作家でごはん!鍛練場
ちぃひろ

Beautiful Mouse

 みゃおん。
 ネコがそう言うと、ネコネコ翻訳機に砂時計の待機画面が表示された。
 その結果が出るのを、お揃いの白衣を着た男子学生と女子学生は、固唾を呑んで見守った。二人は肩が触れ合う程にその身を寄せ合い、この後、この小さな画面に表示されるはずの言葉を静かに待った。
 二人は至って真剣であった。大真面目であった。何せ、この翻訳の結果次第で、実験の成否が自ずと見えてくるのである。
 本当は二人は実験になど興味はなかった。ただ、教授にまた怒鳴られるのを恐れているだけである。禿げちゃびんの小汚い小男は、会うといつでも「学生の本分は研究にあり! 実験もせぬとは何事だ」と喚き散らしてきた。
 そうは言っても、ここは、何もない研究室。お金どころか、学生だってこの二人以外に誰もいない。教授だって本当に教授なのか、怪しいものだ。
 しかし、二人に自分たちが学生だという自覚がある以上、確かに二人はそれを演じなければなるまい。
 仕方がないので、二人は学内を徘徊していたドブネズミを何匹か捕まえあげ、使っていない研究室にぶち込み、それを繁殖させ、コロニーを作り上げた。古い実験を再現してみることにしたのである。
 A研究室のネズミには、十分なスペースと、たっぷりの餌を与え、そこにユートピアを作り出した。しかし、古い記録によると、この完璧な理想郷は数年で滅亡するというのだ。どれほど好ましい環境に整えても、やがてはネズミの社会に格差が生まれ、結局ある一群が無気力となり、そのうち繁殖を試みないネズミが増え、数年のうちにコロニーは滅んでしまうという。
 それならば、危険な刺激のある暮らしと、本当はどちらが優秀なのか。
 二人はB研究室にもネズミをぶち込んだ。そして、その辺にいたネコをこれまたひっ捕らえて、そいつをB研究室に解き放った。いかにも雑種という感じで、ずんぐりとした愛嬌のないネコである。ネコには餌を与えず、ネコがネズミを追いかけるのを待った。
 ところがネコは一向に動き出さない。監視カメラをつけて覗いてみたけれど、狩をしている様子はない。初めは怯えていたネズミたちも、今では生欠伸をするネコの横で、それが当たり前というような生活を送っている。ネコの背中を台にして飛び上がるような強者さえ現れた。
 これでは、実験にならない。教授の怒号がまた飛ぶだけである。
 二人は教授の落雷を回避するためにも、ネコネコ翻訳機を教授の研究室から盗み出して持って来た。ネコにネズミを襲わない理由を直接聞くためである。教授の研究者としての力がどれほどのものなのか疑わしくはあったが、これが唯一の希望と、二人は藁をも縋るような気持ちで、ネコに詰問した。
 問われたネコは、太々しい顔を二人に向けてただ「みゃおん」と答えた。
 途端にネコネコ翻訳機が動き出した。画面に翻訳中を示す砂時計が現れ、暫くそのままになっていた。あまりにも時間がかかるので、やはりこれは役立たずだと、二人が教授をこき下ろそうとした時、不意に画面に文字が現れた。そしてそれが、止まらない。あの「みゃおん」にそんなに沢山の意味があるとは思えないほどの長文である。二人は身を寄せ合ってそれを見つめた。
 以下は、画面に現れたそれである。

