Pの独り言
知恵袋の英語カテというのは海千山千というか魑魅魍魎《ちみもうりょう》というか、そんな輩がうごめく所だとPは感じていた。そこは、ちょっとした言い間違いや厳密でない言葉を使うと、すぐさま指摘されるという殺るか殺られるかの世界である。”文”のことを”文章”なんて書いたら、それこそ生き馬の目を抜く早業で彼らの餌食になる。
そんなもんだから、質問者と回答者の間だけでなく、回答者同士でも、たびたびもめる。複数の解釈が可能な文法でも、自分の主張こそ正しい、他の回答者や世にある参考書の多くはデタラメだという困ったカテマスもいる。
カテマスというのはカテゴリーマスターの略で、回答数や獲得したBA、いわゆるベストアンサーの数の多い人に与えられる称号である。貰っても特にメリットはないが、これ欲しさに、自作自演とかChatGPTとか手段を選ばず獲りにいく人も珍しくない。
なのでカテマスといっても正しいかどうかの目安にはならないのだが、中には言語学者並みの知識を持っている方々もいる。
残念なのは、そういった方々は大抵残念な方々なのである。質問者を助けるというよりも、自分の知識を披露したいだけで、時にbe動詞もあやふやな質問者に対して高校でも習わないような古代英語にまで遡った回答をする。また、そこには生半可な知識で返信する回答者を見下して攻撃したいという別の目的まで隠されている。
P自身も何度かやりとりしたことがあった。この手の人たちは論理的に反論できなくなると、攻撃対象を意見ではなく相手そのものに切り替えてくるきらいがある。こうなってくると何を言っても曲解されて、それについて攻(責)めてくるので話し合いにならない。
藁人形論法、ストローマンの誤謬《ごびゅう》という間違った論法である。
本来、質問者の疑問を解決することを目的としたサイトなのに、質問者を置き去りに回答者同士のバトルに発展してしまうこともしばしば。それは最早ただの悪口合戦にすぎない。本人たちは気づいていないのか知らないが、はたから見ていると本当に醜いものだ、他所でやってくれとPは常々思っていた。そう言った人たちに一度目をつけられると、それ以降ストーカーと化し執拗に攻撃しようとしてくるので始末が悪い。
「なんだかなぁ」Pはため息まじりに呟く。
中には、浅い知識で回答する人に恥をかかせてやろうと、自分で答えを知っているのに、誤答しやすい質問を立てる輩までいる。
Pはこれを罠質問と命名していた。長いこと英語カテにいると、質問の意図というものが透けて見えるようになってくる。ある日、Pは罠質問と思しき質問を見かけた。そこに気の毒な回答者が現れた。案の定、質問者は取ってつけたような論法をかざしてその回答者を論破しようとしてきた。その回答者の返信は途絶えた。
これは見ていて気持ちの良いものでは無い。そう思ったPは敢えて隙のある回答をした。質問者は新たな獲物が網にかかったと嬉々として返信してきた。逆に自分が罠に飛び込んだとも知らずに。
その後のやりとりで予想通りストローマンだと分かった。質問には基本的に有効期限がある。Pは返り討ちにして最終日に「延長戦をお望みでしたら新たな質問を立ててリンク貼ってもらえば伺います」とコメントした。返信はこなかった。
「何だかなぁ」
こういうことがしたいのでは無いんだとPは思った。学生時代ロクに英語ができなかった自分が、同じような人の助けとなればと思い、いつも回答していた。BAとかカテマスとか何の用途もないような知恵コインとかどうでも良かったのだけど、返信すらしない質問者の多さにも辟易してきた。
「何だかなぁ」
ちょっと嫌気がさして、数学カテにうつった。数学も中学の時に赤点ばかりだったけど、改めて見てみるとパズルのように結構面白いものだとPは思った。そこで、ちょっとした疑問を質問してみた。カテマスからの回答があったが、よくわからない部分を聞き返した。どうもその方は読解力に問題があるのか、質問を取り違えて勝手にヒートアップしていった。その人は権威ある数学者のツイートを、自分の主張を裏付ける材料として載せた。そこには”式として正しい”と書いてあるのに、”式として等しい”と間違った解釈をしていた。そこを指摘したら「式として正しいとは、両辺が等しいという意味だから同じことだ」と主張した。
「不等式は正しい式だけど、等しくないですよ」とPは返信したが、火に油だった。
相手は不快感を露わにして個人攻撃に切り替えてきた。
「何だかなぁ」
