小町ちゃんの構文基礎


読点を入れる箇所


小町ちゃん :「次のステップに進みましょうか」
ごはんちゃん:「うぇーっ、もういいよ」
小町ちゃん :「そんなことじゃ、作家になるなんて夢のまた夢の彼方のうすぼんやりした蜃気楼よ」
ごはんちゃん:「ああっ、なんだかすごく困ったような気分になってきたっ」

 さあ、主語が欠けているから、文章の意味
が通じにくいというのは分かってもらえたわ
ね。それじゃあ次は、句読点の打ち方につい
て少しお話しするわ。

 きれいな、花が、好きなので、河原で、つ
んできた。心が、あらわれるみたい。
 右手で、持っていた、赤い花を、左手に、
持ち替えて、家に、帰ってきた。

 たった四行の文章の中に、十一個も読点が
打たれているわね。一行につき、だいたい三
個。だから、六文字から七文字くらいに一個
の読点が打たれていることになるわね。これ
はいくらなんでも打ちすぎだと思うわよ、ご
はんちゃん。
 今のごはんちゃんの文章だと、読点が、ほ
とんど文節ごとに打たれているわね。文節っ
ていうのは、その文章を細かく刻んでいって
た、もっとも小さな区切りのことを言うの。
きっと、どこで区切っていいのか分からなく
て、言葉の意味が切れるごとに打っていった
のね。
 読点はもっともっと少なくてもいいのよ。
ちょっと実例を引いてみましょうか。
 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終 圧えつけていた。焦燥と云おうか、嫌悪と云 おうか――酒を飲んだあとに宿酔があるよう に、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時 期がやって来る。それが来たのだ。        ――梶井基次郎『檸檬』より         「圧え」……おさえ         「宿酔」……ふつかよい
 どうかしら。ごはんちゃんの文章よりも一 行長い文章だけれども、読点の数はたったの 二つしかないでしょう。途中の『――』を、 意味としては読点と同じと考えて勘定しても 三つしかないの。  でも、ぜんぜん読みにくくはないでしょう? 少なくとも、意味はすんなりと読みとれると 思うわ。  読点で肝心なのは、『意味が通じやすいよ うに、文章を読みやすくするために打つ』と いうことなのよ。だから、もともと意味が通 じやすい文章なら、読点は打たなくたってい いくらいなの。  まあ最初のうちは、意味が通じやすいかそ うでないか、よく分からないわよね。そうね え、例えばその文章を音読する時に息継ぎを 入れる場所に打てばいいんじゃないかしら。

ごはんちゃん:「はあー、なるほど。息継ぎの場所で点を打つのかぁ」
小町ちゃん :「それが正しいっていうわけじゃないんだけどね。でも、最初のうちはそう考えると分かりやすいでしょう?」
ごはんちゃん:「うんうん」
小町ちゃん :「だんだん上手になっていけば、自然に読点の打ち方や句点の区切り方も、変わってくると思うわよ。例えば西村京太郎さんのように、たくさん読点を打ってリズムを作ろうとしている作家さんもいらっしゃるし」
ごはんちゃん:「ねえ、今言った句点ってマルのことだよね。これには注意することはないの?」
小町ちゃん :「そうねえ……あんまりダラダラと文章を長くしない方がいいとは思うけど。それも意味が通じやすければいいんじゃないかしら。でも昔の作家さんは、本にして十行くらい、句点の区切りなしでずーっと文章を続けたりしてたのよね」
ごはんちゃん:「へえー、十行も。本の十行だから、原稿用紙の十行より、ずっと長いよね。読みにくそうだなぁ」
小町ちゃん :「そうね。でも、昔はそれが普通だったのよ。今ほど小説というものが一般的ではなかったから――就学率の問題もあるんだけど――読む側にも高い理解力が必要とされてしまう文章が多かったのね、きっと。……今でも、例えば村上龍さんなんかは、短編一本を句点一切なしで書くとか、すごいことをしてるわよ。まあその作品は、句点の代わりに読点を使って文章を繋げていたけど」
ごはんちゃん:「ふひゃあ、一本まるごと。すごいなぁ」
小町ちゃん :「でも、そういうのはマネしちゃだめよ。実験的なことっていうのは、その作家さんが考えに考え抜いたあげくにたどり着いたことなんだから、ただ単にマネしたって、何にもいいことなんかありゃしないんだからね」
ごはんちゃん:「へい、姐さん」
小町ちゃん :「……なによ、姐さんって」
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