作家でごはん!鍛練場
ヘッドC

教育者たちの放課後

 誰だって孤独だ。誰だって虚ろだ。もう誰も他人を必要としない。どんな才能もスペアが見付かる。どんな関係でも取り替えが利く。そんな世界に飽きていた――。『PSYCHO-PASS』槙島聖護のセリフより

「立崎先生。これ、分かんないとこある」
 解答用紙に目を向けていた明(あきら)が顔を上げた。
「え?」
「学校で出されたんだけど分かんない。ここが」
 口を小さく結んだ中井から差し出されたプリント用紙を受け取り目を走らせた。問題文に目を通して明は眉間を寄せた。
「指数関数か」
「そう。指数関数の問題なんだけど難しくて」
「これ宿題?」
「うん、応用問題だからちょっと難しいけど頑張れば解けるって、学校の先生は言ってたけど……分かんなくて」
 長髪の先を長い爪ですきながら中井は答えた。
 一次関数を求める問題は一般的な指数関数の問題と同じだったが、答えを用いてまた別の題を解く問題が組まれていた。
 解いた答えを使い二次関数も求めて表を埋める形式となっており、応用的というより二問題形式であることを明は理解した。
「問いが二つ繋がってるから、分けて解答すればか」
「そこは分かるんだけど、一問目の答えがそもそも解けなくて」
「うーん」
 使わない用紙へと数式を書き連ね、一問目の答えが出た段階で中井の答案と比べた。
「ここが間違ってる。計算してない所があったからここを解き直してみて」
「あ、本当だ。間違ってた。さっすがー」
 顔をほころばせ嬉しそうにして解答を書き直し、明と同じ解答を書き込んだ。
「これで二問目も解いてみて」
「はーい」
 問題用紙を手に足取りを軽くして自身の席へと戻っていった。
 腕時計に視線を落とすと、青い文字盤の上の針は残り十五分で今日の授業が終わることを示していた。
 問題を既に解き終えた生徒たちは中井のように学校の宿題に取り組む生徒もいれば参考書に取り組む生徒、スマホを触っている生徒と各々が自身のしたいことをしていた。
 まだ月曜日、一週間が始まったばかりなのだから良いだろう。普段なら授業時間内にスマホを見ることを注意していたが、明は静かに見ないふりをした。
 先程まで採点していた答案用紙に再度視線を落とし、丸を付け、赤ペンで訂正する作業をまた再開した。
「二問目も教えてー」
 少しして先程と同じ声が掛けられた。明が視線を上げると同時にプリントを中井が差し出していた。
「解けたんじゃないのか?」
「二問目も難しくて解けなかった。無理」
「集中して取り組んだのか?」
「本当に集中したけど無理だった」
 受け取ったプリントに目を走らせ、先程と同様にメモ用紙にペンを走らせた。
 解答は出たが、解答を埋める穴埋め表の前後に照らし合わせると、どうもピンと来ない解答となった。
「あれ?」
 表の前後の数と求めた解答がかけ離れていた。前後の繋がりを無視した答えが、異物となり主張していた。
「……間違えたか?」
 書いた途中式を確認するも間違いは見付けられなかった。ここで間違っていないとすると、前の一問目の答えそのものが間違っていたのか。
 もう一度一問目の問題に目を向け直した所で、終業を知らせるチャイムが鳴った。
 低音のチャイムが控え目な音量で室内へと響き渡る。
「はい、今日の授業は終了です。みんな気を付けて帰るようにー」
 立ち上がりつついつもと同じ声量、同じトーンで生徒たちへと発した。
「駄目だ、タイムアップだ。後は自分で頑張れ」
「えー。もうこれ以上私じゃ解けないって。先生、解き方教えてよ」
「解いたんだけど表に埋めると前後とは違うおかしな解答になったんだよ」
「ほんとだー」
 生徒たちがカバンを持って散り始めていく中、さよならーと声を掛けつつ中井へとプリントを返した。
「さっき解いた一問目の答え自体が間違っているかもしれん。後はそこからやり直してみてくれ」
「それじゃまた最初からじゃん。今すぐに解けないの?」
「すぐには無理だな。帰りは親の車だろ? 残って時間かけるのは止めとこう」
 時計を見ればちょうど二十一時半。五分で解ける可能性もあったが、十分以上かかる可能性もあった。帰らせるのが無難だと明は判断した。
「この最後の問題だけ残っているから解きたいんだよねー」
「宿題だっけ? いつまで?」
「金曜まで」
「それまで数Ⅱの授業は?」
「木曜に一限ある」
「じゃあ先生に聞いてみな」
「えー。自力で解いたって先生に思われたいんだよね。中井、凄いじゃんって」
「塾の先生に聞いてるんだから自力じゃないだろ」
 口先を尖らせ女子高生らしく不機嫌な顔を見せた。
