優子
これは、うら若き女性の苦難と闘争の記録である。彼女は私より三回りも年下だが、私は彼女を尊敬している。
私が本局に復帰した翌年の春、大卒の新人が私の元へ挨拶に来た。
「佐橋優子です。よろしくお願いします」
その出会いから遡ること二十六年。
彼女と同じように大卒新人として本局に配属され、四年目を迎えた私は、血気盛んな若きキャスターだった。
「弱きを助け、強きをくじく」を座右の銘にしていた私は、ある薬害事件のことで、当時のチーフディレクターとぶつかった。
ある日、私は『夢の新薬』とも評される抗がん剤の不穏な情報をつかんだ。その新薬は投与後三ヶ月以内に著しく腫瘍を縮小させた。だが、投与された患者のその後を取材すると、死亡率は未投与を大きく上回っていた。明らかな薬害である。
若いキャスターが知り得た情報など、どの局でも掴んでいるはずなのに、なぜかどこも報道していなかった。
私はチーフディレクターに進言した。
「まだどの局もやってません! すぐ特番を組みましょう!」
しかし、いつまで経っても何の音沙汰もなく、しびれを切らした私は、上層部に直談判するという禁則を犯した。
しかし歯牙にも掛けられず、私は地方に飛ばされた。
信じられないことに、その抗がん剤は今も治療に使われている。利権に絡む深い闇があるのだ。でも詳しいことは言えない。やっと本局に復帰できたのに、また「島流しの刑」を喰らうわけにはいかない。だから、今から言うことは、ただの戯言として聞いて欲しい。
薬が作られる本当の目的は、新たな病気を生むことなのだ。つまり製薬メーカーは、薬により再び新薬開発のきっかけを得る。つまり『夢の新薬』はマッチポンプなのだ。巨大な収益が生まれ、それは……
これ以上は言えない。とにかく、不都合な真実に触れて飛ばされた私は、二十六年の「島流しの刑」をつとめあげ、本局への復帰が許されたというわけだ。
優子は性格のいい今時の若者である。
私の世代はことあるごとに、今時の若者はと愚痴をこぼすが、彼らは昔の若者より遥かに真面目で優秀である。
昔の私のように、上に噛みつく若者など見たことも聞いたこともない。一抹の寂しさはあるが、正直自分のような部下だけは持ちたくないと思っている。
優子は美人で優秀なのに、お高くとまったところは微塵もなく、「優ちゃん」と呼ぶと、「はい」と笑顔で返事をする。徹夜明けの朝などは、私のデスクまでコーヒーを持って来てくれる。
「優ちゃん。自分でやるからいいのに」
「私も飲みたいから全然OKです」
優子は倍率千倍超えの採用試験をトップで通過し、天気予報のキャスターを担当することになった。
家族構成の欄に父親の名前が無く、志望理由の欄には「亡くなった母の夢だから」と書いてあった。彼女の母もテレビ局にいたそうだから、試験用の台詞ではないだろう。
面接官は彼女に太鼓判を押したが、一つだけ些細な欠点を指摘した。『たまに噛むことがある』と付されていたのだ。
優子が担当した天気予報は一定の視聴率を獲得し、彼女は「綺麗なお天気姉さん」として人気を集めた。
面接官が指摘した欠点も完璧に克服されていた。
ただ、私はチーフディレクターとして、ある大きな欠点に気づいていたのだ。
それは、欠点が無いこと。
優子は容姿、物腰、しゃべり、全てにおいて完璧なのだ。
他局のお天気姉さんは、地元グルメの話題の中で、お好み焼きのことを「平べったいタコ焼き」と失言し、視聴者から冷やかされて好評を得ていた。
知的な美人より、ドジで可愛い女の子の方が受けがいいのだ。
優子がキャスターになった翌年の夏、ある不運が彼女を襲った。
彼女はいつもの完璧な笑顔で予報を伝えていた。
「明日は雲一つない快晴になるでしょう。お出掛けの際は熱中症に〜」
