作家でごはん!鍛練場

落日の眩耀(完全版)

 夢の話をしよう。君達も一晩の間に、随分と長い時間の夢を見た経験があるのではなかろうか。現実世界で換算すれば何時間にも相当する夢を。とはいえ、そもそも夢の中では正確な時間というものは存在しない。単純にできごとを並べただけのものが夢で「そう、これは一時間だった。」というように、あとから時間という概念を付けているだけの話だ。夢は、特にレム睡眠が二十から三十分以上持続したときに出現しやすくなるといわれる。レム睡眠は、約九十から百二十分の間隔で一晩に数回出現し、睡眠後半に向かうほど持続時間が長くなるそうで、そのため、朝方に、鮮明でストーリー性のある夢を見ることが多い。どんなに長い夢でも見ているのはほんの僅かな時間なのだろう。事故の瞬間に、走馬灯のように映像が浮かんでくるというが、脳は、現実の時間よりも遥かに短時間で同等の内容を認識することができる。いずれにせよ、一瞬で、かなりの情報を夢として見せてくれるのだ。

 あぁ、今夜もそうなのか……

 ここ一週間、毎晩同じ時間に同じ夢を見る。目覚めると決まって時計は、午前五時二十五分を表示している。不思議なことに『今、自分は夢を見ている』という意識がある。そのような、夢と認知して見る夢というものは大抵が、夢の中での非日常を察知したときにそう気付くものだが、私のそれは、夢の世界に入った瞬間から『夢を見ている』と解るのだ。夢の最後には、いつも朱色のぼやけた光の楕円。徐々に焦点が合ってくるとそれが、デジタル時計の時間を表示していると気付く。

 そして静かに、目覚めたのだと理解する。

 ………

 まばゆいばかりの落日が、枯れ葉を透かしながら山々に漆黒の訪れを告げている。この峠に、どのような経路で辿り着いたかなどはどうでも良いことだ。ただ遠い昔、 子供の頃から脳裏に焼き付けられていたのであろう、初めて見る景色ではない。
 私は急いでいた。このままでは日があるうちには帰れないと解っているのだが、とにかく急いだ。山道には枯れ葉が積もり、踏みつける度にガシャグシャと音をたてる。場所によっては膝近くまで埋まる程、落ち葉が積もっている箇所があるために、急いではいるものの歩みは慎重でやけに重い。気を付けなければ底に貯まった水気のある枯れ葉に足をとられ、滑りそうだ。
 暫く下って行くと右手に大きな白樺があり、それを過ぎると脇道があった。その入り口には地蔵が立っている。風と雨水にやられたのか、顔付きがやけにいびつな地蔵である。木々の間から差し込む夕日に照らされた地蔵の影は、脇道に沿って長く伸びている。それに導かれるように無意識に、私は道を逸れていった。手入れされたその道には落ち葉が無く、ゆったりと右にくねる小道をいった先には一軒の平屋の家が建っている。平屋の裏は断崖なのだろう、西陽に照らされた雲がオレンジ色に耀き、遠くの山々迄見渡せる。山に映る陽は徐々に暗闇に支配され、その上空に星々がうっすらと姿を現すと不意に不安感が押し寄せて、来た道を振り返る。振り返った先には、逆光を背中に浴びた、すらっとした女が佇んでいた。背中越しの夕陽が眩しくて女の顔が認知できず、手のひらで光を遮りながら細目で凝らす。わずかに唇が動いているのがわかる、何か話し掛けている様子だ。「なんなんだ……」と、一歩踏み出した刹那、女の姿が消え、人差し指と中指の間から西陽がもろに突き刺さる。瞬時に目を瞑ると、瞼には朱色の光の楕円。徐々に焦点が合ってくるとそれが、デジタル時計の時間を表示していると気付く。

