作家でごはん!鍛練場
パイングミ

尾根ギアします

 私は一通のメールを保存している。「見積書の作成に必要な資料をファイルで送ります」といったよくある仕事のやり取りだから、書いてある内容はさほど重要ではない。保存した理由は、最後の一文に書かれるはずだった「お願いします」が、「尾根ギアします」と打ち間違って送信されてきたから。

 本来ならこの世に生まれてくるはずのなかった、間違った言葉。軽く舌打ちされながら、バックスペースボタンで跡形もなく消されてしまう言葉。忌み嫌われたまま一生を終える「尾根ギアします」のことを思うと、心臓がきゅうと縮む気がした。
 私が好きなあるコピーライターは「人は書くことと、消すことで、書いている」といったキャッチコピーを生前残したが、それはとても正しくて、とても残酷な言葉だと思う。

 スマホのメールアプリを起動して保存のカテゴリを開くと、無機質なセンテンスの集合体の中から七文字だけがくっきりと浮かび上がってくる。
 明朝体特有の繊細さで書かれた「ま」や「す」は、自分の出生を恥じるかのように背中を丸めていて、「ギ」は緊張のせいかぎこちなく固まっていた。彼らの気持ちを落ち着かせるため液晶に浮かぶ文字をなぞると、指先にうっすら熱が伝わってくる。
「私だけが、あなたの存在を知っているのよ」と考えるのは、傲慢なセンチメンタリズムなのかもしれない。
 それでも、スマホが主流になり、パソコンも予測変換が当たり前になった今の時代において、タイピングミスで「尾根ギアします」が誕生したこと。そして、消去されることなく私のもとに届いたという事実は、ある種の奇跡だと思う。
 だから私は、彼らが存在していたことを決して忘れはしないし、このメールはいつまでも消さずにいるつもりだ。

 そしてもう一つの理由はごく単純だ。タカシから貰った初めてのメールだったから。もっとも彼は覚えていないだろうけれど。

 ◆
 その建物を初めてみた時、公民館みたいだなと思った。外観のことではなくて、その建物が持つ特有の雰囲気とでもいうべきなのだろうか。古い洋館だから全体的に古ぼけてはいるけれど、外壁・玄関ともに手入れが行き届いている。庭に植えられている無数の樹木も、ことさらに飾り立てているわけでは無いけれど、風景に上手く調和していた。
 玄関まで続くスロープにはバリアフリー用の手すりが取り付けられていて、足元にはセンサー式のフットライトが等間隔で並んでいる。ただそうした配慮に気づく人はおそらく居なくて、当たり前のようにやり過ごすのだろう。
 お店にありがちな過度な自己主張も、一般住宅のようなパーソナルさも、オフィスビルのような排他的な寂しさも、その建物には当てはまらない。老若男女を公平に受け入れてきた律儀さと寛容さが建物の隅々に行き届いて、その潔い距離感はとても好感が持てた。

 吸い寄せられるように玄関に向かうと、フットライトが順番に灯り、柔らかいオレンジ色が闇夜に滲んでいる。イギリスアンティーク調の玄関ドアには楕円形のステンドガラスが埋め込まれていて、太陽っぽいモチーフの幾何学模様が描かれている。
 玄関には【消失博物館】と掠れた文字で記されたプレートが埋め込まれていて、その下には「OPEN中」という立札がかかっていた。なんの博物館なのだろうか? よく分からないが、公民館という私の第一印象もあながち間違いではないみたいだ。
 スマホの画面を見ると、二十二時を少し越えたところだった。部屋を飛び出して彷徨うように歩き始めてから、もう二時間も歩いていたことになる。どうりで足の裏が痛むはずだ。おまけに銀の糸のような雨が頬を濡らし始めている。でも、タカシの待つ部屋には今は戻りたくなかった。
 少しでも時間が潰れてくれることを願い、私は真鍮製のドアノブをゆっくり回す。ギィという重い音と共にドアが開くと、コーヒーの香ばしい匂いが出迎えてくれた。

 夜遅いこともあり、館内には私以外の来客は誰もいない。入口にある掲示板を見ると、『観覧希望の方は二階の受付まで』と几帳面な字で記されていた。赤い絨毯が敷き詰められた階段をしとしと昇ると、最奥の部屋から光の筋が漏れている。どうやらコーヒーの香りもそこから漂っているようだ。
「すみません。誰かいませんか」
 勝手に館内に入った後ろめたさから、どうしても遠慮がちな声のトーンになってしまう。すると光の筋がゆっくり広がり、中から人の姿をしたシルエットが現れた。ジョングリア孤児院で足ながおじさんを見つけた時のジュディも、おそらくこんな感じだったのかしらん。
「あぁ、お迎えできずに申し訳ありません。展示物の整理をしていたもので」
 シルエットの主は落ち着いた声でそう言うと、私の方にゆっくり近づいてきた。身長が百六十センチの私よりも頭一つ背が高くて、ほっそりとした手足を黒いスーツが包んでいる。年齢は六十歳過ぎだろうか、ロマンスグレーの髪が落ち着いた雰囲気を醸し出していて、高級レストランのギャルソンを連想させた。
「すみません。勝手に入ってきちゃって。こんな時間ですけれど、見学は出来ますか?」
「もちろん、大歓迎ですよ。営業中の看板も出ていますしね。どうぞ好きに見てください」
 館長は柔らかい笑みを浮かべ、展示室まで私を案内してくれた。部屋は思ったより広くて、壁に沿って大きなガラスケースが並んでいた。どうやら、左回りで見ていくルールらしい。

