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企画案たたき台
2019/09/14 00:56


とりあえず思いついた企画案を書き込んでみるスレッドです。
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 2019/09/28 07:27

wannabe of the dead



闇に、悲鳴が響く──

「いたたたた!ちょっと!弘美痛いって!」
「許せ!許せ!許せ!」
「え、もしかして分かってない?私だよ、真樹だよ?」
「真樹いいいい、ごめんね間に合わなくてえええ、うえええ」
「あ、そこは分かってるんだね、なら謝る前にまずその手を止めようよ、言ってることとやってることが違いすぎて怖いよ」
「はっ、真樹、もしかして意識がある!?」
「いや私はじめからあなたの名前呼んでた……」
「まきいいいい!」

私は木刀(洞爺湖)を放り出すと、うずくまっていた真樹に抱き着いた。
ひとしきりその身体の温かさを味わったあと、すこし身を離して濡れた髪をかき分ける。
すると、満面の笑みの上に、巨大な(怒)のマークをのせた真樹の顔が現れた。

「真樹、大変だったね、大丈夫?」
「うん大丈夫だったんだけどねえ、なんだかいまは体の節々が痛いんだよねえ」
「ごめんね、真樹がワナビになっちゃったのかと思って」
「うん、たぶんそうだろうなとは思ってたけど、ひろみんいまさ、なんの躊躇もなく私に殴りかかって来たよねえ」
「うーんと、そうだったかな?」
「うん、前に部室でゴキブリ見つけたときみたいな殺意にあふれてたよ」
「ええっとほら、私にとってゴキブリとワナビは同類だからさ、ね?」
「うわあ、ひろみんのウインクはかわいいなあ、素敵だなあ。でもふつうはさ、ああいうときってさ、
『真樹、私よ!私のことがわからないの?』とか、『やめて、もとの真樹に戻って!』とかって、いろいろ躊躇う場面だと思うの……」
「土下座します」

下げた頭の先が、真樹の膝のプロテクターにこつんとあたった。

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加茂ミイル
 2019/09/28 09:39

企画案たたき台
企画:作家でGO

作家志望の主人公は面白いアプリを見つけた。
それは「作家でGO」というタイトルのゲームで、GPSを利用して、作品のネタになる出来事が発生している位置が地図上に示される。
主人公が実際そのゲームで示された場所に行ってみると、運動会が行われていたり、ストリートライブが演奏されていたりした。
この程度じゃネタにならないな、と思いながらも彼は暇になると時々それを起動して、何かのついでに、示された場所に立ち寄ってみたりしていた。
そんなある日、今年閉館予定となっている図書館が地図上に示された。
どうせ朗読会か何かやってるんだろと思いつつ、あと少しで閉館だと思うと一度立ち寄ってみようという気になった主人公は、少し遠回りになるものの、その図書館に立ち寄ってみた。
そこで彼が目にしたのは、床の上に倒れ、頭から血を流している司書の変わり果てた姿だった。
壁には血でメッセージが残されている。
「次は俺の才能を認めなかった審査員の番だ」
世間は騒然となる。

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 2019/09/28 12:48

企画案たたき台
途中から作家でGoの要素が必要なくなってる気がするのですが...

事件のネタ探しが加熱して後付けで事件が起こっていく、というアイディアはミステリー的にも面白いかも。

事件は犯人が起こすのではなく、社会が起こすのだ、という発想ですね。

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 2019/09/29 08:30

wannabe of the dead

「脚! そういえば真樹、脚は大丈夫なの?」

私は急に真樹の膝の怪我を思い出して尋ねた。
彼女は数週間前、部活の練習中──正確に言えば練習の休憩中に、私が食べたバナナの皮に足を取られ転倒し、その怪我を負ったのだった。

「弘美、それがね、私いまワナビの人たちに追われて旅館から必死で逃げてきたんだけど、そのあいだに治っちゃったみたいなの」
「え……でも、けっこう重症だって……」
「うん。それはお医者様がそう言ってたから本当だと思うの」
真樹は真剣な表情で頷く。
「それに、これ自体とても不思議なんだけど、ほかにも妙なことがあるの。私、逃げてくる途中、川に落ちたり、沼にはまったり、崖から落ちたりして、最後にはそこの池で溺れたんだけど……」
「お、おう」
「ほら、私って泳げないでしょう?」
私は真樹が以前、部活の帰りに寄った銭湯で溺れていたのを思い出した。
「それなのに、必死で手を動かしてたら、なんだかすごい力が出て、気がつくと陸にあがってたのよ」
「なるほど、それで最後はあんなお化けみたいな恰好で私の前に」
「えっと、お化けというか、あれは貞子の真似をしていたんだけど……」
「……いや、こんなときにまぎらわしいわ!」