 『――5:25――』

 そして静かに、目覚めたのだと理解する。そんな夢を一週間も見ているのだ。

 何度も同じ夢を見ているうちに私には願望が芽生え始めていた。疑問も生じたがそれは大したことではなかった。自身の中で、解決はされている。
 夢冒頭のあの景観、見覚えがある。確かに以前から記憶している風景だ。……そうだ、あれはこどもの頃に遊んだ裏山。冬になると険しく細い山道は枯れ葉で埋め尽くされ、道の窪みに貯まった枯れ葉の中に飛び込んで、遊んだ記憶がある。小一時間程かけて登って行くと山の頂きに着く。逢魔が時、そこから見える海に沈む夕日が、こどもながらに素晴らしく思えたものだ。多分、デフォルメされたその景色が夢に出てくるのであろう。だが、裏山には地蔵はないし民家などなかった。白樺が自生する環境でもない。しかし、それこそが夢の夢たる証し。全ては、脳の記憶がクロスオーバーして創られた世界なのだと納得はできる。安易ではあるが疑問は解決された。
 願望というのは、あの平屋の家には何があるのか見てみたい。そしてあの女性は、私に何を話したのか、はっきり聞いてみたいというものだ。その願望を意識して夢に挑むのだが、白樺を越した頃にはいつもすっかり忘れてしまっていた。

 今夜こそ夢を進ませなければならぬ。謎が解けさえすれば、こんな夢は見なくてすむはずだ。

 ………

 落日の山道、見た夢の足跡を辿るかのようにゆっくり進む。
 一本の白樺、ここからだ。右手の甲をつねりながら次の場面に向かう。
 地蔵が見えた。顔つきを確認する。歪んだ顔、よし。
 無意識ではなく、はっきりとした意識の中で手入れされた小道を進む。崖の手前に平屋が見えた、不安はない。
 初めて平屋の玄関に辿り着く。ここからが新しいステージとなる。

 綺麗だな……

 玄関ドア上部には、切り抜きの四角い枠にステンドグラスの細工が施され、室内の灯りが漏れている。ガラス細工の赤い花。見たことはあるがなんという名前だったか思い出せない。というよりも、その花の名を知らぬ。
 私は、ゆっくりとドアを開けた。
 中に入ると、そこには、床も壁も天井も全て漆喰で塗り尽くされた真っ白な、外観からは想像もできない程の空間が広がっていた。透明感と奥行きのある光沢、これはイタリア漆喰、その中でもベネチアーノか。高級ホテルのロビーのようでもあり、美術館のようでもあった。高い天井からは、無数の間接照明が、様々な角度から空間全体を照らし、演出された自然な光は私の影さえ落とさない。

 白の世界……

 暫く見渡していると、背面からス~と風が入る気配を感じた。振り返ると、黒い喪服を着たすらっとした女が、ステンドグラスのドアの前に立っている。
 白の中に浮かび上がる黒衣の女。山道のあの女だとすぐに気がついた。また、なにかを話している。口だけが微かに動く。同じ言葉を、ゆっくりと、何度も繰り返している。唇を読むと、「や……め……な……さ……い……」。やめなさいと動いているのが解った。
 なんのことだと問いかけても反応がない。いや、私の声そのものが出ていない。女のように唇だけが動いている。

 音のない世界なのか……

 女は遠い目をしていた。私を通り越した女の視線の先に目をやると、いつ現れたのか、奥の壁中央に大きな絵画が飾られており、その横に真っ黒なドアがある。
 初めて見る絵ではない。絵画の下には作品の題名が記されている。「決して来ない時」と書かれていた。そうだ、絵画展で見たことがある。確かフランスの画家だ、バルテュスと言ったか。
 バルテュスの絵には少女が描かれた作品が多い。なぜ少女を描き続けるのかについて、「それがまだ手つかずで純粋なものだから。」と、答えたのが印象深く、記憶に残る。
「決して来ない時」
 椅子に浅く腰掛けて片足を投げ出し、上半身を反り返らせるような、不自然なポーズで眠っている少女。その奥にいるもうひとりの少女は、大きな窓から遠くをただ見つめている。窓からうっすらと差し込む陽は、その絶妙な色彩により、観る角度で、朝陽にも夕陽にも想起させる。それは、観る者のその時の感情により、左右されるのであろう。