 ◆
 最初に目についたのは、壁の一角を覆っている大量の額縁だった。その中を覗くと、白い水玉模様が等間隔に並んでいた。サイズは五十円玉の穴を一回り大きくした程度で、正確な数は分からないけれど五百個は優に超えているだろう。よく見ると、穴あけパンチを使った時に出る丸い紙屑だった。
「すみません。何ですかこれ?」
「なんだと思います?」
 館長は悪戯な笑みを浮かべながら、逆に質問をしてきた。
「世界的に有名なデザイナーの芸術作品とかですか?」
「いいえ、作者と言って良いかは分かりませんが、とある小説家志望だったAの人生の縮図になります」
 そう言うと館長は、「新人賞に小説を応募する方法は分かりますか?」と尋ねてきた。私は首を横に振る。
「最近はWebサイトから直接送れる賞も増えましたが、Aが若かった頃は郵送が中心でした」
「なんか大変そう」
「そうですね。用紙代も切手代もかかりますし、印刷の手間もありますからね。でも、郵送でしか味わえない達成感もあるので、どちらが良いかは人それぞれです」
「詳しいですね」
「Aからそう聞きました」
 館長の横顔をそっと覗き見るが、その表情をうかがい知ることはできなかった。

「少し脱線しました。先ほど話した郵送応募には、【右肩を紐で綴じる】というルールがあります。クリップの場合もありますが、黒い紐で綴じることが大半です」
「なるほど、その時に使うのが穴あけパンチってことですね」
 私の回答を聞いて、館長は満足そうに頷いた。
「正解です。そして、この額縁に収められているのが、Aが初めて公募に応募した時に出た、穴あけパンチの紙屑を並べた物になります」
 B2サイズの額縁の下には、【1978・3・31・420】と書かれた白い紙が貼ってあった。
「これがタイトルですか?」
「そう、1978年の3月31日に応募して、パンチ穴の数は420という意味です」
 原稿用紙で400枚以上か。小説のことはよく知らないけれど、おそらく大作なんだろう。逆立ちしたって私には書けそうにない枚数だ。
 隣に飾られた額縁を順番に追っていくと、【352】【405】【225】【542】といった文字が見て取れた。
「その頃は、彼がまだ書くことを楽しんでいた時期ですね。小説家の卵として希望に満ち溢れていたのでしょう、きっと」
 そう言うと館長は、「こちらに」と私を促した。すると額縁はB3にサイズダウンしている。タイトルを見ると、【146】【89】【102】【66】と数字も小さくなっていた。
「この頃のAは、小説への情熱を少しずつ失いかけていることが見て取れます」
「なんで分かるんですか」
「原稿用紙の少なさですよ。おそらくですが長編を諦めたのでしょう。短編や地方の文学賞への応募が中心になっています。書くことへの恐怖が生まれたのかもしれません。物語りの欠片を積み上げ続けることに疲弊したのかもしれません。いずれしても、小説への純な思いが失われてしまったことが推測されます」
「それってなんか悲しいですね」
「仕方ありません。好きや情熱は永遠ではないですから」
 館長の言葉が胸に刺さる。そう、人の気持ちは常に変化し続けることを、私もタカシも知っている。だから私は今手にしている物を大切にし、彼は曖昧な物を確かにするために前に進むことを選択した。

  ◆
「結婚して欲しい」とタカシから告げられたのは、二時間ちょっと前。二人でテレビのバラエティ番組見ながら、夕食に何を食べるか話し合っていた時だった。
「たまには和食が良いな」と献立のリクエストをするようなトーンでいきなりプロポーズされた。それがあまりににも不意打ち過ぎて、私は思わずアパートから飛び出してしまった。
 彼のことが嫌いではもちろんなくて、むしろ逆。大切にしているからこそ、二人の関係が変化することを私は極端に恐れていた。
 休日にはデートをして、時にはお互いの家に泊まって身体を重ね合って。いつも言い争っていた両親を見て育った私は、今の二人を壊してまで結婚したいとは、どうしても思えなかった。
 もちろんそうした私の考え方は、タカシも薄々感づいていたのだろう。じゃないと、こんな大事なことを急に言うはずが無い。彼はそこまで無神経じゃないのだから。未来に向き合おうとしない私の狡さを見透かされた気がして、恥ずかしくなってしまったのだ。

 額縁はしばらく続いたが、数字は【32】【24】【11】【13】とみるみる減ってきている。そんなはずはもちろん無いのだけれど、紙屑の丸の大きさも心なしか縮んだ気がする。
「Aはきっと自分に才能が無いことを気づいたはずです。小説家になれなかったとしても、せめて自分のこれまでを肯定するための証が欲しかったのでしょう」
 そして館長は、最後の額縁を見せてくれた。タイトルは【1996・3・31・502】。これは館長の解説を聞かなくても想像できる。書くことを諦めた日であり、恐らく最後の作品となったパンチ穴だろう。最後に長編を書けたことに安堵した。
「質問していいですか?」
「どうぞ、私が知っていることなら何でも答えますよ」
「Aさんは、その後どうしているのですか?」
 館長は静かに笑い、「今は全く別の仕事をしていますよ」と言った。
「小説はもう書いていないんですか」
「趣味なら書いているかもしれませんが、もう穴あけパンチを使うことはないでしょうね」
「未練はないのですか」
「どうでしょう。小説家の卵だったことも忘れて、案外幸せに暮らしているかもしれませんよ」
 A自身も思い出すことの無い紙屑を展示することに、果たして意味はあるのだろうか。
 そのことを伝えたら、館長は「だから私がこの場所でずっと保管し続けるのですよ」と額縁のガラス面を愛おしむように撫でた。そして、一つひとつの丸に込められた希望や絶望の欠片を語ってくれた。

 変化することは別に怖いことではないのかもしれない。でも、今感じているこの気持ちが無いことにされてしまうのも、私はやっぱり嫌だった。
 私はもう一度、最初の額縁から順番に丸い紙屑の集合体を鑑賞していった。それはAの人生を余すことなく記した、雄大な一編の大河小説のようにも思えた。