しかし、翌日は豪雨になり、抗議の電話やメールが殺到した。
「びしょ濡れだ。馬鹿野郎。素人の小娘が」
「洗濯全部やり直し! いい加減にして!」
「お姉さん、噛んでない? あせってんの? 笑」
天気予報に苦情はつきもので、気にしていたらやってられない。まして、お天気姉さんに責任などあるはずがない。
ただ、優子に対するバッシングは過去に例がないほど執拗で、一向に収まる気配が見えなかった。
私は分かっていた。それは予報を外したことに対する抗議ではなく、優子の完璧さに対する反感なのだ。
私は優子を励ました。
「君に責任はない。だから気にするな」
「すみません。心配をかけて」
真面目で繊細な性格はときに弱点となる。彼女がその典型だった。
やがて彼女は放送中に言葉を詰まらせるようになり、ついに又予報を外した翌日の放送中、目に涙を浮かべてしまった。
緊急会議が開かれ、彼女の降板が決定した。彼女にそれを伝えると、「すみません」と言って頭を下げ、目にハンカチを当てた。
彼女はしばらく雑用をこなしていたが、やがて心を病んで休職することになり、私は自分の責任を痛感した。
しかし、優子が降板しても事態は好転しなかった。
彼女の後輩である立花美咲も、しばらくは無難に仕事をしていたが、プレッシャーからか、いまいち喋りがぎこちなく、些細なミスをすることがあった。
しかし、優子を降板させたとつぶやくネット民が、それを見逃すはずがない。やがて美咲をからかう動画がネット上にあふれ、ついに彼女も憔悴しきってしまった。
また会議を開き、美咲の後任を検討していると携帯に着信があった。それは優子からのメールだった。
「美咲ちゃんは大丈夫ですか?」
療養中の優子に心配をかけるべきではないと思いつつも、「少し疲れている」と返信してしまった。
すると意外な言葉が返ってきたのだ。
「後輩に無理をさせないで下さい。私はもう大丈夫です。復帰させて下さい」
翌日の午後に駅裏の喫茶店で待ち合わせをした。
優子はテーブル席で私を待っていた。
「優ちゃん。久しぶり。体調はどう?」
「御心配を掛けました。もう大丈夫です。医者も復帰に問題はないと言っています」
「ゆっくり静養すればいいんだ。無理をすると、天国にいるお母さんが心配するよ」
すると、彼女は自分の母親のことを話し始めた。
「母は私にキャスターになって欲しいとよく言っていました。自分が叶えられなかった夢を、娘に託したんです」
「そうなんだ」
「私が二十歳のときに、母は癌で亡くなりました。結局、なんの親孝行もできなくて……」
彼女は薄っすらと目に涙を浮かべた。しかし、どうしても確かめたいことがあった。
「お母さんは、抗がん剤で治療を?」
「はい。開発当初『夢の新薬』と呼ばれた抗がん剤だと医者が言っていました」
夢の新薬……
彼女の母の死は、私が副作用の報道を諦めた抗がん剤のせいかもしれない。「諦めた」と言えば聞こえはいいが、結局、上の意向に従った私は、薬害隠蔽の共犯者でもあるのだ。
「どうかしたんですか?」
「あっ、いや、別に……」
私は復帰の件に話を戻した。
「とにかく、無理する必要はない。ゆっくり静養すればいいんだ」
「ありがとうございます。でも失敗の原因が分かったら、すっかり良くなったんです」
「失敗の原因?」
「はい。これを見ていたら分かったんです」
彼女がタブレットのキーを叩くと、彼女を誹謗中傷する動画が映し出された。
その投稿主は、彼女が噛む様子を誇張して悪ふざけをしていた。わざわざ女装までしたその男の動画は、下品極まりない代物だった。
優子は「まだ沢山あります」と言って、美咲をからかう動画も見せてくれた。
「優ちゃん。そんなもの見ない方がいいよ」
「この人たちのおかげで、失敗の原因が分かりました。お願いします。復帰させて下さい」
