作家でごはん!鍛練場
えんがわ

猫のコンサート

「第一部、銀次郎とハリスによるネコ笛コンサートをはじめます」
 するとよぼよぼのアメリカンショートヘアと毛艶の良いブリティッシュショートヘアによる、リコーダー演奏がはじまった。音量のおぼつかない銀次郎のそれは、しかし自由奔放に跳ね回るハリスの高音を的確にとらえ、補佐し、暖かな世界を作っていた。ネズミがちょろちょろ飛んでいくのをとんとんと捉える音のリズムは不思議で少し可笑しく、ほほえましいものだった。しかし、周りは何かそわそわしている。
「かけ声、どうぞ」
 司会のアメさんがそう口にすると、わたしは手筈通り手拍子をする。ぱちん、ぺちん。他の観客猫たちは「にゃーにゃーにゃーにゃー」それぞれ好きなように歌う。
 かろうじて発表会の体を成していた大会は、飲み会の末期のカラオケのような混沌としたものへと変わろうとしていた。右隣の三毛猫がオペラを歌えば、左隣のノルウェージャンフォレストキャットは演歌を吟じている。
 アメさんはやれやれと言った手振りをし、わたしもやれやれと猫酒をたしなむ。ほわほわとしたお日様のミルク味。

「第二部、ヘビの助一家による讃美歌、花彩る春を」
 音痴の歌にそれでも柔らかな沈黙が良いなと思ってたら、ぼそぼそぼそぼそ。
「ヘビの助? 聞いたことないぞ」
「たぶん、野良だよ、自分で名前を付けたんだ。これほど寂しいことはないぜ」
 続く沈黙の中、讃美歌は続くが、何か世知辛い空気となってしまったのは気のせいか。
「かけ声、どうぞ」
 司会のアメさんの無茶ぶりに、わたしは一人手拍子を続ける。ようやっと歌は終わり、わたしは猫酒へと逃げる。ほにょほにょとした肉球の手触り。深夜の暖かな草っ原の空気に浸ってしまう。

「第六部、スコティッシュフォールド軍団、ユズwithキャットランドオーケストラによる、名ロックを訪ねて第三弾、hang on、コンサートスペシャルバージョン」
 猫がドラムを叩けるわけがない。だが、ipadのボタンは押せる。大音量でロックミュージックが響く中、セクシーなボーカルが「カモンカモン」と馬鹿みたいに繰り返す。
「かけ声どうぞ」
 とアメさんが言う前に、猫たちは場外乱闘はもちろん、場内乱入もして、コンサートはめちゃくちゃだ。
 わたしは「ユズいけー!」と叫びながら、猫酒を煽る。

 こうして猫のコンサート2024は続いていく。めちゃくちゃになったパレットも翌朝になれば、なんてことない毎日に溶けていくのだろう。せめて、それまでわたしは素敵な猫たちと手拍子を続けようと思う。

猫のコンサート

執筆の狙い

作者 えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

実体験を猫体験に変換する試み。変?
短いです。
よろしくお願いします。

コメント

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

読ませていただきました。
動物がコンサートをするなんて、微笑ましくてかわいい作品ですね。
おもしろかったです。

>ネコ笛コンサート

冒頭部分ですが、ネコ笛という楽器があるのかな? と思ってしまいました^^;
ネコによる
>リコーダー演奏
ということですが、正直、イメージを描くことができませんでした^^;

あまり深く考えてはいけないのかな?
アニメキャラのように、ネコが人間のように動いているのかな、と思うことにして読み進めると……

>猫がドラムを叩けるわけがない。だが、ipadのボタンは押せる。

急にリアリティがある表現になって戸惑いました。
この物語に登場する猫は、ドラムは叩けないけど、リコーダーは吹けるのですね^^;
リアルの猫が楽器を持っているところを想像すればいいのか、それとも
猫だけど二本足で人間にみたいに立って歩いたりするマンガやアニメのような感じの猫で想像すればいいのか、よく分かりませんでした。

あと、この物語の語り手は人間なのでしょうか?

などが読んでいて気になったところです。
かわいらしい世界観を楽しませていただきました。
ありがとうございました。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

>神楽堂さん

おはようございます。

>リアルの猫が楽器を持っているところを想像すればいいのか、それとも
猫だけど二本足で人間にみたいに立って歩いたりするマンガやアニメのような感じの猫で想像すればいいのか、よく分かりませんでした。

自分としては童話や漫画タッチに書いたつもりなんですが、上手くいきませんでした。
変なところでリアルになり過ぎて、読み手を惑わせてしまったのかな。むずかしー。

>あと、この物語の語り手は人間なのでしょうか?

これは最初は人間と明記して書こうとしてたんですが、書いてるうちに人間でも猫でもどっちでもいいや的な。
方向に転びました。
人が紛れて猫の集会に入ってるのも好きだし。
猫の一員が集会の中でてんやわんやしているのも好きだし。
敢えて限定せず、読者の想像にお任せしようって。

こういうの明確にした方が良いのかなー。自分はあやふやな方が好きなんだけど。

それと今回は使う文字数をシンプルに少なく、伝えるところは伝えようと試みたのです。
結果、言葉不足になってしまったようです。

かわいらしい、と言ってくださりありがとです。猫は可愛いものです。不思議な生き物でもあります。

西山鷹志
softbank126077101161.bbtec.net

猫のコンサートとは考えました考えましたね。

猫なら楽器がなくても色んな猫を集めて泣かせれば、面白い音楽会になりそうな気が(笑)
動物だけじゃなく小鳥やコオロギなど沢山集めても、面白そうです。

例えば人間が録音機器を持って森なんかに行き色んな音色を集め
編集すれば楽器以上の音楽が出来上がるかも知れませんね。
楽しませていただきました。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

>西山鷹志さん

猫の合唱会。というのは良いですなー。
一昔前は、発情期の春になると猫の鳴き声がにゃーにゃーしたものですが、どこか遠くから猫の歌声が聞こえてそこを訪ねると。。。とかファンタジーっぽくて面白そう。

自然の環境音も上手く使うとかなりグッと来ますにゃー。
川のせせらぎの音に、鳥の鳴き声を合わせ、穏やかなピアノを組み合わせると、これ以上ないヒーリング音楽になります。

聞いてたら、ふくろうのコンサートとかもいいかもね。とか思いました。ふくろうのこと調べたら書けるだろうか。

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