作家でごはん!鍛練場
大海キホ

さよなら、夢の国

 あれ?
 どこ、ここ……?
 私は見知らぬ空間にいた。くすんでいたり毒々しかったりする虹色が、ぐるんぐるんと渦巻いている空間だ。統一感も遠近感も、上下の感覚すら曖昧。気持ち悪さに口元を押さえようとするのだけど、それで自分自身の変化にも気がついてしまった。
 手がない。口がない。人の姿をしていない。白と黒でできたぐるぐるになっていて、ところどころが周囲の虹色に染まっている。その範囲はじわじわ拡大していくようにも見えた。このままでは私は溶けてなくなってしまうのではないか?
 意識すると侵食が早まったような気がした。私は右往左往する。必死に何かを探すのだけど、虹色のぐるぐる以外見つけられない。どうすればいいのか分からず怖くて怖くてたまらなくなる。
 何これ、ねぇ、何なの!?
 パニックに陥った。あてもなく動き回り必死に助けを求めている。
 助けて!
 誰か、助けて!!
 するとまるで応えるように陽気なメロディーが聞こえてきた。日本人なら誰もが知ってるネズミンランドのテーマソングだ。ラッパにシンバル、花火に歓声。私がきらびやかなパレードを思い浮かべると、そのままの光景が目の前に現れた。
 私は呆然とした。ネズミンやミミニンに手を振られ、その姿を目で追う。
 ネズミンランドの主役達は移動式の舞台の上で踊っていた。舞台はいくつも列をなしていて、ネズミン達の舞台の他にもお姫様と野獣の舞台や、子供達と海賊の舞台などがある。それらは星のように輝く道を行進していて、ゴールには明るい日に照らされた夢の国が待っている。
 おしゃれなお城や観覧車。ジェットコースターのレールを満員になったトロッコがすべり落ちていき、諸手を上げる人々の笑顔がここからでも見えるようだ。大きく開かれた門前ではふたりのピエロが風船を配っており、役者達は大人も子供も例外なく受け取っている。
 舞台の左右では騎士達が行進に随伴していた。馬にまたがり銀色の甲冑を付けた彼らは腰に立派な剣を差してる。どの顔も油断なくあたりを警戒していて、その勇ましさに私は心奪われてしまった。
 素敵。
 恐怖も忘れて見入ってしまう。
 私は耽美系の王子様より頼りがいのある騎士様が好きなのだ。強くてかっこよくて、何かが起きてもちゃんと守ってくれるような。
 少し前までは、そんなことばかり考えていたっけ。お姫様が主役のミュージカルを見に行ったときも、私が惚れ込んだのはお姫様と王子様の仲を取り持つ騎士様だった。握手も記念撮影もしてもらってとても幸せな時間を過ごした。
 あの頃は箸が転んでもおかしかったな。無邪気に恋を追いかけて、友達とお互いの夢を語り合った。だけど月日が経つにつれてみんなの興味は仕事や結婚に移っていき、いつの間にか私は置いてけぼりにされた。
 パレード、楽しそうだなぁ。
 悩みなんてなさそうで、みんな素敵な夢を見てる。
 私も一緒に夢を見たいな。
 あの門を彼らとくぐれば、無邪気な自分に戻れるだろうか?
 するとひとりの騎士様が私に目を止めていた。黒い短髪に茶色い瞳。精悍な顔に笑みが浮かんで笑いかけられたような気がした。
 彼は馬首をこちらに向けゆっくりと近づいてくる。私は驚き、ただただドキドキしてしまう。
 目の前まで来ると彼はじっと私を見つめた。馬を降りるとうやうやしく私に手を差しのべる。
「レディ、どうかパートナーに」
「えっ……?」
 私は慌てて左右を見回した。その場に私以外の者がいないことを確かめると、改めて彼を見つめる。
 こんなに素敵な人と私が? そんなに真剣に見つめられたら、調子に乗ってしまいそうだ。
 だけどそれでいいのかもしれない。私は確かに凡人だけど、彼は真剣に私を見つめてくれている。その想いに応えないなんてむしろ失礼だ。私は彼の手に手を重ねて恋人同士になってもいいのだ。
 恐る恐る手を伸ばした。
 彼のぬくもりに触れた瞬間、一陣の風が吹く。
 薄桃色のドレスが大きくひるがえった。ブルーグレーのロングヘアが艶やかになびき、ピンクがかったラベンダー色の瞳に私と彼のための舞台が映る。
 色とりどりの花で飾られたダンススペースだ。正装した管弦楽団が弓に弦をはしらせ、私達は手を取り合う。
 軽やかに踊り出すと歓声に包まれた。くるりときれいにターンして、気持ちよくリズムを刻む──ダンスなんて初めてなのに、戸惑いなんてちっともなかった。きっと騎士様が上手にリードしてくれるからだ。夢の国に向かう舞台で、ふたりだけの恋を表す。
 胸を張って見つめ合い、あっちへこっちへ動き回った。繋いだ手を高く上げて私がくるんと回ってみたり、彼の胸に舞い戻って大きくのけぞってみたり。両手を開いてポーズを決めて、離れてダンスを披露し合い。
 騎士様が両手を広げて招いてくれた。私は全身で喜びを現し彼の胸へとダイブする。
 天へと高く舞い上げられた。私は大きく身体を捻って夜空で開く花になる。
 拍手喝采を全身に浴びた。キャッチは騎士様のお姫様だっこだ。いとおしげに微笑みかけられ私は大きな目を細める。
 唇が、重なった。
 ぬくもりが伝わってきて、与え合うキスを知る。
 深い安堵感に包まれた。貪らない穏やかなキスには敬いと慈しみの心が溢れていて、この人は私を損なったりしないのだと心から信頼できる。
 彼の首に腕を回す。
 たくましい腕の中で私は全てを彼に捧げる。
 幸せだった。
 ずっとずっとこうしていたい。
 門が、ゆっくり近づいてきて。
 もう少しで永遠になれる。
「逃げるぞ、瑞希みずき」
「え?」
 名前を呼ばれて顔をしかめた。今はそんなのいらないのに。私は風船を届けに来たピエロからひとつを受け取ろうとしたのだけど、突然肩に担ぎ上げられてしまった。
 面食らっている私の目には剣に手をかける手が映る。次の瞬間、ピエロは袈裟懸けに斬られてしまった。私は大きく目を見開く。
 大量の赤が散った。いくつもの風船達が夜空の向こうに消えていく。どうして? 風船を手に門をくぐればふたりで幸せになれるのに。
 もうひとりのピエロもざっくり斬られてしまった。演奏家達が楽器を振り上げ迫ってくるが、騎士はひとりふたりと斬り捨て舞台から飛び降りる。
「きゃあぁっ!」
 私はようやく悲鳴を上げた。恐怖に染まった私の目には彼の姿が映っている。
 愕然とした。
 騎士様じゃない!?
 彼は豹変しただけでなく姿かたちまで変わってしまった。その姿は私をもっとも嫌悪させる男のものだったのだ。