この人もストローマンか。Pは一応その人にBAをあげて質問を打ち切った。論破したいんじゃない、疑問を解消したいだけなんだと思ったが、ストローマンとは議論するだけ無駄である。
次に訪れたのはクイズカテ。Pは論理クイズが好きだったからである。こちらは割と平和的だった。
Pはストーリー仕立てのクイズを投稿するようになった。エンタメ的に楽しんでもらえたらよいかなと考えてのことだ。常連回答者もつくようになったが、他の回答者は間違えたくないというプライドが働くのか、閲覧数は増えるものの回答者数は伸びない。常連者が誤答して、それをヒントに正解をかっさらう人が出てきた。常連回答者まで回答を躊躇うようになった。
「何だかなぁ」
小説家を目指しているわけではなかったが、頭にあった構想を形にしたくなった。「このミステリーがすごい」は応募規定が厳しそうで尻込みした。ひょんなことからカクヨムというサイトを知った。フォーマットを気にせずスマホでできる気軽さが良かった。
とは言え、参加者が多すぎて秒で埋もれる。そこで小説カテにリンクを貼って感想を求めた。二作品についた感想は三件だけだったが、好意的な意見にPは舞い上がった。
その後、小説カテでショートショートをいくつか上げるようになった。肯定的な意見も否定的な意見もあった。好みは人それぞれなので、否定的な意見も参考になったが、ハシビロコウのアイコンを使っているカテマスの回答には首をひねった。
「類型的で面白くない」という意見は良いとして、「あーあ、これでブラックリスト行きですね。分かっているのに言わずにいられない、バカですね私」という行は何がいいたいのだろうと返信に困った。
とは言え、せっかく回答をくれたわけだからとりあえず「ご自分でわかっているなら、こちらから申し上げることはありません」と返信した。すると、そこについた返信は目を疑うものだった。
「上から目線サイコー!」
小説カテのカテマスがそんな発言をすることが信じられなかったが、Pは一応返信しておくことにした。
「謙譲語は上から目線ではなく、下から目線ですよ。カテマスさん」
ハシビロコウとのやりとりはそこで途絶えた。
カテマスだからと言って、中身があるとは限らないことは英語カテで重々承知していたけども、仮にも小説カテで謙譲語も知らないのかと、そのレベルの低さに落胆した。
もっとちゃんとしたとこはないだろうかとPはサイトを調べてみた。すると、色々なサイトのリンクが紹介されているページを見つけた。その中で目を引いたのが「作家でごはん」である。なんでも、プロ志向のサイトで、ここの鍛錬場で好意的な意見をもらえたら凄いみたいなことが書いてあった。そういったところなら、つまらない争いもないだろう。
カクヨムに書いた話を一話ごとコピペするのは面倒だと思い、リンクを貼って良いものかと疑問に思った。そこでPは伝言板にそれを質問として投稿した。何日かチェックしたが返信はつかないので、運営に問い合わせた。
よくよく伝言板を見てみると、お二方がもめておられる。ああ、ここも荒れているのかと残念に思った。
運営から返事があった。直接作品を投稿することを推奨しているとのことだったので、それに従うことにした。
疑問は解消したが、お二方の動向が気になったのでPは再び伝言板を覗く。すると、「こうなったらお題対決だ!」的な、グルメ漫画みたいな展開になっていた。Pは感動した。舌戦はよろしくないけど、小説サイトらしく小説対決というのは健全で面白そうだと。
お題が発表されるのを今か今かと待った。そして、そのお題を見てPは固まった。
「◯ンコ」「マン◯」「マ◯コ」「ク◯トリス」
この中から一つ選ぶ方式とのことだった。これはよろしくない、PTAから苦情がきてしまう。何かできることはないかとPはおせっかいにも考えた。
「そうだ! このお題を使って、そっち方向じゃないオチつきのショートショートを前座として投稿しよう」それでそっち方向に行くことを防げるのではないだろうかとPは考えたのである。
全てのお題を書き上げて、Pは達成感を得た。お題チャレンジって楽しいね。程なく出題者の方からも好意的意見をいただいた。あとは動向を見守るのみ。
そして数日後。
「リクエストされたアドレスへのアクセス権限がありません」
伝言板が閉鎖していた。Pは思った。
「なんかゴメン」
どれも下ネタに直結するストーリーではなかったものの、そっち方向にミスリードさせていたのが良くなかったのだろうか?
