「ふうふ」は逆から読んでも「ふうふ」です 他1編
【「ふうふ」は逆から読んでも「ふうふ」です】
(やっとこの苦しみから解放されるんだ)と、妻は心の中で呟き走り出しました。テンポの良い足音に合わせるように、病院のリノリウムの床がキュウキュウ鳴いています。薄暗い廊下の先には、微かな光が見えていました。
夫との甘い結婚生活は、長くは続きませんでした。病気に罹った夫は、すっかり変わってしまったのです。負の連鎖に巻き込まれないよう、周囲の人たちは自然と去っていきました。残されたのは妻一人でした。
ベッドの上で苦しむ夫を視界の端に捉えながら、妻はとある夜に出会った不思議な男性の言葉を思い出します。「この瓶の中身を旦那に飲ませれば、あなたの人生が変わるよ」と優しく語る彼は、妻にとって一縷の望みでした。
夫の息づかいは激しさを増し、苦悶の表情が浮かんでいます。口の端から涎が糸を引き、真っ白なシーツを黒く濡らしました。微かに血も混じっているようです。
そこで妻は小瓶を取り出して、中身を夫の口に慎重に注ぎます。すると、どうでしょう。魔法のように夫の容体がみるみる変わっていきました。
見ると、夫は安らかな寝息を立てており、白い毛布が優しく上下しています。幸せそうな笑顔を浮かべているのは、いったいどんな夢を見ているのでしょうか。
「もう寝たのかしら? これなら大丈夫ね」と、妻は小さく呟きました。
※最後まで読んだ人は、下(ラスト)から上(冒頭)に向かって段落ごとに読んで見てください。
【is this your dog?】
最初に違和感を覚えたのは、散歩の時だった。いつもなら玄関を開けた途端に勢いよく外に飛び出すマロンが、私の後をぺちぺちとお行儀よくついてくる。塀の上で日向ぼっこをしている野良猫を見かけても、全然吠えやしない。家に帰るのが嫌で、折り返し地点で地面にひれ伏すことも無かった。
体調でも悪いのかと思ったが、ドッグフードが入った餌の容器は空っぽになっている。食欲は旺盛らしい。でも、食後に少しだけ与えていた大好物のバナナには、見向きもしなかった。
「なんだかマロン、ちょっと様子が違くない?」
祖母に尋ねたが、「いつも通り元気でしょ」とにべもなく返された。たしかにおもちゃのボールを投げれば、カシャカシャと床を滑るように駆けていく。元気が有り余っていることこの上なしだ。
「あんたは久しぶり会うから、そう感じるんだよ」
「久しぶりって言っても、二週間前に会ったばかりでしょ」
「二週間前のことなんて、あたしはぜんぜん覚えていないけどね」
最近物忘れがとくに激しくなった祖母が、ブラックジョークを投げかけてくる。反応に困っている私の様子を楽しんでいるのか、顔中の皺がより一層深くなった。
祖母が飼っているマロンとの出会いは七年前。当時、高校二年生だった私が久しぶりに祖母の家に遊びに来た時、いつの間にか我が物顔で存在していた。
詳しい経緯は分からないけれど、知人から譲ってもらったらしい。少なく見積もっても七歳だから、人間でいえば中年のおじさんだ。でも、豆しばのような見た目・サイズ感のおかげで、散歩をすればみんな「可愛いワンちゃんだね」と褒めてくれる。
散歩は週二回で、私の担当だ。遠くのスーパーにもバスを乗り継いで行くなど元気な祖母だが、マロンに引っ張られて転倒したことがあって、それからは私が代わりに行っている。
「小型犬でも侮れないもんだねぇ」
祖母は松葉づえをつきながら感心していたが、母は「もう歳なんだから、あまり迷惑をかけないでちょうだい」とあまりいい顔をしなかった。
「この先も一人で暮らすのは無理なんじゃないか」
「知り合いが運営している老人ホームに空きがでたらしいよ」
「だったらもう預けた方がいいのかもな」
怪我をしたその夜、祖母の今後について父と母が膝を突き合せながら話し込んでいた。まるでペットを処分するみたいな二人の話しぶりに、なんだか腹がムカムカしてくる。私はお祖母ちゃん子なのだ。