 数Ⅱの先生に少しでも良く思われたいのだろう。明は中井の制服を見て意図を察した。
「長谷部先生だろ?」
「え! 何で分かるの?」
 クラス授業の他に個別指導も担当してるので生徒から高校の情報は入ってくる。学校の雰囲気だけでなくどんな先生が居てどんな授業であるか、宿題の頻度なども数校に渡って大まかに把握出来ていた。
 中井が通う桜孝(さくらたか)高校の数学の教科担当、長谷部先生。顔は知らないが名前は知っていた。桜孝高校の中で一、二を争うイケメン先生……という噂として。もう一人は英語の教科担当で野球部の顧問もしている奥光先生らしい。
「名前だけはな。イケメン先生だろ?」
「そうそう。長谷部先生に一目置かれたいじゃん」
「それなら直接聞けば良いじゃないか。木曜に一限あるんだから授業終わりにでも宿題のここが分かんないって。そうすれば長谷部先生から直接教えて貰えて、話せる時間も出来るだろ」
「それじゃ駄目なんだよねー。それは他の女子もしてるからさ。他の女子とは違うって所を見せないと。長谷部先生には聞かず、したたかに宿題を完成させてアピールする。これが私の戦略なの」
 得意げに魔性を込めた笑みを見せた。こうやって女子高生も女性としての駆け引きみたいなことを覚えていくのかと内心で明は苦笑した。
「なるほどねー。じゃあその意気で頑張るんだな」
「いやいや自力じゃもう解けないんだって。立崎先生、解いておいてよ」
「解いておいてって、自分の宿題だろ。俺は小学生のお母さんじゃないんだから人の宿題はやりません」
「答えは教えてくれなくても良いから、解き方! 解き方だけ教えてよ。ヒントくれれば私が後は解くんだから。それに一問目から間違えたんでしょ? 最後まで面倒見ないと」
 微妙にこちらにも非がある所を中井は匂わせた。態度と表情から食い下がるつもりはないのが明確だった。
 ため息を静かに漏らし、目を閉じる。
「はいはい、分かりました。解いておくよ、答えは教えないからな。次来るのは水曜だっけ?」
「うん水曜。やったー、さっすが」
 こう難しいと同じ宿題を他の生徒からも聞かれる可能性を考え、明は渋々と承諾した。
 プリントの問題文と穴埋めの表を簡易的にメモし、プリントを返却した。
「先生の宿題として、木曜までには解いておくよ」
「お願いしまーす。長谷部先生は春峰(しゅんぽう)出版の緑の参考書から問題を参考にしたって言ってたよ」
 筆記用具類を素早くカバンにしまいながら漏らすと、中井は足早に教室の外へと向かった。
「はいはい。さようなら」
「さようならー」
 最後の生徒になっていた中井が去り、教室は沈黙に包まれた。
 教室内を見回り忘れ物がないかを確認し、ズレた机や椅子を直し終えると明は自分の机に戻り、今課されたばかりの宿題へと取り組んだ。
 十分ほど問題に取り組んだが答えはまた合わず、集中力は払底した。
「はー、駄目だ。止めた」
 解答を断念し筆記用具とプリント類を持ち教室を後にし、講師ルームへと戻った。
「お疲れ様です」
 講師ルームにいた先生方は「お疲れ様です」と口々に漏らす。
 自身の机に持っていたプリント類を置き、棚にある参考書コーナーへと明は足を進めた。
「お先に失礼します。お疲れ様です」
 早々と帰っていく先生たちに挨拶される中、参考書を探したが目的の参考書を見付けることは出来なかった。
 振り返り一番近くにいた山川先生へと声を掛ける。
「山川先生、春峰出版の参考書ってここにある分だけですよね?」
 机に向かっていたお団子ヘアの山川先生が「はいはい」と背中で答えてから振り向いた。明が指し示す指の先を見て頷く。
「そうです、そこが全部ですね」
「ですよねー」
 出版社順に並んでいる参考書。春峰出版が入っている棚には参考書が隙間なく入っており、他に誰かが持って行ってる形跡がないのは明白だった。
「春峰出版社で緑の表紙で数Ⅱ・Bの参考書ってありましたっけ?」
「私、国語担当なので。……すみません」
 山川先生は申しわけなさそうにはにかんで一礼し、また机へと顔を戻した。
「ですよね。ここになければないですよね」
「他の先生もコピー取ったり使ったらすぐに返してるんで。そこになければないですね」
「そうですよね、ありがとうございます」
 解けなかった問題のヒントを得るため、参考書に頼ろうとしたが無駄に終わった。
 机に戻ると先程まで苦戦していた問題に明はまた視線を注いだ。
 自力で解くか。そう内心で呟いたがまた問題に取り組む気力を沸き立たせることは出来なかった。
 帰り支度を始め、素早くカバンを取り出した。
 明日しよう。そう思いながら筆記用具と手帳をカバンへと仕舞い込んだ。

