からっぽ
僕は愛されてない。必要とされてない。わかってる。涙もでない。からっぽなんだ。
日曜日に、父さんが母さんと離婚すると言った。父さんには他に好きな人がいて、赤ちゃんが産まれるんだって。
「汚らわしい不倫」
って母さんがティッシュで涙と鼻水を拭きながら叫んだ。
埃でざらざらしたテーブルに唾が飛ぶ。髪を振り乱して父さんを罵る母さんは、教科書に載ってた般若面そっくりだ。
静かに息を吐く父さんは髭も剃らず、目の下に隈を作ってる。
僕は月曜日に始まる中間テストの勉強もできずに硬い木の椅子に座らせられていた。
床には今朝の新聞が広がったままで、冷凍シューマイの袋やティッシュが散乱してる。流し台にはご飯のこびりついた茶碗が放ってあった。かすかに臭い。
夕方なのに朝から何にも食べてない。ぐうう、とお腹が鳴っている。ひもじいよ。常備してあるカップ麺を美味しいとは思えないけど、食べたかった。
「おまえは、どっちについて行きたいんだ?」
親の義務として父さんが訊いた。
どうしよう。どうしたらいい?
朝から、ずっと悩んでた。
よそに女の人と赤ちゃんがいる父さんにとって僕はお荷物だ。期待する答えじゃなかったら、ごめんなさい。
専業主婦で来て家事もろくにしない、文句ばかりの母さんに、一生愚痴を聞かされるのは嫌だ。母さんにとって僕は、欲求不満のはけ口でしかない。
家庭を捨てて、新しい女の人を選んだ父さんは僕に愛情などないに等しい。ただし、金を稼いでる。
僕は高校へ行き、大学まで進学したい。母さんの下で、ちっぽけな養育費で貧しい生活をするより、父さんの経済力に頼りたい。
なけなしの頭で打算。
懸命に考えた。
「相手の女の人がいいなら、中学を卒業するまでの一年は父さんといたい。その後は全寮制の高校へ」
言い終わらないうちに頭にリモコンが飛んできて目頭を直撃した。痛みと衝撃で、瞼の裏がチカチカする。
「この、裏切りもんが」
雄叫びを上げた母さんが僕に飛びかかってきた。殴る殴る。痛い。痛い。逃げたら、髪を引っ張って背中を蹴られた。
興奮する母さんを止めようとして、父さんが足を滑らせて尻餅をついた。
「あんたの子じゃないから、口だしすんな」
半狂乱で意味不明な言葉をうなる母さんから、かろうじて聞き取れた。
心と身体の痛みをこらえて悟った。
僕は父さんとは暮らせない。
執筆の狙い
どのような続きを連想しますか?
なろう系を意識して書いてみました。
以前、鍛練場へ投稿したものに大分手を入れてます。ストーリーを覚えてる人、二回もごめんなさい。