貴方が無人島に一つだけ物を持っていくなら?
※まず最初にお詫びしたいことがあります。これは小説ではありません。
花粉舞うこの頃ですが、皆さんは如何でしょうか?
僕は、子供の頃から花粉症でこの季節はいつも辛いです。自分の花粉症が完治するよりも全人類が花粉症になればいいのにな、と思ったりして‥‥(笑)。
さてさて、あんまりな出だしでごめんなさい。
社会学部のゼミの課題で多くの人にアンケートを取る必要があり、僕は友人が多くないためこのような方法を取らざるをえませんでした。もし、御時間に余裕がありましたならお付き合いください。
さて、その課題ですが、タイトルにある通り「貴方が無人島に一つだけ物を持っていくなら?」です。
正直、大学でやるようなテーマではありませんが、フィールドワークの方法を学ぶ、そのやり方を自分で構築する。どちらかと言うとそれがメインの課題です。
ただ、漫然と無人島と言われても困ると思います。
なので、その島の設定だけは決まっています。いきなり冬のベーリング海に浮かぶ岩しかない島ですよー、と言われても困るでしょう?
お手数を掛けて申し訳ありませんが、少し想像して下さい。
亜熱帯地方、南海のサンゴ礁に浮かぶ絶海の孤島です。年平均気温は24℃、湿度は70%くらい、夏なら日中は水着でも余裕で過ごせるような場所です。一日あれば島を一周できるくらいの大きさで、島の中央には森があり、罠や狩猟具さえ作れれば小動物を狩ることも十分に可能です。
流石に手掴みで捕れるほどではありませんが、簡単な釣り具さえ用意できれば年中安定して美味しい魚が捕れます。ただ、夏にやってくる嵐と沖合の離岸流には注意です。
島の南の離岸流はかなり激しく、泳ぎに自信がある人でも避けるべきです。もし、何かを流してしまったらそれは二度と島へと戻ってきません。島では物資は大切ですが、命には替えられません。諦めてください。
こんな楽園のような島ですが、航行航空のルートからは完全に外れているため、船が通りかかることは期待できません。ついでに周辺に島はなく、人が住む大地は遥か彼方です。
安定して生活できなくもないけれど、救助に関して言えば絶望的。そんな無人島です。
さて、貴方なら無人島に何を持っていきますか?
関口くんには感謝しなくっちゃ。
目の前にはターコイズの海原が広がっていた。
海が青いのは光の七色のうち、海に入り海底で反射するまでに波長の短い青色以外は吸収されてしまうからだ、と習ったな。
そのため海深によって海の色は変わる。暗く沈んだターコイズはこの海の深さを示している。古い表現だけど板子一枚下は地獄という言葉がよく似合う。
僕のクルーザーは、白い流線形の美しいフォルムの30フィートの一人でも運転できる船種だ。細かい注文は付けなかったため、ハイクラスの高級品ではない。カジキなどの大型の魚を釣るマリンスポーツ用が想定された使い道だろう。収納スペースは大きいのはとても助かっている。居住性はさほど良くない。ただ、船の上にはフライングブリッジにソファ席があるのは最高だ。
少しだけ高い視界から、エンジンを切ってブリッジに上がり、島を眺めるのが好きだ。これだけの高さなのに風の音が少し高く聞こえるのが面白い。
一際、強い風が薙ぎ、水面が一斉に風の道を追うように白くはためく、その先にはあるのはターコイズのカーペットにぽつんと落ちた緑の宝石。島にある森の燃え立つような緑は招くよう輝いている。
溜息が出るような美しさだ。誰だってあの島に行きたいと思うに違いない。
航行能力の然程高くないこの船では、あの島を抜け出してほかの場所を目指すのは不可能だ。それにあまり遠出するのも危険だ。
それにしても、こんな物の持ち込みを許してくれた関口くんには本当に感謝しかない。
ありがとう、関口くん。
この感謝は永遠に忘れないよ。
「小型のクルーザー」
僕が飲み会の席でそう言ったとき。
関口と木原は、蔑むような視線を僕に向けた。
この目には覚えがある。
「もし宝くじで三億円当たったら?」→半分貯金して残り半分を資産運用して生活する。
