作家でごはん!鍛練場
飼い猫ちゃりりん

優子

 これは、うら若き女性の苦難と闘争の記録である。彼女は私より三回りも年下だが、私は彼女を尊敬している。

 私が本局に復帰した翌年の春、大卒の新人が私の元へ挨拶に来た。
「佐橋優子です。よろしくお願いします」
 その出会いから遡ること二十六年。
 彼女と同じように大卒新人として本局に配属され、四年目を迎えた私は、血気盛んな若きキャスターだった。
「弱きを助け、強きをくじく」を座右の銘にしていた私は、ある薬害事件のことで、当時のチーフディレクターとぶつかった。
 ある日、私は『夢の新薬』とも評される抗がん剤の不穏な情報をつかんだ。その新薬は投与後三ヶ月以内に著しく腫瘍を縮小させた。だが、投与された患者のその後を取材すると、死亡率は未投与を大きく上回っていた。明らかな薬害である。
 若いキャスターが知り得た情報など、どの局でも掴んでいるはずなのに、なぜかどこも報道していなかった。
 私はチーフディレクターに進言した。
「まだどの局もやってません! すぐ特番を組みましょう!」
 しかし、いつまで経っても何の音沙汰もなく、しびれを切らした私は、上層部に直談判するという禁則を犯した。
 しかし歯牙にも掛けられず、私は地方に飛ばされた。
 信じられないことに、その抗がん剤は今も治療に使われている。利権に絡む深い闇があるのだ。でも詳しいことは言えない。やっと本局に復帰できたのに、また「島流しの刑」を喰らうわけにはいかない。だから、今から言うことは、ただの戯言として聞いて欲しい。
 薬が作られる本当の目的は、新たな病気を生むことなのだ。つまり製薬メーカーは、薬により再び新薬開発のきっかけを得る。つまり『夢の新薬』はマッチポンプなのだ。巨大な収益が生まれ、それは……
 これ以上は言えない。とにかく、不都合な真実に触れて飛ばされた私は、二十六年の「島流しの刑」をつとめあげ、本局への復帰が許されたというわけだ。

 優子は性格のいい今時の若者である。
 私の世代はことあるごとに、今時の若者はと愚痴をこぼすが、彼らは昔の若者より遥かに真面目で優秀である。
 昔の私のように、上に噛みつく若者など見たことも聞いたこともない。一抹の寂しさはあるが、正直自分のような部下だけは持ちたくないと思っている。
 優子は美人で優秀なのに、お高くとまったところは微塵もなく、「優ちゃん」と呼ぶと、「はい」と笑顔で返事をする。徹夜明けの朝などは、私のデスクまでコーヒーを持って来てくれる。
「優ちゃん。自分でやるからいいのに」
「私も飲みたいから全然OKです」

 優子は倍率千倍超えの採用試験をトップで通過し、天気予報のキャスターを担当することになった。
 家族構成の欄に父親の名前が無く、志望理由の欄には「亡くなった母の夢だから」と書いてあった。彼女の母もテレビ局にいたそうだから、試験用の台詞ではないだろう。
 面接官は彼女に太鼓判を押したが、一つだけ些細な欠点を指摘した。『たまに噛むことがある』と付されていたのだ。

 優子が担当した天気予報は一定の視聴率を獲得し、彼女は「綺麗なお天気姉さん」として人気を集めた。
 面接官が指摘した欠点も完璧に克服されていた。
 ただ、私はチーフディレクターとして、ある大きな欠点に気づいていたのだ。
 それは、欠点が無いこと。
 優子は容姿、物腰、しゃべり、全てにおいて完璧なのだ。
 他局のお天気姉さんは、地元グルメの話題の中で、お好み焼きのことを「平べったいタコ焼き」と失言し、視聴者から冷やかされて好評を得ていた。
 知的な美人より、ドジで可愛い女の子の方が受けがいいのだ。