 私には、夕陽にみえた。

 ♢ ♢ ♢

 ――二日前――

 愛知県蒲郡市 県警管轄病院解剖室

「ドクター、司法解剖中に失礼するよ」
「いいえ、構いませんよ。でも、こんなところに。……捜査の指揮を執らなくてもよいのですか」
「いやね、先ほど所轄から愛知県警に捜査権限が移行した。私は指揮権を剥奪されたよ」
「そうだったんですか……あっ警部補、この仏さんは高校生と聞きましたが」
「かわいそうに、三年生だよ」
「……はぁ……」
「死因は絞首による窒息死だろ。この手首やら、足首やらの鬱血は……、縛られてから首を絞められたということなのか?」
「はい。正確には縛られて、強姦された後に、首を絞められて殺されたのでしょうね」
「この顔つきからは、想像出来ないな……」
「そこなんですよ謎なのは。強姦ならば、膣口や膣壁に損傷があってしかるべきだが、それがない。手首、足首の他に目立った傷は見つからない。抵抗しなかったのか、綺麗なもんですよ」
「しかし、被害《ガイ》者からはストーカー被害の届けが出ていたんだよなぁ」
「ストーカーですか……」
「誰かに見られているようだとか。証拠不十分で見送られたんだよ」
「でもね警部補、確かに性交の跡はあるが、体液が残されていない。強姦者がゴムして犯すかなぁ?」
「そうか、……なるほど」
 ――コンコンコン……
「はい」
「お忙しいところ失礼します。鑑識からの報告で、被害者のアパートから盗聴器が見つかりました。ストーカーが仕掛けたのだと思われます」
「ああ主任、ご苦労様。私も直ぐに署に戻る。その前に君もちょっと見てくれないか、顔つきなんだがな……」
「……はい、苦しんだ様子がありませんね」
「そうなんだよ。抵抗した痕もない」
「……そのようですね……」
「なぜ、ガイ者は自宅を離れて、一人暮らしをしていたんだ?」
「母親が三年前に再婚をしておりまして、多感な時期だけに、被害者は同居を拒否したらしく。高校進学を機に、アパートを借りたと」
「そうだろうな、母親とはいえ女だ。一人暮らしの承諾はするだろうな。君も女性だから、そのへんの感覚は解るだろ」
「…………まぁ……」
「あぁそれで、犯行現場のアパートからは指紋は出たのか?」
「はい。被害者のものとは別の指紋がありました。特に、ベッドの周辺に密集していました」
「そうか、多分、犯人のものだろうな」
「その犯人なんですが意外なことに、義理の父親と指紋が一致しております」
「なに! 父親だと」
「はい」
「それで、義理の父親の身柄は確保できたのか」
「いえ、事件発生の夜から家には帰っておりません。逃亡しているのかと思われます。指名手配の方向で県警本部は動いています」
「では ストーカー行為をしていたのは、そいつなのか……」

 ――その日――

 愛知県警蒲郡署 取り調べ室

「あの人が、娘に手を出していたことは知っておりました……」
「それは、いつ頃からなんでしょうか」
「一年程前からなんとなく、娘の態度が変わって。……あなたも女だから、解るでしょ」
「むっ…………」
「あの人……主人も、わたしから遠ざかるようになってしまって、最近では一緒にいても会話もなくて」
「それで、前のご主人に相談したんですね」
「いいえ違います、相談したわけでは。前の主人が、成長した娘に会いたいと言ってきたんです」
「失礼ですが、離婚したのはどれくらい前なんですか」
「娘が五歳の頃ですから十二年くらいになります。前の主人は事業に失敗し、ヤミ金に手を出して、離婚後に自己破産をしました」
「その後はどうされていたんでしょうか?」
「実家の西伊豆、松崎町に帰ったのではないかと思いますが、全く音信不通で。三ヶ月前にひょっこり家に現れて。ここではなんだからと、彼の車の中で話をしました」
「その時に、娘さんとご主人の関係を話されたんですか」
「はい、そうです。相談と言うよりも、娘に会わせて欲しいとしつこいものですから、わたしもつい苛立ってしまって……」
「その話を聞いて、前のご主人はどんな様子でしたか」
「無言でした。ただ下を向いて、両手で握り拳をつくって、震えながらドンドンと車のハンドルを叩いていて……。わたし、恐くなってしまって」
「アパートの住民からの聞き込みによると、部屋に盗聴器を仕掛けたのはどうも、前のご主人のようです」
「んっ…………」
「それと、言いにくいお話なんですが。……娘さんは殺されたのではないようです」
「えっ、それはどういうことでしょうか……」
「事故です。検視の結果、性交の最中に、なんと言うか……行き過ぎた行為によるものだと」
「……そ……そんなぁ…………」
「主任失礼します、犯人の車が見つかりました。現在蒲郡方面から三河湾スカイラインに向って逃亡中、白バイが追っています。白バイからの報告では、もう一台普通車が、逃亡車の後ろを追っている模様。警察の車両ではありません」
「承知した、こちらもすぐに向かう、幸田町方面から入り挟み撃ちにする。至急応援車両を回すように」
「了解しました。尚、もう一台の車両は白いワゴン車だそうです」
「えっ、前の主人と、同じ車だわ……」
「……とにかく急げ。国坂峠で挟み撃ちだ!」