「次、生まれ変わった何になりたい?」→考えるまでなくオイルダラー。
「じゃあ、男と女次はどちらに産まれたい?」→少し悩むけどやっぱり男かな。
「ドラえもんの秘密道具で何が欲しい」→そりゃどこでもドアでしょう。
そんな類の答えを出したときに何度も向けられた。コイツ何をやらせても面白い答えを返せないな、の視線。
でも、それだけは切実な願いだった。
「あのさ、それはナシだろう。無人島に何か一つ持ってくなら何にするって質問で、船とか激寒だろ。そんなの生意気なガキが上手く答えましたよー、とか思って答える回答じゃん」
吐き捨てるように木原が言う。
「いや、悪い。設定が甘かった。その島は絶海の孤島でそんなクルーザーじゃ何処にも行けないんだ。脱出は取りあえず忘れてくれよ」
半笑いで関口は手にした煙草に火を付けた。僕は煙を吸うと頭が痛くなるけど、関口はかなりの愛煙家で木原もたまに吸う。
煙を吹きかけるように関口が言った。
「俺なら煙草かな。コレがなきゃ生きていけないからな……、ああ、折角なら最高級のパイプがいい。亜熱帯の島ならもしかしたらタバコも生えているかも知れないしな」
「ソレいいな、でもやっぱ俺なら女だな、仲の良い女友達を数人連れてハーレム作るの最高過ぎね? ワカル? そーゆー趣旨の話な訳、ほれ考え直すんなら聞いてやるよ。ま、どうせゲームとかマンガだろ」
「でも、やっぱり僕は船がいいな、昔から船が欲しかったんだ」
「ま、いいよ。拘りたいものは誰にもあるよな。その気持ち、少しは分るよ」
「そうかー? 単に一回言ったことの引っ込みが付かなくなっただけじゃね?」
僕は、心の底からの歓喜と共に彼らに頭を下げた。
コレでようやくパーツが揃った。
無人島に何か一つだけ持っていくなら?
この質問を最初に受けたのは、小学生のときだった。
どんなタイミングで聞かれたのかは、もう忘れてしまったが、何かの授業のときだったと思う。
僕は食料と答えた。クラスの中でもそう答えたのは何人かいた。今思え返すと平凡な答えだけど、常識的ではあるだろう。
粉っぽいばかりでまるで美味しくないブロック状のレーションとペットボトルのミネラルウォーターが僕に与えられた。超現実的な力が働いているのかそれらは食べ終えた途端にまた手の中に現れた。この島で飢えに苦しむことだけはなさそうだ。
そして、それから先は単なる地獄だった。
僕は島を一周して、まず島の大きさを確かめた。子供の足でも一日あれば踏破できる程度の大きさだった。そして、浜辺には何の漂流物もなかった。外から何らかの品が流れ着くことは絶望的と考えてよさそうだった。
島の中央、大部分を占めるに森は、鬱蒼と茂っている眩いばかりの陽光の下でも濃い緑の陰に覆われ、碌に先を見通すことはできなかった。
そして、段々と探索をするにつれ判ってきたのだが、森の中にはやたら耳障りな声で痙攣的に鳴き喚く極彩色の鳥、どれだけ払っても付いてくる巨大なブヨ、隙あらば血を吸おうとする大ヒル。そんな気味の悪い連中ばかりだった。かろうじて捕獲できそうなのは木々の間を液体のように滑りながら動く大きなイグアナくらいだろう。
もし、食料を選ばなかったら、こんなので食い繋がなければならなかったのか。島に来て数日で見るのも嫌になったレーションに少しだけ感謝した。
採取に行くくらいならできるけど森で暮らすなんて、とても無理だ。
島に僅かばかりある平地に倒木を引きずり、ヤシの葉を屋根にした粗末な小屋を建てるまでどれほど時間が経ったことだろう。その作った小屋もすぐに古び何度も作り直す羽目になった。
雨が降れば横になることができないほどに足元はぬかるみ、風が通れば屋根は簡単に吹き飛ばされた。
その頃の日々の半分は小屋の補修に時間を費やしていたと思う。そして、残った時間は海岸の一番見晴らしの良いで通りかかる船を待っていた。
航路からは完全に外れていて救助は絶望的。最初に聞いた島の条件を都合よく忘れられたなら少しは幸いだったろう。
でも、誰かが助けに来てくれる、そんな一縷の望みに縋るしかなかった。