 優子がキャスターになった翌年の夏、ある不運が彼女を襲った。
 彼女はいつもの完璧な笑顔で予報を伝えていた。
「明日は雲一つない快晴になるでしょう。お出掛けの際は熱中症に〜」
 しかし、翌日は豪雨になり、抗議の電話やメールが殺到した。
「びしょ濡れだ。馬鹿野郎。素人の小娘が」
「洗濯全部やり直し! いい加減にして!」
「お姉さん、噛んでない? あせってんの? 笑」
 天気予報に苦情はつきもので、気にしていたらやってられない。まして、お天気姉さんに責任などあるはずがない。
 ただ、優子に対するバッシングは過去に例がないほど執拗で、一向に収まる気配が見えなかった。
 私は分かっていた。それは予報を外したことに対する抗議ではなく、優子の完璧さに対する反感なのだ。

 私は優子を励ました。
「君に責任はない。だから気にするな」
「すみません。心配をかけて」
 真面目で繊細な性格はときに弱点となる。彼女がその典型だった。
 やがて彼女は放送中に言葉を詰まらせるようになり、ついに又予報を外した翌日の放送中、目に涙を浮かべてしまった。
 緊急会議が開かれ、彼女の降板が決定した。彼女にそれを伝えると、「すみません」と言って頭を下げ、目にハンカチを当てた。
 彼女はしばらく雑用をこなしていたが、やがて心を病んで休職することになり、私は自分の責任を痛感した。

 しかし、優子が降板しても事態は好転しなかった。
 彼女の後輩である立花美咲も、しばらくは無難に仕事をしていたが、プレッシャーからか、いまいち喋りがぎこちなく、些細なミスをすることがあった。
 しかし、優子を降板させたとつぶやくネット民が、それを見逃すはずがない。やがて美咲をからかう動画がネット上にあふれ、ついに彼女も憔悴しきってしまった。

 また会議を開き、美咲の後任を検討していると携帯に着信があった。それは優子からのメールだった。
「美咲ちゃんは大丈夫ですか?」
 療養中の優子に心配をかけるべきではないと思いつつも、「少し疲れている」と返信してしまった。
 すると意外な言葉が返ってきたのだ。
「後輩に無理をさせないで下さい。私はもう大丈夫です。復帰させて下さい」

 翌日の午後に駅裏の喫茶店で待ち合わせをした。
 優子はテーブル席で私を待っていた。
「優ちゃん。久しぶり。体調はどう?」
「御心配を掛けました。もう大丈夫です。医者も復帰に問題はないと言っています」
「ゆっくり静養すればいいんだ。無理をすると、天国にいるお母さんが心配するよ」
 すると、彼女は自分の母親のことを話し始めた。
「母は私にキャスターになって欲しいとよく言っていました。自分が叶えられなかった夢を、娘に託したんです」
「そうなんだ」
「私が二十歳のときに、母は癌で亡くなりました。結局、なんの親孝行もできなくて……」
 彼女は薄っすらと目に涙を浮かべた。しかし、どうしても確かめたいことがあった。
「お母さんは、抗がん剤で治療を?」
「はい。開発当初『夢の新薬』と呼ばれた抗がん剤だと医者が言っていました」
 夢の新薬……
 彼女の母の死は、私が副作用の報道を諦めた抗がん剤のせいかもしれない。「諦めた」と言えば聞こえはいいが、結局、上の意向に従った私は、薬害隠蔽の共犯者でもあるのだ。
「どうかしたんですか?」
「あっ、いや、別に……」
 私は復帰の件に話を戻した。
「とにかく、無理する必要はない。ゆっくり静養すればいいんだ」
「ありがとうございます。でも失敗の原因が分かったら、すっかり良くなったんです」
「失敗の原因?」
「はい。これを見ていたら分かったんです」
 彼女がタブレットのキーを叩くと、彼女を誹謗中傷する動画が映し出された。
 その投稿主は、彼女が噛む様子を誇張して悪ふざけをしていた。わざわざ女装までしたその男の動画は、下品極まりない代物だった。
 優子は「まだ沢山あります」と言って、美咲をからかう動画も見せてくれた。
「優ちゃん。そんなもの見ない方がいいよ」
「この人たちのおかげで、失敗の原因が分かりました。お願いします。復帰させて下さい」