気を取り直して鍛錬場。よく見たらこっちはこっちで荒れているようだ。
一方で確かにレベルの高さを感じる作品がある。でも、中には日本語を勉強中の外国人が書いたのであろうかと思うような物もあった。文章以前に日本語そのものが破綻している。そんなものにも真面目なコメントがついているということは、自分には理解できない高度な芸術的作品かと思い、最後まで読んでみようかとチャレンジしてみた。
「うん、ムリ」Pは匙を投げた。
そこで気づいたが、何か壮大な争いを連想させる名前だったので、Pは関わらないでおこうと、そっと戻るボタンをタップした。
嫌味でも当てつけでもなく、人に押し付けるルールでもなく、Pは自分ルールとしてコメントするなら流し読みすることなく最後まで読む、最後まで読めないならコメントしないと決めていた。敬愛する小林泰三先生のホラー小説「玩具修理者」は主人公と女性の最後のセリフが本当にホラー。そこだけ読んでもそこだけ読まなくても、その作品の魅力はわからないからだ。
他の作品を読んでみると、そこまで破綻はしてないものの、遠慮なく言わせて貰えば文章の苦手な学生が書いた作文みたいな物もあった。面白くないのはしょうがないとしても、Pは読みにくい文章というものがちょっと許せない人であり、一般的な人が知らないであろう言葉を何の説明もなく当たり前のようにポンポン使うというのも強い抵抗を感じる。「こんな言葉くらい知っているよね?」と小馬鹿にされているような気になってしまうからだ。なので、そういったものは指摘せずにはいられない。
多分その性格は小学生の時に初めて買った小説が原因なのだろう。それはひどく読みにくい文章で、何度もトライしたものの毎回最初の五ページくらいで心が折れた。そのせいで、大人になるまで自発的に小説を読もうなどと思わなくなった。
そして、自分の作品にもコメントがついた。確かに厳し目ではあるけども、そう言った意見もためになった。ただ「仕掛けがあからさま」「新聞記事のよう」という意見は具体的にどこを指しているのだろうと思い、尋ねたものの返信が途絶えたので、結局批判したいだけの人もいるんだなと結論づけた。「素人くさい」という意見には、実際ズブの素人なので否定はしなかった。
あんまり無遠慮に人の指摘をしていると、「だったらお前が書いてみろ」と言われそうな気がして、言われる前にやってみることにした。ふと見かけた童話を現代版にしたような投稿に、自分ならこうする的な案をフルバージョンで返答した。自分でいうのも何だがPは、原文よりもずいぶん良くなったと思ったが、微妙な空気になった。
うん、やらない方が良かったみたい。
「なんかゴメン」
鍛錬場には二週間縛りがある。欲張ってニコイチで七万字を超える投稿をした。最後まで読んでもらえなかったが、まぁ長すぎるし、しょうがないかと思った。最後まで読ませる力がないと思い、しばらくショートショートで修行しようと決意する。作家でごはんを離れようと思ったが、意外とすぐに結構な量が書けたので舌の根も乾かぬうちに舞い戻った。ちなみに、前述の伝言板で書いたお題の一つ、○ンコも加筆修正してそこに載せた。他の三つの中で特にク◯トリスは、個人的に良い出来だとは思っていたものの、タイトルの字面的にまずいかと思い今のところ掲載を見合わせている。
誤字脱字というのは誰しもあることで、特に書いた本人ほど気づきにくい。それは脳内にある原文が補正をかけてしまうからだと思う。なので、Pは気付いた誤字や誤用を嫌味にならないよう指摘しようと心がけていた。それは自分の作品にも、あるなら修正したいので指摘してほしいという気持ちの表れでもあったのだが、しばらく続けてみてやっぱり嫌味に響くようだと思った。
