其実正義
悲しむ余地はない。
小学生の頃からずっと虐められてきた。20になった今も。
現在は家を出て法律の専門学校に通っている。
小学校から1人の男子に虐められていた。耐えられずに中学3年生から不登校になった。
だけど私は、怒る権利はないのかもしれない。
死のうとも何度も思った。この世界が許せなかったから。
1
それは、私の過去の家族にあった_
「川口恭平被告を殺人容疑の疑いで逮捕。24歳の男性社員を首を絞め殺害した模様で_」
これは私が3年生の頃の出来事だった。テレビで流れるニュースを耳に、大粒の涙が溢れる。
昨日、私のお父さんの川口恭平は、殺人を犯した。
そんな人じゃなかったのに。
切実で、優しくて、誰よりも仕事を頑張っていて貢献していた大好きなお父さんが、人を殺した。
大事な引取先が倒産したりなど、お父さんの仕事は最近全くうまくいっていなかった。そんな時お父さんは会社の帰りで一人で歩いていた。するとすれ違いざまに一人の男性会社員と肩がぶつかった。お父さんは謝ったけど、その会社員はお父さんを罵った。「どうせ仕事もうまく行ってないんだろ?ぶつかるようなことするから当然だろ」と。精神がギリギリだったお父さんは、男性会社員を地面に叩きつけ最終的に自らの手で首を絞めて殺めてしまった。
お父さんはすぐに取り押さえられ現行逮捕された。
2
事件当日は、私の誕生日だった。
お母さんは私の好きな料理を作ってくれ、私とお母さんでケーキを買って待っていた。
お祝いをするためにお父さんは早く帰ってくるはずだった。
しかし、お父さんが帰ってくることはなかった。
もしかして事故にあったのではないかと心配していると一本の電話が入った。
何を話しているのかまでは聞こえなかった。3分後。
「由紀。お父さんとは、もう会えません。」
全く意味がわからなかった。
「なんでー?早くお祝いしようよ〜」
すると急にお母さんが崩れ落ちて泣き出した。
「お父さんは…人、を…殺してし…しまったの」
泣きながらだったので辿々しさがあったが、私にはよく聞き取れた。
20分後、家に警察が来た。
「ごめんね。お母さん、ちょっと警察行ってくるね」
「待って!お…お母さんも。悪いことしたの?!」
「大丈夫。お母さんは、話をしに行くだけだからね」
お母さんは事情聴取に行き、私はしばらく1人になった。
本当なら今頃3人で楽しい時間を過ごせていたはずなのに。
テーブルに残された料理をふと見ると、熱々だった料理もすっかり冷めていた。
こんな時間なのに食欲はない。何が怒ったのかやっと整理できた私は、涙が止まらなかった。
次の日には、私はもう「川口」ではなく、「福原」になっていた。
昨日のことはニュースになり、テレビでも報道された。
学校に行くのも不安でしょうがなかった。いつも授業参観に来るのは、決まってお父さんで、名前も顔もよく知られていたから。
3
私の予感は、的中した。
登校すると「お前の父ちゃん殺人者なんだろ」と言った1人のクラスメイトがいた。
その次の日からどんどん悪口を言われ、罵られ。
虐めているのは颯太たった1人だったのに、先生も見て見ぬ振りで、助けてくれる人は誰もいなかった。だけど自分から言うのも、怖くてできなかった。
侑一の救いは、お母さんがいたこと。
お母さんも同じ目にあったらしいけど、それも逆に心強かった。
お互い励まし合い、時は過ぎて私は中学生になった。変わらず颯太からの虐めは続いた。
中2のある時、家に帰るとあまりにも静かだった。普段私の家では常にテレビがついている状態なのに、音ひとつしなかった。すると真実はすぐ目の前にあった。
_お母さんは、首吊り自殺をした。
4
それから私は1人にになった。
お母さんの死亡保険金と、祖母が出してくれるお金でなんとか生活していた。
祖母のおかげで学費、ローン、電気代や水道代などの心配はないようにしてくれた。
生活に必要なものはなどはお母さんとお父さんがコツコツ貯めてくれていた私の為のお金と、お母さんの死亡保険金で調達していた。