 ◆
 それから館長は、一つひとつの展示を丁寧に案内してくれた。説明はとても分かりやすく、発する言葉が流体になって全身に染み込んでいくようだった。
 例えば、日本海のある地域では、フクロウが【ノリツケホーセー(明日は晴れだから、糊をつけて洗濯物を干せ)】と鳴くこと。柔軟剤が普及したおかげで、ノリツケホーセーは誰にも聞こえなくなってしまったことを、はく製になったフクロウの展示の前で話してくれた。
 また、ある展示スペースに飾られていた小豆が、【マゴキタカ】と呼ばれていること。それは、ある東北の寒村のみで作られている在来種と呼ばれる物で、通常の小豆に比べて表面の皮がとても薄いこと。そのため、孫がやって来た時にすぐに煮て食べさせられること。でも、農家さんの高齢化が進み、もう誰も栽培する人がいないことも、説明してくれた。
 いずれも人々の心から忘れられた存在で、覚えている人がいなければ本当に消えてしまうわけで。それは穴あけパンチの展示も同様の運命だろう。ようやく、玄関前に飾ってあった【消失博物館】の意味が理解できた。
「どうです、楽しんで頂けましたか?」
 館長の言葉に、私は曖昧に頷く。消えゆく物に囲まれることで、私という輪郭がくっきりと浮かび上がる、それはとても心地よかった。ただそれを言葉にするのは不誠実な気がして、私は館長に何も言うことができなかった。

 フロアを一回りした後、館長はコーヒーをごちそうしてくれた。苦みが少し強めだったけれど、酸味は抑えられている。今の私の気分にちょうど良い味だった。
「ちょっと相談があるのですが」
 二杯目のコーヒーを注いでいる館長に向かい、先ほどから考えていたことを口にした。
「この言葉を展示することは可能ですか」
 スマホのメールアプリを開き、【尾根ギアします】を館長に見せる。
「このメールを消してしまいたい。その意味でよろしいでしょうか?」
 私は一気に、尾根ギアしますのことを語っていた。
 タカシから始めて貰ったメールで、その打ち間違いがキュートに思えたこと。これがきっかけでお互いに少しずつ話すようになったこと。付き合って三年が経ち、タカシはきっとこのメールをもう覚えていないだろうということ。  
 尾根ギアしますを愛でて現状維持を好む私と、未来を見据えて前を歩き続けるタカシとは、生き方が正反対であること。お互いのことを大切にする想いは一緒なのに、そのアプローチ方法が違う。そのギャップに予想以上に戸惑ってしまい、この先やっていけるか不安になっていること。要領を得ない私の語りを遮ることなく、館長はずっと耳を傾けてくれた。それがとてもありがたかった。

「尾根ギアしますの言葉やその成り立ちには非常に興味を覚えました。ただ、この博物館に展示するには、まだ相応しくないように思えます」
「でも、彼とこの先ずっと上手くやっていくためには、私自身が変わらないといけないと思うんです」
「かもしれませんね。しかし、そのために捨てられる尾根ギアしますは、どう感じるでしょうか」
 館長は慎重に言葉を選びながら続ける。
「もう閉館の時間が来たようですね。またご縁がありましたら起こしください」
 こうして私の不思議な時間は、唐突に終わりを告げた。

 ◆
 洋館を出ると、十二月の冷たい風が頬を刺した。雨はすっかり上がっていて、うすい靄がかかった上空を半月が淡く照らしている。
 入る時は気づかなかったが、どうやらここは新興住宅街らしい。サンタやトナカイ、英語でメリークリスマスと記された電飾が、家のベランダや壁で嬉しそうに点滅している。そうか、クリスマスはもう三日後か。そんなことにも気づかないぐらい余裕が無かったここ最近の自分がなんだか滑稽で、思わず苦笑してしまった。
 不思議な展示物を見たからなのか、それとも館長に不満を全て吐き出したからなのか。アパートを出てきた時と現状は何も変わっていないのに、心は少しクリアになっていた。
 スマホを取り出してLINEを開くと、十数件のメッセージが届いていた。送り主は見なくてもわかっている。おそらく私たちは、二人でいることに少し慣れ過ぎたのだ。でもそれは決して悪いことではなくて、こんな不思議な夜に時折出会わせてくれる。

(さっきはゴメン。今から帰るから)と送ると、すぐに返信が来た。
(こっちこそゴメン。迎えに行くからそこで待ってて)
(よく知らない場所だから説明できない。駅で待ちあわせしよう)
(どれくらいで着く?)
(分からないけど三十分ぐらいかな、遅くなりそうなら連絡する)
(じゃあ駅前のスーパーで夕飯の買い物をしとくよ)

 二十三時過ぎから夕飯? とも思ったが、たまには良いか。
 生姜がたっぷり効いた唐揚げとか、餃子の皮で作るラザニアとか、ブロッコリーの胡麻ドレッシング和えとか、茄子と豚バラの重ね蒸しとか、バナナミルクケーキとか、二人の大好物をこれでもかってぐらいに作ろう。
 そして一晩かけて食べ尽くそう。きっと明日の朝は寝不足と胃もたれで後悔するだろうけど、二人でバカなことをしたと笑い合えばいい。そんな思い出もきっと必要だ。

 私は必要な食材を書き込んで、最後に(お願いします)と送る。そして、駅がありそうな方角に向かって歩き出した。後ろは振り返らない。確証はないけれど、その瞬間に博物館は蜃気楼のように消えて無くなってしまう気がしたから。
 さっきまでのふうわりとした時間が逃げないよう、マフラーをきつく巻き直した。すると、ポケットの中でスマホが短く鳴る。