「なんかゴメン」
それでも感想は正直に書こう。特定の誰かが嫌いとかではないので、あくまで作品に対する正直な感想を書こうと思った。
そこで、小説というより食レポみたいな作品を見た。思ったことをそのまま書いたが、微妙にまずかったみたいだ。
「なんかゴメン」
他の方は小説としてみているようで、それがふとした疑問に繋がった。実のところPは、読者レポーターとして一時期バイク雑誌に連載コーナーを持っていた。お店に取材許可を取って取材をしていた経験がある。ほかにもツーリングでどこどこに行って何を食べたかというのを写真付きで書いていたわけだけど、もしかしてそれも小説と言っちゃって良いのかなと。とすると、そこで僅かばかりとは言え、原稿料を貰っていた自分はセミプロだったのかと考えればそれもアリかと都合よく解釈した。
Pはいわゆる純文学というものの良し悪しがわからない人である。でもそう言った人の意見も参考になるものかと思いコメントしたのだが、そこで投稿者を怒らせてしまった。
「なんかゴメン」
そしてある日、本当に面白いと思う作品を見た。それまでしたことのない賛辞をおくったが、意外にも結構厳しい意見が多数見受けられた。もしや、あちこちに言いたいことを書いてる自分が褒めたせいではないかとPは思った。
「なんかゴメン」
そして、コメント欄の雲行きがだんだん怪しくなってきた。冒頭の英語カテの話にもあるように、Pは人のところで回答者同士が争ったり、舌戦の応酬になったり、ハライチのコントみたいにいつのまにか全然関係ない話になっちゃったりするのはよろしくないと考えている人なので離脱した。
人の感想は様々である。それは良いが、自分が良いと思ったものが酷評の嵐になるのは、いたたまれない気もした。だが見方を変えれば、今後はそれよりもはるかにレベルが高い作品がポンポン投稿されると言うことかもしれない。そう思うことにした。
その後、自分があれこれ指摘を並べたコメントは一週間返答ルールも無視されて返信がついてないことに気づいた。指摘が辛辣すぎたのだろうか? そういえば、その前の作品でも苦言しか書かなかったような気がする。
「なんかゴメン」
久しぶりに小説カテを覗いてみる。すると、Mさんが興味深い投稿をしていた。このMさんはいわゆるショートショートの常連投稿者で、その作風は荒削りで時に不適切な題材もあったものの、その積極的な創作にかける姿勢は好感が持てた。
Mさんもご多分に漏れず、よく手厳しい批判を受けていた。いつも言われっぱなしでは面白くないと思ったのだろう、Mさんは浮浪者のような写真とそこに映る人の、読めもしないような名前を提示して、誰かこの題材でショートショートを書いてくださいと投稿していた。
普段Mさんの作品にケチをつけている人たちは貝のように口を閉ざした。一部反応する人も、「その人物を知らない」と言いわけして結局書かない。
Pはそう言った回答をみて、何を的外れなことを言っているのだろうと思った。写真だけで書けるではないかと。そこにさらに名前まで設定してくれるなら、むしろ書きやすくなるとさえ思えた。Pはその名前を検索した。
すぐにそれがハシビロコウのカテマスがかつて使っていたIDだと分かった。Mさんは批判するなら自分でも書いてみろという意図だったのだと思う。PはMさんを批判する目的はなかったが、お題チャレンジというものが単純に面白そうなのでショートショートを書いて投稿しておいた。Mさんは好意的な返信をくれたが、結局他には誰も投稿するものはいなかった。
ここでPの中で、今の小説カテは結局質問者を上からこきおろしたいだけの人たちの集まりではないかという疑惑が生まれた。そこでそれを確かめるべくある質問を投稿してみることにした。