 問題を解くタイムミリットは明日の水曜であったが、今日も問題を解けなかった。
 授業中と授業間の合間に時間を作って問題に挑んだが、結局は解けずじまいであった。最初からやり直してみても間違いを見付けられず、なら二問目の途中式が違うとやり直しても答えは合わず、違った珍妙な答えが出るばかりであった。
 他の数学科の先生に聞こうにもバタバタと忙しそうにしており、ついに明が帰宅する時間まで捕まえることが出来なかった。
 仕方ない、家でやるか。明日来る中井の落胆と非難を避けるべく、明はメモしたプリントをカバンに入れ自宅で終わらせることを誓った。
 自宅で取り組む前にまず参考書の問題を確認しようと、塾からの最寄り駅にある本屋へと向かった。だが塾最寄り駅の本屋はスペースが小さく、緑の参考書は見付からなかった。
 そもそも参考書コーナーがあそこは小さい。駅のホームで恨めしく思っていたが、思い出したように呟いた。
「あそこの本屋ならあるか?」
 自宅の最寄り駅から四駅隣りの本屋を明は脳内に浮かべた。百貨店にある本屋であり、近辺では一番大きな本屋でもあった。
 そこにならあるだろう。腕時計を見て、青い文字盤の上にある針がまだ十九時前であることを確認した。火曜日がシフト上いつもより早く帰れることに安心しながら、明は悠々と電車へと乗り込んだ。
 百貨店内の本屋に入るなり高校の参考書コーナーへと直行した。
 さすが百貨店の本屋。参考書コーナーが棚の数段にではなく数列の棚に渡って揃えられていることに満足しつつ、目的の参考書を探した。
 目的の棚を見付け、近付いた所で先客がいることを明は見て取った。
 高校生ではなく大人、スーツ姿のサラリーマン。保護者の方かとちらりと視線を当てた。
 風貌が二十代後半ということより、参考書を持った手の向こうに見えたネクタイピンを目にして明は目を開き、ゆっくりと足音を忍ばせてその場から離れた。
 茶色のネクタイを抑えていたそのネクタイピンには星型のアクセサリーが付いていた。
 桜孝高校の長谷部先生だ!
 「長谷部先生ね、星型のネクタイピンを付けてるんだよ」、「立崎先生と同年代なんだよ」、「メガネがねえ、格好いい顔に似合ってるんだよ」。
 複数の生徒から聞いた長谷部先生の情報を思い出す。確かにメガネも付けていた。丸メガネを。
 距離を取った明は振り向き、長谷部先生らしい人の背中へと視線を走らせた。先程と変わらぬ姿勢のまま参考書へと顔を向けている様子であった。
 栗色の革靴、紺色のスラックスと背広、黒のビジネスリュック。
 あれが桜孝高校の噂の先生か。顔までは見なかったがなるほど、女子生徒に人気なのが何となくでも察しが付いた。後ろ姿からでも細身でスラリとしており、教師というより営業マンを思わせる風貌であった。
 時間を空けてから行くか。雑誌コーナーへと向かいながら明は内心で考えた。
 適当なビジネス雑誌を手に取り、開いていく中で顔を見とけば良かったな、とふと思い出すように明は思った。
 生徒との話の種の一つになっただろうなと、半導体特集のページをめくりながらぼんやり考えた。数学教師なら神経質そうな顔立ちなんだろうかと、明は記事を流し見つつ考えた。
 十分後に先程と同じ参考書コーナーへと足を向けると、既に先生はいなくなっていた。
 ちらりと周りを見渡しても長谷部先生らしき人の姿はなくなっており、無人となっていた。
 参考書を探していくとすぐに目当ての参考書らしきものを見付けた。
 春峰出版社、緑色の表紙。これだという参考書を手に取り、目次の項から指数関数・対数関数のページへと移動した。
 宿題に出されていた問題と似ている問題を目で探しつつページをめくった。
 集中して中を見つつ左隣に人が来たことを察した明は半歩右へとズレた。
「あの……」
 突然の声かけに視線を参考書から反らすとそこには男性がいた。
 縁なしの丸メガネを掛けた人。センターパートの髪型と整った顔の相手と目が合った。
「え?」
 戸惑いつつ泳いだ視線はネクタイ付近へと注がれ、茶色のネクタイに付くネクタイピンを捉えた。ピン先には先程見たのと同じ星型のアクセサリーが付いていた。
 長谷部先生!
 出そうになる声を抑え、明は目を大きく見開いた。
「突然すいません。あの……開玄(かいげん)塾の立崎先生ですか?」
「はい……、そうです」
「あ、やっぱりそうですよね」
「え? あの……え?」
 何で声を掛けた? というか何で俺の名前を?
 フリーズしたこちらの思考に相手は気付かず、笑みを見せた。
 何とか言葉を、リアクションを口に出そうとしたが参考書を落とさないように閉じるアクションをするので精一杯だった。
「あ、すいません。僕、桜孝高校の長谷部雄悟(ゆうご)と申します」
 桜孝という言葉から声のトーンを落とし、ひっそりと名乗った。
 知ってます、と言うわけにもいかず明は頭を少しだけ動かし無言で礼をした。
 相手も同様に小さく静かに礼を返した。相手は嬉しい発見をしたという目で見ていた。