 金茶の長髪にスーツ姿。吊り上がった薄青の瞳はギラギラしていて、私を死に追いやった、私の夫、雄大だ。
 あの騎士様は?
 すぐに思い出している。テレビに映っていた騎士様だ。自殺する直前に見たファンタジー映画のキャスト。まっすぐで心優しく貴婦人のために命をかける。
 私は手を伸ばしていたっけ。
 牢獄と化した夫との新居で。
 もう、限界だったから。
 雄大と出会ったとき、私はコーヒーショップの店員だった。彼は困った客で、私の接客態度にケチをつけてきたり、かと思えば口説いてきたりした。腹が立つのに憎めなくて。自信に満ちあふれているところが魅力的で。どんな美人にナンパされても私だけを見てくれたのが嬉しくて、惹かれてしまった。
 プロポーズも完璧で。
 私の指に本物のダイヤはめ、手の甲にキスしてくれたのだ。
「俺が守ってやる。全て俺にまかせろ」
 なんて。
 嬉しかった。
 彼と幸せになれるんだって有頂天になっていた。今思えば逃げだったのかもしれない。私はその時、就活がうまくいかなくて苦しんでいたから。一時の感情だけで彼を受け入れ地獄を見ることになった。
 彼は確かに一途で頼りになる人だったけど、同時に束縛が激しく人を見下さずにはいられない支配者だったのだ。私がちょっとでも外に興味を示すと不機嫌になるため、気軽に外出もできない。日に何度もラインしてきて行動や居場所を確認してくる。返事をしないと目くじらを立てて電話してくる。人格を否定するようなことばかり言ってくる。
 家事や料理の出来にも目を光らせていた。ちょっとした落ち度でも鬼の首を取ったように責め立ててくる。髪の毛が1本落ちていたとか、窓の桟に埃が積もっているとか。料理に関してはその日の気分で薄い、濃いと。どう頑張ってもそれでは無理だ。完璧なんか目指せっこない。
 信じられなかったのは、そんな些細な言いがかりをつけるときの彼が慈愛に満ちた表情を浮かべていたことだ。「まったく瑞希は馬鹿だなぁ」とか「女のくせに家事もまともにできないのか」とか言いながら私の頭を撫で「まあ、俺はお前がどんなに駄目でも見捨てたりはしないけどな」と抱き締めてくる。
 彼にとってはこれが愛情表現なのだと知った。私の自尊心を傷つけて自分の自尊心を満足させているだけにしか見えないのに、ひとりで悦に入っている。
 「自分勝手だなぁ、これだから女は」とか。
 「金ばかりかかるなぁ、これだから女は」とか。
 「女は男を満足させるのが仕事だろう。養ってもらっているくせにいっちょまえに拒むんじゃない」とか。
 女は。
 女は……。
 女は……!!
 雄大の言葉は澱のように私の心に降り積もっていった。私はたまらず離婚しようとするが、家族にも友達にも反対され身動きが取れなくなる。新居に閉じ込められひたすらサンドバッグになった。
 そしてある日、プツリと切れた。
 「あと5分で帰る」とのラインが送られてきた瞬間だった。私は雄大の命令通りに揚げ物を作っているところだったのだけど、コンロの火にも開けっぱなしの窓にも目をくれず、靴も履かずにマンションの一室を出た。
非常階段を黙々とのぼり、屋上に出ると手すりの上に足を乗せ、そして──。
「瑞希!?」
 私の背中を押したのは一番聞きたくない声だった。
 逃げるように中空へ飛び出す。
 そうして私は自由になれたはずで──。
「いやああっ! 離して、離してよ!!」
「うるせえ! 静かにしろ!!」
「ひっ……!?」
 私は怒鳴りつけられると竦み上がってしまった。馬鹿だ。反抗しようがしまいが、結局傷つけられるのは変わらないのに。それでも被害を最小限に抑えたくて声を出せなくなってしまう。
 こんなだから雄大は調子に乗るんだ。雄大だけじゃない。私は偉そうな男ばかりに捕まって何度も同じ馬鹿を見る。私って一体何なんだろう? 新しい人に出会うたびにこの人なら、この人ならって。なのにいつも変わらない。いつも“好き”は最初だけ。
 私の“好き”って何なんだろう?
 どいつもこいつも粘着質で自分勝手で──死んでも解放してくれない!
 舞台から飛び降りると騎士達が駆けつけてきた。だけど雄大は異様に強くてみんな倒されてしまう。同じように飛び降りてきた王子様やお姫様、海賊達も歯が立たない。雄大が夢の国を背に走り出すとあっという間に希望は遠のいていく。
 星の道も見えなくなり虹色のぐるんぐるんのただ中へ。追いすがってくる騎士達も遠く、馬も誰も追いつけない。
 どんどん遠ざかっていく。
 私の大事な楽園が……!
 私はキッと雄大を睨んだ。
 いつまでも言いなりになっていると思わないで。私はあなたの物じゃない!
 思い切って身体を跳ね上げその首筋に歯を立てた。
「いっ……!?」
 雄大はたまらず力をゆるめていた。私は彼の肩から飛び降り、一目散に駆け出していく。
 騎士達が見えると手を伸ばした。相手もこちらに手を伸ばしてきて、私はなんだか誇らしくなる。
 勝ったんだ。もっと早くこうしていれば。私は戦うべきだったんだ!
 私の身体に腕が巻きつく。
 馬上に抱き上げられた私は黒い塊に呑まれていた。
 え……?
 どぷん、と冷たいものに沈んだ。氷みたいな渦の中だ。私の心が冷えに冷えて、たくさんの怒りや恨みに襲われた。
 私は正しい。お前らが全部悪い!
 親を敬わないとは何事だ!?
 女のくせに!
 男ってだけでそんなに偉いの!?
 それだけじゃない。粘着質に絡みついてくるものがあった。ひどい重力が私を押し潰そうとす。
 どうせ俺は無能ですよ。
 助けて。私をひとりにしないで!
 みんなが僕を嗤ってる──。
 上から下から嵐に呑まれる。必死に振り切り浮上するけど、闇からはみ出た私の手には別の闇が絡みつく。
 闇の向こうで夢の国が待っていた。
 門の向こうは暗い深淵。
 あの門をくぐってしまえば、私はもうどこにも行けない……!
「っ……!」
「瑞希いぃぃっ!!」
 恐怖に呑まれかけたときに声を上げたのは雄大だった。彼は剣をめちゃくちゃに振るい亡者達を追い払う。私を黒い闇の淵から引きずり出し、一も二もなく逃げ出した。
 黒いもの達が追ってくる。私は白と黒のぐるぐるに戻ってしまって、だけど雄大は大切そうに胸に抱いた。
「大丈夫だからな、大丈夫だ……!!」
 震える私をなだめてくれる。
 虹色のぐるんぐるんへ。
 混沌の渦に飛び込んでいき。
 私は、侵食されていく。
 彼はそれでも、私を離しはしなかった──。