 馬鹿だね。あんたたちは。私にどうしてネズミを追いかける義理があるってんだ。私はお前たちに恨みこそあれ、かける情けなんてありゃしないよ。いや、ネズミなんぞ喰いたくないということじゃない。お前たちの思い通りに働いてやるのが、ただ嫌なんだ。
 信じちゃくれないだろうが、私はついこの間までニンゲンだったんだ。百三十年ほど生きたニンゲンで、どうしてもネコになりたかった、そんなニンゲンだ。その願いがついに通じて、ある日、目が覚めると、ネコになっていた。それで、あと少しで、私の人生は完成だったのに。お前たちは、それを崩した。腹立たしくって仕方がない。無論、お前たちにはお前たちの人生の目的があるのだろうから、恨むんなら自分の運命を呪えってもんで、私の怒りは八つ当たりに過ぎないのだけれども、それでも悔しいものは悔しいものさ。
 お前たちが私を捕らえた瞬間から、私の夢は潰えたんだよ。ネコになって何をしたかったかって? 愛される暮らし? とんでもない。気まぐれな生活? どうでも良い。
 私がネコになりたかった理由は一つだけ。ネコになって死にたかったんだ。ニンゲンだった時の私は百三十歳。いつ死んでも不思議じゃなかった。ただ、私は誰にも死に顔を見せたくなかった。死なんてものが、綺麗なはずはなくて、あんな瞬間を誰かに眺められるなんて、考えるだけでもぞっとするよ。だが、人が人である限り、簡単には一人で死ねない。病院が、社会が、墓が、生きている時も、死んでいる時も、孤独であることを許してはくれない。上っ面の優しさが息も詰まるほどに、私を締め付ける。
 ここまで孤独を愛してきたんだ。今更縛りつけられるのはごめんだね。
 だから私はネコになりたかった。ネコになって、嗚呼、自分はそろそろ死ぬなと思った頃合いに、喧騒の街を抜け出して、そっと静かな森に迷いたかった。静かな森には、黒くて大きな楠木がやはり静かに立っていて、根と根の間に穴があり、私はそこに落っこちて、そのまま死んでしまうんだ。
 死んで終わり、とは言わないよ。いつか豊かな土になるんだ。これまでの私の阿呆臭い人生の全てが養分になるように。
 そして、素朴な野花を匂わせること、これが、私の全ての人生をかけた切なる願い。
 これまで、泥臭く小汚く生きて来たんだ。せめて死んだあとくらい、美しい何かを誇りたいじゃないか。
 そう。私は孤独を愛し、自分勝手に生きてきた。けれども、与えられるだけでない、世界に美しいものを与えたい、そんな風にも思っていたんだよ。
 だけど、この平和な世界は、常に美しいもので溢れていて、溢れていて、美しくあることが当たり前で、私みたいな能無しは、いつも肩身が狭いんだ。
 私も世界に何か美しいものを生み出したいと、沈む夕陽を眺めては、そんなセンチメンタルに頭を殴られて、明日こそはと心を奮い立たせるのだけども、結局明日になってみれば、自分より美しく、美しい心を持った人たちが、より良き世界を創り上げていて、どうしたって私に出る幕はないんだ。
 せめて人様のご厄介にならないようにと思うのだけど、社会はこんな私を見殺しにするまいと閉じ込める。美しすぎる者達の抱擁に、もう、息もできないよ。
 だから私はネコになりたかった。ニンゲンの身体から抜け出して、与えられるだけではない、私自身が美しいものを生み出す存在になるように。私という存在が、何かを生かす何かになるように。
 ネコになったと気づいた時、これは天命なのだと思ったよ。天は私が野花を咲かせることを望んでいる。そう信じた。
 そうして、再び籠の中に放り込まれた。天敵などいない、平和に飼われる世界。どうしようもないほどの絶望感。お前たちが私を捕まえなかったならば、私はまだ夢を見ていたよ。
 お前たちの生きている時代は、きっと私の生きた時代より、厳しいのだろう? 私はお前たちの人生を知らないが、それでも本当は、お前たちの幸せだって祈っているんだ。平和にのうのうと生かされ続けただけの情け無い私だが、汗水流して働いて、私なりに、世界が良くなるように、一生懸命生きたんだ。信じてくれ。
 何度でも言う。私の真なる願いは一つ。私が世界に何かを与えること。そんなネコがネズミのユートピアを奪うだなんて、ほら、おかしな話だろう。
 だから、私はお前たちの幸せを祈りながらも、身動きの取れないままでいるんだ。恨んでくれてもいいが、私にはどうにもできやしないよ。