 優子が土曜の夕方から復帰することになり、私はひとまず安心した。
 しかし、またもや不運が彼女を襲った。復帰する前日の予報が、また外れてしまったのだ。
 金曜日の夕方、美咲は言葉を詰まらせながら、「明日は朝から雨になるでしょう」と言った。だが、土曜は絶好の行楽日和になった。
 朝から苦情の電話が鳴り響き、セクハラまがいの投稿がネット上にあふれた。
「馬鹿野郎! キャンセル料を返せ」
「あいつも降板させろ」
「あの小娘に予報士はムリ! AV女優にでもなれ!」
 優子は放送直前まで後輩をバッシングする動画を見ていた。
「優ちゃん。大丈夫?」
「問題ありません。失敗の原因は分かっていますから」
 その冷静な態度に、私は心なしか不穏なものを感じた。
 ついに放送開始の時刻になり、私は祈るような気持ちで指を順番に立てた。
「1、2、3、キュー!」
 なんと……
 優子はカメラを見つめたまま一言もしゃべらない。その姿は、聴衆の前に立つヒトラーを彷彿とさせた。
 スタジオがざわつき、若いスタッフが私に指示を求めた。
「チーフ、どうしますか?」
 私は記録すべき瞬間であると直感した。
「いいからカメラを回せ」
 優子は大きく肩で息をすると、静かに闘争を開始した。
「視聴者の皆様。雨との予報が外れてしまい申し訳ありません。でも、ご安心ください。今から嵐が吹き荒れるので」
 彼女は「はぁ」と小さく息を吐くと、また静かに話し始めた。
「私も後輩も予報士の資格を持っています。でも、必ず当たるわけではありません。必ず当たる予報がお望みなら、見てもらわなくて結構です」
 そのとき若いスタッフがスタジオに飛び込んできた。
「チーフ! カメラを止めろと上から指示が!」
 優子が私を見ていた。
「いいからカメラを回せ。責任は俺がとる」
 彼女は再び話し始めた。
「見えないところで誹謗中傷をする輩に言います。言いたいことがあるなら、私の前に来て言いなさい。天気を気にする前に、自分の心を綺麗にしなさい。最後に、私の後輩をいじめるクズどもに言います」
 そのとき、お偉いさんたちが血相を変えてスタジオに飛び込んで来た。
「おい! カメラを止めろと言ってるのが分からんか!」
「チーフディレクターはどこだ!」
「黙れ! 絶対にカメラは止めん!」
 そのやり取りが全て茶の間に流れた。
 優子は再び話し始めた。
「後輩をいじめる卑怯者に言います。馬鹿野郎!」
 そこで放送は止められ、三十分ほど後にベテランのニュースキャスターが深々と頭を下げた。
 その翌日、局長以下のお偉いさんたちが、汗をふきながら謝罪会見を開いた。
「昨日放送された番組において、極めて不適切な発言があり、視聴者の皆様に大変不快な思いを~」