小学校で同じ質問を受けたクラスメートたちは、今何をやっているんだろう。
食料以外を望んだ連中は、きっともう生きていないだろう。食料を選んだ連中も今何人が生き残っているのか。
この島で僕は何度も死を願った。それでも、結局命を絶つことのできなかった僕は臆病者だったんだろう。
何年か経ったのち、僕は中学に上がり、両親が離婚した。
昔から夫婦仲は冷え切り以前から話は決まっていた、僕が小学校を卒業するタイミングで離婚した。僕は母に付いていきたかったが、それは断られた。
「もうアイツが暮らす相手は決まっているんだ」
最後に父と一緒に駅まで見送った。その時父が吐き捨てるようにそう言った。
帰り道に回転寿司に連れて行って貰った。普段よりもワンランク高い店だった。
何でも好きなものを取っていいぞ。そう言われた僕は玉子サラダの軍艦巻きを取った。
父の顔を見ると嫌そうな顔をしていた。
その頃、学校でクラスメイトから「無人島に何か一つだけ持っていくなら?」と。また、同じ質問を受けた。
僕は迷わず工具と答えた。
島には、ノコギリや釘。金槌やキリなどの大工道具が置かれた箱が出現していた。幸いなことにナイフや結束バンドなども入っており、食料と同じく使い終わったなら瞬間的に補充され、時間を置くと刃こぼれや摩耗なども修復されていた。
ノコギリがあればいくらでも木を伐りだすことが出来たし、金槌と釘があればそれらを使って簡単な家の基礎を作るのも難しくなかった。手先が器用だったのは幸いだ。
小屋を作ったなら家具の作製にも取り掛かった。一つ作れば、たちまち問題点が判り、次に作るものは上達していった。それはこの島に着いてから唯一楽しかったことかもしれない。
だけど、僕は我に返った。
そして、その先に何があるんだ?
この島から出ることは出来ない。この島を訪う人は誰もいない。
そう考えたとき僅かな楽しさはたちまちに色褪せた。
船を作って島から脱出することも考えたが、この島がどんな位置にあり、どれほど陸地から離れているか。それは何度も何度も思い知らされたことだ。
以前のように見晴らしの良い場所から助けの船を待つ行為は、その頃殆ど行っていなかった。
茫漠とした空と海を見ていると自分がそこに消えていくような感覚を覚えた、そして同時にそれとは真逆の全身を毒虫に這いずり回られるような掻痒感に襲われた。急き立てられるような心地がして不安になり、長く海を見ていることができなくなった。
僕は頻繁に何か大きなものが頭の上を通り過ぎるのを感じていた。一瞬、太陽が遮られ木陰に入ったような涼しさと背筋を触る冷えた風。確かに大きな影が地面を動くのが見えるが、上を見上げても空には雲一つない。
日に何度も同じ感覚に襲われるようになり、開けた場所に出る回数はどんどん減っていった。
僕は小屋を森の真ん中に作った。
不快な環境ではあったが、浜辺よりはマシだった。
何もかもを真白く照らし出す太陽は、島の彼方此方に濃い陰影を作り、その陰の中に得体の知れないものが蟠っているような、そんな奇妙な恐れを抱くよりは薄暗い緑の陰に身を置いた方が幾らか心は落ち着いた。
その頃から萌芽はあった。僕は自分の運命を激しく憎んでいた。
それでもまだ……狂気と正気の曖昧なこの島でも、この時は境界を越えてはいなかったと思う。
希望の高校には入れなかった。中学浪人という手も考えたけど、結局ワンランク低い高校に通うことになった。
成績は悪くなかったが、クラスには馴染めなった。人を見下しているように見える、そんな陰口を何度か聞いた。
イジメを受けていたわけではないが、一日中誰とも話さないことはざらだった。その状況はクラス替えまで続いた。
二年になった時、卑屈に声を掛けたのが功をなしたらしく、会話する人間も数人できた。
「無人島に何か一つだけ持っていくなら?」また、その質問がされたのはその頃のことだ。
「武器を持っていく」、そう答えると質問者は怪訝そうな顔をしていた。
クラスの端っこで休憩中にも本を読んでいるおとなしい退屈な奴、そんなキャラの答えとしては妙に感じたらしい。