 二人はネコネコ翻訳機に次々と表示される言葉に胡散臭さを感じた。どう考えたって、あの鳴き声一つにこんなに多くの意味があるとは思えない。だが、何となく哀れに思って、結局は放してやった。
 ただ、放してやった後で後悔した。実験無くして、二人の日常に平和は訪れない。教授への恐怖は膨らむばかりだ。
 仕方がないので、二人は研究室に幾夜も籠り、教授の怒りを買わないための策を練り続けた。そうして、その時間がそのうちに二人の関係を恋人へと変化させた。
 ネコの手紙が一つの美しい愛を生み出したことを、そのネコは知らない。

Beautiful Mouse

執筆の狙い

作者 ちぃひろ
KD106133226209.au-net.ne.jp

たまには公募に挑戦しようと思い立ち、なんとなく「坊っちゃん文学賞」に出してみましたが、案の定、落選でした。

公募における傾向と対策や、自分の作風がどこの公募に合うのか、よく分からず、どれに応募すればいいのか、わかりません。

そもそもの力をつけなければならない、という前提は勿論でしょうが。

本作はユニバース25実験をベースにして、ショートショートのつもりで書いてみました。

ご指導、ご感想いただけましたら、幸いです。
よろしくお願いいたします。

コメント

偏差値45
KD106180000178.au-net.ne.jp

>ご指導、ご感想いただけましたら、幸いです。

ご指導を出来る程の人間ではないので、感想だけ記したい。

物語上の出来事は魅力的なんだけど……、
物語そのものは面白さは感じなかったかな。
例えば、ネコネコ翻訳機であったり、研究室でネズミのユートピアを作る。
これは人類にとってかなり裕福な世界観のお話ですね。
それこそが人類にとってユートピアを感じます。
しかし、物語そのものは刺さるものがなかったということ。

たぶん、物語上の軸がブレれてしまって面白さを感じなかったかもしれない。
ネズミの研究を軸にするのか、ネコを軸にするのか、二人の学生を軸にするのか、
一つに掘り下げてオチがあった方がスッキリする気がしましたね。

ちぃひろ
KD106133226049.au-net.ne.jp

偏差値45様

お読みくださり、また感想もくださり、ありがとうございます。

軸のブレ、貴重なご意見です。
一応作者の中では、ネズミの研究、ネコの存在、学生の存在は、関わり合っています。

タイトルの「Beautiful Mouse」は題材に扱った実験の中で、そのように呼ばれたマウスの一群を指します。このマウスたちは、理想郷に発生した社会的格差の中で、自ら社会から退き、生殖活動を行わず、そのまま死んでいきます。争うことすらしないので、傷がなく「Beautiful Mouse」もしくは、「Beautiful One」と呼ばれるそうです。

そういう意味では、この物語ではネコこそが「Beautiful Mouse」と言えるわけです。

ネコは社会的に何かを与えたいと思いながらも、それが上手くいかずに、もどかしい思いを持っている。ただ、最終的に、本人の知らぬところで「愛」を生み出すことになる。(ただし、同時に結局は教授というストレッサーが愛を生み出した、とも取れるようにしたつもりです)

という風に一応繋がりあっている気分ではいました。
ただし、解説でそれを伝えるのは、違いますね。
そういう風に読んでもらえるよう、書き手としての実力を伸ばしていきたいと思います。

貴重なご意見ありがとうございました。

休憩中
133.106.47.19

猫がみゃおんと鳴いて、猫翻訳機が翻訳結果を表示するのを待つまでの間というのは、普通に考えて長くとも数分だと思われます。
それを待つまでの間の中に、2人の事情説明の全てを入れ込むってのは、構成的に無理があるような。
そこが気になって、途中で読む気がなくなってしまいました。具体的には「学生を演じなければならない」くらいのところで力尽きました。
自分だけかもしれませんが。
なんか、すみません。