私の右手の甲がびしりと真樹の額にあたる。

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 2019/09/29 09:19

wannabe of the dead

かくーんと後ろに反り返った真樹が、一瞬タイミングをおいてから、ばっ!という勢いで私のほうへと向き直った。

「それに!なんと!私はいまコンタクトをしていないのです!」
「えっ、じゃあ、今なんにも見えてないんじゃん」
真樹は超がつくど近眼だ。なるほど、それなら崖から落ちたりするのも無理ないか。
「いや、それが見えてるんだよ。はっきりと、全部」
「ええー、もうわけわかんないよ。いくらピンチでも眼が良くなったりはしないよ。というかそれなら崖から落ちないでしょ」
「でも、ほんとうに視力が戻ってるの…‥‥。弘美も、なにか思い当たることない?こう、変な力が湧いてきてるとか……」

そう言われて、私はさっきまでの自分を思い出した。真樹を心配するあまり、これまでに出したことのないスピードで走っている「気がしていた」自分を。
あれは、錯覚ではなかったのだろうか?
それに、あんな暗い森のなかを、ふつうは躓きもせずに走れるだろうか?それに空気の湿り気や、遠くで水がはねる音……。
感覚が、鋭くなっている?
なにより、真樹をワナビだと思った瞬間に取った、自分の無意識の行動。
神経が興奮している?
もしも、真樹が言っていることが本当だとすれば。

「つまり、ワナビだけじゃなくて、私たちの体にも、異変が起きているということ?」

「あら、良いところに気づいたわね」

背後から聞きなれた声が響いて、私はびくりと体を震わせた。

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加茂ミイル
 2019/09/29 10:13

企画案たたき台
企画:wannabe of the deadに関する専門的見地からの助言

研究者によれば、ワナビーオブデッドは、生きている人間の言語中枢、すなわち大脳左半球の上側頭回ならびに中側頭回後部を食す習慣がある。
彼らの肉体は既に死んでいるが、新人賞を獲得したいという怨念のみによって身体的反応を生じせしめている。
彼らを倒す方法は、彼らに新人賞を与えて彼らの魂を浄化させるか(しかし、これはほぼ不可能)、1ミリ単位で切り刻み、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と呪文を唱えながら河にばらまくしかない。

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 2019/09/29 12:05

企画案たたき台
了解いたした。

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加茂ミイル
 2019/09/29 17:16

企画案たたき台
企画:The Akutagawa Show

毎週土曜夜9時から放送されているトーク番組。
毎回著名人をゲストに迎え、司会者のユーモアと毒舌を織り交ぜたトークが人気を博している高視聴率番組。
たまたま司会者の名前が芥川龍之介と同姓同名だったので、この番組名がついた。

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加茂ミイル
 2019/09/29 19:57

企画案たたき台
企画:おっさんズラ部

ズラのおっさんたちが愛し合う部署。
愛し合う時はもちろんズラは外す。
ズラは外すがブラは着用する。
ところでどんな会社なんだ?
という疑問に対しても真摯に答える企画。

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加茂ミイル
 2019/10/09 21:27

企画案たたき台
企画:頭の切れるナイスガイ

美津子は不細工だった。
それでも素敵な恋がしたい。
ある日、誰にも相談できず占い師に見てもらう。
占い師曰く、「あなたを好きになる人間はいません」
断言されて美津子は逆上。
料金も払わずにその場を去る。

不細工すぎる美津子には友人もいなかった。
クラスでもう一人、孤立しているガリ勉の絹子という女子がいた。
美津子はある日、ひょんなことから絹子と意気投合し、恋の話になる。
美津子「私は頭のキレる男性がいいな。イケメンとかを望める身分じゃないしね」
絹子「イケメンは無理だけど、頭のキレる男性なら紹介できるよ」
さすが成績ナンバー1の絹子。秀才の知り合いはいるようだ。
美津子はイケメンは望まないと心に誓った。どんな不細工を紹介されるか分からないが、むしろ不細工の方が釣り合って安心できそうだった。