それでも、その答え以外ありえなかった。
それほど殺傷力の高い武器はなかった、火器も小口径のデリンジャー、あるいは麻酔銃くらいのものだ。だが、それがいい。
衛星電話の入る携帯、あるいは思い切ってセスナ機。島の周りに船は通りかからないが、島から脱出する方法は決して無いわけではないだろう。
でも、それは不平等だ。
なぜ、外に向かって助けを求めなければならない。僕はこの島で何年も苦しんできたんだ。
島の外にいるであろう全能だが決して僕を助けようとしなかった救助者。それに今さら助けを求めて、今まで視界にすら入れることなく嘲笑い続けてきた彼らに向けて嘆願するのか? どうかお願いです、この哀れな漂流者をお救い下さい、と。
そして、傲慢な救いの手に縋らねばならないのか? ああ、あなた様は命の恩人です。助けてくださって本当にありがとうございます。歓喜の声を上げ、滂沱の涙を流し、その足先に跪いてキスをする。
それは正しくない。
完全に正しくない。
誰かが、僕と同様の、いや僕以上の苦しみを味わうべきなのだ。
僕をこの島に突き落とした最初の質問者の顔はもう覚えていない。
それは幸いだ。もし覚えていたのなら僕の頭は憤怒でとっくに焼き切れていただろう。
そして幸いだ。覚えていないのだからその空白に僕の顔を刻み付けてもいいだろう。
時間は常に僕の味方だ。赤熱した頭を冷やす手助けもしてくれた。
手先が器用で良かった。僕は幾つもの道具を作った。
釘を植え付けた椅子、簡易だが丈夫な拘束具、関節を逆にへし折る器具。体内に突き入れて開くことにより苦痛を与える梨と呼ばれる道具。それ以外にも思いつく限りの苦痛を与える道具を作った。島の彼方此方に罠を仕掛け侵入者に備えた。道具の強度や使い心地などを自分の体を使った何度も試した。
それでも、島を訪れるものは誰もいなかった。
勿論、僕はその理由を知っている。それは、ここが航路から離れた絶海の孤島だからではない。ただパーツが足りないのだ。
本来なら、それを願うのが正しいのだろうが、その選択は保留にした。
一つだけ確かめたかったのだ。
もし、この世に神様というものがいて僕の行いが誤っていると思うならば、もう二度とあの質問はされないだろう。それならば従おう、受容として運命を受け入れ、この島で一人朽ちていこう。
だが、もし聞かれたのならば、そしてその答えが受け入れられたのなら、もう躊躇うことは何一つない。
全ては許されたのだ。
地獄に引きずり込んでやる。
ごほごほ、げほげほ。
ごほごほ、げほげほ。
あー駄目だ、やっぱり僕には合わない。
高級品のパイプと聞いていたけど、見た目は白い陶製で何となく安っぽく見える。ただ手にするとずっしり重い。陶器ではなく何かの鉱石で出来ているようだ。メシャムパイプと言うらしい。
関口くんが大切そうに持っていたから、試しに吸ってみようと思ったけど、やはり合わないものは合わないようだ。捨てちゃおう。
海はいい。あの小さな島では捨てにくいものを幾らでも捨てることが出来る。元々あの島に流れ着く物はないが、念を入れて離岸流に乗せれば二度と戻ることはないだろう。
木原くんは宣言通り、女友達を五人も連れてきた。
彼らを運ぶ小さな筏は今にも沈みそうだったけど、何とか島に到着することができた。
僕は遠くからその様子をクルーザーで見ていた。
小さいとはいえ、周りには何もないのだ。発見されても仕方ないと思っていたが、彼らは気付かなかった。
島の様子を探るのに必死で海上には目がいかなかったようだ。
彼があの島でどんなハーレムを作るのか、少しだけ気になったけど、その日のうちに、夜陰に乗じて彼らを捕縛した。武器をチラつかせただけで、大した抵抗も受けなくって少し拍子抜けだった。
森に作った小屋に連行し、何個も作った檻に彼らを入れた。
ツタで作ったロープで彼らを縛り上げ、念のため彼らの足の腱を切った。
「何でこんなことするの?」
「ふざけんな、手前ェ」
「助けてください!」
色々な事を言われたけど、対話するのはとても面倒に感じた。