 優子は謹慎処分となったが、自ら辞職を申し出た。
 かたや私は処分を受け入れて再び地方を転々とし、最終的に日本海側のとある地方の支局に配属された。

 その赴任から三年目の冬、一本のメールが携帯に届いた。
「チーフ。お久しぶりです。美咲です。今、お時間いいですか? よければ、電話でお話ししたいのですが」
「美咲ちゃん。久しぶり。もうベテランの風格だね。自分は暇だから、いつでも電話してよ」
 すぐに電話が入った。
「チーフ。突然すみません。実は頼みたいことがあるんです。優子さんが、ある港町で小料理屋をしていて、チーフに会いに行ってもらえないかと思って」
「そっか。優ちゃんが小料理屋をね。でも合わせる顔がないんだ。自分がカメラを止めていれば、彼女は辞めなくて済んだんだから」
「実は、優子さんに伝えて欲しいことがあるんです」
「なにを?」
「局長が優子さんの復帰を望んでいるんです。優子さんをメインキャスターにした番組まで用意するからって」
「どうゆこと?」
「優子さんが退社すると、優子さんを非難する人は減っていき、逆に応援する人が増えていったんです。あの女性キャスターは立派だ。あの女性キャスターは格好いいって」
「優ちゃんにはファンがいたからね」
「そうですね。でも、あれから熱狂的なファンが沢山現れて、ついにファンクラブまで結成されたんですよ」
「そうなんだ……」
「最近では、女性にパワハラしてクビにしたのか! ってネットで炎上しているんです。株主総会でも問題になって、慌てた局長が、優子さんを復帰させろって言い出したんです」
「なるほどね」
「それで課長が、あたしのとこに来て、優子さんに復帰の話を伝えてくれって言うんです。でも、あたし、偉い人たち全員で頼みにいけばって言ってやったんです」
「そりゃすごいな」
「そしたら部長と課長があたしのとこに来て、局長がチーフに行かせろって言っているって。チーフの言うことなら、優子さんは聞くからって。それで、あたしからチーフに頼んで欲しいって言われたんです。でもチーフ、嫌なら断ってもいいんですよ」
 確かに都合のいい話ではあるが、私自身、いつか優子に会わなければと思っていた。それに彼女にとっても悪い話じゃない。彼女の母は、娘がメインキャスターになることを望んでいたはずだから。
「美咲ちゃん。行ってくるよ。久しぶりに優ちゃんに会ってみたいし、局長がそこまで言うなら、断るわけにもいかんだろ」
 美咲が送ってくれた情報によると、店は大晦日の夕方までやっているとのことだったから、私はその日の午後に行くことにした。客が少なくて、静かに話せると思ったからだ。

 大晦日は吹雪となり、列車から見える日本海には白波が立っていた。
 薄暗い駅の改札を出て、寒風が吹きすさぶ港町を歩いていると、吹雪の中に赤ちょうちんが見えた。
 その小料理屋は、うら寂しい漁港の隅に建っていた。ほかに店らしい建物はなく、赤ちょうちんの『浜屋』という文字だけが目立っていた。
 引き上げられた漁船の影から様子をうかがっていると、店内から酔っ払いの声が聞こえてきた。
「えー! もーおしまい? まだ五時だよ」
「優ちゃん。もう少し飲ませてよ」
「ビールもう一本!」
「だーめ。大晦日くらい、あたしもゆっくりしたいのよ。早くツケを払って帰ってください」
「そなせっしょうな!」
「皆さん、良いお年を」
 しばらくすると引き戸が開き、着物姿の優子が、赤ら顔をした男達と一緒に出てきた。
「優ちゃん。大漁でも祈っといて」
「来年は優ちゃんにハンドバックを買ってやるからな」
「去年も同じことを言ってませんでしたか?」
「今度は本当だってば!」
「そーですか。なら、どんなバックを買ってくれるんですか?」
「イブサンローンだ!」
「馬鹿たれ! イブサンローランだろ!」
 優子は笑っていた。それはキャスターだったころの「完璧な笑顔」ではなく、本当に幸せそうな笑顔だった。
「それじゃ皆さん。良いお年を」
「おおー、優ちゃんもな」
 彼女は漁師たちに手を振っていた。私は彼らが立ち去ったことを確かめると、赤ちょうちんを消そうとしている彼女に声をかけた。
「優ちゃん。久しぶり」
 彼女は赤い灯に照らされながら、まじまじと私を見つめた。
「どなたですか?」
 私はコートのフードをとった。
「チーフ!」
「中々いい店だね」
「どうしてここが?」
「美咲ちゃんから聞いたんだ」
「そうですか」
「少し飲んでもいいかな?」
「もちろんです」