紹介されたのは、達夫という男性だった。
これがなかなかのイケメンで美津子は驚く。
自分の不細工さが恥ずかしくて、ろくに口もきけない。

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加茂ミイル
 2019/10/09 21:25

企画案たたき台
<続き>

ある日のこと、達夫は恥ずかしがってばかりいる美津子にいら立ってしまう。
すると、達夫の額に一筋の切れ目が生じる。
「達夫さん、額に傷が」
「あ?」
達夫は額を指で押さえる。指に血がついているのを見た達夫は不気味に笑いだす。
「ヒヒ、ヒヒヒヒヒ」
「達夫さん、怖い」
達夫の額の傷は縦に広がって行く。
そして彼の頭が左右にぱっかり割れた。
中から出てきたのは、皮膚がどろどろに溶けた醜いゾンビだった。
悲鳴を上げて逃げる美津子。
美津子は路上で誰かにぶつかる。
見ると、あの占い師だった。
占い師は憐れむように言う。
「だから言ったでしょ。あなたを好きになる人間はいないって」
美津子は財布から千円札を二枚取り出し、占い師に渡す。
「あの時の料金は払いますから。何とかしてください!」
占い師はそれを受け取ると、後から追いかけて来た達夫に向かって何か呪文を唱える。
すると、達夫の体は蒸気と化して空中に吸い込まれて行った。
地面には、彼が着ていたスーツが横たわっていた。

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 2019/10/09 16:51

企画案たたき台
なんだかんだ寄生獣は面白かった。

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(仮)
 2020/11/28 17:39

企画案たたき台
テネットはクソだった。

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ルイ・ミモカ
 2021/03/20 19:22

企画案たたき台
文学コースター

大正時代の風景の中をジェットコースターで駆け抜ける。

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 2021/09/07 22:55

wannabe of the dead

「こ、この声はまさか・・・」

「ふふふ、そのまさかよ」

私が振り返った瞬間、とうっ、という掛け声とともに誰かが茂みから飛び出し、
くるくると夜天に舞ったかと思うと、
しゅたっ、と軽い音を響かせて目の前の地面に降り立った。

刹那、あたりに吹き乱れる紅の花吹雪。
ばばばば、と吹き付けてくる薔薇の花びら。
呆然とする私と真樹。

そして眼の前に立っていたのは、全身黒タイツに狐のお面をかぶったスレンダーな女性。
だがそのシルエットは、いまや日本中の誰もが知っている──国民の、特に若者の、なによりワナビたちにとっての共通アイコン。
文学界における百年に一度の天才。
三島由紀夫、否、紫式部の現代における再来。
素顔は不明、文字通りの「覆面作家」、10代で国内の文学賞は総なめ、いまや「ノーベル文学賞にもっとも近い日本人」──

現役芥川賞作家、山田このみ。

私の姉である。

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 2021/09/09 02:05

wannabe of the dead



「このみ姉!?」

「イエス。それが私の名前──もし名前なんてものに意味があるのなら」

そう言って姉は互いの肘を抱えるようにして両手を組み、頭上に輝く夜空の月を見上げた。

「なんでこんなところに」

「どこにでもいて、どこにも居場所がない──それが私。もしそう言って良いのなら」

そう言って姉は狐の仮面を右手で覆い、ふるふると首を横に振った。

私は立ち上がり、木刀(洞爺湖)で姉の尻をひっぱたいた。

「いたい!なにすんのよ」
「だって話通じないんだもん」
「オーディエンスがいるでしょうが、オーディエンスが。私はいま作家モードなの。見ればわかるでしょ」
小声でささやく姉。
「真樹は私の親友だし、そもそもあんまり文学とかに興味ないから安心して。このみ姉のことも多分知らないと思う」
「あらそうなの?じゃあモード解除してもいいわね」