結局不登校になってしまったけど、家でずっと耐え続けた。
その生徒が卒業して、私は法律の専門学校に入ることに決めた。
やっと、私の番が来たと思った。私が死ななかった理由。それは、
犯罪者の子供だからと虐められ、誰も助けようとしないこの世界が許せなかった。
だから私は弁護士になる。これは間違っていると言える侑一の方法だったし、
私以外の無辜(なんの罪もない人)の人を、救えるようになりたかったから。
もちろん学費はおばあちゃんが出してくれた。本当におばあちゃんには感謝している。
だけど、もう少しで制裁できるということを希望に日々耐え、努力した。
だが最近、誰かにつけられている気がする。もしかすると、ストーカーかもしれない。
ふとあの頃の男子が頭によぎる。気分転換に本を読むことにした。
すると、お父さんの日記を見つけた。読まないほうがいいかもしれないけど、なぜか私は気になってしかたなかった。
“仕事でひとつ偉い立場に行けた。妻も娘もお祝いしてくれた。とても嬉しい。家族を幸せにできるように、もっと頑張らなければ。”
“偉くなって最初の仕事。思っていた以上に大変だった。”
“明日は大事な取引先のところに行く。絶対に遅れてはならない。”
“予定から1時間も遅れて飛行機に乗ってしまった。もうお終いだ。今は飛行機の中。なぜ今日に限って由紀は無理矢理遊ぼうとして離さないんだ。突き放したら泣き出してしまった。もうこれはダメだと覚悟して遊ぶことにした。10分遊んでも、由紀は全く納得してくれない。由紀には、今日は遊べないと言ったはずなのに。もう3年生だから、協力して欲しかった。”
5
…私のせい、だったの…?
“やっぱりダメだった。クビ処分だった。他の仕事を探さないと…”
この日記が最後だった。この日記を書いた次の日に、お父さんは殺人を犯した。
私のせいで、クビになって、精神がボロボロになったということ…?
なんとなくわかってた。本当は、ちょっかいのつもりだった。
お父さんの困っている顔が可愛かったから、まだ大丈夫だと思っていた。
だけどお父さんは、私を悲しませないようにこのことを言わなかった。
私があんなことしていなければ、殺される人も出なかったし今でもお父さんと暮らせていた…?
私は本当に何をしていたの。
「やっと気づいたか」
「誰!?」
って…
「久しぶりだな」
「颯太…なんでいるの?!」
「俺はストーカーで、ずっと家に隠れて住んでいた」
「嘘…?!」
颯太の表情が一気に変わった。
それは、怒りと悲しみのどちらも感じさせる表情だった。
「…お前が仕事を邪魔したせいで、おじさんは死んだ」
6
「ど、どういうこと…おじさん…?死んだ…?」
颯太は考える暇さえ与えずに答えた。
「お前の父親だよ。丁度お前が専門学校に入学した時くらいに、自殺したんだ。
俺の父さんとお前の父さんは親友だった。よく家にもきてくれて、家族のようなものだった。例のことも、真相は全部知っている」
「え…?」
「まだわからないのか?由紀があんなふうに邪魔しなければ、クビになることもなかっただろうし、精神が狂うことも、犯罪も犯すこともなかった。そして…死ぬこともなかったんだ」
「嘘でしょ…?」
「おじさんが殺人を犯して母親は虐められて自殺。おじさんも自殺。お前が3人殺したようなものだ」
「で、でも…ちょっかいのつもりだったし…それに、今は法律を学んで、無辜の人を助けようと…社会に貢献できるように…」
「ちょっかいのつもりなら許されるわけではない。もうこれは彼此15年以上前のことだ。再審をなん度も申し込んだが、裁判が開かれることもなかった。おじさんが死んだ今、再審を行うことはさらになくなるだろう。だから、僕が制裁をする」
そう言って果物ナイフを取り出した。
「いや…!殺す気なの?!お父さんはとても優しくて…いつも家族のことを考えていた。でも…私のせいでクビになって殺人を犯したなんて…気づかなかったの!」