優子が土曜の夕方から復帰することになり、私はひとまず安心した。
しかし、またもや不運が彼女を襲った。復帰する前日の予報が、また外れてしまったのだ。
金曜日の夕方、美咲は言葉を詰まらせながら、「明日は朝から雨になるでしょう」と言った。だが、土曜は絶好の行楽日和になった。
朝から苦情の電話が鳴り響き、セクハラまがいの投稿がネット上にあふれた。
「馬鹿野郎! キャンセル料を返せ」
「あいつも降板させろ」
「あの小娘に予報士はムリ! AV女優にでもなれ!」
優子は放送直前まで後輩をバッシングする動画を見ていた。
「優ちゃん。大丈夫?」
「問題ありません。失敗の原因は分かっていますから」
その冷静な態度に、私は心なしか不穏なものを感じた。
ついに放送開始の時刻になり、私は祈るような気持ちで指を順番に立てた。
「1、2、3、キュー!」
なんと……
優子はカメラを見つめたまま一言もしゃべらない。その姿は、聴衆の前に立つヒトラーを彷彿とさせた。
スタジオがざわつき、若いスタッフが私に指示を求めた。
「チーフ、どうしますか?」
私は記録すべき瞬間であると直感した。
「いいからカメラを回せ」
優子は大きく肩で息をすると、静かに闘争を開始した。
「視聴者の皆様。雨との予報が外れてしまい申し訳ありません。でも、ご安心ください。今から嵐が吹き荒れるので」
彼女は「はぁ」と小さく息を吐くと、また静かに話し始めた。
「私も後輩も予報士の資格を持っています。でも、必ず当たるわけではありません。必ず当たる予報がお望みなら、見てもらわなくて結構です」
そのとき若いスタッフがスタジオに飛び込んできた。
「チーフ! カメラを止めろと上から指示が!」
優子が私を見ていた。
「いいからカメラを回せ。責任は俺がとる」
彼女は再び話し始めた。
「見えないところで誹謗中傷をする輩に言います。言いたいことがあるなら、私の前に来て言いなさい。天気を気にする前に、自分の心を綺麗にしなさい。最後に、私の後輩をいじめるクズどもに言います」
そのとき、お偉いさんたちが血相を変えてスタジオに飛び込んで来た。
「おい! カメラを止めろと言ってるのが分からんか!」
「チーフディレクターはどこだ!」
「黙れ! 絶対にカメラは止めん!」
そのやり取りが全て茶の間に流れた。
優子は再び話し始めた。
「後輩をいじめる卑怯者に言います。馬鹿野郎!」
そこで放送は止められ、三十分ほど後にベテランのニュースキャスターが深々と頭を下げた。
その翌日、局長以下のお偉いさんたちが、汗をふきながら謝罪会見を開いた。
「昨日放送された番組において、極めて不適切な発言があり、視聴者の皆様に大変不快な思いを~」
優子は謹慎処分となったが、自ら辞職を申し出た。
かたや私は処分を受け入れて再び地方を転々とし、最終的に日本海側のとある地方の支局に配属された。
その赴任から三年目の冬、一本のメールが携帯に届いた。
「チーフ。お久しぶりです。美咲です。今、お時間いいですか? よければ、電話でお話ししたいのですが」
「美咲ちゃん。久しぶり。もうベテランの風格だね。自分は暇だから、いつでも電話してよ」
すぐに電話が入った。
「チーフ。突然すみません。実は頼みたいことがあるんです。優子さんが、ある港町で小料理屋をしていて、チーフに会いに行ってもらえないかと思って」
「そっか。優ちゃんが小料理屋をね。でも合わせる顔がないんだ。自分がカメラを止めていれば、彼女は辞めなくて済んだんだから」
「実は、優子さんに伝えて欲しいことがあるんです」
「なにを?」
「局長が優子さんの復帰を望んでいるんです。優子さんをメインキャスターにした番組まで用意するからって」
「どうゆこと?」