姉がそう言うなり黒タイツと狐の仮面はめらめらと燃えながら消えていき、やがてそこに見慣れたロゴ入りTシャツとジーンズ姿の姉が現れた。髪を鉛筆でひっつめている。

それからまだ地面に座り込んでいる真樹のもとへと歩みより、
「はじめまして、弘美の姉の好美です。妹がいつもお世話になっています」と手を差し出した。

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 2021/09/10 17:11

wannabe of the dead

真樹も立ち上り、
「はじめまして、高野真樹です」と丁寧に頭を下げる。「コノミさんは、あの……作家さん、なんですね」
「うん、まあそんなところね」
そう言ってにやっと笑う姉に真樹は、
「私、作家さんがああやって登場したり変身したりするところ、はじめて実際に見たんですけど、やっぱり迫力があるというか、圧倒されますね」
「まあね、ああいうのって、本職とはぜんぜん関係ないんだけどね。やっぱり世間のイメージってあるから。いろいろ大変なんです」
「作家さんの本職というのはつまり、小説を書くことですよね」
「そうね。でも今の人たちって、小説のかわりにその作者のストーリーを消費してるようなところあるからね。実は作品なんて読んでないんだよね。<版連>もそれをわかってて作家のキャラクターを売りにしてる感じだし」
「そうなんですね……全然知りませんでした」
「まあ、知らないほうが健康的だよ」

と、初対面で妙に意気投合する二人。放っておくと無限に会話がつづきそうだ。私は適当なタイミングで割って入ることにした。

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 2021/09/11 18:15

wannabe of the dead

「で、このみ姉、この騒ぎは一体なんなの。ここにいるってことは、事情を知ってるんでしょ?」

こちらを向いた姉の表情が、少しだけ険しさをおびる。

「この地区一帯でのワナビの狂暴化。原因はおそらく空気中に飛散した未知のウイルス。感染したワナビが一般市民を襲って新たな感染者を生み出してしまうせいで、被害は徐々に拡大しつつある。市域はすでに封鎖されたわ」

「封鎖って……市から外に出られないってこと?」

「国道はほぼ。簡易的に設けられた検疫所に住民が殺到している。街はちょっとしたパニック状態ね」

「そんな……」

「だ・か・ら・なのよ。話を戻しましょう──「今の」あなたたちにとって、危険なのは感染したワナビだけではない、むしろ生身の人間たちのほうがよほど危険かもしれない、ということは頭に入れておいたほうが良い」

「いまの私たち……」

ぽかんとする真樹の横で、私は姉が何の話をしているのかが分かっていた。

「やっぱり、私たちもウイルスに感染しているのね?」

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古代ローマ人
 2021/09/12 08:24

企画案たたき台
特命を帯びた監視用ドローンが、上空から撮影した映像を政府機関に送信していた。
その映像を見た役人たちは皆一斉に息を飲んだ。
巨大スクリーンに映し出された大都会のスクランブル交差点。
全身白タイツに身を包んだ通行人たちが、信号待ちをしている。
駅側の信号の下にも、それと向かい合うデパート側の信号の下にも、白タイツの集団が群れをなして、信号が青に変わるのをじっと待ち続けている。
彼らは、白い布に包まれた、無言の集団だった。
彼らは互いに赤の他人のようだった。
にも拘わらず、皆、一様に白のタイツで、頭から足首まですっぽり身を包んでいた。
顔の部分は完全に布で覆われていたが、目の前の風景を確認出来ているようだったし、呼吸するのにも支障がないようだった。
足には白いスニーカーを履いていた。
皆、まったく同じデザインの服装だった。
信号が青になると、彼らは一斉に歩き出した。
互いにすれ違う白タイツの群れ。
青信号が点滅し、やがて赤に変わる。
そして、またもや、白タイツの集団が、どこからともなく集まって、信号待ちのために立ち止まる。
白タイツはどんどん増えて行く。
交差点の周縁が、白いタイツに占領されて行く。
信号が青に変わる。
白タイツの集団は、白い横断歩道を、ある者は真っすぐに、そしてある者は斜めに進み、互いに目くばせもせず、それぞれの目的地目指して、ただひたすら歩き続けて行く。

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古代ローマ人
 2021/09/12 08:26

企画案たたき台
世界は白タイツであふれていた。

タイツ専門学校、タイツテーマパーク、タイツ博物館、タイツ園、タイツ道場。

この国の貿易輸出品第一位はかつては自動車だったが、今ではタイツだった。
そして輸入品第一位はタイツを作るための繊維だった。

世界最高レベルの科学技術と職人技を駆使して製造されたそのタイツは、他のあらゆる衣料品の性能や着心地を凌駕していた。

「全身タイツにくるまれたら、鬱が治った」という報告が相次ぎ、医療の分野でも活用された。

この流行は政治の世界にまで及んだ。
これまでスーツ姿で埋め尽くされていた議場に、ちらほらと白タイツ着用の議員の姿が目立ち始めた。
その数は次第に増えて行き、とうとう白タイツを着用していない議員の方が浮いてしまうようになった。

