囚われの君に(仮)
序章「普通の生活」
誰かに縛られている中で過ごすのは、辛い日々だと思うかな。
確かに辛い時もあるけど、幼い頃からその日々を送っていたとしたらどうかな。
他人の意思で、動くただの操り人形と化すのか。
そしてこの生活は、当たり前であると思う様に、なって行くのだろうか。
一種の薬物の様に、一度ハマったら抜け出せない日々に、染まって行くのだろうか。
この日々が、「私の」いや「僕の」長い人生における生活の一部だった。
まだ桜が散る事を知らない頃の小学6年生の春。
自由そう、自由という言葉が、僕の頭の中を一人歩きしていた。
中学に上がれば、自由が手に入ると思い込んでいたのだ。
色んな人に、この格好を見られないで、済むと思うと気が楽になって行くから。
そんな事を考えながら、僕は普通の男の子になる為に、小学校へ向かった。
「おはようございます〜♪」
すれ違う先生達に挨拶をしながら、6年生の教室に入った。
少し朝早い学校には、1人の生徒が腕で目を覆い隠して、僕の机で寝ていた。
こんな奴が親友だとは思いたく無いが、近づいて名前を呼んでみた。
「琴葉ちゃん〜起きて下さい〜」
「てめぇ〜その名前で呼ぶな〜」
寝ぼけていて聞き取り辛いが確実に親友である。
まぁ、朝から寝ているのは、琴葉しかいないか。
「だから起きろって」
「あ〜お前夏宵か〜?」
さっきは、僕の事を認識していななかったみたいだ。
僕の夏宵(かよ)という名前をすぐに覚えてくれた内の1人でもあった。
「そこ僕の席なんだけど〜」
「分かったよ…」
目を擦りながら、僕の席から離れて自分の席でまた寝た。
「まったく琴葉の奴は〜」
もう飽きるくらいこのやり取りをして来ている。
なんかもう日課になっているかもしれない。
琴葉が授業中に寝て、説教タイムが始まる事も起きたが、一日はあっとゆう間に終わりを迎えた。
僕は寝ている琴葉を後にし、放課後の教室を出た。
「お〜い忘れ物だぞ〜夏宵〜」
「えっ何も忘れてないよ〜」
「俺の事忘れてるだろ〜」
自分の事を物って呼ぶなよ。
あぁー何だろう本当に、コイツが親友でいいのだろうか。
「琴葉は物じゃないから忘れてないです〜」
「親友だもんな〜」
「お前あの格好もう辞めたのか」
「う…うん辞めたというかしなくて良くなったんだよ…」
「良かったじゃねぇか〜」
「そうなんだけど…家では変わらずだよ」
「そうか…大変だな」
2人仲良く、たわいもない話をしてお互いの帰路についた。
琴葉の家から、結構離れて僕の家がある。
琴葉の家に着いてから、僕にとってつまらない下校である。
帰りたくもない家に向かった。
「ただいま…」
「おかえり〜夏宵ちゃん♪」
元気な声で僕を呼んだのは、とてもニコニコしている僕の母親である。
この母親のただの笑顔に見えるかも知れないが、
僕にとってはただの悪魔の顔にしか見えない。
他の家とは別の当たり前の生活がまた僕を待っている。
「夏宵ちゃん…着替えてね」
そう言うと母親は、リビングに帰っていった。
母親に言われた通りに、ある服に着替えた。
鏡に映る自分を見て、僕は今にでも鏡を割りたいという感情になりかけた。
そして僕は、母親がいるリビングへ向かった。
「お母さん…どう…」
僕の来てる服を母親に見せた。
「夏宵とても可愛いわよ〜」
「そう…じゃあ…僕部屋に帰るね」
「夏宵〜忘れたの?」
その時、もの凄い圧を母親から感じた。
忘れていた、僕はこの母親に縛られていることを。
「私…部屋に帰るね」
「は〜いどうぞ〜」
僕は急いで、部屋に帰った。
「なんでこんな服を着ないといけないのかな」
僕は幼い頃から、女の子として暮らしていた。
なんでも、僕が産まれる前から、娘が欲しいと淡い期待をしていたらしい。
それで産まれたのは、男の子の僕だった。
5歳までは普通に育てていたが、中性的な顔に気づいた母親が、
女の子の格好をさせたら大変可愛らしかったらしく、それから地獄が始まった。
最初こそ僕は、嫌と感じてはいなかった。
学年が上がるにつれて体の成長が、男の子に近くなっていった事に気づいた。
それに僕は男の中でも華奢な体格で、より病的に女装させられていた。
このおかしな愛情によって、自分の意思とは別に行動する様になった。
それは、男の自分と女の自分を行き来する地獄の日々である。
これから朝まで、最悪な時間が流れて行くのだ。
この日々がオカシイと言う人も、普通じゃないと言う人もいると思うが、
この嫌な日々を続けるのが、僕にとって普通の生活である。
終。
執筆の狙い
少し味変で、両親に縛られている少年のお話です。
短いですけど、感想お待ちしています。