小町ちゃんの構文基礎


原稿用紙

執筆を始めたばかりのごはんちゃん。どんぶり先生に教わって原稿の書き方はだいたい分かりました。でも、まだ小説をどうやって書けばいいのかがなんだかよく分かりません。
「きっとどんぶり先生だってよく知っちゃいないんだ。ちぇ、ケチケチ丼。」
なんてことをホザいています。おまけに、まだ時々台詞の書き方を間違えます。困ったものです。
「まあいいや。とにかく何か書いてみよう。やっぱり最初は、短いのからチャレンジしようかな」
勢い込んで、ごはんちゃんはパソコンに向かいました。
取り敢えず、タイトルなんかは後で考えることにして、思ったことを書き始めてみました。


ごはんちゃんの文章
 きれいな、花が、好きなので、河原で、つ
んできた。心が、あらわれるみたい。
 右手で、持っていた、赤い花を、左手に、
持ち替えて、家に、帰ってきた。

?????:「あら、ごはんちゃん。パソコンに悪戯したらダメじゃない」

気持ちよくぱこぱことキーを叩いていたごはんちゃんに、誰かが声をかけました。ごはんちゃんが振り向くと、そこには小町ちゃんが立っているのでした。小町ちゃんはやっぱり作家志望の女の子。でもごはんちゃんよりずっとお姉さんです。ちなみに、秋田県の出身です。

ごはんちゃん:「小町のお姉ちゃん、ひどいよ。これは僕のパソコンなんだから、悪戯してるわけじゃないよ」
小町ちゃん :「ああそうだったわね。ごめんね、ごはんちゃん、疑っちゃって。何しろホラ、日頃が日頃だから……」
ごはんちゃん:「その意味ありげな語尾の切れ方は何さ」
小町ちゃん :「気にしないでちょうだいな。些細なことを気に病むと、早く発酵してお酒になっちゃうわよ」
ごはんちゃん:「変なギャグ」
小町ちゃん :「つねるわよ、ほっぺ。それで何をしていたの? ごはんちゃん」
ごはんちゃん:「小説を書こうとしていたんだよ。まだほんのちょっとしか書いていないけど」
小町ちゃん :「へえ、すごいのねぇ、ごはんちゃん、ごはんのくせに」
ごはんちゃん:「言葉にトゲがあるね姉ちゃん。サボテン並だよ」
小町ちゃん :「ああごめんごめん。お詫びに、ちょっとお姉ちゃんが見てあげようか。こう見えても、どんぶり先生の一番弟子なんだから、少しは文章を見る目はあるつもりよ」
ごはんちゃん:「わーい、ようやく話が先に進む……じゃなかった、ええと、よろしくお願いします」
 うーん。ごはんちゃん、文章というのはね、
ただ頭の中にあることを書けばそれでいいと
いうことではないのよ。文章にはちゃんとルー
ルがあって、それにもとづいて書いていかな
いと、意味が通じにくくなってしまうの。

 きれいな、花が、好きなので、河原で、つ
んできた。心が、あらわれるみたい。
 右手で、持っていた、赤い花を、左手に、
持ち替えて、家に、帰ってきた。

 このごはんちゃんの文章だけどね。主語が
一つもないの。
 主語って分かるかしら? 文章というのは、
書くにしろしゃべるにしろ、主語、と述語、
それと目的語というものが必要なの。
 もちろん、場合によってはそれぞれを省い
てしまっても意味は通じるのだけれど、省い
てはいけない場合だってあるのよ。ごはんち
ゃんの文章は、省いてはいけないところで、
主語を省いてしまっているわね。
 ええと、まずはそれぞれの語句を簡単に説
明するわね。
 主語というのは、文章が乗る土台みたいな
意義を持っている語句のことで、主に『これ
から言おうとすることが、どんな物(者)に
よって行われたことなのか』を示すわ。思い
きり簡単に言うと、『誰が』っていうことね。
 述語は、『何が起きたのか』を意味する語
句よ。これも簡単に言うと、『どうしたのか』
『どうなったのか』という意味だわ。
 目的語というのは、述語が示す好意が直接
的に関わる対象のことを指す語句なの。これ
は要するに、『何を』ということね。
 だから、主語と目的語と述語を簡単にひと
くくりにしてしまうと、こういう風になるわ。

『誰が何をどうしたのか』

 これに『いつ』『どこで』という二つを加
えると、いわゆる『5W1H』になるの。中
学校の英語で習うでしょう。文章の意味を明
確にするために、とっても大切な要素のこと
よ。これを省いても文章は成り立つけど、あ
んまり省きすぎると、訳の分からない、意味
が伝わらない文章になってしまうの。
 慣れてくれば、あまり考えなくても、どこ
を省いてもいいのかとか、省いた方が効果的
なところとかが分かるようになると思うけど、
ホントに書き始めたばかりのころなんかは、
こういうことを出来るだけ頭の中で確認しな
がら書いた方がいいと思うわ。この文章では
『誰が』『何を』『どうした』ということを
書きたいんだ、って。
 『いつ』『どこで』は、書き出しや場面転
換の時に考えればいいかしらね。

 さあ、それじゃあごはんちゃんの文章をよ
く読んでみましょ。

 きれいな、花が、好きなので、河原で、つ
んできた。心が、あらわれるみたい。

 きれいな花をつんだのは、誰なのかしらね。
この文章だけだと、それが分からないと思わ
ない? それは、文章から主語が抜けている
からなの。
 もちろん現実に誰かとおしゃべりしている
時には、いちいち『誰が』なんて言わないけ
ど、それは相手と自分とが、直接対面してい
るから、主語を省いても通じるんだけど、文
章だとそうはいかないわ。ましてや、小説な
らなおのことね。
 だって、このままだと、花をつんできたの
が、男の人か女の人かも分からないし、大人
か子供かもハッキリしないでしょう。これじ
ゃあ、読む人が混乱しちゃうわよね。もっと
親切に、読者に分かりやすく、想像しやすく
書かないといけないのよ、ごはんちゃん。

ごはんちゃん:「うわー、厳しー。最初っからやる気が削がれるなあ」
小町ちゃん :「しょうがないわ。ごはんちゃんはちゃんとした文章や小説を書こうとしたのは初めてなんでしょう? それに、まだちっちゃいんだし」
ごはんちゃん:「うん、ちっちゃいって言うか、炊き立てだし」
小町ちゃん :「……生まれたてで幼いって意味?」
ごはんちゃん:「いやだから、炊き立てほかほかなの。僕」
小町ちゃん :「ええと……と、とにかく、初めのウチはいろんなことが間違ってたり、足りなかったりしてもしょうがないの。こうして指摘されたらちゃんと憶えて、次から失敗しないようにすればいいのよ」
ごはんちゃん:「うっうっ、優しいなあお姉ちゃんは。どっかのどんぶりとは大違いだね」
小町ちゃん :「そんなこと言ってると、次に会った時が怖いわよ」
ごはんちゃん:「え、誰と? お姉ちゃん僕が誰のこと言ってると思ったの?」
小町ちゃん :「イヤなガキだわね
ごはんちゃん:「……今、ちょっとゾクっと来たんですけど」
小町ちゃん :「冷えてきたんでしょ」
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