「優子さんが退社すると、優子さんを非難する人は減っていき、逆に応援する人が増えていったんです。あの女性キャスターは立派だ。あの女性キャスターは格好いいって」
「優ちゃんにはファンがいたからね」
「そうですね。でも、あれから熱狂的なファンが沢山現れて、ついにファンクラブまで結成されたんですよ」
「そうなんだ……」
「最近では、女性にパワハラしてクビにしたのか! ってネットで炎上しているんです。株主総会でも問題になって、慌てた局長が、優子さんを復帰させろって言い出したんです」
「なるほどね」
「それで課長が、あたしのとこに来て、優子さんに復帰の話を伝えてくれって言うんです。でも、あたし、偉い人たち全員で頼みにいけばって言ってやったんです」
「そりゃすごいな」
「そしたら部長と課長があたしのとこに来て、局長がチーフに行かせろって言っているって。チーフの言うことなら、優子さんは聞くからって。それで、あたしからチーフに頼んで欲しいって言われたんです。でもチーフ、嫌なら断ってもいいんですよ」
確かに都合のいい話ではあるが、私自身、いつか優子に会わなければと思っていた。それに彼女にとっても悪い話じゃない。彼女の母は、娘がメインキャスターになることを望んでいたはずだから。
「美咲ちゃん。行ってくるよ。久しぶりに優ちゃんに会ってみたいし、局長がそこまで言うなら、断るわけにもいかんだろ」
美咲が送ってくれた情報によると、店は大晦日の夕方までやっているとのことだったから、私はその日の午後に行くことにした。客が少なくて、静かに話せると思ったからだ。
大晦日は吹雪となり、列車から見える日本海には白波が立っていた。
薄暗い駅の改札を出て、寒風が吹きすさぶ港町を歩いていると、吹雪の中に赤ちょうちんが見えた。
その小料理屋は、うら寂しい漁港の隅に建っていた。ほかに店らしい建物はなく、赤ちょうちんの『浜屋』という文字だけが目立っていた。
引き上げられた漁船の影から様子をうかがっていると、店内から酔っ払いの声が聞こえてきた。
「えー! もーおしまい? まだ五時だよ」
「優ちゃん。もう少し飲ませてよ」
「ビールもう一本!」
「だーめ。大晦日くらい、あたしもゆっくりしたいのよ。早くツケを払って帰ってください」
「そなせっしょうな!」
「皆さん、良いお年を」
しばらくすると引き戸が開き、着物姿の優子が、赤ら顔をした男達と一緒に出てきた。
「優ちゃん。大漁でも祈っといて」
「来年は優ちゃんにハンドバックを買ってやるからな」
「去年も同じことを言ってませんでしたか?」
「今度は本当だってば!」
「そーですか。なら、どんなバックを買ってくれるんですか?」
「イブサンローンだ!」
「馬鹿たれ! イブサンローランだろ!」
優子は笑っていた。それはキャスターだったころの「完璧な笑顔」ではなく、本当に幸せそうな笑顔だった。
「それじゃ皆さん。良いお年を」
「おおー、優ちゃんもな」
彼女は漁師たちに手を振っていた。私は彼らが立ち去ったことを確かめると、赤ちょうちんを消そうとしている彼女に声をかけた。
「優ちゃん。久しぶり」
彼女は赤い灯に照らされながら、まじまじと私を見つめた。
「どなたですか?」
私はコートのフードをとった。
「チーフ!」
「中々いい店だね」
「どうしてここが?」
「美咲ちゃんから聞いたんだ」
「そうですか」
「少し飲んでもいいかな?」
「もちろんです」
優子は木のカウンター越しにビールをついでくれた。
「チーフ。おでんでいいですか?」
「うん。ありがとう」
彼女は、大根、厚揚げ、こんにゃくを皿にのせ、その端に黄色いカラシを添えてくれた。
「どうぞ」
「優ちゃんも飲んでよ」
私は彼女のグラスにビールをついだ。
「ああ、おいしい」
「お酒、強くなったね」
「チーフ。熱かんにしませんか?」