ついに国会はタイツ着用法を成立させた。
今後、全ての国民に外出の際のタイツ着用を義務づけることとなった。

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 2021/09/12 21:28

wannabe of the dead



湿り気を帯びた夜の森に、水鳥のしわがれた鳴き声が影を落とす。
冷気を孕んだ風がどこからか迷い込み、樹々の梢を揺らしていく。

私の問いに答えて、姉は静かに頷いた。

「イエス。今現在ワナビたちを狂暴化させている未知の病原体……確認されたかぎり、生体の反応は3パターンに分かれている。
一つ目は、誘発による発動、つまりワナビの狂暴化。
二つ目は、レセプターの不備による遮断。もともとワナビでなかった生体にウイルスは働きかけない。
そして三つ目が、耐性による抑止と吸収。これは、生体がウイルスを体内細胞に取り込みつつ、それをコントロール下に置く場合。
つまり、ワナビたちがウイルスによって生じた強大かつ異常な力を制御できずに身体を乗っ取られてしまうのに対して、耐性のある人間は逆にそれを自分の身体能力として取り込んでしまうのよ」

「な、なんと……」

「どのような機序によって第三のパターンが生じてくるのかはまだ明らかになっていない。ということはつまり、はたから見るとウイルスへの耐性者は一番正体のつかめない、扱いにくい存在だということ。正常な人間でも、異常な化け物でもない、世間一般の分かりやすいカテゴリーに収まらない不可触民──それが社会の側から見た今のあなたたちなのよ」

「でも、あいつらと違って意識ははっきりしてるし、誰かを襲ったりなんか・・・」

「あらゆる感染症の例に漏れず、この場合も発症者の身体症状は時間とともに変化する。今は大丈夫でも、明日には別のステージに移行するかもしれない。いずれにせよ、あなたたちが体内にウイルスを保有していることは間違いない」

姉はため息をついて私の眼をじっと見つめた。

「当局に拘束されれば、最悪の場合、一生を隔離施設のなかで送る、ということも考えられるわ。それもなんらかの被験体として、ね」

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 2021/09/13 21:55

wannabe of the dead

ゆっくりと冷えていく姉の声を聞きながら、私はまた、少し前に襲われた病的な発作を予感していた。
つまりは例の、突拍子もない笑いの発作だ。
突発的な、痙攣的な、自分の意志ではどうにも抑えがたい哄笑の予感。
拘束?隔離?それも一生のあいだ?

「そんなこと……いきなり言われても」

無意識に中空へと差し出した手の先で、姉はくるりと背を向けてしまい。
そのまま振り返りもせず、黒々と口を開けた木の下闇へ歩き去っていく。

周囲の水鳥の声が、にわかに騒がしさを増す。
ざわめく風の音が、眠る樹々を起こしていく。
鬱蒼たる夜の森が、わずかに動揺をはじめる。

彼方から聞こえてきたのは、人間の、あるいはワナビの悲鳴。

そのとき姉はふと、森の縁で思いだしたように足を止めて、

「だからあなたたちに忠告。しばらくのあいだ、この辺に潜んでおいた方が良い。
森から出ることはお勧めしない。
市外の人間は、誰もあなたたちの味方にはなってくれない。
私なら、この場所で、問題が解決するのを待つ」

「待つって、これがいつ解決するかなんてわからないのに・・・」
「でも、たぶんそれを解決する手がかりも、この場所にあるんですよね」

隣で真樹の低い声が響いた。
ふたたび紅蓮の炎に包まれ、黒のスーツ姿へと変身していく姉が、背中越しに頷く。

「そうよ。だから私はここに来たの」

**

maintenance
 2023/05/01 18:47

wannabe of the dead

「あのバカ姉!」

真樹の横でそう叫ぶと、なんだか気持ちがすっきりした。
片手で振り下ろした木刀が、鬱陶しくしなだれかかる木の枝先をかすめる。
時刻は──そろそろ十時を過ぎたくらいだろうか。頭上では煌々と輝く月が中天に差し掛かろうとしている。
おそらくは14番目の月、満ち足りない月だ。