「はっ──!?」
 目を覚ましていた。
 途端に重力が戻ってきて、全身の痛みと不自由さに顔をしかめる。お母さんが覗き込んできた。泣きながら私の手を握ってくる。
「瑞希、よかった! お母さんが分かる!?」
 あたたかい……。
 生者のぬくもり。亡者達に凍えさせられた私の心が、母の優しさに癒されていく。
 ここは病院のようだった。私はほっと息をつき、恩人と呼ぶべき男の安否を想う。
「雄大は?」
 するとお母さんは悲しそうにかぶりを振った。
「あなたが屋上から飛び降りたと通報したあと、行方不明になっていたの。今朝方非常階段で亡くなっているところを発見されたわ。あなたのことで動転していて足を踏み外したんだろうって」
「そう……」
 私は納得してしまった。
 だから彼は人の姿を保っていたんだ。あのぐるんぐるんの中にいても溶けていくことはなく。
 それは彼があちらの住人になっていたからだろう。身体を無くしてしまったから、この世の渦に溶け込めなかった。
 それでも助けに来てくれた。
 私を心配してくれて。
 でも──。
 やっぱり私は、あいつを選ぶべきではなかった。同じような男ばかりを好きになってしまう自分に目を向けて、その原因を考えるべきだったのだ。
 冷静に人を見る目を養って、夢や理想ばかりでなく現実に目を向けるべきだった。自立して、頼ろう頼ろうとしてしまう心を戒めるべきだった。
 自分の弱さと向き合わなかったから足元を掬われた。罠にハマって呑まれかけた。
 大人になろうと、しなかったからだ。