 ――三河湾スカイラインを一台のパトカーが疾走している。 時は正に落日を迎え、朱色に耀く太陽が、それぞれの万感の思いと共に水平線にその身を浸そうとしていた。

「主任あれですね、少女殺しの犯人の車は」
 サイレンをけたたましく鳴らしながらパトカーが国坂峠の駐車場に入って行く。フロントガラス越しには、犯人が車から慌てて飛び出して行くのが見えた。犯人の車の後ろにはぴたりと白いワゴン車が停まり、その運転手が後を追う。手には出刃包丁が握られていた。
「そこのふたり、止まりなさい!」
 女性主任警官は、声を張り上げながら走り寄る。
 追っていた男の手が犯人の肩を掴んだ。
「やめなさいっ!」
 逆光を浴びた女性警官の姿を確認した男は、一瞬動きが止まったが、直ぐに刃《やいば》を掴んだ手を犯人の頭上にかざした。

 ドゴーン、ゴーーー……

 銃声と共に、栖で微睡み始めた鳥たちが一斉に木々から飛び立つと、辺りは静寂に包まれた。すぐさま男の警官が、犯人の身柄を確保し手錠をかける。撃たれたワゴン車の男は、ぐったりとその身を地面に横たえていた。その視線は、真っ直ぐ歩み寄る女性主任警官に向けられている。
 そばに寄り、しゃがみこんで男の顔を確認すると、視線は変わらず彼女が来た方向に向けられていた。振り返り、男の見つめる視線の先に目をやると道路標識が立っている。

 逆光の中、目を凝らす。

『県道 525号』とある。

 標識の周りには、季節外れの真っ赤な彼岸花がゆらゆらと西風に揺れていた。

 ♢ ♢ ♢

 椅子に腰掛け微睡む少女。窓の外を見つめているのはその少女自身ではなかろうか。今、この瞬間、過ぎ去っていく時間は決して後戻りすることは出来ない。逢魔が時、夢の中の少女には窓の外に何が見えたのか、決して来ない時を愁いでいるのか。
 絵画を観ているうちになんだか視界がぼやけてきた、私は泣いているのか……。どういう訳だかこのまま、この絵をずっと観ていたくなった。しかし、夢を終わらせねばならぬ。黒いドア。多分これが、最後のステージなのだろう。これで終わりにしよう。

 覚悟を決めドアを開ける……



 落日に目が眩み、膝をついてしまった。


 …………了


《参考音源》
ショパン
ノクターン20番『遺作』
https://youtu.be/WrrLraHKvZs?si=CmfjCROGT3N6lPaz

落日の眩耀(完全版)

執筆の狙い

作者
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以前あまりにも不評だった為、推敲に推敲を重ね、このようなものになりました。
お読みいただけたら幸いです。