姉が姿を消し、ふたたび静まり返った森の中を、私たちはあてもなく歩いていた。

「だいたいさ、秘密主義だよね。私たちにはあれこれ言っときながら、自分はなにやってるか詳しく教えもしない。挙句の果てに、マンヨウには近づくな、だなんて」

決してマンヨウには近づくな──
そう、姉はたしかに、去り際にそう言ったのだ。

「そもそも、マンヨウってなによ」

「え、ひろみん知らないの」

「知らないよ。海の魚?」

「それは・・・マンボウかしら」

「あれか、ニューヨーク・シティとかのことか」

「それはマテンロウ」

「土管のふた」

「もしかしてマンホール?」

「真樹ってさ、こういうとき妙に鋭いよね」

「そ、そうかな・・・」

なぜか恥ずかしがる真樹。

「あー、もう! 分からん! お手上げだから教えて!」

「教えてほしい?」

「教えて教えて。いますぐ教えて」

「ふふふ、実は私も知らないの」

「いや、お前も知らんのかい!」

猛然と振り下ろされた私の木刀をするりとかわし、真樹が思案気な表情で言う。

「困ったことになったわ。まさかひろみんも知らないだなんて・・・」

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 2023/05/02 23:22

wannabe of the dead



「近づくな、って言うくらいだから、危険生物なんじゃないの。熊みたいなさ」

「だとすると、狂暴化している例のワナビたちのことをそう呼んでいる、ということなのかしら」

「でも、それなら言わずもがなだよね」

うーんと二人で天を仰ぐと、あいかわらず木の間に月光がちらついている。モノクロのガラス細工に透かしたようで、幻想的といえなくもない。

「なんか今日さ、月がきれいだね」

「え、ひろみんそれって・・・」

視線を落とすと、妙に顔を赤らめてもじもじしている生き物がいた。なんだこいつ。

「どうかした?」

「い、いえ、なんでもない・・・なんでもないの」

真樹の行動、というか、その背後に隠れているであろう心理にはけっこう謎が多い。謎というのは解けることもあるからで、ナンセンスに思えた行動の意味が、後になってわかることもしばしばある。私はこれを、真樹が実はものすごく頭が良いためではないかと疑っている。ただし、この仮説には反証も多い。

「……だいたい、あのワナビの正体もよくわからないわけだよ。いったいなんなの、あれ」

「ええと、ネットで調べてもいまいち情報が出てこないのよね」真樹がポケットからスマホを取り出し、画面に指を滑らせる。「まあ、いまどきこんなちゃちな端末経由で得られる情報なんてたかが知れてるわけだけど・・・」

ん、とひっかかる私の横でなにやら矯めつ眇めつする真樹。

maintenance
 2023/05/03 18:08

wannabe of the dead

「今みつけた情報だと、とある掲示板に書き込みがひとつ。


研究者によれば、
ワナビーオブデッドは、
生きている人間の言語中枢、
すなわち大脳左半球の上側頭回
ならびに
中側頭回後部を食す習慣がある。
彼らの肉体は既に死んでいるが、
新人賞を獲得
したいという
怨念
のみによって身体的反応を
生じせしめている。
彼らを倒す方法は、
彼らに新人賞を与えて
彼らの魂を浄化
させるか、
1ミリ単位で切り刻み、
「ゆく河の流れは絶えずして、
しかももとの水にあらず」
と呪文を唱えながら河にばらまくしかない。」


「……いや、絶対嘘だよそれ。」

「まあ、ネットの情報だしね……」

「あとさ、真樹。ひとつ気になることがあるんだけど」

「なにかしら?」

「スマホ持ってるなら、それでマンヨウって調べればよくない?」

「あら、うっかりしていたわ」

「えー、おとぼけさんじゃーん、なにそれ可愛い」

その瞬間、真樹のスマホがヴィイイイン、と振動して、画面がぷつり、と暗転した。

「ひろみん、ごめん……バッテリーが切れちゃったみたい」

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panda-world
 2024/02/09 00:39

企画案たたき台
真樹の横でそう叫ぶと、なんだか気持ちがすっきりした。
片手で振り下ろした木刀が、鬱陶しくしなだれかかる木の枝先をかすめる。
時刻は──そろそろ十時を過ぎたくらいだろうか。頭上では煌々と輝く月が中天に差し掛かろうとしている。
おそらくは14番目の月、満ち足りない月だ。