 優子は木のカウンター越しにビールをついでくれた。
「チーフ。おでんでいいですか?」
「うん。ありがとう」
 彼女は、大根、厚揚げ、こんにゃくを皿にのせ、その端に黄色いカラシを添えてくれた。
「どうぞ」
「優ちゃんも飲んでよ」
 私は彼女のグラスにビールをついだ。
「ああ、おいしい」
「お酒、強くなったね」
「チーフ。熱かんにしませんか?」
 彼女は白いおちょこをカウンターにふたつおいた。
「優ちゃん。こっちに来て座ってよ」
「立っている方が落ち着くんです」
 私は少し酔いが回ると、胸にしまいこんでいた思いを明かした。
「いつか君に謝ろうと思っていたんだ」
「謝る? どうしてですか?」
「自分がカメラを止めていれば、君は辞めなくて済んだんだ」
「迷惑をかけたのは私の方です」
「いや違う。私は自分の責任を放棄してしまったんだ。撮りたいって思いに駆られちゃってね」
 すると彼女は真剣な眼差しで私を見つめた。
「あたし、嬉しかった。最後までカメラを回してくれて、本当に嬉しかった」
「そう言ってもらえると、少し気が楽になるよ」
「本当なんですよ」
「実は、今日は伝えたいことがあって来たんだ」
 私は美咲から聞いた復帰の件を話した。
「局長が君をメインキャスターに起用するとまで言っているそうだ」
「そうですか……」
「どうしたの? 悪い話じゃないと思うが。君のお母さんも天国で喜ぶんじゃないかな」
「そうですね。でも、遠慮させていただきます」
「どうして?」
「ここの暮らしが好きなんです。漁師さんたち、みんな良い人だし」
 彼女の手には何本もの赤ぎれがあった。美しい腕とは裏腹に荒れた手が、その生き様を物語っていた。
「今、君は幸せなの?」
「はい」
「そっか。ならいいんだ」
 私が酒をつぐと、彼女はそれをひと口飲んだ。
「ああ、おいしい。それより、チーフが復帰してください。あたしが局長に頼みましょうか?」
「いや、遠慮しとくよ。正直、あそこ、あまり好きじゃないんだ」
「あ、ずるい」
 笑みがこぼれ、思い出話に花が咲いた。
「チーフって不器用だけど、本当にいい人ですね」
 その言葉に酔いがさめた。
 不器用で、いい人……
 違う。私は小ずるい悪人なのだ。
 私はつい今しがたまで、あることを話さずに帰ろうと思っていた。そのひとときを、楽しい思い出にしたかったから。
 あることとは、彼女の母の治療に使われた抗がん剤、重い副作用が隠蔽された『夢の新薬』のことだ。
 本当は話したくない。私は告発を諦め、隠蔽に加担してしまったのだから。でも話さなければならない。今話さなければ、後悔が一生の重荷となる。そう思いながらも、言葉が出てこなかった。
「チーフ。大丈夫ですか? 水を持ってきましょうか?」
「水はいらない」
 私は湯呑みを酒で満たすと、それを一気に飲み干した。
「どうしたんですか?」
「君に、話さなければならないことがあるんだ……」
 私は全てを話した。
「入社四年目の春、私はある抗がん剤に関する不穏な情報をつかんだ。その抗がん剤は投与後しばらくは腫瘍を縮小させた。だが、投与された患者のその後をたどると、死亡率は未投与を大きく上回った。私は上層部に特番を組むことを進言したが相手にされなかった。利権に絡む深い闇があったんだ。結局私は上の意向に逆らえず、その薬害は隠蔽された。実は、その抗がん剤は『夢の新薬』と呼ばれ、今も使われている。分かるよね。その抗がん剤が、君のお母さんの命を奪ったかもしれないんだ」
 私はカウンターを見つめて黙り込んだ。店内は静まり返り、彼女の吐息さえ聞こえた。
「チーフ」
 顔を上げると、彼女はにっこりと笑い、おちょこを差し出した。
「お酒、ついでください」
 そのとき汽笛の音が聞こえた。
「船が港に戻ってきたんです」
「大晦日に漁を?」
「みんな漁が好きなんです。あたしも明日から営業しようかな」
「元旦から?」
「はい。店を開けば、漁師さんたちが来てくれるから」

 終わり

優子

執筆の狙い

作者 飼い猫ちゃりりん
dw49-106-188-43.m-zone.jp

皆様の御意見を参考にして推敲しました。
以前、『これじゃ女性(優子)が負けただけで面白くない』と言われたので、ストーリーを変更しました。
約8000字の作品です。よろしくお願いします。