「あの。何で名前を?」
 同じ二十代後半とは思えない爽やかさと軽快さを見せる相手へと疑問をぶつけた。
「この場所で、青い腕時計と青いネクタイを見て。生徒から聞いてた格好と同じだったので。もしかして、と思ったらやっぱり当たってました」
「腕時計とネクタイ?」
「高校の生徒で、問題を分かりやすく教えてくれる塾の講師がいるって聞いたことがあって。立崎先生と言い、青い腕時計を付けていてよく同じ青いネクタイを付けてるって聞いてたもので」
 自身の腕時計とネクタイを明は交互に見やった。腕時計の内側は全面青く今日身に付けているネクタイも青であることを確かめた。
「ああ、それで」
「担当科目、数学なんですよね? 僕も数学担当なんですよ。それでつい親近感を持ってて、立崎先生と気付くと同時に声を掛けてしまって……すいません」
「いえいえ。そうなんですか、どうも」
 瞬時に仕事モードへと切り替え、明は苦笑した笑みを見せつつ柔らかい口調を発した。
 人のことをベラベラと喋りやがって、誰だ。確かに青系統のネクタイをよく身に付けてはいるが、同じネクタイを毎日は付けてないだろう。
 塾に通う桜孝高校のお喋りの生徒を脳内で数人浮かべている間、長谷部先生は喋り続けた。
「問題を作るのに参考になる本を探してて。ちょうど立崎先生が今持ってるその参考書がやっぱり一番良いなって思って。やっぱり、塾講師の先生から見ても良いって思う参考書ですよね?」
「ああ……。そうですね」
 適当に笑い、参考書の表紙を見つつ、これを手に取る元となった相手が目の前にいることに明は奇怪な感覚を感じていた。
「それ買う感じですよね? 僕も買おうと思ってたんですよ」
「あ、いえいえ。俺、僕はただ見てただけなので。どうぞ」
 買う気など毛頭なく、立ち読みで済ませるつもりであった本を差し出したが、相手は受け取らなかった。
「いやいや、大丈夫です。先に手に取ったのはそちらだったんで」
「いえ、元々私は買うつもりじゃなく、立ち読みで済ませるつもりだったんで大丈夫です」
「そんな、気を使わないで大丈夫ですよ。僕はまた別の所で買いますので」
「いえ本当に、買わないので良いんですよ」
「いやいや、申しわけないです」
 明が差し出す参考書を頑なに長谷部先生は受け取ろうとしなかった。
 このままじゃ俺が買わなきゃいけなくなる。たかだか一問だけしか見ないのに買うわけにはいかないんだよ。本当に買う必要がないことを伝えようとするも、相手には全て善意ある謙遜としか捉えられていないようであった。
 こちらは絶対に根負けしないぞ、という思いが相手にも伝わったのか長谷部先生は渋々という体で参考書を受け取った。
「買う気は全くこれっぽちもなかったんで、どうぞどうぞ」
「ほんと申しわけないです。すみません、ありがとうございます」
「気にしないで下さい。全然買う意思はなかったので」
 奇妙な押し売りを避けられたことに安堵しつつ、明はゆっくりと後ろに後ずさりし、頭を下げた。
 じゃあ、これで。という一言を出す間近で長谷部先生は発した。
「じゃあ、こうしましょう。僕がこの参考書を買いますので。買った後先に立崎先生が見て下さい。読み終わった後、僕へ返してくれれば良いんで」
「え? いやそれは……」
 参考書の貸し借りを真面目に相手は提案した。
 本当に結構ですと伝えるも長谷部先生は真意を捉えなかった。
「私が読むのは遅くなっても大丈夫ですので。そうしましょう」
 軽快な足取りで明が止める間もなく、長谷部先生はレジの方へと向かって行った。
「先生なんだから人の気を察しろって……」
 小走りで去っていく背中を見ながら小さく呟いた。
 このまま逃げ帰ろうかと一瞬勘案するも、働き場所も顔も名前も知られていることに気付き、そんなことするわけにもいかないかと断念し、トボトボと後ろ姿を追った。
 会計を済ませた長谷部先生はエスカレーター横にて参考書を差し出した。
 ご丁寧に有料のレジ袋に入った参考書を受け取り、LINEで連絡先を交換した。
「返すのは数週間後でも大丈夫ですので」
 帰り際に言う長谷部先生の言葉に、愛想笑いを浮かべながら明は見送った。
「全く……」
 スマホをポケットに入れ、ため息を零した。
 あんな応用問題をそもそも長谷部先生が作らなければ……。
「あ!」
 この現状も、そもそもの宿題を生み出した元凶について考え、驚くように気付いた。
 宿題の解答について直接、長谷部先生に聞けば良いじゃないか!
 考えを巡らせられていなかったことに後悔しつつ、急いでスマホを取り出し、通話ボタンをタッチしようとしてためらった。
 いや、止めておくべきか。しかし……。
 必要なかった参考書の重みをカバンから感じつつ、明は迷った挙げ句、タッチした。
 長谷部先生はすぐに通話に出た。
「立崎先生、お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です。あの、長谷部先生今すぐ本屋に戻って来れます?」
