くん!」
天城さんみたいな完璧女子が、俺に助けてほしいことって何だろう?
まったく想像がつかないが、とりあえず俺は、天城さんを待つことにした。
執筆の狙い
努力について書きました。よろしくお願いします。