先日、天城から河津に下り、伊豆半島西海岸をドライブしました。
黄金崎辺りからたそがれ始め、松崎町の海岸から見た海に沈む夕陽は素晴らしかった。

コメント

茅場義彦
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うーむうーむうーむうーむ。結局セックスで気持ちよすぎて死んだんすか それならなんで犯人をそこまで追いつめる 死体遺棄の罪? なんか情報がとっちらがってるし 矛盾がいろいろあるよーな。前の親父が盗聴してて 犯人は今の親父?? なんだなんだああ みたいな 東野圭吾とかって好みあるけど めっちゃくちゃ 分かりいー文章書くですぜ 複雑なプロット書くなら分かりやすい文章かいたほーがええかも 私見ですうう

しまるこ
133.106.218.47

凪さん

私もちゃんと読み取れなかったのですけれども。

面白いかつまらないかでいったら面白いです。先が気になって、読み終わった後も、結局どういうことだったのか、感想のためではなくて、自分が気になったから何度か再読しました。気になる気にさせるだけの力は持った作品だと思います。

文章自体は、力の入った部分は悉く成功しているし、一文あたりは気が利いていていいなと思ったのですが、最初から最後まで、作者の意図が出過ぎているような。それらしさで持っていこうとしている気がしました。

作者の頭の中では辻褄が合っているし、読者も読了後に頭で考えて辻褄を合わせることもできるのだけど、それは、作者の目論見が顔を出していることによって、その顔から物語が窺い知れるといった形になってるんじゃないかと思いました。具体的に何が、どの辺が、と、詳しく説明しろと言われると、私も困ってしまうのですが(笑) そんな気がしました。

物語それ自体が浮かび上がって、物語が物語を説明できた時、この話はもっと面白くなりそうだな、と思いました。

夜の雨
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「落日の眩耀(完全版」読みました。

冒頭の夢の話とそのあとの女子高校生が亡くなった事件とが関連があるという設定になっているようですが、わかりにくい書き方をしています。

「冒頭の夢の話」と「女子高校生が亡くなった事件」ですが、ふつうに考えると「夢の話」を見ていたのは「女子高校生」の「実の父親」になります。
デジタル時計の『――5:25――』と『県道 525号』が同じ人物が見ているモノという事になっているので。
ミステリー仕立てにしているのはよいのですが、冒頭の夢のエピソードは文学的な描き方になっていて、話がそのあとの事件性のあるミステリー(エンタメ)と距離をおいているために、わかりにくい構成になっているのでは。

後半の警察がらみはエンタメ的な描き方(エピソード)になっていてわかりやすいが。
なので冒頭の夢の話しからの絡ませ方をわかりやすく描いたほうが御作の評価は高くなると思います。

たとえば、冒頭の夢の話をしている男の視点で御作のラストまで描くと話はわかりやすくなり、御作の面白さが伝わると思いますがね。
したがいまして警察視点は「わかりやすいが」必要がないと思います。これでせっかくの文学的な事件ものがエンタメまじりのわかりにくい作品になっているのではありませんかね。
ミステリーにもする必要はないと思います。

夢の中で。
>>黒衣の女。山道のあの女だとすぐに気がついた。また、なにかを話している。口だけが微かに動く。同じ言葉を、ゆっくりと、何度も繰り返している。唇を読むと、「や……め……な……さ……い……」。やめなさいと動いているのが解った。<<
これは夢を見ている男に「黒衣の女」(警察官)が警告している場面です。
何を警告しているのかというと娘をレイプしている「義理の父親」を殺すのをやめなさい、と言っている。
なので、御作の後半である警察視点を主人公の男視点にして別れた妻と逢って娘に逢わせてほしいとかのエピソードとか、娘が義父から被害に遭っていることが盗聴でわかったときの心理状態とか。
いろいろと描くエピソードはあるのではないかと思いますが。
ラスト近くでは主人公が娘の義父を追い詰めるがその時には警察官が「やめなさい!」と叫んで銃を発砲してきたという展開になります。

オチは「♢ ♢ ♢」これ以降の締めと同じでよいと思います。


お疲れさまでした。

ぷりも
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拝読しました。
ネタバレありです。
文章力が高く、構成も良いかと思いました。
ただ、引っ掛かりというか、ストーリーにわかりにくさがあり、伏線が散らばって回収できなかった印象です。
同じ夢を繰り返し見る人が、最初義父かと思ったら実父なんですね。