 何で今さっき別れたのにお疲れ様ですと言うんだという思いと、つられてお疲れ様ですと返してしまった自身の悔しさを脇にやり、至急戻って欲しいことを伝えた。
 わずかに困惑した顔をして戻ってきた長谷部先生へ明は平謝りしつつ、本屋横に併設された喫茶店へと誘った。
「すいません。あの、数学の問題で聞きたいことがあるので」
「はい、大丈夫ですけど……」
 席へ座るなりカバンから問題文をメモしたプリントを取り出した。
「この問題。長谷部先生が宿題として出した問題ですよね。答えを……というか、間違っている所を教えて貰えませんか」
 出されたプリントを受け取り、長谷部先生は驚いた様子で頷いた。
「ああ、そうです。昨日宿題として出した問題です。何故……立崎先生が?」
「あの、塾の生徒が解けないということで、私が教えようとしたのですが私も解けなくて……」
「なるほど、そういうことですか。この問題、先程買った参考書をベースにしてたんですよ。それも知ってて?」
「ええ、はい……」
 買うつもりまでなかったことは伝えず、明は要点のみを伝えた。
「明日聞いてきた生徒が来るので、解いておきたくて」
「わざわざお手数お掛けしてしまってすいません。その生徒も私に直接聞いてくれたら良かったんですけどね」
「ええ、ええ。本当に……そうですね」
 麗しい戦略とやらに巻き込まれてしまったんで。
 朗らかに端正な顔で笑う相手へと、苦笑と共に苦言を内心で向けた。
「何度か最初からやり直したりしたんですけど。どこが違ってるか分かりますかね」
 長谷部先生はメモされたプリントへと視線を落とした。
 朗らかな顔が一転し、生真面目な顔を見せた相手にこんな顔も出来るのかと明は関心した。
 神妙さと荘厳さを合わせたような皺が綺麗なおでこ周辺に浮かんでいた。
 こういうギャップも生徒から人気になる理由なのだろうか。さて、このギャップが計算なのかそれとも天性の勘で無意識でやっているのかと訝しんでいた所で相手は顔を上げた。
「ここですね。ここが√1/2のままなので、無理やり底が2の指数で書き直すんですよ。底を同じにしないと計算が間違ってしまうんですよね」
「……ああ、確かに」
 指摘された箇所を見つつ、忘れてましたと漏らした。
「なので二問目の表埋め問題も連なって誤りになってしまうんですよ」
「なるほど、ここで間違ってたんですね」
「引っ掛け問題なんですよ。ここで気付かないとおかしくなってしまうんです」
 柔和な笑みをこちらへと向けた。
「わざわざありがとうございました。助かりました」
「いえいえ。少しひねった問題にしていたので悩んでいる生徒は他にも多くいたんですよ」
「結構難しい宿題も出すんですね」
 マグカップを持った長谷部先生は苦笑した。
「共通テストが来年の一月にありますからね。十一月に入り、あと三ヶ月もないのでその対策も踏まえてです」
 基礎部分の理解を深めるだけでなく、過去問題の演習が中心となるのは高校でも同じか。
「まあそうですよね、もうこの時期は。生徒はほぼ全員受けるんですか?」
「全員というほどではないですが、やはり半分近くは受けますね。塾ではもう全員が?」
「ええ、国公立大学を一般選抜で目指す子が多いですし、私立大学でも共通テストの結果を使いますから、ほぼ全員です」
「おすすめの傾向と対策ってどんなのがあります?」
「それはこっちが聞きたいくらいですよ。高校側のほうが詳しいんじゃないですか?」
「いえいえ、塾側の方が詳しく分析してるって思いますよ。高校は他の行事も同時進行で進めなきゃいけないので、私も他の先生も共通テストのみに割く時間が足りないんですよ」
 長谷部先生は苦笑しながら首を振った。ため息を吐きながら肩を落とし、肩をすくめた。
「確かにそうですよね。聞くだけでも色々な行事がありますよね。生徒でこんなに大変なら先生はどれだけ大変なんだろうって、思ってますよ」
 塾で聞いてきた学校側での様々なイベントや活動のことを思い出し、明は唇を噛んだ。
 他愛のない学校や塾での苦労話に花を咲かせ、一時間ほど話し込んだ後、店を後にした。
 長谷部先生と別れた後、互いに大変だなと思いながら電車を待っている所で、明はカバンに入れていた参考書の重さに気付いた。
 すでに不要となった参考書を返し忘れたことに気付き、来週には返さなきゃと思った。
 翌日、塾に来た中井へと例の問題の解き方を説明した。解答へとたどり着いた中井は満足な笑顔を見せた。
「こういう解き方だったんだ。さっすがー、ありがとう先生」
「今度から宿題は出した先生に聞いてくれ。塾で出す問題じゃないと時間がかかるんだから」
「はーい、分かりました」
「後は関係ない話だけど、塾の話とかをベラベラと人に喋り過ぎないようにな」
 首に締めている濃い緑色のネクタイを意識しながら、明は去っていく中井へと漏らした。
「えー?」
 何の話、ときょとんとした顔をして中井は自分の席へと戻って行った。