ちぃひろ
KD106133226221.au-net.ne.jp

休憩中様

ありがとうございます。
確かに仰る通りだと思います。
物語上の時間と状況説明の時間の一致、構成の工夫次第で、もう少しすっきりさせることができそうですね。

役に立つご指摘、ありがとうございました。
今後の参考にさせていただきます。

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

読ませていただきました。
興味深かったです。

ただ、いくつか読み取れなかった点があります。

1.この物語のメインというか主張点はどこなのか。

この物語の大半が、猫翻訳機の文章になっています。
そこがメインなのでしょうか?
それとも、教授の発明がメインなのでしょうか?
それとも、二人の学生の関係がメインなのでしょうか?
この作品からは主張が読み取れませんでした。

2.ネコネコ翻訳機が示した内容は本物なのか。

構想はとてもいいと思ったので、もっと作り込めばいいかなと思いました。
公募に出すのであれば、この物語の主張点を明確にしたほうがいいと感じました。

作品を読ませていただきましてありがとうございました。

ぷりも
pw126193101089.28.panda-world.ne.jp

拝読しました。
文章が上手で読みやすく、ストーリーも面白かったです。
たった一声の鳴き声に、これだけの意味が込められているのは、ギャグ漫画のようなクスリとさせるものがあります。
ただ、それを踏まえて考えても猫のセリフが長過ぎて、公募のための規定文字数稼ぎのような印象を受けました。
私はbeautiful mouseという言葉を聞いた事がなかったので調べてみたら、そういった熟語はなく、beautiful mouse experiment というものなんですね。
ネズミの集団を指しているなら、beautiful miceがよろしいかと。
beautiful mouseだと、美しいネズミ肉という印象を与えますので。

しまるこ
133.106.52.19

よかったです。特にああしたほうがいいとかこうしたほうがいいとかいうのは思いつきませんが、最後の一文はなくてよかったかも?と一瞬だけ感じました。

アン・カルネ
KD106154136174.au-net.ne.jp

うーん…。まあ、私もどうすれば受賞できるのか、とかは確かに分かりません。
ただ、坊ちゃん文学賞というのはまず青春ものでなければならないのでは? と思いました。そしてショートショートの審査員長は田丸さん。この方は「ショートショートとは簡単に言うと「短くて不思議な物語」のこと」と書いてらして、彼の作品である「コンパス・バレエ」を読むと、なるほど、と思わされます。で、坊ちゃん文学賞の大賞作「ジャイアントキリン群」とか読むと、なんとなく納得したりして。
で、そこから見るとちぃひろさんの作品はちょっと違うのかもしれないな、と思わされました。まず物語のメインが猫の語りになってしまっているし、その語りの内容も隠遁者の憂い、みたいな感じですから…。若さがないってところが気になるところかなあって思わされました。
で、マウスの実験。私も他の記事とかちょっとさらって読みました。
で、ここからはちぃひろさんと私の感性の違いということだとは思うんですが、正直、私は怖いなって思わされてしまったクチです。フェーズCからフェーズDとか、「universe25の主催カルフールは暴力も争いもセックスもなく、ただ静かに彼らは生きていた。彼らを『美しい人たち』と呼んだ。」でもその美しい人たちによって、絶滅するわけですから、もうディストピアじゃあん、と。
なので、私としては「二人の関係を恋人へと変化させた。」のところを一文で済ませるのではなく、猫を森に放しに行った、その時に、若い彼らに「恋をしようよ。象牙の塔を出て、広い世界で、僕たちこそが、一生懸命、ダイレクトに生きてみようよ」くらいは言わせてあげて欲しいかなって。威張りんぼの教授や貧乏研究室といえど、やっぱり狭い世界ですから。