ストーリーとしては
同じ夢を繰り返し見る男がいる。
女子高生の強姦死体が発見される。
夢を見ていた男はその実父。
女子高生は義父と性交渉していた。
実は窒息マニアで腹上死。
盗聴していた実父は義父に復讐計画。
実父はすんでのところで取り押さえられる。
その時視線の先にあったのは県道525号の標識。デジタル時計の5:25はその暗示だった。
こんなところかと。

同じ夢を一週間見続けていて、次こそはそこに出てくる平屋に入ろうと決意する。
最初に夢を見たのを”仮に”4/1の明け方とすると夢に挑むのは4/8です。
ここで、右手の甲をつねりながらはっきりとした意識の中という意図がわかりませんでした。それはむしろ夢ではない描写に感じますが、現実にないはずの地蔵があるので、夢の中。
そこで、喪服の女にやめなさいと言われる。

場面変わって二日前(4/6)
>強姦された【後に】
ここはなぜ後にと断定できるのだろうと。実際母親には【最中】と説明してます。

>抵抗しなかったのか
合意の上でも首を絞められたら反射的に抵抗します。

>強姦者がゴムして犯すかなぁ?
しないとDNA検査で断定されます。

>盗聴器が見つかりました。ストーカーが仕掛けたのだと思われます。(略) ストーカー行為をしていたのは、そいつ(義父)なのか
ここは実父なんですが、いつどうやって仕掛けたのかという描写が必要と考えます。

被害者と異なる指紋がベッド周辺に集中というのも、一年前からことに及んでいるなら、そこだけ集中するものか疑問でした。義父の歯ブラシくらい置いてそうです。ベッドに指紋があるからといって、
>その【犯人】なんですが意外なことに、義理の父親と指紋が一致しております
この段階では断定できず容疑者ですね。
義父に断定したいのであれば、女子高生の下腹部から採取された陰毛のDNAが義父と一致したとか。

同日(4/6)
母親取り調べ。逃走中の義父とそれを追う実父。
なぜ義父はそこへ逃走?
復讐しようとする実父に「やめなさい」と女性警官が言って発砲。
この女性警官が4/8の夢の中の喪服女でしょうか?

冒頭から謎めいていて引き込まれるのですが、オチというかネタバラシのところでモヤモヤが残りました。

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茅場さん、しまるこさん、夜の雨さん、ぷりもさん、お読みいただき感謝申しあげます。コメントもありがとうございます。読者様の意見が聞けて嬉しく思っております。皆さんに拙作の解説(ネタバレ)をしたいと思うのですが、もう少し感想が付くのを待ってみたいと思います。大変申し訳ありません。

皆さん総じて「読みにくい」との感想ですが、それは、一人称の途中に三人称が混在しているせいだと思います。しかしあえてこのような描き方を選びました。「落日の眩耀」とのタイトルを強調したいが為の、作者のひとりよがりだと思ってくれて結構です。言い換えると、一人称の部分を先に読んでから三人称の描写を読めば、わかりやすいということになりますが。

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――あとがき――

日本では秋の花として親しまれる彼岸花。別名、リコリスや曼珠沙華とも呼ばれ、日本特有の「彼岸」の時期に咲く花として知られています。彼岸花は「まず花が咲き、後から葉っぱが伸びる」という通常の草花とは逆の生態をもっています。その葉と花を一緒に見ることがない性質から「葉見ず花見ず」と呼ばれ、昔の人は恐れをなして、死人花や地獄花などと呼ぶこともありました。

花言葉は「情熱」「諦め」「独立」

赤い彼岸花の花言葉である「情熱」は燃えるような赤色の花に由来します。
「諦め」と「独立」という花言葉は、彼岸前後に開花し「花の咲く時期には葉がなく、葉のある時期に花がない」という特徴が、死者と生者、あの世とこの世の境目を連想させることに由来するといわれています。