姉が姿を消し、ふたたび静まり返った森の中を、私たちはあてもなく歩いていた。

「だいたいさ、秘密主義だよね。私たちにはあれこれ言っときながら、自分はなにやってるか詳しく教えもしない。挙句の果てに、マンヨウには近づくな、だなんて」

決してマンヨウには近づくな──
そう、姉はたしかに、去り際にそう言ったのだ。

「そもそも、マンヨウってなによ」

「え、ひろみん知らないの」

「知らないよ。海の魚?」

maintenance
panda-world
 2024/02/09 17:42

企画案たたき台
一番悲惨なのは、私の学校にはワナビが多すぎるせいで、修学旅行の行き先が京都でも沖縄でもなく、
北海道のはしっこにある「文学テーマパーク」に決まってしまったことだった。
「文学テーマパーク」がある北海道の街は着いてみると中途半端に開発が進んでいて、この土地の雄大な自然が肌に感じられるわけでもなく、
九月の東京とくらべるとたしかに涼しいな、というくらいの気候の土地を、一面どんよりと曇った空がおおっていた。
初日は「最終日のお楽しみ」であるところの「文学テーマパーク」のとなりに位置する「北海道文学館」にクラスで行ったのだが、
そこでは北海道の文豪のパネルを延々と見る羽目になり、
名前を聞いたこともない文豪が下手な字で書いた手紙を前にして狂喜するワナビのクラスメイトを横目に、
私のテンションは異常なまでに低下していた。
この調子では、明日の「世界文豪館」もきっとつまらないだろうし、
最終日の「文学テーマパーク」にいたってはもっとつまらなくて、
私の修学旅行は最悪のものになるだろう。

ちなみに私の姉はワナビの数が少ない学校にいたらしく、修学旅行も京都だったらしい。

maintenance
panda-world
 2024/02/09 22:48

企画案たたき台
なんでこんなことになってしまったのか……そう思いながら私はまた一人、目の前に現れたワナビを木刀で打たおした。
深い夜の森のなか、地面に倒れたワナビの低いうめき声があがる。

──やっぱり、どう見ても生きた人間には見えない。
これは人なのか、別のなにかなのか。
それともこの二つは、もともと同じ一つのものだったのか。

たとえば、さなぎと蝶のような。

でも、いまはとりあえず、あの子のことが心配だ──旅館にいるはずの真樹のことを思い出して、私はまた走り出す。

やっぱり最悪の修学旅行になっちゃったな……そう思って、すこし涙がでた。

そして、それから急に全身がよじれるほど笑えてきたのだった。ほんとうに、なんでこんなことになってしまったのか……。


maintenance
 2024/03/08 22:58

企画案たたき台
人気がないあたりが現実を素敵に反映している、と僕は思った。

ここはもう大勢が騒ぐ場所ではないのだ、と僕は考え、
どちらかと言えば記念館か博物館のような、
それどころかほとんどお墓に近い、
遺体の安置所にも似た空間なのだ、と思った。

半世紀もすれば、ここはまず間違いなく廃墟となるだろう。

そしてあとには廃墟好きのマニアが、ときたまふらりと訪れるだけになるだろう。

そしてその時になったら、たぶんまたここにやってくるのだろう、と僕は思った。

maintenance
 2024/03/16 11:40

企画案たたき台
走っていくうち、周囲の空気が徐々に湿り気を帯びてきた。
道が微妙にぬかるみ、どこかで水のはねる音が聞こえる。
道のわきの草丈が高くなり、虫の鳴く声がいっそう騒がしくなる。
どうやら、このあたりは湿地帯になっているらしい。

あれ、こんなところ来るときに通ったかな?

そんなことを思った瞬間、道の先にぽつんとある電灯の下に、人影が見えるのに気づいた。
奇妙なほど体を前屈させた人影。
私と同じ、高校の制服を着ている。
白い長袖シャツに紺のスカート。
そこからすらりとのびた、形のいい脛。
そのすべてが、土と泥でべったりと汚れている。
濡れそぼり、絡まりあった長い髪が、顔の正面を隠している。
そのまま、両手を前方に突き出し、低いうめき声を上げながら、私のほうに近づいてくる。

「ヒロ……ミ……ヒロ……ミ……」

そいつは、なぜだか私の名前を呼んでいる。

どうして?

右膝に当てたプロテクターを見たときから、私はすべてを悟っていた。

絶叫が喉をつく。

私はわめきながら、泣きじゃくりながら、そのことに自分でも気づかないまま、真樹のところに走り寄り、そして──

ワナビと化した彼女の肉体に、全力を込めて木刀を振り下ろしたのだった。

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