ポメライオン
WW2が終わり、日本が復興した。高度経済成長はしなかった日本では、犬を飼うのが流行った。そのペット飼育促進法を作ったのが、秋田寒男である。日本は復興はしたものの世界観は江戸時代の街並み、家電製品はない。街にはネオン街がない。川にはウナギが沢山いる。山は植林をして風情がある、秋の空の下。世界とは断絶し鎖国をしている日本には、外国人はいない。そんな日本は循環型社会を実践している。江戸時代を手本として。
「ポメ〜」と納屋から産声がする。
「新しい子犬の誕生だね」とポメ太郎が言った。
ポメ太郎はWW2直後に生まれた秋田寒男の孫である。秋田寒男はもう死んでいる。
家族がみんな泣いていた。
「ポメ太郎もお兄さんになったね」とポメ太郎の母が言う。泣きながら。
「僕もお兄さんか、よーしスパルタ教育でいくぞ!」
ポメ〜という産声が心なしか悲鳴に聞こえるような夕暮れだった。
ポメ太郎は二十歳になった。成人式に出た。柴犬権蔵くんも、ハスキー美ちゃんも大人になっていた。僕は嬉しくてうれションをした。みんな笑っていた。そこにWW2の戦勝国の血が入っている、ロバートが来た。
「よう、敗戦国!」とロバートがワキガの匂いを漂わせながら言った。
ロバートは友達がいなかったので、いまだに日本を敵視している劣等感を丸出しのクォーターであった。
「もう、思考が古いぞ、ロバート君。君は戦勝国だが、大量生産大量消費を推奨している歴史が浅い国の血が入ってるそうじゃないか」
ロバートは柴犬権蔵の声にびびった。彼は武士の家系で一三歳で人を斬り殺した荒くれ者だった。純粋なのである。
「だ、黙れ!」とロバートが言った。ロバートはションべんを漏らしていた。あたりは琵琶湖のように広がった。そして、ロバートは後日、祖国に帰国し宇宙に逃げた。最近は宇宙旅行と称した逃亡が流行っている。戦勝国で。
ポメ太郎は大人になった。成人すると、戦国時代を倣い、改名する事が世の常だった。ポメ太郎も世に倣い改名した。
「父上、母上、僕は今日をもって改名する事にしました」ポメ太郎は勇み良い声で言った。
「ふぅむ、どんな名だ?」とポメ太郎の父が言った。
「ポメライオン! です」とさらに勇んで言った。
ポメ太郎改め、ポメライオンの両親は目を点にして二人で顔を見合わせた。あまりにも今の日本から遠く離れた名前を付けたからである。
「ポメライオンか……良い名前だ」とポメライオンの父が言葉を選んで言った。母はただ頷くばかりであった。
「父上、母上、僕は日本にとどまる男ではありません。世界に羽ばたきたいと思っています。人類はアフリカから誕生したと本で拝見しました。僕はアフリカのサバンナにいるライオンにあやかってライオンをつけました。ポメラニアンは小さな犬ですが、ライオンは百獣の王と言われています。それに、生命エネルギーを枯渇させない為に狩りで仕留めた肉はすぐ食べると言われます。死後数時間経った肉はハイエナやハゲワシしか食べないのです。ライオンは仕留めた肉はすぐ食べるのです。正確に言えば雌ライオンが狩りをしてくるのですけどね」
「ポメ太…いや、ポメライオン。お前はもう大人だ、自分の人生に責任を持って生きればよし! 野垂れ死のうが好きに生きよ」と咽び泣きしながらポメライオンの父は言った。今生の別れだと悟ったのである。
ポメライオンの家系はすぐに野垂れ死ぬ覚悟で家を飛び出すのが好きなのである。ポメライオンの父も若い時は荒野をさ迷い、決死の覚悟で生きてきたのである。その遺伝子がポメライオンにも伝わったのである。
「父上、今までお世話になりました。明日、家を出ます」とポメライオンは目に涙を浮かべてうわずるような声で言った。母親はただ涙をこぼして泣いていた。
翌朝、ポメライオンは家を出た。両親はただ笑顔で見送ってくれた。ポメライオンはありったけの勇気で家を出たのだ。もう日本の土は踏まない覚悟で。
ポメライオンはアフリカのサバンナに着いた矢先、野生動物に襲われて死んだ。太陽の光が輝くアフリカの地で死んだのだから後悔はないだろう。サバンナには野生動物が沢山いる。ポメライオンは本当の百獣の王はライオンでは無い事を死ぬ時に悟った。
『ライオンなんてポメラニアンと同じじゃないか……』
サバンナにおける、本当の王はカバだったのである。
ポメ太郎は改名を間違ったのである。本当はポメカバがふさわしかったであろう。
執筆の狙い
最初は今の日本の在り方をアイロニーするつもりでしたが、だんだんと推敲するうちに変化して、この結末になりました。僕としては、もっと文章も意識もシンクロしていくような文体?みたいな感じを目指したいのですが・・・。文章書くって難しいです。
表現したいものは、ショートショートの定義に当てはまって書かれているか。
「ショートショートの定義・・・新鮮なアイデア、完全なプロット、意外な結末」ググるとこのような定義が一般的みたいです。
挑戦は、ユミを登場させなかった・・・事です。
僕としては唐橋ユミを登場させない事は一種の縛りでした。僕にとって唐橋ユミは詩の女神(ミューズ)なのです。アイディアと想念と激情が溢れ出て、まるでマグマなのです。このマグマは一種の呪いであり、祝福なのです。人は恋をします。人間に生まれて恋をする事は偶然の運命、そうデステニーなのですが、唐橋ユミは必然の運命だったのです。地球がハピタブルゾーンにあるような必然なのです。美人がメガネを付けているのは無敵の武装です。僕はこの美人+メガネを無敵のメタモルフォーゼと名付けたいです。メガネはウェポンです