 参考書を返却するため、先週と同じく本屋横のコーヒー店を待ち合わせ場所に指定していたが、約束の時間である二十一時に明は塾を出た。
 クラスの掃除、翌日の問題の準備、各生徒の点数表の更新を行い、予定していた帰る時間がずるずると伸びてしまっていた。
 コーヒー店に着く頃には閉店の十五分前であった。
 店前にいた長谷部先生へと足早に明は向かった。
「長谷部先生、お待たせしてすみません」
「お疲れ様です。お仕事、終わりました?」
「ええ、なかなかすぐに終わんなくて、すみません」
「大丈夫ですよ。さっきまでゆっくりとお店でコーヒーを飲んでただけだったので」
 灰色のスーツと薄紫色のネクタイを締め、いつものネクタイピンを付けた長谷部先生は私も着くのはちょっと遅れましたよ、と漏らした。
「お返しします」
 カバンからレジ袋に入った参考書を取り出し差し出した。
「参考になるような良い問題、ありました?」
「はい、まあ少しは」
 本当はパラパラとめくっただけで、まともに内容を見なかったことを心中で謝りながら明は参考書を手渡した。
「また見たくなったら言って下さい。いつでもお貸ししますので」
 曖昧な返事を返しつつ、足先を今来たエレベーターへと向けた。
「途中まで一緒に帰りましょうか。電車は上りですか、下りですか?」
「私、車なんですよ。立崎先生はどこまで?」
「あ、そうなんですか」
 住んでいる区を漏らしつつ、明はエレベーターのボタンを押した。
「そこなら同じ方向です、送っていきますよ」
「いやいや、悪いんで良いですよ」
「そんな、どうぞ大丈夫ですよ。私は更にその先の方向なんで。それにそこだと最寄り駅からバスに乗らないとですよね?」
「ええまあ、徒歩だと家に着くまで三十分はかかるので」
 申しわけなさを感じつつも車なら帰りは楽だなと明は思った。
「どうぞ近くまで送っていきますよ。ダラダラと愚痴りながら帰りましょう」
 開いたエレベーターに二人で入りつつ長谷部先生は「ぜひぜひ」と加えた。
「じゃあ……すみませんがお願いします」
 頭を小さく下げて漏らすと、地下駐車場のボタンを押した長谷部先生は嬉しそうに頷いた。
 シルバーのプリウスへと乗り、車が車道へと出ると二十二時を過ぎていた。
 車、良いな。
 歩く人々を見ながらぼんやりと明は思った。
 免許は持っているけれどもペーパードライバーである自分。車は欲しいかと言われれば欲しい。けれど維持費や駐車場代を引いてローンに回せるお金を考えれば、買えないことは明白だった。今の給与では中古車でも手に入れられない自分が嫌になるような感覚に襲われた。
 一介の塾講師よりも学校の教師のほうが給与も福利厚生も良いのは明確だ。業務範囲が違うとはいえ、車を持つ同年齢の長谷部先生が羨ましかった。
「この時間帯でも高校生は歩いてますね。遊んで来た子もいるでしょうが、ほとんどは塾帰りでしょうね」
 声に意識を引き戻され、自分の視線にピントを合わせると、大人に混じり何人かの高校生が歩いているのが見えた。桜孝高校の制服を着ている生徒もいた。
「そうですね」
「高校生が二十一時以降も街を歩いてるのは私の高校時代はなかったですね。学校が終わったら真っ直ぐに帰っていた私の地元が田舎過ぎたかもしれませんが」
 長谷部先生は苦笑しながら漏らした。
「確かに言われればそうですね。高校の時と比べてもこの時間帯に歩いている高校生はこんなに多くなかった気がします」
「ゆとりってネガティブな意味を持ってしまってますけど、その意味ではないゆとりって必要ですよね」
「そうですね……」
 言葉を聞きつつ、ただ明は意味もなく頷いた。
「学校だけでなく塾やバイトに行く生徒もいて、スマホやらゲームやらで息抜きはしてるでしょうが時間に追われてますよね。まあ時間に追われているのは教師の私たち自身もそうですけど」
「確かに」
「立崎先生は今の時代の学校教育についてどう思われます?」
「え? ……どうっていうのは?」
 突然投げられた難しい質問に驚きつつ、長谷部先生へと目を向けた。真摯な視線が眼鏡越しに車道へと揺るぎなく落とされていた。
「何と言うか、資本主義的教育についてです。高校だけでなく、中学校も小学校でも塾通いの生徒はいますよね。けれども塾に行ってない生徒もいる。そうすると授業の理解度に差が出てしまいます。理解度が早い生徒に合わせれば基礎部分を理解しきれていない生徒は取り残されてしまう。けれど基礎理解が遅れている生徒に合わせると、逆に今度は理解度が早い生徒が暇を持て余してしまう、という……」
 理解度の中間で授業の進捗を進める、補講の実施や理解度が早い生徒には別の問題を出すといったことを長谷部先生はとつとつと話した。
「取りこぼしのない教育というのはもっともですけど。現実問題、教師が出来る柔軟な対応というのは限界がありますよね」
「……確かに、そうですよね」
 普段身近にどころか微塵にも考えていなかった問題を聞きつつ、意味深に頷いた。
「ある小学生は学校の先生よりも塾の先生の方が教え方が分かりやすいと言っていたそうです。その言葉を聞いて色々と考えさせられました。……どう思いますか?」
「うーん……」
 どうというのは? 話を聞いた感想として「みんな大変ですよね」という感想しか出て来なかった明は神妙な顔をしつつ頷くのが精一杯だった。
「まあ、何事も適切なバランス感覚が大事ですよね」
 差し当たりのない抽象的なことを相手へと伝えた。
「確かに。それはそれはそうですよね」
 その言葉を最後に、車内では無言の間が続いた。
 話題を変えるため口を開こうとした所で長谷部先生が口を開いた。
「……ヘルマン・ヘッセって知ってますか? 『少年の日の思い出』の作者の」
「え……と。エーミールの蝶の羽を毟った話の?」