「だったら、ウチで一緒に暮らせばいいじゃん」
と、思わず言ってしまった。
「冗談じゃないわよ」
母はそう言い放ってみかんの皮を乱暴にゴミ箱に投げ入れる。その様子を見て、父は苦笑いの表情を浮かべていた。
その夜の顛末を祖母に話したら、「こっちこそ冗談じゃないわよ。いい迷惑だ」と、一言追加して憤慨していた。その怒った表情は母にとても似ていて、やっぱり親子なんだとふと思い知らされる。
結局のところ、祖母は老人ホームにも我が家にも行くことは無かった。
「これまでも好き勝手やってきたんだから、今さら他人の世話になんかならないわよ」
「お母さんは娘でしょ。他人じゃないじゃん」
「血は繋がっていたって大した付き合いもないんじゃ、他人とそう変わらんよ」
「そんなもんかな」
「そんなもんだよ」
二人の間に何があったかは知らないし、聞く気も無かった。もっとも、聞いたとしても教えてくれはしなかっただろうけれど。
私がマロンの散歩を週二回するついでに、祖母の様子を見てくる。それが、最終的な落としどころとなった。
◆
スマホの写真を整理していたら、マロンと散歩している様子を撮影した動画を発見した。違和感を覚える以前のマロンは、向かいからやって来た大型犬のグレート・ピレニーズに吠えている。白いモフモフが本気を出せばマロンなんて一飲みなのに、無謀な奴。ワンワンと吠えているその動画を見ている内に、今のマロンと声質が違っていることに気がついた。
動画のマロンは、少し低音の「ワンワン」で、全ての音に濁音が混ざっている感じ。それに対し今のマロンは、どちらかと「キャンキャン」に近い「ワンワン」だ。もちろん、これまで気づかなかったのだから明確な違いというわけではなく、「ワンワン」という音階の中で少しだけ高低のズレがあるぐらい。比較対象がなければ、私自身もきっと気づかなかっただろう。
翌日、祖母に声の違和感のことを告げたら、
「知らなかったのかい? 犬にも声変わりってのはあるんだよ」
と、お気に入りの紅茶を啜りながら言った。
「ほんとに? あまり聞いたことないけど」
「本当だってば。動物病院の先生に聞いたんだから」
「マロンはメスなのに?」
「犬はメスだって声変わりするんだよ」
「でも、声が高くなることってあるの? 普通は低くなるもんじゃないの」
「それは私に聞かれてもねえ。マロンに尋ねてみればいいじゃない」
そう言うと祖母は、「夕ご飯は食べてくだろ? カレーにするから材料を買ってきてちょうだい」と私に財布を投げよこす。散歩後に祖母とご飯を食べるのも、すっかりルーティンになった。
近所のスーパーに行って、グラム108円の豚コマとしめじと人参とバーモントカレーの中辛をカゴに入れる。冷凍ストックできるよう、メモ書きより多めに買うことにした。スーパーを一回りする頃には、紅茶や羊羹、食パン、豆腐、長ネギもカゴに追加していた。
「足りないものがあれば自分でスーパーに行くからいいよ」
祖母はそう言うだろうが、高齢者の独り暮らしだと思うと、ついつい余計な物まで買ってしまう。カレー屋さんで外食したと思えば、安いものだ。
祖母は恐らく、私以外に食卓を囲む人はいない。旦那さん――つまり私の祖父は十数年前に癌で亡くなったらしい。私は幼かったからほとんど記憶に残っていない。ただ、タバコの匂いを嗅ぐと祖父を思い出すから、きっとそう言うことなんだろう。
祖母と祖父は当時には珍しく恋愛結婚で、しかも略奪愛だったらしい。
「ウチの旦那さんには当時、奥さんと子どもがいてね。」
珍しくお酒を飲んで上機嫌だった祖母が、懐かしむように話してくれたことがあった。
「なにそれ、妻子がいる男を盗ったってこと?」
「そうなるのかね。もっとも、私たちが出会った頃には夫婦関係はすっかり冷え切っていたみたいだけれど」
