魔女の館
作品にあたって。
私は、15時34分から17時までの間で小説を書こう。
誰かがいった、小説は「じっくり本を読み漁って書かなければならない」と。
だが、本当にそうなのだろうか?
私が真剣に本を読んだのは23歳のときだ。そして、現在は30歳で文章を書き出したのは、26歳からである。
つまり、私は自分を使って、そんな思い込みの壁をより多くの人にぶち破って欲しいのだ。
「何かを言い訳に自分には才能がないのだ」と、思わず、下手なら下手なりに無条件で書いてみればいいではないか。
それを伝えたいのだ。
さて、作者自身の思惑を3分ほど書いたところで、精神を高めて小説を書く。
2024/04/17 15時37分 阿知之花茗荷
【魔女の館】
子供が突然に奇妙なことを言い出すように、私も少しばかり奇妙な体験をしたことがある。
と、いうのは昨日の晩のこと。
仕事を終えて、最寄りの駅からいつものように家に帰るために、自転車を探したが、どんだけ探しても見つからない。
すぐに、警察に電話をしたが「そのような自転車はいまのところ盗難届けが出ていません」と、しぶしぶ自転車だったら、15分で家につくところを1時間かけて歩いた。
幸い、30分前まで降っていた雨は上がっていたが、周りにはジメジメとした湿気が残っていた
「久しぶりに歩くのも悪くはないものだ」と自分に言い聞かせ15分歩くと、無性に腹が立ってきた。
「誰だ。人の自転車を盗んだやつは、人が困るじゃないか」と、自分が歩かされていることに苛立ちを覚えたのだ。
「日頃の行いが良くないのよ」と、口癖のように言っている妻の声がした。
苛立っても仕方がないため、なんとか自分を落ち着かせる。
どうせ、家に帰っても、寝る支度をして、動画をみる毎日。仕事と寝る毎日が続いて、土日は趣味の登山やプロレスを見に行き終わる人生だ。少しばかり盗まれた自転車の代わりに新しい自転車を思い浮かべる。
「次の自転車は、少し高めのスポーツタイプにしよう」とボーナスが入った妻を口説いて買うつもりであった。
だから、ママチャリを盗んだやつには、少なからず感謝をしよう。そう思っていると、苛立ちもおさまり、それが、運のいいことに思えてきた。
そんなことを考えながら歩いていると、階段と階段に挟まれたビルの地下一階に、いつもは見かけない店があった。
名前は「魔女の館」とスズタケのような板に奇妙な文字で、看板が地上部と水平のラインで掲げられていた。
自転車で通勤しているときは見落としていたのだろう。
家に帰っても妻の話を聴くだけだし、たまにいっぱい飲んでから帰ることにした。階段を降り、そのお店の扉の前にいき、ノック式の扉を叩くと、15秒して扉が開いた。
「あら、いらっしゃい。あっっはっはは」と、元気のある気前の良い奥さんが扉を開け、館内へ案内をしてくれる。扉の中に入ると人が、一人通れる細い廊下になっていた。その廊下は、ピカソのゲルニカ、レオナルドのモナリザ、切り絵などが無造作に薄暗いランプで灯されていた。
5歩ほど歩くと、少しばかり開かれた空間となった。その空間の左側には、西洋づくりの戸棚があり、源氏物語にギリシア語のなんて書いてあるか、わからない本がいくつも並んでいた。
そして、店内は、名もなき創作家が無造作に創った、いくつもの彫り物と芸術と名のつくようなモノであふれていた。その右側のちょっとしたスペースに、笑顔の奥さんが、
「ここでいい?いま人いっぱいで」と、相席をするよう促してきた。
「ええ、邪魔してすみませんね」と、相席する男に挨拶をする。
その男は、木くずがズボンにたくさんついていて、ビニールにそのズボンの木くずを採って袋に入れていた。
「こ、こちらこそ、い、いま彫り物していて、私でよければ問題ありませんよ」と、いつも何かを喋る前に突っかかりながら、きょどるように答える。