「老人と海をあなたなりにアレンジしてください」
主題を冒頭にカギカッコまでつけて明示した。
その文中に書いたことは、自分には老人と海の面白さがわからないということと、自分だったらこのようなストーリーに仕上げるというアレンジ案。
予想通りと言えば予想通りなのだが、案の定回答者は的外れな回答をした。
その作品の魅力を語ったり、Pのアレンジ案を鼻で笑ったりといった具合である。
この人たちには読解力というものがないのだろうかとPは思った。どれもこれも、あれだけ明確にしておいた主題の答えではない。知った風に作品を語っているが、この短く主題も明確な質問文が理解できない頭で、本当に小説を理解できるのかと、単に字面を撫でているだけではないかと、それで年間何十冊も本を読んでいるなどと数の自慢をしているのかと、どっかの評論家の受け売りではないかと思った。
それを指摘した途端やはり返信が途絶えた。一名は、アレンジするつもりはないと答えた。それならわざわざ書き込むなとPは思った。もう一名は、指摘後漠然とした設定だけを回答した。批判されないよう守りに入っているのが透けて見えた。Pは自分が書いたような、あらすじに仕立てて欲しいと言ったがやはり返信が途絶えた。実のところ、主題に対する回答はどうでもよかった。ちゃんと読解できる人がどれだけいるかを確かめたいだけだった。結果として、今の小説カテは何の価値もないところだと思った。言葉の厳密性がある分、英語カテの方がよっぽどちゃんとしているとさえ思えた。
再び鍛錬場。以前見たホラー的な作品が加筆修正されていた。うーん、相変わらず勿体ない。色々魅力的な設定が散りばめられているのに、ただ散らばったまんまというか、散らかっているだけになっていた。そういった設定を生み出す発想力はスゴイのに、何故それらを活かさないのだろうとPは疑問に思った。キーマンを使いあぐねていることと、寄り道パートを誰か書いてくれないかなと書いてあった。よし、Pなりにアレンジして返信しよう。何か参考になるかもしれないしと思いフルバージョンのP案を返答した。思いつきで書いたけど、我ながらいいできだと思った。キャラ分けもしたし、情景設定も利用したし、キーマンの活用、物語の重要なアイテムである人形も過不足なく使い、笑いを散りばめてからのホラーなオチも決めた。気に入ってもらえるに違いない。
「考える時間をください」そこで返信は途絶えた。
「なんかゴメン」
結局のところ、人の作品をあれこれいじるのはよろしくないのかもしれないとPは考えた。その後に見た別の方のホラー小説は、その手の既存ストーリーと同じ展開からオチが予想できてしまった。ただ、この作品を読んで、ホラーというジャンル、運転手のいない車という作中の設定からアイデアが閃いた。やはり他人の作品を読むのは勉強になるものだ。それをP案として返答しようかとも思ったが、先の懸念と、もはや全く異なるストーリーになるので自分の作品とすることにした。
久しぶりに自分の作品に返信がついたようだ。確認すると、未読だというが、後で読んだらコメントする旨とブログのCMが書いてあった。結局来なかった。本当に通りすがりだったのだなと思った。
「なんかゴ……」
ここは謝るところじゃないなとPは口をつぐんだ。
そして二週間縛り中、鍛錬場を覗いて、またかとPはため息をつく。プロに近い方々が多いということで勝手に期待していたものの、ある点においては知恵袋とたいして変わらないなとつくづく残念に思った。どのような分野でも造詣が深くなると、人は他人を見下し攻撃的になるものかと。いや、そんなはずはない。英語カテには言語学者レベルのカテマスが三人いたが、あの人たちは決してそんな風ではな…..