ドラマでしか聞いたことがないような話が、祖母のしなびた唇からするすると零れ落ちる。
私の反応に気を良くした彼女は、押し入れから昔のアルバムを引っ張り出して見せてくれた。色褪せた写真の中には、私によく似た女性が映っていて、彫りの深い男性と腕を絡ませている。
「なんだかうまく言えないけれど、お祖母ちゃん凄いね」
「そうかい、照れるねえ」
「略奪愛ってことはみんなから反対されなかったの?」
「そりゃされたさ。時代も時代だしね。旦那さんの親戚はもちろん、ウチの親戚一同からも総すかんさ」
「そんなにもお祖父ちゃんのことが好きだったんだ」
「それもあるけれど、私自身の生き方の問題だね」
「生き方?」
「そう、私は欲しい物はどうやっても手に入れる性分なんだよ。そうやってこれまで生きてきたからね」
なかなかにしんどそうな生き方で、私にはいまいち理解できない。
「でも、みんなに祝福されたいとは思わなかったの?」
「そんなの糞くらえだよ。私の人生に責任を持ってくれない連中の言うことを、どうして聞かなきゃいけないんだい」
「かもしれないけどさ」
「まああの連中たちは、今でも許してはいないんじゃないかね」
祖母はそう言うと、くっくっと愉快そうに笑った。
たしかに、私以外の孫が祖母の家にやってきたという話は、これまで聞いたことが無かった。その上、たった一人の娘である母との折り合いも悪いのだ。
祖母の家を訪れるのは、孫である私の他には週二回だけやってくるヘルパーさんだけ。同年代の友人と遊びに行ったとか、習い事をしているとかも聞いたことがない。表面上は「よけいな付き合いがなくてせいせいする」と言っているが、本心はどうなのだろうか。
夕食後のデザートを準備するために台所に立つ祖母の背中が、いつもより小さく見えた。
目についた商品を適当に放り込んでいたら、買い物かごはいつの間にか満杯になっていた。レジ画面の表示は4325円と表示。物価が上がったことを最近特に実感する。祖母の財布から千円札を三枚出して、私の財布からは2005円を出した。
母と同じぐらいの年齢の店員さんから、レシートとお釣りを受け取る。小銭が多かったせいだろうか、財布を持った左手がずしりと沈んだ。
マイバッグに商品を詰め込んでいると、壁の掲示板に目がとまった。『リトルリーグで野球を始めて、未来の大谷選手を目指そう』『スパイク打ってストレス発散!ママさんバレー団員募集』といった類のポスターが所狭しと貼られている。その中の一枚に、私の目は釘付けになっていた。
『迷子の子犬を探しています。名前はココちゃんです』
こういう時に「ちゃん」と書いてしまう無神経さに微かな嫌悪感が湧いたが、それよりも気になるのは犬の特徴と一緒に貼られていた写真だ。ピースサインをしている小さな女の子の横でおすわりをしていたのは、マロンによく似た子犬だった。
念のためにと、私はポスターに記載されていた電話番号をスマホに登録した。あくまで念のため。
◆
マロンが脱走したのは、ちょうど十日前のことだった。私が大学の前期試験中で一週間ほど祖母の家に行けなくて、代わりに祖母がマロンの散歩をしようとした時らしい。なんでも、リードとハーネスを繋ぐ留め具が上手く嵌っていなくて、そのまま走り去ってしまったのだそうだ。
大学からすぐ駆けつけると、祖母は想像以上に打ちひしがれていた。無理もない。週二日だけの私とは違い、ずっと同じ時間を共にしてきた相棒が居なくなったのだから。心なしか最後に会った時よりも萎んで見える。試験期間だからと甘えず私が散歩すればよかったと、ふつふつと後悔の念が湧きだしてきた。
「そんなに落ち込まないで、私も一緒に探すからさ」
「お腹が空いたらきっとすぐ戻ってくるよ。犬って帰巣本能があるらしいからさ」
「いつ帰ってきてもいいように玄関を開けっぱなしにしてさ、ドッグフードも置いておこうよ」
