作家でごはん!鍛練場
月の猫

太陽>銀>犬>金?

 ギラギラと輝く灼熱の太陽が殺人的な暑さをもたらす真昼の土の運動場。そこに俺は立っていた。
 ここには俺以外に人はいなかった。五十メートルほど遠くに眠っている犬が一匹いるだけだった。……犬が目覚めた。
 犬は喉を鳴らすと、俺に向かって走り出した。一定のリズムで大地を蹴り、弾丸のようにこちらへ跳んでくる犬。俺は怯えて近くに逃げ場や武器がないかと辺りを見回した。するとあったじゃないか、金の延べ棒が! けど役に立たねえ!
 しかし、他に頼りになるものが何もなかったので、俺は金の延べ棒を右手で拾い、(無意味だと分かってはいたが)構えようとした。だが、それはみるみる溶けてゆき、気がつけば俺の拳に纏わりついていた。開けなくなった黄金の拳。犬はすぐ近くまで来てしまっている。闘うしかないのか?
「これで?」
 俺は自らの輝く黄金の拳を見つめた。
「光ってる……」
 それは太陽の光を受けていい感じに光っていた。実にいい色をしていた。素晴らしい光沢だった。……俺は涙が出てきた。だって無理だよ。こんなので勝てるわけがない……ああ、あんなに目をカッ開いて……唇を翻し、歯茎を剥き出しにしている口元からは鋭い白い牙が覗き、溢れ出す唾液は宙に置き去りにされ、柔らかな透明な線を描いている……あんなにガチ走りしなくってもいいじゃないか……
 俺はもう一度、光り輝くなんとも頼りない黄金の拳を見つめた。……するとなんということだろう、金色は銀色に変わっていた! ……だからなんだって言うんだ!
 しかし、その考えは間違っていた。なんと犬は、あの恐ろしいキチガイじみた形相で襲いかかろうとする悪鬼のごとき犬は、この銀色の拳に怯えているではないか!
 俺の内に自信が湧いてきた。
「この銀なら……」
 調子に乗った私は、すでに数メートルのところまで近づいていた犬に駆け寄り、ほーれほれ、と銀の拳を見せつけた。
 怯える犬。
 ふはははは! なんと臆病な態度だろう! 俺はこんなものに怯えていたのか!
 すっかり安心しきった俺は優雅に胡座をかき、空を仰ぎ見ながら大きく息を吐いた。
「太陽が眩しいな……」
 すると突然、太陽はクルリと回転し、狂ったような笑いを途中で固定したような表情を見せ、その大きく見開いた瞳孔の広がった目で俺を睨み付けた。
「え?」
 正確に言うと、俺の銀の拳を。目から放たれる太陽光線。みるみる内に溶け出す銀メッキ。みるみる内に凶暴さを取り戻す犬。獰猛な唸り声が太陽の熱で歪んだ大気を震わせる。
 あ、やべ、足つった。
「終わった……」
 俺は仏のような体勢のまま仏に祈った。
「ナンマンダブ」
 灼熱の日光は唾液に濡れた白い牙をギラギラと光らせていた。

太陽>銀>犬>金?

執筆の狙い

作者 月の猫
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映像を文章で表現する練習が目的です。
私が普段書く文章があまりにも言語優位にすぎ、また、視覚的な文章を書いても静的すぎるので、動的なものを書く練習としてこれを書きました。
ですから、評価するにあたって、プロットやキャラなどはまったく考慮していただかなくて結構です。ふざけたテンションも気にしないでください。
読んでいて、頭に映像が浮かんできたら成功です。
ご意見お待ちしております。

コメント

しまるこ
133.106.204.48

おはようございます。うまいと思います。引っかかることなくスラスラ読めました。映像も一発で頭に入ってきたし、いちばんいいのはテンポですね。

>だが、それはみるみる溶けてゆき、気がつけば俺の拳に纏わりついていた。

これは好みの問題だと思うのですが、 このままで良いとは思うのですが。延べ棒よりも溶けたことの方が物語的に重要な気がして、溶けたことに対して驚く描写がなく、そのまま読者が読み飛ばしてしまいそうなテンションに感じられたので、びっくりする描写を付け加えてもいいかなと思いました。状況に対して驚いたり反応することも映像の描写につながるような気がしますから。後半の太陽は、そのままのさりげないテンションでいい気がしました。 おっと、すいません。ふざけたテンションは気にしないでよかったですね。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

拝読しました。

冒頭に犬の大きさが描かれていませんね。小型犬? 中型? 大型?
恐怖を感じているのだから、まさか小型犬ではないよね(笑)
中型犬の平均速度は約時速30km。大型犬の平均速度は、時速35~40km程度です。
世界最速の男として有名なウサイン・ボルト氏は100mを9秒58で走りましたが、これは時速に換算すると37.58kmになります。つまり、ほとんどの大型犬は本気で走るとウサイン・ボルト氏よりも速いか同等の速度で走ることができるということです。
では、50mではどうですか?