(いやいや、そこは「尾根ギアします」でしょ)

 タカシの中に「尾根ギアします」が息づいていることに、少々驚いた。私だけしか愛していないと思っていた七文字にも、穴あけパンチの夢の残骸にも、消えゆく運命のノリツケホーセーにも、瓶の中で眠り続ける小豆にも、もしかしたら存在する意義はあるのかもしれない。

 路地を左に曲がると、光の渦が飛び込んできた。クリスマスを控え浮かれた街は、夜が更けてもまだ騒がしい。遠くにはいつも利用する駅舎がなんとか見て取れる。
 タカシのはにかんだ笑顔を思い浮かべながら、私は少しだけ歩調を速めた。

尾根ギアします

執筆の狙い

作者 パイングミ
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「カクヨムWeb小説短編賞2023・円城塔賞」の最終選考作品に選出されました(ペンネームは別ですが)。

前回から少し間が空きましたが、3月締め切りの公募と確定申告が無事に完了したので、ごはんをまた再開したいと思います。タイトルになっている【尾根ギアします】は、そそっかしい私がよくやるタイピングミスです。「私もやったことがある」と共感した方、ぜひ一度読んで頂けると嬉しいです。

コメント

飼い猫ちゃりりん
14-133-220-32.area5a.commufa.jp

パイングミ様
稀有な作品ですね。「素晴らしい」というありきたりの賛辞さえ憚れるほどに。
ここは久しぶりに慎重に、言葉を選んでコメントしなくては……
飼い猫は、芸術作品とは【偶然生まれた無意味で無価値な存在】であって欲しい、いやそうあるべきだと以前申し上げました。
では【偶然生まれた無意味で無価値な存在】とは例えば何か?
例えば、石ころ。
足元に転がる小石もあれば、宇宙に捨て置かれた星という大きな石ころもある。そして、この宇宙さえも、偶然生まれた無意味で無価値な存在なのです。
さらには、その【尾根ギアします】という誤字も、穴あけパンチの屑も、その消失博物館も、そして、この物語の恋人たちも、【偶然生まれた無意味で無価値な存在】のように感じられる……という稀有な作品。
さらに、この作品自体が、星や石ころのような存在に思え、そこに宿る夢幻と永遠、哀愁と無常に猫はうっとりとする。
ラストは「二人の希望」ではなく、いつか消える存在として二人を描き、哀愁を感じさせる方が猫は好きだし、作品の方向性はそちらかなぁとも思えるのですが。

パイングミ様の描く世界は、「質量保存のおとうと」もそうだけど、創造とか、描かれたものではなくて、「浮かびあがる」ようになっていて、かなり高度な表現方法だなと感心します。

あ、コーヒーよりハーブティーの方が好きという猫の戯言はおいといて。
話はまた題名に戻るんだけど……
【尾根ギアします】
うーん。読者を惹きつけたい意図は分かるのですが。
【消失博物館】の方が良いような気がする。
つまり、誤変換文字も、穴あけパンチの屑も、恋人たちも、消失する者たちであり、この作品自体が【消失博物館】になっているから。そしてもっと【消失博物館】にして欲しい。つまり主人公とタカシを【消失博物館】に飾るわけです。
とまた余計なことを言ってしまいました。ごめんにゃさい。

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

読ませていただきました。
とてもおもしろかったです。

現状と、消失博物館との描写が交互に展開する流れもいいですね。
我々小説を書く人間からすると、パンチの穴を通じた執筆への思いは共感できるシーンだと思いました。
まぁ、私は電子応募がメインではありますが^^;
たとえ落選した作品でも、自分が産んだ子だからかわいいんですよね^^
パンチの穴の数でページ数を表現するのも、そして、ページ数が減っていくことで創作の世界の厳しさやモチベーションの低下を表しているのも、なるほどと思いました。

>「尾根ギアしますの言葉やその成り立ちには非常に興味を覚えました。ただ、この博物館に展示するには、まだ相応しくないように思えます」

このシーンもとてもよかったです。
読者はきっと、この館長のセリフに共感したことでしょう。

あと、私が好きな表現は、

>そんなはずはもちろん無いのだけれど、紙屑の丸の大きさも心なしか縮んだ気がする。

このままでもとてもステキな作品なのですが、
あえて気になる点を指摘するとすれば、

・彼のミスタイピング
・公募作品のパンチの穴
・フクロウの古い呼び名
・小豆の古い呼び名

博物館なのだから、いろいろな種類の展示があるのはいいのですが、
どことなく、一貫性のなさを感じてしまいました。

ここの展示されるための基準が、読者に明確に示されていないからです。
とはいうものの、
彼のミスタイピングへの思いは、まだここに展示するに値しないという「基準」は、きっと読者にはすんなり下りるようにも思いました。

素晴らしい作品を読ませていただきありがとうございました。

偏差値45
KD106180000198.au-net.ne.jp

>おそらくこんな感じだったのかしらん。
なんとなく言葉として浮いてる。

>ギャルソン
知らない。

>最初に目についたのは、壁の一角を覆っている大量の額縁だった。その中を覗くと、白い水玉模様が等間隔に並んでいた。サイズは五十円玉の穴を一回り大きくした程度で、正確な数は分からないけれど五百個は優に超えているだろう。よく見ると、穴あけパンチを使った時に出る丸い紙屑だった。

イメージ出来なかったですね。

総じて豊かな表現力があるのですが、少々やり過ぎかな、と思える箇所も
ありますね。
で、小説の構造としては体験・経験を通じて心境が変化するパターンかな、
と考えられます。
いい意味でくだらないお話かな。
とはいえ、個人的には何も刺さらなかった。
それでなんと言うべきか……。
「尾根ギアします」という、くだらない言葉と
地の文の雰囲気がかみあっていないので、
「たくわんをオカズにトーストを食べる」みたいな気分ですね。