 その後、私は服飾系の専門学校に入り直した。雄大が私のために死亡保険をかけてくれてて、まとまったお金が手に入ったのだ。
 雄大との新居もいいお金になった。私はそのお金で安いワンルームのアパートを借り、ひとり暮らしに挑戦している。自立の足がかりとするためだ。
 親は心配してたびたび連絡してくるけど、援助はやんわり断っている。当分は恋人も作らないことにしている。頼ってしまっては、ひとりになった意味がないから。一生ひとりでいるつもりはないけど、今は私は自分を育てていくべきなのだ。
 幸せになるために。
 いずれ出会うパートナーと助け合えるような、かっこいい女性になりたい。

   完

さよなら、夢の国

執筆の狙い

作者 大海キホ
133.106.156.62

DVを苦に自殺した女性が、臨死体験を通して少し大人になる話です。
アルファポリス、エブリスタ、pixivに投稿しましたが、あまりにも相手にされないので、そんなに駄目だったかな?と思って投稿させていただきました。

原因としては、描写が分かりにくかった、結末が読者に不満を抱かせるものだった、単に需要がない、ヒロインの性格が駄目、とかいろいろ想像しましたが、自分ではよく分かりません。
執筆の目的としては、遊園地が舞台のホラーものによくある狂乱パレードっぽいシーンを書いてみたかったことと、女性の自立をテーマにした話に挑戦してみたかったことです。
ヒロインと騎士のダンスシーンは、個人的にはうまく書けたのではないかと思っています。(一番楽しかった)

駄目な場合は、何が駄目だったか教えて欲しいです。
出来ればいいところも、なんでもいいので言っていただけると助かります。

よろしくお願いいたします。

コメント

いくら
M014009228033.v4.enabler.ne.jp

そもそも無理やりいいところを聞きだす場所ではないんだけれどw

いいところは、あなたが明らかに「書ける側」だということ。イメージはあるし、描写もまずまず。
これだけで相当良い。ネズミーランドの連発はいただけないけれど、それをもってきて読者との共感を確保するという
思いつきは良い。舞台設定を読者に的確にさせるというのは、書く方も難しいし、読む方も物理的にカロリーを消費する。そこを、多くの人が既に共有しているだろう部分におっかぶせるのは実に省エネでいい。
まあ、それをあのランドにすること自体は少々安直だし、権利なんたらの面で危険に近づくことにもなるから、どうかとは思うけれど。重力、もかなり良かった。