まぁとにかく良くないなとPは思った。
揉めた時はスレッドとかで平和的に、当事者双方かあるいは中立的立場の人が出したお題でショートショート対決でもしたらどうかとPは思う。口喧嘩じゃなくて、後腐れのない試合みたいなやつ。
当事者以外の参加も可として、読むだけの人はどれが良かったかコメントするとか。その方が、建設的だし第三者も楽しめて学ぶものもあると思う。少なくとも誰かが誰かを罵っているのを見るより意味のあるものになるのではないかとPは考えた。
もう少ししたら、二週間縛りが解ける。そんな時に、前回Pのコメントを返答スルーした方が新たに投稿していた。毎回苦言ばかりというのも感じが悪いなと思い、嘘やお世辞を言うつもりはないが、今回はどこかいい所を見つけて褒めようと開いてみた。
三つ目の読点で心が折れた。
句読点の使い方が独特すぎる。とても全部読める気がしないと思ったPは、静かに戻るボタンをタップした。
確か前作で指摘したはずと思って過去ログを確認しようとしたが、Pは途中で手を止めた。
そういった方は他にもいる。きっとそれは彼らの譲れないスタイルなんだろう。軸がブレないというのは、むしろいいことかもしれない。Pにも譲れないスタイルというものがある。それは指摘されても変えないだろう。作家の個性なのだ。うん、そうだ、そうに違いない。でも問題がある。Pの自分ルール上、全部読めないなら彼らへのコメントはできないということだ。どうしたらいいものかと思案した。
まぁそれはそれでいいかとPは思った。
今後その方々の作品には手をつけないでおこう。そこは他の方々に任せればいい。
ふと英語カテのライティング添削が頭をよぎった。それは数ある質問の中で最も大変な質問である。読むのも大変、直しも大変、苦労する割には返信率が異様に低い上、修正することなく同じ質問を新たに立てる人が多い。なんか似てる。
そう思ったら、その作品にコメントがついていることに気がついた。一体誰がどんなコメントをしているのだろうと気になって開いてみた。
Pはそっと画面を閉じた。
なるほど、やはりまだ自分はその境地に達していないということなのだろう。
と、Pはここで、果たしてこの長文は小説なのかと疑問に思った。じゃあ、この他に小説を書いておけば良いかと、他の方が書いたホラー小説にヒントをもらって書いた作品を置いてくことにした。
【幽霊って信じる?】
「ねぇ修、幽霊って信じる?」
運転席でハンドルを握る加奈子から突然そう声をかけられて、隣に座っていた僕は肩をビクッと震わせ我に返った。
「またそれか」僕は呆れたように漏らす。
幼い頃から霊感があるという加奈子は、幽霊の存在を信じない僕に考えを改めさせようとしてか、唐突にそのような質問を切り出すことが何度もあった。
「いるわけないだろ」ため息混じりに僕は答えた。
正直言ってうんざりしていた。加奈子は嘘を言うような人間ではないことはわかっている。ようは何でもかんでも幽霊に結びつけて信じ込んでしまっているだけなんだ。結婚してからはあまり言わなくなったと思っていたのに、またそれか。
「いいかい」僕は加奈子に顔を向ける。見慣れているはずの加奈子の顔がいつもとどこか違って見えた。
「前にも言っただろう? 幽霊が魂だとして何で服を着ているんだ? もし、幽霊が着ていた上着を脱いでどこかに置き忘れたらその服はどうなる?」
「服装はイメージなのよ」加奈子はお決まりのセリフで答えた。
「それはその人が亡くなった時の服装だったり、普段よく着ていたもの、つまり幽霊自身が無意識に自分のトレードマークをイメージ化してその身に纏っているの」
「それじゃあ、気分次第で着替え放題なのに、いつも同じ服を着ているということかい?」
「それは分からないけど、修だっていつもそのボーダーのシャツばかり着ているじゃない」
そうだったっけと考えてみるが覚えがない、他にポロシャツもよく着ていたような気もするのだが。まぁ昨日食べたものさえ覚えていないのだから無理もない。頑張れば思い出せるような気もするが、頭が痛くなりそうなので考えるのをやめた。僕は視線を外へ向ける。夜の十時を回っていたが、いつもならもっと人通りがあるはずなのに、今日は人もまばらだ。
「じゃあ明日は違うのにするよ」
「そういうことを言っているんじゃないの」
「待てまだある、幽霊は人を触れるのに、何故人は幽霊を触れない?」
「風だってそうじゃない。私たちは風に押されるけど、風を押すことはできないわ」
どうしても僕を説き伏せたいのか、これまでに聞いた事のない理由を加奈子は述べてみせた。
「前にも言っただろう、昔の兵隊や落武者の幽霊がスマホやパソコンにメールを送ってくるとか馬鹿げているだろう」
「そう言った話が全部本当とは言ってないわ」
どうしたんだろう、今日は全く引き下がらない。僕は早くこの不毛なやりとりを終わらせたいと思い、ついつい声が大きくなっていく。
「幽霊は物体をすり抜けられるなら、階段を登ったり、電車やタクシーに乗るなんておかしいと思わないかい?」
「不可能じゃないわ。きっと幽霊自身が生前そうだったように、できて当たり前とイメージしているからできるのよ」