彼女は白いおちょこをカウンターにふたつおいた。
「優ちゃん。こっちに来て座ってよ」
「立っている方が落ち着くんです」
私は少し酔いが回ると、胸にしまいこんでいた思いを明かした。
「いつか君に謝ろうと思っていたんだ」
「謝る? どうしてですか?」
「自分がカメラを止めていれば、君は辞めなくて済んだんだ」
「迷惑をかけたのは私の方です」
「いや違う。私は自分の責任を放棄してしまったんだ。撮りたいって思いに駆られちゃってね」
すると彼女は真剣な眼差しで私を見つめた。
「あたし、嬉しかった。最後までカメラを回してくれて、本当に嬉しかった」
「そう言ってもらえると、少し気が楽になるよ」
「本当なんですよ」
「実は、今日は伝えたいことがあって来たんだ」
私は美咲から聞いた復帰の件を話した。
「局長が君をメインキャスターに起用するとまで言っているそうだ」
「そうですか……」
「どうしたの? 悪い話じゃないと思うが。君のお母さんも天国で喜ぶんじゃないかな」
「そうですね。でも、遠慮させていただきます」
「どうして?」
「ここの暮らしが好きなんです。漁師さんたち、みんな良い人だし」
彼女の手には何本もの赤ぎれがあった。美しい腕とは裏腹に荒れた手が、その生き様を物語っていた。
「今、君は幸せなの?」
「はい」
「そっか。ならいいんだ」
私が酒をつぐと、彼女はそれをひと口飲んだ。
「ああ、おいしい。それより、チーフが復帰してください。あたしが局長に頼みましょうか?」
「いや、遠慮しとくよ。正直、あそこ、あまり好きじゃないんだ」
「あ、ずるい」
笑みがこぼれ、思い出話に花が咲いた。
「チーフって不器用だけど、本当にいい人ですね」
その言葉に酔いがさめた。
不器用で、いい人……
違う。私は小ずるい悪人なのだ。
私はつい今しがたまで、あることを話さずに帰ろうと思っていた。そのひとときを、楽しい思い出にしたかったから。
あることとは、彼女の母の治療に使われた抗がん剤、重い副作用が隠蔽された『夢の新薬』のことだ。
本当は話したくない。私は告発を諦め、隠蔽に加担してしまったのだから。でも話さなければならない。今話さなければ、後悔が一生の重荷となる。そう思いながらも、言葉が出てこなかった。
「チーフ。大丈夫ですか? 水を持ってきましょうか?」
「水はいらない」
私は湯呑みを酒で満たすと、それを一気に飲み干した。
「どうしたんですか?」
「君に、話さなければならないことがあるんだ……」
私は全てを話した。
「入社四年目の春、私はある抗がん剤に関する不穏な情報をつかんだ。その抗がん剤は投与後しばらくは腫瘍を縮小させた。だが、投与された患者のその後をたどると、死亡率は未投与を大きく上回った。私は上層部に特番を組むことを進言したが相手にされなかった。利権に絡む深い闇があったんだ。結局私は上の意向に逆らえず、その薬害は隠蔽された。実は、その抗がん剤は『夢の新薬』と呼ばれ、今も使われている。分かるよね。その抗がん剤が、君のお母さんの命を奪ったかもしれないんだ」
私はカウンターを見つめて黙り込んだ。店内は静まり返り、彼女の吐息さえ聞こえた。
「チーフ」
顔を上げると、彼女はにっこりと笑い、おちょこを差し出した。
「お酒、ついでください」
そのとき汽笛の音が聞こえた。
「船が港に戻ってきたんです」
「大晦日に漁を?」
「みんな漁が好きなんです。あたしも明日から営業しようかな」
「元旦から?」
「はい。店を開けば、漁師さんたちが来てくれるから」
終わり
執筆の狙い
皆様の御意見を参考にして推敲しました。
以前、『これじゃ女性(優子)が負けただけで面白くない』と言われたので、ストーリーを変更しました。
約8000字の作品です。よろしくお願いします。