コメント

茅場町義彦
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そーーーーきたかああ

読みやすいし、勢いはある。でもネット民がちょっと変すぎるね。完璧すぎるから叩くってのは 違和感あるかな。

あと主人公の懺悔姿勢もちと違和感あるねえ。結構この人正義感で動いたほうだしねえ。

でも挑戦的でいです

飼い猫ちゃりりん
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茅場義彦様
そうか、心理描写が甘いんだ……
でも、心理を説明しては芸が無いから、もう一丁エピソードをぶっ込むしかないですね。
例えば、地方に飛ばされてからしばらくすると、本局から商品券の束が届き始める。単純に激励だと思って本局に礼電を入れたら、部長ははっきりとは言わないが、どうも口止め料らしい。主人公は断り切れず、毎年商品券の束を受け取る。主人公は良心の呵責を酒で誤魔化しながら、26年の「島流しの刑」を終える。みたいな

茅場義彦
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飼い猫さん

普通こういう始まりだと薬害と戦う話だと思ってしまうのに 新人アナのネットいじめで読者肩透かしくうのよ

で、薬害以上に魅力的展開すっかと思ったら あんまり現実的じゃない

ただ完璧だからイジメられる新人アナの話でしょ

戸惑うんだよね

まず猫さんが描きたいことって何なのかなって思う

組織にまけたおっさんの悲哀なの
ネットに負けた新人アナの悲哀なの

書き込む前にこの話は どういう部分で既存の物語とは違うのか

それは読者を魅了するポイントあるか

構造的に変じゃないか

検討してかた始めるとか まー私の個人的意見です

王道は二人で協力して組織にリベンジだけど

飼い猫ちゃりりん
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茅場様
確かに、薬害というシリアスな問題と、現実ではありえないドタバタの二つの流れがあります。
一応作者の意図を明かすと、「本当の勝利とは何か?」という問題を優子の生き様を通して主人公が見つけるというような流れです。
優子は穏やかな幸せを見つける。それこそが本当の勝利だと。

でも、エンターテイメントとしては面白くない。
そこで新たな展開。
優子と主人公は製薬利権との戦いを始める。優子はその知性と美貌を活かして製薬会社に就職し、黒幕の2号になる。黒幕のメンバーを慰安旅行と称して海釣りに誘う。
海では漁師に転職した主人公が待っていて、黒幕たちを漁船に乗せて遠洋に出る。優子が酒に睡眠薬を仕込み、黒幕たちを主人公が縛り上げ、悪事を吐かなきゃ海に突き落とすと脅す。黒幕たちはゲロを吐きながら、全ての悪事をゲロし、その動画をネットに晒して、優子と主人公は製薬利権に対する復讐を果たす。
しかし、戦いはまだ終わらない。
なんと、ついに真の黒幕が姿を表す。黒幕とはWHOや日本政府を裏で操るグローバリストたち。
優子と主人公は世界経済フォーラムのメンバー全員を敵に回す。
相手は国家権力を上回る力を持つ。さあどうする。優子と主人公は漁船で遠洋に出て、ロシアの漁師たちと親交を交わし、ついにプーチンと会うことになる。プーチンはグローバリストに敵対しているから、彼の力を借りて、世界を股にかけるグローバリスト(全体主義者)たちとの戦いが幕を開ける。
ああー、もうまとめ切れない。汗

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

>飼い猫ちゃりりんさん

読ませていただきました。
気になった点ですが、

>面接官は彼女に太鼓判を押したが、一つだけ些細な欠点を指摘した。『たまに噛むことがある』と付されていたのだ。

>ただ、私はチーフディレクターとして、ある大きな欠点に気づいていたのだ。それは、欠点が無いこと。

面接官は、たまに噛むという欠点を指摘し、
主人公は欠点がないことが欠点と評しています。
で、実際のところ、このキャスターは噛むのか?
という疑問が湧きました。

>「お姉さん、噛んでない? あせってんの? 笑」

視聴者はこの欠点を指摘していますが、
主人公はそれでもこのキャスターのことを、欠点がないことが欠点、と認識しているということでしょうか。

ところで、お天気キャスターは、天気予報を自分の言葉で解説しながら伝える仕事ですよね。
天気予報士であれば天気予報を出す仕事をしますが、キャスターであれば解説が仕事なので、予報を外した責をキャスターは負わなくていいですよね。
なので、