「何でそんなこと言えるんだよ」
「何でもよ」
ダメだ話にならない。切り口を変えよう。
「それに、幽霊が見える人と見えない人がいるなんておかしくないか?」
「それは波長だと思うの。ラジオの周波数と同じよ。幽霊と波長があった人にだけ見えるんじゃないかしら?」
「根拠は?」
「ないわ」加奈子はそっけなく答えて、しばし気まずい沈黙が車内を支配した。
ふと、加奈子がシートベルトをしていないことに気がついて、僕は沈黙を破った。
「うっかりしてたわ。でも知らない? 妊婦は免除されるのよ」
「妊婦って、まだ四か月だろ?」
「六か月よ」と前を見据えたまま加奈子は返した。
そうだったか、うっかりしていた。加奈子からそれを責められることを恐れて僕はすぐに言葉を繋ぐ。
「何か月であろうとも、妊婦がシートベルトを免除されているわけじゃない。陣痛とか出血とかあくまでやむを得ない理由があるときだけだ」
加奈子はウィンカーを出して右折レーンに入る。信号で止まると、黙ってシートベルトを締めた。
信号が青に変わり、加奈子は車を交差点に侵入させた。その時、対向車線を猛スピードで直進してくる車が見えた。
「加奈子危ない! 対向車だ」僕は咄嗟に声を上げる。
「分かってる」加奈子はそう言って車を止める。
「あれ?」と思わず僕は声を漏らす。
「どうしたの? 幽霊でも見たような顔して」加奈子が不思議そうにこちらを見て問いかける。
「いや、何でもない」
「そう」加奈子はそれ以上追求しなかった。
しかし、今のは何だったんだろう。何かを見たのではない、逆だ。見えなかったんだ。対向車の運転手が。だが、そんな事を言えばそれこそ鬼の首を取ったように、幽霊の存在を認めさせようとするだろう。僕はその疑問を飲み込んだ。
「ところでだけど、……」僕は代わりに別の疑問を問いかけた。
「何?」
「どこに向かっているんだい?」
「そうね、肝試しとでも言っておこうかしら」
僕はその答えを聞いて背筋にうすら寒いものを感じたような気がした。幽霊などいないとは思っている。だがそれとこれとは話が別だ。怖いものは怖い。幽霊などいないと言っている科学者だって、いざ真夜中に心霊スポットに一人で行けなどと言われたら気味の悪さを感じないなんてことはないだろう。
「怖いの? それって色々おかしくない?」僕のそんな考えを見透かしたように加奈子は僕の目を見つめて言った。
「そうじゃない」そうなんだけどと思いつつ僕は声を荒《あら》らげた。
「だいたい何を考えているんだ! 妊娠しているってのに、こんな時間に肝試しに出かけるなんて」僕は必死だった。
「もう安定期よ。それに日中じゃ肝試しにならないでしょ」
ど正論に返す言葉が見つからない。
「大丈夫、そんなに時間はかからない。すぐ帰るわ」加奈子はそう言って墓地の前に車を止めた。
悪い予感しかしない。大方、どこかのタイミングで僕を驚かせるつもりだろう。場合によっては何らかのギミックや加奈子の協力者が潜んでいるのかもしれない。再び見た加奈子の表情は同じ生き物とは思えなかった。「鬼め」と心の中で呟いた。
覚悟を決めて僕は加奈子と共に墓地を進む。一瞬人影が見えた気がして、反射的にそちらを向く。まさか本当に幽霊か? いや、恐らく他にも肝試しに来ている人がいるのだろう。
「修にも、見えたでしょ?」加奈子が当然のように僕に問いかける。
「何も見ちゃいない」認めたら負けだと思った。
「そう」加奈子は足を早めて一人先に進むと、すぐさま振り返って言った。
「じゃあこれは?」
※このあとオチパートです。オチの展開は予想できますか? 作品は完成しています。回答された方の内容によって変更することはありません。ただし、オチだけ当ててもダメですよ。それは、推理ドラマで適当な登場人物を犯人と予想して当たったと言っているようなものなので。なぜそのオチになると思ったか、もっともらしい理由から考えてください。なお100%言い切れるという理由はありません。
もう一本
【残念だけど……】
来週、次のプロジェクトを決めるミーティングが開催される。僕は何としてもそこで自分の実力をアピールしたい。とは言え、いくら考えてもこれといった案を出せずにいた。
「ようヒロシ、調子どうだ?」同期のマモルが僕の肩を叩いて聞く。
「最悪だよ、ずっと考えているけどさっぱりだ」
「ああ、来週のアレか。だけど、お前他にも先週のトラブルで主任から対策を求められてただろ?」
「すっかり忘れていたよ。いつものことだ、主任は仙台へ出張にいっている。帰って来る頃には忘れるさ」僕はそっけなく答えた。
「お前なぁ、そうやって、おざなりにするのは良くないぞ」
「分かってるよ。でも今回は見逃してくれよ。煮詰まっちゃって企画の叩き台すらできてないんだ」
「そんな状態で乗るか反るかの勝負に出たって難しいと思うぞ」
「大丈夫、まだ時間はある」そう言いつつも僕は焦っていた。
「チリーン」パソコンのモニターにメールが届いたことを知らせる通知が表示された。
僕はメールを開いた。送り主はスティーブ。去年アメリカの支社からうちの部署に一か月研修に来た人物だ。
“I’m coming!”