ダメなところは、おそらく経験不足。自作を客観的に商品化させる努力をする、というところまで行ってない。
自分で書きたいことを、思うがままに書き出してネットで即賞賛されるなんてことは無い。
そんなことが一般的なら、各自日記でも書いてあとからそれを読んで感動してればいいだけ。小説家の価値が無くなる。
客観的に自分の作品を評価して、自分で試行錯誤を繰り返せるようになれば経験に繋がるけど、なんでなんだ! そうか
馬鹿ばかりが読んでいるからこの作品の良さがわからないんだ! みたいなことを思っている期間は、徒労に過ぎなくなってしまう。
小説家は稀中の稀で、小説家っぽく書ける人も稀といえば稀で、書く奴はそこから離れた人達に向けて書かなければ商売にならない。わからない人達にも感じさせる、感じさせようと努力した文、を書くのが最初から与えられたミッション。

前提条件として「ネットで文章を読む人」という市場をまず実感しなければならない。
移るべき他作品は山のようにあり、自分で金を払ったから読まないと損だ、という圧力もない。
そして「個々の読者さん達にとって、既に比較対象が圧倒的な数に上っている可能性が高い」ということ。
本棚に20冊並んでいる、みたいな量ではなく、既に数千という作品を読み、その分(無料投稿作という限界はあるが)読者個々にとっての良し悪しがすぐに判断でき、良し悪しの外側にある、好み、も確立している方が沢山居ると予想できる。
山のようにあるのだから、まず選ばれないとならない。開いてもらうためにはタグだのあらすじ欄だの題名だの投稿タイミングだのが最重要になるのは、システム上仕方のないこと。
そして、そこからして洗練していないと、敵である他の作品との比較という意味でも、投稿作品を読み漁って目が肥えた者へのアピールとしても敗北することになる。

前提をクリアし、10名の読者を獲得したとする。
次に重要なのは、当たり前だが出だし数行になる。代替作品は山のようにあり、その中から数分数十分の時間をかけて読むべき作品なのかどうかを判断される。
冒頭部分で引き込めるかどうかが次に重要なファクターになるのは明らか。
そこで半数が残ったとする。中盤の展開にも満足し、最終まで読者を飽きさせなかったとして、その五名が何らかの反応を「わざわざ」残してくれる確率やいかに!

という関門を全部クリアしないと、よみますたーたのしかったでぇす! とかいうどうでもいいような感想すら付かない。現実的に考えて、作品の内容と魅力的な題名その他を揃えたとしても、人気作になるのは諦めたほうがよさそう。
しかしこれまた現実に、山ほど読者を集めている作品があるし、多分今日もそういうことになりつつある作品があるだろう。
この差はなんなのか。
季節や年や言っちまえば時代性に合致した題名・テーマで、内容も上手く、読者層の求めているものに合っていて、なお且つ発見とか気づきみたいなことも感じられる、言ってしまえば「少しだけズレた」作品であったという偶然。
作品の外側から客観的に見た、自作への批判と継続的な改善という注がれたエネルギー。そして、他の作品に感想をつけ名前を売ったり、SNSを駆使した宣伝行為。なにより「投稿サイトのシステム理解」をするべく勉強したかどうか。
みたいなものが個別に、或いは合算されて一定水準を越えて初めて「投稿サイトで人気作になる可能性を取得する」ことになると思われる。そして、そこからの運が成否を決める。
俺の作品すげえから、書いて置いておけばみんな読んでくれるー。なんてことにならないのは、既にネットにバラまかれている何十何百万という「作品」の数だけ見ても感覚的に把握できるだろう。



無論、そんな小細工小手先など完全に無視して、内容だけで勝負したいのだ、という志向も完全に尊重されなければならない。革新はそこから生まれるのだし、次代のメインストリームの醸成には欠かせない部分だから。
でもそれは当たり前に「ゴッホ」になる可能性も甘受しなければならない、それは運命であり、やはり当然だから。
超高性能評論家AIみたいなのが出てきて、ネットに溢れかえる作品を全部読み、ものすごく的確に「あらゆる良い作品」をお勧めしてくる、みたいな未来なら、状況は変わるかもしれないけど、まだSFなので期待しない方がいい。



当たり前で、既にご承知なことをなんやかんや言ってきましたが、まあこんなポイントを再度考慮に入れて、ネットに在るべき小説としてもう一回推敲するか、出来れば別の習作を書き上げてみてください。
或いはさくっとXでも開いて、作者自身の物語をつまびらかにしたり、何を書いても好反応をくれるお友達の集団を生成する努力をはじめるか、かな。
初対面の作者さんのことは全くわからないから「狙い」に書かれたことを元にイメージしたことを書いただけなので失礼も多々あるかと思うけれど、そこは私の身になって許してください。