>「君に責任はない。だから気にするな」

という職場の反応は正しいのですが、

>緊急会議が開かれ、彼女の降板が決定した。

これはいかがなものかと。
まぁ、本人がその後、休職していることから察して、本人が降板を希望したということでしょうか。
そこが分かるよう、本人の言葉も書いておいて欲しかったと思います。

復帰後の記述で、彼女が予報士の資格を持っていることが明かされますが、後出しという感じが否めませんでした。
で、予報士の資格を持っていたとしても、番組として報道する内容は、キャスターが予報したものか、それ以外の予報士が予報したものか、その点が明らかになっていません。
予報士の資格があるキャスターみんなが、自分で予報を出しているとは限らないからです。
なので、その点の説明も欲しかったです。

ええっと、優子さんは、自分への非難は噛むことにあるのであって、予報の正確性にはない、という考えに至ったので、予報を外したことについては開き直った、という解釈で合っていますか?

>「視聴者の皆様。雨との予報が外れてしまい申し訳ありません。でも、ご安心ください。今から嵐が吹き荒れるので」

で、この後、本当に嵐は来たのでしょうか?
その顛末も書いて欲しかったです。

ラスト、薬害についての責任を語る主人公でしたが、
薬害はこの物語において重要な部分だと思うのですが、その扱いがあいまいなままエンディングを迎えているので、すっきりしなかったです。

物語は、登場人物の考え方が変わる場面がいわゆるクライマックスになるわけですが、優子は飲み屋を続ける意思が変わらないままですよね。
例えばですが、一瞬、局への復帰に心が動く。
けれども、やはり飲み屋を続けることにした。
という心の動きがあれば、よりドラマ性が増すと思います。

主人公が来ても来なくても、優子は飲み屋を続ける展開になっているので、これがなんとも。

と、いろいろ書いてしまいましたが、作品自体はおもしろく、最後まで楽しく読ませていただきました。
ありがとうございました。

飼い猫ちゃりりん
dw49-106-188-241.m-zone.jp

神楽堂様
お読みいただき嬉しく思います。
茅場様の言うように、シリアスとドタバタが混ざったような展開なので、とにかくまとめるのが大変です。苦笑
叩けば叩くほど、ほこりが出てきそうですね。
ご指摘いただいた点をよく吟味し、今後の推薦の参考にしたいと思います。ありがとうございます。

西山鷹志
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拝読いたしました。

確か一度読んだような気がします。
天気予報が外れて視聴者から散々叩かれる。
いくら人工衛星の画像で絶対という事はありませんが。
それを読者が鬼の首を取ったように騒ぐのも解せませんが
それが小説ならではオーバーに書くから面白いかも知れません。

堪忍袋の緒が切れた優子

>「見えないところで誹謗中傷をする輩に言います。言いたいことがあるなら、私の前に来て言いなさい。天気を気にする前に、自分の心を綺麗にしなさい。最後に、私の後輩をいじめるクズどもに言います」

ちょっと啖呵の切り過ぎですが、辞めるのを覚悟の発言はスカッとしました。
話は前後しますがその前に薬害問題があったんですね。
やがて優子はある港町で小料理屋を始める
そこに先輩アナウンサーが来て俺があの時止めるべきだったと詫びますが
こんな話をする
「局長が君をメインキャスターに起用するとまで言っているそうだ」

だが優子は既にテレビ局に復帰する気はなく。
優子の心意気が潔いですね。
読んでいた優子の生き様拍手を送りたいです。
お疲れ様でした。

飼い猫ちゃりりん
sp1-72-6-5.msc.spmode.ne.jp

西山様
お読みいただき嬉しく思います。
かなり、ありえないストーリーだとは思います。基本的に日本人は男も女も奴隷だから、カメラの面前で、堂々と大衆と言う権力に向かって発言するなんて絶対にありません。
薬害の件については、かなりメッセージ性を込めたつもりです。これが事実なのかどうかは、読者それぞれが自分で調べて判断するべきです。単なるデマだと思われても仕方がないほど、びっくりする発言ですよね。
がん利権やワクチン利権のことに首を突っ込むと、最悪消されると言う都市伝説?があります。真偽のほどは知らんけど、知っていてもおそらく言えないけど。
ありがとうございました

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