飼い猫ちゃりりん
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ああ、でも少しもったいないなぁと思うところがあります。
飼い猫はこの物語の本当の主役は【消失博物館】だと思うのですが、その主役が唐突と現れるわけです。ファンタジーなら許せるけど、ちょっと物語の展開に無理がある。
だから、修正する。具体的には……

普段は並木に囲まれて廃墟かと思っていたけど、今日はぼんやりとランプの明かりが見える。青く錆びた銅の看板には喫茶・消失博物館と彫られていた。
〜省略
店主70代男性
「妻が三年前に亡くなって、自分も体調があまり良くないから、店を閉めようかと思っていたのです。でも名残惜しくてね。今日が最後の営業で、あなたが最後のお客さんですよ」
「博物館の作品はどうするのですか?」
「田舎に持って帰りますよ。私は独り者だから、誰かが墓に入れてくれると良いのですが」
「実は博物館に飾って欲しいものがあるのです」
「でも、今日が最後の営業だから」
「はい。いいんです。この『尾根ギアします』を飾って欲しいのです」
〜省略
「それを飾るのは、ここじゃない気がするんです」
「と言うと?」
「それは、あなたが一生持って、あなたと一緒に消えた方がいい気がします」

とまあ、こんな展開がさらっと浮かぶのですが、後は作者様にお任せします。このままでも良い作品には違いないと思いますが。

クレヨン
softbank060106207129.bbtec.net

パイングミさん、拝読しました。最終選考に残ったということで、おめでとうございます。

 失われたものを所蔵する博物館、いいですね。最近だとチェルシーとかいう飴が販売終了したとか。あれもまた消失するもののひとつなわけですが、あの飴が好きだった人たちからしたら悲しかったでしょうね。

 時代の流れで失われていくものは多々あってそれが失われてほしくない、と思うときもあるでしょうがこうして守ってくれる人もいるんだと思えば安心できますね。それに失われたそれらが尊いからこそ今あるものを破壊してはいけないと自戒する気持ちも芽生える気がします。

パイングミ
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飼い猫ちゃりりん様

前作に続きお読みいただきありがとうございます。お褒め&有益なご指摘をいただき、とても嬉しいです。

>うーん。読者を惹きつけたい意図は分かるのですが。【消失博物館】の方が良いような気がする。

たしかにそうですよね。物語的には「消失博物館」の方だと思います。これはすごく下世話な思惑が働いたのですが、カクヨムの賞に応募するにあたって、差別化を図りたかったというのが本音です(なので鋭い考察に驚きました)。検索でも「尾根ギアします」なら自作しかでませんし、少しでも目に留めて貰えそうかな…と。相変わらずタイトルは苦手です。

また、博物館のアイデアもありがとうございます。博物館自体も本当に消失するのも面白そうですね。現代ファンタジー寄りにするか、リアル寄りにするか、ちょっと考えてみたいと思います。ありがとうございました。

パイングミ
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神楽堂様

はじめまして。お読みいただきありがとうございます。

>我々小説を書く人間からすると、パンチの穴を通じた執筆への思いは共感できるシーンだと思いました。
>まぁ、私は電子応募がメインではありますが

私もエブリスタが活動のメインなので、郵送での応募はあまりないですね。去年の夏、地元の小さな文学賞に応募した時とかでしょうか。郵送応募自体も消失博物館に行くのかもしれません。

>博物館なのだから、いろいろな種類の展示があるのはいいのですが、どことなく、一貫性のなさを感じてしまいました。
>ここの展示されるための基準が、読者に明確に示されていないからです。

あーたしかにですね。主人公が「いずれも人々の心から忘れられた存在で、覚えている人がいなければ本当に消えてしまうわけで~」みたいなことを感じる場面はあるのですが、館長側の基準が伝えられていないですね。盲点でした。「尾根ギアします」を断る時に台詞を入れるべきでした。

ご指摘ありがとうございます。本当に助かりました。神楽堂さんの作品も後ほど拝読したいと思います。

パイングミ
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偏差値45様

はじめまして。お読みいただきありがとうございます。

>かしらん
すみません。これは遊びというか可愛らしい響きが気に入っていて今作以外でもたまに使うのですが、違和感を覚えるようではだめですよね。

また、ギャルソンの言葉であったり、パンチ穴の描写であったり。これらも自分の中で認識できていただけで、「読み手にどう伝わるか」まで意識が及んでいなかったかもしれません。全体含めもう少し見直したいと思います。

>個人的には何も刺さらなかった。
>「たくわんをオカズにトーストを食べる」みたいな気分ですね。

次は偏差値45さんに気に入っていただけるよう頑張りたいと思いますので、また読んで頂けると嬉しいです!ありがとうございました。

パイングミ
flh2-221-171-44-160.tky.mesh.ad.jp

クレヨン様

チェルシーは運転のお供にダイソーでよく買っていたので、個人的にはすごく残念です。せめて他の商品で代替できないヨーグルト味だけでも残して欲しいです。

>時代の流れで失われていくものは多々あって~

そうなんですよね。特に今は色々なことの消費が早くてびっくりしますよね。そうしたモノを掬い取れるようなお話をいつかちゃんと書いてみたいと思います。

今作もお読みいただきありがとうございました!