メールはその一文のみだった。
「お前、英語できたっけ?」モニターを覗きこみマモルが意外そうに言う。
「全然だよ。翻訳サイトを使ってる。でも流石にこれくらいはわかるよ。『私は来る』来週のミーティングのことだろう」
「ふーん」マモルは特に興味がなさそうだった。
「そう言う君はどうなんだ?」僕はマモルに尋ねた。
「俺はもうほとんどできている。あとはさらに細かいところを見直していくよ」
マモルはとにかく細かい、細かすぎてダメにしてしまうこともよくある。微に入り細を穿つというやつか。始めて会った時はそんな風ではなかった。意識的にスタイルを変えたのか、無意識なのかはわからない。
「ところで君は僕に何か用があってきたんじゃないのかい?」
「ああ、ヒロシはパソコン得意だろ。で、俺のプレゼン資料の細かい直しを手伝ってもらえないかな、なんてな」
空気が読めないやつとは思っていたが、これほどまでとは、僕はため息混じりに口を開く。
「あのなぁ、無理なことくらい見てわかるだろ」
「そこを何とかちょっとだけでいいからさ、藁にも縋《すが》る思いで来てるんだ。頼むよ」
「ちょっとだけだぞ」僕は気分転換がてら、マモルの作りかけの資料をモニターに表示した。
その時、オフィスのドアがあき、青と白のボーダーシャツを着た配達員が「お届けものです」と言うのが聞こえた。
「宅急便か、俺が対応するよ」そう言ってマモルは荷物を受け取りに行った。
「何だいそれ?」
「主任からお前宛だ」
「主任って仙台からってことか」僕は箱を受け取り中身を確認した。
「笹かまか」主任が差し入れだなんて晴天の霹靂もいいところだ。その期待を裏切るわけにはいかないな。
「いいとこあんじゃん」マモルは笹かまを一つ摘んで口に入れた。
「それ食ったら帰れよ」僕はマモルの資料を閉じた。
「え、何言ってんだよ! 俺の資料は?」
「情けは人の為ならずだ」
「ひでぇ、分かったよ。お前も頑張れよ」マモルはそう言い残し去っていった。
僕はミーティングでプレゼンをする代表者リストをモニターに表示した。そこには一際偉才を放つルーキーの名前があった。勝ち気で、何かにつけて目上の人間のアラ探しを得意とするいけすかないヤツだ。大方プレゼンで僕に恥をかかせて打ちのめそうと画策しているだろう。
笹かまを貰った手前、トラブルの件も済《な》し崩しにはできなくなった。
「見ていろよルーキー、お前の思い通りにはならない」僕は大きく息を吐いてから呟く。
「残念だけど、……」
執筆の狙い
ちょっと色々確認したいことがあって、試験的な投稿です。意図は明かせませんが、全部読んでもらっても、途中離脱でも、流し読みでも、”この投稿に関することなら”常識の範囲内で何を書いてもらってもよいです。
私の思惑を警戒してノーコメントでも、そもそも読まないというのもありですが、お気軽にどうぞ。