「そうです。その著者がヘルマン・ヘッセっていうんですけど。その著者の別の作品でこんな言葉があるんですよ。『知力の練磨のために、情操を閑却し枯渇させるということがあってはならない』と。何の講習で見たかは忘れてしまったんですけど、その言葉が妙に頭に残っていてそれを思い出しました」
 分かるような分からないような言葉の意味を反芻しつつ、明は静かに二度頷いた。
「長谷部先生は色々と考え過ぎじゃないですか? もう少し気楽にしても良いかと思いますよ」
 真面目に考え過ぎるタイプだと思いつつ苦笑した。
「良く言われます。根を詰めすぎないようにって」
 相手も同様に苦笑した。
 交通整理が行われているのか、前方を見れば長い車の列が出来ていた。
 徐行し、止まり、と車の動きは亀の動きへと変わっていた。
「日々、生徒と接し色々教えていると考えちゃうんです」
「みんなそうですよ」
 自分のことを棚に上げつつ、目をつむり頷いた。
「私は教師。私は大人。生徒の指針にならなければならない。大人になることを恐れない、否定しない、将来に希望を持たせないといけないって思うんです。これもどこかで見た言葉ではあるんですが……」
 明は目を細めた。出そうになった「言われたことだけをやっていれば良いんじゃないですか?」という言葉を必死にこらえた。
「何も考えないということではないですが、もう少し気楽にして頑張らない時も必要じゃないですか?」
「そう思ってもそうすることが出来ない質なんですよね」
 そんな仕事のことで悩める長谷部先生を明には羨ましさと同時に妬ましさを感じた。
「そう言えば立崎先生は教員免許はお持ちなんですか?」
「一応は……。中学と高校の数学の教員免許を持ってます」
「え!」
 こちらの顔をパッと見た。知り合ってから今までで一番の感情的な声を聞いた。
「そんなに意外でしたか?」
 自分がとても教員免許を持っているようには見えなかったのか、長谷部先生の反応に明は不愉快さを抱いた。
「いえ、そんなわけでは」
「ちゃんと教育実習も行いましたよ」
 ぶっきらぼうに答えた。
「あの……教員免許まで取っていてどうして塾講師に?」
 教員免許を持っていることを伝えれば毎回聞かれる質問だった。
「もちろん、差し支えなければで結構ですので……」
 気まずそうにしながら言葉を加えた。今までにない神妙な声で、何故人を殺したのかと問うているような声色だった。
 その真剣さが可笑しくて、小さく笑った。
「別に生徒に手を出したとか、保護者に手を出したとか不祥事を起こしたわけじゃないですよ。そもそも教師として働いてないですから」
「大学で教員免許だけを?」
「そうです。就活を真面目にしなかった結果ですね。大学の終わり頃、父親が病気で亡くなったんです。地方から出て一人暮らししてたので、地元に帰って葬式の手伝いやら遺品整理やらを一、二ヶ月ほどしました。後半はもうダラダラとゲームしたり飲みに行ったりして自堕落になってましたけどね。大学に戻ったら同級生のみんなが就活の雰囲気になってて、授業にも遅れていて何ていうか、疎外感を覚えました。そこで努力してみんなに追いつけば良かったんですけど、自堕落にしてた癖が抜けなくて。周りが熱中しているけれど自分一人はそうじゃないって思うと、冷めたような、冷ややかな気持ちになってしまって一緒に加わりたくないってなってしまったんですよね」
 一呼吸置き「そして、その結果が今の状態です」と明は前の車のライトを見ながら喋った。
「卒業してからはフリーターで半年間バイトを続けてましたけど、流石に定職に付かないとまずいかってなって、塾講師になりました」
「教員にはなろうとしなかったんですか? 教師になるために大学に行ってたんですよね? その……動機みたいなものがあったのでは」
「教職に付くのに調べるのも、手続きするのもあれこれ説明するのも面倒くせー、ってなってしまって。一回説明して採用されればそれで終わりっていう考えで、楽な方を選んだんです。教師っていうのも安定して定年まで働けるし、世の役に立つ実感が一番感じるからというふわっとした理由で目指してただけです。駄目でも結局はそれほど後悔しないだけの熱意だったんですよね」
「事情を説明すれば何とかなったと思いますよ。親の死去で憔悴して手に何もつかなかったって」
「今思えばそうですね。もっともらしい理由を作れば良かったって。教員採用されるのに嘘を付いてはいけないって当時は考えてました」
「立崎先生も真面目ですね」
「昔は、です」
 数年前の青々しい思考を思い出し、明は笑った。
「だから、長谷部先生と話してて今、羨ましいなって思いました。車を持っていて、生活に対する経済的なストレスより仕事上のストレスに悩んでいるのが」
 嫉妬ではなく自身への純粋な劣等感。それを見せられるどころか叩きつけられたのだ。
「別に長谷部先生は悪くないのに、変に愚痴になってしまいすみません。……俺は、二年くらいしかいなかったもういない選手のユニフォームを着て、野球場に来て一人で応援しているようなもんなんです」
 長谷部先生は何かを言おうとしたが、何も言わなかった。
 こちらへと視線を一瞬だけ合わせ、すぐに前へと戻した。
 憐憫や同情でないその顔を見て、明は罪悪感のようなものを覚えた、気がした。
「昼間は私が。夜は立崎先生が生徒に教える。それで互いに頑張りましょうよ」
 抑揚を抑えた声で長谷部先生は続けた。
「教師としてだけではなく、大人として不自由なことは変えていきましょう。今度飲みに行きましょうか」
 その一言が嬉しく思えた。
「今からはどうですか?」
 朗らかな口調で明は答えた。
 長谷部先生は吹き出すようにして笑った。
「飲酒運転になっちゃうんで」
 それはそうだ、と明は気付いてつられて笑った。
 徐行から解かれた車が淀みなく進み出していた。間延びしていた道路も車内も終わったのだ。
 塾講師として、自分はまだ頑張れる気がした。
(終)