夜の雨
ai201205.d.west.v6connect.net

「尾根ギアします」読みました。

なかなか良い作品ですね。
「消失博物館」のエピソードが人生を語っていました。
穴あけパンチの紙屑で作った『小説家志望だったAの人生の縮図』ですが。
館長の説明を聞いていて納得しました。
この小説家志望者は「館長」自身だろうと。
あと二つの「消えゆく運命のノリツケホーセー」と「瓶の中で眠り続ける小豆」の存在は穴あけパンチの紙屑で作った作品のインパクトと比べると目立ちませんね。
このあたりのバランスは難しいと思いますが。

博物館を出てから「LINEを開くと、十数件のメッセージが届いていた」ということで「タカシ」からだったわけですが、返信すると『(いやいや、そこは「尾根ギアします」でしょ)』これは、タイトルにもなっているテーマというかキーワードのうまい使い方でした。

 >>タカシの中に「尾根ギアします」が息づいていることに、少々驚いた。私だけしか愛していないと思っていた七文字にも、穴あけパンチの夢の残骸にも、消えゆく運命のノリツケホーセーにも、瓶の中で眠り続ける小豆にも、もしかしたら存在する意義はあるのかもしれない。<<

上は、ラストの締めがいいですね。

文章というか文体は違和感なかった、うまいです。


気付いたところ。

冒頭すぎで「消失博物館」を見つけたときに。
>その建物を初めてみた時、公民館みたいだなと思った。外観のことではなくて、その建物が持つ特有の雰囲気とでもいうべきなのだろうか。古い洋館だから全体的に古ぼけてはいるけれど、外壁・玄関ともに手入れが行き届いている。<
この「公民館みたいだなと思った。」というところですが、玄関は。
>イギリスアンティーク調の玄関ドアには楕円形のステンドガラスが埋め込まれていて、太陽っぽいモチーフの幾何学模様が描かれている。<
とあるので、どう見ても「公民館のようにダサクは思えませんが」。

>公民館という私の第一印象もあながち間違いではないみたいだ。<
しかし、中にある展示物はわりと地味なので公民館での展示物というところかもしれませんが。
つまり玄関は美術館並みに前衛的といったところ。

>スマホの画面を見ると、二十二時を少し越えたところだった。<
この時間だと、ふつうは閉まる時間帯ですね。

>「そう、1978年の3月31日に応募して、パンチ穴の数は420という意味です」
 原稿用紙で400枚以上か。<
穴あけパンチは一度に二つ穴をあけるので、これだと応募する作品(小説)の「右肩一か所」にパンチで穴をあけるという事になりますね。

作品全体では人生が語られているところはよかったですが、主人公やタカシの「二人のこれから」と、どう絡むかといったところですかね。

タイトルになっている「尾根ギアします」(お願いします)は、ラストまで読んでみたところ、『これからもよろしく「尾根ギアします」(お願いします)』と、お互いに言っているように感じました。
よい、タイトルでした。


お疲れさまでした。

一平
119-171-161-10.rev.home.ne.jp

作者のセンスの光る、とても素晴らしい作品だと思いました。
尾根ギアします。その言葉によって二人の関係が焙りだされていく過程も秀逸でしたし、博物館の存在も際立っていました。たがいの会話も魅力的で、館長のキャラも立っています。
また尾根ギアを、展示するには相応しくないというくだりも素晴らしいと思いました。
 
ただこの時点でラストが読めてしまうのと、この尾根ギアします、というモチーフもしくはガジェットに関して、別の何か違うものを用意できればなと残念に思いました。
一歩引いて、読者目線でこの言葉を考えたときに、はたしてこれで興味を惹くだろうかという疑問に囚われなかったでしょうか。タイトルは正直です。読み手もまた。そして審査員も。
 
ですが卓越した筆力で、単なる入力ミスをここまで高めてしまうのは凄いと思いました。
次のステージがもう開かれているかもしれませんね。羨ましい限りです。

夜の雨
ai202252.d.west.v6connect.net

再訪です。

「尾根ギアします」と「消失博物館」のエピソードの違いについて。

「尾根ギアします」は、「タカシ」が「主人公」へ送ったメールの文章の単純ミスから出た重要な愛情にまつわるエピソード。(瓢箪から駒が出る)的な二人の未来に関わる顛末。
こちらには「未来がある」。

「消失博物館」のエピソードは「穴あけパンチの紙屑で作った『小説家志望だったAの人生の縮図』」という、人生の夢の儚さの顛末を描いたもの。
こちらは「終わってしまっている」。(なので、展示されている)。

上に書いたように、「尾根ギアします」と『小説家志望だったAの人生の縮図』とは、中身がまるで違う。

なので、「消失博物館」の館長に主人公が、「尾根ギアします」を「消失博物館」に展示してください、というのは、筋違い。

終わったものと未来があるものとの違い。ということになる。

それで主人公はその意味を自覚したということをラストで気付かせると、御作の構成とか設定とかが、テーマに結び付くのではないかと思う。もちろん、読者にも伝わるようにする。

御作は、このあたりのことが、しっかりと伝わるようには描かれていないのではないかと思います。
なんとなく、という感じでは描かれているのですけれどね。
だから、もやもや感があるのも確かです。

●ちなみに『小説家志望だったAの人生の縮図』というものが、どうして公募に入選しなかったのかということで「タイプミス」がよくあった、ということにすれば、「尾根ギアします」とつながります。
館長いわく「あなたがたの『尾根ギアします』は、ミスっているとしても、未来がある。愛情がある。
なので、主人公は驚くと同時にタカシとの恋愛や未来にやる気が出るという事にすればよい。

まあ、ここまで書くと『小説家志望だったAの人生の縮図』の作者が館長だという事になるかもしれませんが。道理で詳しいはず。


こんなところです。

パイングミ
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夜の雨様

いつも感想をいただき、ありがとうございます。多分覚えていないとは思うのですが、夜の雨さんには今作のプロトタイプ版(10ヶ月ほど前に投稿した同タイトルの作品)にも感想を頂けたので、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。