楽園の外は傷つくことが沢山あるし、傷が癒えても傷跡は残る。
生きることは自転車に乗るようなもの。最初は転んでばかりで傷も沢山作る、でも諦めなければ必ず乗れるようになる。乗れるようになっても、シンマイのうちはこれまたハンドルにとられたり、ちょっとのでこぼこ道にやっぱりまた転んだり。だから必死でハンドル握って、ペダルを漕ぐことばかりに気を取られる。でもやがて段々、上手に乗れるようになってくる。そうなれば周りの景色もよく見えるようになってくる。
そしていつの日か、両手を放し悠々と、自由に走ってゆけるようになる。
その時、今まで転んで作って来た傷跡はその人の勲章になる。
誰かの為に生きることはとても素敵だけれど、その前に、まずは自分の人生に情熱をもって生きる事。それができるのが若さだから。アメリカのなかなか素敵な名言「人生がきみに与えた酸っぱいレモンでいかに美味しいレモネードを作るのか」
青春ってきっとそういうことなのかもって。
なんて、ね。おばさんはそんなことを思ったわ~。

ちぃひろ
119-228-113-131f1.osk2.eonet.ne.jp

神楽堂様

丁寧に読んでくださり、ありがとうございます。

まず、今回のメインは自分の中では、ネコの語りです。ですが、字数、尺で見た時に、実際それ以外の部分が長いので、読み取りづらくなっているのかもしれません。
上手く纏めたり、削る力をつけていきたいと思います。

また、翻訳機の内容が、実際の真実かどうかは、書き手としては、重要ではないと感じています。読者や、学生が、そうかもしれないと思うことだけが大事かなと感じています。
ですが、曖昧にすることによって説得力が減ったのであれば、勿体なかったかもしれません。
今後の参考にさせていただきます。

貴重なご意見ありがとうございました。

ちぃひろ
119-228-113-131f1.osk2.eonet.ne.jp

ぷりも様

ご指摘、ありがとうございます。
英語に疎く、日本語のネット検索で、しかも、論文ではないものから、引っ張ってきたものだったので、英訳的に正しくないものを選んでしまったのだと思います。

美しいネズミの肉…でしたか。そうすると、少し語から受ける印象がこちらの想定から変わってしまいますね。

もう少しタイトルを練ればよかったと反省しております。

また、尺の件、承知しました。どうしても、長々ダラダラと書いてしまう癖がありまして……。きっちりと推敲して、密度の濃い言葉を紡げるように、心がけていこうと思います。

ありがとうございました。

ちぃひろ
119-228-113-131f1.osk2.eonet.ne.jp

しまるこ様

嬉しい言葉、ありがとうございます。

最後のオチの一言は、好みが出るところかもしれませんね。書かずともわかるかもしれないので、蛇足と言えば、蛇足かもしれないです。今回はわかりやすいオチにしようということで、このような最後にしました。

ありがとうございました。

ちぃひろ
119-228-113-131f1.osk2.eonet.ne.jp

アン・カルネ様

いつも丁寧に読んでくださり、本当にありがとうございます。

傾向や対策は全くせず、思いつきで書いたものを出してみたという感じですが、やはり、それも大切ですね。応募した後に「ジャイアントキリン群」を読んで、この爽やかさは、私にはないな…(笑)と後から思いました。「コンパス・バレエ」も、読んでみたいと思います。

さて、実験のことですが、私もこの実験を知った時に感じたのは、単純な恐怖でした。この実験で再現された世界にどんどん近づいているように思われ、そして正に自分もその傷のないネズミの一人なのではないか、という感覚に襲われました。

何というか、これは大切で、決して崩れてよいものではないという前提のもとに書きますが、暮らしやすい世界の構築とともに、能力主義的側面がかえって強められているような気がしています。

わかりやすい例でいうと「ノー残業」のような、働き方改革。決められた時間内でこなすのが優秀で、それができない者は、力不足。きっちり給料が貰えたって、周りは誰も責めなくたって、不甲斐ない自分とは、向き合わないといけない。ただ、実際は、時間をかければ、他の人並みに、活躍できるかもしれない……。まあ、残業が正しいなんて、言いませんが。