コミュニケーションをとるのが、苦手なのだろう。
芸術家にはよくあることだ。
「300円の飲み物と700円のご飯があるのコースがあるけど、どちらがいいかしら?」と、愛想の良い奥さんが私に喋ってくる。
「魔女の館」というよりも、気前の良い妖精のようでなるべく多くの人に役立とうとする、気持ち良さがあった。
すると、奥の方から声がした。
「あら、いまの若い子は、なにも行動しないのよ。そして、喋りもしないのよ」と、主婦たちの声が聴こえた。
こんな時間に主婦たちが集まっていることに違和感はあったが、私はどこでも聴く「いまの若い子は」という、言葉にも虫唾が走りつつも、値段のやすさと気前の良さに満足感があった。「飲み物は何がありますか?」と「ピカチェリーに、ピカアップル」と、聴いたこともない飲み物を言われたが、アルコールは入っているらしい。
チェリー酒とりんご酒だろうと思った。
「ピカチェリーでお願いします」と、言って待ちつつ、「彫刻家」と話すことにした。
「この辺の作品は、あなたが掘られたのでしょうか?」
「え、ええ、まぁ」と、また何かに支えられて喋りだした。
私は、いくつかの作品をみて、どれも一つ一つ丹精が込め、創っていることが分かった。
彼の顔からも、苦悩の痕跡が目に浮かぶ。目の下にはしわに笑うことが少ない無表情な顔をしていた。
私が、苦悩していないかといえばそんなこともないが、おそらくそれ以上のなにかを彼は持っていた。想像もできないような「悶え」があって、行き着いた彼なりの結果だろう。
彼の話を聴いていると、お金というお金も極力使わないように、そこで売れた物で奥さんと精算しているとのことだった。
「いつくらいから、ここで掘られているのですか?」と、聴くと
「去年から、一昨年くらいだ」と、曖昧な返答がくる。おそらく彼の頭は、何かを創るために特化しているのだろう。過去のことはどこかに置いてきた産物なのだろう。
そして、私という私に全くといって興味がないようであった。
栞があったので、買ってみることにすると「ミ、ミーハーだ」と言われた。
彼の中で私は「普通の人間だ」と、評価をしたらしい。
私は、自分の中で笑いが起きた。
「そうさ、普通さ」
会社員で働き、家族を持ち、普通の生活をしている人間さ。
「あっははっは、ごめんね。ほら注文したピカチェリー」と、気前の良い奥さんがさくらんぼの入ったお酒を持ってきてくれた。
私のからだは硬直していた。なにか、魔法にかかっているようであった。
無理やり言葉にするならば、いままでにない扉を開いて自分の普通が覆されている非常識がそこにあるのだ。
私は、「ありがとうございます」と、一口そのまま飲んで、お礼を言う。
かなり深みのある味わいであった。
そんな私をみて、彫刻家は、何かを想いついたかのように図面に絵を書き出した。
ものすごい勢いで描かれるそれは、庭のポーチを竹でつくる図面であった。
「木の流れに沿って1つのアートを創る」と、ぼそっと一声いった。
このときは、私と喋るときみたいに支えずに喋っていた。
そして、そういうと店を出ていった。
「いまの若い子は行動しないから」と、声にしていた主婦たちも消えていた。
そして、私は気がつけば店の外にいて、家に向かって歩いていた。
「一体あれは何だったのだろうか?」
この世の中には、普通でない非常識な奇妙な世界もあるようだ。
執筆の狙い
30分で1つの創作は完成した。では、1時間30分で小説を描けるのか?
この作品では、不思議で、奇妙な「魔女の館」へ、あなたをご案内します。
きっと、もやもやした不完全燃焼を抱えること間違いなしありません。
まさに「非常識」の奇妙な世界に迷い込んだように。