「朝から何も食べてないの? 駄目だよ、まずは人間様が元気でいなきゃ」
「とりあえず弁当買ってくるから、ちょっと待っててね」
私の呼びかけに祖母は小さく頷く。相変わらず目は虚ろだが、意識ははっきりしているみたいなので少しだけ安堵した。
コンビニに行く途中、母に一応連絡だけしておいた。
「そういうわけだから、今日はお祖母ちゃんの家に泊まるね」
「了解。まあお祖母ちゃんの力になってあげな」
「お母さんもマロンを探すの手伝ってよ」
「私は別にいいけれど、あっちが嫌がるでしょ」
「仲直りするチャンスなのに」
「子どもが生意気いって。大人には色々あるのよ」
「どうせ大した理由じゃないくせに」
「かもね。まあその件はまた今度ね」
電話を切ると、スマホの画面にうっすら汗がついていた。闇の向こうからカエルの大合唱が聞こえてくる。昼と夜との境界線が曖昧なだらしない熱気が、全身にまとわりついてくる。
そうか、もう夏なんだ。弁当と一緒に祖母の好きなアイス饅頭を買って帰ろう。それはとても良い考えのように思えて、自然と歩調が速くなった。
マロンが見つかったのは脱走から三日後で、ちょうど全ての試験が終わった時に祖母から連絡が入った。
急いで祖母のアパートに駆け付けると、マロンが部屋の中をウロウロと動き回っていた。少し痩せた気もするが、三日間ずっと外にいたにも関わらず汚れはほとんど付着していなかった。食パンを焼いたような毛並みも、思ったよりも艶やかだ。
もっとも、週二回だけの付き合いだったから、以前の姿を明確に思い浮かべることはできないのだけれど。まあなんにしても元気なら何よりだ。
その夜、私は祖母の家に泊まり、マロンの帰還記念に簡単な祝杯をあげた。祖母は日本酒を冷で、私は賞味期限が切れかけのビール缶をたらふく飲んだ。だらしなく酔っ払う二人にビックリしたのか、マロンは終始落ち着かない様子だった。まるで初めて訪れた家をくまなく探索しているみたいと、酩酊状態の中でふと思った。
◆
自宅のテレビでバラエティ番組をぼんやり眺めていたら、警察から連絡があった。
「お宅のお祖母ちゃんがスーパーで万引きをしたので、身元引受人として警察署に来てください」
男性警察官の事務的な声が、雑音に交じってスマホの向こう側から流れてくる。明け方に見る現実感のない夢みたいだった。「ウチのお祖母ちゃんに限って……」と思ってしまった私は、将来立派な親ばかになることだろう。
間違いや詐欺の電話でないことを伝えるために、警察官は一文字ずつ区切りながらゆっくりと祖母の名前を口にした。どうやら夢ではないらしい。
コンビニに行く用のくたびれたダウンジャケットを手にとり、警察署に向かう。どうしようか悩んだが、母には連絡を入れずに家を出ることにした。その代わり、『夕飯は先に食べてていいよ』と殴り書きしたメモをテーブルに置いておいた。
夜のネオンを縫うように、両足を懸命に動かす。こうして祖母のために走るのは二回目か。マロンが脱走した夜のことをふと思い出す。あの日から約五ヶ月経ったことを、肌を刺す冷気が告げていた。
「寒いところをわざわざすみませんね」
先ほどの電話での事務的な対応とは違い、その警察官はこちらが申し訳なくなるぐらい平身低頭だった。
「それで祖母は大丈夫なんですか?」
「ええ、最初は取り乱していましたが、今はすっかり落ち着いていますよ」
「逮捕とかされちゃう感じですか」
「いえ、初犯ですし金額もそれほど高くはないので、微罪処分にしました。簡単に言えば、被害金額を払えば帰宅できるってことです」
「じゃあもう帰れるんですね」
「ただ財布にお金がほとんど無かったので、万引きした商品料金を代わりに払ってもらうことになるのですが……」
そう言うと警察官は、ポケットの中からメモを取り出した。リンゴ、どら焼き、ひき肉、人参、ツナ缶、切り昆布、突きこんにゃく、たらこ……合計で3347円だった。