京王J
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冒頭がよくないですね…w

fj168.net112140023.thn.ne.jp

ネタバレのお時間がまいりました。
あのあと感想が付かなかったのは残念ですが……では簡単に。

はい、前々回の「遺留品」と同じで『俺、死んでた』ネタです。
――信頼出来ない語り手――ということで。

皆さんが仰る通り、一人称の語り手は『実の父親』です。娘に会いたい彼は、元妻から話を聞かされ真実を確かめたくなり盗聴をしていました。
『――2日前――』に少女強姦殺人事件がおこり、『――その日――』に実の父親は撃たれて死にました。
つまりこの一人称は、女性主任警官に撃たれてから死ぬ(心停止)までの間に、彼が見た、長いなが~い走馬灯です。
冒頭の呆れるほど諄い『夢』の説明はこの為でした。

>事故の瞬間に、走馬灯のように映像が浮かんでくるというが、脳は、現実の時間よりも遥かに短時間で同等の内容を認識することができる。いずれにせよ、一瞬で、かなりの情報を夢として見せてくれるのだ。

ってね。

因みにこの作品は作中作として書いたものです。

♢ ♢ ♢

 三島市内のアパートで、26歳の独身女性が性的暴行を受けた後、首を絞められて殺された。被害者は三島市内にある私立高校の英語講師。 地元では新聞各紙が大々的に取りあげ、ニュースやワイドショーではその動向が注目されていた。
 三島警察署に捜査本部が置かれると、捜査開始3日後には容疑者が逮捕された。 犯人は、被害者と不倫関係にあった同じ高校の36歳の既婚の教師である。被害者から犯人の体液は検出されていないが、部屋から採取した指紋が男性教師のそれと一致したのと、当日のアリバイが無かった為、即日の逮捕となった。警察では、動機は痴情の縺れが原因と踏んでいる。
 新見には違和感があった。それは殺害された後の被害者の状態から感じたことだ。
 被害者はベッド上に仰向けで寝ていた。両掌を胸の上に重ね、左右の足は真っ直ぐ伸び、内くるぶしでぴったり閉じている。衣服や髪に乱れはなかった。殺害後に犯人が整えたのであろう、犯人の被害者に対する敬愛の念すら感じた。果たして、痴情の縺れでこのような感情が生まれるものなのか……と。
 新聞報道で事件の概要を知った真由理には、自身の疑問を打ち明けてある。

「新見君、この本を読んでみて。解るから……取り返しがつかなくなる前に、お願い」
「この小説が、今回の事件と関係があると……」
「容疑者はこの小説の主人公と同じ感性をしている。このままだと警察は冤罪を引き起こしかねない」

 渡されたのは、昨年発刊された小説の同人誌である。短編小説が収められた、500ページ程の分厚いB5版の本の中央辺りにしおりが挟まれている。開き見ると、無名の著者による短編小説の題名が記されていた。
『落日の眩耀』とある。

「6千文字足らずの短編小説だから、直ぐに読めるはずよ」

・・・

 読み終えた新見は、暫く目を閉じ思考を巡らせた。
「真犯人は存在する。不倫していた男性教師は多分、何者かによって被害者が強姦殺害された後に部屋を訪れたのだろう。無惨に犯され、殺された恋人を見て居たたまれなくなった。だから……。しかし、何故、男性教師は無罪を主張しないのか」

「愛する人の尋常ならざる突然の死に直面して、こころが一時的に受動的ニヒリズム、ニーチェが説いた、いわゆる虚無主義に到ってしまったのよ。何も信じられない事態に絶望し、疲れきってしまった。髪の毛をとかしてあげたり、衣服を着させてあげたりしている行為はその現れだと思うの。普通なら部屋に指紋を残さない、現場から直ぐに出て行くわ」

「虚無……精神の憔悴」

「えぇ、小説の主人公は盗聴により娘の痴態と死を知ることになる。同じね。正に精神の憔悴、虚無に支配された。容疑者の教師はたぶん、暫くはまともに話が出来ないと思うの。だから、早く真犯人を捕まえないと冤罪の不幸が」