内容的なことで私の感想を言うなら、何もない異空間にこつ然と捕らえられ、意味不明なことが起こりまくる、みたいな5000回読んだことがある気がする漠然としただけのことを、冒頭~中盤でやられてるだけで閉じます。
展開した後や結論に、なにかいいことが書いてある可能性があるにしても、やはり既視感があることを微妙な作者さんの個性の違いだけでずっと読めるかといえば、そうもいかないと思う。
物語としては何も動かないし、そもそも何がはじまったのかすらわからない部分だから。

後はDV関係性、死(臨死か)、その後の展開、というテーマにしては、量かな、が足りない。何がどうしてどうなった、という物語の形になっているのは死と生の瞬間だけで、他の要素は単なる補強材くらいなことになっていることに、多分作者さんは気がついていないと思えてしまう。自覚してそこだけ書けばバランスが取れていろいろ上手くいくと思うけれど、そんなことを書きたい訳ではないのでしょうし。

偏差値45
KD106180000178.au-net.ne.jp

>DVを苦に自殺した女性が、臨死体験を通して少し大人になる話です。
>原因としては、描写が分かりにくかった、結末が読者に不満を抱かせるものだった、単に需要がない、ヒロインの性格が駄目、とかいろいろ想像しましたが、自分ではよく分かりません。

たぶん、心象世界でのお話なんだろうと解釈すると分かりますね。
現実路線で考えると支離滅裂になります。
読解力がない自分でも、ある程度は理解できたので
分からないということはないと考えます。

>駄目な場合は、何が駄目だったか教えて欲しいです。

特にないかな。
あえて言えば、
>「逃げるぞ、瑞希みずき」
どう解釈すべきか? 謎でしたね。

>出来ればいいところも、なんでもいいので言っていただけると助かります。

それなりに飽きずには読めましたね。


で、この小説を僕なりの解釈をすると、要するに人間関係のお話。
片方が、または両者がイビツな性格をしていて困ったものだな、そんな感じですね。
人には良いところもあるし、悪いところもある。
結婚もあるし、離婚もある。だから人間は面白いのでしょうね。
その面白さを小説として表現できれば合格ではないでしょうか。

大海キホ
133.106.156.198

いくら様

コメントありがとうございます。
褒めどころを強要してしまったようで申し訳ありません。

「書ける」と言っていただけてよかったです。
長年二次創作畑にいたので文章力には自信がありましたが、自分の独りよがり、という可能性も捨てきれなかったので安心しました。

ネズミンランドは、ピクミンとミッキー(ネズミ)とをかけてみました。東京タワーとかと同じような扱いで著作権違反にはならないだろうという判断だったのですが、まずかったでしょうか?

事情が分からないままありがちな展開が始まったら大抵の人は読むのをやめるというのはその通りだと思います。なるほどな、と思いました。次に活かしたいです。

あと、ネット上での需要と供給とか、宣伝に関しては、現時点では考えていません。
いくらさんもおっしゃった通り、私はオリジナル作品での経験値が低いです。そもそも提供できるブツがあまりありません。
相当の怖がりでもあります。たまにネット上で発言してみても、高確率で逃げます。大量の作品群の中にひっそりと埋まっているくらいがちょうどいいんです。そんな中でも、1個か2個くらいは反応がつくんですが、今回のお話はあまりにもわナシのつぶてだったので、今までで一番長く書けた話なのにとガッカリしてしまって、投稿させていただいた次第です。(ちなみに、怖がりは治していく方向です。今回はリハビリも兼ねていました)

思い切って投稿してみて良かったです。
気を使いながら話してくださっているのが伝わってきて、想像ほど怖くないのだと分かりました。勉強にもなりました。

また機会がありましたら、よろしくお願い致します。

アン・カルネ
KD106154136239.au-net.ne.jp

良かったです。どれくらい良かったかと言えば、感想を書きたくなるくらい。
最初は、ああ、ファンタジーかあ、と思って、いまいち、ノッてなかったんですけど、
それでも「私は大きく身体を捻って夜空で開く花になる。」で、あ、この人、巧い人なのかも(偉そうですみません)と思い、「与え合うキスを知る」で、やっぱり巧い人に違いない、と思い、「ピエロは袈裟懸けに斬られてしまった。私は大きく目を見開く。」で、これは展開に期待できるぞー、と思って、ラストまで読みました。良いラストでした。
雄大が彼なりに彼女を愛していることが分かっても、「でも──。やっぱり私は、あいつを選ぶべきではなかった」と言う、ここも良いですし、以後の展開も良いですよね。自立の足掛かり、彼女のたくましさの片鱗が出てると思います。