「これだけのお金が払えなかったんですか」
「ええ、だいぶお金に困っていたみたいですよ」
いや、私自身も薄々感づいてはいたのだ。祖母が私に財布を預けるのは、年金の支給日である偶数月の15日以降であること。その時でも財布の中身は決して多くなかったこと。プライドの高いはずの祖母が、私のお金で買ってきた数々の商品を黙って受け取っていたこと。
夏休みの宿題をギリギリまでやらない子供のように、気づかないふりをして問題から逃げ続けていただけ。でも、二十歳の小娘である私に何ができたのだろうかとも正直思う。せいぜい、マロンの散歩をして、祖母と一緒に夕ご飯をたらふく食べるぐらい。その結果が今。きっとそれだけのことだ。
「お孫さんとして複雑な気持ちかもしれませんが、お祖母さんをあまり責めないでやってくださいね」
警察官は私からお金を受け取ると、声を潜めて取り調べた内容を話してくれた。
「お祖母さん曰く、週二回あなたが来て一緒に夕食を食べるのが、とても楽しみだったそうですよ。だから美味しい物を食べさせたくて、ずっと無理をしていたそうです」
先ほどのメモのリストをよく見ると、全て私の好物だった。
「だったら言ってくれればいいのに。私だってバイトしているからそれぐらい出せるのに」
「これは私の想像ですが、彼女にもプライドがあったのではないでしょうか」
「でも、そんなプライドのために万引きするとか」
「もちろん正しいとは言えませんよ。警察官という立場では尚更ね。でも、大人も色々あるんですよきっと」
警察官の言葉が、いつかの母の台詞と重なる。「大人も色々…」の箇所だけを脳内でリフレインさせながら、私はマロンのことを思い出していた。祖母は犬の散歩という繋がりが無くなってしまうと、孫がやって来ないと思ったのだろうか。そのためだけに、悪い足を引きずってココちゃんを連れ去ってきたのだろうか。だとしたら、すっごくバカで愚かで可哀そうな人。でも、きっとそんな彼女のもとに、私はこの先も通うのだろう。
警察署を出た私と祖母は、横に並んで歩いた。理由は単純で、その方が祖母の姿を見なくて済むと思ったから。前を歩いて「ついてきてるだろうか」と振り返るのも、後ろを歩いて祖母のくたびれた背中を見るのも、どちらもごめんだ。「万引きぐらいでガタガタ言いなさんな」と力強く笑う、そんな祖母であって欲しかった。
祖母のアパートが視界に入ってきた頃、等間隔に並んでいる電柱に例のポスターが貼られているのを発見した。私は祖母に見せつけるように、『迷子の子犬を探しています。名前はココちゃんです』をべりりと剥した。
祖母は怯えた子供みたいに瞳を潤ませている。私は彼女を安心させるために、そのポスターをくしゃくしゃに丸めて近くのごみ箱に捨て去った。そして、スマホに登録していた電話番号を消去する。
「お腹も空いたし、帰ろっか。マロンも待ちくたびれているよきっと」
祖母の全身を覆っていた緊張が少し緩んだように見えたのは、気のせいだろうか。私たちはゆっくりと家路を目指した。
アパートに到着すると、私たちの存在に気付いたマロンがドアの向こう側から吠えていた。濁音交じりではなく、キャンキャンに近い「ワンワン」が、静かな夜に響いていた。
執筆の狙い
半年ぶりぐらいの投稿になります。今回はエブリスタで掲載している(別名義)2作です。1作目は550文字ぐらい、2作目は7000文字ぐらいなので、さくっと読めるかと思います。2つ読んで貰えるとありがたいですが、1つだけでも感想を頂けると嬉しいです。厳しい批評も歓迎なのでよろしくお願いします。
★1作目(「ふうふ」は逆から読んでも「ふうふ」です)を読む際のお願い
最後まで読んでくださった方は、ぜひ下(ラスト)から上(冒頭)に向かって段落ごとに読んで見てください。異なるストーリーが顔を見せる、一粒で二度おいしい(?)物語です。