教育者たちの放課後

執筆の狙い

作者 ヘッドC
p7606195-ipoefx.ipoe.ocn.ne.jp

 塾師×教師。約150,000字、原稿用紙46枚。
 塾講師の立崎先生は本屋にて高校の教師である長谷部先生と知り合った――。
 ご意見・ご感想の程お願いします。

コメント

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

>ヘッドCさん

読ませていただきました。
塾教師と高校教師の対話の物語ですね。
う~ん、塾教師が身の上話をして終わっているだけのような……
ラスト、

>塾講師として、自分はまだ頑張れる気がした。

で締めているということは、物語当初は塾講師として頑張れない、と思っていたということでしょうか?
高校教師と出会って話したことで主人公の考え方が変わった、という展開がもっと明確であればよかったかな、と思いました。

読ませていただきありがとうございました。

ヘッドC
sp49-98-16-180.msb.spmode.ne.jp

字数は約15,000字の誤りです、失礼しまた。


>神楽堂さん

お読みいただきありごとうございます!
オチというか終わりの展開をもっとよく練るようにします。

山、オチ、意味。これらを良いあんばいでまとめられるよう頑張ります。

いかめんたい
M106073000002.v4.enabler.ne.jp

ヘッドC様

こんにちは。
読ませていただきました。

読んでいて大きく引っかかるところもなく、心地よく最後まで読むことができました。
ただ個人的には、知りたいところがあまり書かれていなかったり、逆にさほど重要でないと思われるところが細かく書かれていたりと、ややちぐはぐな印象も受けました。

それでまず、文章で私が気になったのは、三人称一視点の語り手の名前が、下の名前「明」で表記されているところでした。
通常はこういう書き方の場合苗字で表記するのではないかと思います。別に必ずそうしなければならないというものではないのでしょうが、ただ私はいきなり冒頭の「解答用紙に目を向けていた明(あきら)が顔を上げた。」のところで混乱しました。顔を上げた人物が、「明」と呼ばれる生徒だと思ってしまい、立崎先生と明と中井の3人で、どのセリフを誰が喋っているのか分からず何度か読み返してしまいました。ここは素直に「立崎が顔を上げた」と表記されていれば、無用の混乱は避けられます。どうしても下の名前にしたいのであれば、最初は読み手が混乱しないようもう少し丁寧に書く必要があるのではないかと思いました。
あとはところどころ、表現や言葉の重複があったように思います。例えば「参考書を探したが目的の参考書を見付けることは出来なかった。」みたいな感じのやつです。

また、内容としては、この主人公が塾講師としてどんな境遇にあり、それに対してどんな思いを抱いているのかという点が、前半でほとんど語られていないところが気になりました。
私はそもそも塾講師という仕事についてほとんど知識を持っていません。個人経営やローカルな塾で講師はほとんど学生バイトみたいなところもあれば、全国展開している有名塾で人気講師は下手なサラリーマンより高給取りみたいなこともあるのかなと、ぼんやり想像する程度です。
だからこの主人公の塾講師という仕事に対する思いや同年代のイケメン高校教師に抱いている劣等感みたいなものが、最後の車のエピソードまでほとんど認識できていませんでした。
そのせいもあってラストの「塾講師として、自分はまだ頑張れる気がした。」がやけに唐突に感じられました。

なので、主人公が講師になった経緯だとか、仕事に感じている虚しさや孤独感みたいなものがもっと前半から散りばめられていたほうが、ラストがもっと生きるんじゃないかなとそんなことを思いました。

読み違い等あったらすみません。
読ませていただきありがとうございました。

ヘッドC
p7606195-ipoefx.ipoe.ocn.ne.jp

いかめんたいさん

気になった所を上げていただきありがとうございます。大変参考になります!

>三人称一視点の語り手の名前が、下の名前「明」で表記されているところでした。
確かにそうでした。読み始めた人にとって混乱する書き方になっておりました。
フルネームを出した後に名前だけにするか、地の文に名字を出すようにしないと分からない書き方となっていますね。
反省です。

>表現や言葉の重複があったように思います。
細かく書いてしまおうとするきらいがあるので、余分な描写など削れる所は削るようにします。
想像の余地を残さなくては、ですね。

>主人公が講師になった経緯だとか、仕事に感じている虚しさや孤独感みたいなものがもっと前半から散りばめられていたほうが、ラストがもっと生きるんじゃないかなとそんなことを思いました。
終盤は急ぎ足というか唐突に終わらせてしまった感が自身でも感じました。
構成の練り不足を痛感しております。
もっと効果的に余韻や作品が伝わるよう努力していきます。貴重なご感想ありがとうございます。

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