 その後の捜査で、向かいのアパートに住む46歳の男が捜査線上にあがり、逮捕された。アパートの部屋からは、被害者の盗撮された写真が何枚か押収され、下着も発見された。誤認逮捕の男性教師は妻と離婚後、未遂ではあるが、絞首自殺を図っている。


~「終天の朔」秘密 より~

fj168.net112140023.thn.ne.jp

尚、バルテュス作「決して来ない時」は検索確認していただけたら幸いです。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

ごめんなさい。辛辣な無責任な感想になってしまいます。


これは自分には合いませんでした。

二度三度と繰り返し読んだり、解説を読めば味わいは変わるのでしょうが、そこまで希求できませんでした。

丁寧に描かれているし、たぶん意欲的に実験的に書いているのわかるんです。
でも、そういうのが却って、読み解くのを必要以上に難しくしている気がします。

警察署の取り調べは、「」を連続させるのは意図したものだとはわかるのですが、読んでいて頭を使いしんどくなる部分があり、効果として良いのか疑問符があります。

それと視覚描写、情景描写に気を使っているのはわかるのですが。なんか力が入り過ぎているような。


 玄関ドア上部には、切り抜きの四角い枠にステンドグラスの細工が施され、室内の灯りが漏れている。ガラス細工の赤い花。見たことはあるがなんという名前だったか思い出せない。というよりも、その花の名を知らぬ。
 私は、ゆっくりとドアを開けた。
 中に入ると、そこには、床も壁も天井も全て漆喰で塗り尽くされた真っ白な、外観からは想像もできない程の空間が広がっていた。透明感と奥行きのある光沢、これはイタリア漆喰、その中でもベネチアーノか。高級ホテルのロビーのようでもあり、美術館のようでもあった。高い天井からは、無数の間接照明が、様々な角度から空間全体を照らし、演出された自然な光は私の影さえ落とさない。


ここなんてどうですか? 描写が凝り過ぎて、一読では入ってこなかったのですけど。玄関ドア→ステンドグラス→花→ドア→内部→天井→間接照明→地面(影)と、視点がめくるめく代わり、イメージが追い付かないというか。
何回か読めばすごく良い雰囲気の場面だと伝わるんですが、流し読みとかで読むと、混乱してしまいそうな。
それとちょっと自己陶酔というかナルシズムな感じがして、それが犯人の歪んだ視点を投影しているのならいいのですが、凪さん自身の描写のクセだったのなら、もう少し描写を現実的な方向に持っていた方が、そこにいる実在感は出ると思います。現場感というか。そこにいる臨場感というか。なんか観念で情景を描いている気がしたのです。

もちろん、そういう描き方をするのに一定のテクニックや熟練があって、それが凪さんの長所にもなっていると思うのですが、そこをもう少しなだらかにした方が、少なくとも俗世的な自分には取っつきがいいかな。

癖が強い文章で。
それが自分には合わなかった。それだけだと思います。その言い訳を長々と書いてしまい、すみませんです。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

えんがわさん、コメントありがとうございます。

>ごめんなさい。辛辣な無責任な感想になってしまいます。

いいえぇ、とっても嬉しい感想というか、模範的な、私が意図していた通りの感想で嬉しい限りです。
冒頭から、目まぐるしい情景描写を意識して書いています。また、指摘された部分は特に複雑な描写をこころ掛けました。というのは、これが「走馬灯」だからです。
実は私は小学生の頃、走馬灯らしきものを見た経験があるのです。背丈よりも高い鉄棒に座っていたところ、バランスを崩し後頭部から地面に落ちるほんの一瞬でした。過去に見た映像が次から次へと頭の中に浮かんできて、とても不思議な体験でしたよ。走馬灯という言葉自体を知らない時のね。

主人公は走馬灯の中で同じ夢を繰り返し見ますが、最後に見た光景(辿り着いた先)は、落日の眩耀でした。

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あっ、それと。

皆さんもわかっているとおもいますが、黒い喪服の女が背にしているステンドグラスの細工が施されたドア 「ガラス細工の赤い花」 は、三人称の最後の一文

> 標識の周りには、季節外れの真っ赤な彼岸花がゆらゆらと西風に揺れていた。

を示唆しております。

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