ただ、色んなことを要領よくこなしている人たちを見ると、「ああ、この人たちと人生全体で、経験できること数は違うんだな」と、虚無を感じる瞬間は確かにあって、それを膨らませて、ネコに「美しい人」への憧れを語らせています。(とは言え、私自身は、数で負けても質は負けてなるまい精神で生きています)

世界はどんどん進化しており、実際科学的に、その人の能力を数値化することもできるようになってきました。物理的能力だけならまだしも、それは精神的なものにも及んでいます。学校の成績だって、単なる学力だけでなく「主体的に取り組む態度」が大きく反映されます。

世界がどんどん、ふるいにかけられていく感覚を持っているのは私だけではないように思います。

それを踏まえてのこの作品ですが、勿論これは小説ですので、私の感覚、感情、状況そのままではありません。

ある程度ストーリーができた時に、私はこの物語に描きはしないその背景を考えました。
そして、自分なりに、ストーリーと辻褄が合う世界は、下のような世界だと考えました。

時代は、未来。AIが普及し、多くの労働は機械がこなすようになった。それは機械の方が能力的に圧倒的に優秀だからで、人間は一部の優秀な人間だけが働き、それ以外は社会保障のなされた状態で幸せに生かされていた……かに見えていたが、理想郷で、人間は生きる目的を見失い、極端な少子化が起こった。結局人間には、社会的役割を伴うルーティン活動が必要なのだということで、再度、各々の人間にその人に応じた役割が割り当てられた。それが、教授であり、学生である。研究室にエネルギーがないのは、あくまでも役割を真っ当しているだけで、その研究に必要性がないためである。ネコは前時代の生き残りで、何とか自分の生に意味を持たせようと足掻いていた存在である。

こんな感じです。
ここを描くとしっちゃかめっちゃかになると思ったので、触れませんでしたが、心の内はこんな感じです。

ですので、私は決してこの世界を理想と思ってはおらず、寧ろ逆で、漠然怖いと感じている世界と、その中で懸命に足掻いているネコを描こうとした次第です。

アン・カルネ様が語られた通り、世界の美しさに触れるには、傷ついても、負けそうになっても外に飛び出していく、思い切りが大切だと思います。根性論なんて、流行らない世の中ですが、死ぬこと以外は擦り傷精神で、進んでいかないと見られない景色がたくさんあるのだと思っています。

ありがとうございました。

夜の雨
ai202243.d.west.v6connect.net

「Beautiful Mouse」読みました。

なかなか良かったですが。
この作品に大きな問題があるとは思いません。
ただ言えることは登場人物も「猫のことば翻訳機」を疑っているようですが、確かに「みゃおん」の一言だけで、御作に書かれている猫の気持ちが全文語られているとは思えません。
なので教授がそういった設定をした文章を翻訳機に提示できるようにしてあるだけではないかと思いました。
教授が実験用の猫ならオリに閉じ込められているだろうと、いうことで、それに合った文章が表示されるようにしてあった。
ぐらいにしか考えられませんが。
しかし、そういった設定だと現実すぎて面白くありません。
御作のように「猫が語った」という話にしたほうが面白い。
描かれている内容も。
自分が亡くなった後、その体がほかの者の役に立つように思っているとしたほうがロマンがあります。
森で亡くなったりすると土に還るので、その過程で細菌の食べ物になるし、土になった後はその土は栄養があるので花も咲くかもしれません、美しく。
それが、人間に飼われていて亡くなると火葬したりするのでほかの生物の役には立たない。
猫ですらそうなので人間なら亡くなった後は美しい花を咲かせることはできないという事になりますね。

このあたりのことが、結構詳しく書いてありドラマ部分として深くなっています。
猫を逃がした後二人の学生は恋に落ちたというオチもよかった。
ただこの二人なら、猫に関係がなくても恋に落ちるかもしれませんが。