この描写では「弾丸のようにこちらへ跳んでくる犬」が襲いかかる5秒足らずの内に、様々な事象が起こります。よって、違和感だらけの描写と言えるのではないですかね。

月の猫
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凪さん、コメントありがとうございます。
その通りだと思います。私がまったく視覚描写に興味を持っていないことがバレてしまいますね。本当に、あまりにもおかしな描写です。お恥ずかしい。

月の猫
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しまるこさん、コメントありがとうございます。

>映像も一発で頭に入ってきたし、いちばんいいのはテンポですね。

テンポは映像を表現するうえで最も重要な要素のひとつだと考えていたので嬉しいです。

月の猫
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あ、途中で一人称が「私」になっているところがありますね。気にせずに脳内で「俺」に変換して読んでください。

ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
138.140.5.103.wi-fi.wi2.ne.jp

読ませていただきました。
情景は浮かび、最後まで読めました。
ただ、臨場感はなく、淡白なところに感じたところをいくつか挙げていきます。

>……犬が目覚めた。
 犬は喉を鳴らすと、俺に向かって走り出した。

→50m先のいるをみて、喉を鳴らすのではなく。聴覚的な遠吠えを、視覚的なシルエットして描けるのでは?
狼が、崖の上で月をみて吠えるように、その犬は灼熱の太陽にむかって吠えている。
遠くにいるが、視覚的にも強さもアピールできるのでは?

>あ、やべ、足つった。
「終わった……」
 俺は仏のような体勢のまま仏に祈った。
「ナンマンダブ」
 灼熱の日光は唾液に濡れた白い牙をギラギラと光らせていた。

→足が視覚的につることも具体的に書けるのでは?
足の親指が天に向き、言ってはいけない方向に向かっている。一生懸命それを大地に戻そうとするが、みるみる親指が勃起する。
もうダメだ。足つった。
「南無阿弥陀仏」
大地に寝転がり、私は灼熱の太陽に焼かれていた。

とか、天と地を使った視覚的表現ができるんじゃないでしょうか?

素人目線ですが、参考になれば幸いです。

月の猫
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ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタさん、コメントありがとうございます。

>情景は浮かび、最後まで読めました。
ただ、臨場感はなく、淡白なところに感じたところをいくつか挙げていきます。

今回はスムーズに映像が浮かぶようにテンポを意識して詳細な描写を控えたのですが、臨場感がなくなってしまいましたか。
難しいものですね。

飼い猫ちゃりりん
sp1-75-10-84.msc.spmode.ne.jp

月の猫様
飼い猫と申します。
頑張って書いていることは理解できますが、ちょっと力みすぎですかね。
最初の一行目からトップギア。ギラギラ、灼熱、太陽、真昼……
「俺は運動場の真ん中に立っていた」だけで良いのでは? 暑さは、その後の描写で示せばいい。
「あまりの暑さに、俺は一瞬めまいがし、ふと気づくと、1匹の野良犬がバックネットの横からこっちを見ていた。バックネットまで50メートル、いや、100メートルあるかもしれない。でも、はっきりと目視できる。あまりの暑さに空気が揺らぎ。拡大鏡のように犬を映しているのだ」
ああ、これ以上はやめておきます。ごめんなさい。人の作品に余計なお世話ですね。

月の猫
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飼い猫さん、コメントありがとうございます。

>頑張って書いていることは理解できますが、ちょっと力みすぎですかね。
最初の一行目からトップギア。ギラギラ、灼熱、太陽、真昼……

そうですね、力みすぎました。

>ああ、これ以上はやめておきます。ごめんなさい。人の作品に余計なお世話ですね。

お気になさらないでください。全然問題ありませんよ。
あなたのご指摘は正しいと思います。
むしろ、習作とはいえ、こんな粗末なものを真面目に読んでいただいてありがとうございますとお礼を言いたいくらいです。

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