>この小説家志望者は「館長」自身だろうと。

さすがですね。明記はしていませんが、A=館長のイメージで書いています。

>あと二つの「消えゆく運命のノリツケホーセー」と「瓶の中で眠り続ける小豆」の存在は穴あけパンチの紙屑で作った作品のインパクトと比べると目立ちませんね。

ここは確かに難しいですね。この二つを引き立たせると穴あけパンチが薄れる気もしますし、かといって博物館と名乗るなら他の展示物があることも示した方がいいかなと思いまして。あと、言い訳にはなりますが、賞の文字数制限なども若干関係していました。

>博物館と公民館について

ここは私の説明不足というか、伝えるべき点が整理できていませんでした。公民館みたいというのは、「多くの人を受け入れてきた佇まい(外観というよりは雰囲気)」を伝えたかったのです。ただ、「現実にはないかもしれない博物館の持つ異質さ(ファンタジー要素)」も入れたくて、どっちつかずになってしまいました。心の弱った主人公に現れた、一夜限りの博物館みたいな感じです(そのため夜遅くでも開館している設定でした)。

>上に書いたように、「尾根ギアします」と『小説家志望だったAの人生の縮図』とは、中身がまるで違う。
>なので、「消失博物館」の館長に主人公が、「尾根ギアします」を「消失博物館」に展示してください、というのは、筋違い。

たしかにそうですね。これは神楽堂さんにもご指摘いただいたのですが、消失博物館の展示基準をもっと明確にすべきでした。未来もしくは現在進行形の「尾根ギアします」は、やはり過去の遺物である博物館にはまだ相応しくない。そこが分かるようにすべきでした。

最後のAのタイプミスとの絡ませ方も面白いですね。色々と改善点が見えてきました。今作も細部まで丁寧に読み込んでいただき、本当にありがとうございます。

パイングミ
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一平様

お読みいただきありがとうございました。お褒めいただき嬉しい気持ちです。

>ただこの時点でラストが読めてしまうのと、この尾根ギアします、というモチーフもしくはガジェットに関して、別の何か違うものを用意できればなと残念に思いました。

ここの箇所ですが、「もっと読み手を惹きつけるようなモチーフに」といったご指摘で合っていますでしょうか?
たしかに他の最終選考作品を見ると、モチーフも設定も凝っていて「拙作とは小説としての強度が違うかも…」と落ち込んでいたところです。これは次作以降の改善点にしたいと思います。
※もし解釈が間違っているなら教えて頂けると嬉しいです。

改めて感想ありがとうございました。一平さんの作品も後ほど読まさせていただきますね(週明けでバタバタしているので、落ち着いたら感想を書きたいと思います)。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

拝読しました。

前作同様、やはり巧みな物語構成と文体で勉強になります。
ファンタジーよいですね(笑)
映画「ミッドナイト・イン・パリ」を思い出しました。

賞がとれますように!

一平
119-171-161-10.rev.home.ne.jp

そうですね、読み手を惹きつけるモチーフです。
それによって懸念されるのが、筆力が卓越しているだけに、その筆力の裏に隠されるリアリティーかもしれません。消失博物館の存在意義は問われるでしょうね。
応募したことのない小説好きの読み手にどう受けとめられるか、それがネックになると思います。
 
モチーフに何が相応しいのかわかりませんが、二人の関係と消失博物館、それをさらに昇華させるガジェットがあるような気がしてなりません。
 
言いがかりのような感想で、ごめんなさいね。

パイングミ
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凪様

いつもお読みいただきありがとうございます。他の最終選考作品がアイデア・設定ともに素晴らしいのでさすがに厳しいと思いますが、円城塔先生に読んで頂けただけでも最終に残れた甲斐がありました。結果は5月頃とのことなので、良い報告ができれば幸いです。

また、映画の紹介ありがとうございます。以前教えていただいた『トライライトゾーン』も面白かったです!凪さんの作品も夜に拝読したいと思うので、引き続きよろしくお願いします。

パイングミ
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一平様

再訪ありがとうございます。言いがかりなんてとんでもありません。読み手への意識は忘れがちなので、とても参考になりました。私自身、何がふさわしいかはまだ見えていませんが、もう少し考えてみたいと思います。ありがとうございました。

やひろ
softbank060120199223.bbtec.net

拝読しました。文章は読みやすく、短編映画を見ているようでした。
「尾根ギアします」、確かに自分もよくタイプミスします。最初は仕事のやり取りだったのでしょうか、タイプミスしたまま送信してしまうタカシはちょっとおっちょこちょいな性格なんですかね……。

>タカシの中に「尾根ギアします」が息づいていることに、少々驚いた。私だけしか愛していないと思っていた七文字にも、穴あけパンチの夢の残骸にも、消えゆく運命のノリツケホーセーにも、瓶の中で眠り続ける小豆にも、もしかしたら存在する意義はあるのかもしれない。

ここですが、最初のほうに「これがきっかけで話すようになり」とあるので、タカシが覚えていたとしても不思議はないような気がします。

確かにお互いの関係が変化すると、メールなどの口調が変わりますよね。個人的には、恥ずかしいので、あまり昔のことは掘り返してほしくはなかったりしますが。

ラピス
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タイプミスのアイデアは既定路線ではなく、とても良いと思います。かつて「忘れまじた」という作品で、ごはんからプロになられた方を思い出します。(内容は違いますが、似たセンスを感じました)