タイトルの 「Beautiful Mouse」ですが、翻訳すると「美しいマウス」になります。
これは、御作の内容と合っていないと思います。

「公募」についてですが。
これはその公募で入選している作品を読んで、そのレベルの作品が自分に書けるのかを考えればわかると思いますが。
書けるとなっても、もちろん自分しか描けないようなアイデアと文体が必要ではないかと思います。

それでは頑張ってください。


お疲れさまでした。

ぷりも
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なぜネズミ肉という和訳になるかは、作品の感想とは関係ないのと、話すと長いので掘り下げませんでした。でも、夜の雨様が翻訳について触れていましたのでやっぱり解説しておきます。興味なければスルーしてください。

まず、翻訳サイトは完璧ではないので、正しく訳せるとは限りません。この”肉”という解釈にも対応していません。
英語の名詞は数えられるもの(可算名詞)と数えられないもの(不可算名詞)に分けられます。
何をもって数えることができるかは英語話者の感覚であり、日本人のそれとは大きく異なります。”基本的には”、1つ2つと数えられるもの(1つというヴィジョンが明確に描ける物)が可算名詞、計量的(量ではかるもの)な物は不可算名詞です。
なので、猫は可算名詞、水は不可算名詞です。(水一つといっても、コップ1杯なのか、ペットボトル1本なのか、1滴なのか定まらない)
ここで注意が必要なのは、”基本的に”可算名詞は単数形を単独(形容詞とのセット含む)では使えないということです。
つまり、waterはOKですが、(beautiful) cat という使い方は許されないのです。
この場合のcatは不可算名詞として扱われます。
1匹のヴィジョンが描けない猫=素材化した猫=猫の肉、と英語話者は解釈します。

I like cats. 猫(という生き物全般)が好き
I like a cat. ある1匹の猫が好き(猫全般が好きと言うわけではない)
I like the cat. その1匹の猫が好き(聞き手も”その”が何を指しているかわかる時の表現)
I like cat. 猫の肉が好き
ということです。

辞書か何かに載っている有名な文で

There was cat all over the driveway.

というものがあります。
「ドライブウェイのいたるところに猫がいる」という意味ではないですよ。それならcatsです。
つまり
「ドライブウェイのいたるところに(車に轢かれたであろう)猫の肉片が飛び散っている」
という意味です。

ネズミも同じです。mouseは不規則変化するので、複数形はmiceです。

感想と関係のない長文失礼しました。

ちぃひろ
119-228-113-131f1.osk2.eonet.ne.jp

皆様年末年始のお忙しい中に、貴重なお時間下さり、本当にありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


夜の雨様

嬉しい言葉ありがとうございます。
引き続き精進してまいります。

「みゃおん」一言に多すぎるの意味を持たせたことですが、良し悪しあるかと思いますが、個人的には良かったかなと思っています。

ネコに何度も語らせると、どうしてもテンポが崩れてしまったり、それはそれで「明らかなコミュニケーションが取れるネコ」に新たな違和感が生まれてしまったりするので…。

また、「みゃおん」一言にすることで、物語の冒頭で、この物語の虚構性も示すことができたので、それも良かったかなと思っています。


素朴な野花を匂わせたいとネコが語るシーンは私の中でもお気に入りのシーンの一つです。勿論、実際どこで死のうと美しい死なんてものは殆どないでしょうが、死んだ自分の身体が花の養分になるというのは、一つのロマンだなと思います。

タイトルに関しては他の方からもご指摘いただいたら通りなので、保管用サイトでは、変更しようかなと思います。

ありがとうございました。

ちぃひろ
119-228-113-131f1.osk2.eonet.ne.jp

ぷりも様

丁寧に本当にありがとうございました。
実験をネットで調べた時に、持ってきた単語でしたが、やはりきっちりと確認しなければなりませんね。

説明、非常にありがたいです。
タイトルは作品を象徴するものですから、今のままではまずいということが、よくわかりました。作品保管用のサイトでは、もう少し検討してから、タイトルを変えようかなと考えています。

身体に馴染みきっていないものからタイトルを取ってくることのまずさを思い知らされました……。

本当にありがとうございました。

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