「そういいながら、避けていたんじゃないのか?真実を知ることを」
7
そうかもしれない。もしかしたらとは思っていた。でも、お母さんには仕事がうまくいかないとだけ伝えられたからてっきり違うと勘違いしていた。
「…颯太だって…私を殺したら殺人罪になるわよ…」
「別に構わない。間接的に3人殺した人間と、直接的に1人殺した人間。どちらの方が罪が重いと思う?俺はどっちも同じくらい悪いと思っている。同害報復(被害に相応した報復または制裁のこと。目には目を、歯には歯をのように)とあまり変わらない。じゃあ、僕から質問。由紀は、同害報復が正しいと思っている人に何を説く?」
「………でも、悪意があったわけじゃないわ」
「じゃあ、学校で男がポスターを貼るために画鋲を使っていた。だが箱から出そうとした時に誤って全部こぼしてしまった。だけど誰もいなかったため男は片付けずに放っておいた。しかし通りかかったあるBさんはたまたま転んでしまった。その時、転がっていた画鋲が顔に刺さってしまった。男に悪意はなかった。この場合、男は全く悪くないと言えるか?」
「………」
「それと一緒だ。たとえ悪意はなくても、自分の意思で止めることはできた」
……そうだ……なぜ私はあの時邪魔をしようとしたのだろう。
私が3人を殺した……なら私の努力は一体なんのためだったの?
8
私は昔の私のような人や無辜の人を救えるようにと弁護士になろうとした。
「私が…私の…せい…なの…?」
「…ちゃんと、わかってるよ。お前の言い分は。だけど…。本当は自分でも薄々気がついていたんじゃないのか?だから今、泣いているんだろ?」
颯太に言われてやっと気づけた。私は今、泣いている。何故だろう。
私のせいということがわかったからなのか、殺されるかと思って怖いからか、努力した意味がわからないせいなのか。でも、今は颯太に感謝している。
やっと、決心がついた。私は颯太が向けている果物ナイフを掴む。
鈍い音がして、どんどん意識が薄れていく中で、私は何を想えばいいのだろうか。
結局、私は何もできなかった_
9
俺は…何をしているんだろうか。由紀は、自ら死んでいった。
俺も、間接的に殺している…?いや、でも俺は復讐をしただけ。同害報復をしただけ。
ポケットが振動で震える。誰だろうか。スマホを見ると、発信源は父さんだった。
「もしもし…父さん」
「久しぶりに実家に帰ってこないか?今日…恭平の命日だろ。線香立ててやってくれないか」
「うん…」
「颯太、今どこだ?」
「……由紀の家の近く」
「言っておくけれど、由紀ちゃんに手を出したらだめだからな。
恭平から頼まれたんだ。由紀が傷つくと思うから、“あのこと”は伝えないでほしいって」
「え……?」
おじさんのためだったのに。おじさんのためにやったことなのに。
おじさんは、怒っていなかった。どこまで優しい人なんだろうか。
「_ごめん、父さん…」
執筆の狙い
“正義”。よく聞く言葉だけど、実際、本当の正義とはなんなのか。
誰かの正義は、誰かにとって悪なのではないか。これらをテーマにした作品です。
私は12歳(春から中学生)です。初投稿なので、できるだけ暖かく見守っていただきたいです。
たとえ相手が悪くても、泣かせた場合泣かせた方が悪い。
実際、それが許されてしまう社会です。それを平等に解決できるのが法律。
だけど実際に罰を与える人物も、神様ではないので本当に被告人が有罪かはわからない。
本当は無辜の人間が罰を喰らうこと、また犯した罪に対する罰が重すぎる場合も問題です。
それらを考えていると、普段私達は自分が思い浮かべる正義をぶつけ合っているのかもしれません。だから喧嘩や争いが起きたりするのです。実際この小説もあくまで私の意見を綴った作品です。
「違う」と思われる方もいるかもしれません。ですがそれは、私の狙いでもあります。
それこそがこの作品のテーマです。しかし、それも人間の良さなのかもしれない。
結局、私はこの話は解決したくてもできない問題だと考えます。