で。狙い、読みました。
見向きもされないことについて。ひとつはその投稿先がこの作品のもっている雰囲気に合っているかどうかってところ。あとはそこに集うユーザー層と合っているかってところでしょうか。
合っていなければ見向きもされなくても当然だと思うので、それだったら気にしなくてもいいような…。例えば「欲しいのは兎に角、ラノベ」そういうサイトだったら、そこに集う人達はそういうものを求めていると思うので、そう思うとこの作品はちょっと毛色が違いそうだから。
ただ、もしキホさんが真剣に考えてみなくてはならないことがあるとしたら、キホさんが投稿してたそのサイトで、同じように女性の自立をテーマにした作品があって、それには人気がある場合でしょうかね。その時はその人気作品と自分の作品を比べて、何が違うのか、考えてみても損は無いような。そんな気はします。
ただ、キホさんの作品、私は読んで良かったなって思いましたよ。

大海キホ
133.106.156.198

偏差値45様

コメントありがとうございます。
私が書こうとしていたもの……人間というもののイビツさ。
完全な悪でも善でもない感じ。
そして、ずっと変わらないわけではないということ。
伝わっていたのだと分かり、嬉しく思いました。

描写も駄目ではなかったと分かったし、そこそこ飽きずに読めたというのも安心しました。
少し自信がつきました。

>「逃げるぞ、瑞希みずき」
ルビ……消し忘れました。すみません。
って、そういう事じゃないですかね?
解説させていただくと、門をくぐる=地獄に堕ちる、という意味を現していました。瑞希を誘惑して引きずり込もうとしていたのは、自殺等の理由により天国に行けなくなった亡者達だったのです。
雄大は事故だから大丈夫だったけど、瑞希は彼らの仲間にされてずっと苦しむところだったんです。
雄大は、愛し方を間違えてはいたけど、やっぱり瑞希を愛しているわけなので、巻き添えを食うことを承知の上で助けに来たわけです。

瑞希視点だったのでお話の中では説明しませんでしたが、状況でなんとなくは伝わるかな……と。伝わ……ります……?

また機会がありましたら、よろしくお願い致します。

大海キホ
133.106.156.96

アン・カルネ様

コメントありがとうございます。
気に入っていただけてとても嬉しいです!
特にダンスシーン等抜粋しながら伝えていただけたのは嬉しかったです。
褒めていただけると途端に萎えかけていた自信が復活するので不思議です。やはり作品というものは、読者様がいて初めて輝くものなのかもしれませんね。

狙い、についてもアドバイスありがとうございました。
人気の悪役令嬢ものじゃないと相手にされない、という気持ちがいつの間にか自分の中に根付いていることに気づきました。
たしかに、投稿先は、あまりこの作品の傾向とは合っていないのです。
私はちょっと打たれ弱い所があるので、大手の投稿サイトの中で埋もれているくらいの方が安心、と思っていましたが、反応がなければないで落ち込むわけで、投稿サイトについてもう少し考え直してみた方がいいのかもしれません。

sp49-98-239-239.mse.spmode.ne.jp

 拝読しました。

 最近投稿される作品は面白いものが多く、私は焦りと嫉妬を覚えることが少なくないです。御作もまた、大変面白い作品でした。物語の面白さも然ることながら、描写力も素晴らしいものをお持ちですね。夢中になって読み進めておりました。

 話の展開も、好みはあるかもしれませんが、とても面白いと私は感じました。終盤にかけて盛り上がりは増していき、思わず主人公に感情移入してしまう、最後にはなんとも形容し難く、ある種の感動的な感情が心に残りました。

 いや、本当に面白い。私はとても好きな作品です。著者の作品をまた読ませて欲しいと思いました。

 具体的なアドバイス等が浮かばず申し訳ありませんが、以上を感想とさせていただきます。

大海キホ
133.106.46.70

薫様

コメントありがとうございます。
気に入っていただけて嬉しいです!
感想だけでも大丈夫です。
なんだかやる気が出てきました。

うまい作品を読んで焦りや嫉妬を覚えるというのはよく分かります。
でもきっと、味は人それぞれですので、薫さんの書かれるものは薫さんにしか書けないのだろうと思ったりします。
絵と一緒ですね。