応える代わりに木原くんが連れてきた娘のうち、一番顔の良い娘を横倒しにしてその上に跨り、顔面に太い釘を何本も打ち付けた。
六本目を打ち終えたとき、簡易な帽子掛けみたいな顔で気を失っていた。
あまり拙速に行ってはならない。その日はそれで終わりにした。
その翌日、高熱を出して呻く釘の顔を見ながら、初めてのことだからペースは大切にしたい、あんまり早く潰してしまっては楽しみもないし、それにコレは必要な裁きの一部なのだ。丹念に地獄を組み立てなくては。そうだ、この子は時計にしよう。この子が衰弱死するまでに全員を始末しよう、すでに傷口には太った蠅が集っている、そんなに時間は残っていないかもしれない、と思った。
誰から始めるかを決めるため、皆にその子の顔を褒め称えさせた。
「可愛い」「綺麗」「モードの先端」「ニューワールドオーダー」
心にもないことをつらつらと述べさせるうち、一人が言葉に詰まり、涙ぐんだ。
彼女が一番仲良かったんだろうか、そんなことを考えた。
じゃあ、この子から始めよう。
それからは、別段特記することはない。
爪を剥がし、皮膚を炙り、骨を砕き、目を抉り、鼻を削ぎ、それらをローテーションでなるべく長く苦しむように拷問に掛けただけだ。何度も犯したし器具を使い凌辱もした。同性同士で番わせたりもした。最後にはみんなノコギリを使って四肢を落とした後、顔を潰した。
釘の子が息絶えた後、削がれた顔で呻くだけになった木原くんを釘の逆さに生えた椅子に腹ばいに押さえ付けて、彼の尻を犯した。血塗れでだんだんと動きが小さくなる彼の中で果てた時が最も昂奮したかも知れない。
それから、時間を掛けて小屋を掃除し、使用した道具の修理や新たなインスピレーションを受けた道具の作製を行った。
衛生に悪いから一人死ぬたび、その死骸は海に捨てにいったため。残ったのは彼一人だ。
全身が穴だらけになり、これから腐っていくばかりの木原くんのことを思うとさっさと捨てに行きたいが、そうもいかない訳がある。
なぜ、この島に誰もやってこないのか? それは此処が無人島じゃないからだ。
質問は、「貴方が無人島に一つだけ物を持っていくなら?」だ。僕がいる限り、この島は無人島じゃない。常に一人の人口を抱えている。
だったら、この島から離れて暮らせば、クルーザーで寝泊まりする生活をしていれば此処は無人島の条件を満たすのではないだろうか、船上で暮らすうちに木原くんがやってきたのだから、この考えの正しさは証明された。
少しだけ、沖に出てそれが無人島の条件に触れて、誰かがやってきたなら最悪だ。歓迎にも準備が必要なんだ。
小屋を整え、器具のメンテナンスも終えるまで、二日くらい掛かった。海辺に置いておいた木原くんは蠅の巣になっていた。
関口くんを捕獲するのは、ずっと簡単だった。
六人も試す人間がいたのだ、長く生かし続けることも随分上手くなった。一週間ほど時間を掛け彼を嬲り抜いた。世界中の医者が匙を投げるような形になった後も、彼は命乞いを続けていた。
さあ、次は誰がこの島に来てくれるんだろう。
どんなものを持ってきてくれるんだろう。曖昧な夢の中で垂らした釣り針はどんな獲物をおびき寄せるんだろう?
このレーションにもすっかり飽き飽きだ。違う食料を持ってきてくれると助かる。
島ではそれなりにやる事もあるが、船の中は退屈だ。「こち亀」全巻とかでもいいな。
家族写真のアルバム、思い出の品、そんなものでも悪くはない。その人が何を大切にしているかはとても興味がある。
家族や友達を連れてくる人はいないだろうか?
それが一番嬉しいな。
僕は最後に関口くんが僕に向けた怪物を見るような目を思い出しながら、彼のメシャムパイプを手にした。
まあ、誰が来ても同じだな。
どうせ島ではすぐに人はいなくなるんだから。
火皿に詰めたタバコにはまだ火が付いているけど、構わずそのまま海に放った。
赤い放物線を描き、くるくる回りながら波間へと落ち、それきり二度と浮かび上がらなかった。
執筆の狙い
軽い気持ちで読んで頂けると嬉しいです。
書いたことのないジャンルですので、どんな書き方があるだろうかを、考えながら書きました。