消失博物館のパンチ穴の話など個性的です。
惜しむらくは、ありがちな恋愛物で終わったことですね。読み終わって、訴えてくるものが弱かったようです。

アン・カルネ
KD106154136224.au-net.ne.jp

ふたりがしあわせになると良いなって思いました。
「尾根ギアします」本来ならあってはならないものだけれど、生まれてしまった存在をなかったことにはしたくない主人公。それはきっとそこに切なさを覚えるからなのかな、と思いました。
消えゆくものへの郷愁ってありますよね。物それ自体というよりはそこに付随するであろう思いに対して。「尾根ギアします」と打ってしまう、その時の気持ちは多分、気もそぞろってことなんだろうなあ、とは思うんですけど、色々想像できますよね。もしかしたら、タイピング不得手な人なのかな、とか。それとも今日は早く帰りたいけど残業になりそうであせっていたのかな、とか。あるいはさっき上司に小言を言われ、それに気を取られていたのかな、とか。いやいやいや、単にせっかちな人ゆえ見直しとかしないタイプかもしれない、とか。それって雑な性格? 実は他にもケアレスミスとか結構やらかす人なのかな、とか。
そういう色んな想像をさせてくれますものね、尾根ギアしますって送信されてきたら。
ふふふって笑ってしまいます。
そして消失博物館。パンチ穴の紙屑も色んな思いの欠片なんですよね。で、尾根ギアと紙屑は分かるんですけど、なぜフクロウや小豆は本体なのかな、とはちょっと思ってしまいました。なぜ一片の羽根とか小豆の薄皮じゃないんだろう、と。いえ、あくまでも私としてはってことなんですけど、つい、本体は消失しちゃだめなんでないかい? と思ってしまったので…。尾根ギアや紙屑は元々なくなっても良いものだと思うから。そこがちょっと気になりました。そうですね、尾根ギアや紙屑的なもの、私で想像すると、例えばちびた消しゴム(あるいはそのカス)、工場生産や商品作物の中で出来損ないと省かれてしまうもの、部品が作られなくなったために直せなくなったネジ巻き時計、何度も解され色んなものに変わったけれど、とうとう捨てられることになった毛糸製品。壊れたおもちゃ等でしょうか。ポイントはかつてそれを持っていた人にとっては意味があるけれど他の人にとってはゴミに思える物、他にも色々あると思うんですよ。大切なのはかつては誰かの思いが込められていたものと、本来なら人の思いが込められるはずだったもの、そういうものを取っておいてくれているのが消失博物館。心に迷いが生じた人にだけ、そっと姿をみせる博物館。ここに取っておくからね。だからこそ現実の時間を生きているきみたちは忘れていいよ、安心してって。そういう意味があるのかなあ、と思わされたんですよね、消失博物館に。
で、そんなふうに思うと、今はまだ尾根ギアとっておきなさいと言う館長の思いも分かるかな、と。尾根ギアは彼の人となりの象徴なんでしょう。だって送信し後、なにかしらの弁解をしていて、そこに心惹かれるものがあったから、彼女は付き合いだしたんでしょうから。だって他の人の尾根ギアではだめでしょう? きっと彼はそそっかしいけれど愛すべき男性なのよね? でも彼は今そういう柔らかな部分を手放そうとしてるのかもしれない。それが結婚ということなら、と迷う彼女の思いに、実は彼もちゃんと尾根ギアを覚えていた。だからこそ、大丈夫、結婚しても私達の一部は尾根ギアと一緒に変わらないままいられるんだ、そういう話かな、と思ったので。尾根ギアに失われてゆくものへの慈しみを覚えるというところが素敵な話だなって思いました。

パイングミ
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やひろ様

お読みいただきありがとうございました。「おね」と打つと予測変換で「尾根ギアします」が出てしまうぐらいのうっかり者なので、タイプミスに共感してくださる仲間がいて嬉しいです(笑)。

>最初のほうに「これがきっかけで話すようになり」とあるので、タカシが覚えていたとしても不思議はないような気がします。

たしかにそうですね。ここは私の描写不足でした。タカシはものすごく無神経では無いけれど、わりと過去には執着しないタイプという設定でした。さすがに彼女の誕生日は覚えているけれど、初デート記念日は覚えていない男子、みたいな感じです。なので、主人公は「どうせ覚えていないのでは?」と思っていました。

やひろさんの作品も後ほど読みたいと思います(読み応えがありそうなので土日になるかと思いますが)。貴重なご指摘、ありがとうございました!

パイングミ
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ラピス様

お読みいただきありがとうございました。「忘れまじた 小説」で検索したら作品が出てきたのですが、面白いですね。濁点に想いを馳せるのも素晴らしいですし、お洒落で気の利いた文章も良かったです。教えていただきありがとうございます。

>惜しむらくは、ありがちな恋愛物で終わったことですね。読み終わって、訴えてくるものが弱かったようです。

なるほど、ここは再考の余地がありそうですね。しばらくしたら改稿するとは思いますが、その時に考えてみたいと思います(消失博物館の話を軸にしても良いかなとはぼんやり考えています)。ありがとうございました。

パイングミ
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アン・カルネ様

丁寧にお読み頂きありがとうございます。タイプミス一つとっても物語だったり人の性格が想像できたり、面白いですよね。社会人として褒められたものではないかもしれませんが、「尾根ギアします」は響きにユーモアが少しあるので、私もなんとなく笑って許すかなと思います。

>なぜフクロウや小豆は本体なのかな、とはちょっと思ってしまいました。
>本体は消失しちゃだめなんでないかい? 

たしかに。フクロウは今すぐ思いつきませんが、小豆は発芽しなかった種とかにすべきだったかもしれません。また、消しゴムやネジ巻き時計、毛糸製品、壊れたおもちゃなども考えていただき、ありがとうございます。世の中にはまだまだそういった物がひっそりうなだれていると思うので、それらを想像するのも(そして掬い上げてお話にするのも)楽しそうです。

また、タカシについて、消失博物館の意義について、ここまで読み取って頂きとても嬉しいです。今作を書いて良かったなと思いました。ありがとうございます。

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