また機会がありましたら、よろしくお願いします。

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

読ませていただきました。
おもしろかったです。

ただ、構成にはもう一捻り欲しかったな
と思いました。

前半は夢の国のファンタジー的なシーンが続き
後半は現実での苦労が続き……

悪くはないのですけど、エンタメとしては弱いかな、と。

例えば、の話になりますが、
夢の国の描写と、
現実世界でのDVの描写を
交互に進行させていくのはどうでしょう。

読者は、まったく別の物語が同時に進行しているように思うことでしょう。

で、だんだんと2つの世界のつながりが明らかになっていくように書いていくのです。
夢の国のこれが、現実世界のこれを表していたんだ、など、読者があとから気づくような仕掛けがあると楽しいですよね。

小説はエンタメですので、読者にどう楽しんでもらうか
それを意識するとよいように思います。

って、これは私が自分自身にいつも言い聞かせていることなんですけどね^^;

作品を読ませていただきましてありがとうございました。

大海キホ
133.106.146.49

神楽堂様

コメントありがとうございます。
気に入っていただけてよかったです。

DVを受けていた具体的なエピソードを、というのは私も考えましたが、結局やりませんでした。
現在と過去のエピソードを行ったり来たりさせる手法の小説はよく見かけますが、私は苦手でどうしても好きになれないからです。
どちらのエピソードにも集中できなくなるし、回想がくどいとうんざりしてきます。
なので、今回は諦めました。
長編に挑戦するときは、もっと捻ってみますね。

夜の雨
ai249000.d.west.v6connect.net

「さよなら、夢の国」読みました。

かなりわかりやすい「テーマ」の作品でしたが、ぶれがありますね。
主人公は「瑞希」という女性なのですが、自立心がないところから物語が始まっていて、さすがに「王子」様を好きにはなりませんでしたが「騎士」(守ってくれる男)を好きになったりするのですよね。
背景には「日本人なら誰もが知ってるネズミンランドのテーマソング」ということでディズニーの世界観があるようです。
話が進展していっても周囲で起きるエピソードは主人公の瑞希が魔物に追われても騎士が助けてくれるというような展開。その騎士とは恋仲になっている。
で、その騎士自体が正体を現して魔物になって危ないところを「雄大」が助けてくれる。
この雄大こそが、瑞希がコーヒーショップで店員をしていたときに声を掛けてきた相手ですが、『私の接客態度にケチをつけてきたり、かと思えば口説いてきたりした。』ということで、自分(雄大)に興味を引くためのテクニックを使って近づいた。
結局結婚したら「女」はどうたらで自立をさせずに男の庇護の下においておくというような男尊女卑的な思想の持主。
暴力まで振るう、それで瑞希は自殺に追い込まれる。
結局は自殺未遂というか助かったわけですが、代わりに雄大が亡くなった。

この作品は女性の自立を取り扱ったものですが、ラストまで読むと雄大が自分に生命保険をかけていて受取人は瑞希。
それに家を持っていたので。
雄大亡き後は瑞希は家を売り「安いワンルームのアパートを借り、ひとり暮らしに挑戦している」「自立を目指す」という展開です。
もちろん生命保険の金もある。

ちなみに主人公の瑞希が雄大と離婚しょうと思った時に、周囲の者はその離婚に反対したという事になっています。これは、周囲の者は客観的に雄大が瑞希を幸せにできると思ったのでしょうかね。ラストまで読んだ結果では、生命保険に入っていたし、家も持っていたし、瑞希を命を張って助けようとした。

雄大という男は男尊女卑的な思想の持主だったが、嫁さん思いもあったということで、えげつない男ではなかった。
瑞希が自殺するときに助けようとして亡くなっているし。

ということで、主人公の女性の自立を描いた作品にしてはラストまで男に頼り切った作品でした。そして男を立てている。ただ瑞希は雄大に感謝していたというようなエピソードは描いていないので、人間としてこの瑞希は問題があるなと思いました。というかかりにも夫婦になり自殺に追い込まれたりはしたが、生命保険のことや家を残してくれたり、そのうえ瑞希を助けるために亡くなっているのだから、雄大にたいして、何かしらの想いは必要ではありませんかね。

テーマをはっきりとさせるために、設定と構成を練り込んだほうがよいのでは。
作者さんがやる気があるのは伝わってきた作品でした。

それでは今年も創作楽しんでください。


お疲れさまでした。

大海キホ
133.106.40.37

夜の雨様

コメントありがとうございました。
今後の創作の参考にさせていただきます。

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